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「ドキハウBirth その1」(2007/06/04 (月) 20:52:58) の最新版変更点
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かたん。かたたん。
規則正しい揺れの中。時折重なるのは、レールの継ぎ目を走り抜ける時の軽い縦の揺れ。
かたん。かたたん。
けれどそれすらも、長い譜面に起こしてみれば、規則正しいのリズムの中に。
単調すぎる旋律と、窓から差し込む柔らかな春の陽差しは、張り詰めた神経を緩ませ、眠りの中に誘うには十分すぎるもので。
かたん。かたたん。
軽く腕を組んだまま、頭の動きは電車の揺れに緩やかに連動。瞳を閉じ、小さく開いた唇からは、列車のリズムよりもさらにスローテンポな寝息が漏れている。
かたん。かたたん。
その気怠くも穏やかなリズムの中に響くのは、鼻にかかった車掌の声だ。
「次はー。とうじょうー。とうじょうー」
スピーカーから流れる声も、慣れたもの。車内に良く通りながらも、単調で穏やかなリズムを崩す気配もない。
かたん。かたたん。
「…………」
そんな小さな世界の中で。耳をくすぐるのは、囁くような少女の声だ。
「起きて……静……」
合成音とは思えない、鈴を転がすような声。
耳元に流れるその声に、眠りの中に沈んでいた意識が、ゆっくりと身をもたげてくる。
「ほら、次で降りな……喜さん……」
陽気と眠気の束縛を軽い身じろぎで振り払い、瞳を開けば、そこには……。
----
**マイナスから始める初めての武装神姫
**その1
----
そこにいたのは、小さな女の子だった。
小柄な女の子、という意味じゃない。
文字通り、手のひらに乗るサイズの女の子が、隣に座っているお姉さんの肩に乗っていたんだ。
「……神姫?」
寝ぼけた頭で呟けたのは、そんな言葉。
「あ、すみません。起こしちゃいましたか?」
俺の言葉に十五センチの人型機械は、人間そっくりの動きで困ったように首を傾げてみせる。
2037年の現在、神姫なんて珍しくもないというけど……それは神姫オーナー達の基準だと思う。俺みたいに神姫を持ってない者からすれば、神姫はやっぱり珍しいし、神姫と話す機会は正直貴重だったりする。
「いや、いいけど……」
俺は頭を軽く振り、まとわりついた眠気の残りを振り払う。
どうやらこの陽気で、居眠りをしていたらしかった。どこを走っているのか確かめようと、窓の外を確かめるけど……。
外に見えるのは、見たこともないビルの群れ。
(どこだ、ここ)
よく考えれば、初めての場所で土地勘なんかあるわけがない。まだ寝ぼけてるらしいな、俺。
「どしたの? マスターさん、起きないの?」
ま、寝過ごしたかどうかは、車内アナウンスが流れれば分かるだろう。それよりも気になるのは、目の前の神姫のほう。
「そうなんですよ……」
小さな彼女は、主の肩ではぁとため息。
大きめの頭部に、短い黒髪。他の神姫よりも少しだけ小柄な体。服を着せてもらってるから細かい所は分からないけど、犬型神姫のハウリンというやつだ。
「起きてくださいよ、静香ぁ。次の駅で降りて、千喜さんと遊ぶんでしょ?」
けど、ハウリンの彼女がどれだけ耳元で声を掛けても、彼女のマスター……静香さんというらしい……が目覚める気配はない。
相当困ってるな……。
「もしもーし。もうそろそろ、駅に着きますよー?」
女の人に勝手に触るのは何となく気が引けたけど、俺は静香さんの肩を軽く揺すってみる。
「あ……ン……」
うつむいていた長い黒髪が、鼻にかかった声を絡ませてゆらりと揺れた。
「んぅ……ここ、どこぉ……?」
細い指で目元を軽くこすりながら、ゆっくりと顔を上げる。
……げ。
なんか、ものすごい美人なんですけど。
どうしよう。悪いことしちゃっただろうか。
「次、東条ですよ。これから千喜さんと遊ぶんでしょ、静香。早く起きてください」
けど、そんな美人って事に遠慮することもなく、ハウリンは冷静な言葉を投げ掛けている。
「あー。ありがと、ココ」
そう言いながら、静香さんはふわ、と軽いあくびをひとつ。
へぇ。このハウリンの名前、ココって言うの……
「お礼ならこのかたに言ってください。静香、私が起こしても起きないんですから」
「へっ!?」
っていやココさん! そこで俺に振りますかっ!
