「第八話 「知らなかった闇・本当の光」※注神姫破壊描写あり)」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「第八話 「知らなかった闇・本当の光」※注神姫破壊描写あり)」(2006/10/22 (日) 11:42:50) の最新版変更点
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【材料】鬱、ダーク、バトル、バイオレンス、最後にほのぼのを少々
※暴力・破壊描写が通常より多めに入っているので、嫌悪感を抱かれる方は、読むことを避けて下さい。
まずは自己紹介。アタシの名前はコニー、兎型MMSだ。
今日はファーストリーグの第4戦、ローテーションではリーダー格であるヴェルの出番となる。
そもそも、ファーストリーグの大会規約上、神姫の複数参加登録者について、リーグ中、同一神姫を
連続して試合に出場させる事は禁止されてて、必ずローテーションを組まなきゃならないんだとさ。
うちのマスターの所有している神姫はアタシを含めて4人。そのうちファーストリーグの
参加登録をしているのは、犬型のヴェル、悪魔型のノワル、そして馬鹿ネコのジャロだ。
アタシ?…アタシはまだまだ駆け出しのペーペーで、現在格下のセカンドリーグに登録中。
戦績はと言うと…3勝2敗で辛うじて勝ち越しているってな状態だ…ハハハ…情けねぇ…;
つーか!あのコスプレ魔法少女の『ココ』に不覚を取ってなければ~~~!!
…まぁ、ココのオーナーの静香の姐さんには、コスチュームとかで色々お世話になってるから、
あまり悪い事は言えなかったりするんだけど。
とまぁ…簡単な説明はこれぐらいにしておいて、今アタシ達が居るのは闘技場の控え室。
いつもだったら、「がんばろ~!お~!」ってな感じの試合前のノー天気なブリーフィングがある
ハズなんだけど…今日は何か変だ。
マスターもヴェルも、そしていつもテンションの高いノワルまでも、何時になく神妙な面持ちで
全くしゃべらない。
一方馬鹿ネコは相変わらずグースカ寝ている。全くコイツは…。
と、
コンコン…
ドアのノック音と共に、タキシードを纏った白髪頭の、いかにも執事でございな爺さんが入ってきた。
「お久しぶりでございます、3年ぶりでございますかな。ご機嫌麗しゅうございます。」
「ご機嫌…?アンタのおかげで最悪だよ。何しに来た…!!」
「本日の対戦相手は、ご存じでございますな。」
「ああ…あのクソ坊ちゃんの弟だろ。」
「左様で、ご存じならば話が早い。我が主の次男 鶴畑大紀(つるはた ひろのり)様は、
デビューから現在において全戦無敗、僅か3ヶ月でリーグの中位まで上り詰めましてございます。
そして、今日の御相手が岡島様とヴェル様…でございます。」
鶴畑…って、あの鶴畑コンツェルンの事か!?確か1stの上の中辺りに同じ名字で興紀ってのが…。
そういや、こないだマスターが仕事に行ってる最中にテレビの中継で見たけど…どうやって集めたか知らねぇが、
限定パーツゴテゴテ付けて悦に浸ってた、いけ好かねぇ白豚野郎だったなぁ…。
そうそう、その直後にいきなりヴェルが怒ってテレビを消しやがって、大ゲンカになったっけ。
「…何が言いたい。3年前と同じく『負けてくれ』とでも言いに来たか?」
な…!?負けてくれ…だと!?
「どういう事だジジィ!事と次第じゃタダじゃ…」
「コニー! …黙ってろ。」
「…………っ!!」
「お察しの通りでございます。但し、棄権ではポイントもランキング変動も起こりませぬ故、適当に戦って頂き
負けていただければ結構でございます。…無論、ただでとは申しません、こちらをお納め下さい。」
そう言うと爺さんは、懐に入れていた紫の布の分厚い包みを出した。そこには…札束が。
「現金(キャッシュ)で500万。岡島様が5年間、それぞれ年2回の計10回のリーグ参加でランキング100位以内に
在籍された場合、手にいれられる通算賞金でございます。岡島様は現在152位。十分な金額と思われますが…。」
こいつ…!!マスターを買収しに来たってのか!しかも八百長をしろだと!?
