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「第伍幕 「Merciless Cult」」(2007/03/26 (月) 18:02:40) の最新版変更点
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左腕と左脚、左の乳房のみを「サイフォス」ベースの装甲で覆った姿でエルギールはヴァーチャルスペースに現れた
金管楽器の様な凄まじく派手な銀色の装甲は、今回のフィールドである湖畔の風景を見事に天地逆さまに写している
『随分軽装だな?まぁホントの白兵戦になりゃぁ神姫用の武器は「避けられない」方がヤバいって言うし、ある意味ありっちゃありか?でも所詮そんだけだろ?ビシッとキメてやろうぜ!華墨』
(確かに軽装だ・・・が・・・・)
武士の台詞を華墨は半分聞き流している
ここ数回のバトルで、華墨は少しずつではあるが自らのデフォルト武装の取捨選択を始めていた
初戦の教訓と「どうせ相手に密着するのだから」という事で、十字戟もメインボードから外し、主力武装は腰の大小に、やや肩周りの可動を阻害する肩当を捨て、ジョイントを介して「垂れ」の部分だけを直接装備、鬼面と喉当ても外していた
最後の二つは今回のバトルに際して急遽実行したのだが、それというのもポッドに入る前にちらりと、エルギールの主力武装とおぼしきものを目にしたからだ
それは剣呑な黒い刀身に、禍々しい朱い模様がうねうねと描かれた、非常に大振りなダガーだった(殆どショートソードと言っても良かったかも知れない)
神姫が外出する時に、手持ちの得物の中から携行に便利な物を選んで持ち歩くというのは聞いた事があるが、華墨には何故だか判らないがそれが「護身用の武器では無い」という強迫観念めいた確信があった
それで、視界と装甲の二択に(勝手に)迫られて、結果折衷案で、「兜は残して仮面は外す」という結論に至った訳だ
いずれにしても、未だに胸の奥をざわざわと撫でられる様な感覚はおさまらず、目の前の軽装な姿を、武士程楽観視出来無いのだった
*第伍幕 「Merciless Cult」
自分と相手の戦力差がどの程度なのか?正確に把握するには結局ぶつかってみるのが一番良い。華墨は覚悟を決めた
ざくざくいう足音と共に、バーチャルの下生えが踏み潰されてゆく。(いける、いつもの私だ)ポニーテールを地面に水平になるくらい迄浮かせながら華墨は走る。右手で太刀を抜き放ち、気合一閃、一気にエルギールに斬りかかる!
白刃が虚空に白い影を描き、華墨の天地は逆転する。遅れて知覚される苦痛
「ハン!速さと装甲にモノ言わせて真っ直ぐ突っ込んで殴るだけの、単なるゴリ押しじゃない!?案の定大した事無いわね?」
(なんだ!?何をされたんだ?今!?)
地面を抉る程に叩き付けられた華墨だったが、即座に立ち上がり、エルギールから距離をとる
「どうしたの?躓きでもしたのかしら?ホント情っさけ無いわね」
憎まれ口を叩くエルギール。その手に武器らしきものは握られていない。華墨が警戒していた短剣も、まだヒップホルスターの中だ
「・・・」
「つば」を鳴らして太刀を構え直す。いつもの様に、加速をつける為の攻撃型ではなく、切っ先を相手に向けた防御よりの型だ
「・・・アタシってそんな気が長い方じゃ無いのよね・・・来ないんなら」
ヒップホルスターから短剣を抜き放つエルギール。一瞬、朱色の模様が生物の様にうねった・・・様に感じた
「こっちからブン投げてやるまでよォ!!」
「!!」
明らかに短剣が届く間合いではなかった、が、エルギールの剣は鋼線で接続されたいくつかの節に別れ、異様な動きでもって華墨の左腕に巻き付いたのだ。食い込んだ刃が、華墨の人工皮膚を・・・裂く
「くそっ!!」
鋼鉄の毒蛇に腕を拘束されたまま切り込む華墨。だが、引き手を殺されたへたれた斬撃は、あっさりとエルギールの腕甲でいなされ、挙句そのまま首を掴まれる
(・・・ぐっ!)