「あぁ。ありがとね、キミ。おかげで寝過ごさずに済んだわ」
どう見ても挙動不審な俺を変な目で見ることもなく、静香さんは柔らかく笑いかけてくれた。まだ眠気が抜けきってないのか、とろんと潤んだ瞳なんか、すげえ色っぽい……。
「い、いえ……俺も、ここで降りる予定でしたから」
そんな笑顔を突き付けられて、俺はそう答えるのが精一杯。
う、嘘じゃないぞ。ホントだぞ。
そんな気の利いた嘘がサラリとつける余裕なんか、あるわけないだろ。
「そっか。なら良かった」
にっこりと笑う静香さんに、それ以上の洒落たトークが出来るはずもなく。
「次はー。とうじょうー。とうじょうー。お降りの際は、お忘れ物の……」
最初からクライマックスどころかスーパーピンチな俺を救ってくれたのは、車内アナウンスの間の抜けた鼻声だった。
鉄筋の駅舎と、関東の駅にしては小さめのロータリー。駅前の広場には、待ち合わせらしい人達が幾人かたむろしている。
そして俺の目の前にあるのは、五角形と六角形を組み合わせたような、それ以上は説明しがたい奇怪なオブジェ。まあ、この手の駅前芸術作品がワケ分かんないのは、今に始まった事じゃないから……いいっちゃあいいんだが。
「ここが……東条」
私鉄某線、東条駅。
それが、俺と静香さんとココが降りた駅の名前だった。
「おかげで助かったわ。ありがとね……」
そう言いかけて、静香さんが言葉を止める。
ああ、そっか。
「あ。峡次です。武井峡次」
静香さんの名前はココとのやり取りで分かってたけど、俺の名前はまだ言ってなかったっけ。
「ありがとね、峡次くん」
そう言って、静香さんはまた笑顔。
それにしても良く笑う人だ。笑顔の似合う美人って、いいなぁ。ホントに。
「そうだ。ちょっと聞きたいんですけど……いいですか?」
「んー? 携帯とメアド?」
いやいやいや。
そんな度胸ないですって。
「えっと、ここってどこか、分かります?」
俺は苦笑して、ポケットから一枚のメモを取り出してみせる。
「巴荘……?」
「引っ越し先なんですけど……」
家を出るとき、父さんから渡された手書きの地図だ。汚い字の駅名が『東条駅』って所と、目指すべき場所が『巴荘』って所までは何とか読み取れたんだけど。
そこに至るまでの道筋が大雑把すぎて、全く分からない。
「分かる? ココ」
どうやら静香さんにも分からないらしい。地図をちょっと持ち上げて、肩に腰掛けたココにも見えるようにしてくれてるけど。
「いえ……。これだけの情報では、ちょっと。せいぜい、駅の南側という事くらいしか」
ココの答えも、芳しくない。
駅に着けば何とかなるかなと思った俺より、ちょっとだけマシな程度だ。
「GPSか地図ソフト、入れてなかったっけ……?」
「入れてもらった覚え無いんですけど」
そういえば神姫って、その手の追加ソフトが入れられるんだっけ。確かに地図があれば、こういうとき便利だよなぁ。
「あー。入れてたの、姫だっけ?」
ぽつりと静香さんがそう呟いた瞬間、冷静だったココの様子が一変した。
「ちょっ! 私に内緒で花姫にそんなコトしたんですかっ!? まさか、今バッグの中で寝てるのも……っ!」
『花姫』ってのも、静香さんの神姫なんだろう。その子に地図ソフトを入れて、ココに入れてないって事は、まあ……そういう事らしい。
ココは姫が静香さんにひいきされたから怒ってるんだろうか。それにしては、この怒り方は何となく違う感じもする。
何だろう。どこが違うかと聞かれたら、ちょっと答えようがない感じなんだけど。
「してないわよ、冗談だって。もう、姫のことになると本気で怒るんだからこのコは……」
「……もぅ」
ココはそれっきり口をつぐんだまま、ぷいとそっぽを向いてしまった。ハウリンは沈着冷静って聞いてたけど、こういう性格の子もいるんだな。
「あ、えっと……」
ようやく俺の存在を思い出してくれたのか、静香さんはこっちに向き直ってくれる。
「あー。ごめんね、役に立てなくて」
困り顔の静香さんからメモを受け取って、ポケットへ。汚い地図だけど、今の俺のただ一つの命綱だ。
これがなくなったら、今日はホントに路頭に迷うハメになる。
「いえ、交番かどこかで聞きますから、大丈夫です」
まずはその交番から探さないといけないんだけどな。
「そっか。じゃ、早く見つかるように応援しとくね」
「ありがとうございます」
俺は手を振って、静香さんとココと別れた。
----
「この、バカマスター!」
帽子の中から顔を出し、最初に私が叫んだのは罵りの言葉。
大きく振られる左手に巻かれた腕時計は、二時五十五分を指している。ここから駅前まで本気で走っても、十分はかかるっていうのに……。
「静香さんとの待ち合わせが何時か、分かってますの? 三時ですのよ!」
いくら引っ越しの片付けで疲れたからって、こんな時間まで寝てなくても……。
「何よ! プシュケだって、二時には起こしてって言ったのに全然起こしてくれなかったじゃない!」
は? 私に丸投げですの!?
