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「ねここの飼い方・光と影 ~エピローグ~」(2007/04/11 (水) 00:46:09) の最新版変更点
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『……それでは次のニュース。昨夜S市運動公園において発生しました、謎の爆発についての続報です』
『どうなんでしょうね北川さん。一説には核融合レベルの熱量が観測されたとの報道もありますが』
『この事故に於ける被害は現在の所……』
『いやぁ、そんな事はないでしょう。しかし周辺のケーブルが全て断線している所を見ますと、落雷など何らかの高電圧による負荷が……』
『はい、此方現場です! 見てくださいこの惨状を!?』
病院のロビーに設置された大型の立体TVが、往来の人々に対して延々とニュースを流し続けている。
***ねここの飼い方・光と影 ~エピローグ~
一瞬とも永遠とも思える時の流れ。
私の意識はまるでカンナで薄く削り取られるように、ゆっくりと徐々に拡散していく。
人間は死ぬと魂が抜け出し、その魂は天に召され輪廻を繰り返すという。ならば神姫は……?
今経験しているこの感覚がそうなのだろうか。私にはよくわからない、が唯一つ願う。次もアキラの隣へ転生する事が出来るのだろうか。
今度こそ、貴方を悲しませることはしないと誓うから……
『ネメシス』
最後に聞こえた、愛しい声。私の想いが生んだ、夢幻。
だけど、本当にあれは……
……何故、まだ私は思考できるのだろう……
不意に意識が集束してゆく。ワタシが私として、形作られてゆく感覚。
目覚めの時。いや、終わりの刻らしい。
願わくば、再びアキラに出会えますように……
全身の神経がゆっくりと鼓動を再開していく。
「…シス!……ネメ……シ……」
聴覚にうっすらと音声の流入。誰かが私を呼んでいる。うぅん、誰かなんて曖昧じゃない。この声は……でも。
私の額に、留め止めもなく零れ落ちてくる、雫。
「……ア…キラ」
重い瞼を開くと、そこには私の愛しい……その人。
「よかったぁ……私……私ぃ……」
繊細で綺麗で無表情で、でもとても悲しげだったその顔。何時もどこか遠くを見ていて、全てを受け入れ、全てを諦めて、日常を漠然とただ過ご
す為だけに被り続けていた偽りの表情。それを仮面を脱ぎ捨てたかのようにして泣きじゃくり、目を真っ赤に腫らしている。
「何で……泣いているの……ですか……?」
手を伸ばし、泣いているアキラの頬を愛しく撫でながら、ただその理由のみを尋ねる。だが声帯が完全に機能していないらしく、まるで皺枯れた老婆のような擦れた声しか出ない私の喉。
「何でって……この馬鹿ぁ……」
アキラの顔が本当に近くにまで接近してくる。それが私が彼女に抱き上げられているのだと言うことを自覚するまで、数泊が必要だった。
今のアキラの顔は涙でぐちゃぐちゃ、感情が溢れすぎて酷く歪んでいて、狂おしい程に……愛しい。
「私は……貴方を裏切りました。もうアキラの神姫ではいられません。だから……捨ててください、私を……」
「馬鹿っ!!!」
周囲に鋭く響き渡る一声。それは私が一度も聞いたことのない、アキラの心からの声。
「うぅん……馬鹿なのは私よね。貴方に酷い事言って。……居なくなってから解るなんて、馬鹿みたい」
居なくなる事で、アキラは幸せになると思っていた……それは、浅はかな考え。私は後悔に押し潰されそうになる。
「……私は、再びアキラを悲しませてしまいました。だから……」
だからこそ……
「「 ごめんなさい 」」
重なる声、その想い。
同時に発した、そのコトバ。お互い予想もしなかったその行動に、全てを忘れて見つめあう。
涙で溢れたその瞳。
だけどもそれは、今までのような、深い海のように悲しい闇を湛えたものではなく、生気に満ち溢れた荒々しくも美しい海の波。
「……ふふ」 「…はは……」
沈黙の後に訪れたのは、どちらともなくごく自然に溢れてくる、僅かな微笑み。
私たちは泣きながら笑いあう。傍から見れば異様な光景なのかもしれない、だけど今の私たちにはそれが何より嬉しくて。
「ネメシス」 「アキラ」
「「 貴方が、大好き 」」
重なり合う、互いのキモチ。
初めてお互いに素直になれた、この感情。
「ネメシスは何時も傍にいてくれた。私をちゃんと見ていてくれた。……他の誰でもない、こんな私を」
「アキラ……自分を卑下しないで。私は貴方に微笑んで欲しかったのですから……」
愛しいご主人様の頬に、そっと口づけを交わす。
「だから……今のアキラは、大好きです。今までも……これからも、ずっと」
「ネメシス…ぅ……私の神姫は貴方だけ。ずっと……ずっと……」
