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「「良く晴れた日」改訂版」(2007/02/27 (火) 00:29:56) の最新版変更点
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* そのさん「良く晴れた日」
とある日曜日。
その日は見事な秋晴れだった。僕は昨日約束した通り、ティキに外に散歩に行こうと告げた。
当然散歩だけではなく、来るデビュー戦に向けてパーツのテストを行うという目的も兼ねている。
ティキはマオチャオで、なのに僕はこの娘に鉄耳装とキャットテイル以外のマオチャオ用の武装を装備させてない。
しかも無理やり自作の情報集積装置とそれに伴い改装した鉄耳装を有線で繋いでしまったものだから、うまく機能するか不安だったんだ。
もちろんそんなのはただの杞憂で、さっさとテストを終えた僕らはダラダラと散歩&日向ぼっこに興じている。
「お外に出たのは初めてなのですよぉ♪」
楽しそうに浮かびながらティキは言った。アーンヴァル用のリアウイングを背中につけているので宙を飛んでいても不思議じゃない。
「あれ? そうなんだ」
「そうですよぉ♪ 旦那さんはマスタたちにティキのことナイショにしてたので、ずっとあの部屋から出た事無いのですよぉ☆」
……判りにくいので説明すると、彼女の言う『旦那さん』とは元オーナーの僕の亡父で、『マスタ』と言うのが現オーナーの僕の事。
「うにーー……お日様の光って、すごく気持ちイイですぅ……」
うっとりとしてそう言うティキ。
周りを見回せば、多くないとは言え神姫と一緒にこの公園に来ている人間も少なくはない。つまりは当たり前にオーナーと外で日を浴びる神姫がいるって事。
ティキはそんな当たり前を今まで経験してこなかったんだ。
そう考えると少し悲しくなった。
「マスタ、どうしたですかぁ?」
気が付くとティキが目の前で心配そうに僕の事を見ている。
「……いや、なんでもない。それじゃ、せっかく初めての外出なんだからめーいっぱい遊ばないとねっ」
「ハイですぅ♪」
今でこそなんの躊躇もなくティキと外に出たりできるけど、僕がとりあえず便宜上、ティキのオーナーになった時は、それでも僕はティキを所有する事に戸惑いを覚えていた。
何度も言うけど、僕は自分のオタク体質を認めたくなかったんだから仕方が無い。
格好つけもあったと思う。40年以上の昔から今に至るまで、オタクと呼ばれる人たちが世間一般に『カッコいい』と言われた時はわずかで、しかもその時さえも『見ようによっては』という注釈がついたほどだ。
つまり、どこまで言ってもオタク=変人である事には変わりはなかった。
しかしティキに出会ってからというもの、『武装神姫』に対する興味はますます膨らむばかりで。
「いやいやいや……でも、なあ?」
「なにが『なあ?』なんですかぁ?」
「おうわっ!」
我ながらどうかと思う奇妙な声を出して驚く。
その僕の目の前には、ニコニコと笑顔を浮かべたティキの顔。
僕だけに向けられているそんな笑顔を見て、僕は顔が赤くなる。
彼女に振られたばかりで、女の子のそういう表情を見るのがご無沙汰だった僕は、それだけで照れてしまった。
あぁ、今ならわかるよ。武装神姫にのめり込んで溺愛する人の気持ちがっっっ!
……………………
って、あ……れ?
何かが天啓のように僕の頭に引っかかった。悪魔の誘惑とも取れるのだけども。
一体今の僕は、何に対して格好をつけなければならないのか?
格好つけて見せるべき対象であった彼女には先日見事に振られ、その彼女と釣り合いが取れるように張っていた見栄やプライドにも、今では何の意味も無いのに、好きだと感じれる事や、興味をそそられる事に遠慮して、一体僕のなにが守られるのか?
今僕が格好つける相手は、目の前の彼女じゃないのか!?
