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「Phase01-5」(2007/04/01 (日) 03:43:38) の最新版変更点
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電子の闘技場、その中央で迷彩武装を纏った神姫が仁王立ちしていた。地には倒れ伏したアーンヴァルモデル。その武装は砕け散り、ぼろぼろの状態だ。健気にも身を起こそうと片手をつくが、そんな彼女を対戦相手は無情にも踏み潰した。
完全に機能を停止したアーンヴァルの回りに「LOST THE GAME」の文字が表示され、迷彩の神姫の頭上には「YOU’ER WINNER」の文字と共に勝利のスポットライトが降り注いだ。
「……ひどいな」
アーンヴァルのオーナーだろうか。バトル終了と同時にひとり男の子が筐体に駆け寄り倒れた神姫に呼びかける。嗚咽交じりの男の子の声に、倒れたアーンヴァルタイプがか細い声で何事か苦しそうに答えている。
大きな損傷(ケガ)でなければいいけれど。シュンの頭の上でゼリスも押し黙ったままその光景を見つめている。
「ふたりとも、かわいそうだよ……」
ワカナの言う通り、それは自分ことでなくとも心が痛ましくなる光景だった。
地に伏す天使型と勝ち誇る迷彩神姫。
このバトルの組み合わせがさっき筐体の前を離れた時から変わっていないことに気がついた。まさか、さっきからずっとあの迷彩神姫は一方的な試合を繰り返していたのか?
「初心者狩り……」
シュンの隣に立つ伊吹がポツリと言う。
「いるのよね。まだ神姫バトルを始めたばかりの初心者に一方的にバトルを持ちかけて、相手を何度も痛めつけるのを楽しむ卑劣なヤツがっ」
伊吹は泣く男の子から目を逸らすように対戦相手を睨みつける。
眼前の悲壮な神姫と少年の姿も全く意に介さない様子で、フィールドに屹然と立つ迷彩の神姫。その奥のシートではオーナーだろう、黒い長ランを纏った厳つい大男が大仰に高笑いをしていた。
「がっはっは、そんな腕でこの番長治(バン チョウジ)様に立ち向かおうとはな。笑いが止まらぬとはこの事だな、ベガよ?」
「イエス・サー。自分たちにとってはまさに取るに足りぬ相手であります」
「うむ。誰か他にこのワシと勝負を張ろうという猛者はおらんのかっ!」
がっはがっはと肩を揺すりながらギャラリーをギョロリと見渡す番長治。誰もがその眼光から逃れるように身を引きあうなか、ひとりがスッと筐体の前へと歩み出た。
伊吹だ。
「ちょっと、アンタ! ダウンした神姫を痛めつけるなんて、どーいうつもり? そんな事して恥ずかしいとは思わないの?」
突然の伊吹の登場に番長治が鋭い目を向ける。それを真っ向から睨み返しながら、伊吹はさらに詰め寄った。
「おい、やめとけよ」
シュンは慌てて止めに入る。だが伊吹はシュンの制止も構わずに憤っている。不味い、ヒートアップしてやがる。
「やめないわ。こんな神姫バトラーの風上にも置けないようなヤツ、許せない!」
「ぷんぷんだよ~っ」
身を乗り出す伊吹の肩でワカナも頬っぺたを膨らませる。そんなシュンたちの騒ぎは相手を刺激するには十分だったようで、
「なんじゃあ、お前らは?」
番長治はそのドラ声をシュンたちに向けた。
仕方がない……シュンは軽くため息をつくと、熱くなる伊吹を押しのけ自分から前に出た。このまま伊吹に任せていたら、場所も考えず取っ組み合いでも始めそうだもんな。
「さっきの戦い見せてもらったけどさ、いくらなんでもあれはないんじゃないのか?」
「ふん、勝負事に情けは無用。一度タイマンの場に立ったからにはガチンコの何が悪い」
「サーの言う通りだ。戦場で対戦相手に情けを掛けるなど、愚行に過ぎない」
平然と言い放つ番長治と神姫ベガに、シュンは言い返す。
「だからって、子供相手に大人気ないだろう」
「そうよ、あの子とあの神姫に謝りなさいっ」
押しのけられた伊吹は始めはムッとしたものの、シュンが番長治に食い下がるのを見て加勢する。いつの間にかギャラリーが固唾を呑んでことの成り行きを見守ってる。
「おい、あの娘って……」
「あのマンチャオタイプの神姫、間違いない。センターランキング6位の伊吹舞だ」
群集たちは互いに噂しあう、その囁きはシュンたちにも聞こえてきた。センターランキング?