「神姫に頼るようじゃ、いつまで経っても三流ですわよ! 三流マスター!」
そう言って、揺れがさらに激しくなった髪の毛にしがみつく。
あら。この速さなら、三時に間に合いそうですわね。
「ふん。マスターのフォローをするのが一流の神姫でしょ? だから、プシュケだっていつまで経っても三流なのよ!」
……は?
何か今、聞き捨てならないセリフが聞こえたような。
「三流神姫!」
また言った!
「なぁんですってぇ!」
この高貴な私に向かって、何たる侮辱!
「何よぅ、やる気!?」
走る速さを緩めないまま、マスターは頭の角度を少しだけ急に。頭の上の私を睨もうとしてるようだけれど……ちょっと、いくら何でも、前を見て走りなさいな。
って、曲がり角から人がっ!
「マスター、危な……っ!」
私がそう言いきるより迅かったのは、マスターの動き。
「とうっ!」
考えるよりも先に体が動いたらしい。
全速から何の迷いもなくアスファルトを踏み切り、わずか斜め前、コンクリートの壁に向けて大きく跳躍。壁にぶつかる寸前、そのまま壁を蹴りつけて。三角飛びの要領で相手の頭上を一気に跳び越えようとして……。
「し、白……」
軌道変更。
相手の顔面に打ち込まれる、揃えられた膝頭。
弾道軌道を空中で強引にねじ曲げて、本能のままに飛び膝蹴りを叩き落とす。
「忘れとけっ!」
ごぎ、という鈍い音が響いて。
どぉん、という思ったより大きな音が続いた。
「……マスター」
その傍ら、アスファルトに降り立つスニーカーの着地音がしたけれど。他の二つに比べれば、それは限りなく無音に等しい。
「通りすがりの一般人に膝ぶち込む前に、スパッツくらい穿きなさいな」
突然の暴挙に、私はため息を一つ。
「……あれ蒸れるから嫌いなのよね」
そういう問題じゃないでしょう、マイマスター。
----
その瞬間、俺は何が起こったのか分からなかった。
まず目の前に大きな影が広がって、次に何だか白い物が映り込んで。
最後に来たのは、顔面直撃の鈍い衝撃。
「……っ痛ぅ……」
ぐらぐらする視界を目を閉じて遮って、まずは背中の感触を確かめる。
アスファルトだ。うん。
倒れてるけど、手も足も動く。音も聞こえるし、鼻も……たぶん大丈夫。とりあえず、五体は無事らしい。
自転車にでもぶつかったんだろうか……?
「大丈夫?」
掛けられた声にうっすら目を開けてみると、揺れる視界の中、小さな女の子の顔が見えた。
小さいって言っても今度は神姫じゃない。小柄な、人間の女の子だ。
「あ、ああ……」
伸ばされた手を取って、倒れていた身を引き上げる。
何が起こったのかさっぱり分からないけど、この子なら現場を見てたかもしれないな。
「……俺、どうしたんだ?」
見れば、女の子の頭にはジルダリア型の神姫が乗っていた。さっきの静香さんとココもだけど、今日は神姫オーナーに縁のある日だな。
「さ、さあ?」
手を離し、女の子は苦笑い。
まあ、見てないってんなら、いいか。転んだとかだったら、あんまり格好良くないし。
「なんか、なんか顔が真空飛び膝蹴り食らったみたいに痛いんだが……」
ビデオで見ただけだから、ホントに食らったことはないけど。変に腫れてなきゃいいんだが。
「あそこに石がありますわよ。あれにつまずいたのでは?」
そんな事を考えてると、女の子の頭に乗っていたジルダリアがすいと右手を持ち上げた。
確かに、彼女の指差した方には、ちょっと大きめの石がある。
「あー。そうかも。ボーっとしてたからなぁ……」
つまずいて仰向けに転ぶってのも想像しづらいけど……何にせよカッコ悪いなぁ、もう。
「大丈夫? 近所に公園あるから、冷やす?」
女の子は俺の背中に付いた砂を払ってくれてる。でも、これ以上一緒にいても格好悪さが先に立つだけだ。
「大丈夫だって。……そうだ」
この辺りに住んでる人達なら、巴荘の場所も知ってるかも。これ以上話してるのも恥ずかしさ的に限界だし、それだけ聞いてさっさと行こう。
俺はポケットからメモを取り出して……。
「ああ。巴荘なら、この先の角をあっちに曲がってすぐだけど」
……して。
道の向こうには交差点があって、女の子の指先は右に曲がってる。
「……あ、悪い。助かる」
……。
あれ?
