昼間だと言うのに、薄暗く埃臭い部屋。
明かりは厚手のカーテンに遮られ、部屋を照らす事は無い。
固く閉じられた窓を叩くのは残暑が香る秋の風。
外にいれば夏と冬の中間の心地よい風が身体を包む事だろう。
「これを見るのは、5年振りだねぇ」
薄暗い部屋より黒い身体を持つナルが、それを見ながら言った。
その言葉には懐かしさと、幾許かの自嘲が含まれている。
「出来れば、見たくなかったんだがね」
それが入っていた金属ケースを弄びながら、恵太郎が言った。
視線はあくまでケースに注ぎ、ナルが見ている物を見ようともしない。
その様子にナルは、軽い溜息を吐いた。
「全くぅ、決めたのはマスターでしょぅ?」
ナルは腰に手を当て、怒ってますのポーズをした。
しかし恵太郎はそれすらも見ずに、金属ケースの表面をなぞった。
「……あれから、もう5年経ったんだな」
恵太郎の指先には埃が黒く纏わりついている。
「そうだねぇ」
傷だらけ、埃だらけの金属ケースの上にナルは飛び乗った。
厚く積もる埃の層、所々に走る傷と錆。その上で狂る狂ると廻った。
「……ボクも変わって、マスターも変わって、世界も変わって。それでも変らない事ってあるんだよぉ」
それほど大きくも無い金属ケースの上を、ゆっくりと緩慢とさえ感じる動作で廻っていく。
まるで、恵太郎の覚悟を確かめるように。
「………ああ、解ってる」
恵太郎は大きく息を吐いた。そして見た。
そこに並ぶ、過去の思い出の結晶を。
明かりは厚手のカーテンに遮られ、部屋を照らす事は無い。
固く閉じられた窓を叩くのは残暑が香る秋の風。
外にいれば夏と冬の中間の心地よい風が身体を包む事だろう。
「これを見るのは、5年振りだねぇ」
薄暗い部屋より黒い身体を持つナルが、それを見ながら言った。
その言葉には懐かしさと、幾許かの自嘲が含まれている。
「出来れば、見たくなかったんだがね」
それが入っていた金属ケースを弄びながら、恵太郎が言った。
視線はあくまでケースに注ぎ、ナルが見ている物を見ようともしない。
その様子にナルは、軽い溜息を吐いた。
「全くぅ、決めたのはマスターでしょぅ?」
ナルは腰に手を当て、怒ってますのポーズをした。
しかし恵太郎はそれすらも見ずに、金属ケースの表面をなぞった。
「……あれから、もう5年経ったんだな」
恵太郎の指先には埃が黒く纏わりついている。
「そうだねぇ」
傷だらけ、埃だらけの金属ケースの上にナルは飛び乗った。
厚く積もる埃の層、所々に走る傷と錆。その上で狂る狂ると廻った。
「……ボクも変わって、マスターも変わって、世界も変わって。それでも変らない事ってあるんだよぉ」
それほど大きくも無い金属ケースの上を、ゆっくりと緩慢とさえ感じる動作で廻っていく。
まるで、恵太郎の覚悟を確かめるように。
「………ああ、解ってる」
恵太郎は大きく息を吐いた。そして見た。
そこに並ぶ、過去の思い出の結晶を。
声が響く。
白い壁、白い天井、白い床。
校庭で、教室で、体育館で、廊下で。
男子が、女子が、教師が。
大きな声で、小さな声で。
思い思いの言葉を響かせる。
ここは、県内でもある種有名な私立高校。
学校内にバトルスペースとランキング制度を設ける数少ない高校だ。
廊下は白塗りの壁と床と天井で統一され、清潔感を醸し出している。
広い人工芝の校庭ではサッカーやバスケットに興じる生徒の姿も見える。
下手な競技場よりも巨大な体育館ではバトミントンをする生徒がいる。
十数ある教室では、昼食や雑談に花を咲かせる生徒ばかり。
それらを行き交う生徒の大半は、随所に取り付けられた液晶モニターに注意を傾けている。
そこに映るのは黒いヴォッフェバニーの装甲を身につけたハウリンの姿。
右手にハグダント・アーミーブレード、左手にモデルPHCハンドガン・ヴズルイフを握り、バトルフィールドを縦横無尽に駆け抜けている。
迫る弾丸を斬り払い、迫るミサイルを撃ち落とし、無駄など一切感じさせない動作で戦場を書ける黒い竜巻。
