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鋼の心 ~Eisen Herz~


第十話:海だ山だ温泉だ(前日)



「おきろー、祐一~っ!!」
「ぐはぁ!?」
 安眠中の鳩尾に、いきなりエルボードロップをかまされ、島田祐一は悶絶した。
 良い子のみんなは、眠っている人にエルボードロップなんかしちゃダメですよ?
「…ぐぉおぅ…」
「うわ、痛そ~」
「…な、何て事すんだよ、姉さん!!」
 言って、手近にあった手を取り、ベットに引き込む勢いで引っ張る。
 悪行を働き即、逃走する姉、島田雅を捕縛するには、これぐらいやらないとダメなのだ。
「………あ」
 だが、相手が雅じゃなかった場合、冗談抜きでベッドに引っ張り込む事になる訳で………。
「………え? 美空?」
 朝一番、ベッドの上で折り重なる少年少女。
 互いの頬が赤いのは朝日のせいではないだろう。
 二人の唇と唇の間には10cmも距離は無く、互いの鼓動は筒抜けになるほどに密着していた。
「………」
「………」
 視線が…、………絡み合う。
「…で、何時まで抱き合っているの、二人とも」
「「えっ!?」」
 不機嫌な視線に刺され、ようやく我に返る祐一と美空。
「…あわわわ!?」
「…ゴホン」
 距離を離し身を整える二人に、冷たい視線を投げかけるのはリーナ・ベルウッド。
 先にエルボードロップなどかました、伊東美空の従姉妹であった。
「美空、さっさと祐一の上からどきなさい」
「わ、分かってるわよ!!」
 言ってベッドの上に手を付き身を起こす美空。
「…ん? ナニこれ?」
 その手がたまたま、朝の生理現象の真っ最中だった祐一の股間に触れたのは偶然。
「………はぇ? ………ん~? ………あ゛ぁっ!!」
 そして、それが何なのか。どういう状況にあるのか。
 それを認識した美空が取った行動は必然だった。
「きゃーーーーーーーーーーっ!!」

 ―――ドカバキグシャ!! ドカバキグシャ!!

 悲鳴だけは可愛らしいが、祐一に左右連打で繰り出されるのは間違う事なき鉄拳!!
『お嬢は中途半端にお強いので、辰は心配です』
 彼女の忠臣がそう評する程度には、美空の拳は威力があった。
 ぶっちゃけ、祐一は8発目に気絶した。

「さて、言い訳ぐらいは聞いておこうと思う」
 不機嫌な声で尋ねる祐一。
 無理も無い。
 平和な夏休み初日。
『よ~し、自堕落に10時くらいまで寝てるぞ~。夏休みを満喫だ~』
 …と思っていた所に、いきなりアレだ。
 しかも時刻は午前6時。
 学校行く日だってこんなに早くは起きない。
「あのね、私は悪くないのよ。ただ、リーナがどうしてもって言うから!!」
「美空!! 私の所為にするつもり!?」
「だって、祐一何か怒ってるし」
「あんな事をされれば怒るのも当然だわ!! 美空は少し反省なさい!!」
「だ~っ!! 静まれぃ!!」
「「………(びっくり)」」
 怒鳴ったら静かになった。
「俺が聞きたいのは、こんな朝早くからやってきた用件だ」
「「ああ、それ?」」
 声をそろえる従姉妹な二人。
 息はぴったりだった。
「「祐一と一緒に遊おぼ出うかとけ思しっよてうと思って」」
 息はぴったり『だった』。
「さっぱりわからん、一人ずつ言ってくれ」
 困惑する祐一に顔を見合わせた二人は、目と目で会話する。
 どちらから話すのかを決めているのだ。
 これぞまさに、従姉妹テレパスの極意。
 そして…。
「「祐一と一緒に遊おぼ出うかとけ思しっよてうと思って」」
 ある意味、息はぴったりだった。

