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えむえむえす ~My marriage story~

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「……なるほどねぇ」
 床の上にぺたんと座る小さな姿に、娘は軽く頷いてみせた。ミニスカートであぐらを掻いて、傍目にはあまりお行儀のいい格好ではない。
「はい。だから、峡次さんは悪くないんです。わたしが混乱しちゃって……」
 けれど、身長十五センチの少女がみっともないそれを咎める様子はなかった。ぴったりと閉じた太腿で裸の下半身を覆い、涙を浮かべる彼女にそんな余裕があるわけもない。
 小さな少女に優しく微笑んでおいて、娘は横下方に顔を向ける。
「ノリの言ってること、嘘じゃないでしょうね」
 そのいきなりの変貌に、ノリと呼ばれた小さな少女はひっと身をすくめ。
「この期に及んで嘘なんかつくかっ」
 少年の声が、乱暴に言い返す。
「……ノリに無理矢理言わせてもいませんわよね?」
 少年……峡次の声を封じるのは、三人目の少女の声。
 半裸のフォートブラッグに薄手のハンカチを纏わせてやりながら、凛と言い放つ。長い金髪を揺らす彼女もまた、ノリと同じ身長十五センチの存在だ。 
「だから、ンな余裕ねえ! って、痛い痛い痛い!」
 眼前五センチの床の上に座り込むノリと金髪の少女に言い返し掛けるが、途中からは悲痛な声に切り替わる。
 うつぶせで天上を向いた背中全体に、ギリギリと荷重が掛けられているのだ。踏まれているとか、押さえ付けられているとかいう生易しいものではない。
「つーか、千喜! テメ降りげはあっ!」
 ろ、までは言えなかった。
 峡次の背中に腰を下ろして全体重を掛けていた千喜が、その身を軽くよじらせたからだ。
「あー。ついでに言っとくけど、嘘ついたらすぐ分かるんだからね」
 降りる気配も見せぬまま、千喜はぽそりとそうひと言。
「……どういう意味だ?」
「あたし、心が読めるもん」
 唐突なその言葉には、さすがの峡次も現在の状況を忘れるしかなかった。


マイナスから始める初めての武装神姫

その4



 え……。
 あ……えっと。
 心が、読める?
 多分そのまんまの意味だよな。相手の考えてることが直で伝わってくるっていう。
 ってことはアレか。今の俺の考えも……。
「しっかり伝わってるわよ」
 マジすか……。
「どうしたの、二人とも……」
 俺が呆然としていると、開きっぱなしだった102号室の玄関を覗き込んでくる顔があった。
「あ、鳥小さーん。ちょっと聞いてよー」
 千喜の言葉に、鳥小さんは小さくため息。可愛らしいミュールを脱いで、俺の部屋に上がってくる。
 ああ、やっと助けが来てくれた。
 ありがとう、鳥小……さん?
「あれだけ大きな声で話してれば、イヤでも聞こえるわよ……」
 呆れたような鳥小さんが見ているのは、俺じゃなくてその上の方。
「っていうか、千喜ちゃん。もう言っちゃったの?」
「だって、あの流れだと言っちゃうでしょー?」
「まあ、いいか……」
 どうやら千喜の事は、鳥小さんも承知の上だったらしい。
 あれ。もしかしてそういう能力って、都会じゃそんなに珍しくないの? 俺が田舎者なだけ?
「鳥小さんも知ってたんですか? こいつのぁ痛たたたたたた!」
「こいつじゃない! あと、あたしの力は超レアだからね。みんな持ってるわけじゃないわよ」
 分かったからこれ以上関節を極めないでー!
「知ってるわよー」
「……あ! って事は、昼間の片付けの時も!」
「そだよ」
「道理で……」
 俺が説明する前に動いてた気がするし、その割には考え通りの所に片付けてたもんな。
 便利というか、おっかないというか、まあ凄い能力である事は間違いないわな。
「いいじゃない。役に立ったでしょ」
「それは否定しない」
 で、俺はいつ関節を緩めてもらえるんだろう。
「峡次クン。一応このこと、ここにいる人たちだけの内緒ね?」
「……了解っす」
 喋っても誰も信じてくれそうにないし。
「それで、何があったの。私は千喜ちゃんみたいに心読めないんだから、ちゃんと説明してね」