「それじゃあね!」
そう言い残して、女の子は走り出す。よっぽど急ぎだったのか、小さな背中はあっという間に見えなくなって。
「……いや、俺、巴荘の名前、言ってないよな?」
とはいえ、目の前にいない女の子にその事を確かめる術はない。
行き先の手掛かりは手に入ったことだし、とりあえず俺もその場から歩き出す。
----
揺れるマスターの頭の上で、私は小さくため息を吐いた。
「マスター」
「何?」
叩き出すペースは、今までよりもまだ速い。さっきの殿方の所で、随分と時間を取ってしまいましたものね。
でも、焦っていたのは分かるけど、巴荘のことは……せめて聞かれてから答えなさいな。
「あれ? やっちゃった?」
今度は視線を前から逸らさずに、苦笑い。
「あの殿方、ものすごいアホ面してましたわよ」
「いや、そこまでヒドい顔じゃないと思ったけど」
まあ、それこそどうでもいいですわ。
そう思った瞬間、マスターは塀の上へひょいと飛び上がった。家と家の間に建てられた細いブロック塀の上、ほとんどスピードを落とさずに走り出す。
「プシュケ! 近道するよっ!」
「ルートに入ってから言わないでくださる!?」
というかマオチャオですか貴女は!
いくら急いでいるからとは言え、ちゃんと人間の通る道をお使いなさいな!
「だって、静香さんとココ、もう駅前に着いてるみたいだし」
む……。
「……なら、仕方ないですわね」
昨日、駅前に買い物に行く途中で見つけたばかりの道だ。ここを通れば、確かに数分ぶんのショートカットになる。さっきのタイムロス分くらいは、埋めることが出来るだろう。
どちらにしても、遅刻は確定だろうけど。
「ああ、そうだ、マスター。どうでもいいのだけれど」
「何? 手短にしてね」
ブロック塀を駆け抜けるマスターの頭の上。私はぽつりとそれを口にした。
「巴荘、さっき指差したほうと、逆ですわよ」
----
かあかあと、カラスが鳴いている。
夕焼け色に染まった看板を確かめて、俺はため息を一つ。
「……着いた」
築三十年越えの鉄筋二階建て。部屋は各階に二部屋ずつ。父さんからボロいとは聞いてたけど……確かにキレイな建物じゃあなかった。
まあ、いいや。家賃を出して貰う身で、文句なんか言えるわけがない。
そんな事を考えていると、二階のドアが開いて、中から女の人が出て来た。
「すみませーん。巴荘二号館って、ここですか?」
「ん? そうですけど……」
まだ大学生くらいの女の人だ。いきなり声を掛けたからか、ちょっと警戒してるみたいだ。
「えっと、俺、今日からここでお世話になる、武井峡次って言います。よろしくお願いします」
そこまで言って頭を下げると、女の人もようやく納得したらしい。
「……あぁ。大家さんから聞いてるわ。よろしくねぇ」
何だかおっとりした感じの、優しそうな人だ。ご近所さんが変な人でなくて良かったよ。
「聞いてるって……あの。ここの管理人さん、ですか?」
それにしては若い気がするけど。大家さんの子供が、管理を任されてるって所だろうか。
「違うわよぉ」
俺の勘違いにくすくすと笑いながら、女の人は外付けの階段を下りてくる。
そこで気が付いたけど、彼女の肩にもサイフォスタイプの神姫が静かに腰を下ろしていた。ホント、今日は神姫オーナーに縁のある日だな。
「それじゃ、改めて。私は202号室の……」
女の人がそう言いかけたところで、後ろから元気の良い声が飛んできた。
「鳥小さん、ただいまー!」
「あら、おかえりなさい。千喜ちゃん」
千喜ちゃんとやらに笑いかける女の人に、俺も釣られて振り向けば。
そこにいるのは、頭にジルダリアを乗せた女の子。
「あーっ! あんた!」
間違いない! さっき俺が転んだときにいた、あの女の子だ!
「え? 嘘、今頃着いたの!?」
うわそんな事言うかっ!
