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クラブハンド・フォートブラッグ
ホワイトファング・ハウリングソウル
ハウリングソウル
ウサギのナミダ
アスカ・シンカロン
引きこもりと神姫
キズナのキセキ
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浸食機械
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えむえむえす ~My marriage story~

2014年

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デュアル・マインド
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悪魔に憑かれた微駄男
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えむえむえす ~My marriage story~

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深み填りと這上姫
キズナのキセキ
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美咲さんと先生
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類は神姫を呼ぶ
浸食機械
引きこもりと神姫
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流れ流れて神姫無頼
アスカ・シンカロン
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The Armed Princess―武装神姫―
ウサギのナミダ
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アルトアイネス奮闘姫
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双子神姫
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武装神姫のリン
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戦う神姫は好きですか
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 神姫BMA公式仕様のバトル筐体コンソール。
「いいかい? ジル」
 ハーモニーグレイスの腰に専用の可動装甲を背負わせてやりながら、少年は静かにその名を呼んだ。
「はい! ……っとと」
 僅かにずれた重量バランスに倒れそうになりながらも、十五センチの少女は何とかバランスを立て直す。
「大丈夫?」
「な……なんとか……。ドライバは標準ので、いいんですよね? 十貴……さん」
 頭部装甲を被り、腕の補助装甲をセット。もう一度バランスを整えるために、小さくくるりと回ってみせる。
「じゃ、続けるよ」
 その初々しい姿に、どこか喜びきれない思いを覚えつつ。十貴と呼ばれた彼女のマスターは説明を続ける。
「君はまだ起動して、ちょっとしか経ってないよね。だからまずは体を慣らすのと……自分の武器をどういう使い方をすればいいのかから、確かめていこう」
 デフォルトの武器は三つ。
 燭台型の火炎放射器と、音声衝撃波を出せるマイク型ユニット。そして、彼女の腰ほどもある大型の多目的ランチャー。
 既にドライバ自体は初期装備として神姫の中に組み込み済みだが、組み合わせでの運用はマスターと神姫の使い方次第。最小限の装備で最大限の効果を発揮させるのが、ライトアーマーシリーズの醍醐味だ。
「はいっ!」
 腕を何度か曲げ伸ばしして、可動範囲を再設定。
 前屈で胸部の可動範囲をチェックした後、後ろに身を反らそうとして……背負ったランチャーの重さで、またもや転びそうになる。
「……っと。幸い、今回の相手は重量級のムルメルティアだ。一撃一撃は重いけど、スピードはこっちが勝ってるから気を付けていれば大丈夫だからね」
 それを慌てて支えてやりながら、少年は微妙な表情で苦笑い。
「わ、分かりましたぁ!」
 マスターの手の平に背中を預けたまま、ジルも元気良く返事。
「おぉい! こっちは準備、とっくに終わってるんだけどよぅ!」
 ようやく戦闘準備を終わらせた頃には、筐体の向こうは待ちくたびれている様子。
「とにかく、今日は無理しないように。行けるね?」
「はい! がんばりますっ!」
 十貴の手慣れた操作を受けて、ジルはバーチャルポッドの中へ消えていった。