意味の分からないシュンに対し、番長治はピクリと眉をひそめる。
「なるほどのう。貴様か、このところ急に浮上してきたとかいう新進気鋭のランカーっちゅうのは……」
「だったらどうだっていうのよ? なんなら今から私が相手になってあげるわよ」
不敵な笑みを浮かべる伊吹の手の上で、ワカナが「しゅっしゅっ」とジャブの動き。ヤル気満々だな。
しかし番長治は「ふっ」と鼻を鳴らし、あくまでもシュンにその眼光を向けてきた。
「ふん。威勢の良さも後ろ盾にあってのこととは、笑わせるのうっ」
思わずシュンは固まってしまう。それを聞いた伊吹の方が憤然とする。
「ちょっと、シュっちゃんは関係ないでしょう?」
「ランカーだか知らんが女は黙っとれい。ワシは今この小僧と漢(おとこ)の話し取るんじゃ」
そんな伊吹の反論を受け流しつつ、番長治はあくまでもシュンに向かって鋭い視線を送る。
「ワシの行いにイチャモンつけたいっちゅーなら、どっちが正しいかバトルで決めるのはどうじゃい? それとも貴様のそいつは飾りか?」
番長治の太い指の先には、シュンの頭に乗るゼリスの姿があった。いきなり指を突きつけられ、ゼリスは五月蝿そうに目をパチクリさせる。バトルフィールドでは番長治の神姫、迷彩武装のベガが指をクイクイと折り曲げ誘いのジェスチュア。
あからさまな挑発だった。両手に紙袋を下げたシュンの姿を見れば初心者ということは一目瞭然なのだろう。あれこれと理由を付けて、ようは番長治の目的はあくまでも初心者をいたぶることなのだろう。
――どうする?
シュンは逡巡する。このままみすみす相手の誘いに乗るのは馬鹿げている。揉め事は出来れば避けたい。
けれど。筐体を囲むギャラリーの前に小さな男の子が立っている。手には大切そうに傷だらけの神姫を抱きしめ、シュンをジッと見つめている。
その男の子の目から伝わってくる想い、期待に応えたいと思う反面、シュンはまた気づく。神姫バトルはシュンだけで行えるものではない、神姫とそのオーナーのふたりで挑むものなのだ。
「ゼリス……」
シュンは頭上の彼の神姫へと声を掛ける。神姫バトルをするということは、負けた場合、オーナーではなくパートナーである神姫の方が傷を負うことになる。ゼリスをそんな危険な目に遭わせていいのか。何より、このいつも何を考えているか分からない、気ままでおしゃまな神姫は、シュンの勝手に付き合ってくれるだろうか?
