リセット(ギャグです)
―――――
「ええい、くそ!! この役立たずめ!!」
両の拳で思い切り殴りつける。
打突音と共に鈍い痛みが走った。
「痛いよ、マスター。止めて、止めてぇ…」
少年の怒りの原因である神姫、ハウリンタイプのユキが涙目で訴えてくる。
「くっ、誰の所為だと思っている!?」
「それは、ボクが負けたから………」
「分かっているなら口答えするな!!」
再び拳が振るわれる。
「大体どうして勝てないんだ!! 僕の装備も作戦も完璧だった筈なのに!!」
「…ごめんなさい。…ごめんなさい」
ユキの謝意は少年には届かない。
「ボクが、ボクが全部悪いの。マスターの作ってくれた武器も作戦も活かせなかったボクが悪いの………」
だからユキは必死で懇願する。
最愛の主の怒りを解くためなら、どんな事だってしてみせる。
…でも。勝てなかったのも事実なのだ。
「分かっているなら少しは黙れ!!」
「ひゃん!?」
三度振るわれる拳にユキは目を覆い、尻尾を丸めて蹲った。
「もう止めて。お願いしますから、もう殴らないでください」
「僕の物を僕がどうしようと、僕の勝手だろう!! いちいち口答えするな!!」
「ひっ!!」
怒鳴られ、思わずすくみ上がるユキ。
無理も無い相手はほかならぬ彼女の主。最愛の相手なのだ。
そんな彼が怒るからこそ、ユキには恐ろしく、そして悲しかった。
「お前で何人目だと思っている!! どいつもこいつも役立たずばかりだ!!」
「マスター………」
「煩いと言っているだろう!! 余り聞き訳がないようならリセットして一から作り直すぞ!!」
リセット。
神姫にとってそれは『死』だ。
それも、おおよそ考えられる限り最悪の形での死。
神姫だって物だ。不慮の事故で破壊され、修復不能な形での破損、つまり死ぬこともある。
でもその場合、きっとその神姫のオーナーは彼女を失ったことに涙するだろう。
惜しまれての死ならば、まだ最悪とはいえない。
だがリセットの場合、それは自らの主に死を望まれる事を意味する。
―――お前など死んでしまえ!!
最愛の主にそう言われ、それでも平気な神姫など居ない。
ただ一人の例外も無く。神姫とはそういう者だからだ。
だからもし、その言葉を平然と受け入れられるものが居れば、それは既に神姫とは呼べない。
そんなものは神姫では、無い。
故に。
神姫にとってリセットされると言うことは本当に最悪の終焉。
それこそ、死んでしまった方が幸せな位の心の痛みを伴う行為なのだ。
もっとも、それがさほど長い作業にならないのが唯一の救いだろうか?
とても、とても悲しい救いではあるが、慈悲には違いない………。
「煩いと言っているだろう!! 余り聞き訳がないようならリセットして一から作り直すぞ!!」
少年の言葉に、ユキは目を見開き、怯え、一歩後ずさる。
だが、二歩目は、………無かった。
「分かりました、マスター。………僕のこと、………………………リセットしてください」
「―――出来るわけ無いだろうっ!!」
少年は四度目となる拳を机に叩き付ける。
既に皮膚には裂傷が出来、血が滲んでいるが少年は躊躇しなかった。
僕の物(手)を僕がどうしようと、僕の勝手だろう!!