「つまり、リーナが水着持ってないんで、旅行に行く前に買いに行きたいと?」
 二人と会話しても埒が明かないので、美空の神姫であるフェータと会話して聞き出した情報を要約するとそうなった。
「そうよ。どうせなら、祐一の好みの水着を着たいもの。祐一に選んで欲しいわ」
 無邪気にとんでもない事を口走るリーナ。
「うんうん、ついでに遊んで騒いで楽しんで、夏休み満喫計画の第一歩としましょう」
 満面の笑みを浮かべる少女達を前に、祐一は断れなかった。
「わかった、付き合うよ。…でもその前に、いいか?」
「「んゆ?」」
 そろって首を傾げる美空とリーナ。
 この従姉妹、無意味な場面でのみ、寸分たがわぬシンクロリティを発揮する。
「俺が言いたいのは只一つ」
 祐一は壁を指差す。
「こんな朝早くから、何処に行くつもりだお前ら?」
 指の先にある壁時計は6時15分だった。
 当然、普通の店舗は開店前である。
「あ、いや…。その…」
「しょうがないのよ、祐一…」
「ん?」
 言い訳という感じではない。
 何か、祐一には分からない理由があるのだろうか?
 そして、二人の少女は同時に答えを口にした。
「「いや、楽しみになったら待ちきれなくて、早く来ちゃった」」
 テヘッ。と舌を出す従姉妹二人。
「だから、如何でもいい時にだけシンクロするなっつーの!!」
 祐一の突っ込みが、精彩を欠いていたのも無理は無い。



 結局。ゲームなどをやりながら、時間をつぶして街に出た。
 祐一、美空、リーナにアイゼン、フェータ、レライナとオーナー三名、神姫も三名。
 …レライナが寝っぱなしなのはいつもの事だが、なかなかの大所帯である。
 ただし、傍から見ると3人しか居ないように見えるのがミソ。
「で、まずは何処から行くんだ?」
「…そうね、最初は手堅くデパートに行きましょう」
 バス停で降りた中央広場。
 そこから見える大手百貨店を指差し、美空はそう言った。
「水着探すんだよな?」
「…まあ、他にも色々…」
 そう言って美空はほくそ笑んだ。
「…?」
「………この時には、まさかあんな事態になるとは思ってもみなかったのです…」
「さり気無く怖いナレーション入れるな、アイゼン」
「…ふふふ」
 俯いて不気味に笑う神姫を危ない者を見る目で見ながら、一行はデパートに入った。
「まずは3階、エスカレーターで行くわよぉ!?」
 言って、美空はパタパタと小走りでエスカレーターに向かう。
 何が楽しいのか終始はしゃぎっ放しだった。
 元気に(且つ迷惑に)走り回る美空の後を、見失わないように着いて行くリーナと祐一。
「秘儀!! 二段飛ばし~!!」(←良いこの皆は真似しちゃダメです)
 迷惑千万な禁じ手を、惜し気も無く開放する暴れん坊美空。
 …スカート穿いているという自覚は多分無い。
「…ったく、ホントに騒がしい奴だな…」
 呆れ半分で美空の後を追おうとした祐一が、エスカレーターの前で立ち尽くすリーナに気づく。
「………? どうした、リーナ?」
「…え? あ~、ええと………」
「…たぶん、エスカレーターに上手く乗れないだけ」
 回答はリーナではなくアイゼン。
「…う゛っ」
 ただし、リーナの反応を見れば、アイゼンの推量は正解だったらしい。
「…べっ、別に乗れないわけじゃないのよ? こんなの楽勝なんだから!!」
「…では早く乗る。………美空はほっとくと何をするか分からない」
 分かっていて急かすアイゼン。
 鬼である。
「………いや、その。………ここは慎重を期すべき場面だと思うの」
「絶対違う」
「…ぐっ」
 アイゼン相手に何も言い返せないお姫様。
 頼みの騎士はお昼寝中で何の役にも立ちはしなかった。
「…いっそ、祐一が抱っこしてあげれば?」
 器用にも上りのエスカレータを後ろ向きに歩き、その場に留まりながら美空が笑う。
 …物凄い迷惑なので、良い子の皆は真似しちゃダメですよ?
「…抱っこねぇ?」
「………ど、どうせならお姫様抱っこがいいわ」
「…わかった」
「え!?」
 驚く間もあればこそ。
 冗談で言った内容をさっさと実行してしまう祐一に、気づけば腕の中で抱きかかえられているリーナ。
「………あぅ」
「…!!」
 その瞬間、危機を察知したアイゼンが祐一の肩から飛びのく!!

 ―――ガツッ!!

「ぐはぁ!?」
 後頭部を強打した美空のポシェット(鉄板入り)の一撃に、祐一の意識は闇に落ちた。



「…? ここは?」
 綺麗なお花畑で祐一は目を覚ます。
「………どこだ?」
 周囲は一面の花畑。
 傍には海と見まごうばかりに巨大な、しかし対岸の見えている河が流れていた。
「…誰か居るな?」
 対岸で手を振る老婆。
 その顔は祐一も見知ったものだった。
「ああ、死んだはずのバアちゃん!?」
 しかも複数。
「団体さんで!?」
 みんな同じ顔だった。
「怖っ!? って言うか、ここあの世かよ!? 俺死んじゃったのか!? 美空の一撃で!?」
 パニくる祐一。
 まあ、無理も無いが…。
『おお祐一、死んでしまうとはふがいない。そなたにもう一度チャンスをやろう』
 祐一の背後にいつの間にか出現した巨大な神様。
「…なんでアイゼン?」
『細かい事は気にするでない、祐一が次のレベルになるにはあと35472のけいけんちが必要じゃ、ではゆくがよい祐一よ』
 そう言って神様(アイゼン)は祐一を摘み上げ、ぽ~いと、放り投げた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」



「…マスター、おきて。死んじゃダメ」
 目を覚ますと神様…。じゃなかった、アイゼンが居た。
「…うっ、ここは?」
「水着売り場です」
 答えたのはフェータ。
 どうやら気絶した祐一を誰かがどうにかして、ここまで引き摺って来たらしい。
 美空の仕業か?
「んで、美空とリーナは?」
「水着選んでる。後で気に入ったのを見せに来るって」
「………」
 周囲を見渡せば水着、水着、水着。
 一応書いておくが全部女物である。
「………ふむ?」
 祐一も男なのでかなり気恥ずかしい。…と思いきや、中身が入ってないと平気なタイプだった。
「アイゼンやフェータもこういうの欲しいか?」
「…欲しくない訳じゃないんですけどね………」
「………ん。気持ちは嬉しいけど、サイズが違う」
 ブラの胸囲はアイゼンの10倍ぐらいあった。
「…いや、神姫サイズの水着とかも売ってると思うんだ。後で神姫センターに寄ってみるか?」
「………(コクコク)」
「良いんですか!?」
 祐一はこの時点ではまだ、余計な地雷を踏んだ事に気づいていない。
「あ、祐一やっと起きた~」
 大量になにやら抱えて美空とリーナが現れた。
「…誰の所為だと思ってるの?」
「いや~、鉄板入ってるの忘れてたさ~」
 美空は、リーナの突っ込みに頭をかく。
「…鉄板?」
 耳慣れない、と言うよりも場違いな単語に首を傾げる祐一。
「何で鉄板?」
「えっと、ほら。…護身用?」
 護身に鉄板を必要とするシチュエーションなんて、…多分無い。
「ま、いいわ。それよりほら、水着水着♪」
 バラバラと両手に持った布切れを渡してくる美空。
 全部水着のようだった。
「…これを選べばいいんだな?」
「そうそう、さあ着いてきて」
「は?」
 適当に選ぼうとしていた祐一の手を美空が引っ張る。
「…何処に行くつもりだ?」
「試着室」
 美空、即答。
「………試着室!?」
「だって、着てみなきゃ分からないじゃない?」
「…だって、お前。………えぇっ!?」
 ちなみに島田祐一。
 中身が入ってなければ水着も下着も平気だが、中身があると人並みには緊張する。
 ………まあ、男の子だし…。

