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**熱気の坩堝──あるいは初日その三(前半)
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予選を無事勝ち上がり、我が“妹達”が意気揚々と引き揚げてくる。
予選各ブロックは館内のミニFMでダイジェスト紹介されているが、
この電脳時代に、ラジオを聴取する者は決して多数派ではない為に、
全国中継される明日の決勝ブロック実況程には、注目されていない。
とは言え私は、作業しながら楽しめるラジオや音楽が大好きなのだ。
「よく戻ったな、ロッテに梓。勝ったという放送だけは聞いたぞ」
「ただいまですの~、マイスター♪物凄く、手強い人達でしたの」
「……あの“光の舞い”も、色々と改良点が見えてきたんだよ?」
「だろうな。明日はこれを持っていけ、どちらを使うかは任せる」
そう言い私が梓に握らせたのは、マイクロミサイルランチャーである。
コンテナタイプのそれは2~3種の弾を併用出来る。煙幕弾も然りだ。
インパクトカノンより威力は若干劣り、両方の同時装備も出来ないが、
これで射撃姿勢を隠しつつ威嚇射撃すれば、より精度と威力は上がる。
棺桶や盾の様な物々しい装備だが、実効性は確かなのだ……ん、何だ。
『展示ブースを構えているのに、何故そんなにも暇そうなのか』だと?
「それにしても……結構売れたんだね、お姉ちゃん。もう完売だよ」
「有無。アルマの御陰もあってか神姫と人間、双方から好評でな?」
「……ふふ、他人様の前で唱うのがあんなに楽しいなんてっ……♪」
「アルマお姉ちゃん、顔が明るいですの!頑張ってるみたいですの」
当然ながら“フィオラ”が売り切れた為だ。無論製作した全数ではなく
明日売る分も、今日以上に残してある。今日が四割なら明日は六割か?
ロッテの活躍、彼女を指揮する梓のクールさ、ここで唱い踊るアルマの
激しい歌声……私自身の感性と技術。これら全てが評価された結果だ。
この状況に確かな手応えを感じていたが、現状には別の問題もあった。
「今日はこれで暇だ、“Electro Lolita”の受注も一段落したしな」
「でも……閉会時間まで後2時間くらいあるんだよ、お姉ちゃん?」
「有無。連絡手段さえ残しておけば、ここを留守にしても構わぬが」
「……じゃあっ、この後の暇潰しどうしますの?マイスター……♪」
「そうですね、予定何にもないですし……暇なんですよね、ねっ?」
……皆の視線が痛い。というよりむず痒いッ!?いかにもこれはその、
『私達を連れて行って?』という……お強請りの合図ではないかッ!?
うぅ……どことなく照れてしまう自分が情けないが、ここで突っぱねる
理由はないし、彼女らと共に物見遊山も悪くはない物だ……ぅぅぅっ。
「むう……ああ、暇だ!よし、皆で展示を見て回ろうじゃないか!」
「はいですの~♪みんなでおっかいっもの、おっかいっもの~っ♪」
「そうと決まれば急がねばならんな。アルマ、ボディチェックは?」
「大丈夫です、汚れも落としましたしバッテリーも十分ですッ!!」
「ロッテお姉ちゃんの方も急速充電しておいたもん、何時でもOK」
「……お前達、狙っておっただろう?まあいい、往くとするかッ!」
というわけで、ブースのテーブルに携帯端末のアドレスを書き残して、
私達四人は出かける事とした。無論、売上金は肌身離さず持っていく。
まずは、珍妙なぷち……と呼ぶにも躊躇われる男がビラを持ってきた、
神姫と動物のサーカスだ。そう言えば着ぐるみ生命体の肩にいた神姫、
“フィオラ”を偉く気にしていたな……余りにも人間側が気色悪いので
すぐに蹴り倒してしまったが、あのハウリンには悪い事をしたか……。
万一明日も来たら、在庫を買わせてやってもいいかもしれんな。有無。
「おお!?神姫がライオンを操る……というよりあれは意思疎通か」
「普通人間がやる様な事なのに、巧くお互いを認め合ってるもんね」
「やっぱり“心”があれば、通じ合える……って事、でしょうか?」
「かもしれませんの♪あ、今度は空中ブランコっ!しかも神姫!!」
「なんと!?……見る限りブースターの類も無い、本気の体術か!」
そして、丁度第二回公演中の神姫サーカス“四堂”は……圧巻だった。
人と神姫、更に猛獣。三種の異なる生命が織りなす、躍動する舞台ッ!