くぐもった呻きが漏れる。それは人間的な条件反射だが、神姫が「人がましく」振舞う為に動きの基礎に組み込まれている
「けだものを捕らえるには罠を使うでしょう?アタシはその罠。さぁ、ホントのアタシのフルコンボってやつを見せたげるわ!!」
首を掴んだ左手が捻られる、同時に右足が払われ、左腕の拘束を引き外す動きでそのまま吊り上げられる
(これが・・・!?)
「まずは天(転)」
異様な体勢で転ばされ、なんとか残った右腕で受身を試みる
「間に人(刃)」
ぞぶりだかどすだかいう様な汁っぽい音と共に、引き抜かれ空を舞っていた刃が右腕に突き刺さる
たまらず、そのまま顔面から地に倒れ付す華墨。打撃系の衝撃が、装甲ごしにでも強烈なダメージを全身に及ぼした
「最期は地に血の花を咲かせて逝きなさいな!アンタの名前に相応しい幕切れじゃない!!」
エルギールの哄笑、無理矢理体を起こそうとする華墨だが、最早戦闘能力が無きに等しいのはいかなる目で見ても明白だ
(立ち上がる・・・ちから・・・)
武士が何かを叫んでいた、残念ながら華墨には何を言っているのか全く判らなかったが・・・
(ここで立ち上がる・・・ちからが・・・)
だが、そんな力は華墨の中には無かった。愛も、怒りも、不屈の意思も、未だ華墨は本当の意味で理解など出来て居なかった
虚ろに過ぎるジャッジのマシンボイスを、ヴァーチャルスペースに全く意識があるままに、華墨は聞いていた
「華墨・・・負けちまったのか・・・?」
武士は腰を浮かせて、呆然とディスプレイを見ていた
その肩に琥珀の小さな、冷たい手が掛かる迄、武士は彼女が入ってきた事にすら気付いていなかった
「ね、判った?闘うってこういう事なんだよ。体はヴァーチャルでも、彼女らが感じる恐怖は本物なんだ。」
小さな、だがはっきりした声だった
「だって・・・武装神姫って、バトルする為に創られたんだろ?」
のろのろと首を回す武士。琥珀の、多分名前の由来なのだろう琥珀色の瞳は、感情を深い所に隠していて、思考を読み取る事は今の武士には不可能だった
「確かに彼女達は闘う為に創られた。でもね、闘争本能を持たされていても、彼女達が本当に闘いを望んでいるかどうかは判らないんじゃないかな?」
「・・・え?」
「判らない?君は彼女のマスターだけど彼女は本当の意味で『君の神姫』になっているのかな?」
「当たり前だ!神姫は登録した人間をマスターとする様に出来てるんだろ?」
語気を強める武士、だが琥珀の口調にも表情にも、僅かな変化も見られなかった
「プログラムされた知性、プログラムされた感情、なら、忠誠心だってプログラムされたものなんだろうね」
「・・・」
にこりともしない、が、別に怒りも悲嘆も、いかなる色も彼女の表情には現れないのではないかと、武士は思った
「・・・」
「プシュ」と空気の抜ける様な音がして、華墨のバトルポッドが開く
ゆっくり顔を上げる華墨に一瞬目をやってから踵を返す琥珀
「じゃ、するべき事はしたから・・・縁があったらまたね・・・」
視線だけ二人に向けて言い放つと、もうそのまま、むにむにと柔らかい足音だけ残して琥珀は去っていった
「・・・負けてしまったよ・・・マスター・・・」
「・・・あぁ・・・」
ここで取って付けた様な労いの言葉を吐く事が出来るのか?吐く資格があるのか?労ってやるべき存在?神姫は・・・?
玩具にそれをするのか?人間にそれをしないのか?
