「初めての…」(2007/03/04 (日) 01:09:25) の最新版変更点
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「…どこだ…?」
誰に言う出もなく呟く
「落ち着け、ララ。ヤツもこっちを見つけられてないはずだ」
マスターからの指示を受け、再び息を潜める私(兎型MMSのララ)
(…しかし、本当にドコに隠れてるのだろうか?)
普通のストラーフならば、闇に紛れてということもあるだろうが、相手はあの「白い翼の悪魔」だ。あの目立つ翼で何処に隠れてるというのだろうか
光学迷彩か…それとも他の…
世界ランキング72位は伊達じゃないということか
正直、マスターが小学生だと思って舐めていた。どこぞのピz(検閲削除)と一緒で祭り上げられた神輿だと思ってた
その結果がコレだ
何処へともなく消え、現れてはこちらの武器を奪っていく。既に手元には残弾僅かのカロッテP12とアーミーナイフが一本しか残っていない。あとは全て真っ二つだ
一方、向こうは全くの無傷
信じたくない状況だった
『姿無き狙撃手』と呼ばれた私が、なんてザマだ
ともかく、ヤツを見つけないと…
スコープを下ろし、注意深く策敵をする
…ん?あの物陰に僅かに熱反応が…
罠か…?
「もう負け試合ですからね、せめて一太刀でも…」
アーミーナイフを左手に握る
「諦めたらそこで負けだぞ」
…そうだ。諦めるのはまだ早い
「ララ、例の言葉でいぶりだしてみるか」
「了解」
隠れたまま叫ぶ
『いつまでかくれんぼを続けるのです、ちるちる!』
『ちるちるっていうなー!』
…ホントに引っ掛かった…
声の聞こえてきた場所は…さっき熱反応のあった位置だ!
物陰から飛び出し、そこに向けてカロッテを放つ
パン!パン!パン!カチッ!
チッ!弾切れか!しかし当たったはずだ
「ぶっぶー、はずれなのだー」
脳天気な声が後から聞こえる
「んなっ!」
振り向き、アーミーナイフで斬りかかる
しかし
アーミーナイフは彼女をすり抜けた
ドサ…ガランガラン…
…否、私の左腕が無かった
振ったつもりの腕は地面に転がっていた
いつ斬られた?
彼女がニカッと笑う
マズイ!
慌てて後へ飛ぼうとする
ぐらり…
しかし足に力が入らず、その場に倒れる
「まさか…」
左足も斬られていた
「もう諦めた方がいいと思うのだ」
首筋に剣が当てられる
彼女の武器、ムラサメディバイター
その切れ味は…既に体験済みだ
彼女がちょっと動かしただけで、私はその事さえも認識出来ずに機能停止をするだろう
ここは現実世界。首を切られたら、死が待っている
私の命は、この天使の翼を持つ悪魔に委ねられているのだ
私は…
「んっふっふ~、どうするのだー?」
この無邪気な微笑みに見守られながら死ぬのも悪くないと思った
『ララのマスターからのギブアップを確認。勝者、ミチル!』
AIジャッジが彼女の勝利を告げる
「んっふっふ~、勝ったのだー!」
剣を納め、喜ぶ彼女
「あっと。おいで、ジャガー」
ピポッ!
