「「奈落の底」」(2007/05/15 (火) 16:08:15) の最新版変更点
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紅い巨神・・・皆川が『ギガンティック』と呼んだそれは、バーチャルの空に向かって大きく吼えた
自らが生まれた事を誇る様に、或いは、呪う様に・・・
「か・・・墨?なの・・・?」
『ギガンティック』の黄金の瞳がニビルを見据える
*ごうっ!!
「!!」
その一撃をかわせたのは全くの偶然だった
体が反射的に逃げた方向に、偶々手が来なかっただけの話で、攻撃そのものは全く見切れたものではなかった・・・それが左の爪を振ったのだと気付いたのすら攻撃直後だった
その動きの速さは『G』の「Gアーム」・・・キャロラインが「ジェノサイドナックル」と呼んだ・・・に匹敵するものだった
神姫に十数倍するその体躯で神姫の最高速度近い攻撃を繰り出してきたと言う事は、この巨神が神姫を遥かに上回る速さを持っている事を意味した
「・・・あ・・・あぁぁ」
それは絶望的な戦力差と言わざるを得なかった
* 「奈落の底」
「画面が見えない・・・姉さま、どうなったんだろう?」
皆川は、機械をチェックすると言って出て行ってしまった
残されたランカー達は、各々露骨に不満そうな顔をしながらも、その場に皆留まっていた
というのも、画面自体は見えないが、バーチャルスペースで戦闘の様なものが行なわれていると思しき音や気配がやまなかったし、ジャッジマシンがいかなる結果もまだ伝えては居なかったからであろう
とはいえ、それだけの情報量ではヌルの不安感を拭い切るにはとても足りなかったのであるが
「クイントスさま・・・」
「・・・・・・やはり行く事にしよう」
「え?」
覗き込んだクイントスの表情は硬かったが、どこか嬉しそうでもあった
そう言ってクイントスは華墨側のオーナーブースコンパートメントに向かう
「っ・・・待って!私も行く」
会場の誰も、ふたりが抜けた事に気付いていないようだった
----
明らかな戦力差だったが、ニビルは何とか回避し続ける事が出来た
何故か、使い切った筈の「ゴールドアイ」が復活したからだ
それも、いつもより予見が冴えている
同時に判った事は、『ギガンティック』がほぼ「ジェノサイドナックル」「ゴールドアイ」に匹敵する速さと、先読み能力を持っている事であった
(かわす事は出来ても反撃は無理ね・・・せめて空戦装備があれば話は違うのだろうけど・・・)
振り下ろされた右腕が大地を割る!
追跡してくる脚力はさながら「ジェノサイドナックル」の脚版だ、歩幅と相俟って、殆ど瞬間移動とも言える速さで移動出来る様だった
(駄目、もうかわしきれない!!)
瞬間、『ギガンティック』の動きが止まる
空を見上げる様な仕草をし、どこか、ニビルに見えない遠くを見ている様だった
----
ごつん!!
扉に剣戟で穴を開けて潜入する
強引だが、取り立てて気にした様子も無く、クイントスは佐鳴武士が居た筈のコンパートメントに足を踏み入れた
そこに武士は居ない
代わりに、バトルポッドの前に、身長170センチ程の『ギガンティック』が佇んでいた
「!?」
ヌルの驚愕を無視して、クイントスが走る
「会いたかったぞ・・・!!」
*ごうっ!!
剣速に音を引き連れて、クイントスの刀が鞘から引き抜かれる
その一撃は、これ以上無い程明確に体格差のある『ギガンティック』の爪を一振り斬り飛ばし、刃先には一切血曇りを残さない程だった
怯んだ様子すら無く、ニビルも驚いた「ジェノサイドナックル」ばりの速さで殴りかかる『ギガンティック』・・・それを、クイントスはすんでの所で回避した
外れた拳で床が抉れる
見る迄も無い、神姫が喰らえば全壊は免れ得ない一撃だ・・・恐らく人間でもひしゃげるか、体の一部が捥げるだろう
「まだ自分の体の使い方が判っていないのか・・・?それとも所詮『まがいもの』なのか・・・?そんな程度では」
長い腕の下に潜り込み、合計4撃、極悪無比な音速剣が炸裂する
それでクイントスの刀はへし折れたが、同時に『ギガンティック』の五体もバラバラに引き裂かれた
胸から大量の、人間のそれと同じ赤い血を噴き出しながら
「どんな強力な武器を持とうとも・・・それを扱う者が弱者では話にならないという事だな『華墨』とやら」
『ギガンティック』となっていた武士の胸に華墨が浮き上がり、剥離してゆくのがヌルには見えた
----
『よう華墨、しっかりしろよ』
(マスター?どうしたんだ一体)
こんな所でぼさっとしてんなって!ニビルを倒して、クイントスに一泡吹かせてやるんだろ?
