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「Phase01-6」(2007/04/01 (日) 03:44:45) の最新版変更点
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慣れない天使型武装に身を包み、バトルフィールドへと降り立ったゼリス。
その姿にシュンは期待よりも不安の方が膨らんだ。
せっかくここまで順調にきていたというのに、どうやらこいつといるとトラブルは避けられない運命(さだめ)なのかも知れない。
「前がよく見えないです。これは私には必要ありません」
言いながら不満そうにヘッドギアを外すゼリス。シートの隣に立つ伊吹もあまり表情は冴えない。
「大丈夫……? やっぱりあたしたちが戦おうか」
「ボクらはいつでも〝じゅんびおっけー〟だよ」
心配する伊吹とワカナに、ゼリスは左手を上げ親指でグーサインした。
「ご心配は無用です。おふたりもそこで私の華麗な戦いを見ていてください」
それからゼリスは伊吹のさらに隣にいるふたりへ顔を向ける。
「ですから、あなた方も安心なさってください」
急に声を掛けられた本人はビクッとして肩を強張らせる。答えたのは彼の手が抱く天使型の神姫の方だった。
「ごめんなさい、私とショウ君が原因であなた達が戦うことになってしまって……」
傷ついた体から声を絞り出すような天使型神姫に、ショウと呼ばれた男の子はきゅっと手を握り締める。
今ゼリスが装備しているのは、伊吹が買ったアーンヴァルタイプのパーツと、ショウと彼の神姫から脚部パーツを借りて組んだものだ。口ではああ言いながら、ゼリスも彼らに何かしらの想いを抱いてるんだろうか。
「お願いだよ、お兄ちゃん。桜花の分まで……負けないで」
男の子の搾り出すような声を聞いて、シュンは頭の中から不安を追い出した。
シュンたちは戦うと決めた。それを今更後悔したところで意味はない。この男の子の様に虐げられた初心者の為にも、シュンは立ち向かわなくてはならない。それに。
「勘違いなさらないでください。私たちは決してあなた方の為を思って戦いに赴くのではありません」
何より、この戦いはゼリスが言うように――
「あくまでも私たちの為に戦うのです」
僕たちの為の戦いなのだから。
「そう――頑張って」
か細い声で精一杯のエールを送る桜花に、ゼリスは再び指を立てて答えた。それから何を思ってかゼリスはシュンにも無言のグーサインを送った。いいからあまり指立てるなよ。
「シュっちゃん、私はこんな形でバトルをすることに、本当は反対なんだからね」
シートに座るシュンの肩にそっと触れながら、伊吹は諦めたように続ける。
「でも、こうなったら仕方がないよね。あたしも出来る限りサポートするから、バーンってやっちゃいましょう」
片目でウインクする伊吹の肩ではワカナが「えいえいおー」と拳を振り上げる。
シュンはふたりを安心させるように笑みを返しながら、口元を引き締め筐体のバトルフィールドを睨む。
フィールドの奥で腕を組むベガの先に、同じようにシートに座った番長治がいる。
「ふん、逃げなかったのは立派じゃのう」
「これは、僕とゼリスの為の戦いだからなっ」
真っ向から視線を叩きつけながら、シュンはゼリスにささやく。
「行くぞ、ゼリス」