さっき私が撃った物陰から、一体のマスィーンズが飛び出してきた
そういうことか。あれが声マネをしたのか。それに私はまんまと引っ掛かったわけだ
「んと、あと…」
こちらを向き、彼女が言った
「ちるちるっていうなー!」
…ホントに怒った
「あ、痛覚回路の感度を下げたほうがいいぞよ。そろそろくるはずじゃ」
可愛い声で向こうのマスター…國崎観奈ちゃんが言う
マスターが痛覚回路の設定を下げてくれたが、斬られた所が熱くなってきて私の意識は遠のいていった…
----
「うわー!スゴイ!スゴイよちるちる!」
「えっへん!」
優勝したちるちるをひじりんが迎える
「はいそこ!ちるちるいうなー!あ、ひじりんはいいのだー!」
「しかし…お前、ホントに強いんだな」
「どうだ健四郎、ホレ直したか?」
「…最初から惚れてないぞ」
「ふっふっふ、細かいことはきにしないのだ」
こんな軽口を叩いてると、とてもトップランカーの一人とは思えない
決勝で当たったララだって、国内で有名なランカーだった
実際、決勝まで彼女は相手に姿を見せることなく完全勝利を収めて来ていた
それがまさか、ミチルにそのお株を奪われて完敗するとは…
「まぁ今回は興紀殿が参加しておらんかったしな」
観奈ちゃんが残念そうに言う
鶴畑興紀。国内、いや世界的に見てもトップクラスの実力者にして鶴畑コンツェルンの御曹司
観奈ちゃんは対戦を楽しみにしてるのだが、間が悪く一度も戦った事がない
「でもなんか代わりが出てたじゃないか」
「弟殿じゃ話にならん!」
そいや秒殺だったっけ
「全く…アーンヴァル型の火器官制能力を生かすというのは分からなくもないが、限度というものがあるのじゃ!」
「メーカーとしては、あーいうのは上客なんだけどね。でもあれじゃ神姫が可哀想だよな」
装備が重すぎて動けない所をミチルにバラバラにされたからな。急所は外してあるから大丈夫とは言ってたが…
「しかしお前って、ホント容赦無いな」
「ヘタに情けをかけると、相手がヤケ起こしたりして取り返しの付かない事になる場合もあるのだ…」
ふっと表情が暗くなる
「あっ…ゴメン」
こう見えても観奈ちゃんとミチルはシビアな世界に生きている
色々対策は施してあるといっても、事故は付き物だ
ミチルも、何体も神姫を再起不能にしたり、破壊した事がある
いずれ自分もそうなるであろう覚悟もしている
「それはそうとケンシロウ、約束は覚えてるであろうな?」
「ああ、覚えてるさ」
俺と観奈ちゃんとの約束…それは…
----
*初めての…
----
「うわ~!スゴイ所じゃな!」
ここは日本有数の巨大娯楽施設
遊園地、ショピングモール、さらにはホテルまでもあり、その総面積は凄まじいものがある
…実はあれから、年間チケットがあるならと新道や他の人と度々来ていたりする
その話を聞いた観奈ちゃんも行ってみたいと言い出した
それで軽い気持ちで『今度の大会で優勝したらね』なんて言ってしまったのだ
…まさか次の大会が公式重賞戦のジャパンフェブラリーカップだったとは
そしてそれに優勝するとは…
「さっケンシロウ。中に入ろうぞ!」
「あ、ちょっとまって観奈ちゃん。はいこれ」
といってチケットを渡す
「をー。キラキラしてて綺麗じゃー!でもなんで紙じゃないのじゃ?」
「それがあれば、一年間ずっと入れるよ」
そう。俺が今回観奈ちゃんに渡したのもプラチナチケットだ
「うわーい!かたじけないのじゃ!それじゃ早速入るのじゃー!」
「きゃー!」
「うおっ!」
世界的に見ても最強と名高いジェットコースターには観奈ちゃんが身長不足で乗れなかったので小さなコースターに乗った俺達の感想は似たようなモンだった
いや、あれ慣れないって…よく新道は平気だよな…
「たのしいのじゃー!」
観奈ちゃんは満足げ
「ちょっと暑いな…ソフトクリームでも食べる?」
「たべるー!」
元気いっぱいな返事をする観奈ちゃん
「よし、んじゃ買ってくるからそこでまってて」
売店で二つ買い、もどるとそこには…
「へっへっ、お嬢さん。俺達と楽しいことしない?」