「着いたのじゃねえ! 教えてくれた道、全然逆だったぜ!」
「え……そうだっけ?」
そうだっけじゃない。
彼女の言うとおりに右に曲がったら、行けども行けども巴荘なんて一向に見えやしなかった。道を聞こうにも平日の昼間に人なんかいるわけもなく、勘を頼りに進んでみたら、辿り着けたのはこんな時間。
正直日が沈むまでに着けたのは、奇跡に等しいと思う。
「そうだったんだよ!」
ちなみにその十字路を左に曲がれば、巴荘には五分で着いた。
「バタバタしてたし、良く覚えてないけど……」
「俺、どんだけ迷ったと思ってるんだよ……」
いや、まあ、着いたからいいっちゃあ良いんだけど。そこまで小さな男じゃないぜ、俺は。
「まあ、無事着いたんだし、細かいことは気にしない方向で」
「そんな問題じゃねえ!」
かといって、相手にそうフォローされて流せるほど、人間も出来てないんだけどな。
[[トップ>http://www19.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/118.html]]/[[次へ>http://www19.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/999.html]]
かたん。かたたん。
規則正しい揺れの中。時折重なるのは、レールの継ぎ目を走り抜ける時の軽い縦の揺れ。
かたん。かたたん。
けれどそれすらも、長い譜面に起こしてみれば、規則正しいのリズムの中に。
単調すぎる旋律と、窓から差し込む柔らかな春の陽差しは、張り詰めた神経を緩ませ、眠りの中に誘うには十分すぎるもので。
かたん。かたたん。
軽く腕を組んだまま、頭の動きは電車の揺れに緩やかに連動。瞳を閉じ、小さく開いた唇からは、列車のリズムよりもさらにスローテンポな寝息が漏れている。
かたん。かたたん。
その気怠くも穏やかなリズムの中に響くのは、鼻にかかった車掌の声だ。
「次はー。とうじょうー。とうじょうー」
スピーカーから流れる声も、慣れたもの。車内に良く通りながらも、単調で穏やかなリズムを崩す気配もない。
かたん。かたたん。
「…………」
そんな小さな世界の中で。耳をくすぐるのは、囁くような少女の声だ。
「起きて……静……」
合成音とは思えない、鈴を転がすような声。
耳元に流れるその声に、眠りの中に沈んでいた意識が、ゆっくりと身をもたげてくる。
「ほら、次で降りな……喜さん……」
陽気と眠気の束縛を軽い身じろぎで振り払い、瞳を開けば、そこには……。
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**マイナスから始める初めての武装神姫
**その1
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そこにいたのは、小さな女の子だった。
小柄な女の子、という意味じゃない。
文字通り、手のひらに乗るサイズの女の子が、隣に座っているお姉さんの肩に乗っていたんだ。
「……神姫?」
寝ぼけた頭で呟けたのは、そんな言葉。
「あ、すみません。起こしちゃいましたか?」
俺の言葉に十五センチの人型機械は、人間そっくりの動きで困ったように首を傾げてみせる。
2037年の現在、神姫なんて珍しくもないというけど……それは神姫オーナー達の基準だと思う。俺みたいに神姫を持ってない者からすれば、神姫はやっぱり珍しいし、神姫と話す機会は正直貴重だったりする。
「いや、いいけど……」
俺は頭を軽く振り、まとわりついた眠気の残りを振り払う。
どうやらこの陽気で、居眠りをしていたらしかった。どこを走っているのか確かめようと、窓の外を確かめるけど……。
外に見えるのは、見たこともないビルの群れ。
(どこだ、ここ)
よく考えれば、初めての場所で土地勘なんかあるわけがない。まだ寝ぼけてるらしいな、俺。
「どしたの? マスターさん、起きないの?」
ま、寝過ごしたかどうかは、車内アナウンスが流れれば分かるだろう。それよりも気になるのは、目の前の神姫のほう。
「そうなんですよ……」
小さな彼女は、主の肩ではぁとため息。
大きめの頭部に、短い黒髪。他の神姫よりも少しだけ小柄な体。服を着せてもらってるから細かい所は分からないけど、犬型神姫のハウリンというやつだ。
「起きてくださいよ、静香ぁ。次の駅で降りて、千喜さんと遊ぶんでしょ?」
けど、ハウリンの彼女がどれだけ耳元で声を掛けても、彼女のマスター……静香さんというらしい……が目覚める気配はない。
相当困ってるな……。
「もしもーし。もうそろそろ、駅に着きますよー?」
女の人に勝手に触るのは何となく気が引けたけど、俺は静香さんの肩を軽く揺すってみる。
「あ……ン……」
うつむいていた長い黒髪が、鼻にかかった声を絡ませてゆらりと揺れた。
「んぅ……ここ、どこぉ……?」
細い指で目元を軽くこすりながら、ゆっくりと顔を上げる。
……げ。
なんか、ものすごい美人なんですけど。
どうしよう。悪いことしちゃっただろうか。
「次、東条ですよ。これから千喜さんと遊ぶんでしょ、静香。早く起きてください」
けど、そんな美人って事に遠慮することもなく、ハウリンは冷静な言葉を投げ掛けている。
「あー。ありがと、ココ」
そう言いながら、静香さんはふわ、と軽いあくびをひとつ。
へぇ。このハウリンの名前、ココって言うの……
「お礼ならこのかたに言ってください。静香、私が起こしても起きないんですから」
「へっ!?」
っていやココさん! そこで俺に振りますかっ!