 そして、話は一時間ほど前に遡る。


マイナスから始める初めての武装神姫

番外編2 後編



 六割が校長の挨拶で占められた、長い長い入学式が終わり。ボク達はオリエンテーションのため、何人かごとに講義用の教室棟へと移されていた。
 もっとも、特にする事があるワケじゃない。明日からの日程の簡単な説明があって、持ち込み神姫の登録があるだけだ。
 その、はずだったんだけど。
「鋼月……十貴で、神姫名はジル」
 名前に学籍番号、登録神姫の名前に……。
「ハーモニーグレイス、ここですね。マスター!」
「……ああ、そうだね」
 ストラーフの項に向きそうになった意識を隠して、ハーモニーグレイスの所にマルを付ける。
「……」
 いずれは新しいジルにも、前のジルのことを話した方がいいんだろうな……。そう思いながら、ボクは隣の席にちらりと視線を向けてみる。
 そこでは、『以前の記憶を失った神姫』との付き合いの長い彼女が、ボクと同じように登録用紙を書いて……
「静香ぁ。自分で書いてくださいよぅ!」
 なんかいなくて。
 そこにあるのは、自分の背丈ほどのボールペンと格闘するハウリンの姿だった。
「自分のことは自分でやりなさいって、いつも言ってるでしょ? もう一枚あるから、頑張ってねー」
 ……登録用紙を神姫に書かせてるよ。何だかなぁ。
「マスター!」
「あ、うん……」
 ボクを呼ぶジルの声に、こちらに意識を引き戻す。連絡先を書き込んで、それから……。
「……ユーザーID?」
 最後に残ったのは、ID登録の欄。
 バトルのマッチングや神姫センターでのサービスに使う、神姫BMAへの登録番号だ。ストラーフだった頃のジルのIDは覚えているけれど、それはもちろん使えない。
「そういえば……ユーザー登録、済ませてなかったっけ」
 ジルを受け取ったのは今朝の話。そのあと九時から入学式だったから、十時開店のショップになんか行けるはずもなく。
 まあ、提出期限は明日だから、今日中にIDを取れば問題ないんだけど……。
「後でお店に来る? 今日あたし、バイトだし」
 そんなことを考えていると、隣の静姉が用紙を覗き込んできた。
「……うん。そうするよ」
 どうせこの先、ライトアーマーの装備だけじゃ足りないんだ。補充部品も買いに行く予定だったし。そのついでに登録を済ませれば、済むことだ。
「じゃ、ちょっとココと姫の登録、済ませてくるね」
 ハウリンとアーンヴァル、二体の神姫を肩に乗せ、静姉は登録用紙を持って教壇へ。
「お買い物ですか? マスター」
「そうだよ。あと、バトルも出来るようにしようね」
 ボクの言葉に、ジルはニコニコと笑顔を浮かべたまま。欲しい武装があるとねだる様子も、バトルに気勢を上げる様子もない。
 ……ああ、そうか。ねだるも何も、起動したばっかりで、静姉の店が何の店かさえ分からないんだ。
「よく考えたら、バトルサービスの登録もしたことがないんだな……ボク」
 先代ジルはEDEN社のモニター神姫で、ユーザーIDもその時に一緒に払い出されたもの。
 友達や妹の神姫の登録は見ているから、ユーザー登録で何をすればいいのかは分かるけど……自分自身の神姫の登録は、したことがない。
「じゃ、私と一緒ですね! 新人さん!」
「……だねぇ」
 教壇で静姉と講師の先生が話をしているのをぼんやり眺めていると、横から不躾な声が掛けられた。