「ええ、シュン。参りましょう」
答えたゼリスは改めて前方に立つ対戦相手、ベガに向き立つ。
「ベガ、いてかましたれいっ」
「サーの命ずるままに」
距離を置いて向かい合う両者の中央で、空間に文字が写し出される。
『READY GO!』
電信音声の告げる合図と共に、ゼリスは飛翔した。
戦闘開始と共にベガは地を蹴り一足飛びで間合いをつめた。
合わせるようにゼリスも背のスラスターを吹かし加速する。加速しながらハンドガンを構え、連射。それをあくまでも牽制と見切ったベガは身を沈み込ませるように屈むことで避けると、そのまま反動を利用して飛び蹴りを放つ。
彼我の距離と相対速度から無理に回避するよりも防御した方がリスクは少ないと判断したゼリスは、躊躇せずハンドガンを放り投げ、右に持った対物ライフルを使い、両手で頭上に掲げるようにガード。次の瞬間にはライフルにベガの体重を乗せたキックが炸裂する。
対物ライフルの銃身とベガの脚部装甲との激突による鈍い金属音。
攻撃は防いだものの、衝撃に弾かれゼリスは後方に飛ばされる。
否。自ら衝撃を利用して後方へと大きく間合いを取ったゼリスは空中でバーニアを数度噴射し最低限の姿勢制御を行うと同時に、対物ライフルの撃鉄を引き起こし弾薬装填。すかさず照星内にベガを捕らえる。発砲、地に着く間にもう一射。相手が態勢を立て直す間を狙った的確な射撃。
それをベガは一撃目の1.2mm弾を着地の不安定な姿勢をさらに強引に逸らすことで避け、すぐさま同一軌道を描く二撃の存在を驚愕でもって認めると、石火の速さで右腰のコンバットナイフを抜き放ち弾き飛ばした。
ナイフの刃を欠き砕くつんざくような激音を残して、目標を射止め損ねた銃弾は遥か後方左右へと着弾、爆煙をあげる。
煙柱立つフィールドの反対側では、ゼリスが必中と思える射撃のタイミングを防がれた事にも全く顔色を変えず、繰る繰ると落ちてきたハンドガンを無造作に左手で受け取り、ホルスターにしまった。
「ふむ……見事なお手前です。流石ですね」
「貴様こそ、本当に0戦0勝の素人か? その動き賞賛に値する。小娘が、言うだけのことはあるようだな」
「お褒めの言葉、素直に感謝します」
ニコリともせず丁寧に頭を下げるゼリスに、ベガは「フッ」とニヒルな笑みを浮かべた。
筐体上部に設置されたモニターが刻んだ数字はまだ数十秒と経過していない。のっけからの息をもつかせぬ両者の攻防に、遅れるように周りから歓声が上がる。
唖然と見守っていたシュンは、それでようやく我に返った。
「安心して見てろ、か……。やるじゃん」
いいながらシュンは軽く動揺していた。まさか、ゼリスがこんなに強かったとは。
「やるじゃん……じゃないわよ。ぜっちゃん、あれで本当に神姫バトルするの初めて? すごいわよ、すごすぎっ!」
やっぱすごいのか。神姫バトルマニアの伊吹がいうからには本当に凄いんだろう。ゼリスの自信満々な口ぶりからある程度は予想していたが、ここまでとは思ってなかった。
「くっ……。どうしたベガ、もっとけっぱらんかいっ」
「イエス・サー」
シートから飛ばされる番長治の檄にベガが再び間合いをつめ、接近を図る。対しゼリスは腰溜めに構え直した対物ライフルの銃撃で応じた。
「オーナーの言うことには絶対遵守ですか。ご苦労なことですね」
「愚問だな。サーの命ずるままに動き、サーの為に戦い、サーの望みを満たす。武装神姫であるならば至極当然のことに過ぎん」
