「「Somewhere Nowhere」」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「「Somewhere Nowhere」」(2007/04/08 (日) 21:51:16) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
私、ニビルは無事だった
あれだけ悲劇風味の展開を重ねておいてそれかい!とか突っ込まないで欲しい
認めたくない事だが、結局機械の体である以上、破損した箇所は取り替えてしまえば良いのもまた事実だった
特に、私のオーバーロードは、「オーバーロードの使用」それ自体には何のペナルティも無い
単に、ストラーフの主力武装の殆ど、武装神姫の素体直付けパーツの使用に制限があるだけである
無論、もしかしたら他にも何か見えないペナルティがあるのかも知れないが
顕現しないものの事まで考えていても仕方が無いというのが私の結論だった
ズタズタになった神経系を修復し、新しい四肢に慣れるのに数日を要したが、あとはいつも通り。決勝リーグに向けての調整を重ねるのだった
* 「Somewhere Nowhere」
「・・・じゃぁ、姉さまが今迄強化パーツを使わなかったのは?」
「そうだよ、ニビルの体に宿ったオーバーロードが拡張端子の使用を困難にしてるのさ」
逆さまにひっくり返った状態で、ヌルはキャロの話を聞いていた
場所は槙縞玩具店の地下にあつらえられたリアルバトル用演習場である・・・本来はここも、槙縞ランキングの主要舞台の一つとして使用される予定だったらしいが、何故か皆川はバーチャルバトルに拘りを持っていた
愛玩派オーナーの参入も促しやすい事と、別にバーチャルバトルだからといって不平不満を述べる神姫も特に居なかったので、この演習場は放置され、時折ヌルやクイントス等が練習に使っているだけの施設に成り下がっていた
本来なら電動薬動の様々なギミックが盛り込まれていたのだが、天井の照明すら入っておらず、手入れも全くされていない様子であり、その種のギミックも全くの稼動不能状態である
「何で今迄言ってくれなかったんだろう・・・」
体を起こし、明確に不満を顔中に表すヌル
「あんたに話す必要がないと考えた理由ってんなら判らないでもないがね」
ヌルの肩にタオルをかけつつ、呟くキャロ
「拡張装備を使わずに・・・つまり普通に考えたら圧倒的に不利な状態で勝つ。そういう格好良い所をあんたに見せたかったんだよ。多分ね」
「いっつもそうだ・・・姉さまは・・・私は別に、姉さまの欠点だって含めて姉さまの事を愛せる自信があるのに・・・」
タオルで顔まで隠して蹲る
「惚気は良いけどさ・・・あんただってあるだろ?そういうの」
「どだいからして、準決勝でニビルと互角以上に戦う為に秘密特訓ってのも充分過ぎる程格好付けだと思うけどね、あたしゃ」
「・・・・・・」
確かに、並み居る強豪を押しのけて、準決勝でニビルとヌルが当たるというのは、両者の実力から考えて相当無理がある事を、ヌルはやはり知覚していた
ニビルはまだオーバーロードがあるから良いが、ヌルは実戦経験という観点に於いて華墨とほぼ同等の新人であり、コネによる恵まれたトレーニング環境と、華墨のものほどまだ明白ではないが、ゆらぎ由来の密着格闘戦における天性のカンの良さで、幸運の女神に拾われたに過ぎない
いざ戦闘になったら、どう考えても『ズィータ』や『ウインダム』には勝てないし、『ストリクス』『タスラム』相手では戦闘と呼べるものになるかすら怪しく、『仁竜』には得意距離における戦闘経験値に差がありすぎた
(結局私は・・・あいつに勝つので精一杯なのか・・・)
『ジルベノウ』に勝った事実を、実感として明確に受け入れる事が彼女には出来ていなかった
と、いうよりも、あの瞬間のヌルの戦力というのは実は相当な強運に恵まれた上での物に過ぎない事に、彼女自身が何よりも気付いていた
(姉さまへの愛で私の心が満たされていたって、空を飛んでいる相手は降りてきてくれないし、長距離砲撃が出来る相手は近づいてはくれないよなぁ)
