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**熱気の坩堝──あるいは初日その三(後半)
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魔剣匠工房“鬼奏”とは、此処より遠い片田舎にある刀剣専門店だ。
中でも“魔剣”等と呼ばれる異能の刃を……しかもMMS用のそれを
打ち出す事へと特化しており、その経営実態にも色々と秘密が多い。
それ故なのか私は工房専属の刀匠と出会って以来、親近感を覚える。
刀匠の名は、神浦琥珀。琥珀色の瞳が愛らしい、年齢不詳の女性だ。
……お前もだろう、とか言った奴は後で八つ裂きにしてやるからな?
「しかし、まさか琥珀がこの“鳳凰カップ”に出典するとはな?」
「何よ、出て来ちゃいけないっての!穴蔵暮らしの癖してっ!?」
「そうは言っておらぬ、エルギール。非礼は、これで免じてくれ」
「……“フィオラ”。ふ、ふんっ!そんなインチキしていいの?」
私に突っかかってきたのは、ジルダリアタイプの神姫・エルギールだ。
無口な琥珀に変わり電話やメールに出るので、彼女はよく知っている。
第四弾独特のトリッキーな生き様故なのか、既に独自の戦闘スタイルを
構築しており、結構地元では強い方……と彼女自身から、聞いている。
先刻その彼女が別の人と共に、“ALChemist”のブースに来たのでな。
手みやげ……先程は売り切れていたケープ……を持って訪れた次第だ。
「にしてもさ、なんでアンタなんかがウチに用ある訳?何時も何時も」
「機械的な技を持っているのに、とでも言いたげだな?エルギールや」
「当然でしょう!バカにしてるわけでもないし、不可解なのよッ!?」
「……不思議な出来事なんてのは、この世にいっぱいあるからね……」
琥珀が重い口を開く。その通りだ、オカルトや不可思議という出来事は
多種多様な技術が発達していても決して無くなる事はない。何故なら、
超科学だろうが呪術だろうが魔法の儀式だろうが、知的生命体が事実を
正しく認識出来なければ、それは全て“不思議な事”となってしまう。
故に如何なる技術や理論があろうとも、その手の現象は尽きぬのだな。
だからこそ私は、鋼を手にしてもそう言った事柄を否定する事はない。
「そしてそれは、マイスターと琥珀さんの仲にも言える事なんだよ」
「初めまして……そちらの娘は、お友達で……いや、“妹”さん?」
「はぁ?!何言ってるのよ、どう見たって人種が違うじゃないの!」
「いや、その通り。槇野梓、フィンランド人だが腹違いの“妹”だ」
「……あ、あのえっと。エルギールさん、顔が真っ赤ですよ……?」
「うっさいわねストラーフッ!!早とちりしただけじゃないの!?」
琥珀のイントネーションが若干おかしかった気もするが、ここは見逃す。
エルギールにやり込められて涙目のアルマを梓に任せ、私は琥珀を見つめ
一言告げる。それを聞いた彼女の面は、少しばかり引き締まって見えた。
それこそが彼女を凡庸な存在から引き剥がす、“匠の魂”の証明なのだ。
「僕に依頼……しかも“魔剣”を三振り……初めてだね、晶ちゃん」
「そうだな。琥珀に面と向かい頼む事は、これまで一度も無かった」
「……なんでまた、急に?しかもロッテちゃん、“銃使い”なのに」
「だからこそだ。私自身のプランは、一つの区切りを迎えたのでな」
軽量級クラス用の武装である“Valkyrja”は、“SSS”の登場を以て
一度改良の限界まで達してしまった。これより先のステージに進むには
ある種の“転換点”……あるいは“ブレイクスルー”が必要なのだな。
まだ“SSS”を与えられていないアルマとクララにも、何れは同様の
限界が待っている。クララは“魔術”の発展という別の頂点もあるが、
それでも装備の増設……あるいは使い分けを考慮せねばならなかった。
「“Valkyrja”の最終追加武装として、そして次世代の礎としても」
「僕の“魔剣”を、ベースに……そういう事なのかな、晶ちゃん?」
「それって体のいい道具が欲しいって事じゃない!ナメてんの!?」
「その通り。だが全ては、琥珀の力量を見極めたが故の依頼なのだ」
私は悪党だろうが善人だろうが、その魂と誠意を依頼の第一義とする。
それは“鳳凰カップ”で“Electro Lolita”の受注を受けている今も、
曲げることなく徹頭徹尾貫き通している、私の“信念”に他ならない。
だからこそ、私は一見して無謀とも思えるスペックを琥珀に要求する。
琥珀ならばそれを実現出来る……と見極めたからこそ言える事を、だ!