弾丸を縫って猛攻をかけるベガ、その拳撃を避けながらゼリスは至近距離でさらにライフルを発砲。
「それで初心者狩りですか。貴方には、自らの意思というものはないのですか?」
その動きを読んでいたベガは、バック宙よろしく大きく身を仰け反らすと共に、自らに向けられたバレルを蹴り上げる。
「それこそ愚問。サーの望みこそ我が望み、サーの喜びこそ我が喜びっ……」
対物ライフルが明後日の方向へその銃弾を吐き出す中、態勢を崩した射手に左腰のナイフを投げつける。
「私にとって、サーの意思こそ我が意思だっ!」
鋭く弧を描きながら襲い掛かる刃を、ゼリスはとっさにホルスターから抜いたハンドガンを投げつけ叩き落した。
ゼリスとベガ。電脳空間を模した『サイバースペース』の戦場を舞う、二体の神姫の目まぐるしい攻防に、筐体を囲むギャラリーから喝采が上がる。
それぞれのシートから見守るシュンと番長治は、それぞれ対照的な焦りと傲慢の顔を互いに交わしていた。
「一見互角のようだけど、ぜっちゃんには手持ちがもうないわ」
シュンの焦りの理由を伊吹が代弁する。今日の戦利品であるあの対物ライフルの装弾数は確か五発。すでにアーンヴァルタイプ基本装備のハンドガンは失っている。ビームセーバーは始めから装備しなかった。
対してベガは元々格闘戦型。両腰のナイフを失っても、彼女は自身の拳や蹴り技が武器だ。今までの動きからこのベガ相手に流暢にライフルのマガジン交換をする猶予はない。
――つまりゼリスに残された弾丸は一発。
今度弾丸を避けられたら、ゼリスには次の攻撃手段がない。
大丈夫かよ? そんな不安が過ぎるシュンを、ゼリスは一瞥すると、再びベガへと目を向け、言った。
「くだらないですね」
その言葉でベガの顔から表情が消えた。
「なるほど、確かに神姫は自らのオーナーを補佐し、望みを叶えるための存在。それが私たちの存在理由(レゾンデートル)です。しかし、ただひたすら相手に求め、求めるまま容認し、疑いもせずただ返す。そんなあなたたちの関係が正しい在り方であるとは思えません」
沸き立つ熱気に騒然とする中、ゼリスの淡々とした声がフィールドに響く。
「あなたたちは、ただ互いに依存し合っているだけです」
きっぱりと告げるゼリスに、ベガがキッと唇を噛む。
「何挑発してんだよっ。まずいだろうがっ」
思わず叫びながらシュンは焦った。対戦相手を本気で怒らせてしまったようだ。向かいのシートを見れば番長治も額に立てた青筋をピクピクさせながら、低い唸り声を上げてる。つーか血走った目がかなり本気で怖いんですけど?
「別に、ただ素直な感想を述べただけですよ?」
何か問題が? といった顔で問い返してくるゼリスを見て、シュンは何だか頭が痛くなってきた。ただでさえ不利な状況なのに、ゼリスときたら全く普段と変わらない。
「うぬら、ワシらを本気で怒らせたいようじゃのうっ」
「私のみならず、サーをも侮辱するその言葉。覚悟はいいか、小娘っ」
押し殺した番長治の声に、再び強い表情を取り戻したベガが猛然とダッシュする。その顔に浮かぶのは怒りだ。
その裂帛の気合と共に猛進するベガに、ゼリスは冷静にライフルの照星を絞る。
突如ベガがフィールドを疾走しながら何かを放る。彼女の周りで立て続けの閃光と爆発。
隠し持っていた手榴弾――!