「ンの野郎!さっきから聞いてりゃふざけた事抜かしやがって!手前ェのドタマ…」
「コニー!!黙っていろと言ったはずだ!!」
ぞくっ!!
アタシの背中に、今まで感じた事のない悪寒が走る。この時ばかりは、マスターに噛み殺されるかと思ったよ。
マスターは爺さんの襟首を掴むと、こう言い放った。
「執事、答えは3年前と同じ、ノーだ。その歳で即席の顔面整形手術をしたくなかったら、20秒以内に
この部屋から出ていけ…!!」
「やれやれ…交渉決裂ですか。では、失礼いたします、御武運を…。」
バタン
マスターの手を軽く振り払い、そう言い残すと、執事の爺さんは部屋を後にした。
その直後、
「クソっ…たれがぁ!!!!!」
ガゴンッ!!
マスターは吠えるようにそう言い放つと、ロッカーに拳を打ち付けた。
無惨にへこむロッカーの扉。
「うにゃっ!?な、なんなのだ!?なんなのだ!?」
その音に驚き飛び起き、辺りを見回す馬鹿ネコ。…全く、暢気な野郎だぜ…。
そんな中、ヴェルとノワルは押し黙ったままだ。
アタシは、居ても立っても居られず、マスターに問いかけた。
「…なぁマスター、一体何がどうなってんだ!?3年前って何だよ!?」
「…すまん。今は話したくない。」
そう言うと、マスターは近くのパイプ椅子に力無く座ったまま、一言もしゃべらなくなってしまった。
打ち付けた右の拳からは…赤い血が流れたまま。
いくら馬鹿でも、アタシにだって分かる、間違いない。3年前、この3人に何かがあった。
その「何かは」あの爺さんの主人、鶴畑のボンボン、興紀と関わりがあること。
なぁ…一体…何があったんだよ…マスター…!!
----
ワァァァァァァァァァァァ…
「さぁ!今日もやってまいりました、武装神姫ファーストリーグ第4回戦!本日のファイナルバウトはァ、
デビューから僅か3ヶ月、全戦無敗で駆け上がってきた期待の新星、現在ランキング167位、鶴畑大紀選手と!
デビュー5年、ベテランの実力は伊達じゃない!ランキング152位、岡島士郎選手の対戦だァ!!
なお、鶴畑選手のお兄さまである興紀(おきのり)選手は、パートナーのMMS、ルシフェルと共に現在54位という
高位ランクに位置しております!大紀選手はそれに追いつくことが出来るのか、はたまた岡島選手が
全戦無敗の記録に待ったをかけることが出来るのか!注目であぁぁぁります!」
実況アナのムダに軽快なアナウンスが流れる。いつもだったら右から左に聞き流せるんだが、今日に限っては
変に耳に残って仕方がない。
しかも、いつもだったら会場の6ステージで同時に行われる試合が、今回だけはマスターとクソ坊ちゃん2号の
対戦だけ、しかも会場のど真ん中の特設円形ステージで行われると来たもんだ。これも鶴畑コンツェルンの
財力のなせる技なんだろうかね。
「まずは…白虎の方角!美しき武装を身に纏う、白亜の天使!ミカエルの登場だァ!!」
アナウンスと共に、上空から舞い降りる白いMMS。天使型のミカエル様のご登場…ときたもんだ。
兄貴と同様、レア物の装備をこれぞとばかりに体中に付けてやがる…いけ好かねぇ…全くもっていけ好かねぇ…!
「続きまして…玄武の方角!5年のキャリアを見せつけることが出来るか!?深緑の猟犬、ヴェルの登場ぉう!」
…こっちは普通にスポットライトかよ…って!?何だあの装備は!?