「寄るな変態共!わらわは忙しいのじゃ!」
「オマエラ、とうとうそこまで…」
例の二人組だった
「あんだとこ…あ!香田瀬さん!今日は一人で?」
「いや、その子と一緒だ」
「ひいぃっ!香田瀬さんの連れとは知らず、とんだご無礼を…」
「オマエラ、いい加減こんな事止めろよ。この前部長をナンパしようとして、SPにボコられたろ」
「なんじゃコイツラ、水那岐と知り合いなのか?」
「いや、全然知らないヤツラ」
「…あれ、この子まさか…」
俺達のやりとりを見ていた男Bが何かを思案している
「…!あーーーーーー!やっぱり國崎観奈!」
「誰だソイツ?」
AがBに訊ねる
「その筋じゃ超有名人すよ兄貴!冷酷無比で対戦相手を切り刻む『白い翼の天使』の…」
Aの顔色が真っ青になる
「ぎぇーーーーーーーお許し下さいーーーー!」
ダッシュで逃げるA
「あ…アイツ、なんか勘違いしたろ」
「…みたいっすね、香田瀬のダンナ…って、それより!」
兄貴分を忘却の彼方へと追いやり、ポケットをガサガサと探し始めるB
「あの…俺、ファンなんです!サインして下さい!!」
「たわけ!ナンパなんぞしてる輩にやるサインなんぞ無いわ!」
「ひぃっ!もうしません、もうしませんから何とぞ…」
「…よし、ならばくれてやろう。ホレよこせ」
紙を受け取りサインを書き始める観奈ちゃん
「…そいやお前、何で観奈ちゃんの事知ってるの?」
「実は俺も神姫バトルやってるんですよ。…まだサードの下っ端ですけどね」
「だったら尚のことナンパなんぞするでないぞ、お前の神姫が可哀想ではないか!」
「今まで兄貴に無理矢理誘われて…でももうしません!約束します!」
「うむ、よろしい」
といって、サインを書いた紙を渡す観奈ちゃん
「有り難うございました!よーし、家に帰って額にいれて…」
「そんな物より神姫の方を大事にしてやるんじゃぞ!」
「あ、はい!うちのカオリの次に大事にします!」
カオリってのが彼の神姫か。一体どんな神姫なんだろうな
「うーむ、良いことをした後は気分が良いな!」
「そうだな。んじゃコレ食べようか」
俺達二人は溶け掛かったソフトクリームを食べ始めた
「ほらほら観奈ちゃん、口の周りが」
ハンカチで拭ってあげる
「そういうケンシロウこそ」
指で俺の口の周りを拭う観奈ちゃん
「ぺろっ!」
その指を舐める
「ところで…」
「じゃな…」
なんか周りの様子がおかしい
遠巻きにヒソヒソと…
「…逃げるか」
「…その方がよさそうじゃな」
その場から走り出す俺達
「あ、まって~観奈ちゃ~~ん」
今まで遠巻きに見てたヤツラが言い出す
「はぁはぁ…なんとか巻いたみたいだな」
「うむ、そのようじゃな」
観奈ちゃんは、息一つ乱してない
「なんじゃこの程度で、情け無いぞよ」
う…体力に自信がある方じゃないけど…
「観奈ちゃんは普段から鍛えてるじゃん」
「当たり前じゃ!日々の鍛錬こそ重要なのじゃ!」
「う…俺も何か始めるかな…」
「剣術なら教えてやるぞよ?」
観奈ちゃんの剣の腕前は、そこらの師範代が裸足で逃げ出す程強い
もしあの時、あの二人が観奈ちゃんをどうにかしようとしたら、相当ヒドイ目に遭わされた事だろう
「考えとくよ。それより他もみていこうよ」
「そうじゃな!えーと次は…」
地図を広げ悩む観奈ちゃん
それから俺達は色々な所を回った
射的をしたり、御飯を食べたり、パレードを見たり…
楽しい時間はあっという間に過ぎていった
「っと、もうこんな時間か、帰らないとな」
「…ホントだ。もう6時になるのじゃな…」
ホントならナイトパレード等も見せたいのだが、遅い時間まで連れ回す訳にもいかなかった
「お土産も一杯買ったし、帰るとするか」
「…そうじゃな」
観奈ちゃんは寂しそうに言った
いくら有名人でも、剣の達人でも、やはり小さな女の子だ
「…またこような」
「…うん、約束じゃよ」
そういって小指を差し出してくる観奈ちゃん
身を屈め小指を絡める
「指切りげんまん…」
観奈ちゃんの声が響く
「指切った!」