シュンの中に様々な想いが次々と渦巻く。
しかし、そんなものなど何処吹く風。彼の神姫は、いつものように「ふむ」と顎に手を当てた決まりのポーズで小首を傾げると、いつものようにおもむろにすっくと立ち上がり、いつものように変わらぬ淡々とした声と口調で、
「……お断りさせていただきます」
さらっと言った。言いやがりやがった。
「お前なっ! この場面でそれかよっ!」
思わずシュンもマジ突っ込み。対しゼリスは淡々と答える。
「この場合、なるほど。不当な暴力を受けた先ほどの神姫への同情心から戦いに赴くのは、感情を基盤おいての行動であるなら有り得るのかも知れません。いえ、きっとそれが最も普遍的な選択なのでしょう。しかし考えてみてください。シュンは先ほどの天使型とそのオーナーとも、またそちらの筐体で待つおふたりとも今日始めて出会ったはず。言わばどちらも無関係な人間、第三者です。その第三者のいざこざに無用な足を踏み込む行為の必然性が、私には理解しえません」
何か言い返そうとしたシュンは、続くゼリスの言葉に押し黙った。
「また、仮に戦いに赴き、勝ちを得ることができたとしましょう。しかし、それが一体何になるのでしょうか? 勝利を得たとしても傷ついた彼の神姫が癒えるわけでもなく、何か特別な報いがある訳でもありません。むしろ戦いによって確実に犠牲者が増えるだけです。同情、報復、一方的な正義の証明行為。それらを追い求める中でのこの戦いには、何らメリットはありませんよ?」
正論だった。ゼリスの言ってることは、多分正しい。けれど、だからこそ悲しかった。
この一週間。シュンはゼリスのことを理解しようとずっと心を悩ませ、なんとか歩み寄ろうとした。でもそれは結局シュンの独り相撲だったのか?
道中のゼリスの言葉。今思い返すとその意味が良く分かる。ゼリスがシュンと一緒にいるのは、彼のことを認めているからか。きっと、違う。オーナーは自分の神姫を選べるが、神姫は自らのオーナーを選ぶことはできない。ゼリスにとっての彼は、ただ自分を起動させた人間に過ぎない。ゼリスにとってシュンは……僕は必要とされていない、のか。
ガックリとうなだれるシュン。
「イテッ」
そんなシュンを上から逆さまに覗き込んだゼリスは、彼の額にデコピンをかました。
「全く、この程度で落胆とは先が思いやられますね。シュンは往々にして物事を早合点する傾向がありますよ、困ったものです」
真意が分からずキョトンとするシュンに構わず、ゼリスは続ける。
「いいですか、シュン。私は第三者のために戦うことは否定しましたが、自分たちの為に戦うことまでは否定していません」
「え……、ってことはっ」
「世に君臨する王であろうとも、地を這い蹲る敗者になろうとも、皆すべからず共通する過程を通過します。それが初陣、初めての戦いです。例え栄光に満ちようと、苦難が待ち受けようと、すべては最初の戦いを経験したその先にこそあるのです。そんな大事な一戦を、半端な同情心や勢いだけで行おうとしないでください」
期待の輝きを取り戻したシュンに、どこか不満げにゼリスはポツリとつけ足す。
「それに初めての戦いを第三者に奉げるなんて、不興です。大切な一戦だからこそ、誰かのためでなく私たちの為に奉げるべきではないでしょうか」
ゼリスの強い光を灯したエメラルドの瞳を、シュンはただ強く見つめ返した。
言葉はいらない。
ゼリスが僕のことを何とも思っていない? 馬鹿だ僕は。ゼリスはしっかりと状況を認識した上で、シュンの無思慮を諭し、それでも彼の要望に応えてくれた。相手のことを信頼できていないのは自分の方じゃないか。
「ええ~い、さっきからブツブツと……。戦うのか戦わないのかハッキリせいやっ!」
苛立つ番長治の恫喝も、今のシュンとゼリスには関係がなかった。
シュンは無言で歩き出すと、伊吹の静止を振り切って筐体のシートへと腰を下ろした。
ゼリスが彼の頭から飛び降り、エントリーボックスへと着地する。
「私はあなたの為に戦います。あなたも私の為に戦ってください。シュン、これが私たちの公式戦デビュウです」
静かに宣誓するゼリスにシュンは短く「ああ」と頷いた。