『勝とうぜ、俺達二人で!』
(あぁ・・・そうだな、そうだった、二人で勝つんだったな・・・『クイントス』に)
そこは暗い奈落の底
漆黒の闇なのか、混沌なのか
だが『私』は既に寄る辺無き花ではない
立ち上がり、歩き出す
マスターが居てくれる・・・ならば取り敢えず、歩く道は判る
だから、私のマスターで居て下さい・・・佐鳴武士
----
目を開けると、そこはどうもメディカルセンターの様だった
「目が覚めたみたいだね」
振り向くとそこには琥珀嬢とエルギール、それと、ニビルが居た
吹き込んでくる風が、季節の移り変わりを感じさせた
どうも、私の認識から季節がずれている様に感じる
違う!季節はそう簡単にずれない、いかに今年は春が短かったからといって、この空気は私が知っている昨日迄と全く違う
では、ずれているのは私の認識の方か・・・私の・・・認識・・・?
「マス・・・」
『マスターは何処に?』と聞こうとして、頭に激痛が走った
待て、待て待て華墨、お前は何か重大な事を忘れていないか・・・?何かとても重大で、そしてとても、巨大な何かを!?
「君のマスターは此処に居る、僕だ、僕神浦琥珀が、君のマスターだ」
それで、私の知る限りの全てを思い出した
「佐鳴武士は・・・死・・・」
吐いた
何かを
そこで、自分のもうひとつの異常に気付いた
「君はね、普通の武装神姫では無くなってしまったんだよ・・・華墨」
「今の君は、人間とそう変わらない体を持っている、食事をし、排泄をし、呼吸をする体・・・機械と生体のハイブリッド・・・君は・・・」
吐いた、転げ回った
何も聞こえない
何も判らない
聞きたくない!!!
「落ち着きなさい!受け入れ難いのは判るけど!取り乱しても何にもならないッ!!」
ニビルに頬を張られて、動きが止まった
頭の中が真っ白になっていた
ただ涙だけは出た
語る言葉も何も無く、ただ、溢れた
そしてそれが、他ならぬ私自身に、状況を思い出させていた
「・・・・・・暫く一人にさせてあげよう、ニビル」
出て行く直前に、エルギールが私を見たが、それに対して何かを返す余裕は、今の私には全く無かった
「マスター・・・・・・!!」
その悲鳴に近い声は、涙と共に奈落の底に程近い今の私の心に大きく波紋を浮かべ、虚空に虚しく消えた・・・
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紅い巨神・・・皆川が『ギガンティック』と呼んだそれは、バーチャルの空に向かって大きく吼えた
自らが生まれた事を誇る様に、或いは、呪う様に・・・
「か・・・墨?なの・・・?」
『ギガンティック』の黄金の瞳がニビルを見据える
*ごうっ!!
「!!」
その一撃をかわせたのは全くの偶然だった
体が反射的に逃げた方向に、偶々手が来なかっただけの話で、攻撃そのものは全く見切れたものではなかった・・・それが左の爪を振ったのだと気付いたのすら攻撃直後だった
その動きの速さは『G』の「Gアーム」・・・キャロラインが「ジェノサイドナックル」と呼んだ・・・に匹敵するものだった
神姫に十数倍するその体躯で神姫の最高速度近い攻撃を繰り出してきたと言う事は、この巨神が神姫を遥かに上回る速さを持っている事を意味した
「・・・あ・・・あぁぁ」
それは絶望的な戦力差と言わざるを得なかった
* 「奈落の底」
「画面が見えない・・・姉さま、どうなったんだろう?」
皆川は、機械をチェックすると言って出て行ってしまった
残されたランカー達は、各々露骨に不満そうな顔をしながらも、その場に皆留まっていた
というのも、画面自体は見えないが、バーチャルスペースで戦闘の様なものが行なわれていると思しき音や気配がやまなかったし、ジャッジマシンがいかなる結果もまだ伝えては居なかったからであろう
とはいえ、それだけの情報量ではヌルの不安感を拭い切るにはとても足りなかったのであるが
「クイントスさま・・・」
「・・・・・・やはり行く事にしよう」
「え?」
覗き込んだクイントスの表情は硬かったが、どこか嬉しそうでもあった
そう言ってクイントスは華墨側のオーナーブースコンパートメントに向かう
「っ・・・待って!私も行く」
会場の誰も、ふたりが抜けた事に気付いていないようだった
----
明らかな戦力差だったが、ニビルは何とか回避し続ける事が出来た
何故か、使い切った筈の「ゴールドアイ」が復活したからだ
それも、いつもより予見が冴えている
同時に判った事は、『ギガンティック』がほぼ「ジェノサイドナックル」「ゴールドアイ」に匹敵する速さと、先読み能力を持っている事であった
(かわす事は出来ても反撃は無理ね・・・せめて空戦装備があれば話は違うのだろうけど・・・)
振り下ろされた右腕が大地を割る!