 説明を聞き終えた鳥小さんは、俺が作ったティッシュとテープの集合体を手に取って、小さくため息を一つ。
「なるほどねぇ……。まあ、これじゃすぐ破れちゃうわよね」
 ノリコが悲鳴を上げたのは、動いた瞬間に俺がでっち上げたティッシュの服が破れてしまったから。そりゃまあ胸元が露わになれば、悲鳴の一つも上げるだろう。
 慌てて止めようとしたんだけど、そこに千喜が容赦なく殴り込んできて……。
「身体に巻き付けただけで、動きの余裕が入ってないもの。神姫って結構力があるからね」
「なるほど……」
 簡易的に、ティッシュを巻き付けてテープで留めてただけだからな。武装ならともかく、服なんて作った事ないからそんな所にまで気が回らなかった。
「なら、神姫用の服がいるわね」
「とりあえず近くのショップに行ってこようと思うんですけど」
 コールセンターのお姉さんにも勧められたことだし、いつまでもティッシュ服ってワケにも、ハンカチを巻いておくわけにもいかない。
 近くのショップがどこにあるかは分かんないけど、まあネットで調べれば見つかるだろう。
「鳥小さんとこに行けば?」
「鳥小さんのバイト先って、神姫ショップだったんですか?」
 昨日の夕飯をご馳走になったとき、そんな話を聞いた気がする。バイト先で、神姫の服のデザインをさせてもらってるとか何とか。
 てっきり、専門のデザイン事務所みたいなもんだと思ってたんだけど……。
「まあ、似たようなもの……かな?」
 鳥小さんのニュアンスじゃ、微妙に違うらしい。少々首を傾げつつ、千喜の尻に敷かれたままの俺の前にしゃがみ込んでくる。
「明日はバイトの日だし、入学式が終わってからで良ければ一緒に行けるわよ」
 残念ながら、今の鳥小さんはジーンズ履き。目の前でしゃがまれても中は見えないけど……それでも細い脚と、ローズピンクのペディキュアは自然と目に入ってくる。
「秋葉原だからちょっと遠いけど、いいわよね?」
 視線を上にあげきれば、優しそうな顔がこちらを覗き込んでいた。
 う、なんかいい匂いまでしてきたし……。香水か、これって痛い痛い痛い痛い痛い痛い!
「何考えてるのよ! エッチ!」
「男の子ねえ……」
 締め上げられて悲鳴を上げる俺に、鳥小さんはくすくすと笑ってる。
 いや、笑うのはいいんですけど止めてくださいってば!
「ほら、千喜ちゃんもほどほどにしてあげて。……で、どうする? ちょっとならオマケしてあげられるだろうし、峡次クンのお小遣いで何とか成る程度の安い服も見繕えると思うけど」
 もちろん、俺としては拒む理由なんか無い。
「お願いします」
 まず考えるべきはノリの服装のことだ。まあ、安いのを見立ててくれるって言ってもデザイナーズブランドの神姫服だと、修理とどっちが安くなるか……って所だろうけど。
「ん。それじゃ、決まりね」
 ありがとうございます鳥小さん。
 後は……。
「峡次……」
 俺が次のことに考えを巡らせようとすると、その本題が声を掛けてきた。
「な、何だよ」
 つーか、考え読めるんなら俺から早く降りろ。
 あと空気も読め。
「なに、鳥小さんに体で払う展開じゃないのかー残念とか考えてるのよ。変態」
 っ!
「ちょっ! おまっ!」
 そんなこと考えてねえっ!
 てか、そんな事言われたらむしろ意識しちまうじゃねえかっ!
「峡次さん……」
 ノリコ、お前まで!
「あら。峡次クン、そっちの方が良かった?」
 俺の前にしゃがみこんだままの鳥小さんは、そう言ってニコニコ笑ってる。いや、そりゃあ、男としちゃあ鳥小さんみたいな美人に相手してもらえるなら……。
「鳥小さんもノらないで!」
 ……って、やば。
「お前もぜひとか考えるな! ばかーっ!」
 そして、鈍い音がして。
 俺の意識は、あっさりと暗転した。