「なあ。お前、ランクは?」
 そいつの第一声は、そんなひと言だった。
 太り気味の体型に、機嫌の悪そうなツリ目。胸ポケットには軍帽を被ったピンクの髪の神姫……ムルメルティアを入れている。
「……?」
 誰だろう。
 駅前のセンターでも、ショップでも見たことのない顔だ。そもそも今日のボクは鋼月十貴子の姿をしていないわけだから、神姫絡みで気付かれる可能性は無いはずなんだけど。
「ランクだよ、ランク。バトルの」
 明らかにさっきの話が聞こえてた間合だろうに。
 あー。
 ……新人いびりってやつか。
「まだ未登録だけど?」
 いきなりガラの悪い視線が来て怯えてるんだろう。身を寄せてきたジルを手で隠しつつそう返すと、向こうもそれを期待していたらしい。
「未登録ぅ? …………そんなド素人が、何でまた神姫学科に?」
 何か、セリフの合間に妙な間があったけど……普段は取り巻きでもいるのかな。見た感じ、今日は一人みたいだけど。
「色々あるんだよ。いいだろ」
 あんまりこの手の輩は相手したくないな。十貴子の時に来たナンパも相当ウザかったけど、新人いびりするようなヤツはもっとダメだ。
 静姉はまだ先生と話してるけど、荷物持ってあっちに行っちゃおう。
「へぇ。じゃ、俺とバトル……どうだ?」
「だから、バトルは未登録だって……」
 ボクは自分と静姉、二人分のカバンを取り上げる。
「そうじゃねえよ。ここのバトル筐体はランキングの対象外だから、未登録でもバトル出来るんだよ」
 ああ、そういえば、大学のページにそんなことが書いてあったっけ。BMA準拠の設備はあるけど、実験機体をバトルフィールドに入れるために、そんな仕様にしてあるとか何とか。
「どうだ? 良かったら、俺と勝負しようぜ。素人マスターさんよ」
 けど、この手の新人いびりに付き合ってる余裕はない。
 起動したばっかりのジルにも、あまり無茶はさせたくないし。
「マスター……」
 ジルもボクの手の中で、不安そうにこちらを見上げて……。
「やりましょう、バトル!」
「……なんだって?」
 強く放たれたそのひと言に、ボクは耳を疑った。
「私、まだ起動してちょっとしか経ってませんけど……マスターがバカにされてるのくらい、分かります! そんなの、我慢できません!」
 金色に輝く瞳の中に、何か強い光が見える。
「やりましょう! バトル!」
 いきなり現れた威圧感に、怯えていたのかとも思ったけど……どうやら、それは違っていたらしい。
「……その辺りは、ジルなんだね」
 いきなり殴りかかるような事はしなくなったけど。
 それでも、ジルはジル……っていう事なんだろう。
 なら、ボクに出来ることは一つしかない。
「いいよ。新人で良ければ、ね」



 東条学園大学部、実習棟の端の端。
「ねえ、静香……」
 ずらりと並ぶバーチャルマシンの一角を眺め、私は静香の名を呼んだ。
「どうしたの? ココ」
「ジル、大丈夫でしょうか?」
 話した感じ、ジルには戦闘経験を含め、かつての記憶は一つとして引き継がれていないようだった。無意識に受け継がれた『何か』がある可能性は否定できないものの、さしあたりの今のジルは、本当に起動したてのシスター型神姫でしかない。
 そんな彼女が、それも軽量武装のハーモニーグレイスが、わざと絡んでくるような重量級のムルメルティアに勝てる可能性は……限りなくゼロに近い。勝てないだけなら問題ないが、悪い負け方をすれば、それが神姫の記憶に重大なトラウマを残してしまう。
 かつての私の体の主が、その心を壊されたときのように。
「どうかしらね……。もともと十貴、戦闘指示って苦手だしね」
 双方のエントリーが終わったらしい。大画面の有機ELディスプレイに、『Ready』の文字が映し出される。
「……そうなんですか?」
 けど、ジルはファーストの常連だった。地元で負けたところは数えるほどしか見たことがないし、私が勝った事に至っては一度もない。
「十貴が戦闘指示してるの、見たことないでしょ」
「……そういえば」
 言われて、気が付く。
 戦況の解析やアドバイスはともかく、回避や攻撃の指示をしている十貴は見たことがない。
 そういえば装備も、ジルの意見を聞いて作っていると言っていたっけ。
 なら、廃墟フィールドを走り出したジルに指示を出すのは……。
「サード相手なら何とかなるだろうけど、セカンドの上位だしねぇ」
 ……え?
「……静香、あの相手を知ってるんですか?」
 ディスプレイに映る相手の姿は、戦闘装備を調えたムルメルティアだ。私のメモリーには、該当する神姫は無いはずだけれど……。
 隣の花姫を見ても首を傾げるだけで、知っている様子はない。
「あなたは知ってるはずよ、ココ」
 その言葉に、検索範囲を広げてみる。
 日常で遭遇した神姫データをサーチ……該当無し。
 断片化した記憶をサーチ……該当無し。
 処分予定の保留データをサーチ……該当一件。
「……秋葉原のゲンちゃん!」
 だいぶ前に、秋葉原の神姫バトルミュージアムで会った、感じの悪いマスター!
 神姫が違っていたから、全然気が付かなかった。
「そ」
 あの時作った総撃墜数五十二機という非常識な自己ベストは、いまだ更新出来そうな場面がない。その時のリーダー格だったマスターが、彼らだったわけだ。
「……メモリーの消去リストに入ってました。本気で忘れたかったもので」
「……結構言うようになったわね、ココ」
「静香の神姫ですから」
 くすくすと笑う静香にわざとツンとした態度で答えておいて、私はディスプレイに視線を戻す。
 ファーストで猛威を振るった『鋼帝』なら、セカンドでくすぶっている相手など余裕だろう。けれど、起動したてでろくに戦闘経験も無いハーモニーグレイスでは……頼みの綱は、十貴の戦闘指示だけだ。
「ま、そういうわけで……十貴の指揮で今のジルじゃ、ちょっとキツいかもね」



「ジル! 回避!」
「は……はいっ!」
 慌てて飛ばしたボクの声に、ジルは後ろに大きく跳躍。衝撃吸収用に腰のバインダーを展開させて……。
 着弾。
「きゃああっ!」
 廃墟を容赦なく吹き飛ばす大口径の砲弾は、例え直撃にならなくても限りなく非武装に近いハーモニーグレイスには大ダメージになってしまう。バインダーが盾になってくれたおかげで今のところダメージはないけど、こちらの反応はギリギリで、反撃にまでは手が回らない。
 体の動きが慣れていないジルのフォローは、バトル経験者のボクがするべき所なのに……。
「……経験、か」
 その経験が、ボクにはない。
 トリッキーな戦い方をしてくる相手の仕掛けやトラップを見破るのはボクの仕事だったけど、その間の時間稼ぎや通常の格闘戦はジル自身の判断によるものだ。
 今頃になって、戦闘指揮においてでも素人と変わらない事を思い知らされる。
「マスター! 指示を!」
 遠距離からのランチャーで牽制しながらのジルの叫び。ランチャーだって無制限に撃てるわけじゃない。ハーモニーグレイスの必殺武器となるあれは、今のように牽制のために使うべき武器じゃないはずなのに。
 そうだ。経験がないなんて関係ない。今すべきことは、ボクよりもっと経験の少ないジルをフォローすることで……。
「とりあえず、ランチャーの先端にマジェスティックフレイムを装着! 火炎放射モードから、収束弾モードに切り替えて、牽制はこれを使って!」
「あ……はい、分かりましたっ!」
「ランチャーの残弾は?」
「ええっと……あと、二十発です!」
 こっちの状況は厳しいけど、相手にはまだ一発の有効打も与えていない。
 ランチャー二十発で、何とかなる……か?
 ジルの注意が向いてない分、残弾はこっちでも気を付けないとな。
「とはいえしっかり回避すれば、砲撃だって……」
 最初から新人いびりをするつもりだったんだろう。相手のムルメルティアは、散発的な砲撃をしてくるだけだ。明らかに油断している以上、そこを上手く突く事が出来れば……。
「きゃあああっ!」
「ジル!」
 けれどその回避が間に合わず、ジルは再び砲撃に晒される。ないよりはマシな追加装甲と腰のバインダーが、致命傷だけは防いでくれたけど……。
「だ、大丈夫……ですっ!」
 必死にそう叫び、砂煙の中から抜け出したジルは再び走り出す。
 僕の指示通り、収束して放つ火炎弾を牽制に使いながら、必死に砲撃の有効距離の内側へ。もちろん有効射程の内側といっても、威力が最大では無い、というだけだ。砲弾の直撃を受ければ無事では済まない。
「ジル! 砲撃の間合の内側に入っても、ムルメルティアにはアームがあるからね! こっちの直撃も強力だから、気を付けて!」
 砲撃の間隔が少しずつ縮まっているのが気になったけど、相手の動きばかり気にしてもいられない。
「はいっ!」
 砲撃を支える架台にもなる大型腕。戦車型と言いながら、それを使った近接格闘もこなすのがムルメルティア最大の脅威だ。さすがにその直撃を受けたら、残りのジルのライフじゃひとたまりもない。
 相手が調子に乗って、あのアームを脚部武装にでも使ってくれていれば少しは勝機も上がるんだけど……いくら何でも、そこまでは相手を甘く見すぎだろう。
「マスター」
 そんな砲撃の雨と轟音の中、ジルの小さな唇が、ほんの少しだけ動き。
「……私じゃ、頼りないですか?」
 言葉を、紡ぐ。
「……ジル?」
「マスター、私を見て、すごく寂しそうな顔をするから……」
 相手の砲撃が途切れる様子は、いまだ無い。
 けれど、戦場を掛けるジルの脚も、一切スピードを緩めてはいない。
「私、頑張りますから! マスターと一緒に、頑張りますから……。前のジルさんに、負けないように……」
「ジル……?」
 記憶は……全部、消えたんじゃ?
「メモリーに残ってました。ストラーフの、すごく強くて格好良くて、美人な神姫だったんですよね、前のジルさんって……」
 ほんの一瞬、砲撃が止む。
「……そ、それは……」
 けれどボクはその驚きのせいで、貴重な一瞬に反応する事が出来なくて。
「でも、その人は起動しなくて……。私、その人の分まで頑張り……きゃあっ!」
 次に来たのは、砲撃の砂煙を突き破って現われた……巨躯。
 まさか。
「……二体分!?」
 大型腕に直結された二本の砲門と、大地を踏みしめる足にも付けられた大型フレーム。
 ムルメルティアの誇る重装アームは、計四本。
 ライトアーマーの新人いびりにも一切手を抜かない、完全武装以上の容赦ない攻撃態勢だ。
 そりゃ、砲撃の間隔が短くなるはずだよ!
「きゃあああっ!」
 砲身を横殴りに振り抜いた一撃を紙一重でくぐり抜け、ジルは必死に相手の近接の間合から退いていく。
 相手の有効攻撃範囲を避けつつ、こちらの武器の有効範囲に持ち込む。圧倒的な脚力を誇る完全武装のムルメルティア相手にそのギリギリの距離を保つ事は、並大抵の事じゃなくて……。
「マスター! 指示をっ!」
 ライフは僅か。
 でも、立ち上がるジルの声から、戦う意志は失われていない。
 そうだ。
 ボクはインカムを取り、レシーバーに呼び掛ける。
「……ジル。ちょっと無茶な作戦を言うけど、いい?」
 ジルがこれだけ頑張ってるんだ。
「はいっ!」
 ボクが頑張らなくて、どうするんだ!



