私たちは、休憩スペースの長椅子にならんで腰掛けて(マスターさんは缶ジュースを片手に普通に、私は正座でです)、トホホな雰囲気でぼーっと天井に吊るされたリプレイモニターを眺めています。
「終わりましたね……」
「終わっちゃいましたね……」
モニターを見ながらぼそっと呟くマスターさんに、私も視線を動かすことなく答えます。
「あっという間でしたね」
「あっという間でした」
「………………………………」
「………………………………」
しばしの沈黙。
「………………負けちゃいましたねぇ」
「………………負けちゃいました」
「………………手も足も出ませんでしたねぇ」
「………………けちょんけちょんでした」
………………えー、お恥ずかしい話ですが、上記の通り私たちは負けました。
それも完敗です、惨敗です、敗軍です、まさに負け犬です。
対戦相手は同レギュレーションのツガルタイプでしたが、そこかしことカスタムされて、あちらはその高機動力で遠距離を保ち、こちらの攻撃は回避されて、逆にあちらからはビシバシ狙撃されて、まさにいい所ナシの一方的と言う他ない内容でした。
私は膝をマスターさんに向けなおし、深々と頭を下げます。
「マスターさん、恥ずかしい戦いぶりで本当に申し訳ありませんでした!」
ううう、戦闘開始前の能天気に構えていた自分に、ハウリングサンダーをブチかましたい気分ですっ!
「いえいえ、こちらこそロクな指示も出せなくてすいませんでした」
身をこちらに向けなおし、負けじと頭を下げるマスターさん。
「ああ、そんな勿体無い……! この度の醜態は、すべて私の未熟ゆえで……!」
「いえいえ、僕のほうこそ犬子さんの足を引っ張ってしまって……!」
「いえ私こそ……!」
「いえ僕こそ……!」
武装神姫と差し向かって頭を下げあうマスターさんの姿は、通りすがる方々にわりと奇異の目で見られていたようですが、当人である私たちにはそこまで気にする余裕はありませんでした。
「ですが、その……」
そんなやり取りを一通り済ませて、私たちは顔を上げました。
マスターさんの表情を窺いつつ、私は次に言うべき言葉を捜して、指をもじもじさせます。
そんな私の様子を見たマスターさんが、優しくはにかみました。
その表情を見て、マスターさんも私と同じ気持ちだったということを確信します。
「その、マスターさん……今回はその、お恥ずかしい所をお見せしてしまったわけですが……」
そこで言葉に詰まった私の心を汲んで下さったかのように、マスターさんが微笑みながら口を開きました。
「犬子さん……楽しかったですか?」
「は……」
感情回路が高揚し、ドッグテイルがぶんぶんと起動します。
そして私はその気持ちを押さえつけずに、勢いよく応えました。
「はい! とっても楽しかったです!」
マスターさんは、満足げに頷き。
「そうですか。僕も同じ気持ちですよ」
「はい!」
……要するに。
お互いに楽しかったけど、負けてしまった手前、手放しで喜ぶのは相手に悪いようで気が引ける、と二人ともが考えてしまっていたようで。判ってしまえば笑い話ですが、判ってしまった以上、もはやお互いの気持ちをさえぎるものはありません。私たちは堰を切ったように会話が弾みだしました。
「ええ、負けてしまったのは残念です、悔しいです。でも初めて戦うことが出来て、『悔しい』の何倍も『楽しかった』というのも正直な気持ちで!」
「そうですね、僕も犬子さんが戦ってる間、手に汗握る想いでしたよ」
「私もです! ええ、もう、脚部パーツを交換したばかりなんて言い訳する余地なんてカケラもないくらいにけちょんけちょんでしたが、こう、相手の攻撃を待つ緊張感とか、狙いを定める興奮とか!」
「ええ、こんなにドキドキしたのは久しぶりです」