帰りの電車の中、観奈ちゃんはすっかり眠ってしまっていた
「ムニュムニュ…ケンシロウ…」
一体どんな夢を見ているのだろうか
俺は観奈ちゃんが起きないようにそっと抱え、おぶって電車を降りた
駅の改札には、部長とミチル、ユキと花乃ちゃんとひじりんが待っていた
「…おかえり…なさい…」
部長と一緒に会社─観奈ちゃんの家へと歩く
「…たのし…かった…ですか…?」
「楽しかったですよ。香奈ちゃんも喜んでくれてるといいんですけど」
「…この顔を…みれば…わかります…」
観奈ちゃんは俺の背中で幸せそうな顔をしながら眠っていた
----
「…う、う~ん…」
「を、お目覚めですか、お姫様」
「…あれ?ここはどこじゃ…?」
ふと見渡すと、周りの景色は車窓では無く、見慣れた場所…でもちょっと違和感が…
誰かの背中にいた
ケンシロウがおんぶしてくれていた
「あ、すまぬ。電車の中で眠ってしまったのじゃな。今下りる…」
「いいよ、疲れてるだろうし。このまま家まで送っていくよ」
「…うん。ありがと…」
きゅっと手の力を強くし、ケンシロウにしがみつく
「うおっ!」
「あ、すまぬ。キツかったのか?」
「いやそうじゃなく…その…なんでもないぞ。ははは…」
「ホントに…?」
ケンシロウの顔を覗き込むと、なんだか赤くなっているような…
「…あ」
恥ずかしい…でも嬉しい
わらわをちょっとでも女と見てくれたのだろうか
「…観奈ちゃん…おはよう…」
水那岐がいた。ミチルもいた。ユキちゃんも花乃もひじりんもいた
「おはよう、そしてただいまなのじゃ」
ケンシロウにおぶされての帰り道
ほんとに今日は楽しい1日じゃった
「ほんとに楽しいわらわのはじめての…」
「ん?なんか言ったか?」
「ううん、なんでもないぞよ…なんでも…」
ケンシロウがどんな気持ちで一緒にいてくれたかは分からない
でも
今日はわらわの初めてのデート…
----
あとがき
うーむ、序盤の戦闘シーンからガラっと変わってほのぼの路線に…
でこちゅー ◆CtUOuuxRW. 氏の「岡島士郎と愉快な神姫達」から鶴畑兄弟をお借りしました
「…どこだ…?」
誰に言う出もなく呟く
「落ち着け、ララ。ヤツもこっちを見つけられてないはずだ」
マスターからの指示を受け、再び息を潜める私(兎型MMSのララ)
(…しかし、本当にドコに隠れてるのだろうか?)
普通のストラーフならば、闇に紛れてということもあるだろうが、相手はあの「白い翼の悪魔」だ。あの目立つ翼で何処に隠れてるというのだろうか
光学迷彩か…それとも他の…
世界ランキング72位は伊達じゃないということか
正直、マスターが小学生だと思って舐めていた。どこぞのピz(検閲削除)と一緒で祭り上げられた神輿だと思ってた
その結果がコレだ
何処へともなく消え、現れてはこちらの武器を奪っていく。既に手元には残弾僅かのカロッテP12とアーミーナイフが一本しか残っていない。あとは全て真っ二つだ
一方、向こうは全くの無傷
信じたくない状況だった
『姿無き狙撃手』と呼ばれた私が、なんてザマだ
ともかく、ヤツを見つけないと…
スコープを下ろし、注意深く策敵をする
…ん?あの物陰に僅かに熱反応が…
罠か…?
「もう負け試合ですからね、せめて一太刀でも…」
アーミーナイフを左手に握る
「諦めたらそこで負けだぞ」
…そうだ。諦めるのはまだ早い
「ララ、例の言葉でいぶりだしてみるか」
「了解」
隠れたまま叫ぶ
『いつまでかくれんぼを続けるのです、ちるちる!』
『ちるちるっていうなー!』
…ホントに引っ掛かった…
声の聞こえてきた場所は…さっき熱反応のあった位置だ!
物陰から飛び出し、そこに向けてカロッテを放つ
パン!パン!パン!カチッ!
チッ!弾切れか!しかし当たったはずだ
「ぶっぶー、はずれなのだー」
脳天気な声が後から聞こえる
「んなっ!」
振り向き、アーミーナイフで斬りかかる
しかし
アーミーナイフは彼女をすり抜けた
ドサ…ガランガラン…
…否、私の左腕が無かった
振ったつもりの腕は地面に転がっていた
いつ斬られた?
