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「「Unknown・・・Despair・・・aLost」」(2007/04/02 (月) 14:27:38) の最新版変更点
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華墨にとって、その感覚は未知だったが、知識の範疇にある判例とその光景は酷似していた
即ち、悲嘆
そしてそれが思慕故に生じている事がありありと伝わって来ていた
泣き叫ぶヌルを見て、正直華墨は勝てる気がしなかった
自分はあれ程に感情を爆発させる事が出来るだろうか?
させるだけの相手が居るだろうか?
誰かの為に涙を流す事が出来るだろうか?
そして、今になってようやく、ニビルに対して抱いていた感情の正体が判りかけていた
多分、それは
初恋、それも、一目惚れの部類に属する代物だったのだろう
だからこそ
ヌルに勝てる気がしなかった
ヌルと、ニビルを巡って争う事が出来る自信が、今の華墨には無かった
愛の深さが、違い過ぎる
思慕で、想いだけで、レベル差も、相性の悪さも埋めてしまったヌル・・・
だが
それ故に今のヌルはか弱く、触れれば崩れてしまいそうだった
それを支えてやろうとする意思も資格も腕も、今の自分にはありはしないと、華墨は感じていた
『バトル開始迄、5、4、3・・・』
そして今、弱者達の意思も事情も無視して、無機質かつ事務的に、今日最後のバトルが開始されようとしていた
* 「Unknown・・・Despair・・・aLost」
甲高い音を立てながら、白影となった『リフォー』が地を駆ける
今回のバトルフィールドは、ポリゴンで形成された様なデザインの、レトロなゲーム空間風だ
天井が低く、ウインダムがその飛翔能力を最大限に生かす事は不可能だろう
槙縞ランキング二位、アーンヴァルの『リフォー』
槙島ランキングに於いて、『ジルベノウ』『ズィータ」と並ぶ、徹底した非公式武装主義者として知られ、『バーチャロン』に登場した『テムジン系バーチャロイド』様の増加装甲、センサ付きバイザー、ダッシュブースター、剣銃を装備した機動力、攻撃力、装甲(注1)を高次元でバランスさせた強力なランカーであり、その装備に公式武装は一切使用されていない
『クイントス』の様に、あらゆる局面に対応する為の最良の装備を全て使いこなすタイプではなく、色々な局面に無難に対応出来る一つの装備を完璧に使いこなすタイプである
その為、やや器用貧乏な感は否めないが、カスタムパーツ故のパーツ単位でのスペックの高さから、下位ランカー相手には極端な話、武器の性能だけで圧倒してしまう事も可能である
対するアーンヴァルの『ウインダム』は、公式武装のみで武装してはいるものの、機動戦闘装備としてはかなり洗練された部類に入るタイプで、火力は無いが粘り強さには定評があるタイプと言えそうだった
因みに、この装備に移行する前は、飛行タイプにありがちな、大推力、超抜トップスピード目的の、羽根やタンクがゴテゴテ装備されたタイプだったのだが、運動性の劣悪さ故に『タスラム』に勝てずに居た所を、テレビで見た『マイティ』の武装に感銘を受け、思い切ってコピーしたものである
いずれにしても、一方は天の、一方は地の、という差はあれど、機動力に定評のあるランカー同士の闘いである
降格前は『ナイン』の一人でありながら一度も『リフォー』に勝った事が無かったとは言え、空中を自在に移動出来る分、やはり『ウインダム』の方がやや有利と言う見方が、観客の大半を占めていた
(それにしても・・・あんな事があったと言うのに、ここの連中の集中力と言うか、勝負にかける情熱は異常だな・・・)
密かに、川原正紀は思った
どう考えても『モア』の身を襲った異常は『モア』や『タスラム』自身に原因があるとは思われなかった
何故なら、同様の事件が過去にも起こっている事を彼は知っていたからだ
(『バニシングフォー』・・・か。二年前の槙縞チャンピオン杯争奪戦の頃から連続している事件だ・・・やはり今回も起こったか・・・)
二年前の二月大会の折、当時の『ナイン』の一人でありランキング黎明期のランカーの一人であった『アントラコクマ』がバトル中に突如『オーバーロード』を発症し、バトル後にオーナー共々失踪するという事件が起こった
以来今日この日に至る迄、既に4体の神姫とそのオーナーが行方不明になったり、不自然な引越しをしたりしていた
もし『モア』と飯島千夏が失踪したら、五組目の「消滅者」と言うことになり、『バニシングフォー』は『バニシングファイブ』となるだろう