結局それまでの戦闘プランそのものが脆弱過ぎるのだ・・・だからここ数日、ヌルは新しいスタイルの模索を始めていた
憧れた銃撃戦のみでの戦闘スタイルを諦め、重装甲と白兵戦闘能力をより重視したスタイルへの転換・・・
徐々に自分が嫌っている「あいつ」・・・つまりは華墨のスタイルに近付いていくのが厭だった
「体のほうは、もう良いのか?」
トレーニングを再開したニビルに話しかけるクイントス
「ええ、大丈夫よ・・・それにしても流石は、『私に挑む為にこの一連の闘いを経て君達がさらに強くなってくれるなら』なんて真顔で言うだけの事はあって余裕ね。別に貴女に心配される謂れは無いわ」
「・・・自分を偽っても仕方あるまい。どんなに繕おうと、自分は自分以外の誰かになどなれはしないのだからな・・・」
「・・・・・・っ!説教がましく言わないで・・・遅れを取り戻すのにこっちは必死なのよ」
「・・・済まない、邪魔をしたな・・・」
クイントスにとっては自分自身を含めて、あらゆる武装神姫の価値基準はただひとつ、「どれくらい強いか」なのであろう
自分自身もそう思われ、そういう風に値踏みされているであろう
そういう考えは半ば被害妄想的ですらあったが、「どれだけ頑張っても武装神姫は武装神姫」という強固なクイントスの信念が、彼女の立ち振る舞いに現れ、貫かれるべき根幹を成しているのもまた事実であった
そして、その点がまさしくクイントスを嫌う最大の理由なのではないかと、最近ニビルは気付き始めていた
彼女の誇る「完璧さ」は自分の目指そうとしている世界の扉を閉じてしまう・・・そういう厭な予感
彼女のあり方が武装神姫のあるべき姿なのではないかと思ってしまう強迫観念
本人にとっては全く謂れ無き嫌悪であったが、クイントスはニビルにとって、打ち破るべき磐石な、頭の固い常識の象徴であった
『自分の目指すものを否定する存在を嫌悪する』
そう書けば普通かも知れないが、だからといってクイントスの一言一句に食って掛かり、同じ部屋に居る事すら避けようとするニビルの態度はヌルならずとも相当鼻に付いただろう
「・・・やはり、相当嫌われてるのだな・・・」
自分の強さを妬まれ、憎悪される分には却って戦士を自称するクイントスにとって賞賛であったかも知れない
だが、ニビルがそういう人格でない事を彼女は知っていた・・・だからこそ余計に、嫌われる理由に思い当たらないあたり、このふたりの関係はやはり良好と言えないものだろう
「やっぱり問題になるのは空中戦だって!装備をもちっと充実させて備えるべきだろ」
「何いってんのよ!むしろ今更慣れない戦術の練習をするよりは長所を伸ばすべきに決まってんじゃない!ばっかじゃないの!?」
「・・・仲良いというか・・・なんだかとても分かり合っているのだな、エルギール、マスター・・・」
「お前の為だろうが!!」(←同時→)「べ・・・っ別にアンタの為じゃないんだからね!!」
「・・・・・・」
エルギールが来た事によって、華墨は決勝リーグ開催迄の間練習相手に困る事は無かった
ここで初めて、華墨はエルギールの『まだ誰にも見せていない』公式武装形態を見た訳だが、何故彼女が其処までしてくれたのかについて思いを馳せる事はついぞ無かったあたり、エルギールもかなり報われない神姫である
因みに、琥珀は普通の料理に関してはチョコレート程危険な腕前では無かった事が武士にとって幸運であった事もここに併記しておく
「何にせよ、僕らがここまでしてあげたんだ、そこそこ善戦してくれないと怒るよ」
「わ・・・判りました琥珀嬢!この華墨、この・・・」
丁度太刀を持っていなかったので、手近にあったフィギュアの剣を胸前に構える
「このまどろみの剣(注1)にかけて!無様な闘いはいたしません!!」
「うむ、頑張って来るが良い」
「勝手に俺のフィギュアの剣をかけてんじゃねえ」
決勝リーグは、もうすぐ始まろうとしていた
[[剣は紅い花の誇り]] [[前へ>「HELLO,CP ISOLATION」]] [[次へ]]
