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*第7話 新たな武器を探せ
『試合終了。Winner,エル』
勝者のコールと共にエルが左手を腰に、右手を掲げて二回足を鳴らす。
『今日も“剣の舞い”が華麗にきまった! 剣の舞姫、次の試合もその舞で我々を魅了してくれ!」
歓声の中アナウンスが流れ、俺はエルを受け取り控え室に戻った。
俺は机にエルを置き、椅子に腰掛けふうっと息を吐いた。
「マスター……」
控え室に残っていたアールが近寄ってきて心配そうな目を向ける。
エルは着実に強くなり、勝ったり負けたりをしながらもサードリーグの上位まで上がってた。
ネットなどの評判では、いつセカンドリーグに上がってもおかしくないと言われていたが、俺は悩んでた。
俺の脳裏に先ほどのエルの“勝利の舞い”の姿が甦った。
飛行能力と圧倒的な瞬発力を発揮する背中の翼が折れ、ブースターは爆散。
左サブアームは吹き飛び、右サブアームは関節が機能しなくなり、だらんと下がっていた。
頭のアーンヴァルのヘッドギアは半分ほど欠けていた。
本体には大きな損傷は無かったが、まさにキズだらけの勝利だった。
「離れた相手か……」
俺はそう呟いた。
エルに銃などの射撃武器は持たせていない。
離れた場所の目標には、フルストゥ・グフロートゥとフルストゥ・クレインの投擲で対応していた。
問題はそこだった、投げた後はアングルブレードとビームサーベルしか残らない。
しかも、投げたグフトートゥとクレインの回収が必要となり、負けた試合はそこをつかれることが多かった。
今回も投げた後の回収を阻止され、苦し紛れに相手に突撃し損傷を受けて勝てた。
現在のサードリーグでは勝てているが、セカンド以上だと勝てる確率はぐんと減るだろう。
その日は、家に帰ってもずっとそれを考えていた。
次の休みの日、少し遠出をして神姫専門の巨大センターへと行くことにした、目的は先日からの悩みを解決する為。
エルは武装をつけていないが、アールは背中に翼と足につけるブースターを翼にくっ付けたものを取り付けただけで、他は何もつけていない。
左右の肩にアールとエルをそれぞれ乗せて、センターに入るとある一角から黄色い歓声が上がっている。
見ると神姫の試合の中継らしく、黄色い歓声の主はそのファンらしい。
対戦カードは運が悪く、あの鶴畑興紀だった。
その瞬間、エルがガタガタ震えだし、アールが俺の頭の上を飛び越えてエルを抱きしめる。
エルとアールを休憩させる場所はないかと辺りを見回すと、場違いな男が目に止まった。
場違いとは、他のファンのように歓声を上げるわけでもなく、応援するわけでもなく、評論するわけでもない。
じっとだまってモニターを見続けている。
その男が黙っているだけで、肩と頭に乗せたハウリンとヴァッフェバニーがやたらと騒いでいるようだがこっちには何も聞こえない。
「マスター、あそこで休んでいますね」
アールの声が聞こえて、俺は男達から目を放す。
「ああ、俺はもう少し見ておくから。なんだったら、音の聞こえないところにでも行ってていいぞ」
そう言って、震えるエルを抱えながらアールが飛んでいく。
俺はまたモニターをみたが、さっきの男のストラーフがエルとアールをじっと見ていたことに気が付かなかった。
試合をみながら、俺のもう一つの悩みのことを考えていた。
鶴畑興紀を倒したいが、エルは興紀をみると、ガタガタと震えだし何も出来なくなる。
一種のトラウマなんだが、現時点では何も思いつかなかった。
試合は一方的な展開で興紀の勝ち。ファンたちもばらばらと散っていくのにあわせて、俺もアールとエルと合流した。
センター内の端末でネットをみていると、結構評判で品揃えも豊富な店があることが分かった。
今居るセンターから少し足を伸ばさないといけないが、幸いにも行けない距離ではないので行ってみることにした。
俺たちはその店、ホビーショップ・エルゴに到着して中に入る。
「いらっしゃいませ~」
声はすれども姿無し。多分、ドアの開いた音で挨拶してきたのだろう。
しかし、中に入って驚いた。天上まで届きそうな棚にはぎっしりと神姫のパーツが並んでいる。
奥へ進むとレジカウンターがあったが、そこにも姿無し。
「いらっしゃいませ~」
またさっきの声だ。キョロキョロ見回す。
「こっちですよ」
「マスター、あそこ」
アールが声の主を見つけたようで指差した。
そこを見ると、神姫用の教室ジオラマに置かれたヴァッフェバニーの銅像。……銅像?