彼女がニカッと笑う
マズイ!
慌てて後へ飛ぼうとする
ぐらり…
しかし足に力が入らず、その場に倒れる
「まさか…」
左足も斬られていた
「もう諦めた方がいいと思うのだ」
首筋に剣が当てられる
彼女の武器、ムラサメディバイター
その切れ味は…既に体験済みだ
彼女がちょっと動かしただけで、私はその事さえも認識出来ずに機能停止をするだろう
ここは現実世界。首を切られたら、死が待っている
私の命は、この天使の翼を持つ悪魔に委ねられているのだ
私は…
「んっふっふ~、どうするのだー?」
この無邪気な微笑みに見守られながら死ぬのも悪くないと思った
『ララのマスターからのギブアップを確認。勝者、ミチル!』
AIジャッジが彼女の勝利を告げる
「んっふっふ~、勝ったのだー!」
剣を納め、喜ぶ彼女
「あっと。おいで、ジャガー」
ピポッ!
さっき私が撃った物陰から、一体のマスィーンズが飛び出してきた
そういうことか。あれが声マネをしたのか。それに私はまんまと引っ掛かったわけだ
「んと、あと…」
こちらを向き、彼女が言った
「ちるちるっていうなー!」
…ホントに怒った
「あ、痛覚回路の感度を下げたほうがいいぞよ。そろそろくるはずじゃ」
可愛い声で向こうのマスター…國崎観奈ちゃんが言う
マスターが痛覚回路の設定を下げてくれたが、斬られた所が熱くなってきて私の意識は遠のいていった…
----
「うわー!スゴイ!スゴイよちるちる!」
「えっへん!」
優勝したちるちるをひじりんが迎える
「はいそこ!ちるちるいうなー!あ、ひじりんはいいのだー!」
「しかし…お前、ホントに強いんだな」
「どうだ健四郎、ホレ直したか?」
「…最初から惚れてないぞ」
「ふっふっふ、細かいことはきにしないのだ」
こんな軽口を叩いてると、とてもトップランカーの一人とは思えない
決勝で当たったララだって、国内で有名なランカーだった
実際、決勝まで彼女は相手に姿を見せることなく完全勝利を収めて来ていた
それがまさか、ミチルにそのお株を奪われて完敗するとは…
「まぁ今回は興紀殿が参加しておらんかったしな」
観奈ちゃんが残念そうに言う
鶴畑興紀。国内、いや世界的に見てもトップクラスの実力者にして鶴畑コンツェルンの御曹司
観奈ちゃんは対戦を楽しみにしてるのだが、間が悪く一度も戦った事がない
「でもなんか代わりが出てたじゃないか」
「弟殿じゃ話にならん!」
そいや秒殺だったっけ
「全く…アーンヴァル型の火器官制能力を生かすというのは分からなくもないが、限度というものがあるのじゃ!」
「メーカーとしては、あーいうのは上客なんだけどね。でもあれじゃ神姫が可哀想だよな」
装備が重すぎて動けない所をミチルにバラバラにされたからな。急所は外してあるから大丈夫とは言ってたが…
「しかしお前って、ホント容赦無いな」
「ヘタに情けをかけると、相手がヤケ起こしたりして取り返しの付かない事になる場合もあるのだ…」
ふっと表情が暗くなる
「あっ…ゴメン」
こう見えても観奈ちゃんとミチルはシビアな世界に生きている
色々対策は施してあるといっても、事故は付き物だ
ミチルも、何体も神姫を再起不能にしたり、破壊した事がある
いずれ自分もそうなるであろう覚悟もしている
「それはそうとケンシロウ、約束は覚えてるであろうな?」
「ああ、覚えてるさ」
俺と観奈ちゃんとの約束…それは…
----
*初めての…
----
「うわ~!スゴイ所じゃな!」
ここは日本有数の巨大娯楽施設
遊園地、ショピングモール、さらにはホテルまでもあり、その総面積は凄まじいものがある
…実はあれから、年間チケットがあるならと新道や他の人と度々来ていたりする
その話を聞いた観奈ちゃんも行ってみたいと言い出した