互いに涙が止まらない。
でもそれは悲しいからではなく、嬉しさから込み上げてくる、暖かく優しくこの感情を包み込むためのもの。
身動ぎもせず、ただただお互いの感情と感触を確かめ合うかのように、睦み合う。
先刻のように、一瞬にも永遠にも感じられる時間が過ぎてゆく。
だけど今度は、この刻が永遠に続けばいいと、心から願う。
「……お二人さん、そろそろいいかしら?」
「「……はひっ!?」」
この世の物とは思えない奇声を上げたかと思うと、そのまま真っ赤になってワタワタ慌てふためく2人。
微笑ましい光景なんだけど、個室とはいえ病院内で堂々とやられると困っちゃうわよね。
「二人とも、大丈夫なの~?」
「ね、ねここっ!?それに風見…美砂っ。どうして此処に!?」
親の敵でも見るような目付きでこっちを見るネメシスちゃん。主人想いというか、直線的と言うか……
「ネメシス失礼な事言っちゃダメ! 私も、貴方も、風見さん達に助けて貰ったのだから……」
優しく諭す明ちゃんと、今度は真っ赤から一転して、顔面蒼白になるネメシスちゃん。
「……そ、そういえばどうして私は……あの時、オーバーロードで自爆するはずだったのに」
これはちゃんと説明してあげないとダメだよね。
「えぇと、それはね……」
「ねここっ!」
「わかってるのぉっ!!!」
私の掛け声と共に、爆発寸前のネメシスに向かって突撃するねここ。
ネメシスは既にオーバーロード寸前で、内部からの熱量によりガンシンガーの漆黒の装甲が見る影もなく、マグマを思わせる赤銅色に変色してしまっている。既に自我は、その負荷により、シャットダウンされてしまっているみたいだ。
只反射的に、破滅への悲鳴を叫び続けるだけの存在。
「ブレード展開! 一気に……いっけぇぇぇぇ!」
シューティングスター両翼に設置されたLC3レーザーライフルの銃口から、馬上槍の如き長大なレーザーブレードを形成。
そのまま最高速で突入し、それを以って一気に、ガンシンガーの胸部装甲を易々と貫く。
「とぁーっ!」
今度はそのまま両腕で、ネメシスをガンシンガー本体よりズルリと一気に引き抜く。だけど、ネメシスの全身に張り巡らされたエネルギーチューブはネメシスを絡め取ったまま、その身体に濁った力を送り続けていて。
「これ……邪魔なのっ」
ねここは鋭く腕を振るう。その研爪の一閃でチューブは打ち切られ、ネメシスと黒い悪魔は完全に分離。
「OKよっ。もう爆発するから早く離脱して!」
機体は既に融解を始め、一秒ごとにそのシャープな原形からはかけ離れた姿になっていく。最後の時を迎えようとしていて。
その時だった。
「りょーか……に”ゃぁっ!?」
ねここの左腕に、ほんの一瞬スパークが走った直後。
ネメシスちゃんを抱き上げていた、ねここの左腕が、突如爆発したのは。
まるでスローモーションを見てるように感じられた瞬間。閃光と共に膨張、無数の亀裂が生まれた次の瞬間、内部から怒り狂った炎と電流が噴出し、ユニットが粉々に吹き飛ぶ。
ねここの保持力の低い装備。それは片手では支えきれなくなり、重力に導かれるまま落下していくネメシス。
「不味い、アレじゃ爆発に巻き込まれる!」
「ネメシスっ!」
今まで傍観していた1つの影、それが無謀にもネメシスに走り寄り、彼女を受け止める。
まるで大切な宝物を守るように抱きしめ、子供を守る母のように、その胸の中へと。
……そして、次の瞬間。
昼夜が逆転したかと思えるほど強烈な、先程とは比べ物にならないほどの閃光に周囲は包まれる。
「……ふぅ、びっくりしたぁ」
何とか後々すぐに木陰に隠れて、爆発の難を逃れる事ができた。ねここは……
「みさにゃーん。こっち、こっち大変なのー!」
上空から声が聞こえる。どうやらそのまま離脱して無事だったみたい。
「……大変……って、そうだっ!」
先程の最後の状態、彼女の行動を思い出し、慌てて爆心地に駆け出す。
「……ぅ……」
そこには、宝物を命懸けで守り抜いた1人の女の子。
背中を丸くして、その胸に抱いたネメシスを守ろうとするかのように、じっとうずくまっている。その腕の中で息吹く大切な者の為に、自分を顧みることなくその身を呈して庇って。彼女の背中の服が完全に焼け焦げ、剥き出しになった背中には痛々しい火傷を負ってしまっている。
でも、その苦痛に歪むその表情には何処か達成感が見え隠れしていて……
「……って、そんな事考えてる場合じゃないっ。ねここ救急車呼んで!場所は内蔵GPSですぐ教えられるでしょっ」
「りょ、了解なのーっ!」
「それと水・・・水道はっ!?」
今度は私が動かないと。倒れてしまった彼女たちを直ぐに手当てしてあげないと。
お疲れ様。明ちゃん、ネメシスちゃん。
……あんまり浸ってる場合じゃないけれどっ!