 俺の前で、白いシャツがくるりと一回転。膝丈より少し短めのスカートがふわりと広がって。
 た、とかかとを下ろす動きでもうひと回り広がって、ゆっくりと元の形へと戻っていく。
「へぇ。似合うじゃんか」
「ホント……ですか? へへ」
 穏やかな朝の光の中、ノリは恥ずかしそうに笑ってる。
 あ。バイザーで顔隠しやがった。
「サイズに合うか心配だったけど……ちょうどいいみたいね」
 喜ぶノリの様子を見て、スーツ姿の鳥小さんもいつもの笑顔。
 今から専門部の入学式だってのに、ベルの服の中からわざわざノリに似合いそうな物を見繕ってきてくれたんだ。ありがたいとかそういうレベルじゃない。
「ベルも悪いね。服、借してもらっちゃって」
 鳥小さんの肩に座ってるベルも、鳥小さんとお揃いのスーツ姿。いつもの白鞘は背負ってないけど、代わりに細いフレームのメガネなんか掛けていたりする。
「いえ。困ったときは、ですよ」
 神姫の服なんか、俺じゃどうにもならないし。ホントに助かる。
「それじゃ、一時頃には終わると思うから。そのくらいに東条の校門で待っててね」
 ちなみに、東条学園の入学式は二日あって、初日は大学部と専門部の式だけが行われる。高等部と中等部の式は明日の入学式二日目だから、俺たち高等部は今日までがお休みだ。
「了解です」
 残念ながらこの服には、戦闘に耐えられるだけの強度が無いらしい。まあ借り物だし、ノリが普通に出掛けられる格好になっただけで、今の俺としちゃ十分すぎるほどだ。
「八時半か……。じゃ、行ってくるね」
「はい。気をつけて」
 そんなやり取りで、鳥小さんとベルを学校に送り出して。
「…………」
 スカートの裾を握って、黙ったままのノリに気が付いた。
「どした? ノリ」
 さっきまではあんなに喜んでたのに、どうしたんだ?
「その服、ホントはイヤだったか?」
 俺としては良く似合ってて、可愛いと思うんだけど。
 でも、気に入らないなら……鳥小さんには悪いけど、鳥小さんがいる時に言ってもらわないと困る。俺、神姫の服なんて持ってないんだから。
「千喜に何か貸してもらうか?」
 千喜も神姫を始めたばっかりらしいから、そんなには持ってないだろうけど。昨日のプシュケを見た感じ、俺みたく一枚も持ってない、なんて事はないだろう。
「いえ。この服は……すごく、可愛いです」
「なら何で?」
 表情が見えないから、機嫌が悪いのか恥ずかしがってるだけなのか、良く分からない。
「……何でもない、です」
 静かに答えるノリは、バイザーを上げないまま。



 朝ご飯を食べてる間も、ノリは黙ったままだった。
 昨日の晩も静かだったから、マオチャオやストラーフみたいに騒がしいタイプじゃないんだろうけど……。
「峡次ー! 出掛けるよー!」
 と思ってたら、なんか騒がしいのが扉を叩いてる。
 あ。こじ開けやがった。
「……人の部屋に勝手に入ってくんなって、言っただろ」
 しかも力まで使って。
 サムターン回すとか、何考えてんだ。
「鳥小さんのお店に行くんでしょ? あたしも行きたいから、ついでに学校まで案内してあげる」
 あまりに一方的な言い分に、俺は目覚まし時計を手に取って千喜の前に突き出してやる。
 指した時間は、まだ九時だ。
「入学式が終わるまで、随分ある気がするんだが」
 鳥小さんとの待ち合わせの時間は、昼の一時。ここから学園まで、ゆっくり歩いても十五分かからないらしい。
 もちろん、今出掛けても時間を持て余すだけ。
「ついでだし、このあたりも案内してあげるわよ」
 茶碗を持ったままの俺の手を掴み上げ、そのまま強引に引き上げる。ホントに人の話聞かないなコイツ。
「プシュケー!」
 良く見れば、千喜の頭にはちゃんとプシュケも乗っていた。でも今日は何も言う気がないのか、千喜の傍若無人に見て見ぬ振りを貫いている。
「案内してあげるっていうんだから、付き合いなさいよ! ほら、ノリも!」
 ちょっと出掛けるだけにしては大きな手提げカバンをぶんぶか振り回し、って、危ない危ない! 狭い部屋でそんなもん振り回すんじゃねえよ!
「大丈夫だってば。ほら、行くよ!」
「え、あ、はぁ……」
 引きずられる俺を追い掛けて、ノリもバイザーを閉じたまま走り出す。まあ、大人しい子みたいだし、こんな暴走機関車止められるわけないか。
 というか、コイツを止められる奴はいないのか、このアパートに。
「……倉太くらいかなぁ?」
 助けて倉太さん!
 会ったこと無いけど!