(警察も動いたりした様だが、結局満足のいく手掛かりは掴めなかったと聞くが・・・)
そもそも大元を辿れば、その年の頭頃に、槙縞玩具店のオーナーの娘にして、『キャロライン』の本来のマスターであった槙縞 静が謎の失踪を遂げており、『キャロライン』は引退し、代わりに『クイントス』が急激に力を付け始めたのだった
そして、『アントラコクマ』が失踪した大会で、『クイントス』は優勝し、槙縞ランキングの女王となったのだ
(そんな状況にも関わらず、神姫はおろかそのオーナーの闘争心迄引き出してしまうとは)
やれやれ、と正紀は肩を竦めた
クイントスの演説、クイントスへの挑戦権というのが、こう迄皆を戦場へ駆り立てて行く様が、彼にとっては半ば不気味ですらあった
少なくとも、『アントラコクマ』以外の3人と、今回の『モア』は、動機はどうあれ、形としては『クイントス』に挑む道の途中で失踪し、消えてしまったのだ
(北欧のオーディン神は、これと見込んだ勇者の魂を『戦乙女』を使って刈り集めるというが・・・)
そういった迷信めいた符合は、決して正紀の好む所ではなかった
輝く弾丸が連続して『リフォー』のライフルから放たれ、空中に輝線をいくつも描く
狙いは正確かつ二の手を読んだもので、『ウインダム』は二度程、被弾寸前の憂き目を見ながらも、一度も有効な反撃が出来ずに居た
大方の意に反して、勝負を優勢に進めているのは、戦場を自発的に選べない筈(と思われていた)の『リフォー』であった
超高速かつ長射程のHEMランチャーを『ウインダム』は備えていたが、電力をチャージし、狙いを付ける迄の僅かな間を巧く稼がせて貰えず、中距離以上に対しての有効な反撃手段が乏しかったのが原因のひとつであろう
この点は、地形が『リフォー』に味方したと言えるだろう
だが、弾幕密度の薄さの割りに、悉く『ウインダム』の「距離を取ろうとする動き」を制して見せるあたり、流石ランカー二位と言って良いだけの実力を、『リフォー』はしっかり持っていた
「強ええ・・・!流石だぜ」
武士が我知らず声を漏らしていた
「ああも戦況をコントロールされたんじゃ手も足も出ないぜ・・・華墨、お前ならどうする?」
「・・・あ?あぁ、私か?私なら・・・そうだな・・・多少の被弾は覚悟の上でダッシュで間合いを詰めるしかないだろうな・・・だが・・・」
ヌル達が臨時の控え室に戻っていった方向を見つめながら考え事をしていた為、やや反応が遅れたが、華墨はすぐに戦況の分析を始めた
「だが?何だよ」
「あれを見ろマスター。『リフォー』の左腕には右腕には無い青いカバーがかかっているだろう?」
「あぁ、言われてみれば確かに」
確かに、『リフォー』の左前腕には、ガンダムNT-1ライクな蒼いカバーがかかっていた
リフォーの右腕のライフルは、大剣とライフルを兼ねるが、中距離よりやや遠めに、三発程纏めて発砲して確実に当てるか、でなければ一気に接近して叩き切るといった、割合大雑把な武器の様だった
となれば、中近距離以近の弾幕生成火器は、恐らく見た目そのままに、左腕のカバー内に仕込まれたガトリング砲か何かであろう・・・と華墨は分析した
「地対空で使うより地対地で使った方が良いだろう・・・それが判っているから恐らく『ウインダム』は接敵する機が無いのではないか?」
「お見事!なかなか相手の戦力分析も様になってきたじゃないか!華墨」
「褒めても何も出ないぞ」
逆に言えば、あれだけコンパクトに収められた隠し武器なのだから、恐らくそれ程弾数が無く、使用の機会は慎重に検討しなければならないという事だ
「攻略するとしたらその中距離をどう凌ぐかだが、凌いでも白兵戦になったら私には厳しいかも知れないな」
「ほう?何でだ?」
「あの大剣銃の方が私の武器より間合いが広い。飛び込めたらあの図体だ、容易には揮えまいと思うが、装甲もかなり分厚いし、その癖速いからな・・・なんて良い所取りな装備だっ!?」
言いながらも、ヌルならばその理屈上の差も埋めてしまうのではないかという、根拠の薄弱な思い込みが華墨の中に根付きつつあった
感情によるパワーアップ・・・理屈ではなく。例えばあと一歩を踏み込む度胸が無い所を、踏み込ませてくれるのは想い一念、マスターの激励であったりちゃちなプライドだったりするのだろう
現に自分も「その効能」にあやかって勝ちを繋いだひとりである事を、華墨は理解していた
だが同時に、その脆さも既に判っていた
(信念や思い込みだけで勝てるなら誰も苦労しはしない・・・そも結局『ホークウインド』はそのプライド故に敗れたのではなかったか?)