「……と、言うわけでした。ネメシスちゃんはエルゴの店長さんに治療して貰ったから、大丈夫だと思うけれど。あと店長さんが言ってたけど、無茶
な事し過ぎだって怒ってましたよ。あれじゃ爆発するのも当然だ、って」
……何というか、さっき以上に顔面蒼白。今すぐ貧血(?)で倒れそう難じゃないかと思えるほどの顔色になっているネメシスちゃん。
一応事故とはいえ、自分がマスターに重傷を負わせてしまった事に驚愕してるんだろう。ガクガクと震えが止まらないみたい。
「ア……ぁ……アキ……わ、……わた……」
「いいの、ネメシス。……私は貴方が無事だっただけで十分だから」
私がクラスメートとして知っている彼女。その印象からは考えられないほど、とても優しい声。
ネメシスちゃんの頭をゆったり優しく撫でながら、まるで大切な子供をあやすように続ける。
「それに、この傷はきっと私への罰。貴方に酷い仕打ちをしてしまった、私への……」
「……アキラ……」
喜びとも悲しみともつかない、とても不思議な表情のまま見つめ合う2人。
やがて、2人はゆっくりと笑みを浮かべる。柔らかで濁りのない、新しい信頼に包まれた笑みを。
私達はそれをゆったりと見守る。穏やかな時間が過ぎていく。
と、ふとネメシスちゃんが、こちらを見据え
「……所で、如何してねここは危険を冒してまで、私を助けてくれたのですか。私は貴方の大切なモノを奪った憎い者だったはずです」
ねここは、んー……と頬に指を当てて、少し考えてから、
「ねここはネメシスちゃんに、ごめんなさい、って言って、返して欲しかっただけなの」
と、何時になく真面目な表情で答える。
「だから、ごめんなさい、ってしてくれれば、ねここは気にしないの♪ネメシスちゃんともお友達なの~」
と、今度は何時もの太陽の様な、にぱーっと満点の笑顔で答えるねここ。
「……あの……えと……」
その直球である意味単純な答えにビックリしたのか、もじもじと恥ずかしそうに上目遣いでねここを見つめるネメシスちゃん。
「ごめんなさぃ……」
今までの凄い行動力が全部吹き飛んでしまったのか、照れて真っ赤な顔になってしまい、最後は俯きながらぽそぽそとやっと其れだけを言って。
「はぁい、なの~☆」
ねここの満天の笑顔は、今までの事なんかどうでも良くなると思える程、こっちにも元気と力を分けてくれる。
だってそれが、ねここなんだから♪
「……えぇと、あの。私も風見さんに謝らないと……色々ご迷惑をおかけしまして」
今度は明ちゃんが、もじもじと恥ずかしそうにしている。
「気にしないでいいから。これから仲良くやっていきましょ?」
その一言に何故か、はっとする明ちゃん。……何?