彼女こそ、校内ランキングの頂点に立つ神姫、トロンベである。
「おつかれ、トロンベ」
「ありがとうございます、ご主人様」
バトルを終えたトロンベに、アリカが労いの言葉をかけた。
それに伏せ見がちに応えるのは、いつもの光景だ。
「今日も負けなし……良い調子ね。これなら来月の大会でも良い成績が残せそうね」
「確かサバイバルバトル形式の大会でしたね……」
トロンベの語尾が、僅かに震えた。
「出来る事なら、卒業までにはセカンドを脱したいわね」
「ファーストですか……行けるでしょうか?」
あえて気付かないふりをして、アリカは言葉を続けた。
「出来るわよ、あたしとトロンベの二人なら。何だって出来るわ」
「……はい、ご主人様」
何時もと同じ日常。
しかしそれは、気付かぬ内に崩れていく。
それは緩やかに、しかし速やかに。
白い壁、白い天井、白い床。
校庭で、教室で、体育館で、廊下で。
男子が、女子が、教師が。
大きな声で、小さな声で。
思い思いの言葉を響かせる。
ここは、県内でもある種有名な私立高校。
学校内にバトルスペースとランキング制度を設ける数少ない高校だ。
廊下は白塗りの壁と床と天井で統一され、清潔感を醸し出している。
広い人工芝の校庭ではサッカーやバスケットに興じる生徒の姿も見える。
下手な競技場よりも巨大な体育館ではバトミントンをする生徒がいる。
十数ある教室では、昼食や雑談に花を咲かせる生徒ばかり。
それらを行き交う生徒の大半は、随所に取り付けられた液晶モニターに注意を傾けている。
そこに映るのは黒いヴォッフェバニーの装甲を身につけたハウリンの姿。
右手にハグダント・アーミーブレード、左手にモデルPHCハンドガン・ヴズルイフを握り、バトルフィールドを縦横無尽に駆け抜けている。
迫る弾丸を斬り払い、迫るミサイルを撃ち落とし、無駄など一切感じさせない動作で戦場を書ける黒い竜巻。
彼女こそ、校内ランキングの頂点に立つ神姫、トロンベである。
「おつかれ、トロンベ」
「ありがとうございます、ご主人様」
バトルを終えたトロンベに、アリカが労いの言葉をかけた。
それに伏せ見がちに応えるのは、いつもの光景だ。
「今日も負けなし……良い調子ね。これなら来月の大会でも良い成績が残せそうね」
「確かサバイバルバトル形式の大会でしたね……」
トロンベの語尾が、僅かに震えた。
「出来る事なら、卒業までにはセカンドを脱したいわね」
「ファーストですか……行けるでしょうか?」
あえて気付かないふりをして、アリカは言葉を続けた。
「出来るわよ、あたしとトロンベの二人なら。何だって出来るわ」
「……はい、ご主人様」
何時もと同じ日常。
しかしそれは、気付かぬ内に崩れていく。
それは緩やかに、しかし速やかに。
「アリカ、頑張るわね~」
「相変わらず並の激しい人ですね」
ノートPCでトロンベのバトルを見ていた茜は満足そうに呟いた。
対するロンは、比較的冷静と言うか感心なさげだ。
「あら、何時になく辛口ねぇ」
「一時期は私にすら勝てなかったチャンピオンですからね」
茜は軽く笑うと、ロンの髪を撫でた。
「そこは師匠に似たのね」
「確かに、あの二人の波も相当激しかったですね」
ロンは目を瞑り、茜に身を委ねた。
「そうねぇ、昔は相当激しい波だったわねぇ」
「……マスター」
震える体で、ロンは茜の指にしがみ付いた。
「何となくですが、嫌な予感がするんです」
閉じた目は何を見ているのか。
「あの二人の最近の雰囲気、あれはまるで……」
「大丈夫」
茜は、ロンを両手で包みこんだ。
「あの二人は変わったのよ。もうあんな事は起きないわ」
子供をあやす様に、諭す様に茜は言った。
「それに、二回目は無いもの」
歪んだ絆、軋んだ絆。
音を立てず、ゆっくりと、しかし確実に朽ちていく絆。
途切れた絆は二度と戻りはしない。
「相変わらず並の激しい人ですね」