「あぁ。ありがとね、キミ。おかげで寝過ごさずに済んだわ」
どう見ても挙動不審な俺を変な目で見ることもなく、静香さんは柔らかく笑いかけてくれた。まだ眠気が抜けきってないのか、とろんと潤んだ瞳なんか、すげえ色っぽい……。
「い、いえ……俺も、ここで降りる予定でしたから」
そんな笑顔を突き付けられて、俺はそう答えるのが精一杯。
う、嘘じゃないぞ。ホントだぞ。
そんな気の利いた嘘がサラリとつける余裕なんか、あるわけないだろ。
「そっか。なら良かった」
にっこりと笑う静香さんに、それ以上の洒落たトークが出来るはずもなく。
「次はー。とうじょうー。とうじょうー。お降りの際は、お忘れ物の……」
最初からクライマックスどころかスーパーピンチな俺を救ってくれたのは、車内アナウンスの間の抜けた鼻声だった。
鉄筋の駅舎と、関東の駅にしては小さめのロータリー。駅前の広場には、待ち合わせらしい人達が幾人かたむろしている。
そして俺の目の前にあるのは、五角形と六角形を組み合わせたような、それ以上は説明しがたい奇怪なオブジェ。まあ、この手の駅前芸術作品がワケ分かんないのは、今に始まった事じゃないから……いいっちゃあいいんだが。
「ここが……東条」
私鉄某線、東条駅。
それが、俺と静香さんとココが降りた駅の名前だった。
「おかげで助かったわ。ありがとね……」
そう言いかけて、静香さんが言葉を止める。
ああ、そっか。
「あ。峡次です。武井峡次」
静香さんの名前はココとのやり取りで分かってたけど、俺の名前はまだ言ってなかったっけ。
「ありがとね、峡次くん」
そう言って、静香さんはまた笑顔。
それにしても良く笑う人だ。笑顔の似合う美人って、いいなぁ。ホントに。
「そうだ。ちょっと聞きたいんですけど……いいですか?」
「んー? 携帯とメアド?」
いやいやいや。
そんな度胸ないですって。
「えっと、ここってどこか、分かります?」
俺は苦笑して、ポケットから一枚のメモを取り出してみせる。
「巴荘……?」
「引っ越し先なんですけど……」
家を出るとき、父さんから渡された手書きの地図だ。汚い字の駅名が『東条駅』って所と、目指すべき場所が『巴荘』って所までは何とか読み取れたんだけど。
そこに至るまでの道筋が大雑把すぎて、全く分からない。
「分かる? ココ」
どうやら静香さんにも分からないらしい。地図をちょっと持ち上げて、肩に腰掛けたココにも見えるようにしてくれてるけど。
「いえ……。これだけの情報では、ちょっと。せいぜい、駅の南側という事くらいしか」
ココの答えも、芳しくない。
駅に着けば何とかなるかなと思った俺より、ちょっとだけマシな程度だ。
「GPSか地図ソフト、入れてなかったっけ……?」
「入れてもらった覚え無いんですけど」
そういえば神姫って、その手の追加ソフトが入れられるんだっけ。確かに地図があれば、こういうとき便利だよなぁ。
「あー。入れてたの、姫だっけ?」
ぽつりと静香さんがそう呟いた瞬間、冷静だったココの様子が一変した。
「ちょっ! 私に内緒で花姫にそんなコトしたんですかっ!? まさか、今バッグの中で寝てるのも……っ!」
『花姫』ってのも、静香さんの神姫なんだろう。その子に地図ソフトを入れて、ココに入れてないって事は、まあ……そういう事らしい。
ココは姫が静香さんにひいきされたから怒ってるんだろうか。それにしては、この怒り方は何となく違う感じもする。
何だろう。どこが違うかと聞かれたら、ちょっと答えようがない感じなんだけど。
「してないわよ、冗談だって。もう、姫のことになると本気で怒るんだからこのコは……」
「……もぅ」
ココはそれっきり口をつぐんだまま、ぷいとそっぽを向いてしまった。ハウリンは沈着冷静って聞いてたけど、こういう性格の子もいるんだな。
「あ、えっと……」
ようやく俺の存在を思い出してくれたのか、静香さんはこっちに向き直ってくれる。
「あー。ごめんね、役に立てなくて」
困り顔の静香さんからメモを受け取って、ポケットへ。汚い地図だけど、今の俺のただ一つの命綱だ。
これがなくなったら、今日はホントに路頭に迷うハメになる。
「いえ、交番かどこかで聞きますから、大丈夫です」
まずはその交番から探さないといけないんだけどな。
「そっか。じゃ、早く見つかるように応援しとくね」
「ありがとうございます」
俺は手を振って、静香さんとココと別れた。
----
「この、バカマスター!」
帽子の中から顔を出し、最初に私が叫んだのは罵りの言葉。
大きく振られる左手に巻かれた腕時計は、二時五十五分を指している。ここから駅前まで本気で走っても、十分はかかるっていうのに……。
「静香さんとの待ち合わせが何時か、分かってますの? 三時ですのよ!」
いくら引っ越しの片付けで疲れたからって、こんな時間まで寝てなくても……。
「何よ! プシュケだって、二時には起こしてって言ったのに全然起こしてくれなかったじゃない!」
は? 私に丸投げですの!?