「・・・無事でよかったよ」
武士は恐ろしくばらばらな表情でようやくそれだけ吐くと、華墨を抱え上げポケットに入れ、無言でブースから出るのだった
「見事な『壁』役だったね」
「僕は厭だよ。本当はこんな役なんて」
「買って出た苦労だろう?私は何も頼んじゃいない」
「・・・・・」
「・・・君にとってはどうなんだい?」
「何がさ?」
「神姫とは高性能な知性を持った玩具なのか・・・?身長15センチの人間なのか・・・?君が佐鳴武士に叩き付けた問いについて・・・だよ」
「・・・そういう話は川原さんとでもしてなよ。帰ろうか?エルギール」
主よりも遥かに派手な神姫を肩に乗せて去る少女を見ながら、皆川はいかにも意味ありげに不気味に微笑んで見せるのだった
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左腕と左脚、左の乳房のみを「サイフォス」ベースの装甲で覆った姿でエルギールはヴァーチャルスペースに現れた
金管楽器の様な凄まじく派手な銀色の装甲は、今回のフィールドである湖畔の風景を見事に天地逆さまに写している
『随分軽装だな?まぁホントの白兵戦になりゃぁ神姫用の武器は「避けられない」方がヤバいって言うし、ある意味ありっちゃありか?でも所詮そんだけだろ?ビシッとキメてやろうぜ!華墨』
(確かに軽装だ・・・が・・・・)
武士の台詞を華墨は半分聞き流している
ここ数回のバトルで、華墨は少しずつではあるが自らのデフォルト武装の取捨選択を始めていた
初戦の教訓と「どうせ相手に密着するのだから」という事で、十字戟もメインボードから外し、主力武装は腰の大小に、やや肩周りの可動を阻害する肩当を捨て、ジョイントを介して「垂れ」の部分だけを直接装備、鬼面と喉当ても外していた
最後の二つは今回のバトルに際して急遽実行したのだが、それというのもポッドに入る前にちらりと、エルギールの主力武装とおぼしきものを目にしたからだ
それは剣呑な黒い刀身に、禍々しい朱い模様がうねうねと描かれた、非常に大振りなダガーだった(殆どショートソードと言っても良かったかも知れない)
神姫が外出する時に、手持ちの得物の中から携行に便利な物を選んで持ち歩くというのは聞いた事があるが、華墨には何故だか判らないがそれが「護身用の武器では無い」という強迫観念めいた確信があった
それで、視界と装甲の二択に(勝手に)迫られて、結果折衷案で、「兜は残して仮面は外す」という結論に至った訳だ
いずれにしても、未だに胸の奥をざわざわと撫でられる様な感覚はおさまらず、目の前の軽装な姿を、武士程楽観視出来無いのだった
*第伍幕 「Merciless Cult」
自分と相手の戦力差がどの程度なのか?正確に把握するには結局ぶつかってみるのが一番良い。華墨は覚悟を決めた
ざくざくいう足音と共に、バーチャルの下生えが踏み潰されてゆく。(いける、いつもの私だ)ポニーテールを地面に水平になるくらい迄浮かせながら華墨は走る。右手で太刀を抜き放ち、気合一閃、一気にエルギールに斬りかかる!
白刃が虚空に白い影を描き、華墨の天地は逆転する。遅れて知覚される苦痛
「ハン!速さと装甲にモノ言わせて真っ直ぐ突っ込んで殴るだけの、単なるゴリ押しじゃない!?案の定大した事無いわね?」
(なんだ!?何をされたんだ?今!?)
地面を抉る程に叩き付けられた華墨だったが、即座に立ち上がり、エルギールから距離をとる
「どうしたの?躓きでもしたのかしら?ホント情っさけ無いわね」
憎まれ口を叩くエルギール。その手に武器らしきものは握られていない。華墨が警戒していた短剣も、まだヒップホルスターの中だ
「・・・」
「つば」を鳴らして太刀を構え直す。いつもの様に、加速をつける為の攻撃型ではなく、切っ先を相手に向けた防御よりの型だ
「・・・アタシってそんな気が長い方じゃ無いのよね・・・来ないんなら」
ヒップホルスターから短剣を抜き放つエルギール。一瞬、朱色の模様が生物の様にうねった・・・様に感じた
「こっちからブン投げてやるまでよォ!!」
「!!」
明らかに短剣が届く間合いではなかった、が、エルギールの剣は鋼線で接続されたいくつかの節に別れ、異様な動きでもって華墨の左腕に巻き付いたのだ。食い込んだ刃が、華墨の人工皮膚を・・・裂く
「くそっ!!」
鋼鉄の毒蛇に腕を拘束されたまま切り込む華墨。だが、引き手を殺されたへたれた斬撃は、あっさりとエルギールの腕甲でいなされ、挙句そのまま首を掴まれる
(・・・ぐっ!)
くぐもった呻きが漏れる。それは人間的な条件反射だが、神姫が「人がましく」振舞う為に動きの基礎に組み込まれている
「けだものを捕らえるには罠を使うでしょう?アタシはその罠。さぁ、ホントのアタシのフルコンボってやつを見せたげるわ!!」
首を掴んだ左手が捻られる、同時に右足が払われ、左腕の拘束を引き外す動きでそのまま吊り上げられる
(これが・・・!?)
