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鋼の心:外伝 ~Eisen Herz~




 扉の向こうには喧騒がある。
 騒ぐ少年の声。はしゃぐ少女の声。
 お祭りのような、心地の良い騒々しさ。
 誰もが笑い、誰もが歓喜するそんな空間。
 だからいつも思ってしまう。
 この扉を開ければ、きっと………。

 そんな事、叶うはずも無いと知っているのに、希望だけは捨てられなかった。
 そんなはかない希望でも無くては、もう、耐えられはしなかったから。

 扉を開ける。

 世界は静寂に包まれた。



ぷれころ(美空編)




 伊東美空の父親はヤクザだった。
 伊東観柳斎。近隣を支配する伊藤組の組長である。
 対外的には建設会社伊藤組。あるいは伊東建設をはじめとした、様々な事業を展開する総合企業の社長である。
 そういう意味では美空は社長令嬢とも言えた。
 だがしかし、噂は残酷にも真実を抉り出す。
『伊東美空の父親はヤクザだ』
 そんな噂が流れれば、もともと口下手で人付き合いの下手な美空は、あっという間に孤立した。
 話しかける者は居なくなり、誰もが彼女との接触を控えるようになった。
 生徒のみならず教師まで。

 彼らを責める事は出来ない。
 もともと寂れた漁港であった天海市は、近年の大規模開発により精密機器を扱う日本有数の工業地帯として生まれ変わった。
 漁港も大幅に改装され、漁船が消えた変わりに工業製品を運ぶ貨物船が錨を降ろすようになった。
 住人も大部分が入れ替わり、生徒も教師も長年この地に住み着いたものではなく、移入して来た者たちが大半となる。
 彼らにとってのヤクザとは、愉快なお祭り好きの集団でも、消防や警察的な活動をする自警団でも無かった。
 単純にして忌避すべき暴力集団。
 それは他所においては全くの事実だったのかもしれない。
 だから、彼らが伊藤組を恐れたとして、その娘である美空を恐れたとして、彼らを責めるのは酷と言うものだろう。
 唯一つ、彼らに罪があるとすれば、伊藤組の、美空の、噂ではない本当の姿を見ようとしなかった事だろう。

 未だ幼い美空にも、自分が孤立する原因はすぐに分かった。
 それでも他人に働きかけられるぐらい強い娘であれば、いつかは解決した問題なのだろうが、美空にその強さは無かった。
 彼女が取れる解決策は一つだけ、父親にヤクザを止めてもらう事だけだった。



 ―――ピシッ!!
 頬を叩かれた感触より先に、耳元でした破裂音の方が信じられなかった。
『お嬢、そいつはいけません』
 痛みは無い。
『この辰由、一生のお願いでありやす』
 辰由に、いつでも自分を守ってくれた辰由に…。
『そいつだけは、どうか親父さんには言わないでやって下さい』
 絶対に自分の味方である筈の辰由に叩かれた。
 そして。
『………どうか、…お願いです』
 辰由が、土下座をして頭を下げている。
 どんなワガママも苦笑しながら何とかしてくれた辰由が、それだけはダメだときっぱりと示したのである。

 ならば。もはや美空に打つ手は無かった。
 諦める他、無かった。

 永倉辰由が、そして多くの人間が…。
 伊藤組によって、伊東観柳斎によって救われていた事を、美空が知るのはまだ先である。



 扉を開ける。

 喧騒は消え、静寂と視線が美空に突き刺さる。
 この扉は警報だった。
 美空が入ってくるのを知るための警報。
 それを期に、喧騒は静寂と小声の会話に切り替わる。
 美空は俯いたまま、静かに最後列の窓際に座った。
 そこが彼女の指定席であり、その周囲はクラスの誰もが忌避する席だった。
 …耐えるしかない。
 辰由にさえどうにも出来ない事だ。
 小さな美空にどうにかできる訳も無い。
 …耐えるしか、無かった。
 他に方法を知らなかった事もある。
 そして皮肉にも、変えるだけの心の強さはなくても、耐えるだけの心の強さはあったのだ。
 だから、登校を拒否する事も、不平を言う事も無く、耐えてしまった。
 耐えられているがゆえに、誰も気が付かなかった。