注1:2030年発売の、「ドラゴンクエストⅩⅤアクションフィギュア」No.12「遊び人ポルメ」の付属品
私、ニビルは無事だった
あれだけ悲劇風味の展開を重ねておいてそれかい!とか突っ込まないで欲しい
認めたくない事だが、結局機械の体である以上、破損した箇所は取り替えてしまえば良いのもまた事実だった
特に、私のオーバーロードは、「オーバーロードの使用」それ自体には何のペナルティも無い
単に、ストラーフの主力武装の殆ど、武装神姫の素体直付けパーツの使用に制限があるだけである
無論、もしかしたら他にも何か見えないペナルティがあるのかも知れないが
顕現しないものの事まで考えていても仕方が無いというのが私の結論だった
ズタズタになった神経系を修復し、新しい四肢に慣れるのに数日を要したが、あとはいつも通り。決勝リーグに向けての調整を重ねるのだった
* 「Somewhere Nowhere」
「・・・じゃぁ、姉さまが今迄強化パーツを使わなかったのは?」
「そうだよ、ニビルの体に宿ったオーバーロードが拡張端子の使用を困難にしてるのさ」
逆さまにひっくり返った状態で、ヌルはキャロの話を聞いていた
場所は槙縞玩具店の地下にあつらえられたリアルバトル用演習場である・・・本来はここも、槙縞ランキングの主要舞台の一つとして使用される予定だったらしいが、何故か皆川はバーチャルバトルに拘りを持っていた
愛玩派オーナーの参入も促しやすい事と、別にバーチャルバトルだからといって不平不満を述べる神姫も特に居なかったので、この演習場は放置され、時折ヌルやクイントス等が練習に使っているだけの施設に成り下がっていた
本来なら電動薬動の様々なギミックが盛り込まれていたのだが、天井の照明すら入っておらず、手入れも全くされていない様子であり、その種のギミックも全くの稼動不能状態である
「何で今迄言ってくれなかったんだろう・・・」
体を起こし、明確に不満を顔中に表すヌル
「あんたに話す必要がないと考えた理由ってんなら判らないでもないがね」
ヌルの肩にタオルをかけつつ、呟くキャロ
「拡張装備を使わずに・・・つまり普通に考えたら圧倒的に不利な状態で勝つ。そういう格好良い所をあんたに見せたかったんだよ。多分ね」
「いっつもそうだ・・・姉さまは・・・私は別に、姉さまの欠点だって含めて姉さまの事を愛せる自信があるのに・・・」
タオルで顔まで隠して蹲る
「惚気は良いけどさ・・・あんただってあるだろ?そういうの」
「どだいからして、準決勝でニビルと互角以上に戦う為に秘密特訓ってのも充分過ぎる程格好付けだと思うけどね、あたしゃ」
「・・・・・・」
確かに、並み居る強豪を押しのけて、準決勝でニビルとヌルが当たるというのは、両者の実力から考えて相当無理がある事を、ヌルはやはり知覚していた
ニビルはまだオーバーロードがあるから良いが、ヌルは実戦経験という観点に於いて華墨とほぼ同等の新人であり、コネによる恵まれたトレーニング環境と、華墨のものほどまだ明白ではないが、ゆらぎ由来の密着格闘戦における天性のカンの良さで、幸運の女神に拾われたに過ぎない
いざ戦闘になったら、どう考えても『ズィータ』や『ウインダム』には勝てないし、『ストリクス』『タスラム』相手では戦闘と呼べるものになるかすら怪しく、『仁竜』には得意距離における戦闘経験値に差がありすぎた
(結局私は・・・あいつに勝つので精一杯なのか・・・)
『ジルベノウ』に勝った事実を、実感として明確に受け入れる事が彼女には出来ていなかった
と、いうよりも、あの瞬間のヌルの戦力というのは実は相当な強運に恵まれた上での物に過ぎない事に、彼女自身が何よりも気付いていた
(姉さまへの愛で私の心が満たされていたって、空を飛んでいる相手は降りてきてくれないし、長距離砲撃が出来る相手は近づいてはくれないよなぁ)
結局それまでの戦闘プランそのものが脆弱過ぎるのだ・・・だからここ数日、ヌルは新しいスタイルの模索を始めていた
憧れた銃撃戦のみでの戦闘スタイルを諦め、重装甲と白兵戦闘能力をより重視したスタイルへの転換・・・