「お姉ちゃん。ジルちゃんの動き、変わったね」
 走り出すジルの姿を見て、花姫は嬉しそうに笑っている。
「ですね」
 回避と間合の確保を狙う動きから、ひたすらに距離を詰める近接戦へ。ランチャーを使った一撃で大きなダメージを狙う戦い方から、マイクを使った衝撃波や火炎放射で少しずつ……でも確実に削る動きに切り替えていた。
 ジルの残りライフは僅か。一撃でも食らえば負けが決まってしまう状況だけど、それでも必死に相手の攻撃をくぐり抜け、歯を食いしばって戦っている。
「良い動きじゃない。これなら何とかなる……かなぁ?」
 それを眺める静香の口元も緩み気味。何だかんだ言っていても、十貴の活躍は嬉しいらしい。
「……十貴は指示が苦手なのでは?」
「戦闘の指示はね。もうちょっと大きな規模だったら、結構おもしろい作戦立てたりするのよね」
 部隊長というよりも、作戦参謀ポジションという事だろうか。
 その割には、十貴の作戦でジルが勝ったという話は聞いたことがない。変わった戦い方をする相手の攻撃を見抜いた、という話は良く聞いていたけれど。
「……まあ、ジルはどんな作戦でも突っ込むだけだったけどね」
 らしいといえば、らしいけれど。
「……意味ないですね」
 ただ、ディスプレイの向こうで戦う今のジルは、その作戦参謀の作戦を実行に移そうとしているらしい。
 そのギリギリの戦い方を、最後まで維持出来るのか……。
 ジルは相変わらず、走るその足を緩めないままだ。