やってやるぜ、バトル開始だ。
SHINKI/NEAR TO YOU
Phase01-5
電子の闘技場、その中央で迷彩武装を纏った神姫が仁王立ちしていた。地には倒れ伏したアーンヴァルモデル。その武装は砕け散り、ぼろぼろの状態だ。健気にも身を起こそうと片手をつくが、そんな彼女を対戦相手は無情にも踏み潰した。
完全に機能を停止したアーンヴァルの回りに「LOST THE GAME」の文字が表示され、迷彩の神姫の頭上には「YOU’ER WINNER」の文字と共に勝利のスポットライトが降り注いだ。
「……ひどいな」
アーンヴァルのオーナーだろうか。バトル終了と同時にひとり男の子が筐体に駆け寄り倒れた神姫に呼びかける。嗚咽交じりの男の子の声に、倒れたアーンヴァルタイプがか細い声で何事か苦しそうに答えている。
大きな損傷(ケガ)でなければいいけれど。シュンの頭の上でゼリスも押し黙ったままその光景を見つめている。
「ふたりとも、かわいそうだよ……」
ワカナの言う通り、それは自分ことでなくとも心が痛ましくなる光景だった。
地に伏す天使型と勝ち誇る迷彩神姫。
このバトルの組み合わせがさっき筐体の前を離れた時から変わっていないことに気がついた。まさか、さっきからずっとあの迷彩神姫は一方的な試合を繰り返していたのか?
「初心者狩り……」
シュンの隣に立つ伊吹がポツリと言う。
「いるのよね。まだ神姫バトルを始めたばかりの初心者に一方的にバトルを持ちかけて、相手を何度も痛めつけるのを楽しむ卑劣なヤツがっ」
伊吹は泣く男の子から目を逸らすように対戦相手を睨みつける。
眼前の悲壮な神姫と少年の姿も全く意に介さない様子で、フィールドに屹然と立つ迷彩の神姫。その奥のシートではオーナーだろう、黒い長ランを纏った厳つい大男が大仰に高笑いをしていた。
「がっはっは、そんな腕でこの番長治(バン チョウジ)様に立ち向かおうとはな。笑いが止まらぬとはこの事だな、ベガよ?」
「イエス・サー。自分たちにとってはまさに取るに足りぬ相手であります」
「うむ。誰か他にこのワシと勝負を張ろうという猛者はおらんのかっ!」
がっはがっはと肩を揺すりながらギャラリーをギョロリと見渡す番長治。誰もがその眼光から逃れるように身を引きあうなか、ひとりがスッと筐体の前へと歩み出た。
伊吹だ。
「ちょっと、アンタ! ダウンした神姫を痛めつけるなんて、どーいうつもり? そんな事して恥ずかしいとは思わないの?」
突然の伊吹の登場に番長治が鋭い目を向ける。それを真っ向から睨み返しながら、伊吹はさらに詰め寄った。
「おい、やめとけよ」
シュンは慌てて止めに入る。だが伊吹はシュンの制止も構わずに憤っている。不味い、ヒートアップしてやがる。
「やめないわ。こんな神姫バトラーの風上にも置けないようなヤツ、許せない!」
「ぷんぷんだよ~っ」
身を乗り出す伊吹の肩でワカナも頬っぺたを膨らませる。そんなシュンたちの騒ぎは相手を刺激するには十分だったようで、
「なんじゃあ、お前らは?」
番長治はそのドラ声をシュンたちに向けた。
仕方がない……シュンは軽くため息をつくと、熱くなる伊吹を押しのけ自分から前に出た。このまま伊吹に任せていたら、場所も考えず取っ組み合いでも始めそうだもんな。
「さっきの戦い見せてもらったけどさ、いくらなんでもあれはないんじゃないのか?」
「ふん、勝負事に情けは無用。一度タイマンの場に立ったからにはガチンコの何が悪い」
「サーの言う通りだ。戦場で対戦相手に情けを掛けるなど、愚行に過ぎない」
平然と言い放つ番長治と神姫ベガに、シュンは言い返す。
「だからって、子供相手に大人気ないだろう」
「そうよ、あの子とあの神姫に謝りなさいっ」
押しのけられた伊吹は始めはムッとしたものの、シュンが番長治に食い下がるのを見て加勢する。いつの間にかギャラリーが固唾を呑んでことの成り行きを見守ってる。
「おい、あの娘って……」
「あのマンチャオタイプの神姫、間違いない。センターランキング6位の伊吹舞だ」
群集たちは互いに噂しあう、その囁きはシュンたちにも聞こえてきた。センターランキング?