「神姫に頼るようじゃ、いつまで経っても三流ですわよ! 三流マスター!」
そう言って、揺れがさらに激しくなった髪の毛にしがみつく。
あら。この速さなら、三時に間に合いそうですわね。
「ふん。マスターのフォローをするのが一流の神姫でしょ? だから、プシュケだっていつまで経っても三流なのよ!」
……は?
何か今、聞き捨てならないセリフが聞こえたような。
「三流神姫!」
また言った!
「なぁんですってぇ!」
この高貴な私に向かって、何たる侮辱!
「何よぅ、やる気!?」
走る速さを緩めないまま、マスターは頭の角度を少しだけ急に。頭の上の私を睨もうとしてるようだけれど……ちょっと、いくら何でも、前を見て走りなさいな。
って、曲がり角から人がっ!
「マスター、危な……っ!」
私がそう言いきるより迅かったのは、マスターの動き。
「とうっ!」
考えるよりも先に体が動いたらしい。
全速から何の迷いもなくアスファルトを踏み切り、わずか斜め前、コンクリートの壁に向けて大きく跳躍。壁にぶつかる寸前、そのまま壁を蹴りつけて。三角飛びの要領で相手の頭上を一気に跳び越えようとして……。
「し、白……」
軌道変更。
相手の顔面に打ち込まれる、揃えられた膝頭。
弾道軌道を空中で強引にねじ曲げて、本能のままに飛び膝蹴りを叩き落とす。
「忘れとけっ!」
ごぎ、という鈍い音が響いて。
どぉん、という思ったより大きな音が続いた。
「……マスター」
その傍ら、アスファルトに降り立つスニーカーの着地音がしたけれど。他の二つに比べれば、それは限りなく無音に等しい。
「通りすがりの一般人に膝ぶち込む前に、スパッツくらい穿きなさいな」
突然の暴挙に、私はため息を一つ。
「……あれ蒸れるから嫌いなのよね」
そういう問題じゃないでしょう、マイマスター。
----
その瞬間、俺は何が起こったのか分からなかった。
まず目の前に大きな影が広がって、次に何だか白い物が映り込んで。
最後に来たのは、顔面直撃の鈍い衝撃。
「……っ痛ぅ……」
ぐらぐらする視界を目を閉じて遮って、まずは背中の感触を確かめる。
アスファルトだ。うん。
倒れてるけど、手も足も動く。音も聞こえるし、鼻も……たぶん大丈夫。とりあえず、五体は無事らしい。
自転車にでもぶつかったんだろうか……?
「大丈夫?」
掛けられた声にうっすら目を開けてみると、揺れる視界の中、小さな女の子の顔が見えた。
小さいって言っても今度は神姫じゃない。小柄な、人間の女の子だ。
「あ、ああ……」
伸ばされた手を取って、倒れていた身を引き上げる。
何が起こったのかさっぱり分からないけど、この子なら現場を見てたかもしれないな。
「……俺、どうしたんだ?」
見れば、女の子の頭にはジルダリア型の神姫が乗っていた。さっきの静香さんとココもだけど、今日は神姫オーナーに縁のある日だな。
「さ、さあ?」
手を離し、女の子は苦笑い。
まあ、見てないってんなら、いいか。転んだとかだったら、あんまり格好良くないし。
「なんか、なんか顔が真空飛び膝蹴り食らったみたいに痛いんだが……」
ビデオで見ただけだから、ホントに食らったことはないけど。変に腫れてなきゃいいんだが。
「あそこに石がありますわよ。あれにつまずいたのでは?」
そんな事を考えてると、女の子の頭に乗っていたジルダリアがすいと右手を持ち上げた。
確かに、彼女の指差した方には、ちょっと大きめの石がある。
「あー。そうかも。ボーっとしてたからなぁ……」
つまずいて仰向けに転ぶってのも想像しづらいけど……何にせよカッコ悪いなぁ、もう。
「大丈夫? 近所に公園あるから、冷やす?」
女の子は俺の背中に付いた砂を払ってくれてる。でも、これ以上一緒にいても格好悪さが先に立つだけだ。
「大丈夫だって。……そうだ」
この辺りに住んでる人達なら、巴荘の場所も知ってるかも。これ以上話してるのも恥ずかしさ的に限界だし、それだけ聞いてさっさと行こう。
俺はポケットからメモを取り出して……。
「ああ。巴荘なら、この先の角をあっちに曲がってすぐだけど」
……して。
道の向こうには交差点があって、女の子の指先は右に曲がってる。
「……あ、悪い。助かる」
……。
あれ?
