第6話 「世論」
なんだかんだと小難しく考えたって、結局のところはやっぱり『ハイテクオモチャ』なワケ。 昔の話なんざどうでもいいし、後々どういう評価をされようと今の俺には関係ない。
取りとめもなくそんな事を考えていると、ニュース番組からも『武装神姫』って単語が聞こえてきた。
ホントに際限ないなと苦笑いしながら目をやったが、生憎ソレはあんまり楽しい話題じゃなかった。
『違法改造・販売業者を摘発 高額な美少女ロボットに傾倒する若者たちの実像』
……要するに神姫の外見(そとみ)や中身をマニア向けにカスタムして売ってた連中がとっ捕まったって事らしい。
スタジオに設置された円状テーブルでは、良識派の看板背負ったオトシヨリが低俗なワカモノの行動を盛んに批判していた。
頭は寂しいのにヒゲだけもっさりしたオッサンが『縄文時代における遮光器型土偶を筆頭に世界中には女性を象った人形が数多く』と長そうなウンチクを披露し。
白衣で白髪のジーサンは『犯罪心理学的立場から見るに女性をイメージさせるものを所有したがるのは幼稚な独占欲の現れであり』とブツブツ。
さらに大ボリュームなパーマ頭に分厚い化粧のオバサンが『オモチャとはいえ『女を売る』こと自体がヒワイでサベツ的で低俗で下品でイヤラしくて』とヒステリーを起こしてる。
こういう答えの出ない論争に熱くなれるのは当人たちだけで、見てる方はどんどん冷めてくる。 実際、俺は『なんでココの連中は皆メガネかけてるんだろう』とか『おじいちゃんそんなエキサイトしたらアタるんじゃない?』とかをボーっと考えてた。……が、ルーシーは難しい顔をしてる。
「あんまりマトモに考えない方がいいぞ。 こういう連中は自分の信じてる事だけ喋ってるだけなんだから」
そう言ってみたが、小さく首を振った。
「違法に改造販売されたという神姫の事を考えていました」
……あんまり小難しい話って嫌いなんだけどなぁ、俺。
「基本的に私たちはオーナーに対する『拒否』や『意見』という権利を認められていません」
「……のワリにゃ俺の考えた名前を片ッ端から斬り捨ててくれたような気がすんだけど」
「反面、購入者であるオーナーには完全上位者としての権利が発生し、それによりオーナーの決定には絶対服従……それが不当な命令や違法な改造であっても、私たちに『No』という選択肢はないんです」
俺の呟いたヒトコトを黙殺して自分の話を続ける。
……お前ソレ絶対服従とかウソだろ。
「ですが、幸か不幸か……私たちに搭載されたAIには一通りの基本知識がプログラムされています」
「改造だろーが転売だろーが、ソレがどういう意味なのかは判るって事か」
「ハイ。 『所詮はオモチャ』……その通りであり、それ以上でもそれ以下でもないのですけれど」
小さく俯いたが、声の調子は変わらない。
「運命に逆らえず、そういう道を辿った神姫の事を考えると……少し、哀しくなります」
こういう時、俺はどう答えてやればいいんだろう。
あいにく女と付き合った事なんか学生時代にしかない俺の頭にはカッコいいセリフなんかちっとも出てこなくて、映画やドラマみたいにキメられない。
……だから。
「俺、そういうの嫌いでさ」
しょうがないんで、さっきのコメンテーターみたいに俺の言いたい事だけ言う事にした。
「だからお前も言うな」
よくあるだろ? マンガなんかで『ウンメイがどーのシュクメイがどーの』ってヤツ。 あーゆーの見ると冷めるんだ。 よくあるパターンだなーってさ。
「……オーナーは、強い方なんですね」
俺の言葉をどう脳内変換して受け取ったのか、ルーシーはなんだか嬉しそうに笑ってそんな事を言った。
……もしやお前、俺のこと『運命なんかに左右されてたまるか!俺の道は俺が切り開く! それが俺のジャスティス!』とか血管ふくらまして叫ぶ熱血硬派だと思ってる?
ゴメンそれすごい誤解。 別に俺カッコいいこと言ったつもりないよ? あんま美化すると現実見てから辛くなるぞ?
そう訂正しようと思ったが、コイツはもう「嬉しそう」って言うか「誇らしそう」に見えるくらいイイ笑顔になってたんで、結局言えず終いだった。
……しょーがないじゃん、せっかく笑ってんだもん。
暗い顔させたくねーな、って思ったんだもん。
なんか俺って自分で思ってるよりコイツに入れ込み始めてんのかな、と思った……そんな1日。