それはそうだが限度と言うものはあると思う。
「痛いよ、マスター。止めて、止めてぇ…。それ以上殴っちゃだめだよう」
ユキは必死になって己の主の自虐を止める。
机と拳の間に身体を押し込み、少しでもその痛みを和らげようと懸命に。
例え殴られたって構わなかった。
マスターが痛い思いをするぐらいなら、自分が殴られた方が何倍もマシだった。
だが、ユキがすがり付くように拳を抑えると、彼女の主はその手を止めた。
「あーくそ。また神姫買ってこなくちゃな。くそ。本体とクレイドルに装備一式で………、ああ、またバイトしなくちゃいけないじゃないか!!」
「わー、"また”妹増えるのー?」
主の背中をよじ登って遊んでいたマオチャオが歓喜の声を上げる。
「名前ならボクたちも一緒に考えてあげるよ?」
「うんうん。ストラーフなら悪魔の名前だし、ティグリースなら刀の名前だよね?」
協力し、それぞれのパワーアームで引き出しを開けていたストラーフとティグリースがそう言った。
「それより、早く手当てをしないと………」
引き出しの上に飛び乗り、ツガルが救急箱を引きずり出す。
「えっと、絆創膏じゃ間に合いませんよね? 包帯と消毒薬かしら?」
「縫合手術。これ、使う?」
「わわわ、縫い針は要りませんよ!?」
「そこまで酷い怪我でも無いですわ!!」
救急箱を漁るジルダリアと、何処からか縫い針を持ち出してきたエウクランテ。
彼女を止めるウィトゥルースとサイフォス。
他にも、部屋中の至る所に神姫が居た。
「ああ、そうでした。次に新しい妹が増えれば、その子が40人目になりますわ、マスター」
最年長の白いアーンヴァルがそう言いながら少年の肩に止まる。
「くそ、どいつもこいつも弱いくせに数ばかり増えやがって!!」
「増やしたのはマスターですわ」
「リセットなんか出来るわけ無いだろう!? 海(マオチャオ)なんかリセットしようとしたら『あそんでくれるの?』とか言って擦り寄って来るんだぞ!! 出来るわけ無いじゃないかぁ!!」
少年の絶叫が家中に呼霊した。
かくしてその日、40人目の妹“デルタ”が新しく村上シスターズに加わることとなる………。
数年後。
「いやー、あの頃は若かったですねぇ………。今となってはいい思い出です」
あらぬ方向を見ながら嘯く村上。
「で? 言いたい事はそれだけ?」
女は拳を握って笑顔のまま尋ねる。
一応遺言を聞く理性ぐらいは残っていたようだ。
「ああ、そうでした。皆を紹介しますね。なに、タイプごとにある程度の傾向がありますからすぐに覚えられますよ」
「ああそうかい!!」
豪快なアッパーの一撃で、村上は玄関の天井にめり込んだ。
「………ま。一世一代の勇気を振り絞り、淡い期待を抱きながら『家によって行っても良い?』とか聞いて来た恋人を、40人もの神姫が御出迎えしたらこうなりますわね」
天井に突き刺さった主を見上げ、あきれながら呟いたアーンヴァルの言葉は、完全に気絶していた村上には届かなかったそうである………。
おしまえ
―――――
新参者のSS書きです。
wikiの使い方がわからず四苦八苦・・・。
使い方って、これでいいのかな?
PS:掲示板にて御教授くださった29氏に深い感謝を・・・。
―――――
「ええい、くそ!! この役立たずめ!!」
両の拳で思い切り殴りつける。
打突音と共に鈍い痛みが走った。
「痛いよ、マスター。止めて、止めてぇ…」
少年の怒りの原因である神姫、ハウリンタイプのユキが涙目で訴えてくる。
「くっ、誰の所為だと思っている!?」
「それは、ボクが負けたから………」
「分かっているなら口答えするな!!」
再び拳が振るわれる。
「大体どうして勝てないんだ!! 僕の装備も作戦も完璧だった筈なのに!!」
「…ごめんなさい。…ごめんなさい」
ユキの謝意は少年には届かない。
「ボクが、ボクが全部悪いの。マスターの作ってくれた武器も作戦も活かせなかったボクが悪いの………」
だからユキは必死で懇願する。
最愛の主の怒りを解くためなら、どんな事だってしてみせる。
…でも。勝てなかったのも事実なのだ。
「分かっているなら少しは黙れ!!」
「ひゃん!?」
三度振るわれる拳にユキは目を覆い、尻尾を丸めて蹲った。
「もう止めて。お願いしますから、もう殴らないでください」
「僕の物を僕がどうしようと、僕の勝手だろう!! いちいち口答えするな!!」
「ひっ!!」
怒鳴られ、思わずすくみ上がるユキ。
無理も無い相手はほかならぬ彼女の主。最愛の相手なのだ。
そんな彼が怒るからこそ、ユキには恐ろしく、そして悲しかった。
「お前で何人目だと思っている!! どいつもこいつも役立たずばかりだ!!」
「マスター………」
「煩いと言っているだろう!! 余り聞き訳がないようならリセットして一から作り直すぞ!!」
リセット。
神姫にとってそれは『死』だ。
それも、おおよそ考えられる限り最悪の形での死。
神姫だって物だ。不慮の事故で破壊され、修復不能な形での破損、つまり死ぬこともある。
でもその場合、きっとその神姫のオーナーは彼女を失ったことに涙するだろう。
惜しまれての死ならば、まだ最悪とはいえない。
だがリセットの場合、それは自らの主に死を望まれる事を意味する。
―――お前など死んでしまえ!!