「わたしからもお願いしますの、琥珀さん。もっと高めたいですの!」
「……ロッテちゃん。本気、かな?“琥珀の目”には、そう映るけど」
「はい。マイスターのリニアレールガンと違う、自分を貫く力を……」
「あたしも、“妹”のクララちゃんの分もお願いします!琥珀さん!」
いずれも機械的に実現する“だけ”ならば十分可能な、しかし性能と
携帯性……重量と体積……を両立するには、割と無茶が必要な刀剣。
そして何よりも……“本物の魔剣刀匠”としての、魂を込めた業物。
敢えてそれを得る事で、今後の“ブレイクスルー”への道標とする。
この事をしっかりと伝えた上で、私は琥珀からの返事をじっと待つ。
「ちょっと考えさせてね、晶ちゃん……真に必要なのかを見極めたい」
「それで構わぬ。というよりも、その見解こそが何より重要なのだ!」
「なら最初っからそう言えばいいじゃないの、捻くれてるわね全くッ」
「……お姉ちゃん、いつも素直じゃないからね。色々と苦労するもん」
必要ならば打ってもらう、必要でないのならばその事を指摘してもらう。
それだけの事柄でも、今後のプランニングにとっては重要な要素なのだ。
故に照れながらも礼を言い、私達は“鬼奏”のブースをそっと後にした。
「えっと……マイスター、でもよかったんですか?自分で作らないで」
「何も機能のみを求めている事ではないからな、餅は餅屋とも言うし」
「……“魔剣の刀匠”のお眼鏡にどう適うか。それが重要なんだよ?」
「有無、第三者の着眼点。ある種それは、魔剣よりも有り難い逸品だ」
「それならじっと黙って、琥珀さんのお返事を待つばかりですの~♪」
そうこうしている間に残り時間もなくなり、私達は大手企業をぶらりと
回ってから片付けを始める事とした。明日は決勝、そして祭りの後半!
キナ臭い噂も聞こえるが、何より今は楽しむ事こそ第一義だな。有無。
「ううむ、相変わらず“和三盆”のシンプルさは好評の様だな……」
「あ、あれ第六弾のサンプルですの!マイスター、要注目ですのッ」
「第四弾、やっぱり可憐ですよね……ハイブリッド生体パーツとか」
「……第五弾への対応も忘れちゃいけないもん、海戦能力ね……?」
──────明日はもっと、良い日になります様に……。
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**熱気の坩堝──あるいは初日その三(後半)
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魔剣匠工房“鬼奏”とは、此処より遠い片田舎にある刀剣専門店だ。
中でも“魔剣”等と呼ばれる異能の刃を……しかもMMS用のそれを
打ち出す事へと特化しており、その経営実態にも色々と秘密が多い。
それ故なのか私は工房専属の刀匠と出会って以来、親近感を覚える。
刀匠の名は、神浦琥珀。琥珀色の瞳が愛らしい、年齢不詳の女性だ。
……お前もだろう、とか言った奴は後で八つ裂きにしてやるからな?
「しかし、まさか琥珀がこの“鳳凰カップ”に出典するとはな?」
「何よ、出て来ちゃいけないっての!穴蔵暮らしの癖してっ!?」
「そうは言っておらぬ、エルギール。非礼は、これで免じてくれ」
「……“フィオラ”。ふ、ふんっ!そんなインチキしていいの?」
私に突っかかってきたのは、ジルダリアタイプの神姫・エルギールだ。
無口な琥珀に変わり電話やメールに出るので、彼女はよく知っている。
第四弾独特のトリッキーな生き様故なのか、既に独自の戦闘スタイルを
構築しており、結構地元では強い方……と彼女自身から、聞いている。
先刻その彼女が別の人と共に、“ALChemist”のブースに来たのでな。
手みやげ……先程は売り切れていたケープ……を持って訪れた次第だ。
「にしてもさ、なんでアンタなんかがウチに用ある訳?何時も何時も」
「機械的な技を持っているのに、とでも言いたげだな?エルギールや」
「当然でしょう!バカにしてるわけでもないし、不可解なのよッ!?」
「……不思議な出来事なんてのは、この世にいっぱいあるからね……」
琥珀が重い口を開く。その通りだ、オカルトや不可思議という出来事は
多種多様な技術が発達していても決して無くなる事はない。何故なら、
超科学だろうが呪術だろうが魔法の儀式だろうが、知的生命体が事実を
正しく認識出来なければ、それは全て“不思議な事”となってしまう。
故に如何なる技術や理論があろうとも、その手の現象は尽きぬのだな。
だからこそ私は、鋼を手にしてもそう言った事柄を否定する気はない。
「そしてそれは、マイスターと琥珀さんの仲にも言える事なんだよ」