ノートPCでトロンベのバトルを見ていた茜は満足そうに呟いた。
対するロンは、比較的冷静と言うか感心なさげだ。
「あら、何時になく辛口ねぇ」
「一時期は私にすら勝てなかったチャンピオンですからね」
茜は軽く笑うと、ロンの髪を撫でた。
「そこは師匠に似たのね」
「確かに、あの二人の波も相当激しかったですね」
ロンは目を瞑り、茜に身を委ねた。
「そうねぇ、昔は相当激しい波だったわねぇ」
「……マスター」
震える体で、ロンは茜の指にしがみ付いた。
「何となくですが、嫌な予感がするんです」
閉じた目は何を見ているのか。
「あの二人の最近の雰囲気、あれはまるで……」
「大丈夫」
茜は、ロンを両手で包みこんだ。
「あの二人は変わったのよ。もうあんな事は起きないわ」
子供をあやす様に、諭す様に茜は言った。
「それに、二回目は無いもの」
歪んだ絆、軋んだ絆。
音を立てず、ゆっくりと、しかし確実に朽ちていく絆。
途切れた絆は二度と戻りはしない。
綺麗に整頓された部屋、というより散らかすものが無い部屋。
真新しいフローリングの床の上にあるのは、小さなテーブルと畳まれた布団だけ。
その他の物と言えば大抵はクローゼットの中に仕舞い込んである。
「うわぁ……懐かしいなぁ」
「何で御座るか、主殿」
クローゼットの中に頭を突っ込んでいた孝也が声を上げた。
その眼の先には紺色の表紙を持つやたら大きい本が握られていた。
「高校のアルバムだよ」
「ふむ、アルバムで御座るか」
それを引っ張り出し、息を吹きかける。クローゼットの中に置き去りにされていた分の埃が空を舞った。
「わぁ……懐かしい……」
「……しかし主殿、高校に在学しておったのはたかだか1,2年程前で御座ろう。それほど懐かしがるもので御座るか?」
畳んだ布団の上に座りアルバムを食い入るように見つめる孝也に、トリスはやや冷めた視線を投げかけた。
「そうじゃなくてさ……ほら、見てごらんよ」
アルバムのあるページを開き、何かを指さす孝也。トリスは訝しげにそれを覗き込む。
「……これは、恵太郎殿で御座るな? ふむ、何度見ても……」
「やっぱそう思うよね?」
トリスは眉を顰め、孝也は少し嬉しそうに笑った。
孝也の指さす先には恵太郎の姿があったのだ。ただし、高校入学直後の姿で。
「凄い人相悪いよねぇ」
「……確かに、今思えば今の恵太郎殿とあの時の恵太郎殿はまるで別人で御座るな」
そこに映る4年前の恵太郎は、端的にいえば柄が悪かった。
眼つきは鋭く、まるで眼に映る者全てが敵だと言わんばかりの眼光。
映る写真のその全てが不機嫌そうな顔をしている。
「アルバムって面白いよね」
「恵太郎殿が、の間違いでは御座らんか」
孝也は目を輝かせながらページを捲る。
一年正のページが終わり、二年生のページへ、そして三年生。
人は変わっていく生き物だ。そして、アルバムはそれを如実に映し出す物だ。
「この頃になると、すっかり今のけーくんだね」
「……何度見ても豹変ぶりが凄まじいで御座るな」
最後の方にある、卒業記念の集合写真。そこに映る恵太郎は朗らかに頬笑み、瞳には優しげな光を灯している。
とても、同一人物とは思えない豹変ぶりだ。
アルバムを捲っていた手が、止まった。
「あの頃のけーくんには、もう戻って欲しくないな……」
輝いていた眼には哀しみの光が灯り、その表情は暗く曇る。
「……主殿、それは違うで御座るよ」
トリスは孝也の目を見た。
「今度は、拙者らが止めるので御座るよ」
「たかや、とりす。どーしたの?」
ナ・アシブの中で眠っていたニトクリスが目を擦りながら言った。
しかし、孝也とトリスは優しく笑うだけで何も答えない。
人は変わらない。
それは過去。それは記憶。それは決意。
どれだけ足掻いても、どれだけ抗っても。
真新しいフローリングの床の上にあるのは、小さなテーブルと畳まれた布団だけ。
その他の物と言えば大抵はクローゼットの中に仕舞い込んである。