巻き起こる爆発と生じた噴煙が駆けるベガの姿を覆い隠す。しかし、ゼリスは爆煙にも動じず、なめらかな手つきで引き金を引いた。
揺らめく噴煙に僅か垣間見える疾駆する影。放たれた銃弾は糸で繋がれたように、その合間を一直線に跳ぶ。
――勝った。
誰もがゼリスの勝ちを確信した瞬間、だが目の前で信じられないことが起きた。
再度の爆発。回避不能の銃弾を前に、ベガがまた手榴弾に点火したのだ。自らの直後で。
恐るべきベガの執念。
前方へと浮き上がるベガの体、その横を際どく弾丸が抉る。だが、弾丸は外れた。至近での爆発で自身ダメージを負いながら、それでもベガはゼリスの必勝の一撃を回避、今眼前へとその身を躍らせた。
ベガは勝利を確信した顔でゼリスに向かう。
踏みしめる衝撃で地が爆ぜ、駆動系の限界まで振り絞り、振るわれる拳が空気を唸らせる。脚部の補助バーニアまで全開にした、全力の、そして止めの拳撃。
シュンはゼリスの名を絶叫した。
SHINKI/NEAR TO YOU
Phase01-6
慣れない天使型武装に身を包み、バトルフィールドへと降り立ったゼリス。
その姿にシュンは期待よりも不安の方が膨らんだ。
せっかくここまで順調にきていたというのに、どうやらこいつといるとトラブルは避けられない運命(さだめ)なのかも知れない。
「前がよく見えないです。これは私には必要ありません」
言いながら不満そうにヘッドギアを外すゼリス。シートの隣に立つ伊吹もあまり表情は冴えない。
「大丈夫……? やっぱりあたしたちが戦おうか」
「ボクらはいつでも〝じゅんびおっけー〟だよ」
心配する伊吹とワカナに、ゼリスは左手を上げ親指でグーサインした。
「ご心配は無用です。おふたりもそこで私の華麗な戦いを見ていてください」
それからゼリスは伊吹のさらに隣にいるふたりへ顔を向ける。
「ですから、あなた方も安心なさってください」
急に声を掛けられた本人はビクッとして肩を強張らせる。答えたのは彼の手が抱く天使型の神姫の方だった。
「ごめんなさい、私とショウ君が原因であなた達が戦うことになってしまって……」
傷ついた体から声を絞り出すような天使型神姫に、ショウと呼ばれた男の子はきゅっと手を握り締める。
今ゼリスが装備しているのは、伊吹が買ったアーンヴァルタイプのパーツと、ショウと彼の神姫から脚部パーツを借りて組んだものだ。口ではああ言いながら、ゼリスも彼らに何かしらの想いを抱いてるんだろうか。
「お願いだよ、お兄ちゃん。桜花の分まで……負けないで」
男の子の搾り出すような声を聞いて、シュンは頭の中から不安を追い出した。
シュンたちは戦うと決めた。それを今更後悔したところで意味はない。この男の子の様に虐げられた初心者の為にも、シュンは立ち向かわなくてはならない。それに。
「勘違いなさらないでください。私たちは決してあなた方の為を思って戦いに赴くのではありません」
何より、この戦いはゼリスが言うように――
「あくまでも私たちの為に戦うのです」
僕たちの為の戦いなのだから。
「そう――頑張って」
か細い声で精一杯のエールを送る桜花に、ゼリスは再び指を立てて答えた。それから何を思ってかゼリスはシュンにも無言のグーサインを送った。いいからあまり指立てるなよ。
「シュっちゃん、私はこんな形でバトルをすることに、本当は反対なんだからね」
シートに座るシュンの肩にそっと触れながら、伊吹は諦めたように続ける。
「でも、こうなったら仕方がないよね。あたしも出来る限りサポートするから、バーンってやっちゃいましょう」
片目でウインクする伊吹の肩ではワカナが「えいえいおー」と拳を振り上げる。
シュンはふたりを安心させるように笑みを返しながら、口元を引き締め筐体のバトルフィールドを睨む。
フィールドの奥で腕を組むベガの先に、同じようにシートに座った番長治がいる。
「ふん、逃げなかったのは立派じゃのう」
「これは、僕とゼリスの為の戦いだからなっ」
