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**上がる緞帳──あるいは初日その一
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“鳳凰カップ”初日を迎えるこの日。前々からの準備が奏功したのか
単に運勢が良かったのか、あるいはフェレンツェめの手引きなのか。
ともあれ、私と梓……クララのHVIFは、会場前の大群衆を後目に
悠々と会場へ入る事が出来た。無論神姫素体のロッテとアルマもだ。
背後には休日繁忙期のアキバも比較にならない、異様な行列がある。
「ううむ、実際に訪れるのは初めてだが……物凄い人の群れだな」
「マイスター……これ全部“鳳凰カップ”のお客様なんですか?」
「その表現は正しくないなアルマや。こういう時は“参加者”だ」
「……皆で群体となってイベントを構成し、成功に導くんだよ?」
「その為には何よりも、精一杯楽しんじゃうのがいいですのっ♪」
私と梓の二人は、予め製作した自前のトータルコーディネイトで望む。
アルマとロッテはその土台となった、神姫用ドレス一式を纏っている。
全て開催期間に販売する量産型“Electro Lolita”……“フィオラ”の
見本を兼ねた人間用の装備一式、及び展示用リミテッドバージョンだ。
今回、我がMMSショップ“ALChemist”は企業ブースへと参加している。
「お?おい、あの女の子達見てみろよ。妙に気合入ってるぜ……!」
「あれってさ。アキバのよ……もとい少女店長さんじゃないっけ?」
「そういや企業ブースに来るんだよな……ちょっと見に行こうかっ」
……一瞬不埒な声が聞こえた気もするが、ここは聞き流すぞ。有無。
出店でのほぼ唯一の売り物が“フィオラ”である。無論、普段通りの
営業……“Electro Lolita”の装飾品販売や受注も欠かす気はない。
但しあくまでも今回のメインが此方である以上、宣伝行為は大事だ。
そこで、販売員たる私及びアルマ……そしてバトルカップへ出場する
ロッテに私の全権代理人として登録されている梓を、広告塔とした。
事前に人間サイズバージョンの試着人を確保出来た事も、大きいな。
「まずまずの感触だな。サイトでの告知だけでは、こうはいかん」
「うんと……でも、あたしはまだちょっと気恥ずかしいですねえ」
「大丈夫ですの、アルマお姉ちゃん♪“神姫”らしく堂々とっ!」
「ヴィネットさんにキツく言われない様、気を引き締めるんだよ」
そう。何分鳳条院グループ主催とあって、規模は“祭典”に匹敵する。
一説に依れば、年二回のそれと被らない様にこの時期を選んだそうだ。
英断は構わぬのだが、それは反面“誰が来るか分からない”事になる。
リカルドめから来る様な話は聞いていないが、油断等してはいられん!
“妹達”のみならず私も自然と、小柄な躯が引き締まっていく想いだ。
「さて、梓や。私とアルマは一足先にブースに行っている。頼むぞ」
「分かったよお姉ちゃん。リーグ登録が終わったら、連絡するもん」
「じゃあ、頑張ってきてくださいね?ロッテちゃんと梓ちゃんッ!」
「はいですの~♪マイスター達も、お店頑張ってくださいですのっ」
誘導路の分岐点で、私と梓は一度別れた。彼女の手には私のトランク。
“Valkyrja”を初めとした軽量装備のロッテを公正に審査してもらい、
ブロック分けを受けねばならぬ。こればっかりは、裏工作ではダメだ。
フェレンツェめからは『HVIFは審査の項目に無い』と聞いていた。
装備も通常のレギュレーション範囲内に収めてある。後は運任せだな。
「さてと。前日に全員HVIFを使ってくれた御陰で、準備は楽だ」
「じゃあマイスター、あたしは自分の“舞台”をセットしますね?」
「ああ、ここはアルマの晴れ舞台でもあるのだ。悔いの無い様にな」
神姫素体で来ているアルマは、接客にも一定の限度が存在している。
ならば彼女の役は何か?それは、日頃の成果を皆に見せる事なのだ。
剣舞や軽いテンポのダンスを趣味・特技とするアルマだが、最近では
MMS用アコースティック・ギターの演奏訓練も実に熱心であるな。
ロッテのバイオリンにクララの電子ピアノとでセッションもザラだ。
「なんだか緊張しちゃいます……でも、しっかりしないとっ」
この成果を何かに役立てたい!そう言い出したアルマを、私は認めた。
“フィオラ”の展示も兼ね、彼女にパフォーマンスをさせる事とした。
ミニライブを行い、服の動き易さとアルマの可憐さを同時に披露する。
打算的なのは否定せぬが、アルマが社交的になるのはとても良い事だ。
なので今回は彼女の意思と可能性に、ある種掛けてみる事を決めたッ!
「うむ、展示準備は完了……ステージの方はどうだ、アルマや?」
「えっと……これで完成です。楽屋裏のトランクにも行けます!」
「後は開場を待つばかりだな……む、梓からメールが来た様だッ」
眼鏡のディスプレイに映し出されるのは、ただ一文字……“H”。
梓め、世界一短い手紙ではあるまいに。だが、意味は十分通るぞ。
ともあれ、これで全ての準備は整った……祭りの、始まりだッ!!
「ロッテはHブロックに出場するそうだ。さて、頑張ってくれよ……!」
「あたし達も一生懸命頑張りましょう、マイスター。あ、アナウンスッ」
『只今よりゲート開門いたします!皆様、精一杯楽しみましょう~っ!』
──────ステージの幕が開いて、皆が舞い踊る時が……来たよ!