 それから、小一時間ほどコンビニやらスーパーやら本屋やらに引きずり回され……もとい、案内してもらって。
「……おお」
 俺は両手に大量の荷物を提げたまま、看板を見上げてそうひと言。ちなみに荷物は俺の物じゃない。全部、千喜の買いものだ。
 まあ、それはいい。良くないけど。
「あたしがお世話になってるお店だよ。駅前の神姫センターより品揃え良いし、何より店長さんがすごく詳しいしね」
 そんなわけで、最後に千喜が連れてきてくれたのは神姫ショップだった。
「あら、千喜ちゃん。いらっしゃい」
 自動ドアを抜ければ、迎えてくれたのは若い女の人。自分で常連とか言う辺りどうかと思ったけど、千喜はしっかり顔を覚えてもらっているらしい。
 なるほど、それなら常連……なんだろう。多分。
 お店の人と話している千喜を放っておいて、俺は店内をぐるりと見回してみる。
「……無茶苦茶だな、ここ」
 バトルスペースの隅、休憩所を兼ねたカウンターの一角に陣取って。俺のこの店に対する感想は、そのひと言だった。
「いいお店でしょ」
 それは否定しない。する気もない。
「いい、どころじゃないぞ」
 公式装備から消耗品、オリジナル装備に至るまで、ここの品揃えは正直異様だった。痒いところに手が届くマニアックなラインナップといえば聞こえはいいけど、それを実現するためにどれだけの力を注いだのか……想像すらできない。
 まあ、神姫オーナーとして有り難いことは間違いないから、ちょくちょく来ることになりそうだ。
「感謝しなさいよ、紹介してあげたんだから」
 何を偉そうに。
 二階のバトル筐体も充実していて、平日の午前中だってのに半分ほどの台は埋まっていたりする。
 さすが大都会。ショップひとつ取っても地方とはワケが違うぜ。
「そうだ。一戦、やっていっていい?」
「千喜!」
 テーブルの上で紅茶を飲んでいた……神姫サイズの紅茶を売る自販機も初めて見た……プシュケがたしなめるけど、それを聞くタマじゃない。
「いいじゃない。ちゃんと装備も持ってきてるんだし。いい?」
 そう言って、例の大きめの手提げカバンのフタを開ける千喜。
 学生カバンほどの大きさのそれは、プラスチックのパーティションで区切られていて、ジルダリアの装備が納められていた。デザインが普通のカバンみたいだったから気が付かなかったけど、どうやら神姫用のキャリングケースだったらしい。
 何だよ。最初っから戦う気全開なんじゃねえか。
「おう。せいぜい負けてこい」
 それに俺がゴネても聞かないだろ。
 軽く手を振って、追い払う仕草。
「何よぅ!」
 そう言いながらもプシュケを連れて、千喜はバトル筐体へ。テーブルをひとつ占領して楽しそうに装備を取り出してる辺り、バトルスタートまではもう少しかかりそうだ。
 さて。
「……」
 気になるのは、朝からバイザーを上げる気配のないウチのお嬢様のこと。単に人見知りするだけならいいけど、何かに怒ってるんだったら早めに謝っとかないと。
 けど、何て言おう……。
 そもそも、何でへそ曲げてんだ?
 神姫の心が読める千喜に頼めば一発解決なんだろうけど、ノリは俺から離れようとしないし、そんな事をこっそりするのも何か違う気がする。
「ん? 君達はバトルしないのかい?」
 考えがまとまらないまま。バトルの様子が映し出されるプラズマディスプレイをじっと見つめている(ように見える)ノリを眺めていると、意識の外からふと声を掛けられた。
 俺の兄貴よりは少し下くらいの、男の人だ。店のロゴ入りエプロンを着てるって事は……。
 そうだ。
「あの、バトルも考えてるんですけど……コイツ、ちょっと見てもらうわけにはいきませんか?」
「どこか悪いの?」
「はい。素体の表面がパターン素体に切り替わらない不具合が出てて……。中古品だったから、初期不良対応も出来ないそうで……。修理費の見積もりだけとかでも、いいですか?」
 自分の店で買ったものでもないのに、こんなお願いするのはちょっと気が引けたけど……。
 優しそうな人だし、自分の店で買ったもの以外の対応が出来ないって言われても、それならそれで当たり前の話だ。
「それは構わないけど……今日は、やめといた方が良くないかな?」
 店員さんが苦笑していたのは、差しだそうとした手に、小さな身体が必死でしがみ付いていたから。
「あ……」
 小さな手からの力は、それほど強いものじゃない。
 でも、そこから伝わる感情は……さすがの俺でも、分かる。
「ま、気が向いたらおいで。俺がいないときでも、誰かに言えば聞いてくれるから」
「ありがとうございます!」
 その時、ディスプレイから警告音が鳴りだした。戦闘開始のアラートだ。
「始まったみたいだね」
 映っているのは、ジルダリアの標準武装に身を包んだプシュケの姿。
「相手はハーモニーグレイスか……」
 プシュケの相手はシスター型。同じくらいのランクの相手らしく、装備はやはりデフォルトのものだ。
 フル装備モデルのジルダリアに対して、軽装仕様のライトアーマーだけど、装備の数が少ないだけで直接の強さには直結しない。中距離が得意な性質を生かしながら、少し間合を取って戦っている。
「二人とも、なかなかやるなぁ」
 中距離から近距離が強いジルダリアだから、距離を詰めて戦いたいプシュケだけど、ハーモニーグレイスは大型のランチャーと近接の武器を駆使して上手く距離を稼いでる。武器が少ない分、攻撃パターンが狭まるかと思いきや、多機能武装の多いライトアーマーの性質を生かして上手く戦っている。
 唸りをあげるマイクの衝撃波を、吹き付けられた燭台の炎を、プシュケの片手剣が必死で受け流す。
「千喜ー。速攻で行かないと、ホントに負けるぞー」
 プシュケ達ジルダリアの真価は、プログラムを展開してハイパーモードを起動させてから。
 相手もそれを理解してるんだろう。最初から的確な所でランチャーを当てに来てるあたり、持久戦に持ち込む気はないように見える。
「何言ってるのよ! プシュケが負けるわけないじゃない。プシュケ、ハイパーモード!」
 プログラムの展開が終わったんだろう。千喜の声に合わせ、プシュケの背部ユニットに組み込まれた小さな舵が大きな翼にその姿を変えていく。
 でも、時既に遅し。
「……あ」
 ハーモニーグレイスが振りかぶるのは、巨大な十字架型ランチャーに、マイクの柄を繋げて作り上げた巨大な刃。
 力任せに下されたそれが、目の前のジルダリアに吸い込まれ……。