真っ向から視線を叩きつけながら、シュンはゼリスにささやく。
「行くぞ、ゼリス」
「ええ、シュン。参りましょう」
答えたゼリスは改めて前方に立つ対戦相手、ベガに向き立つ。
「ベガ、いてかましたれいっ」
「サーの命ずるままに」
距離を置いて向かい合う両者の中央で、空間に文字が写し出される。
『READY GO!』
電信音声の告げる合図と共に、ゼリスは飛翔した。
戦闘開始と共にベガは地を蹴り一足飛びで間合いをつめた。
合わせるようにゼリスも背のスラスターを吹かし加速する。加速しながらハンドガンを構え、連射。それをあくまでも牽制と見切ったベガは身を沈み込ませるように屈むことで避けると、そのまま反動を利用して飛び蹴りを放つ。
彼我の距離と相対速度から無理に回避するよりも防御した方がリスクは少ないと判断したゼリスは、躊躇せずハンドガンを放り投げ、右に持った対物ライフルを使い、両手で頭上に掲げるようにガード。次の瞬間にはライフルにベガの体重を乗せたキックが炸裂する。
対物ライフルの銃身とベガの脚部装甲との激突による鈍い金属音。
攻撃は防いだものの、衝撃に弾かれゼリスは後方に飛ばされる。
否。自ら衝撃を利用して後方へと大きく間合いを取ったゼリスは空中でバーニアを数度噴射し最低限の姿勢制御を行うと同時に、対物ライフルの撃鉄を引き起こし弾薬装填。すかさず照星内にベガを捕らえる。発砲、地に着く間にもう一射。相手が態勢を立て直す間を狙った的確な射撃。
それをベガは一撃目の1.2mm弾を着地の不安定な姿勢をさらに強引に逸らすことで避け、すぐさま同一軌道を描く二撃の存在を驚愕でもって認めると、石火の速さで右腰のコンバットナイフを抜き放ち弾き飛ばした。
ナイフの刃を欠き砕くつんざくような激音を残して、目標を射止め損ねた銃弾は遥か後方左右へと着弾、爆煙をあげる。
煙柱立つフィールドの反対側では、ゼリスが必中と思える射撃のタイミングを防がれた事にも全く顔色を変えず、繰る繰ると落ちてきたハンドガンを無造作に左手で受け取り、ホルスターにしまった。
「ふむ……見事なお手前です。流石ですね」
「貴様こそ、本当に0戦0勝の素人か? その動き賞賛に値する。小娘が、言うだけのことはあるようだな」
「お褒めの言葉、素直に感謝します」
ニコリともせず丁寧に頭を下げるゼリスに、ベガは「フッ」とニヒルな笑みを浮かべた。
筐体上部に設置されたモニターが刻んだ数字はまだ数十秒と経過していない。のっけからの息をもつかせぬ両者の攻防に、遅れるように周りから歓声が上がる。
唖然と見守っていたシュンは、それでようやく我に返った。
「安心して見てろ、か……。やるじゃん」
いいながらシュンは軽く動揺していた。まさか、ゼリスがこんなに強かったとは。
「やるじゃん……じゃないわよ。ぜっちゃん、あれで本当に神姫バトルするの初めて? すごいわよ、すごすぎっ!」
やっぱすごいのか。神姫バトルマニアの伊吹がいうからには本当に凄いんだろう。ゼリスの自信満々な口ぶりからある程度は予想していたが、ここまでとは思ってなかった。
「くっ……。どうしたベガ、もっとけっぱらんかいっ」
「イエス・サー」
シートから飛ばされる番長治の檄にベガが再び間合いをつめ、接近を図る。対しゼリスは腰溜めに構え直した対物ライフルの銃撃で応じた。
「オーナーの言うことには絶対遵守ですか。ご苦労なことですね」
「愚問だな。サーの命ずるままに動き、サーの為に戦い、サーの望みを満たす。武装神姫であるならば至極当然のことに過ぎん」
弾丸を縫って猛攻をかけるベガ、その拳撃を避けながらゼリスは至近距離でさらにライフルを発砲。
「それで初心者狩りですか。貴方には、自らの意思というものはないのですか?」
その動きを読んでいたベガは、バック宙よろしく大きく身を仰け反らすと共に、自らに向けられたバレルを蹴り上げる。
「それこそ愚問。サーの望みこそ我が望み、サーの喜びこそ我が喜びっ……」