「それにほら! 中盤に一度、私の吠莱の砲撃が当たったじゃないですか! あの時、敵のゲージががくんと減ったときなんか、ものすごくスカッとしました!」
「そうでしたね、あの時は恥ずかしながら、このまま逆転できるんじゃないかとか思ってしまいましたよ」
「あはははは、恥ずかしながら私もです。そんなに甘いものじゃなかったですけどね」
「うーん、確かにその後は、ちょっと残念な結果になってしまいましたねぇ」
「あの時は必死で気が付きませんでしたが……今にして思えば、相手は明らかに場慣れしてましたね」
「そうなのですか? てっきり僕たちと同じ、デビューしたばかりなのかと思ってましたが……」
「デビューしたてなのは間違いないでしょう。ですけど、機動性の高い武装神姫に飛行ユニットをつけてツガルタイプの弱点である中距離を補いつつも得意の遠距離射撃に徹する、あまりにもコンセプトが的確で明確すぎます。
あれはきっと、二体目か三体目か、とにかく明らかに武装神姫に慣れたオーナーによってセッティングから最適を追求して最適な装備を整え最適な戦術を取らせたものですよ」
「ふーむ、僕達のように、右も左も判らない状態で適当に戦っても勝てる相手じゃなったわけですね」
「悔しいですけど、その通りです。すくなくとも、射撃が当たらないなら直接殴ってやる突撃ー、なんて行き当たりばったりじゃ、カモにされるだけですね」
「あはははは、終盤特攻ばかりしてたのはそんなことを考えていたのですか」
「いやお恥ずかしい、もう『頭に血が上っていた』と言う表現がピッタリな状態でした」
「あはははは、武装神姫でもそういう事はあるのですね」
「あるのですよ。
あ、そうだマスターさん、携帯出していただけますか?」
「携帯ですか? はい」
「はい、ありがとうございます。そこで、「お気に入り」から……はい、そこの「神姫ネット」を選んで……あ、そこです! そこから、今の対戦ムービーがダウンロードできるんです!」
「おお、それは嬉しいですね……お、きましたね」
「マスターさん、再生してください!」
「あははは、そんなに慌てないで下さい。ええと、ここを押せばいいのですか?」
「あ、はい、それです……あ、始まりました!」
「おお、まさしく先ほどの、僕たちの対戦ですね」
「うーん、こうしてみると、私って明らかにキョドってますね」
「あはははは、最初ですし仕方ありませんよ」
「あ、食らった」
「もうこの時点で、相手はもう必勝パターンに入っていたのですね……いや、見返すと勉強になります」
「そうですねぇ。もう、こっちは相手の攻撃がどこから来るか察知するのに必死でした。
あ、でも……ほら! ここの攻撃はちゃんと回避できたんですよ!」
「おおー、やりますね犬子さん」
「はい! いえまぁ、この一発だけでしたけどね」
「あはははは。でも、その後も直撃は結構防いでるじゃないですか」
「ええ、もともとハウリンタイプは、回避よりも防御を得意としますからね。思えば最初から、防御を固めるべきでした……あ、ここ! ここですよ! もうすぐあの場面です!」
「アレですね……行った!」
「ハウリングサンダー直撃です!」
「これってそれまでの砲撃とは違いますね?」
「あ、はい、これは吠莱のスキル技で……要するに必殺技です」
「なるほどなるほど、どうりでごっそりゲージを減らせたはずです」
「ツガルタイプはもともと回避に特化している分、防御は薄いですから」
「そうでしたか。こちらとしてはほとんど回避されていい所なしに感じましたが、相手にとっては意外と冷や汗ものだったかもですね」
「そうですねぇ。そう考えると、終盤で短慮に走って特攻なんてするべきじゃありませんでした」
「あははははは、そうですねぇ」