近寄って見ると、頭と頭パーツ用胸部台座だけの神姫だった。
「ホビーショップ・エルゴにようこそ」
バニーが挨拶する。
「うちの看板娘のジェニーです」
後ろから声がしたので振り向くと、俺と同じくらいの男が奥から出てきた。店長さんだろうか。
「神姫達の学校というのもやってまして、お持ちの神姫もよろしければどうぞ」
俺は、肩に乗ってる二人をみると、うなずいたので教室に降ろした。
「品物みてくるから、二人ともちゃんとしてるんだよ」
俺はそう言い残して、武器類の棚に向かった。
剣を一通りみてみたがぱっとつくものはなかったので、とりあえず戻るかと思いレジの方へ行く。
「アール、エルそろそろ帰るぞ」
「エル? あの神姫ですか?」
「ええ、そうですが」
二人を肩に乗せレジの前へ行く。
「この子がエルです」
エルをカウンターに降ろした。
「ほほぉ、この子が“ソードダンサー”ですか」
「知ってるんですか?」
店長がそんなことを言ってきたので、俺は驚いた。
「ええ、有名ですよ。戦場を舞う踊り子って」
まだサードリーグなのにエルを知っているとはすごいなと思ってしまった。
「あ! そうだ! ちょっと踊り見せてもらってよろしいですか?」
「エルいいか?」
「うん」
「アールは?」
「マスターがいうなら」
そうしてアールも降ろした。
「ん? どうして二人?」
「じつは……」
俺は、エルの踊りはアールが教えたものだということ。
エルがバトルで踊る意味、つまりエルがアールの踊りで戦うことで二人で戦うということを話した。
「なるほど」
そして、二人のダンスが始まった。優雅さはアールが勝り、鋭さはエルが勝る。
魅惑の踊りが終わると、絶賛の拍手が降り注いだ。
「いやぁ素晴らしい。いいものを見せてもらいました」
俺は照れている二人を肩に乗せた。
「そういえば、先ほど武器をみていらっしゃったようですが」
「はい、エルの武器でいいものがないかと思いまして」
「どういったものを?」
「剣関係で遠距離にも対応できるようなものなんです」
「難しい注文ですね」
「ないですか?」
「あれだけ美しい剣の舞いが出来るんですから、そこに力をいれましょうよ」
「といいますと?」
「短所を補うより、長所を伸ばしましょうということです。いいものがあります」
そういってカウンターの下から小さな木箱を取り出した。
箱をあけると、長めで幅広の一振りの剣が入っていた。
しかも、刀身は美しい虹色を放ち、シャボン玉のように波打ち、一瞬たりとも同じ模様ではない。
「どうです? 持ってみてください」
エルは肩から降り、剣を握って大きく振った。
すると、剣の軌道に七色の光が一瞬残って、淡く消えていく。
「マスター、この剣見た目より軽いです」
そういって何度も振るとそれを追って光が走る。
「どうです? 素晴らしいでしょう」
「ええ、すごいです。それでおいくらくらいなんでしょうか」
「そうですね。さっきの踊りの見物料くらいですね」
「え?」
「差し上げます」
俺は驚いて声が出なかった。
「剣はそれに相応しい者が持つものです。その剣にはエルちゃんが相応しいというだけです」
「あ、ありがとうございます」
俺は思い切り頭を下げた。
「剣というものには、魂が宿っています。その魂に相応しい名前を剣が持つのです」
店長がゆっくりと話し始める。
「もちろんその剣にも……」
そこで一旦言葉を切って、店長は剣の名前を言った。
それを聞いて俺はさらに驚いた。
[[戻る>アールとエルと]]
*第7話 新たな武器を探せ
『試合終了。Winner,エル』
勝者のコールと共にエルが左手を腰に、右手を掲げて二回足を鳴らす。
『今日も“剣の舞い”が華麗にきまった! 剣の舞姫、次の試合もその舞で我々を魅了してくれ!」
歓声の中アナウンスが流れ、俺はエルを受け取り控え室に戻った。
俺は机にエルを置き、椅子に腰掛けふうっと息を吐いた。
「マスター……」
控え室に残っていたアールが近寄ってきて心配そうな目を向ける。