「あの……それじゃ、おこがましいかもしれませんが、1つだけお願いが……っ」
真っ赤な顔をして、頭を下げてくる。まぁ、そこまで言われたら……
「良いけど、何?」
「お……お姉さまって、呼ばせて頂いていいですかっ!」
……どうやら、更に賑やかな日々になりそうです。
「アキラの心情を思えば……いやですが、私は……って、それ以前にねここ、アキラの邪魔をしないでくださいっ!」
「みーさーにゃんはーねこーこーのーっ!」
「おねぇさまぁ~♪」
……ま、何とかなるでしょ。多分ね☆。
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『……それでは次のニュース。昨夜S市運動公園において発生しました、謎の爆発についての続報です』
『どうなんでしょうね北川さん。一説には核融合レベルの熱量が観測されたとの報道もありますが』
『この事故に於ける被害は現在の所……』
『いやぁ、そんな事はないでしょう。しかし周辺のケーブルが全て断線している所を見ますと、落雷など何らかの高電圧による負荷が……』
『はい、此方現場です! 見てくださいこの惨状を!?』
病院のロビーに設置された大型の立体TVが、往来の人々に対して延々とニュースを流し続けている。
***ねここの飼い方・光と影 ~エピローグ~
一瞬とも永遠とも思える時の流れ。
私の意識はまるでカンナで薄く削り取られるように、ゆっくりと徐々に拡散していく。
人間は死ぬと魂が抜け出し、その魂は天に召され輪廻を繰り返すという。ならば神姫は……?
今経験しているこの感覚がそうなのだろうか。私にはよくわからない、が唯一つ願う。次もアキラの隣へ転生する事が出来るのだろうか。
今度こそ、貴方を悲しませることはしないと誓うから……
『ネメシス』
最後に聞こえた、愛しい声。私の想いが生んだ、夢幻。
だけど、本当にあれは……
……何故、まだ私は思考できるのだろう……
不意に意識が集束してゆく。ワタシが私として、形作られてゆく感覚。
目覚めの時。いや、終わりの刻らしい。
願わくば、再びアキラに出会えますように……
全身の神経がゆっくりと鼓動を再開していく。
「…シス!……ネメ……シ……」
聴覚にうっすらと音声の流入。誰かが私を呼んでいる。うぅん、誰かなんて曖昧じゃない。この声は……でも。
私の額に、留め止めもなく零れ落ちてくる、雫。
「……ア…キラ」
重い瞼を開くと、そこには私の愛しい……その人。
「よかったぁ……私……私ぃ……」
繊細で綺麗で無表情で、でもとても悲しげだったその顔。何時もどこか遠くを見ていて、全てを受け入れ、全てを諦めて、日常を漠然とただ過ご
す為だけに被り続けていた偽りの表情。それを仮面を脱ぎ捨てたかのようにして泣きじゃくり、目を真っ赤に腫らしている。
「何で……泣いているの……ですか……?」
手を伸ばし、泣いているアキラの頬を愛しく撫でながら、ただその理由のみを尋ねる。だが声帯が完全に機能していないらしく、まるで皺枯れた老婆のような擦れた声しか出ない私の喉。
「何でって……この馬鹿ぁ……」
アキラの顔が本当に近くにまで接近してくる。それが私が彼女に抱き上げられているのだと言うことを自覚するまで、数泊が必要だった。
今のアキラの顔は涙でぐちゃぐちゃ、感情が溢れすぎて酷く歪んでいて、狂おしい程に……愛しい。
「私は……貴方を裏切りました。もうアキラの神姫ではいられません。だから……捨ててください、私を……」
「馬鹿っ!!!」
周囲に鋭く響き渡る一声。それは私が一度も聞いたことのない、アキラの心からの声。
「うぅん……馬鹿なのは私よね。貴方に酷い事言って。……居なくなってから解るなんて、馬鹿みたい」
居なくなる事で、アキラは幸せになると思っていた……それは、浅はかな考え。私は後悔に押し潰されそうになる。
「……私は、再びアキラを悲しませてしまいました。だから……」
だからこそ……
「「 ごめんなさい 」」
重なる声、その想い。
同時に発した、そのコトバ。お互い予想もしなかったその行動に、全てを忘れて見つめあう。
涙で溢れたその瞳。
だけどもそれは、今までのような、深い海のように悲しい闇を湛えたものではなく、生気に満ち溢れた荒々しくも美しい海の波。
「……ふふ」 「…はは……」
沈黙の後に訪れたのは、どちらともなくごく自然に溢れてくる、僅かな微笑み。
私たちは泣きながら笑いあう。傍から見れば異様な光景なのかもしれない、だけど今の私たちにはそれが何より嬉しくて。
「ネメシス」 「アキラ」
「「 貴方が、大好き 」」
重なり合う、互いのキモチ。
初めてお互いに素直になれた、この感情。
「ネメシスは何時も傍にいてくれた。私をちゃんと見ていてくれた。……他の誰でもない、こんな私を」
「アキラ……自分を卑下しないで。私は貴方に微笑んで欲しかったのですから……」
愛しいご主人様の頬に、そっと口づけを交わす。