「また食らった……あ、また。むむむ、我ながらひどいものです」
「あははははは、まぁ、今後は気をつける、と言うことで」
「はい、今度はクールにクレバーに戦ってご覧に入れましょう」
「その意気ですよ、犬子さん」
「はい、ありがとうございます……あ、ここ! ここです! なんとか懐に飛び込めて、殴り飛ばせるかと思ったんですが」
「接近は出来ましたが、残念ながらそこまででしたねぇ」
「うーん、あそこで拳に捉えることが出来ていたら、その後の流れももう少し変わっていたのかもですが」
「うまく逃げられちゃいましたねぇ。いや、惜しかったです……と、ここまでですね」
「マスターさん、もう一度再生していただけませんか?」
「もちろんいいですとも。ええと、これでよかったですよね?」
「はい、そうです……うーん、私は開始直後キョドってましたけど、こうしてみると相手は落ち着いてるのがよくわかりますね」
「犬子さんの分析どおり、と言うことなのでしょうね」
「そうだと思われます。……あ、もう、我ながら鳩が豆鉄砲食らってるみたいな顔して!」
「この時は、まだ敵を捕捉していなかったのですか?」
「恥ずかしながら、その通りです。あ、ここでやっと敵を見つけて応戦を始めるんですが……」
「うーん、ことごとく外してますねぇ」
「少なくとも、カリカリに回避重視の敵に当てるには、修行が足りませんでした」
「その辺も今後の課題ですねぇ。あ、そろそろですよ」
「そろそろですね」
「………………………………」
「………………………………」
「「ハウリングサンダー!!」」
「あははは、つい僕まで叫んじゃいました」
「必殺技を撃つ時は、叫ぶのがお約束ですよ」
「……ううん、よくみると相手も、わりと焦っていますねぇ」
「あれだけゲージが削られれば、仕方ないでしょうね」
「冷静に考えればまぐれ当たりと判るんでしょうけど、まぐれでも何でも当たれば危ないと思えば、なかなか冷静にはなれないものですよ」
「なるほど、さすがマスターさん」
「あ、特攻が始まりましたね」
「うー、お恥ずかしい……」
「いえいえ、犬子さんはよく頑張りましたとも」
「うう、お言葉嬉しいのですが、我が事ながらそれは甘やかしすぎと思うのですよ」
「いいじゃないですか、反省会はもう済んだのですから……あー、惜しい!」
「『当たらなかった』というのは百も承知の上なのに、ついつい当たることを期待しちゃいますねー」
「この次は当てて見せてくださいね?」
「はい、お任せください!」
「と、ここまでですね。もう一度見ましょうか?」
「はい、是非!」
「終わりましたね……」
「終わっちゃいましたね……」
モニターを見ながらぼそっと呟くマスターさんに、私も視線を動かすことなく答えます。
「あっという間でしたね」
「あっという間でした」
「………………………………」
「………………………………」
しばしの沈黙。
「………………負けちゃいましたねぇ」
「………………負けちゃいました」
「………………手も足も出ませんでしたねぇ」
「………………けちょんけちょんでした」
………………えー、お恥ずかしい話ですが、上記の通り私たちは負けました。
それも完敗です、惨敗です、敗軍です、まさに負け犬です。
対戦相手は同レギュレーションのツガルタイプでしたが、そこかしことカスタムされて、あちらはその高機動力で遠距離を保ち、こちらの攻撃は回避されて、逆にあちらからはビシバシ狙撃されて、まさにいい所ナシの一方的と言う他ない内容でした。
私は膝をマスターさんに向けなおし、深々と頭を下げます。
「マスターさん、恥ずかしい戦いぶりで本当に申し訳ありませんでした!」
ううう、戦闘開始前の能天気に構えていた自分に、ハウリングサンダーをブチかましたい気分ですっ!