 …もう、美空が限界だと言う事に。

 世界は悪意に満ちている。
 家と、そこに住む者だけが唯一の味方で。
 なのに、彼らが味方であるがゆえに、彼女は孤立する。

 結局のところ、誰も悪くは無いのだ。

 父親と、家族(組員)達の評判も。
 教師の不理解も。
 子供達の忌避感も。
 それを植えつけた親達が抱く恐怖も。

 結局のところ、誰も悪くない。
 単に、美空の運命がそういうものなだけだ。
 でも、もう美空には耐えられそうも無かった。

 もうこれ以上、一人ぼっちで居る事に、耐えられそうも無かった。



 土曜の夕方。
 美空は公園でブランコに腰掛ける。
 小学校の高学年ともなれば、もはやブランコで遊ぶ事も無いのだが、そもそも友達と遊んだ事の無い美空にはどんな遊具も新鮮なものだ。
 始めは単に遊ぶ子供たちを眺めていただけ。
 それでも、それが美空だと言うだけで。…やがて、公園で遊ぶ子供は居なくなった。
 今やこの公園は美空のものだ。
 誰も居ない孤独な王国。
 …違う。
 美空が欲しいのは、こんな物ではなかった。

「貴女、貴女。何をしてますか?」
「え?」
 不意に話しかけられ、美空は慌てて顔を上げる。
 家の外で誰に話しかけられたのは久しぶりだった。
 誰だろう?
「………?」
 誰も居ない。
 幻聴と言う奴だろうか。
「ほんとに、もうダメなのかな………」
 ポツリと呟く美空に再び声がかかる。
「下です、下。足元、足元ですのよ?」
「え?」
 言われるままに下を向くと、そこには人形が居た。
「ようやく気付きましたの?」
「人形が喋ってる…」
「人形じゃありませんわ。神姫、神姫です!!」
 神姫と名乗った人形はそんな事を言いながら手足をばたつかせる。
 暴れているつもりの様だ。
 綺麗なツインテールの赤毛がふりふりゆれる。
「うわぁ………」
 思わず抱き上げた美空に驚き、人形は更にじたばた暴れ始めた。
「降ろしなさい、降ろしなさい。無礼ですわ!! 非礼ですわ!!」
 とりあえず離れたくなかったので、膝の上におろしてみる。
「全く全く。私とした事がこんな子供に、こんな子供に捕まるなんて。何たる油断、何たる迂闊」
「人形さん。どうして喋ってるの?」
「人形じゃありませんわ。違うのですわ。神姫、神姫なのですわ!!」
「神姫さん?」
「違います、違いますの!! 私の名はストレリチア!! ストレリチアという立派な名前があるのですわ!!」
「すとれちあ?」
「ストレリチア!! ストレリチアですわ!!」
「すとれいちあ?」
「違うのです、そうじゃないのです!! ストレリチア!! ストレリチアですってば!!」
「…す、すとれりちあ?」
「そうですわ、正解ですわ。やれば出来るじゃないですの。上出来じゃないですの!!」
 嬉しそうにニコニコする人形。
「さて、名前を覚えてもらった所で質問ですわ、お尋ねですわ」
「…?」
「天海中央通りにあるセンタービルへ行きたいのです、行かねばならぬのです!!」
「センタービル? レストランのある所?」
「レストラン…? ………ああ、確かにあるのです、存在するのです。そこに違いないのです、確定なのです!!」
「センタービルに行きたいの?」
「そうですわ、その通りなのですわ」
 人形は、ブランコに座る美空の膝の上でうんうんと頷く。
「そこで貴女にセンタービルまで案内させて上げますわ、してもらいますわ」
「………うん。いいよ」
 誰かに物を頼まれるなんて久しぶりだ。
 必要とされるのなら、どんな願いだって聞いてあげたかった。