最愛の主にそう言われ、それでも平気な神姫など居ない。
ただ一人の例外も無く。神姫とはそういう者だからだ。
だからもし、その言葉を平然と受け入れられるものが居れば、それは既に神姫とは呼べない。
そんなものは神姫では、無い。
故に。
神姫にとってリセットされると言うことは本当に最悪の終焉。
それこそ、死んでしまった方が幸せな位の心の痛みを伴う行為なのだ。
もっとも、それがさほど長い作業にならないのが唯一の救いだろうか?
とても、とても悲しい救いではあるが、慈悲には違いない………。
「煩いと言っているだろう!! 余り聞き訳がないようならリセットして一から作り直すぞ!!」
少年の言葉に、ユキは目を見開き、怯え、一歩後ずさる。
だが、二歩目は、………無かった。
「分かりました、マスター。………僕のこと、………………………リセットしてください」
「―――出来るわけ無いだろうっ!!」
少年は四度目となる拳を机に叩き付ける。
既に皮膚には裂傷が出来、血が滲んでいるが少年は躊躇しなかった。
僕の物(手)を僕がどうしようと、僕の勝手だろう!!
それはそうだが限度と言うものはあると思う。
「痛いよ、マスター。止めて、止めてぇ…。それ以上殴っちゃだめだよう」
ユキは必死になって己の主の自虐を止める。
机と拳の間に身体を押し込み、少しでもその痛みを和らげようと懸命に。
例え殴られたって構わなかった。
マスターが痛い思いをするぐらいなら、自分が殴られた方が何倍もマシだった。
だが、ユキがすがり付くように拳を抑えると、彼女の主はその手を止めた。
「あーくそ。また神姫買ってこなくちゃな。くそ。本体とクレイドルに装備一式で………、ああ、またバイトしなくちゃいけないじゃないか!!」
「わー、"また”妹増えるのー?」
主の背中をよじ登って遊んでいたマオチャオが歓喜の声を上げる。
「名前ならボクたちも一緒に考えてあげるよ?」
「うんうん。ストラーフなら悪魔の名前だし、ティグリースなら刀の名前だよね?」
協力し、それぞれのパワーアームで引き出しを開けていたストラーフとティグリースがそう言った。
「それより、早く手当てをしないと………」
引き出しの上に飛び乗り、ツガルが救急箱を引きずり出す。
「えっと、絆創膏じゃ間に合いませんよね? 包帯と消毒薬かしら?」
「縫合手術。これ、使う?」
「わわわ、縫い針は要りませんよ!?」
「そこまで酷い怪我でも無いですわ!!」
救急箱を漁るジルダリアと、何処からか縫い針を持ち出してきたエウクランテ。
彼女を止めるウィトゥルースとサイフォス。
他にも、部屋中の至る所に神姫が居た。
「ああ、そうでした。次に新しい妹が増えれば、その子が40人目になりますわ、マスター」
最年長の白いアーンヴァルがそう言いながら少年の肩に止まる。
「くそ、どいつもこいつも弱いくせに数ばかり増えやがって!!」
「増やしたのはマスターですわ」
「リセットなんか出来るわけ無いだろう!? 海(マオチャオ)なんかリセットしようとしたら『あそんでくれるの?』とか言って擦り寄って来るんだぞ!! 出来るわけ無いじゃないかぁ!!」
少年の絶叫が家中に呼霊した。
かくしてその日、40人目の妹“デルタ”が新しく村上シスターズに加わることとなる………。
数年後。
「いやー、あの頃は若かったですねぇ………。今となってはいい思い出です」
あらぬ方向を見ながら嘯く村上。
「で? 言いたい事はそれだけ?」
女は拳を握って笑顔のまま尋ねる。
一応遺言を聞く理性ぐらいは残っていたようだ。
「ああ、そうでした。皆を紹介しますね。なに、タイプごとにある程度の傾向がありますからすぐに覚えられますよ」
「ああそうかい!!」
豪快なアッパーの一撃で、村上は玄関の天井にめり込んだ。
「………ま。一世一代の勇気を振り絞り、淡い期待を抱きながら『家によって行っても良い?』とか聞いて来た恋人を、40人もの神姫が御出迎えしたらこうなりますわね」
天井に突き刺さった主を見上げ、あきれながら呟いたアーンヴァルの言葉は、完全に気絶していた村上には届かなかったそうである………。
おしまえ
―――――
新参者のSS書きです。
wikiの使い方がわからず四苦八苦・・・。
使い方って、これでいいのかな?
PS:掲示板にて御教授くださった29氏に深い感謝を・・・。