「いえいえ、こちらこそロクな指示も出せなくてすいませんでした」
身をこちらに向けなおし、負けじと頭を下げるマスターさん。
「ああ、そんな勿体無い……! この度の醜態は、すべて私の未熟ゆえで……!」
「いえいえ、僕のほうこそ犬子さんの足を引っ張ってしまって……!」
「いえ私こそ……!」
「いえ僕こそ……!」
武装神姫と差し向かって頭を下げあうマスターさんの姿は、通りすがる方々にわりと奇異の目で見られていたようですが、当人である私たちにはそこまで気にする余裕はありませんでした。
「ですが、その……」
そんなやり取りを一通り済ませて、私たちは顔を上げました。
マスターさんの表情を窺いつつ、私は次に言うべき言葉を捜して、指をもじもじさせます。
そんな私の様子を見たマスターさんが、優しくはにかみました。
その表情を見て、マスターさんも私と同じ気持ちだったということを確信します。
「その、マスターさん……今回はその、お恥ずかしい所をお見せしてしまったわけですが……」
そこで言葉に詰まった私の心を汲んで下さったかのように、マスターさんが微笑みながら口を開きました。
「犬子さん……楽しかったですか?」
「は……」
感情回路が高揚し、ドッグテイルがぶんぶんと起動します。
そして私はその気持ちを押さえつけずに、勢いよく応えました。
「はい! とっても楽しかったです!」
マスターさんは、満足げに頷き。
「そうですか。僕も同じ気持ちですよ」
「はい!」
……要するに。
お互いに楽しかったけど、負けてしまった手前、手放しで喜ぶのは相手に悪いようで気が引ける、と二人ともが考えてしまっていたようで。判ってしまえば笑い話ですが、判ってしまった以上、もはやお互いの気持ちをさえぎるものはありません。私たちは堰を切ったように会話が弾みだしました。
「ええ、負けてしまったのは残念です、悔しいです。でも初めて戦うことが出来て、『悔しい』の何倍も『楽しかった』というのも正直な気持ちで!」
「そうですね、僕も犬子さんが戦ってる間、手に汗握る想いでしたよ」
「私もです! ええ、もう、脚部パーツを交換したばかりなんて言い訳する余地なんてカケラもないくらいにけちょんけちょんでしたが、こう、相手の攻撃を待つ緊張感とか、狙いを定める興奮とか!」
「ええ、こんなにドキドキしたのは久しぶりです」
「それにほら! 中盤に一度、私の吠莱の砲撃が当たったじゃないですか! あの時、敵のゲージががくんと減ったときなんか、ものすごくスカッとしました!」
「そうでしたね、あの時は恥ずかしながら、このまま逆転できるんじゃないかとか思ってしまいましたよ」
「あはははは、恥ずかしながら私もです。そんなに甘いものじゃなかったですけどね」
「うーん、確かにその後は、ちょっと残念な結果になってしまいましたねぇ」
「あの時は必死で気が付きませんでしたが……今にして思えば、相手は明らかに場慣れしてましたね」
「そうなのですか? てっきり僕たちと同じ、デビューしたばかりなのかと思ってましたが……」
「デビューしたてなのは間違いないでしょう。ですけど、機動性の高い武装神姫に飛行ユニットをつけてツガルタイプの弱点である中距離を補いつつも得意の遠距離射撃に徹する、あまりにもコンセプトが的確で明確すぎます。
あれはきっと、二体目か三体目か、とにかく明らかに武装神姫に慣れたオーナーによってセッティングから最適を追求して最適な装備を整え最適な戦術を取らせたものですよ」
「ふーむ、僕達のように、右も左も判らない状態で適当に戦っても勝てる相手じゃなったわけですね」
「悔しいですけど、その通りです。すくなくとも、射撃が当たらないなら直接殴ってやる突撃ー、なんて行き当たりばったりじゃ、カモにされるだけですね」
「あはははは、終盤特攻ばかりしてたのはそんなことを考えていたのですか」
「いやお恥ずかしい、もう『頭に血が上っていた』と言う表現がピッタリな状態でした」
「あはははは、武装神姫でもそういう事はあるのですね」
「あるのですよ。
あ、そうだマスターさん、携帯出していただけますか?」
「携帯ですか? はい」
「はい、ありがとうございます。そこで、「お気に入り」から……はい、そこの「神姫ネット」を選んで……あ、そこです! そこから、今の対戦ムービーがダウンロードできるんです!」
「おお、それは嬉しいですね……お、きましたね」
「マスターさん、再生してください!」
「あははは、そんなに慌てないで下さい。ええと、ここを押せばいいのですか?」