「ほらほら、ビキニ」
 美空の水着は真っ赤なビキニ。
「セパレーツよ、祐一」
 リーナは純白のセパレーツ。
「………ぁう」
 なんと言うか、目のやり場に困る。
「だいたい、何で美空まで着てるんだよ?」
「…ん? あたしも買うから」
「…水着、持ってるんだろ?」
 祐一の疑問は、乙女心を分かっていない物だった。
「…ふっ、祐一。…女はね、水着は一年で買い換えるものなのよ?」
「…何処の常識だ、それ?」
 割と世間一般の常識である。
「で、感想は?」
「………まあ、…良いんじゃないか?」
 とりあえずそれだけは口に出来た。
「なんか、気の無い返事ね?」
「無理も無いかと…」
 苦笑するフェータだけが唯一の理解者のようだった。
「まあとにかく、次はワンピース試してみるわね? リーナはこのチューブトップに挑戦よ?」
「…これ大丈夫なのかしら?」
「大丈夫、ちゃんと落ちないようになってるから」
 そう言って更衣室へ戻る少女二人。
「………まだ試着するのかよ」
 嘆息する祐一の肩をアイゼンが叩く。
「…ふふふ。…後1時間はかかると見た」
 しかし、このアイゼンの予想は外れる事になる。
 祐一が解放されたのはそれから2時間後。
 お腹の空いた美空が切り上げるまでであった。

「………で、昼はどうするんだ? 言っておくが、そんなにお金あるわけじゃないぞ?」
「ワリカンならOKでしょ? リーナも実は結構お金持ってるし」
 特許とか幾つも取ってるリーナ。
 実は、何もしなくても一生食うに困らない財源を持っている。
「…それじゃあ、外に出て適当にファミレスでも探すか? デパートの食堂街は微妙に高いぞ?」
「あ~、それなんだけどさ。デパ地下の軽食コーナーで食べない?」
「軽食コーナー?」
「ほら、たこ焼きとか、アイスクリームとか売ってる場所がエスカレーター近くにあったじゃない?」
「ああ」
 言われてみればそんなのもあった様な気がする。
「別にいいけど、何でまた?」
「いや~、一度行って見たかったんだけど、一人じゃアレでしょ? …なんか今まで機会無くてさ」
「ふ~ん」
 特に疑問に思う事も無く、祐一は美空とリーナの後についていった。

「3000円でも結構そろうものね」
 テーブルの上に並べられた食料の山。
 たこ焼き、お好み焼き、焼きソバ、焼きもろこし、大判焼き、肉まん、串カツ、たい焼き、ドリンクにソフトクリーム。
「…まあ、高くても500円ぐらいだし」
 祐一は、焼きソバ入りのお好み焼きを割り箸で切り分ける。
「ほらリーナ」
「ありがとう、祐一」
 物珍しいのか、美味しいのか、満面の笑顔でパクパクほお張る11歳の女の子。
 金髪ゴスロリと言う姿がミスマッチで、シュールな事この上ない。
「ほら、リーナ。口ん所ソース付いてるぞ?」
 リーナの頬を指で拭って、そのまま舐め取る祐一。
 自分のしている行為に対する自覚無し。
「………」
 無言で赤面するリーナ。
「うわ~」
 真っ赤になって口元を覆うフェータ。
「………マスター」
 不機嫌そうに目を細めるアイゼン。
 そして…。
「………むぅ」
 膨れっ面をした後、さり気無く口元にソースなど付けてみる美空。
 …発想が子供だとか言わないでやって欲しい。
 彼女も必死なのだ。
 ………方向性のズレた努力のような気はするが…。
「ほら美空も、ソース付いてるって」
 祐一はそう言って、自分の頬を指差す。
 お前のここん所に付いてるぞ、と言うジェスチャー。
 当然、美空は満足しなかった。
「…えい!!」
「痛ぁ!? …なんで蹴る!?」
「知らないもん、馬鹿ぁ!!」
「???」
 訳が分からず、目を白黒させる祐一。
「…多分そういうアプローチでは、祐一様は一生気付かないと思います」
「…だね」
 なぜか神姫の方がそういう機微に長けていたりした。