「私のマスターと言うのが、これはこれはさびしんぼなのですわ。一匹狼なのですわ」
 美空に抱きかかえられたまま、人形は良く喋った。
 聞いてもいない事を自分からいっぱい話し、美空を飽きさせない。
 家族以外と話すのは久しぶりの事だ。
 美空も悪い気はしなかった。
「おまけに人相も悪いのですわ、悪人面なのですわ。まるで何処かの海賊なのですわ、眼帯女なのですわ」
「へー」
「ああ…。でもお人好しなのですわ、善人なのですわ」
 悪人面の善人。
 美空にはちょっと想像がつかなかった。
「この前なんか、横断歩道でおばあさんの荷物を持ってあげようとしたら、メチャクチャ怯えられてましたのですわ、大笑いですわ」
 そりゃ、眼帯の人がいきなり荷物をお持ちしましょうか? とか言ってきても怖いと思う。
 そのおばあさんも難儀なことだ…。
「おまけにウッカリ者なのですわ、そそっかしいのですわ。私達が着いていないと心配なのですわ、不安なのですわ」
 …おまけにウッカリさんらしい。
「この間なんか、バイクの鍵をトランクルームに閉じ込めちゃって半泣きになって抉じ開けてたら、おまわりさんに見つかって職質されたのですわ、バイク泥棒と間違われたのですわ、お間抜けなのですわ」
 …想像以上にウッカリさんらしい。
「…貴女、その人のこと好きなんだ?」
「もちろんですわ、当然ですわ。私の唯一人のご主人様なのですわ」
 人形、ストレリチアはそう言って微笑んだ。

「ああ、見えて来ましたわ、発見したのですわ」
 人形が指差すのは件のセンタービル。
「これでようやくマスターと落ち合えるのですわ、合流できるのですわ」
 そう言って、人形は美空の腕から飛び降りる。
「あ…」
「ここまで来れば大丈夫なのです、問題ないのです。あとは一人でマスターを探すのです」
 ぺこり、とお辞儀をする人形。
 それはまぎれも無く別れの挨拶だった。
「ま…。まって!!」
「?」
「…あ、あの…。も、もう少し…、一緒に…。…居たい」
「………」
 何かを考えるような人形の目。
 そして、人形は口を開く。
「ごめんなさい。私はマスターの神姫なのです。…だから、貴女とずっと一緒に居る事は出来ないのです、不可能なのです」
「………」
「………」
 沈黙がその場を支配した。
「………。ありがとうございました」
 そう言って、今度こそ人形は雑踏の中へ消えてゆく。
 何も言い残さなかったのは多分、二度と会うことの無い少女へ、未練を残さぬため。
 …未練を、“残されぬ”ため。
 それがきっと、その神姫に出来た唯一の誠意だった。

「………」
 失意の美空は呆然と街を見る。
 先程まで二人で居たときと同じ景色なのに、それは妙に色あせた味気ないものに見えた。
「………!!」
 そして、それが目に飛び込んできたのは只の偶然。
 だがしかし、美空の目に確かに映る四文字は『武装神姫』と見えた。
『ごめんなさい。私はマスターの神姫なのです。…だから、貴女とずっと一緒に居る事は出来ないのです、不可能なのです』
 彼女はそう言って去っていった。
 ならば、もし…。
「…私の神姫だったら?」
 美空は惹かれる様にその店のショーケースに近づいていった。
 そこにあるのは5体の人形。
 先程の人形とは多少違うが、全体的な造りは良く似ていた。
 ラベルには『武装神姫』の文字と値段。
「………」
 高い。
 …だがしかし、美空に手の届かない額でもなかった。



 家に戻り、自室の机の引き出しの、その一番下を開ける。
 中には古風な豚さん貯金箱が4つ。
 四年ほどかけて溜め込んできたお年玉とお小遣い。
 いつか友達が出来たら、その子と一緒に使おうと思って貯めてきたお金。
 クラスの皆がお小遣いを使って遊ぶ中、美空はいつか使う日を夢見て貯め続けてきた。
 でも、このお金で友達が出来るのだとしたら…?