「だから……今のアキラは、大好きです。今までも……これからも、ずっと」
「ネメシス…ぅ……私の神姫は貴方だけ。ずっと……ずっと……」
互いに涙が止まらない。
でもそれは悲しいからではなく、嬉しさから込み上げてくる、暖かく優しくこの感情を包み込むためのもの。
身動ぎもせず、ただただお互いの感情と感触を確かめ合うかのように、睦み合う。
先刻のように、一瞬にも永遠にも感じられる時間が過ぎてゆく。
だけど今度は、この刻が永遠に続けばいいと、心から願う。
「……お二人さん、そろそろいいかしら?」
「「……はひっ!?」」
この世の物とは思えない奇声を上げたかと思うと、そのまま真っ赤になってワタワタ慌てふためく2人。
微笑ましい光景なんだけど、個室とはいえ病院内で堂々とやられると困っちゃうわよね。
「二人とも、大丈夫なの~?」
「ね、ねここっ!?それに風見…美砂っ。どうして此処に!?」
親の敵でも見るような目付きでこっちを見るネメシスちゃん。主人想いというか、直線的と言うか……
「ネメシス失礼な事言っちゃダメ! 私も、貴方も、風見さん達に助けて貰ったのだから……」
優しく諭す明ちゃんと、今度は真っ赤から一転して、顔面蒼白になるネメシスちゃん。
「……そ、そういえばどうして私は……あの時、オーバーロードで自爆するはずだったのに」
これはちゃんと説明してあげないとダメだよね。
「えぇと、それはね……」
「ねここっ!」
「わかってるのぉっ!!!」
私の掛け声と共に、爆発寸前のネメシスに向かって突撃するねここ。
ネメシスは既にオーバーロード寸前で、内部からの熱量によりガンシンガーの漆黒の装甲が見る影もなく、マグマを思わせる赤銅色に変色してしまっている。既に自我は、その負荷により、シャットダウンされてしまっているみたいだ。
只反射的に、破滅への悲鳴を叫び続けるだけの存在。
「ブレード展開! 一気に……いっけぇぇぇぇ!」
シューティングスター両翼に設置されたLC3レーザーライフルの銃口から、馬上槍の如き長大なレーザーブレードを形成。
そのまま最高速で突入し、それを以って一気に、ガンシンガーの胸部装甲を易々と貫く。
「とぁーっ!」
今度はそのまま両腕で、ネメシスをガンシンガー本体よりズルリと一気に引き抜く。だけど、ネメシスの全身に張り巡らされたエネルギーチューブはネメシスを絡め取ったまま、その身体に濁った力を送り続けていて。
「これ……邪魔なのっ」
ねここは鋭く腕を振るう。その研爪の一閃でチューブは打ち切られ、ネメシスと黒い悪魔は完全に分離。
「OKよっ。もう爆発するから早く離脱して!」
機体は既に融解を始め、一秒ごとにそのシャープな原形からはかけ離れた姿になっていく。最後の時を迎えようとしていて。
その時だった。
「りょーか……に”ゃぁっ!?」
ねここの左腕に、ほんの一瞬スパークが走った直後。
ネメシスちゃんを抱き上げていた、ねここの左腕が、突如爆発したのは。
まるでスローモーションを見てるように感じられた瞬間。閃光と共に膨張、無数の亀裂が生まれた次の瞬間、内部から怒り狂った炎と電流が噴出し、ユニットが粉々に吹き飛ぶ。
ねここの保持力の低い装備。それは片手では支えきれなくなり、重力に導かれるまま落下していくネメシス。
「不味い、アレじゃ爆発に巻き込まれる!」
「ネメシスっ!」
今まで傍観していた1つの影、それが無謀にもネメシスに走り寄り、彼女を受け止める。
まるで大切な宝物を守るように抱きしめ、子供を守る母のように、その胸の中へと。
……そして、次の瞬間。
昼夜が逆転したかと思えるほど強烈な、先程とは比べ物にならないほどの閃光に周囲は包まれる。
「……ふぅ、びっくりしたぁ」
何とか後々すぐに木陰に隠れて、爆発の難を逃れる事ができた。ねここは……
「みさにゃーん。こっち、こっち大変なのー!」
上空から声が聞こえる。どうやらそのまま離脱して無事だったみたい。
「……大変……って、そうだっ!」
先程の最後の状態、彼女の行動を思い出し、慌てて爆心地に駆け出す。
「……ぅ……」
そこには、宝物を命懸けで守り抜いた1人の女の子。
背中を丸くして、その胸に抱いたネメシスを守ろうとするかのように、じっとうずくまっている。その腕の中で息吹く大切な者の為に、自分を顧みることなくその身を呈して庇って。彼女の背中の服が完全に焼け焦げ、剥き出しになった背中には痛々しい火傷を負ってしまっている。
でも、その苦痛に歪むその表情には何処か達成感が見え隠れしていて……
「……って、そんな事考えてる場合じゃないっ。ねここ救急車呼んで!場所は内蔵GPSですぐ教えられるでしょっ」
「りょ、了解なのーっ!」
「それと水・・・水道はっ!?」
今度は私が動かないと。倒れてしまった彼女たちを直ぐに手当てしてあげないと。
お疲れ様。明ちゃん、ネメシスちゃん。
……あんまり浸ってる場合じゃないけれどっ!