それで軽い気持ちで『今度の大会で優勝したらね』なんて言ってしまったのだ
…まさか次の大会が公式重賞戦のジャパンフェブラリーカップだったとは
そしてそれに優勝するとは…
「さっケンシロウ。中に入ろうぞ!」
「あ、ちょっとまって観奈ちゃん。はいこれ」
といってチケットを渡す
「をー。キラキラしてて綺麗じゃー!でもなんで紙じゃないのじゃ?」
「それがあれば、一年間ずっと入れるよ」
そう。俺が今回観奈ちゃんに渡したのもプラチナチケットだ
「うわーい!かたじけないのじゃ!それじゃ早速入るのじゃー!」
「きゃー!」
「うおっ!」
世界的に見ても最強と名高いジェットコースターには観奈ちゃんが身長不足で乗れなかったので小さなコースターに乗った俺達の感想は似たようなモンだった
いや、あれ慣れないって…よく新道は平気だよな…
「たのしいのじゃー!」
観奈ちゃんは満足げ
「ちょっと暑いな…ソフトクリームでも食べる?」
「たべるー!」
元気いっぱいな返事をする観奈ちゃん
「よし、んじゃ買ってくるからそこでまってて」
売店で二つ買い、もどるとそこには…
「へっへっ、お嬢さん。俺達と楽しいことしない?」
「寄るな変態共!わらわは忙しいのじゃ!」
「オマエラ、とうとうそこまで…」
例の二人組だった
「あんだとこ…あ!香田瀬さん!今日は一人で?」
「いや、その子と一緒だ」
「ひいぃっ!香田瀬さんの連れとは知らず、とんだご無礼を…」
「オマエラ、いい加減こんな事止めろよ。この前部長をナンパしようとして、SPにボコられたろ」
「なんじゃコイツラ、水那岐と知り合いなのか?」
「いや、全然知らないヤツラ」
「…あれ、この子まさか…」
俺達のやりとりを見ていた男Bが何かを思案している
「…!あーーーーーー!やっぱり國崎観奈!」
「誰だソイツ?」
AがBに訊ねる
「その筋じゃ超有名人すよ兄貴!冷酷無比で対戦相手を切り刻む『白い翼の天使』の…」
Aの顔色が真っ青になる
「ぎぇーーーーーーーお許し下さいーーーー!」
ダッシュで逃げるA
「あ…アイツ、なんか勘違いしたろ」
「…みたいっすね、香田瀬のダンナ…って、それより!」
兄貴分を忘却の彼方へと追いやり、ポケットをガサガサと探し始めるB
「あの…俺、ファンなんです!サインして下さい!!」
「たわけ!ナンパなんぞしてる輩にやるサインなんぞ無いわ!」
「ひぃっ!もうしません、もうしませんから何とぞ…」
「…よし、ならばくれてやろう。ホレよこせ」
紙を受け取りサインを書き始める観奈ちゃん
「…そいやお前、何で観奈ちゃんの事知ってるの?」
「実は俺も神姫バトルやってるんですよ。…まだサードの下っ端ですけどね」
「だったら尚のことナンパなんぞするでないぞ、お前の神姫が可哀想ではないか!」
「今まで兄貴に無理矢理誘われて…でももうしません!約束します!」
「うむ、よろしい」
といって、サインを書いた紙を渡す観奈ちゃん
「有り難うございました!よーし、家に帰って額にいれて…」
「そんな物より神姫の方を大事にしてやるんじゃぞ!」
「あ、はい!うちのカオリの次に大事にします!」
カオリってのが彼の神姫か。一体どんな神姫なんだろうな
「うーむ、良いことをした後は気分が良いな!」
「そうだな。んじゃコレ食べようか」
俺達二人は溶け掛かったソフトクリームを食べ始めた
「ほらほら観奈ちゃん、口の周りが」
ハンカチで拭ってあげる
「そういうケンシロウこそ」
指で俺の口の周りを拭う観奈ちゃん
「ぺろっ!」
その指を舐める
「ところで…」
「じゃな…」
なんか周りの様子がおかしい
遠巻きにヒソヒソと…
「…逃げるか」
「…その方がよさそうじゃな」
その場から走り出す俺達
「あ、まって~観奈ちゃ~~ん」
今まで遠巻きに見てたヤツラが言い出す
