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「妄想神姫:第二十一章」(2007/02/27 (火) 00:46:09) の最新版変更点
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**真っ直ぐに学び、ひたむきに語り
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秋葉原を要する千代田区には、“一応塾”なる大学出資の学習塾がある。
どことなく安心出来ない屋号であるのだが……実績は確かと聞いていた。
私は戸籍謄本等を求められぬこの塾へ、実験的にクララを通わせている。
勿論“殻の躯”で門前払いされたので、HVIFを用いて審査を通った。
そこで彼女は高校生・槇野梓として、一般の“同年代の人間”と過ごす。
「ただいまなんだよ、お姉ちゃん。今日も宿題が一杯あるんだよッ」
「おお、御苦労だな梓……いや、クララ。HVIFを休ませるか?」
「ううん。今日は筆記問題もあるから、この姿でないといけないよ」
「この時代にプリントとはなぁ。電子データに統一すればいい物を」
そうなのだ。“当番制”を崩せない以上、毎日塾に通う事は出来ない。
とは言え進学塾故に、ノルマというか必要な単位はこなさねばならん。
従ってクララは当番日になると、法外な“宿題”を抱え込む事になる。
更に塾通いは深夜まで続く。だが聡明な梓は、決して夜遊びに奔らん。
「“書く能力”を維持するには、スタイラスだけじゃ不十分だもん」
「それもそうだが、環境問題を叫ぶならば工夫が必要にならんか?」
「その為に、来年度はフィルム型のスクリーンが支給されるんだよ」
「……レンタルか。もう少し早くても良さそうな気はしていたがな」
この現状を仕向けたのは私で、同意したのは他ならぬクララ本人なのだ。
寡黙で頭脳派に見えるクララだが、ハウリンタイプのサガと言うべきか、
実は外に出て目一杯“勉強”したかったらしい。それも人間の学問をだ。
だが今現在まで、日本国は神姫に人権を認めていない。海外も殆ど同様。
となればどうしても、学習の機会は通信教育が頼り……嘆かわしい事だ。
「そう言えば、今日は神姫を連れたクラスメイトが来ていたんだよ?」
「……確かにあの塾、神姫を持ち込む事自体に渋い顔はしなかったが」
「種型の“綺羅”さん。彼女もオーナーの勉強に興味有るみたいだよ」
……名前に少々引っかかる物があるが、それはさておこう。有無。
梓の話ではないが、人間の行動に興味を持つ神姫は結構多いのだ。
だが大抵の場合、社会進出は認められぬ。ネット上で正体を隠して
活動している神姫がいないとは言い切れないが、殆どは玩具扱い。
『なら“肉の躯”はどうなるの?』……これが私の考えた疑問だ。
「どうだ、仮初めとは言え高校生としての勉学の日々は?……辛いか?」
「そんな事無いよ、お姉ちゃん。自分の能力を活かし、高められるから」
「流石はクララ。私の見立て通りだ……む、もう筆記は終わったのかッ」
そしてエルゴを訪れた際に、クララの言葉で思いついたのが“塾通い”。
“HVIFによる神姫の社会進出”実験……という名目で、行っている。
この企みにクララのニーズは見事当てはまり、周囲の誤魔化しも良好だ。
御陰で人間の社会常識を教え込む際に、ロッテよりも容易に会話が進む。
「終わったよ。後は全部データ処理……神姫素体で十分出来るもん」
「そうか。しかしこんな問題、私でも時間が掛かるというのになぁ」
「学ぶ事はとっても楽しいんだよ、お姉ちゃんが技術を磨く様にね」
「成程な……向上心は大事だ。今後もその調子で学ぶのだぞ、梓ッ」
神姫にもある“発展性”が、クララに於いては知識という方向性で
急速に成長している。これは良い傾向と言えた。己の才能を活かし
更に高めていく。人間としてそれを活かせずとも、可能性は増す。
そうして、人は更なるステージに到達していくのだからな。有無。
「……え、ええっと。梓ちゃん?これ、なんて書いてあるんですか?」
「なんだか難しすぎて、コアがオーバーヒートしちゃいそうですの~」
「アルマお姉ちゃん、ロッテお姉ちゃん……無理するとよくないよ?」
テーブルを登ってきたアルマとロッテが、その難解極まりない宿題に
音を上げている。神姫が学問を学ぶ機会などそう多くはない。大抵は
こんな反応だろう……。故に、クララの特異性が目立つとも言える。
「今ハーブティーを入れてやる。皆飲んで、寝る準備をしろよ?」
ちなみに、これは物理学のプリントだった。成程、クララには重要。
学んだ事は“魔術”に転用する事で、具体的な力となる。これもまた
人間では為しえない……“武装神姫”だからこそ出来る事であるな。
「有り難うなんだよ、お姉ちゃん。躯があったまるもん」
「はふ……流石にHVIF用のサイズは、違いますの♪」
「人間とほぼ同様なのだ、アルマでもなければ飲めまい」
「うう、ひどいですマイスター!?……飲めますけどっ」
さて……ティータイムでくつろいだ所で、私は梓に質問する。
純粋に一人の“姉”として、最も気になる要素とすら言えた。
それは即ち、人間であれば十二分に有り得るだろう“話題”。
「ところで梓や、塾でお前に親しくする男性はいるのか?」
「結構いるんだよ?神姫だって言えないから苦労するもん」
「……ほう。例えばどんな奴だ?ヘラヘラ笑ってないか?」
「顔がデロって垂れ下がった人が、話しかけてくるんだよ」
……今度そいつを連れてきてもらう必要がありそうだと思うな。
無論、私の“妹”である梓……いや、クララに変な蟲が付いては
たまらん故、一度お灸を据える為だ。そこの貴様も、同様だぞ?
この後を覗いたら、たっぷり仕置きしてやる。覚悟しておけッ!
「……さて、そろそろお風呂に入るか。寝る準備を始めるぞッ」
「うん。今日は疲れたから、たっぷり入ろうね……お姉ちゃん」
「う゛、うむ。背中を、その。流してやろうではないか、なぁ」
「マイスター顔がまっかっかですの♪……アルマお姉ちゃん?」
「あ、あのっ。あたしも、ロッテちゃんの背中……流したいな」
「ふぇ、ふぇえっ!?そんな事言われるの初めてですのッ!?」
──────姿形が違うからこそ、毎日が楽しいのかな?
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