一回でもそんな考えが頭を過ぎると、後は坂道を転がる石の様。
「……そうだね。自分から逃げていてもダメだよね」
多分、世間で言う所の『一般常識人』は、この時の心情から出てくるその言葉に矛盾を感じるんだろうなぁ。
多数意見に寄りかかり、他を排除し、否定してしまう人たちには、『安寧のために現実に逃げるのを止め、夢中になれる自分の本当に目を向ける』という幸せは判らないんだ。……今までの僕がそうだった様に。
「決め、た」
「なにをですかぁ?」
僕はティキを見つめ、宣言するように言葉を紡ぐ。
「ティキ。僕はこれから君と一緒の時間を過ごす事に決めた。……親父の代わりは勤まらないかもしれないけど。それでも!」
「……………………」
「ティキ?」
なんだかプルプル震えるティキ。心配になる僕。
「違うのですよぉ! 誰も誰の代わりにはなれないのですよぉ! 雪那さんは雪那さんなのです! 誰かの代わりじゃないのですよぉ!!」
そして彼女は怒った。
驚いた。そして不覚にも感動してしまった。それこそそれは、たった今自分が決意した事を肯定する言葉なのだから。
そんな僕の心中にティキは気付かず、にっこりと目を糸の様にして笑い右手を差し出す。
「というわけで、これからよろしくなのですよぉ♪」
その言葉を受け、僕はその手に右手の人差し指で応じた。
初めて見る外界。データとして、知識として知っているだけなのと違い、リアルなそれら刺激に対し、ティキは戸惑いながらも楽しんでいるみたいだ。
だからこそ、今日一日は二人で目一杯遊び倒した。初めての外出を、それこそいい思い出にしてあげたいから。
犬にじゃれ付かれそうになって笑いながら逃げ回るティキ。
じっと見ていた昆虫の、突然の行動に驚くティキ。
幼い子供が彼女に手を振るのに、照れ笑いを浮かべながらも手を振り返すティキ。
そんな一つ一つが僕にとっても嬉しい。
ひとしきり遊んで、へとへとになる頃には日がずいぶんと傾いていた。
「それじゃぁ帰ろっか」
僕は頭の上で休んでいるはずのティキに言う。が、ティキから返事は無い。代わりに聞こえてくるのは、
「すぅー…… すぅー……」
と言う寝息だけだった。
僕は頭の上でうつ伏せに寝ているティキを起こさないよう、ゆっくりと立ち上がると、慎重に家路に着く。
途中、少し目が覚めたティキは、小さく何かを僕に言うと再び眠りについてしまった。よくは聞き取れなかったが、まぁ、起こしてまで聞き返す事も無いし。
そのままの格好で帰宅した僕らを見て、母は一言こういった。
「なんだか昔のMMOの頭部アクセサリみたいね」
……結局母も侮れない。
「マスタと一緒に遊べて、ティキはとっても幸せなのですぅ……」
思わずうれしくなっちゃうその寝言は、僕だけの秘密にしておこう。
[[終える>僕とティキ]] / [[つづく!>「初陣」]]
* そのさん「良く晴れた日」
とある日曜日。
その日は見事な秋晴れだった。僕は昨日約束した通り、ティキに外に散歩に行こうと告げた。
当然散歩だけではなく、来るデビュー戦に向けてパーツのテストを行うという目的も兼ねている。
ティキはマオチャオで、なのに僕はこの娘に鉄耳装とキャットテイル以外のマオチャオ用の武装を装備させてない。
しかも無理やり自作の情報集積装置とそれに伴い改装した鉄耳装を有線で繋いでしまったものだから、うまく機能するか不安だったんだ。
もちろんそんなのはただの杞憂で、さっさとテストを終えた僕らはダラダラと散歩&日向ぼっこに興じている。
「お外に出たのは初めてなのですよぉ♪」
楽しそうに浮かびながらティキは言った。アーンヴァル用のリアウイングを背中につけているので宙を飛んでいても不思議じゃない。
「あれ? そうなんだ」
「そうですよぉ♪ 旦那さんはマスタたちにティキのことナイショにしてたので、ずっとあの部屋から出た事無いのですよぉ☆」
……判りにくいので説明すると、彼女の言う『旦那さん』とは元オーナーの僕の亡父で、『マスタ』と言うのが現オーナーの僕の事。
「うにーー……お日様の光って、すごく気持ちイイですぅ……」
うっとりとしてそう言うティキ。
周りを見回せば、多くないとは言え神姫と一緒にこの公園に来ている人間も少なくはない。つまりは当たり前にオーナーと外で日を浴びる神姫がいるって事。
ティキはそんな当たり前を今まで経験してこなかったんだ。
そう考えると少し悲しくなった。
「マスタ、どうしたですかぁ?」
気が付くとティキが目の前で心配そうに僕の事を見ている。
「……いや、なんでもない。それじゃ、せっかく初めての外出なんだからめーいっぱい遊ばないとねっ」
「ハイですぅ♪」
今でこそなんの躊躇もなくティキと外に出たりできるけど、僕がとりあえず便宜上、ティキのオーナーになった時は、それでも僕はティキを所有する事に戸惑いを覚えていた。
何度も言うけど、僕は自分のオタク体質を認めたくなかったんだから仕方が無い。
格好つけもあったと思う。40年以上の昔から今に至るまで、オタクと呼ばれる人たちが世間一般に『カッコいい』と言われた時はわずかで、しかもその時さえも『見ようによっては』という注釈がついたほどだ。
つまり、どこまで言ってもオタク=変人である事には変わりはなかった。
しかしティキに出会ってからというもの、『武装神姫』に対する興味はますます膨らむばかりで。
「いやいやいや……でも、なあ?」
「なにが『なあ?』なんですかぁ?」
「おうわっ!」
我ながらどうかと思う奇妙な声を出して驚く。
その僕の目の前には、ニコニコと笑顔を浮かべたティキの顔。
僕だけに向けられているそんな笑顔を見て、僕は顔が赤くなる。
彼女に振られたばかりで、女の子のそういう表情を見るのがご無沙汰だった僕は、それだけで照れてしまった。
あぁ、今ならわかるよ。武装神姫にのめり込んで溺愛する人の気持ちがっっっ!