「この……ちょこまかと!」
 大きく振り抜かれた腕を身を屈めてかわし、放たれるのは火炎放射の一撃だ。
「ちっ!」
 範囲に広がる炎の熱は、分厚い装甲の隙間をくぐり抜けてダメージを与えている。一撃一撃のダメージは微々たるものだけど、蓄積すれば大きなダメージになっていく。
「ジル、バックステップ!」
「はいっ!」
 振り抜かれた足をかわし、今度はマイクの衝撃波。やはり装甲をかいくぐった音の一撃が、ムルメルティアのライフゲージを削り取っていく。
「貴様ぁぁッ!」
 大振りの一撃は、慣れてしまえば回避はそれほど難しくない。
 いくら重量級のムルメルティアと言っても、あくまでも基本は神姫。攻撃が重く、モーションが大きくなればなるほど、生まれる隙も比例して大きくなる。
 叩き付けられた拳を避けて……。
「……なんてな」
 響き渡ったのは、ジルの武器でも、ムルメルティアの砲撃や拳の音でもない。
 拳銃の、小さな射撃音。
 放ったのは、もちろんジルじゃない。
 ムルメルティア。
 それも、アームではない……その内側でアームを制御していた、神姫自身の手に握られていた拳銃だ。
「きゃああっ!」
 幸い威力も大したことなかったから、一撃でアウトにはならなかったけど……。
「ジル!」
 動きの大きなサブアームを囮に使って、メインの腕で体勢を崩す。
 最初期のストラーフから連綿と受け継がれてきた、サブアーム戦術の基本中の基本。
 いつもこの手の基本戦術を警戒するのはジルの役目だったから、完璧に忘れていた。今日はそれも、ジルの代わりに警戒しないといけなかったのに……!
「ふん。手間を掛けさせおって」
 左腕を打ち抜かれたんだろう。肩を押さえ、倒れて呻くジルの小さな身体に、体勢を立て直したムルメルティアの右腕の砲門が突き付けられる。
 この期に及んで、そんな事を……!?
「ジルっ!」
 その場に倒れ込んだジルは、もちろん躱す事なんか出来やしない。
 勝ち誇るムルメルティアの笑い声と共に、重々しい装填音が響き渡り。
 爆発したのは、巨大な砲身の方だった。