エルは着実に強くなり、勝ったり負けたりをしながらもサードリーグの上位まで上がってた。
ネットなどの評判では、いつセカンドリーグに上がってもおかしくないと言われていたが、俺は悩んでた。
俺の脳裏に先ほどのエルの“勝利の舞い”の姿が甦った。
飛行能力と圧倒的な瞬発力を発揮する背中の翼が折れ、ブースターは爆散。
左サブアームは吹き飛び、右サブアームは関節が機能しなくなり、だらんと下がっていた。
頭のアーンヴァルのヘッドギアは半分ほど欠けていた。
本体には大きな損傷は無かったが、まさにキズだらけの勝利だった。
「離れた相手か……」
俺はそう呟いた。
エルに銃などの射撃武器は持たせていない。
離れた場所の目標には、フルストゥ・グフロートゥとフルストゥ・クレインの投擲で対応していた。
問題はそこだった、投げた後はアングルブレードとビームサーベルしか残らない。
しかも、投げたグフトートゥとクレインの回収が必要となり、負けた試合はそこをつかれることが多かった。
今回も投げた後の回収を阻止され、苦し紛れに相手に突撃し損傷を受けて勝てた。
現在のサードリーグでは勝てているが、セカンド以上だと勝てる確率はぐんと減るだろう。
その日は、家に帰ってもずっとそれを考えていた。
次の休みの日、少し遠出をして神姫専門の巨大センターへと行くことにした、目的は先日からの悩みを解決する為。
エルは武装をつけていないが、アールは背中に翼と足につけるブースターを翼にくっ付けたものを取り付けただけで、他は何もつけていない。
左右の肩にアールとエルをそれぞれ乗せて、センターに入るとある一角から黄色い歓声が上がっている。
見ると神姫の試合の中継らしく、黄色い歓声の主はそのファンらしい。
対戦カードは運が悪く、あの鶴畑興紀だった。
その瞬間、エルがガタガタ震えだし、アールが俺の頭の上を飛び越えてエルを抱きしめる。
エルとアールを休憩させる場所はないかと辺りを見回すと、場違いな男が目に止まった。
場違いとは、他のファンのように歓声を上げるわけでもなく、応援するわけでもなく、評論するわけでもない。
じっとだまってモニターを見続けている。
その男が黙っているだけで、肩と頭に乗せたハウリンとヴァッフェバニーがやたらと騒いでいるようだがこっちには何も聞こえない。
「マスター、あそこで休んでいますね」
アールの声が聞こえて、俺は男達から目を放す。
「ああ、俺はもう少し見ておくから。なんだったら、音の聞こえないところにでも行ってていいぞ」
そう言って、震えるエルを抱えながらアールが飛んでいく。
俺はまたモニターをみたが、さっきの男のストラーフがエルとアールをじっと見ていたことに気が付かなかった。
試合をみながら、俺のもう一つの悩みのことを考えていた。
鶴畑興紀を倒したいが、エルは興紀をみると、ガタガタと震えだし何も出来なくなる。
一種のトラウマなんだが、現時点では何も思いつかなかった。
試合は一方的な展開で興紀の勝ち。ファンたちもばらばらと散っていくのにあわせて、俺もアールとエルと合流した。
センター内の端末でネットをみていると、結構評判で品揃えも豊富な店があることが分かった。
今居るセンターから少し足を伸ばさないといけないが、幸いにも行けない距離ではないので行ってみることにした。
俺たちはその店、ホビーショップ・エルゴに到着して中に入る。
「いらっしゃいませ~」
声はすれども姿無し。多分、ドアの開いた音で挨拶してきたのだろう。
しかし、中に入って驚いた。天上まで届きそうな棚にはぎっしりと神姫のパーツが並んでいる。
奥へ進むとレジカウンターがあったが、そこにも姿無し。
「いらっしゃいませ~」
またさっきの声だ。キョロキョロ見回す。
「こっちですよ」
「マスター、あそこ」
アールが声の主を見つけたようで指差した。
そこを見ると、神姫用の教室ジオラマに置かれたヴァッフェバニーの銅像。……銅像?