「負けちゃったぁ。残念」
 筐体から戻ってきた千喜は、プシュケと一緒にけらけらと笑ってる。
 負けたってのに、元気だな。
「ジルダリアはやっぱ速攻の相手だと厳しいな」
 ライトアーマーは武装点数は少ない代わりに多機能武装が多く、ライトという割に戦術次第で大化けするテクニカルなタイプが多い。性格そのままに正面からの戦いが大好きらしい千喜からすれば、相性はあまり良くはないだろう。
「プシュケはそういうセコい事はしないのよ」
「ですわ。戦いはエレガントでないと」
「エレガント、ねぇ……」
 それで負けてりゃ世話無いけどな。
「まあ、ノリなら三十秒だな」
「ほへっ!?」
 別の試合が始まったプラズマディスプレイを眺めていた(ように見える)ノリの頭を、軽く撫でてやる。
「……言うじゃない」
「そりゃ、俺の神姫だからな。それくらいは」
 もちろん、それを可能にする装備や作戦を考えるのは俺の仕事。けど、フォートブラッグの特化型の火力を駆使すれば、そのくらいの芸当は不可能じゃないはずだ。
 次に来るときは、ちゃんと装備も持ってこよう。
「…………」
 あと、恥ずかしがってるんだろうけど、バイザーはちゃんと上げるようにも言っとこう。せっかく可愛い顔してるんだから、勿体ない。
「じゃ、そろそろ行こっか。荷物置きに家に寄ったら、ちょうど良い時間になると思うよ」
 時計を見れば、そろそろお昼。東条学園とショップのある商店街は、巴荘を挟んで反対の位置にあるし、確かにちょうどいいくらいの時間になるだろう。
 それを見越しての寄り道やバトル……ってワケじゃ絶対ないと思うけど。
「ああ。それじゃ、行くぞ。ノリ」
 テーブルの上に手を伸ばし、座っていたノリコを引き上げる。
「……はい」
 答えるノリコのバイザーは、まだ上がらないまま。





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