「な…………」
 ムルメルティアは茫然と。
「え……?」
 僕も、それが何故起きたのか、分からなかった。
 突如として爆発した右サブアームの砲身。
 その衝撃に、ぐらりと身を傾がせるムルメルティア。
 そして……。
「ゲタゲタ笑ってんじゃねえよ、バーカ」
 くるりと拳銃を手の中で回し、握り直すと同時に二発目を放つ。
 爆発するのは、左サブアームに接続された砲身だ。
 砲本体じゃない。狙ったのは、砲門。跳弾で砲門の奥へと撃ち込まれた弾丸が、装填されていた砲弾を打ち抜いたんだ。
「さっさとぶん殴ってりゃ、テメェの勝ちだったのによ」
 無造作に見せて、完璧に計算し尽くされた動き。
「ったくよぅ。こんな小細工で勝てるなら、苦労しないっつの」
 左腕に深刻なダメージが入った事を告げるアラートにも、起動したばかりのハーモニーグレイスは眉一つ動かす気配がない。
「……え?」
 小作りな整った顔でヘラリと笑い、両腕の砲門をパージするムルメルティアに銃口を突き付けたまま。
 その間も、金色に燃え上がる瞳が相手から逸れることは……ない。
「ま、悪い作戦じゃあなかったが……相変わらず詰めが甘いぜ、十貴」
 構えてる銃は、ハーモニーグレイスの初期装備じゃない。
 ムルメルティアの……多分、相手神姫の腰にでもぶら下がっていただろう、二セットぶんの装備のもう一丁。
 さっき相手神姫の懐に飛び込んだ時、相手の銃に撃たれた時に抜き取ったんだろう。
 そんな手癖の悪い戦い方は……明らかに、ハーモニーグレイスの基本戦術にはないものだ。
「……ジ……ル?」
 金色の瞳に宿るのは、強い意志の輝き。
 朱い炎より強く輝く、太陽の色。
「……やっぱ、テメェじゃダメだ。お前はあたしの整備して、武器作ってくれりゃ……十分だよ」
 こちらから間合を取ったムルメルティアは、巨大なサブアームを構えたまま動かない。後一撃……たった一撃で倒せるはずの相手の唐突な豹変ぶりに、次の出方をうかがっているらしい。
「ジル……ジルなの?」
「いやぁ、なんつーかさ。お前好みの可愛いの目指してみたんだけどよ……やっぱ無理、みたいな?」
 軽く肩をすくめ、隙だらけの姿で笑うジル。
「ちょっ!」
 当然のようにその隙を突いて、ムルメルティアが拳を振り上げてきたけど……それがわざと見せた隙だって事は、ボクにはイヤって言うほど分かっていた。
 悪魔型の戦闘スタイルの、定番中の定番。
 相変わらず戦い方がいやらしいよ、ジル。
「てなわけで、後はあたしの好きにやらせてもらうぜ。マスター、命令を」
「……好きにして」
 どうせボクの命令なんか聞かないくせに。
「承知!」
 ボクの予想通り、紙一重……いや、それよりもギリギリの間合で拳の乱打をかいくぐり、打ち込む弾丸は相手の関節部に確実にヒットする。
 浮かべているのは、シスター型じゃない……獲物を狩るときの、悪魔型の微笑みだ。
「……調子はどうなの? ジル」
「さっきから散々逃げ回って、十分動作チェックさせてもらったからな。任せろ」
「この……! あと一発で終わりのくせにっ!」
 そう言った瞬間、悲鳴を上げたのはライトアーマーのシスターじゃない。
 サブアームの隙を抜かれ、神姫本体に大型ランチャーを突き込まれた完全武装のムルメルティアだ。
「テメェが一発ぶち込む前に、あたしゃ十五発入れるっつの」
 その言葉を呟いたのは、ジルが残り十五発のランチャーの弾丸を、全て撃ち込み終わってからの事だった。



 バーチャルポッドから出て来たのは、悪魔型ではなく、シスター型のハーモニーグレイスだった。
「……ジル?」
「おぅ」
 恐る恐る名を呼べば、聞き慣れた返事と、崩れた笑みが返ってくる。
「……おいおい、結局泣くのかよ。エリの奴も成功だって言ってたろ?」
 いや、だからって、嬉しいものは嬉しいんだってば……。
「にしても、悪魔型のあたしがシスターに生まれ変わるとか、冗談キツイだろ」
「何でも良いよ。ジルが帰ってきてくれて……」
 ぐすぐすと泣くボクに、ジルは呆れたようなため息を一つ。
「これからもっかいサードからファーストまで登り直さないといけないんだぜ? そんなんで、大丈夫なのかよ……」
 拭っても止まらない涙をそれでも拭いながら、ボクも何とか笑顔を作る。
「大丈夫だよ。ジルが僕の分まで、戦ってくれるんでしょ?」
「おう。任せとけ」
 ライトアーマーのないよりマシ程度の装甲板に覆われた胸を、力強く叩いてみせる。
 そこにはシスター型神姫の元気さも貞淑さも無かったけれど……それでも全然構わないと、そう思った。
「お帰り。ジル!」

「ただいま。マイマスター!」

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