……………………
って、あ……れ?
何かが天啓のように僕の頭に引っかかった。悪魔の誘惑とも取れるのだけども。
一体今の僕は、何に対して格好をつけなければならないのか?
格好つけて見せるべき対象であった彼女には先日見事に振られ、その彼女と釣り合いが取れるように張っていた見栄やプライドにも、今では何の意味も無いのに、好きだと感じれる事や、興味をそそられる事に遠慮して、一体僕のなにが守られるのか?
今僕が格好つける相手は、目の前の彼女じゃないのか!?
一回でもそんな考えが頭を過ぎると、後は坂道を転がる石の様。
「……そうだね。自分から逃げていてもダメだよね」
多分、世間で言う所の『一般常識人』は、この時の心情から出てくるその言葉に矛盾を感じるんだろうなぁ。
多数意見に寄りかかり、他を排除し、否定してしまう人たちには、『安寧のために現実に逃げるのを止め、夢中になれる自分の本当に目を向ける』という幸せは判らないんだ。……今までの僕がそうだった様に。
「決め、た」
「なにをですかぁ?」
僕はティキを見つめ、宣言するように言葉を紡ぐ。
「ティキ。僕はこれから君と一緒の時間を過ごす事に決めた。……親父の代わりは勤まらないかもしれないけど。それでも!」
「……………………」
「ティキ?」
なんだかプルプル震えるティキ。心配になる僕。
「違うのですよぉ! 誰も誰の代わりにはなれないのですよぉ! 雪那さんは雪那さんなのです! 誰かの代わりじゃないのですよぉ!!」
そして彼女は怒った。
驚いた。そして不覚にも感動してしまった。それこそそれは、たった今自分が決意した事を肯定する言葉なのだから。
そんな僕の心中にティキは気付かず、にっこりと目を糸の様にして笑い右手を差し出す。
「というわけで、これからよろしくなのですよぉ♪」
その言葉を受け、僕はその手に右手の人差し指で応じた。
初めて見る外界。データとして、知識として知っているだけなのと違い、リアルなそれら刺激に対し、ティキは戸惑いながらも楽しんでいるみたいだ。
だからこそ、今日一日は二人で目一杯遊び倒した。初めての外出を、それこそいい思い出にしてあげたいから。
犬にじゃれ付かれそうになって笑いながら逃げ回るティキ。
じっと見ていた昆虫の、突然の行動に驚くティキ。
幼い子供が彼女に手を振るのに、照れ笑いを浮かべながらも手を振り返すティキ。
そんな一つ一つが僕にとっても嬉しい。
ひとしきり遊んで、へとへとになる頃には日がずいぶんと傾いていた。
「それじゃぁ帰ろっか」
僕は頭の上で休んでいるはずのティキに言う。が、ティキから返事は無い。代わりに聞こえてくるのは、
「すぅー…… すぅー……」
と言う寝息だけだった。
僕は頭の上でうつ伏せに寝ているティキを起こさないよう、ゆっくりと立ち上がると、慎重に家路に着く。
途中、少し目が覚めたティキは、小さく何かを僕に言うと再び眠りについてしまった。よくは聞き取れなかったが、まぁ、起こしてまで聞き返す事も無いし。
そのままの格好で帰宅した僕らを見て、母は一言こういった。
「なんだか昔のMMOの頭部アクセサリみたいね」
……結局母も侮れない。
「マスタと一緒に遊べて、ティキはとっても幸せなのですぅ……」
思わずうれしくなっちゃうその寝言は、僕だけの秘密にしておこう。
[[終える>せつなの武装神姫~僕とティキ~]] / [[もどる>「回顧録・一」改訂版]] / [[つづく!>「初陣」]]
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