「はぁはぁ…なんとか巻いたみたいだな」
「うむ、そのようじゃな」
観奈ちゃんは、息一つ乱してない
「なんじゃこの程度で、情け無いぞよ」
う…体力に自信がある方じゃないけど…
「観奈ちゃんは普段から鍛えてるじゃん」
「当たり前じゃ!日々の鍛錬こそ重要なのじゃ!」
「う…俺も何か始めるかな…」
「剣術なら教えてやるぞよ?」
観奈ちゃんの剣の腕前は、そこらの師範代が裸足で逃げ出す程強い
もしあの時、あの二人が観奈ちゃんをどうにかしようとしたら、相当ヒドイ目に遭わされた事だろう
「考えとくよ。それより他もみていこうよ」
「そうじゃな!えーと次は…」
地図を広げ悩む観奈ちゃん
それから俺達は色々な所を回った
射的をしたり、御飯を食べたり、パレードを見たり…
楽しい時間はあっという間に過ぎていった
「っと、もうこんな時間か、帰らないとな」
「…ホントだ。もう6時になるのじゃな…」
ホントならナイトパレード等も見せたいのだが、遅い時間まで連れ回す訳にもいかなかった
「お土産も一杯買ったし、帰るとするか」
「…そうじゃな」
観奈ちゃんは寂しそうに言った
いくら有名人でも、剣の達人でも、やはり小さな女の子だ
「…またこような」
「…うん、約束じゃよ」
そういって小指を差し出してくる観奈ちゃん
身を屈め小指を絡める
「指切りげんまん…」
観奈ちゃんの声が響く
「指切った!」
帰りの電車の中、観奈ちゃんはすっかり眠ってしまっていた
「ムニュムニュ…ケンシロウ…」
一体どんな夢を見ているのだろうか
俺は観奈ちゃんが起きないようにそっと抱え、おぶって電車を降りた
駅の改札には、部長とミチル、ユキと花乃ちゃんとひじりんが待っていた
「…おかえり…なさい…」
部長と一緒に会社─観奈ちゃんの家へと歩く
「…たのし…かった…ですか…?」
「楽しかったですよ。観奈ちゃんも喜んでくれてるといいんですけど」
「…この顔を…みれば…わかります…」
観奈ちゃんは俺の背中で幸せそうな顔をしながら眠っていた
----
「…う、う~ん…」
「を、お目覚めですか、お姫様」
「…あれ?ここはどこじゃ…?」
ふと見渡すと、周りの景色は車窓では無く、見慣れた場所…でもちょっと違和感が…
誰かの背中にいた
ケンシロウがおんぶしてくれていた
「あ、すまぬ。電車の中で眠ってしまったのじゃな。今下りる…」
「いいよ、疲れてるだろうし。このまま家まで送っていくよ」
「…うん。ありがと…」
きゅっと手の力を強くし、ケンシロウにしがみつく
「うおっ!」
「あ、すまぬ。キツかったのか?」
「いやそうじゃなく…その…なんでもないぞ。ははは…」
「ホントに…?」
ケンシロウの顔を覗き込むと、なんだか赤くなっているような…
「…あ」
恥ずかしい…でも嬉しい
わらわをちょっとでも女と見てくれたのだろうか
「…観奈ちゃん…おはよう…」
水那岐がいた。ミチルもいた。ユキちゃんも花乃もひじりんもいた
「おはよう、そしてただいまなのじゃ」
ケンシロウにおぶされての帰り道
ほんとに今日は楽しい1日じゃった
「ほんとに楽しいわらわのはじめての…」
「ん?なんか言ったか?」
「ううん、なんでもないぞよ…なんでも…」
ケンシロウがどんな気持ちで一緒にいてくれたかは分からない
でも
今日はわらわの初めてのデート…
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あとがき
うーむ、序盤の戦闘シーンからガラっと変わってほのぼの路線に…
でこちゅー ◆CtUOuuxRW. 氏の「岡島士郎と愉快な神姫達」から鶴畑兄弟をお借りしました
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