意味の分からないシュンに対し、番長治はピクリと眉をひそめる。
「なるほどのう。貴様か、このところ急に浮上してきたとかいう新進気鋭のランカーっちゅうのは……」
「だったらどうだっていうのよ? なんなら今から私が相手になってあげるわよ」
不敵な笑みを浮かべる伊吹の手の上で、ワカナが「しゅっしゅっ」とジャブの動き。ヤル気満々だな。
しかし番長治は「ふっ」と鼻を鳴らし、あくまでもシュンにその眼光を向けてきた。
「ふん。威勢の良さも後ろ盾にあってのこととは、笑わせるのうっ」
思わずシュンは固まってしまう。それを聞いた伊吹の方が憤然とする。
「ちょっと、シュっちゃんは関係ないでしょう?」
「ランカーだか知らんが女は黙っとれい。ワシは今この小僧と漢(おとこ)の話し取るんじゃ」
そんな伊吹の反論を受け流しつつ、番長治はあくまでもシュンに向かって鋭い視線を送る。
「ワシの行いにイチャモンつけたいっちゅーなら、どっちが正しいかバトルで決めるのはどうじゃい? それとも貴様のそいつは飾りか?」
番長治の太い指の先には、シュンの頭に乗るゼリスの姿があった。いきなり指を突きつけられ、ゼリスは五月蝿そうに目をパチクリさせる。バトルフィールドでは番長治の神姫、迷彩武装のベガが指をクイクイと折り曲げ誘いのジェスチュア。
あからさまな挑発だった。両手に紙袋を下げたシュンの姿を見れば初心者ということは一目瞭然なのだろう。あれこれと理由を付けて、ようは番長治の目的はあくまでも初心者をいたぶることなのだろう。
――どうする?
シュンは逡巡する。このままみすみす相手の誘いに乗るのは馬鹿げている。揉め事は出来れば避けたい。
けれど。筐体を囲むギャラリーの前に小さな男の子が立っている。手には大切そうに傷だらけの神姫を抱きしめ、シュンをジッと見つめている。
その男の子の目から伝わってくる想い、期待に応えたいと思う反面、シュンはまた気づく。神姫バトルはシュンだけで行えるものではない、神姫とそのオーナーのふたりで挑むものなのだ。
「ゼリス……」
シュンは頭上の彼の神姫へと声を掛ける。神姫バトルをするということは、負けた場合、オーナーではなくパートナーである神姫の方が傷を負うことになる。ゼリスをそんな危険な目に遭わせていいのか。何より、このいつも何を考えているか分からない、気ままでおしゃまな神姫は、シュンの勝手に付き合ってくれるだろうか?