近寄って見ると、頭と頭パーツ用胸部台座だけの神姫だった。
「ホビーショップ・エルゴにようこそ」
バニーが挨拶する。
「うちの看板娘のジェニーです」
後ろから声がしたので振り向くと、俺と同じくらいの男が奥から出てきた。店長さんだろうか。
「神姫達の学校というのもやってまして、お持ちの神姫もよろしければどうぞ」
俺は、肩に乗ってる二人をみると、うなずいたので教室に降ろした。
「品物みてくるから、二人ともちゃんとしてるんだよ」
俺はそう言い残して、武器類の棚に向かった。
剣を一通りみてみたがぱっとつくものはなかったので、とりあえず戻るかと思いレジの方へ行く。
「アール、エルそろそろ帰るぞ」
「エル? あの神姫ですか?」
「ええ、そうですが」
二人を肩に乗せレジの前へ行く。
「この子がエルです」
エルをカウンターに降ろした。
「ほほぉ、この子が“ソードダンサー”ですか」
「知ってるんですか?」
店長がそんなことを言ってきたので、俺は驚いた。
「ええ、有名ですよ。戦場を舞う踊り子って」
まだサードリーグなのにエルを知っているとはすごいなと思ってしまった。
「あ! そうだ! ちょっと踊り見せてもらってよろしいですか?」
「エルいいか?」
「うん」
「アールは?」
「マスターがいうなら」
そうしてアールも降ろした。
「ん? どうして二人?」
「じつは……」
俺は、エルの踊りはアールが教えたものだということ。
エルがバトルで踊る意味、つまりエルがアールの踊りで戦うことで二人で戦うということを話した。
「なるほど」
そして、二人のダンスが始まった。優雅さはアールが勝り、鋭さはエルが勝る。
魅惑の踊りが終わると、絶賛の拍手が降り注いだ。
「いやぁ素晴らしい。いいものを見せてもらいました」
俺は照れている二人を肩に乗せた。
「そういえば、先ほど武器をみていらっしゃったようですが」
「はい、エルの武器でいいものがないかと思いまして」
「どういったものを?」
「剣関係で遠距離にも対応できるようなものなんです」
「難しい注文ですね」
「ないですか?」
「あれだけ美しい剣の舞いが出来るんですから、そこに力をいれましょうよ」
「といいますと?」
「短所を補うより、長所を伸ばしましょうということです。いいものがあります」
そういってカウンターの下から小さな木箱を取り出した。
箱をあけると、長めで幅広の一振りの剣が入っていた。
しかも、刀身は美しい虹色を放ち、シャボン玉のように波打ち、一瞬たりとも同じ模様ではない。
「どうです? 持ってみてください」
エルは肩から降り、剣を握って大きく振った。
すると、剣の軌道に七色の光が一瞬残って、淡く消えていく。
「マスター、この剣見た目より軽いです」
そういって何度も振るとそれを追って光が走る。
「どうです? 素晴らしいでしょう」
「ええ、すごいです。それでおいくらくらいなんでしょうか」
「そうですね。さっきの踊りの見物料くらいですね」
「え?」
「差し上げます」
俺は驚いて声が出なかった。
「剣はそれに相応しい者が持つものです。その剣にはエルちゃんが相応しいというだけです」
「あ、ありがとうございます」
俺は思い切り頭を下げた。
「剣というものには、魂が宿っています。その魂に相応しい名前を剣が持つのです」
店長がゆっくりと話し始める。
「もちろんその剣にも……」
そこで一旦言葉を切って、店長は剣の名前を言った。
それを聞いて俺はさらに驚いた。
[[戻る>アールとエルと]] [[次へ>8話 剣の名は]]
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