「初めまして……そちらの娘は、お友達で……いや、“妹”さん?」
「はぁ?!何言ってるのよ、どう見たって人種が違うじゃないの!」
「いや、その通り。槇野梓、フィンランド人だが腹違いの“妹”だ」
「……あ、あのえっと。エルギールさん、顔が真っ赤ですよ……?」
「うっさいわねストラーフッ!!早とちりしただけじゃないの!?」
琥珀のイントネーションが若干おかしかった気もするが、ここは見逃す。
エルギールにやり込められて涙目のアルマを梓に任せ、私は琥珀を見つめ
一言告げる。それを聞いた彼女の面は、少しばかり引き締まって見えた。
それこそが彼女を凡庸な存在から引き剥がす、“匠の魂”の証明なのだ。
「僕に依頼……しかも“魔剣”を三振り……初めてだね、晶ちゃん」
「そうだな。琥珀に面と向かい頼む事は、これまで一度も無かった」
「……なんでまた、急に?しかもロッテちゃん、“銃使い”なのに」
「だからこそだ。私自身のプランは、一つの区切りを迎えたのでな」
軽量級クラス用の武装である“Valkyrja”は、“SSS”の登場を以て
一度改良の限界まで達してしまった。これより先のステージに進むには
ある種の“転換点”……あるいは“ブレイクスルー”が必要なのだな。
まだ“SSS”を与えられていないアルマとクララにも、何れは同様の
限界が待っている。クララは“魔術”の発展という別の頂点もあるが、
それでも装備の増設……あるいは使い分けを考慮せねばならなかった。
「“Valkyrja”の最終追加武装として、そして次世代の礎としても」
「僕の“魔剣”を、ベースに……そういう事なのかな、晶ちゃん?」
「それって体のいい道具が欲しいって事じゃない!ナメてんの!?」
「その通り。だが全ては、琥珀の力量を見極めたが故の依頼なのだ」
私は悪党だろうが善人だろうが、その魂と誠意を依頼の第一義とする。
それは“鳳凰カップ”で“Electro Lolita”の受注を受けている今も、
曲げることなく徹頭徹尾貫き通している、私の“信念”に他ならない。
だからこそ、私は一見して無謀とも思えるスペックを琥珀に要求する。
琥珀ならばそれを実現出来る……と見極めたからこそ言える事を、だ!
「わたしからもお願いしますの、琥珀さん。もっと高めたいですの!」
「……ロッテちゃん。本気、かな?“琥珀の目”には、そう映るけど」
「はい。マイスターのリニアレールガンと違う、自分を貫く力を……」
「あたしも、“妹”のクララちゃんの分もお願いします!琥珀さん!」
いずれも機械的に実現する“だけ”ならば十分可能な、しかし性能と
携帯性……重量と体積……を両立するには、割と無茶が必要な刀剣。
そして何よりも……“本物の魔剣刀匠”としての、魂を込めた業物。
敢えてそれを得る事で、今後の“ブレイクスルー”への道標とする。
この事をしっかりと伝えた上で、私は琥珀からの返事をじっと待つ。
「ちょっと考えさせてね、晶ちゃん……真に必要なのかを見極めたい」
「それで構わぬ。というよりも、その見解こそが何より重要なのだ!」
「なら最初っからそう言えばいいじゃないの、捻くれてるわね全くッ」
「……お姉ちゃん、いつも素直じゃないからね。色々と苦労するもん」
必要ならば打ってもらう、必要でないのならばその事を指摘してもらう。
それだけの事柄でも、今後のプランニングにとっては重要な要素なのだ。
故に照れながらも礼を言い、私達は“鬼奏”のブースをそっと後にした。
「えっと……マイスター、でもよかったんですか?自分で作らないで」
「何も機能のみを求めている事ではないからな、餅は餅屋とも言うし」
「……“魔剣の刀匠”のお眼鏡にどう適うか。それが重要なんだよ?」
「有無、第三者の着眼点。ある種それは、魔剣よりも有り難い逸品だ」
「それならじっと黙って、琥珀さんのお返事を待つばかりですの~♪」
そうこうしている間に残り時間もなくなり、私達は大手企業をぶらりと
回ってから片付けを始める事とした。明日は決勝、そして祭りの後半!
キナ臭い噂も聞こえるが、何より今は楽しむ事こそ第一義だな。有無。
「ううむ、相変わらず“和三盆”のシンプルさは好評の様だな……」
「あ、あれ第六弾のサンプルですの!マイスター、要注目ですのッ」
「第四弾、やっぱり可憐ですよね……ハイブリッド生体パーツとか」
「……第五弾への対応も忘れちゃいけないもん、海戦能力ね……?」
──────明日はもっと、良い日になります様に……。
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