だからと言って、勝つ事のみが至上で無い事も、華墨は充分には理解していないという訳ではなかったのだが
重い音と共に、『ウインダム』の翼が火を吹く
遂に被弾してしまった様だったが、『ウインダム』はバランスを崩したかに見える体勢はそのままに、きりもみ回転しながらもまっすぐ『リフォー』に向けて落下していた
否、落下ではない・・・それは、狙った急降下だ
人間ならば即失神は免れ得ない恐るべきスピードで『ウインダム』は降下する、その間、遂に封印を解かれた『リフォー』左腕の機関銃が火を噴く
装甲が弾け飛んでゆく『ウインダム』だが、全推進機器を直線状に並べた『ウインダム』の速度は『リフォー』の予想を僅かに上回り、また、きりもみ回転の回転径を見誤った『リフォー』の機銃は、思ったより遥かに集弾率が悪かった
*ずしん
ショックウエーブを大量に纏っての突撃攻撃・・・本来『リフォー』の様な相手にはそうそう当たるものではない愚策と言えよう
だが、今回の勝負はまさに『運』が二人の動きを決定したと言って良い
フィールドが『ウインダム』に不利な場所だったのも運
『ウインダム』のきりもみが『リフォー』の予想外の軌道を描いたのも運
余り有効性は期待されておらず、事前に外す事迄話に上がっておきながら、外し忘れたと、後に深町昭は語っているが、背中に実剣を装備していた事が、結果として『ウインダム』の勝利に貢献したのもまた『運』
逆に言えば、運程度で変わってしまう程、両者の戦力は拮抗し、また、危うい均衡であったという事の証左でもあった
衝撃と回転、そして『リフォー』の装甲との衝突に耐えられなかったアーミーブレードが折れ曲がっている
当の『ウインダム』本人が、自分の勝利を知覚するのにジャッジマシンのアナウンスを待たなければならない有様だった
華墨その勝負の有様に寒気すら覚えていた
(私は・・・まだまだ未熟だ・・・あれ程の闘いが、私に出来るだろうか?見ていた物の記憶に残る様な闘いが?)
姑息な手で勝利を掴み取った忍者との闘いを脳裏に浮かべ、そして彼女らの誰よりも強いと言われる『クイントス』の、まだ見ぬ力に思いを馳せた
拳を音がするほど握り締めた華墨の背中を、武士はやさしく撫でてやるのだった
ともあれ、これで決勝リーグに進出する武装神姫8体が出揃ったのである
即ち、
『ニビル』
『ズィータ』
『ストリクス』
『仁竜』
『タスラム』
『華墨』
『ヌル』
『ウインダム』
この八体の優勝者が、『クイントス』と闘う事になるのだ・・・!
川原正紀はミラーシェードを外し、今度こそ店の外に出た
いつの間にか曇り空になっており、明日あたりから荒れそうな空模様だった
[[剣は紅い花の誇り]] [[前へ>第拾死幕 「かすみ -見目形 目に焼き付けて-」]] [[次へ>]]
注1:武装神姫のレベルで言えば、軽量AC並みのボリュームの『ジルベノウ』も、テムジン並みのボリュームの『リフォー』も、かなり厚手の装甲を纏っている格好になるのは、武装神姫をいじった事がある人ならば判ってくれる物と思う
華墨にとって、その感覚は未知だったが、知識の範疇にある判例とその光景は酷似していた
即ち、悲嘆
そしてそれが思慕故に生じている事がありありと伝わって来ていた
泣き叫ぶヌルを見て、正直華墨は勝てる気がしなかった
自分はあれ程に感情を爆発させる事が出来るだろうか?