「……と、言うわけでした。ネメシスちゃんはエルゴの店長さんに治療して貰ったから、大丈夫だと思うけれど。あと店長さんが言ってたけど、無茶
な事し過ぎだって怒ってましたよ。あれじゃ爆発するのも当然だ、って」
……何というか、さっき以上に顔面蒼白。今すぐ貧血(?)で倒れそう難じゃないかと思えるほどの顔色になっているネメシスちゃん。
一応事故とはいえ、自分がマスターに重傷を負わせてしまった事に驚愕してるんだろう。ガクガクと震えが止まらないみたい。
「ア……ぁ……アキ……わ、……わた……」
「いいの、ネメシス。……私は貴方が無事だっただけで十分だから」
私がクラスメートとして知っている彼女。その印象からは考えられないほど、とても優しい声。
ネメシスちゃんの頭をゆったり優しく撫でながら、まるで大切な子供をあやすように続ける。
「それに、この傷はきっと私への罰。貴方に酷い仕打ちをしてしまった、私への……」
「……アキラ……」
喜びとも悲しみともつかない、とても不思議な表情のまま見つめ合う2人。
やがて、2人はゆっくりと笑みを浮かべる。柔らかで濁りのない、新しい信頼に包まれた笑みを。
私達はそれをゆったりと見守る。穏やかな時間が過ぎていく。
と、ふとネメシスちゃんが、こちらを見据え
「……所で、如何してねここは危険を冒してまで、私を助けてくれたのですか。私は貴方の大切なモノを奪った憎い者だったはずです」
ねここは、んー……と頬に指を当てて、少し考えてから、
「ねここはネメシスちゃんに、ごめんなさい、って言って、返して欲しかっただけなの」
と、何時になく真面目な表情で答える。
「だから、ごめんなさい、ってしてくれれば、ねここは気にしないの♪ネメシスちゃんともお友達なの~」
と、今度は何時もの太陽の様な、にぱーっと満点の笑顔で答えるねここ。
「……あの……えと……」
その直球である意味単純な答えにビックリしたのか、もじもじと恥ずかしそうに上目遣いでねここを見つめるネメシスちゃん。
「ごめんなさぃ……」
今までの凄い行動力が全部吹き飛んでしまったのか、照れて真っ赤な顔になってしまい、最後は俯きながらぽそぽそとやっと其れだけを言って。
「はぁい、なの~☆」
ねここの満天の笑顔は、今までの事なんかどうでも良くなると思える程、こっちにも元気と力を分けてくれる。
だってそれが、ねここなんだから♪
「……えぇと、あの。私も風見さんに謝らないと……色々ご迷惑をおかけしまして」
今度は明ちゃんが、もじもじと恥ずかしそうにしている。
「気にしないでいいから。これから仲良くやっていきましょ?」
その一言に何故か、はっとする明ちゃん。……何?
「あの……それじゃ、おこがましいかもしれませんが、1つだけお願いが……っ」
真っ赤な顔をして、頭を下げてくる。まぁ、そこまで言われたら……
「良いけど、何?」
「お……お姉さまって、呼ばせて頂いていいですかっ!」
……どうやら、更に賑やかな日々になりそうです。
「アキラの心情を思えば……いやですが、私は……って、それ以前にねここ、アキラの邪魔をしないでくださいっ!」
「みーさーにゃんはーねこーこーのーっ!」
「おねぇさまぁ~♪」
……ま、何とかなるでしょ。多分ね☆。
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