徐々に自分が嫌っている「あいつ」・・・つまりは華墨のスタイルに近付いていくのが厭だった
「体のほうは、もう良いのか?」
トレーニングを再開したニビルに話しかけるクイントス
「ええ、大丈夫よ・・・それにしても流石は、『私に挑む為にこの一連の闘いを経て君達がさらに強くなってくれるなら』なんて真顔で言うだけの事はあって余裕ね。別に貴女に心配される謂れは無いわ」
「・・・自分を偽っても仕方あるまい。どんなに繕おうと、自分は自分以外の誰かになどなれはしないのだからな・・・」
「・・・・・・っ!説教がましく言わないで・・・遅れを取り戻すのにこっちは必死なのよ」
「・・・済まない、邪魔をしたな・・・」
クイントスにとっては自分自身を含めて、あらゆる武装神姫の価値基準はただひとつ、「どれくらい強いか」なのであろう
自分自身もそう思われ、そういう風に値踏みされているであろう
そういう考えは半ば被害妄想的ですらあったが、「どれだけ頑張っても武装神姫は武装神姫」という強固なクイントスの信念が、彼女の立ち振る舞いに現れ、貫かれるべき根幹を成しているのもまた事実であった
そして、その点がまさしくクイントスを嫌う最大の理由なのではないかと、最近ニビルは気付き始めていた
彼女の誇る「完璧さ」は自分の目指そうとしている世界の扉を閉じてしまう・・・そういう厭な予感
彼女のあり方が武装神姫のあるべき姿なのではないかと思ってしまう強迫観念
本人にとっては全く謂れ無き嫌悪であったが、クイントスはニビルにとって、打ち破るべき磐石な、頭の固い常識の象徴であった
『自分の目指すものを否定する存在を嫌悪する』
そう書けば普通かも知れないが、だからといってクイントスの一言一句に食って掛かり、同じ部屋に居る事すら避けようとするニビルの態度はヌルならずとも相当鼻に付いただろう
「・・・やはり、相当嫌われてるのだな・・・」
自分の強さを妬まれ、憎悪される分には却って戦士を自称するクイントスにとって賞賛であったかも知れない
だが、ニビルがそういう人格でない事を彼女は知っていた・・・だからこそ余計に、嫌われる理由に思い当たらないあたり、このふたりの関係はやはり良好と言えないものだろう
「やっぱり問題になるのは空中戦だって!装備をもちっと充実させて備えるべきだろ」
「何いってんのよ!むしろ今更慣れない戦術の練習をするよりは長所を伸ばすべきに決まってんじゃない!ばっかじゃないの!?」
「・・・仲良いというか・・・なんだかとても分かり合っているのだな、エルギール、マスター・・・」
「お前の為だろうが!!」(←同時→)「べ・・・っ別にアンタの為じゃないんだからね!!」
「・・・・・・」
エルギールが来た事によって、華墨は決勝リーグ開催迄の間練習相手に困る事は無かった
ここで初めて、華墨はエルギールの『まだ誰にも見せていない』公式武装形態を見た訳だが、何故彼女が其処までしてくれたのかについて思いを馳せる事はついぞ無かったあたり、エルギールもかなり報われない神姫である
因みに、琥珀は普通の料理に関してはチョコレート程危険な腕前では無かった事が武士にとって幸運であった事もここに併記しておく
「何にせよ、僕らがここまでしてあげたんだ、そこそこ善戦してくれないと怒るよ」
「わ・・・判りました琥珀嬢!この華墨、この・・・」
丁度太刀を持っていなかったので、手近にあったフィギュアの剣を胸前に構える
「このまどろみの剣(注1)にかけて!無様な闘いはいたしません!!」
「うむ、頑張って来るが良い」
「勝手に俺のフィギュアの剣をかけてんじゃねえ」
決勝リーグは、もうすぐ始まろうとしていた
[[剣は紅い花の誇り]] [[前へ>「HELLO,CP ISOLATION」]] [[次へ>「Southern Cross」]]
注1:2030年発売の、「ドラゴンクエストⅩⅤアクションフィギュア」No.12「遊び人ポルメ」の付属品
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: