「犬子さん……」
不安な様子を隠そうともしないマスターさん。その呼びかけに、実は意味などありません。
ただただ不安で、声をかけずにはいられないだけなのでしょう。
私はそんなマスターさんに、優しく微笑みかけます。
「そんな顔をしないでください、マスターさん。いつかこの時が来るということは、以前から話し合っていた通りじゃないですか」
「ええ、ええ……この件に関しては、私たちは十分に話し合いました。
そのための準備だって繰り返してきました。
ですが……ですがそれでも、私は不安でならないのです。
こうして、犬子さんとお話しするのが、これが最後になってしまうのではないかと……!」
……実を申せば、マスターさんのこのお言葉も今に始まったことではなくて。
幾度となく、幾度となく、同じお言葉を――同じ不安を、吐露されてまいりました。
ですがそれでも、私はその度にマスターさんのこのお言葉を真摯に受け止めます。
そこには、もったいないばかりの、私へのお気遣いが溢れているのですから。
「大丈夫ですよ、マスターさん。きっとまた、こうしてお話できます。約束しますから。
また目を覚ました私は、真っ先にマスターさんに『おはようございます』って言うんですよ。
いつものように正座して。
いつものように深々と座礼して。
だからその時は、マスターさんも一緒に、座礼してくださいね?」
「ああ……それは素敵ですね。約束しますよ」
マスターさんは僅かに不安な表情を引っ込めて、目を細めて笑いました。
まるでそれが、かなわぬ夢の光景であるかのように。
「現在時刻は23:59……もうすぐ時間です」
私は、笑顔を崩さぬままで、そういいました。マスターさんの不安を、少しでも取り除けるようにと。
「あ、はい……あの……」
マスターさんは、まだ何か言いたそうでした。ですが、その未練を断ち切るのもまた優しさと、私は学びました。だから私は笑顔のままで、最後のご挨拶をします。
「おやすみなさい、また明日」
「あ、はい、また明日」
時刻が0:00を示し、クレイドルに身を横たえた私の思考が、闇に沈んで行きます。
徐々に狭くなる視界の中で最後に捉えたのは、不安そうに私を見守るマスターさんの姿でした。
私は全身が徐々に制御を離れるなか、ほんの僅かに微笑みを浮かべます。
不安な様子を隠そうともしないマスターさん。その呼びかけに、実は意味などありません。
ただただ不安で、声をかけずにはいられないだけなのでしょう。
私はそんなマスターさんに、優しく微笑みかけます。
「そんな顔をしないでください、マスターさん。いつかこの時が来るということは、以前から話し合っていた通りじゃないですか」
「ええ、ええ……この件に関しては、私たちは十分に話し合いました。
そのための準備だって繰り返してきました。
ですが……ですがそれでも、私は不安でならないのです。
こうして、犬子さんとお話しするのが、これが最後になってしまうのではないかと……!」
……実を申せば、マスターさんのこのお言葉も今に始まったことではなくて。
幾度となく、幾度となく、同じお言葉を――同じ不安を、吐露されてまいりました。
ですがそれでも、私はその度にマスターさんのこのお言葉を真摯に受け止めます。
そこには、もったいないばかりの、私へのお気遣いが溢れているのですから。
「大丈夫ですよ、マスターさん。きっとまた、こうしてお話できます。約束しますから。
また目を覚ました私は、真っ先にマスターさんに『おはようございます』って言うんですよ。
いつものように正座して。
いつものように深々と座礼して。
だからその時は、マスターさんも一緒に、座礼してくださいね?」
「ああ……それは素敵ですね。約束しますよ」
マスターさんは僅かに不安な表情を引っ込めて、目を細めて笑いました。
まるでそれが、かなわぬ夢の光景であるかのように。
「現在時刻は23:59……もうすぐ時間です」
私は、笑顔を崩さぬままで、そういいました。マスターさんの不安を、少しでも取り除けるようにと。
「あ、はい……あの……」
マスターさんは、まだ何か言いたそうでした。ですが、その未練を断ち切るのもまた優しさと、私は学びました。だから私は笑顔のままで、最後のご挨拶をします。
「おやすみなさい、また明日」
「あ、はい、また明日」
時刻が0:00を示し、クレイドルに身を横たえた私の思考が、闇に沈んで行きます。
徐々に狭くなる視界の中で最後に捉えたのは、不安そうに私を見守るマスターさんの姿でした。
私は全身が徐々に制御を離れるなか、ほんの僅かに微笑みを浮かべます。
マスターさん……
そんな顔をしないでください
明日になったら……
きっと……
また……
笑顔で……
system sleep...
・ ・ ・
ゆっくりと、私は起動していきます。同時にセンサーが周囲の情況把握を開始。
体内時計を確認すれば、時刻はAM07:00ジャスト。
予定通りです。
そうして目覚めた私の目に一番最初に飛び込んできたのは、
体内時計を確認すれば、時刻はAM07:00ジャスト。
予定通りです。
そうして目覚めた私の目に一番最初に飛び込んできたのは、
私が眠りについた時とまったく同じ姿勢で私を見守る、マスターさんの姿でした。
「犬子さん……」
「マスターさん……ひょっとして、ずっと付いていてくださったんですか?」
「あ、いや、その……申し訳ありません、不安で寝付けなくて」
照れくさそうに頭を掻くマスターさんに私は顔をほころばせつつ、いたずらっぽく言います。
「だめですよ? 今日もお仕事なんですから、しっかりお休みなさらないと」
「あー、いや、面目次第もございません」
困ったように頭を掻き続けるマスターさんですが、その顔は晴れやかです。
そしてそんなマスターさんの姿に、私は感情回路が深く温かい感覚で満たされるのを感じます。
くすりと一度小さく笑うと、私はクレイドルから身を起こし、膝をつき似非正座の姿勢になります。
そして、ゆっくりと、深々と頭を垂れます。そう、昨晩約束したように。
「おはようございます、マスターさん」
「あ、おはようございます犬子さん」
私は顔を伏せたまま、マスターさんも慌てて頭を下げる気配を感じます。
それから私たちは、どちらからともなく示し合わせたかのようにゆっくりを顔を上げました。
「それからマスターさん」
私は、マスターさんににっこりと満面の笑顔を向けました。
「マスターさん……ひょっとして、ずっと付いていてくださったんですか?」
「あ、いや、その……申し訳ありません、不安で寝付けなくて」
照れくさそうに頭を掻くマスターさんに私は顔をほころばせつつ、いたずらっぽく言います。
「だめですよ? 今日もお仕事なんですから、しっかりお休みなさらないと」
「あー、いや、面目次第もございません」
困ったように頭を掻き続けるマスターさんですが、その顔は晴れやかです。
そしてそんなマスターさんの姿に、私は感情回路が深く温かい感覚で満たされるのを感じます。
くすりと一度小さく笑うと、私はクレイドルから身を起こし、膝をつき似非正座の姿勢になります。
そして、ゆっくりと、深々と頭を垂れます。そう、昨晩約束したように。
「おはようございます、マスターさん」
「あ、おはようございます犬子さん」
私は顔を伏せたまま、マスターさんも慌てて頭を下げる気配を感じます。
それから私たちは、どちらからともなく示し合わせたかのようにゆっくりを顔を上げました。
「それからマスターさん」
私は、マスターさんににっこりと満面の笑顔を向けました。
「武装神姫の自動起動タイマー設定の成功、おめでとうございます」