させるだけの相手が居るだろうか?
誰かの為に涙を流す事が出来るだろうか?
そして、今になってようやく、ニビルに対して抱いていた感情の正体が判りかけていた
多分、それは
初恋、それも、一目惚れの部類に属する代物だったのだろう
だからこそ
ヌルに勝てる気がしなかった
ヌルと、ニビルを巡って争う事が出来る自信が、今の華墨には無かった
愛の深さが、違い過ぎる
思慕で、想いだけで、レベル差も、相性の悪さも埋めてしまったヌル・・・
だが
それ故に今のヌルはか弱く、触れれば崩れてしまいそうだった
それを支えてやろうとする意思も資格も腕も、今の自分にはありはしないと、華墨は感じていた
『バトル開始迄、5、4、3・・・』
そして今、弱者達の意思も事情も無視して、無機質かつ事務的に、今日最後のバトルが開始されようとしていた
* 「Unknown・・・Despair・・・aLost」
甲高い音を立てながら、白影となった『リフォー』が地を駆ける
今回のバトルフィールドは、ポリゴンで形成された様なデザインの、レトロなゲーム空間風だ
天井が低く、ウインダムがその飛翔能力を最大限に生かす事は不可能だろう
槙縞ランキング二位、アーンヴァルの『リフォー』
槙島ランキングに於いて、『ジルベノウ』『ズィータ」と並ぶ、徹底した非公式武装主義者として知られ、『バーチャロン』に登場した『テムジン系バーチャロイド』様の増加装甲、センサ付きバイザー、ダッシュブースター、剣銃を装備した機動力、攻撃力、装甲(注1)を高次元でバランスさせた強力なランカーであり、その装備に公式武装は一切使用されていない
『クイントス』の様に、あらゆる局面に対応する為の最良の装備を全て使いこなすタイプではなく、色々な局面に無難に対応出来る一つの装備を完璧に使いこなすタイプである
その為、やや器用貧乏な感は否めないが、カスタムパーツ故のパーツ単位でのスペックの高さから、下位ランカー相手には極端な話、武器の性能だけで圧倒してしまう事も可能である
対するアーンヴァルの『ウインダム』は、公式武装のみで武装してはいるものの、機動戦闘装備としてはかなり洗練された部類に入るタイプで、火力は無いが粘り強さには定評があるタイプと言えそうだった
因みに、この装備に移行する前は、飛行タイプにありがちな、大推力、超抜トップスピード目的の、羽根やタンクがゴテゴテ装備されたタイプだったのだが、運動性の劣悪さ故に『タスラム』に勝てずに居た所を、テレビで見た『マイティ』の武装に感銘を受け、思い切ってコピーしたものである
いずれにしても、一方は天の、一方は地の、という差はあれど、機動力に定評のあるランカー同士の闘いである
降格前は『ナイン』の一人でありながら一度も『リフォー』に勝った事が無かったとは言え、空中を自在に移動出来る分、やはり『ウインダム』の方がやや有利と言う見方が、観客の大半を占めていた
(それにしても・・・あんな事があったと言うのに、ここの連中の集中力と言うか、勝負にかける情熱は異常だな・・・)
密かに、川原正紀は思った
どう考えても『モア』の身を襲った異常は『モア』や『タスラム』自身に原因があるとは思われなかった
何故なら、同様の事件が過去にも起こっている事を彼は知っていたからだ
(『バニシングフォー』・・・か。二年前の槙縞チャンピオン杯争奪戦の頃から連続している事件だ・・・やはり今回も起こったか・・・)
二年前の二月大会の折、当時の『ナイン』の一人でありランキング黎明期のランカーの一人であった『アントラコクマ』がバトル中に突如『オーバーロード』を発症し、バトル後にオーナー共々失踪するという事件が起こった
以来今日この日に至る迄、既に4体の神姫とそのオーナーが行方不明になったり、不自然な引越しをしたりしていた
もし『モア』と飯島千夏が失踪したら、五組目の「消滅者」と言うことになり、『バニシングフォー』は『バニシングファイブ』となるだろう
(警察も動いたりした様だが、結局満足のいく手掛かりは掴めなかったと聞くが・・・)
そもそも大元を辿れば、その年の頭頃に、槙縞玩具店のオーナーの娘にして、『キャロライン』の本来のマスターであった槙縞 静が謎の失踪を遂げており、『キャロライン』は引退し、代わりに『クイントス』が急激に力を付け始めたのだった