 それは、単に“友情を金で買う”という行為ではない。

 何も出来なくなったと思い、ただ耐えるだけだった美空が、初めて自分の意思で世界を革変し、友を得ようとするための試み。
 その時初めて、美空は“能動的に世界を変えようと”手を伸ばした。

 砕け散る音は丁度4つ。
 砕けていく物はきっと…、四年もの間、彼女が世界に対して張った“諦め”と言う名の防壁だった。



「おじさん、『武装神姫』頂戴」
「え?」
 ホビーショップの店番をしていた中年の店主は少女の言葉に目を丸くした。
 元々、近所の子供相手にプラモデルやカードを売るような小さな店だ。
 武装神姫と言う玩具自体は、値段の桁数を一つ間違えて見ていた為、子供向けの人形と間違えて注文してしまっただけの物だった。
 何に使うのか知らないが、こんなに高い人形など売れる訳も無い。
 そう諦めてさっさと降ろし元に返品しようと思っていた矢先である。
 当然店主は勘違いをした。
「お嬢ちゃん、これ凄く高いよ? お小遣い、たくさん必要だよ?」
「数字ぐらい読めるわ、いいからさっさと頂戴!」
 少女の出した金額は年齢とはかけ離れたものだった。
「………」
 店主は武装神姫には詳しくないが、長年子供相手の商売をやってきた自負はある。
 金の見極めには敏いつもりであった。
 親の金を纏めて持ち出したのでない事は、札に付いた不揃いな折り目からすぐ分かる。
 折り目が妙に小さいのは、何か小さな袋に入れるためだろうか?
 つまり、お年玉の類であると言う事だろう。
 そして、少女自身の目。
 悪い事をしている後ろめたさは欠片も見られない。
 なるほど、要するに彼女は、これだけのお金を貯めてまで、あの人形が欲しいと言う事なのだろう。
 ならば、売るだけ売ってみよう。
 彼女が返品に来たら快く受け入れてやるつもりで、店主は少女に言った。
「で、どれが欲しいんだい?」
「どれでもいいわ。選ぶ物ではないのだから」
 少女の答えの意味など理解できなかったが、店主は1番端の白い箱を包んでやる事にした。



 武装神姫を買った。
 待ちきれずに近くの公園で箱から出してみる。
「………」
 生首だった。
「…あれ?」
 首無しの胴体が後から出てくる。
 他にも次々と箱から出てくる訳の分からないパーツの山。
「………???」
 さて困った。
 どうやれば、さっきの人形みたいに動いたり喋ったりするのだろうか?
 説明書の難しい説明を斜め読みし、図解の通りに付属のチップ、CSCとか言うものを胸部の穴に押し込んでみる。
「…入らない」
 逆だと気づくまで約10分。
 何とかチップを入れ終えて、胸パーツを付け、首をつなぐとようやくさっきの人形と同じような形になった。
「…これでも動かない?」
 難しい説明書を何とか理解できる範囲で読み解いてみれば、パソコンによる複雑な設定とかが必要なようだ。
「パソコン…? 確か、サブロウが持ってたと思うけど…?」
 最近組に入った山南三郎という青年がパソコンに詳しかった筈だ。
 お願いすれば教えてくれるだろうか?
 そんなことを考えていると、不意に目の前に人が居る事に気づく。
「おや、お嬢ちゃん。どうしたね?」
 今日はよく話しかけられる日だ。
 顔を上げれば見知らぬ老人が居た。