「うわぁ……懐かしいなぁ」
「何で御座るか、主殿」
クローゼットの中に頭を突っ込んでいた孝也が声を上げた。
その眼の先には紺色の表紙を持つやたら大きい本が握られていた。
「高校のアルバムだよ」
「ふむ、アルバムで御座るか」
それを引っ張り出し、息を吹きかける。クローゼットの中に置き去りにされていた分の埃が空を舞った。
「わぁ……懐かしい……」
「……しかし主殿、高校に在学しておったのはたかだか1,2年程前で御座ろう。それほど懐かしがるもので御座るか?」
畳んだ布団の上に座りアルバムを食い入るように見つめる孝也に、トリスはやや冷めた視線を投げかけた。
「そうじゃなくてさ……ほら、見てごらんよ」
アルバムのあるページを開き、何かを指さす孝也。トリスは訝しげにそれを覗き込む。
「……これは、恵太郎殿で御座るな? ふむ、何度見ても……」
「やっぱそう思うよね?」
トリスは眉を顰め、孝也は少し嬉しそうに笑った。
孝也の指さす先には恵太郎の姿があったのだ。ただし、高校入学直後の姿で。
「凄い人相悪いよねぇ」
「……確かに、今思えば今の恵太郎殿とあの時の恵太郎殿はまるで別人で御座るな」
そこに映る4年前の恵太郎は、端的にいえば柄が悪かった。
眼つきは鋭く、まるで眼に映る者全てが敵だと言わんばかりの眼光。
映る写真のその全てが不機嫌そうな顔をしている。
「アルバムって面白いよね」
「恵太郎殿が、の間違いでは御座らんか」
孝也は目を輝かせながらページを捲る。
一年正のページが終わり、二年生のページへ、そして三年生。
人は変わっていく生き物だ。そして、アルバムはそれを如実に映し出す物だ。
「この頃になると、すっかり今のけーくんだね」
「……何度見ても豹変ぶりが凄まじいで御座るな」
最後の方にある、卒業記念の集合写真。そこに映る恵太郎は朗らかに頬笑み、瞳には優しげな光を灯している。
とても、同一人物とは思えない豹変ぶりだ。
アルバムを捲っていた手が、止まった。
「あの頃のけーくんには、もう戻って欲しくないな……」
輝いていた眼には哀しみの光が灯り、その表情は暗く曇る。
「……主殿、それは違うで御座るよ」
トリスは孝也の目を見た。
「今度は、拙者らが止めるので御座るよ」
「たかや、とりす。どーしたの?」
ナ・アシブの中で眠っていたニトクリスが目を擦りながら言った。
しかし、孝也とトリスは優しく笑うだけで何も答えない。
人は変わらない。
それは過去。それは記憶。それは決意。
どれだけ足掻いても、どれだけ抗っても。
電子の上に聳える大地。
電子の上に流れる大気。
電子の上で嗤う、神姫。
鉄骨が剥き出しになったビル。コンクリートが剝がれた道路。点滅を繰り返す信号。
街を彷徨うゴミの数々。猫の子一匹見当たらない、廃墟。
「うふふぅ、やっぱこのフィールドが一番馴染むねぇ」
車など通らない交差点、その中央に立ち周囲を見渡す神姫が一体。
雪の様に白い髪、そこから飛び出る鋭い双角、そして狂気に歪む赤い瞳。
影の様に黒い身体。深紅色―――否。血色の装甲を身に纏う神姫。
背中にはGA4“チーグル”アームパーツ。脚部にはGA2“サバーカ”レッグパーツ。
両手に握るのは奇異な形状の大型ナイフ、ギロチンブーメラン。
チーグルで握るのは打月突部後部にバーニアを持つ大型鎚、ロケットハンマー。
それらを血色に染めた黒い恐怖。
赤の軍団の一、破壊大帝、紅い悪魔の異名を持つ神姫。
立ちはだかる者全てを、一切合切を打倒し、破壊し、終焉させ得る機械仕掛けの神の姫。
かつて、数十もの姉妹を屠った同胞殺しの神姫。
「久しぶりの得物の調子はどうだ―――」
カーネリアン。
それが、彼女の名だ。
電子の上に流れる大気。
電子の上で嗤う、神姫。
鉄骨が剥き出しになったビル。コンクリートが剝がれた道路。点滅を繰り返す信号。
街を彷徨うゴミの数々。猫の子一匹見当たらない、廃墟。
「うふふぅ、やっぱこのフィールドが一番馴染むねぇ」