対物ライフルが明後日の方向へその銃弾を吐き出す中、態勢を崩した射手に左腰のナイフを投げつける。
「私にとって、サーの意思こそ我が意思だっ!」
鋭く弧を描きながら襲い掛かる刃を、ゼリスはとっさにホルスターから抜いたハンドガンを投げつけ叩き落した。
ゼリスとベガ。電脳空間を模した『サイバースペース』の戦場を舞う、二体の神姫の目まぐるしい攻防に、筐体を囲むギャラリーから喝采が上がる。
それぞれのシートから見守るシュンと番長治は、それぞれ対照的な焦りと傲慢の顔を互いに交わしていた。
「一見互角のようだけど、ぜっちゃんには手持ちがもうないわ」
シュンの焦りの理由を伊吹が代弁する。今日の戦利品であるあの対物ライフルの装弾数は確か五発。すでにアーンヴァルタイプ基本装備のハンドガンは失っている。ビームセーバーは始めから装備しなかった。
対してベガは元々格闘戦型。両腰のナイフを失っても、彼女は自身の拳や蹴り技が武器だ。今までの動きからこのベガ相手に流暢にライフルのマガジン交換をする猶予はない。
――つまりゼリスに残された弾丸は一発。
今度弾丸を避けられたら、ゼリスには次の攻撃手段がない。
大丈夫かよ? そんな不安が過ぎるシュンを、ゼリスは一瞥すると、再びベガへと目を向け、言った。
「くだらないですね」
その言葉でベガの顔から表情が消えた。
「なるほど、確かに神姫は自らのオーナーを補佐し、望みを叶えるための存在。それが私たちの存在理由(レゾンデートル)です。しかし、ただひたすら相手に求め、求めるまま容認し、疑いもせずただ返す。そんなあなたたちの関係が正しい在り方であるとは思えません」
沸き立つ熱気に騒然とする中、ゼリスの淡々とした声がフィールドに響く。
「あなたたちは、ただ互いに依存し合っているだけです」
きっぱりと告げるゼリスに、ベガがキッと唇を噛む。
「何挑発してんだよっ。まずいだろうがっ」
思わず叫びながらシュンは焦った。対戦相手を本気で怒らせてしまったようだ。向かいのシートを見れば番長治も額に立てた青筋をピクピクさせながら、低い唸り声を上げてる。つーか血走った目がかなり本気で怖いんですけど?
「別に、ただ素直な感想を述べただけですよ?」
何か問題が? といった顔で問い返してくるゼリスを見て、シュンは何だか頭が痛くなってきた。ただでさえ不利な状況なのに、ゼリスときたら全く普段と変わらない。
「うぬら、ワシらを本気で怒らせたいようじゃのうっ」
「私のみならず、サーをも侮辱するその言葉。覚悟はいいか、小娘っ」
押し殺した番長治の声に、再び強い表情を取り戻したベガが猛然とダッシュする。その顔に浮かぶのは怒りだ。
その裂帛の気合と共に猛進するベガに、ゼリスは冷静にライフルの照星を絞る。
突如ベガがフィールドを疾走しながら何かを放る。彼女の周りで立て続けの閃光と爆発。
隠し持っていた手榴弾――!
巻き起こる爆発と生じた噴煙が駆けるベガの姿を覆い隠す。しかし、ゼリスは爆煙にも動じず、なめらかな手つきで引き金を引いた。
揺らめく噴煙に僅か垣間見える疾駆する影。放たれた銃弾は糸で繋がれたように、その合間を一直線に跳ぶ。
――勝った。
誰もがゼリスの勝ちを確信した瞬間、だが目の前で信じられないことが起きた。
再度の爆発。回避不能の銃弾を前に、ベガがまた手榴弾に点火したのだ。自らの直後で。
恐るべきベガの執念。
前方へと浮き上がるベガの体、その横を際どく弾丸が抉る。だが、弾丸は外れた。至近での爆発で自身ダメージを負いながら、それでもベガはゼリスの必勝の一撃を回避、今眼前へとその身を躍らせた。
ベガは勝利を確信した顔でゼリスに向かう。
踏みしめる衝撃で地が爆ぜ、駆動系の限界まで振り絞り、振るわれる拳が空気を唸らせる。脚部の補助バーニアまで全開にした、全力の、そして止めの拳撃。
シュンはゼリスの名を絶叫した。
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