シュンの中に様々な想いが次々と渦巻く。
しかし、そんなものなど何処吹く風。彼の神姫は、いつものように「ふむ」と顎に手を当てた決まりのポーズで小首を傾げると、いつものようにおもむろにすっくと立ち上がり、いつものように変わらぬ淡々とした声と口調で、
「……お断りさせていただきます」
さらっと言った。言いやがりやがった。
「お前なっ! この場面でそれかよっ!」
思わずシュンもマジ突っ込み。対しゼリスは淡々と答える。
「この場合、なるほど。不当な暴力を受けた先ほどの神姫への同情心から戦いに赴くのは、感情を基盤おいての行動であるなら有り得るのかも知れません。いえ、きっとそれが最も普遍的な選択なのでしょう。しかし考えてみてください。シュンは先ほどの天使型とそのオーナーとも、またそちらの筐体で待つおふたりとも今日始めて出会ったはず。言わばどちらも無関係な人間、第三者です。その第三者のいざこざに無用な足を踏み込む行為の必然性が、私には理解しえません」
何か言い返そうとしたシュンは、続くゼリスの言葉に押し黙った。
「また、仮に戦いに赴き、勝ちを得ることができたとしましょう。しかし、それが一体何になるのでしょうか? 勝利を得たとしても傷ついた彼の神姫が癒えるわけでもなく、何か特別な報いがある訳でもありません。むしろ戦いによって確実に犠牲者が増えるだけです。同情、報復、一方的な正義の証明行為。それらを追い求める中でのこの戦いには、何らメリットはありませんよ?」
正論だった。ゼリスの言ってることは、多分正しい。けれど、だからこそ悲しかった。
この一週間。シュンはゼリスのことを理解しようとずっと心を悩ませ、なんとか歩み寄ろうとした。でもそれは結局シュンの独り相撲だったのか?
道中のゼリスの言葉。今思い返すとその意味が良く分かる。ゼリスがシュンと一緒にいるのは、彼のことを認めているからか。きっと、違う。オーナーは自分の神姫を選べるが、神姫は自らのオーナーを選ぶことはできない。ゼリスにとっての彼は、ただ自分を起動させた人間に過ぎない。ゼリスにとってシュンは……僕は必要とされていない、のか。
ガックリとうなだれるシュン。
「イテッ」
そんなシュンを上から逆さまに覗き込んだゼリスは、彼の額にデコピンをかました。
「全く、この程度で落胆とは先が思いやられますね。シュンは往々にして物事を早合点する傾向がありますよ、困ったものです」
真意が分からずキョトンとするシュンに構わず、ゼリスは続ける。
「いいですか、シュン。私は第三者のために戦うことは否定しましたが、自分たちの為に戦うことまでは否定していません」
「え……、ってことはっ」
「世に君臨する王であろうとも、地を這い蹲る敗者になろうとも、皆すべからず共通する過程を通過します。それが初陣、初めての戦いです。例え栄光に満ちようと、苦難が待ち受けようと、すべては最初の戦いを経験したその先にこそあるのです。そんな大事な一戦を、半端な同情心や勢いだけで行おうとしないでください」
期待の輝きを取り戻したシュンに、どこか不満げにゼリスはポツリとつけ足す。
「それに初めての戦いを第三者に奉げるなんて、不興です。大切な一戦だからこそ、誰かのためでなく私たちの為に奉げるべきではないでしょうか」
ゼリスの強い光を灯したエメラルドの瞳を、シュンはただ強く見つめ返した。
言葉はいらない。
ゼリスが僕のことを何とも思っていない? 馬鹿だ僕は。ゼリスはしっかりと状況を認識した上で、シュンの無思慮を諭し、それでも彼の要望に応えてくれた。相手のことを信頼できていないのは自分の方じゃないか。
「ええ~い、さっきからブツブツと……。戦うのか戦わないのかハッキリせいやっ!」
苛立つ番長治の恫喝も、今のシュンとゼリスには関係がなかった。
シュンは無言で歩き出すと、伊吹の静止を振り切って筐体のシートへと腰を下ろした。
ゼリスが彼の頭から飛び降り、エントリーボックスへと着地する。
「私はあなたの為に戦います。あなたも私の為に戦ってください。シュン、これが私たちの公式戦デビュウです」
静かに宣誓するゼリスにシュンは短く「ああ」と頷いた。
やってやるぜ、バトル開始だ。
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