「そうかい。なら、おじちゃんがやってあげよう」
「いいの?」
「いいとも。おじちゃんも神姫が大好きなんだよ。お嬢ちゃんが神姫を大事にしてくれるならそれでいいとも」
「…うん。大事にする」
 老人は美空の返事に目を細めて頷いた。
「ようし、それじゃあおじちゃんがこの神姫に魔法をかけてあげよう」
「魔法…?」
「そうとも。おじちゃんはね、こう見えても実は魔法使いなんだよ?」
 老人はそう言って、美空に目を閉じるよう促す。
「1,2,3,そら!!」
「………」
 老人の掛け声で目を開けるが、何かが変わったようには見えなかった。
「…何もおきないよ?」
「大丈夫。ちゃんと魔法は掛かったよ。………この子がいつまでもお嬢ちゃんと一緒に居られるように、おじちゃんが魔法を掛けたからね。これでもう、ずーっと一緒だよ」
「ホント!?」
 それこそが美空の欲しかったもの。
「本当だとも。さあ、あとはもう少し待てば目を覚ます筈だよ」
「ありがとう、おじいちゃん」
「…おじいちゃん」
 まだ60前だ。せめておじさんと呼んで欲しかった男は少し落ち込むが、グズグズしてはいられない。
「さて、おじちゃんはそろそろ行かなきゃな」
「行っちゃうの?」
「ああ。お嬢ちゃんも元気でな。その子といつまでも仲良くしておくれ」
「うん」
 美空は笑顔で頷き、去ってゆく老人を見送った。



「FrontLine製MMS、アーンヴァル起動します…」
 天使をモチーフにした15cmの少女が目を開ける。
「…うわぁ、動いた」
 目を覚ましたアーンヴァルが感嘆の声に顔を上げれば、そこには小さな女の子の姿があった。
「…貴女が私のマスターですか?」
「…はい。私の神姫になって下さい。………それで、友達として、ずっと、一緒に居て下さい」
 その赤い瞳を覗き込み、真摯な眼差しで美空はそう言った。
「………分かりました、マスター。…私の名前はフェータです。…どうぞよろしくお願いします」
 神姫。フェータはそう名乗り、己が主となった少女に微笑みかける。
「…では、マスター。お名前を教えてください」
「うん、私はね…」
 美空はそう言って、自分自身の力で手に入れた初めての友人に、恐れる事無く自らの名を名乗り上げた。



 ―――AnotherSide.