そして、『アントラコクマ』が失踪した大会で、『クイントス』は優勝し、槙縞ランキングの女王となったのだ
(そんな状況にも関わらず、神姫はおろかそのオーナーの闘争心迄引き出してしまうとは)
やれやれ、と正紀は肩を竦めた
クイントスの演説、クイントスへの挑戦権というのが、こう迄皆を戦場へ駆り立てて行く様が、彼にとっては半ば不気味ですらあった
少なくとも、『アントラコクマ』以外の3人と、今回の『モア』は、動機はどうあれ、形としては『クイントス』に挑む道の途中で失踪し、消えてしまったのだ
(北欧のオーディン神は、これと見込んだ勇者の魂を『戦乙女』を使って刈り集めるというが・・・)
そういった迷信めいた符合は、決して正紀の好む所ではなかった
輝く弾丸が連続して『リフォー』のライフルから放たれ、空中に輝線をいくつも描く
狙いは正確かつ二の手を読んだもので、『ウインダム』は二度程、被弾寸前の憂き目を見ながらも、一度も有効な反撃が出来ずに居た
大方の意に反して、勝負を優勢に進めているのは、戦場を自発的に選べない筈(と思われていた)の『リフォー』であった
超高速かつ長射程のHEMランチャーを『ウインダム』は備えていたが、電力をチャージし、狙いを付ける迄の僅かな間を巧く稼がせて貰えず、中距離以上に対しての有効な反撃手段が乏しかったのが原因のひとつであろう
この点は、地形が『リフォー』に味方したと言えるだろう
だが、弾幕密度の薄さの割りに、悉く『ウインダム』の「距離を取ろうとする動き」を制して見せるあたり、流石ランカー二位と言って良いだけの実力を、『リフォー』はしっかり持っていた
「強ええ・・・!流石だぜ」
武士が我知らず声を漏らしていた
「ああも戦況をコントロールされたんじゃ手も足も出ないぜ・・・華墨、お前ならどうする?」
「・・・あ?あぁ、私か?私なら・・・そうだな・・・多少の被弾は覚悟の上でダッシュで間合いを詰めるしかないだろうな・・・だが・・・」
ヌル達が臨時の控え室に戻っていった方向を見つめながら考え事をしていた為、やや反応が遅れたが、華墨はすぐに戦況の分析を始めた
「だが?何だよ」
「あれを見ろマスター。『リフォー』の左腕には右腕には無い青いカバーがかかっているだろう?」
「あぁ、言われてみれば確かに」
確かに、『リフォー』の左前腕には、ガンダムNT-1ライクな蒼いカバーがかかっていた
リフォーの右腕のライフルは、大剣とライフルを兼ねるが、中距離よりやや遠めに、三発程纏めて発砲して確実に当てるか、でなければ一気に接近して叩き切るといった、割合大雑把な武器の様だった
となれば、中近距離以近の弾幕生成火器は、恐らく見た目そのままに、左腕のカバー内に仕込まれたガトリング砲か何かであろう・・・と華墨は分析した
「地対空で使うより地対地で使った方が良いだろう・・・それが判っているから恐らく『ウインダム』は接敵する機が無いのではないか?」
「お見事!なかなか相手の戦力分析も様になってきたじゃないか!華墨」
「褒めても何も出ないぞ」
逆に言えば、あれだけコンパクトに収められた隠し武器なのだから、恐らくそれ程弾数が無く、使用の機会は慎重に検討しなければならないという事だ
「攻略するとしたらその中距離をどう凌ぐかだが、凌いでも白兵戦になったら私には厳しいかも知れないな」
「ほう?何でだ?」
「あの大剣銃の方が私の武器より間合いが広い。飛び込めたらあの図体だ、容易には揮えまいと思うが、装甲もかなり分厚いし、その癖速いからな・・・なんて良い所取りな装備だっ!?」
言いながらも、ヌルならばその理屈上の差も埋めてしまうのではないかという、根拠の薄弱な思い込みが華墨の中に根付きつつあった
感情によるパワーアップ・・・理屈ではなく。例えばあと一歩を踏み込む度胸が無い所を、踏み込ませてくれるのは想い一念、マスターの激励であったりちゃちなプライドだったりするのだろう
現に自分も「その効能」にあやかって勝ちを繋いだひとりである事を、華墨は理解していた
だが同時に、その脆さも既に判っていた
(信念や思い込みだけで勝てるなら誰も苦労しはしない・・・そも結局『ホークウインド』はそのプライド故に敗れたのではなかったか?)