「まずは天(転)」
異様な体勢で転ばされ、なんとか残った右腕で受身を試みる
「間に人(刃)」
ぞぶりだかどすだかいう様な汁っぽい音と共に、引き抜かれ空を舞っていた刃が右腕に突き刺さる
たまらず、そのまま顔面から地に倒れ付す華墨。打撃系の衝撃が、装甲ごしにでも強烈なダメージを全身に及ぼした
「最期は地に血の花を咲かせて逝きなさいな!アンタの名前に相応しい幕切れじゃない!!」
エルギールの哄笑、無理矢理体を起こそうとする華墨だが、最早戦闘能力が無きに等しいのはいかなる目で見ても明白だ
(立ち上がる・・・ちから・・・)
武士が何かを叫んでいた、残念ながら華墨には何を言っているのか全く判らなかったが・・・
(ここで立ち上がる・・・ちからが・・・)
だが、そんな力は華墨の中には無かった。愛も、怒りも、不屈の意思も、未だ華墨は本当の意味で理解など出来て居なかった
虚ろに過ぎるジャッジのマシンボイスを、ヴァーチャルスペースに全く意識があるままに、華墨は聞いていた
「華墨・・・負けちまったのか・・・?」
武士は腰を浮かせて、呆然とディスプレイを見ていた
その肩に琥珀の小さな、冷たい手が掛かる迄、武士は彼女が入ってきた事にすら気付いていなかった
「ね、判った?闘うってこういう事なんだよ。体はヴァーチャルでも、彼女らが感じる恐怖は本物なんだ。」
小さな、だがはっきりした声だった
「だって・・・武装神姫って、バトルする為に創られたんだろ?」
のろのろと首を回す武士。琥珀の、多分名前の由来なのだろう琥珀色の瞳は、感情を深い所に隠していて、思考を読み取る事は今の武士には不可能だった
「確かに彼女達は闘う為に創られた。でもね、闘争本能を持たされていても、彼女達が本当に闘いを望んでいるかどうかは判らないんじゃないかな?」
「・・・え?」
「判らない?君は彼女のマスターだけど彼女は本当の意味で『君の神姫』になっているのかな?」
「当たり前だ!神姫は登録した人間をマスターとする様に出来てるんだろ?」
語気を強める武士、だが琥珀の口調にも表情にも、僅かな変化も見られなかった
「プログラムされた知性、プログラムされた感情、なら、忠誠心だってプログラムされたものなんだろうね」
「・・・」
にこりともしない、が、別に怒りも悲嘆も、いかなる色も彼女の表情には現れないのではないかと、武士は思った
「・・・」
「プシュ」と空気の抜ける様な音がして、華墨のバトルポッドが開く
ゆっくり顔を上げる華墨に一瞬目をやってから踵を返す琥珀
「じゃ、するべき事はしたから・・・縁があったらまたね・・・」
視線だけ二人に向けて言い放つと、もうそのまま、むにむにと柔らかい足音だけ残して琥珀は去っていった
「・・・負けてしまったよ・・・マスター・・・」
「・・・あぁ・・・」
ここで取って付けた様な労いの言葉を吐く事が出来るのか?吐く資格があるのか?労ってやるべき存在?神姫は・・・?
玩具にそれをするのか?人間にそれをしないのか?
「・・・無事でよかったよ」
武士は恐ろしくばらばらな表情でようやくそれだけ吐くと、華墨を抱え上げポケットに入れ、無言でブースから出るのだった
「見事な『壁』役だったね」
「僕は厭だよ。本当はこんな役なんて」
「買って出た苦労だろう?私は何も頼んじゃいない」
「・・・・・」
「・・・君にとってはどうなんだい?」
「何がさ?」
「神姫とは高性能な知性を持った玩具なのか・・・?身長15センチの人間なのか・・・?君が佐鳴武士に叩き付けた問いについて・・・だよ」
「・・・そういう話は川原さんとでもしてなよ。帰ろうか?エルギール」
主よりも遥かに派手な神姫を肩に乗せて去る少女を見ながら、皆川はいかにも意味ありげに不気味に微笑んで見せるのだった
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