「それじゃあね!」
そう言い残して、女の子は走り出す。よっぽど急ぎだったのか、小さな背中はあっという間に見えなくなって。
「……いや、俺、巴荘の名前、言ってないよな?」
とはいえ、目の前にいない女の子にその事を確かめる術はない。
行き先の手掛かりは手に入ったことだし、とりあえず俺もその場から歩き出す。
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揺れるマスターの頭の上で、私は小さくため息を吐いた。
「マスター」
「何?」
叩き出すペースは、今までよりもまだ速い。さっきの殿方の所で、随分と時間を取ってしまいましたものね。
でも、焦っていたのは分かるけど、巴荘のことは……せめて聞かれてから答えなさいな。
「あれ? やっちゃった?」
今度は視線を前から逸らさずに、苦笑い。
「あの殿方、ものすごいアホ面してましたわよ」
「いや、そこまでヒドい顔じゃないと思ったけど」
まあ、それこそどうでもいいですわ。
そう思った瞬間、マスターは塀の上へひょいと飛び上がった。家と家の間に建てられた細いブロック塀の上、ほとんどスピードを落とさずに走り出す。
「プシュケ! 近道するよっ!」
「ルートに入ってから言わないでくださる!?」
というかマオチャオですか貴女は!
いくら急いでいるからとは言え、ちゃんと人間の通る道をお使いなさいな!
「だって、静香さんとココ、もう駅前に着いてるみたいだし」
む……。
「……なら、仕方ないですわね」
昨日、駅前に買い物に行く途中で見つけたばかりの道だ。ここを通れば、確かに数分ぶんのショートカットになる。さっきのタイムロス分くらいは、埋めることが出来るだろう。
どちらにしても、遅刻は確定だろうけど。
「ああ、そうだ、マスター。どうでもいいのだけれど」
「何? 手短にしてね」
ブロック塀を駆け抜けるマスターの頭の上。私はぽつりとそれを口にした。
「巴荘、さっき指差したほうと、逆ですわよ」
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かあかあと、カラスが鳴いている。
夕焼け色に染まった看板を確かめて、俺はため息を一つ。
「……着いた」
築三十年越えの鉄筋二階建て。部屋は各階に二部屋ずつ。父さんからボロいとは聞いてたけど……確かにキレイな建物じゃあなかった。
まあ、いいや。家賃を出して貰う身で、文句なんか言えるわけがない。
そんな事を考えていると、二階のドアが開いて、中から女の人が出て来た。
「すみませーん。巴荘二号館って、ここですか?」
「ん? そうですけど……」
まだ大学生くらいの女の人だ。いきなり声を掛けたからか、ちょっと警戒してるみたいだ。
「えっと、俺、今日からここでお世話になる、武井峡次って言います。よろしくお願いします」
そこまで言って頭を下げると、女の人もようやく納得したらしい。
「……あぁ。大家さんから聞いてるわ。よろしくねぇ」
何だかおっとりした感じの、優しそうな人だ。ご近所さんが変な人でなくて良かったよ。
「聞いてるって……あの。ここの管理人さん、ですか?」
それにしては若い気がするけど。大家さんの子供が、管理を任されてるって所だろうか。
「違うわよぉ」
俺の勘違いにくすくすと笑いながら、女の人は外付けの階段を下りてくる。
そこで気が付いたけど、彼女の肩にもサイフォスタイプの神姫が静かに腰を下ろしていた。ホント、今日は神姫オーナーに縁のある日だな。
「それじゃ、改めて。私は202号室の……」
女の人がそう言いかけたところで、後ろから元気の良い声が飛んできた。
「鳥小さん、ただいまー!」
「あら、おかえりなさい。千喜ちゃん」
千喜ちゃんとやらに笑いかける女の人に、俺も釣られて振り向けば。
そこにいるのは、頭にジルダリアを乗せた女の子。
「あーっ! あんた!」
間違いない! さっき俺が転んだときにいた、あの女の子だ!
「え? 嘘、今頃着いたの!?」
うわそんな事言うかっ!
「着いたのじゃねえ! 教えてくれた道、全然逆だったぜ!」
「え……そうだっけ?」
そうだっけじゃない。
彼女の言うとおりに右に曲がったら、行けども行けども巴荘なんて一向に見えやしなかった。道を聞こうにも平日の昼間に人なんかいるわけもなく、勘を頼りに進んでみたら、辿り着けたのはこんな時間。
正直日が沈むまでに着けたのは、奇跡に等しいと思う。
「そうだったんだよ!」
ちなみにその十字路を左に曲がれば、巴荘には五分で着いた。
「バタバタしてたし、良く覚えてないけど……」
「俺、どんだけ迷ったと思ってるんだよ……」
いや、まあ、着いたからいいっちゃあ良いんだけど。そこまで小さな男じゃないぜ、俺は。
「まあ、無事着いたんだし、細かいことは気にしない方向で」
「そんな問題じゃねえ!」
かといって、相手にそうフォローされて流せるほど、人間も出来てないんだけどな。
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