だからと言って、勝つ事のみが至上で無い事も、華墨は充分には理解していないという訳ではなかったのだが
重い音と共に、『ウインダム』の翼が火を吹く
遂に被弾してしまった様だったが、『ウインダム』はバランスを崩したかに見える体勢はそのままに、きりもみ回転しながらもまっすぐ『リフォー』に向けて落下していた
否、落下ではない・・・それは、狙った急降下だ
人間ならば即失神は免れ得ない恐るべきスピードで『ウインダム』は降下する、その間、遂に封印を解かれた『リフォー』左腕の機関銃が火を噴く
装甲が弾け飛んでゆく『ウインダム』だが、全推進機器を直線状に並べた『ウインダム』の速度は『リフォー』の予想を僅かに上回り、また、きりもみ回転の回転径を見誤った『リフォー』の機銃は、思ったより遥かに集弾率が悪かった
*ずしん
ショックウエーブを大量に纏っての突撃攻撃・・・本来『リフォー』の様な相手にはそうそう当たるものではない愚策と言えよう
だが、今回の勝負はまさに『運』が二人の動きを決定したと言って良い
フィールドが『ウインダム』に不利な場所だったのも運
『ウインダム』のきりもみが『リフォー』の予想外の軌道を描いたのも運
余り有効性は期待されておらず、事前に外す事迄話に上がっておきながら、外し忘れたと、後に深町昭は語っているが、背中に実剣を装備していた事が、結果として『ウインダム』の勝利に貢献したのもまた『運』
逆に言えば、運程度で変わってしまう程、両者の戦力は拮抗し、また、危うい均衡であったという事の証左でもあった
衝撃と回転、そして『リフォー』の装甲との衝突に耐えられなかったアーミーブレードが折れ曲がっている
当の『ウインダム』本人が、自分の勝利を知覚するのにジャッジマシンのアナウンスを待たなければならない有様だった
華墨その勝負の有様に寒気すら覚えていた
(私は・・・まだまだ未熟だ・・・あれ程の闘いが、私に出来るだろうか?見ていた物の記憶に残る様な闘いが?)
姑息な手で勝利を掴み取った忍者との闘いを脳裏に浮かべ、そして彼女らの誰よりも強いと言われる『クイントス』の、まだ見ぬ力に思いを馳せた
拳を音がするほど握り締めた華墨の背中を、武士はやさしく撫でてやるのだった
ともあれ、これで決勝リーグに進出する武装神姫8体が出揃ったのである
即ち、
『ニビル』
『ズィータ』
『ストリクス』
『仁竜』
『タスラム』
『華墨』
『ヌル』
『ウインダム』
この八体の優勝者が、『クイントス』と闘う事になるのだ・・・!
川原正紀はミラーシェードを外し、今度こそ店の外に出た
いつの間にか曇り空になっており、明日あたりから荒れそうな空模様だった
[[剣は紅い花の誇り]] [[前へ>第拾死幕 「かすみ -見目形 目に焼き付けて-」]] [[次へ>「HELLO,CP ISOLATION」]]
注1:武装神姫のレベルで言えば、軽量AC並みのボリュームの『ジルベノウ』も、テムジン並みのボリュームの『リフォー』も、かなり厚手の装甲を纏っている格好になるのは、武装神姫をいじった事がある人ならば判ってくれる物と思う
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