「見つけましたよ。芹沢教授」
「………君か」
 老人は眼帯の女を睨む。
「…まだ彼女の立てた計画を取り止めるつもりは無いのかね?」
「…私が止める訳が無い。彼女の意思どおり、私は全ての神姫をこの世から消し去る」
「…ふん、悔しいが彼女の創ったものは素晴らしいよ。神姫はこれからどんどん世に広まるだろう」
 その才能に何度も嫉妬を感じた相手、眼帯の女の行動原理である“あの少女”を褒め称える老人、芹沢。
 彼女と、彼女の行動原理となっている“あの少女”が持つ才能の前に、芹沢の続けてきた40年以上の努力は霞んでしまったのだ。
 ゆえに憎みもした。
 妬みもした。
 だがしかし、全てが終わってみれば、残っていたのは純粋な畏敬の念だった。
「これからどんどん増えゆく神姫の全てを一人で狩るつもりかね、君は?」
「…ご冗談を」
 眼帯の女は哂う。
「…とぼけるのも大概にしていただきたい。………私が貴方を探していた理由など一つしか無いではないですか」
「………っ」
「さあ、返して貰いますよ。アレは元々彼女の物だ。…完成見本としてコピーされた12機のうちの一つとは言え、見逃す事はできない」
「…なるほど、やはり各企業に送られた完成見本を、破壊して回っていたのは君か?」
「もちろんです。あの12機はオリジナルからの直接のコピー品だ。それが生きて動き回っているなど許せない」
 ―――生きて。
 眼帯の女は神姫が動く事を、そう評した。
「………ふむ、しかし、それだけではあるまい?」
「………」
 眼帯の女は、その顔を不愉快そうに歪めた。
 嫉妬と妬みが落ちた後、芹沢に残ったのは、武装神姫と言う革新的な技術を世に送り出した“あの少女”の才能に対する敬意と、自らがそれに関わる事が出来たことに対する誇り。
 一時は無駄であったと嘆いた自らの努力の40年が、こうして形となって世に広まってゆく満足感。
 だから芹沢はそれを誇りに思うし、彼女達を誇りに思う。
 “あの少女”が、あんな事を言い出さなければ。
「『全ての神姫を消し去る』…か。………その為にはオリジナル以外のコピーは邪魔なのだろう?」
「…っ!! 貴様、何処まで知っている?」
「全部だよ。…もはや独りきりの君が取りうる手段などタカが知れている。その手の手段では、どうしてもオリジナルのコピーは自分の手で破壊しなければならないからな」
「………ふっ。…知っているのなら話は早い。他のコピーは全て破壊した。つまり、貴方のアーンヴァルで最後だ、ここで破壊させてもらう」
「…ふん。出来んよ、君には…」
 芹沢は笑う。
 多分。出会ってから初めて、彼女達を出し抜けたのだから。
「もうね、わしは持っておらんのだよ」
「…なっ、何っ!?」
「棄ててしまったのさ」
「…嘘だ!!」
 眼帯の女の声に殺気がこもる。
 誰よりも神姫を愛する彼女には、芹沢の取った行動は許せない物なのだろう。
 だからこその矛盾。
 愛するものを、壊さねばならない矛盾。
 そんな悲しい矛盾だけが、この女に残された最後の意志なのだろう。
 目の前の女は、老い先短い自分よりも遥かに、心だけが死に逝く途上にあるようだった。
「嘘かどうかなど確めようがあるまい? …わしに延々と張り付くかね? …それともゴミ捨て場を一つづつ漁るかね? …どちらにせよ、最後のコピーを見つけるまで、君は次の行動に移れない」
 つまり、全ての神姫を殺してしまう事は出来はしない。
 それこそが芹沢にできる唯一の延命措置。
 彼女が最後の一体を見つけるまで、武装神姫に終焉など来させはしない。
「じゃから、これで最後じゃ」
 そう言って芹沢は橋の欄干から身を乗り出した。
「…芹沢教授!?」
「最後の一体の名前も居場所も知らない君が、彼女にたどり着く唯一の道はわしじゃからな。…これでもう、君には最後一体を探せない」
 そう言って、芹沢は国道の上に飛び降りた。



「…やってくれる、あの老人…!!」
 わははははははははと、トラックの上で高笑いをする老人が、国道の彼方に消えてゆくのを見送るしかない女は、そう言って歯噛みをした。
 芹沢は橋の上から、走ってくるトラックの上に飛び降りたのだった。
 確かに、このまま行方を眩ませられれば、自分ひとりで探し出すのは不可能だろう。
「マスター、如何なさいますか?」
 眼帯の女に尋ねるのは、後にジルダリア型として『Plants Plant社』からリリースされる予定の試作型神姫。
 芹沢が神姫を出し次第、破壊するつもりで潜ませていた彼女の神姫たち四名が姿を現したのだ。
「目標、探知範囲外、離脱」
「アーア、逃ゲチャッタ。あれジャア追イカケラレナイネ…」
 後にそれぞれフォートブラッグ、ツガルと呼ばれる事になる神姫たちが口々にそう言った。
 予期していた戦いが起こらなかった為か、神姫たちも複雑そうな表情で老人を見送っている。
「ふん、構わんさ。元より期限など無い。この命のある限り、草の根を分けてでも探し出すだけだ」
 そう言って、眼帯の女は橋の上を歩き出す。
 ツガルとフォートブラッグがその後に続き、ジルダリアもまた、その背を追った。
 そして、その背に最後の一人が声を掛ける。
「お姉さま、お姉さま」
「…なあに?」
「なんで、どうして、マスターは芹沢教授を止めなかったのですか? 阻止しなかったのですか? …あの距離なら落下前に止められた筈です、防止できた筈です」
 彼女の言うとおり、確かに女の身体能力ならば、老人が橋の欄干を乗り越える前に捉える事ができたはずだ。
 しかし、ジルダリアは首を振る。
「………きっと、マスターもまた、最後の一体を見つけたくは無いのだと思いますわ」
「…最後一体を探すのがマスターの目的ではないのですか? 違うのですか?」
「………人間というのはね、『一番したい事』と、『一番しなければならない事』が食い違う事もあるのよ」
「…そうなのですか、そういうものなのですか?」
「ええ。マスターは『一番しなければならない事』を優先させたのだけど、それは同時に『一番したくない事』でもあるのよ」
 ジルダリアは、そう言って主の背中に目を向けた。
「…覚えておきなさい。………マスターがそうして、自らを押し殺してまで選んだ道ならば、それを叶えるのが私達の役目よ」
「………例え、最後がマスターとお別れすることになっても…?」
「…ええ、そうよ。私はマスターの為ならば、その先にあるものが私の消滅でも構わない。全ての神姫と共に、私が死ぬとしても、それがマスターの望みなら私は構わないわ…」
「………」
「…貴女は、どう?」
「…私の望みは最初から一つだけなのです。オンリーワンなのです。………マスターのお役に立ちたい。それだけなのですよ。他には無いのですよ」
 ジルダリアはその言葉に満足そうに頷く。
「…そう。…それでいいわ、私達には彼女の代わりなど勤まらない。………ならば、この身を持って主の意図に答えるのみ。出来るわね、ストレリチア?」
「…もちろんなのです、当然なのです」
 そう、ジルダリアに答えたのは、公園で美空とであった神姫だった。
 彼女のタイプは後に大幅な改修を受けて、『Magic Market社』の最新型神姫として販売される事になる。
 そのときの名をエウクランテ。『実現する』という意味を持つ銘であった。






 ぷれころ美空編です。
 リーナ編と違いメインストーリーの根幹にかかわる話です。

 話のフォローとなりますが、美空はいじめられている訳では無いです。
 単にヤクザの娘として敬遠されているのに加え、美空自身の人付き合いの下手さが孤立を生み出しているだけです。
 ちゃんと話をして、偏見を払拭すれば友達も出来るはずですが、それ実行するのは、本人にとってとても勇気がいるものでしょう。
 この話でフェータと出会い、(心が)等身大の友人を得る事で、美空はその後押しで少しずつ変わって行く訳です。
 …その結果が鉄板ポシェットスゥイング(攻撃力6000)な訳ですが…(笑)。

 フォローその2。
 美空はこの後フェータに夢中になり、ストレリチア(眼帯女の神姫四姉妹:三女)のことを曖昧にしか覚えていません。
 ストレリチア自体、非武装状態での出会いでしたし、武装したストレリチアと美空が出会っても美空にはあのときの神姫だとは分かりません。
 もちろん、ストレリチアにも名前も聞かなかった少女の数年後をみて、あのときの子供だとは分からないのです。
 つまり、出会っても話をしないと分からない関係ですね。
 単に出会うだけでなく、ちゃんと話をして『再会』出来る時は来るのでしょうか?

 フォローその3。
 エウクランテは、ギリシャ神話の海の神ネイレウス(ネレウス)の娘の一人“エウクランテー”が語源でしょう(イアネイラ、ティティス、ガラティア等もネイレウス娘の一人)。
 エウクランテーは『実現する女』と言う意味のようです。
 なにか意味深ですよね…?

 さて。
 謎の老人、芹沢教授(←でも実は、この話だけにしか登場しないと思う)。
 眼帯の女(名前の開示は旅行編の最後の方)と、彼女が行動の指針とする“少女”。
 ストーリーに必要となるキャラはこれで出揃いました。
 後は話とは直接関係ないサブキャラ2、3名ほどが待機中ですが………。

 さて、この後はメインストーリーが突っ走るのみ………?
 アホな番外編とかまだ書きますが…(笑)。

 次のぷれころは祐一編か、それとも祐一編は一番最後か…?
 なんか『?』マークが異常に多い後書きだと読み返してみて思うALCでした。






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