神姫の可能性は常々実感している私だが……それを考慮しても、凄い。
超科学を使用せず、敢えて昔ながらの用法を多く使ったのも好印象だ。
結構時間は使ってしまったが、これはこれで実に有意義な体験だった!
「ふぅ、久々に童心に返る事が出来た。良い物を見たな、有無」
「……この場合、マイスターの躯に言及するのは死罪なんだよ」
「よく分かっているではないか梓、ってお前も似た物だろう!」
「んぁ~?この声、おお……晶ちゃんじゃないかい。おーいっ」
突如割って入る言葉に、私と梓は言葉を失う。錆び付いたネジの様に
振り返ってみると、そこに……メイド姿のDr.CTaがいるではないか!
梓……即ち神姫のクララは彼女と面識があるので、気が気ではない。
ドクターは多忙の所為かそんな事に気付かず、ブースから出てきた。
「やーもー、久遠連行しても全然追いつかなくて参ったねぇ……」
「……相変わらずドクターらしい。Mk.Z氏も随分と忙しそうだな」
「んだねぇ。“ポケットスタイル”の限定販売もあるしヘトヘト」
「流石に整理券方式では、今からは無理だな。時に、その服は?」
「あ、これ?ほらさ、この間服買わせてもらった時にこー色々と」
「……もういい、よーく分かった。難儀な性分だな、ドクターも」
恐らく、神姫を着せ替える内に自身が“目覚めて”しまったのだろう。
私も梓も流石にこればかりは、苦笑いする以外の対応は出来なかった。
ここで漸く、梓を紹介する。無論、私の腹違いの“妹”としてだがな?
「何時も“姉”や神姫達がお世話になってるんだよ、ドクター?」
「ぐわー!?晶ちゃん、こんな可愛い妹さん居るなんて初耳!?」
「と言われても……今まで紹介の時が無かったに過ぎぬぞ、有無」
「……意外とドクターってば、可愛い物に目がない性分ですの?」
「ロッテちゃん、勿論っ!今回のドレスも、くぁー……癒える!」
「えと、“萌える”の間違いじゃ……いえ、なんでもないですっ」
小さくとも“企業”だけ有り混雑振りは半端ではない。これでも一応、
ピークは越えたらしいが……流石に地力の差を思い知らされる場面だ。
私達の様に、余所へ出る余裕等は……この調子だと微妙とも思えるな。
というわけで物見遊山へ連れ出すプランは早々に放棄し、話を続ける。
「所で晶ちゃん達さ、この後は何処行くんだい?國崎技研とか?」
「國崎か。流石に菓子作りコンテストへと出る余裕はないが……」
「人間のお手伝いとかも、補助具無しでやるしねぇ“妹”さん達」
「明日余裕があれば赴くのもいいかもしれんが、今日はパスだな」
「その言い方だと、行きたい所あるっぽいね。邪魔したかこりゃ」
構わぬ、と笑ってDr.CTaを送り出す。そう、私には明確な目的地がある。
それは単語と得意分野こそ違えど、同じく“職人”に対する強い興味だ。
同時に、所謂“友”との再会でもあるのだが……奴は口が達者ではない。
それ故に逢う事もあまり多くはないのだが、今はピッタリの相方がいる。
「久方ぶりだな……魔剣匠工房“鬼奏”、いい店の名だ」
「あ……晶、ちゃん。何年……ぶりだったかな、逢うの」
「確か去年の冬だ。まだ3ヶ月くらいだぞ、神浦琥珀よ」
──────それは“職人”同士のシンパシー、なのかな?
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