「あ、はい、それです……あ、始まりました!」
「おお、まさしく先ほどの、僕たちの対戦ですね」
「うーん、こうしてみると、私って明らかにキョドってますね」
「あはははは、最初ですし仕方ありませんよ」
「あ、食らった」
「もうこの時点で、相手はもう必勝パターンに入っていたのですね……いや、見返すと勉強になります」
「そうですねぇ。もう、こっちは相手の攻撃がどこから来るか察知するのに必死でした。
あ、でも……ほら! ここの攻撃はちゃんと回避できたんですよ!」
「おおー、やりますね犬子さん」
「はい! いえまぁ、この一発だけでしたけどね」
「あはははは。でも、その後も直撃は結構防いでるじゃないですか」
「ええ、もともとハウリンタイプは、回避よりも防御を得意としますからね。思えば最初から、防御を固めるべきでした……あ、ここ! ここですよ! もうすぐあの場面です!」
「アレですね……行った!」
「ハウリングサンダー直撃です!」
「これってそれまでの砲撃とは違いますね?」
「あ、はい、これは吠莱のスキル技で……要するに必殺技です」
「なるほどなるほど、どうりでごっそりゲージを減らせたはずです」
「ツガルタイプはもともと回避に特化している分、防御は薄いですから」
「そうでしたか。こちらとしてはほとんど回避されていい所なしに感じましたが、相手にとっては意外と冷や汗ものだったかもですね」
「そうですねぇ。そう考えると、終盤で短慮に走って特攻なんてするべきじゃありませんでした」
「あははははは、そうですねぇ」
「また食らった……あ、また。むむむ、我ながらひどいものです」
「あははははは、まぁ、今後は気をつける、と言うことで」
「はい、今度はクールにクレバーに戦ってご覧に入れましょう」
「その意気ですよ、犬子さん」
「はい、ありがとうございます……あ、ここ! ここです! なんとか懐に飛び込めて、殴り飛ばせるかと思ったんですが」
「接近は出来ましたが、残念ながらそこまででしたねぇ」
「うーん、あそこで拳に捉えることが出来ていたら、その後の流れももう少し変わっていたのかもですが」
「うまく逃げられちゃいましたねぇ。いや、惜しかったです……と、ここまでですね」
「マスターさん、もう一度再生していただけませんか?」
「もちろんいいですとも。ええと、これでよかったですよね?」
「はい、そうです……うーん、私は開始直後キョドってましたけど、こうしてみると相手は落ち着いてるのがよくわかりますね」
「犬子さんの分析どおり、と言うことなのでしょうね」
「そうだと思われます。……あ、もう、我ながら鳩が豆鉄砲食らってるみたいな顔して!」
「この時は、まだ敵を捕捉していなかったのですか?」
「恥ずかしながら、その通りです。あ、ここでやっと敵を見つけて応戦を始めるんですが……」
「うーん、ことごとく外してますねぇ」
「少なくとも、カリカリに回避重視の敵に当てるには、修行が足りませんでした」
「その辺も今後の課題ですねぇ。あ、そろそろですよ」
「そろそろですね」
「………………………………」
「………………………………」
「「ハウリングサンダー!!」」
「あははは、つい僕まで叫んじゃいました」
「必殺技を撃つ時は、叫ぶのがお約束ですよ」
「……ううん、よくみると相手も、わりと焦っていますねぇ」
「あれだけゲージが削られれば、仕方ないでしょうね」
「冷静に考えればまぐれ当たりと判るんでしょうけど、まぐれでも何でも当たれば危ないと思えば、なかなか冷静にはなれないものですよ」
「なるほど、さすがマスターさん」
「あ、特攻が始まりましたね」
「うー、お恥ずかしい……」
「いえいえ、犬子さんはよく頑張りましたとも」
「うう、お言葉嬉しいのですが、我が事ながらそれは甘やかしすぎと思うのですよ」
「いいじゃないですか、反省会はもう済んだのですから……あー、惜しい!」
「『当たらなかった』というのは百も承知の上なのに、ついつい当たることを期待しちゃいますねー」
「この次は当てて見せてくださいね?」
「はい、お任せください!」
「と、ここまでですね。もう一度見ましょうか?」
「はい、是非!」
そんな風にして。
マスターさんと私は、携帯のバッテリーが切れるまで、何度も何度も私の初陣ムービーを再生し、いつまでもいつまでもはしゃぎ続けたのでした。
マスターさんと私は、携帯のバッテリーが切れるまで、何度も何度も私の初陣ムービーを再生し、いつまでもいつまでもはしゃぎ続けたのでした。