追跡してくる脚力はさながら「ジェノサイドナックル」の脚版だ、歩幅と相俟って、殆ど瞬間移動とも言える速さで移動出来る様だった
(駄目、もうかわしきれない!!)
瞬間、『ギガンティック』の動きが止まる
空を見上げる様な仕草をし、どこか、ニビルに見えない遠くを見ている様だった
----
ごつん!!
扉に剣戟で穴を開けて潜入する
強引だが、取り立てて気にした様子も無く、クイントスは佐鳴武士が居た筈のコンパートメントに足を踏み入れた
そこに武士は居ない
代わりに、バトルポッドの前に、身長170センチ程の『ギガンティック』が佇んでいた
「!?」
ヌルの驚愕を無視して、クイントスが走る
「会いたかったぞ・・・!!」
*ごうっ!!
剣速に音を引き連れて、クイントスの刀が鞘から引き抜かれる
その一撃は、これ以上無い程明確に体格差のある『ギガンティック』の爪を一振り斬り飛ばし、刃先には一切血曇りを残さない程だった
怯んだ様子すら無く、ニビルも驚いた「ジェノサイドナックル」ばりの速さで殴りかかる『ギガンティック』・・・それを、クイントスはすんでの所で回避した
外れた拳で床が抉れる
見る迄も無い、神姫が喰らえば全壊は免れ得ない一撃だ・・・恐らく人間でもひしゃげるか、体の一部が捥げるだろう
「まだ自分の体の使い方が判っていないのか・・・?それとも所詮『まがいもの』なのか・・・?そんな程度では」
長い腕の下に潜り込み、合計4撃、極悪無比な音速剣が炸裂する
それでクイントスの刀はへし折れたが、同時に『ギガンティック』の五体もバラバラに引き裂かれた
胸から大量の、人間のそれと同じ赤い血を噴き出しながら
「どんな強力な武器を持とうとも・・・それを扱う者が弱者では話にならないという事だな『華墨』とやら」
『ギガンティック』となっていた武士の胸に華墨が浮き上がり、剥離してゆくのがヌルには見えた
----
『よう華墨、しっかりしろよ』
(マスター?どうしたんだ一体)
こんな所でぼさっとしてんなって!ニビルを倒して、クイントスに一泡吹かせてやるんだろ?
『勝とうぜ、俺達二人で!』
(あぁ・・・そうだな、そうだった、二人で勝つんだったな・・・『クイントス』に)
そこは暗い奈落の底
漆黒の闇なのか、混沌なのか
だが『私』は既に寄る辺無き花ではない
立ち上がり、歩き出す
マスターが居てくれる・・・ならば取り敢えず、歩く道は判る
だから、私のマスターで居て下さい・・・佐鳴武士
----
目を開けると、そこはどうもメディカルセンターの様だった
「目が覚めたみたいだね」
振り向くとそこには琥珀嬢とエルギール、それと、ニビルが居た
吹き込んでくる風が、季節の移り変わりを感じさせた
どうも、私の認識から季節がずれている様に感じる
違う!季節はそう簡単にずれない、いかに今年は春が短かったからといって、この空気は私が知っている昨日迄と全く違う
では、ずれているのは私の認識の方か・・・私の・・・認識・・・?
「マス・・・」
『マスターは何処に?』と聞こうとして、頭に激痛が走った
待て、待て待て華墨、お前は何か重大な事を忘れていないか・・・?何かとても重大で、そしてとても、巨大な何かを!?
「君のマスターは此処に居る、僕だ、僕神浦琥珀が、君のマスターだ」
それで、私の知る限りの全てを思い出した
「佐鳴武士は・・・死・・・」
吐いた
何かを
そこで、自分のもうひとつの異常に気付いた
「君はね、普通の武装神姫では無くなってしまったんだよ・・・華墨」
「今の君は、人間とそう変わらない体を持っている、食事をし、排泄をし、呼吸をする体・・・機械と生体のハイブリッド・・・君は・・・」
吐いた、転げ回った
何も聞こえない
何も判らない
聞きたくない!!!
「落ち着きなさい!受け入れ難いのは判るけど!取り乱しても何にもならないッ!!」
ニビルに頬を張られて、動きが止まった
頭の中が真っ白になっていた
ただ涙だけは出た
語る言葉も何も無く、ただ、溢れた
そしてそれが、他ならぬ私自身に、状況を思い出させていた
「・・・・・・暫く一人にさせてあげよう、ニビル」
出て行く直前に、エルギールが私を見たが、それに対して何かを返す余裕は、今の私には全く無かった
「マスター・・・・・・!!」
その悲鳴に近い声は、涙と共に奈落の底に程近い今の私の心に大きく波紋を浮かべ、虚空に虚しく消えた・・・
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