「んで、祐一? …午後はどうしようか?」
 お腹いっぱいになったら幸福感が増したのか、機嫌を直した美空がそう尋ねる。
「…時間もあるし、何処か遊びに行こうか? カラオケとか、ボーリングとか?」
「ねえ、美空? 美空の家に祐一を招待したらどう? 観柳斎も、辰由やサブちゃんもみんな歓迎してくれると思うわよ?」
「…え?」
 リーナの提案に、その発想が元より無かった美空が戸惑ったような声を出す。
「…そういえば、美空の家って?」
「…ええと、普通だよ?」
 口篭るように美空。
「兄弟とか居るんだ?」
「それは居ないけど?」
「え? じゃあ、リーナの言ってた人って?」
「辰由とサブちゃんは観柳斎の子分ね。…あ、観柳斎は美空のお父さんよ。私の伯父に当たるわね」
「子分?」
 リーナの説明に首を傾げる祐一。
 まあ、普通の家庭に子分はいない。
「そうよ、観柳斎はジャパニーズヤクザなんだから―――」
「―――リーナっ!!」
 美空の怒声でその場が凍りついた。
「………え? ………み、美空? ………どう、したの?」
 リーナは知らない。
 幼い頃から伊東美空が、ヤクザの娘だと言う事で孤立していた事を…。
 この5年間、友人などと呼べるものは、フェータの他に居なかった事を…。
 世間の害悪から、父と城と騎士によって守られてきた少女には、周囲に人が居るのに拒絶されると言う事が理解できていなかった。
 そんな可能性を、考えてみた事も無かった。
 だから、自分の実家を知られる事で、祐一との関係が変化する事を恐れる美空の気持ちは、全く予想の外だった。
「…わ、私。…何か変なこと言った?」
 戸惑うリーナ。
「…ゆ、祐一さん?」
 美空の恐怖はフェータの恐怖でもある。
 それを知って離れていった者たちのように、祐一もまた美空を避けるようになるのではないか?
 その恐怖が、フェータにもあった。
 主が傷つく事を、自分が傷つく事以上に恐れるのは、神姫だからではないだろう。
「…えっと、美空?」
「………」
 祐一の言葉の先を、聞きたくは無かった。
「…あ~、とりあえず、だ―――」
 聞きたくない。
 拒絶とは限らない。
 だが、違うと言う保証もない。
「―――っ」
「―――リーナに謝った方が良いと思うぞ?」
「え?」
 拒絶でも肯定でもない言葉は、美空の予想外のものだった。
「…はい?」
「いや、ほら」
 祐一が目を向ける先に、泣きそうになっているリーナが居た。
「…え? あ。…ご、ごめん、リーナ!? 怒鳴るつもりじゃなかったんだけど、その!?」
「―――ひっく」
「あわわ。ちょ、泣かないでよ。なんか私がいじめたみたいじゃん!?」
「…いや、殆ど事実だろ?」
 祐一の突っ込みは容赦ない。
「そんな事言ったって、泣きたいのは私の方なのに!? 泣かないでよ、リーナぁ!?」
『―――甘やかさんで良い』
 断じる声はリーナの持っていたバスケットの中からだった。
「―――ひっく。………レライナ?」
「…起きてたの?」
「ふん、主の窮地に眠っているほど、眠りに餓えてはおらぬわ」
 アイゼンの問いに不敵に答える騎士型神姫、レライナ。
「…べっ、別に虐めたつもりじゃないのよ!?」
「分かっておるわ。窮地と言うのは他でもない、世間知らずのマスターがそれに気付けぬ事じゃ」
「…レライナ?」
 こちらを見るレライナに、リーナはバスケットを持ち上げ顔に近づけた。
「この戯け~っ!!」
「痛ぁ!?」
 レライナ、自慢の腕力でリーナのオデコにストレート一閃。
「良いか、耳を貸せぃ!! 美空はな―――」
 内緒話のつもりだろうが、レライナに声を潜めると言う発想は無いようだった。
 もちろん、発言内容は全部筒抜けである。
「―――美空は、祐一の他に付き合っている男が居るなどと、祐一に誤解されたくなかったのじゃ!!」
「違うからぁ!!」
 色々ぶち壊しなレライナの発言に、美空の絶叫が木霊した。