**上がる緞帳──あるいは初日その一
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“鳳凰カップ”初日を迎えるこの日。前々からの準備が奏功したのか
単に運勢が良かったのか、あるいはフェレンツェめの手引きなのか。
ともあれ、私と梓……クララのHVIFは、会場前の大群衆を後目に
悠々と会場へ入る事が出来た。無論神姫素体のロッテとアルマもだ。
背後には休日繁忙期のアキバも比較にならない、異様な行列がある。
「ううむ、実際に訪れるのは初めてだが……物凄い人の群れだな」
「マイスター……これ全部“鳳凰カップ”のお客様なんですか?」
「その表現は正しくないなアルマや。こういう時は“参加者”だ」
「……皆で群体となってイベントを構成し、成功に導くんだよ?」
「その為には何よりも、精一杯楽しんじゃうのがいいですのっ♪」
私と梓の二人は、予め製作した自前のトータルコーディネイトで望む。
アルマとロッテはその土台となった、神姫用ドレス一式を纏っている。
全て開催期間に販売する量産型“Electro Lolita”……“フィオラ”の
見本を兼ねた人間用の装備一式、及び展示用リミテッドバージョンだ。
今回、我がMMSショップ“ALChemist”は企業ブースへと参加している。
「お?おい、あの女の子達見てみろよ。妙に気合入ってるぜ……!」
「あれってさ。アキバのよ……もとい少女店長さんじゃないっけ?」
「そういや企業ブースに来るんだよな……ちょっと見に行こうかっ」
……一瞬不埒な声が聞こえた気もするが、ここは聞き流すぞ。有無。
出店でのほぼ唯一の売り物が“フィオラ”である。無論、普段通りの
営業……“Electro Lolita”の装飾品販売や受注も欠かす気はない。
但しあくまでも今回のメインが此方である以上、宣伝行為は大事だ。
そこで、販売員たる私及びアルマ……そしてバトルカップへ出場する
ロッテに私の全権代理人として登録されている梓を、広告塔とした。
事前に人間サイズバージョンの試着人を確保出来た事も、大きいな。
「まずまずの感触だな。サイトでの告知だけでは、こうはいかん」
「うんと……でも、あたしはまだちょっと気恥ずかしいですねえ」
「大丈夫ですの、アルマお姉ちゃん♪“神姫”らしく堂々とっ!」
「ヴィネットさんにキツく言われない様、気を引き締めるんだよ」
そう。何分鳳条院グループ主催とあって、規模は“祭典”に匹敵する。
一説に依れば、年二回のそれと被らない様にこの時期を選んだそうだ。
英断は構わぬのだが、それは反面“誰が来るか分からない”事になる。
リカルドめから来る様な話は聞いていないが、油断等してはいられん!
“妹達”のみならず私も自然と、小柄な躯が引き締まっていく想いだ。
「さて、梓や。私とアルマは一足先にブースに行っている。頼むぞ」
「分かったよお姉ちゃん。リーグ登録が終わったら、連絡するもん」
「じゃあ、頑張ってきてくださいね?ロッテちゃんと梓ちゃんッ!」
「はいですの~♪マイスター達も、お店頑張ってくださいですのっ」
誘導路の分岐点で、私と梓は一度別れた。彼女の手には私のトランク。
“Valkyrja”を初めとした軽量装備のロッテを公正に審査してもらい、
ブロック分けを受けねばならぬ。こればっかりは、裏工作ではダメだ。
フェレンツェめからは『HVIFは審査の項目に無い』と聞いていた。
装備も通常のレギュレーション範囲内に収めてある。後は運任せだな。
「さてと。前日に全員HVIFを使ってくれた御陰で、準備は楽だ」
「じゃあマイスター、あたしは自分の“舞台”をセットしますね?」
「ああ、ここはアルマの晴れ舞台でもあるのだ。悔いの無い様にな」
神姫素体で来ているアルマは、接客にも一定の限度が存在している。
ならば彼女の役は何か?それは、日頃の成果を皆に見せる事なのだ。
剣舞や軽いテンポのダンスを趣味・特技とするアルマだが、最近では
MMS用アコースティック・ギターの演奏訓練も実に熱心であるな。
ロッテのバイオリンにクララの電子ピアノとでセッションもザラだ。
「なんだか緊張しちゃいます……でも、しっかりしないとっ」
この成果を何かに役立てたい!そう言い出したアルマを、私は認めた。
“フィオラ”の展示も兼ね、彼女にパフォーマンスをさせる事とした。
ミニライブを行い、服の動き易さとアルマの可憐さを同時に披露する。
打算的なのは否定せぬが、アルマが社交的になるのはとても良い事だ。
なので今回は彼女の意思と可能性に、ある種掛けてみる事を決めたッ!
「うむ、展示準備は完了……ステージの方はどうだ、アルマや?」
「えっと……これで完成です。楽屋裏のトランクにも行けます!」
「後は開場を待つばかりだな……む、梓からメールが来た様だッ」
眼鏡のディスプレイに映し出されるのは、ただ一文字……“H”。
梓め、世界一短い手紙ではあるまいに。だが、意味は十分通るぞ。
ともあれ、これで全ての準備は整った……祭りの、始まりだッ!!
「ロッテはHブロックに出場するそうだ。さて、頑張ってくれよ……!」
「あたし達も一生懸命頑張りましょう、マイスター。あ、アナウンスッ」
『只今よりゲート開門いたします!皆様、精一杯楽しみましょう~っ!』
──────ステージの幕が開いて、皆が舞い踊る時が……来たよ!
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