車など通らない交差点、その中央に立ち周囲を見渡す神姫が一体。
雪の様に白い髪、そこから飛び出る鋭い双角、そして狂気に歪む赤い瞳。
影の様に黒い身体。深紅色―――否。血色の装甲を身に纏う神姫。
背中にはGA4“チーグル”アームパーツ。脚部にはGA2“サバーカ”レッグパーツ。
両手に握るのは奇異な形状の大型ナイフ、ギロチンブーメラン。
チーグルで握るのは打月突部後部にバーニアを持つ大型鎚、ロケットハンマー。
それらを血色に染めた黒い恐怖。
赤の軍団の一、破壊大帝、紅い悪魔の異名を持つ神姫。
立ちはだかる者全てを、一切合切を打倒し、破壊し、終焉させ得る機械仕掛けの神の姫。
かつて、数十もの姉妹を屠った同胞殺しの神姫。
「久しぶりの得物の調子はどうだ―――」
カーネリアン。
それが、彼女の名だ。
それを見た瞬間、裕也は反射的に拳をテーブルに叩き付けていた。
その影響で食堂のテーブルは大いに揺れ、何人分もの昼食が転倒しかけた。
テーブルに大きな歪みを残した裕也は、それに気付かず叫んでいた。
「恵太郎……あの馬鹿野郎が!!」
その怒声、それが液晶画面の向こう側にいる二人には届くはずが無い。
しかし、それでも裕也は叫ばずには居られなかった。
「……裕也、落ち着きなさい」
テーブルの対面に座っている裕子は、落ち着いた声で裕也を諭す。
「この子が怯えてるわ」
そう言って、唖然とする蒼蓮華を見た。
「……これが、落ち着いてる状況かよ」
拳を握りしめ、苦虫を噛み潰したような表情で唸った。
「だからと言って、怒鳴って解決する問題でもないでしょう?」
裕子は紅茶を口に含んだ。
しかし、その眼光は何時になく鋭い。
「マスター」
震える蒼蓮華を抱き締めていたアル・ヴェルが口を開いた。
「あれは、あの目は確かにカーネリアンの目です。ですが同時にナルの目でもあります」
その言葉に、裕子は答えず目を瞑った。
「姉貴」
それを催促ととった裕子は口を開く。
「もしかしたら、あの時より厄介な事になるかもしれないわね……」
そして、アル・ヴェルと蒼蓮華の頭を撫でた。
「だとしたら、、また俺が止めてやる……!」
裕子は口には出さなかったが、心の中では裕也が恵太郎に敵わないだろう事を感じていた。
恵太郎は、正気で、冷静で、正常だ。
裕子の中の何かが、そう告げていた。
「まずは、恵太郎君に話を聞かないと、ね」
少しぬるい紅茶を傾けた。
その影響で食堂のテーブルは大いに揺れ、何人分もの昼食が転倒しかけた。
テーブルに大きな歪みを残した裕也は、それに気付かず叫んでいた。
「恵太郎……あの馬鹿野郎が!!」
その怒声、それが液晶画面の向こう側にいる二人には届くはずが無い。
しかし、それでも裕也は叫ばずには居られなかった。
「……裕也、落ち着きなさい」
テーブルの対面に座っている裕子は、落ち着いた声で裕也を諭す。
「この子が怯えてるわ」
そう言って、唖然とする蒼蓮華を見た。
「……これが、落ち着いてる状況かよ」
拳を握りしめ、苦虫を噛み潰したような表情で唸った。
「だからと言って、怒鳴って解決する問題でもないでしょう?」
裕子は紅茶を口に含んだ。
しかし、その眼光は何時になく鋭い。
「マスター」
震える蒼蓮華を抱き締めていたアル・ヴェルが口を開いた。
「あれは、あの目は確かにカーネリアンの目です。ですが同時にナルの目でもあります」
その言葉に、裕子は答えず目を瞑った。
「姉貴」
それを催促ととった裕子は口を開く。
「もしかしたら、あの時より厄介な事になるかもしれないわね……」
そして、アル・ヴェルと蒼蓮華の頭を撫でた。
「だとしたら、、また俺が止めてやる……!」
裕子は口には出さなかったが、心の中では裕也が恵太郎に敵わないだろう事を感じていた。
恵太郎は、正気で、冷静で、正常だ。
裕子の中の何かが、そう告げていた。
「まずは、恵太郎君に話を聞かないと、ね」
少しぬるい紅茶を傾けた。