「―――要するに、極道の娘だと知られるのが嫌だったと?」
「…うん、祐一も怖がるんじゃないかって………」
 美空は上目遣いに祐一を見る。
「………う~ん、極道だから怖いと言うのは特に無いけど………」
「…けど?」
「………美空が怖いと思った事は無いぞ、俺? ………だって、家がどうでも“美空は”こういう奴だろ?」
 そう言って、まっすぐ美空を見る祐一。
「………」
「…他に何か困るのか?」
 結局、それが祐一の回答。
 ヤクザの娘だからと言って、『肯定』も『否定』も無い。
 そもそも、回答の必要性すら感じていないほど自然に、美空自体を肯定していたから。
 だから、肯定でも否定でもない言葉こそが、そもそもの回答だったのだ。
「………えっと。………また、私と遊んでくれるの?」
「…え? だって旅行に行くだろ?」
 全く会話が噛み合わないほどに、伊東美空は肯定されていた。
「………うん。…そうだね。………一緒に遊びに行くんだもんね?」
「ああ、それでだ。…さっきアイゼンとフェータには話したんだけど、この後神姫ショップに行こうと思うんだ」
「…え? なんで?」
 嬉しさを押し殺し、平静を装って美空は首をかしげた。
「…こいつらにも水着、買ってやろうと思って」
「………」
 祐一はそう言った。
 さっき、美空の水着を選ぶのには余り乗り気でなかった祐一が、楽しそうに、そう言った。
「アイゼンはやっぱり黒いのが良いかな? フェータが白いのだとおそろいになって良いかもしれない」
「………」
 さっき、着て見せた全ての水着に『良いんじゃない?』等の曖昧な返事しかしなかった祐一が―――。
「案外逆にしても似合うかもな。…うん、フェータに黒って言うのはちょっと意外な感じで逆に良いかも」
 ―――実に楽しそうにそう言った。

 プチッ。

「祐一の、馬鹿ぁ~~~~~~~っ!!」
 美空の絶叫と共に、鉄板入りポシェットのフルスィングが祐一の側頭部を直撃した。

「…で、本当に美空、怖くない?」
 コンクリート塀にめり込む祐一にアイゼンが静かに尋ねた。
「…ゴメン、凄く怖いかも…」 
 顔半分をめり込ませながら、涙ながらに祐一はそう答えたのであった。



 ちなみに。



『我は空気読めない愚かな騎士ゆえ、このまま死ぬまで閉じこもっておるのがお似合いなのじゃ』
「そんな事無いわ、レライナは自慢の騎士よ!!」
『でも、的外れで見当違いな事を言って、主を惑わせるダメな騎士なのじゃ』
「大丈夫!! レライナは凄いわ。頑張れば何でもできるもの!!」
『…やはり、我はダメな騎士なのじゃ………』
「そんな事無いってば~っ!!」
 落ち込み、バスケットに閉じこもったレライナを慰めるのに、一生懸命になっていたリーナはフォロー無しで立ち直ったと言う。






 今回のテーマその1は、美空のトラウマ解体。
 デパ地下によくある軽食コーナー。
 わりと其処で友達同士、ダベる女子高生などがいるものです。
 …では、友達居なかったら?
 そういう所で食事する機会も無いでしょう。
 美空は今回ようやくその機会を得たわけです。

 その2は美空が極道の娘だと祐一にバレるシーン。
 これで祐一達を辰由さんとかと絡ませられるように…。
 ちなみに、この後帰るまでに美空が語る回想が美空の『ぷれころ』になります。
 内容はぷれころのコーナーで近日公開予定。

 なお、美空とリーナ、及び神姫たちの選んだ水着は、本編までお待ち下さい。
 需要があるか判りませんが…(その上季節外れだ)。

 仕事が忙しくて更新速度が落ちてますが、次は『ぷれころ美空編』か本編11話でお会いしましょう。
 …苦し紛れに番外編で馬鹿話したり、武装劇団を更新する方が先かも…(←そっちの方が確率高っ)。

 以上、戦闘無いと面白さが半減するSS書き、ALCでした。








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