通常の犬型アーマーと、両腕に吠莱壱式、ヴェルの得意とするアウトレンジでの戦闘の為の装備だ。
そこまでは良しとして…なんで両足に近接戦闘用のサバーカなんて装備してんだよ!?しかもそれ以外何も
装備してねぇじゃねぇか!!
「おいおい…あのMMS、遠距離と近距離って…何がしたいんだよ…(pgr」
「相手の破竹の勢いに負けて、ネタに走ってんじゃねーよ!!バロスwwwwwwww」
あっちゃ~…思いっきり笑われてら…しょうがねぇなぁ…。
「マスター!装備が変だぜ!一旦変更した方が…」
「いいえ…あれで良いのよ。」
おいおい…「あれで良いのよ」…って、ノワル!?お前、いつもの「ボク~」はどうしたんだよ!!??
「そう…あの時と…3年前と同じだわ。」
「ノ…ノワルちゃん…どうしたのだ?お腹でも痛いの?…なのだ?」
「そ…そうだぜ?お前らしくもない…。」
「そうだったわね、マスターからは何も聞けなかったんだっけ。いいわ、私から話しましょう。3年前の出来事を…。」
「では…バトル…スタ――――――――――トゥ!」
カァン!
おいおい!そんなこと言ってる間にバトル始まっちまったよ!
そんなことはお構いなしに、ノワルは淡々と言葉を紡ぎ出した。
「3年前のあの日、私は…ヴェルに殺されたの。」
おいお~い…全然動かねぇぞヴェルの野郎…って、
殺された―――――――――――――だと!!??
「あの時、私はまだマスター、士郎さんの元には居なかった。私が居たのは、鶴畑興紀の所だった。
その時の私の名は…ルシフェル。」
何だと…!?ノワルの元のマスターがあのクソ坊ちゃん1号で、昔の名前が、今そいつの元にいるMMSの名前だって!?
「さぁどうしたことか、両者全く動かない!何を待っているのか!一体何を狙っているのか!?」
うあぁぁぁ…まだ動かねぇよ~…!!ノワルの話も聞かなきゃいけないし、試合の動きも気になるし…
あああ~~~~~~~~~!!どうしたらいいんだよ~~~~~~~!!!
(くくく…ボクのミカエルに恐れを成したか、このロートルめ!確か予定では勝つことになってるんだから、
動かないのか…?まぁいい…)
「ミカエル!GFモデルLX-9ビームキャノン、フルパワーで発射!あの木偶の棒を消し炭にしてやれ!」
「イエス・マスター!」
コォォォォォォ…
ガォン!!
マズい!レーザーライフルの比じゃねぇ!あんなもん喰らったら消し炭どころか消えて無くなっちまうぞ!
その時だ、まるで狼が獲物を狙うように、ヴェルが前屈みになった瞬間…。
消えた…ヴェルが消えた。
ビームは空しく空を切り、円形ステージの防御壁に当たり、散った。
そして、隙だらけのミカエルの前に突如として現れた6機の犬猫プチマスィーンズ!
後ろには、2機の防御タイプ。光学迷彩(ステルス)とジャマーをMMS本体じゃなく、プチどもに使うだと!?
今まで動かなかったのは、アイツ等を気づかれぬように近づけさせるためだったってのか?
そんな戦法今まで見たことも聞いたことねぇぞ!
ズガガガガガガガガガガ!!
6機のマスィーンズによる一斉射撃。1体の攻撃力は低いアイツ等も、6機まとめて喰らい続ければひとたまりもねぇ!
すげぇぜヴェル!
と、
いきなり射撃が止んだ。その刹那、ミカエルの前に現れるヴェル。
まさか!吠莱壱式を至近距離でぶっ放す気か!ぃ良し!勝った!
だが、アタシの予想は大きく外れた。
ごがっ!!
ヴェルは、吠莱壱式本体で、ミカエルの横っ面をぶっ飛ばした!
「何て事だ――――――――――!長距離砲の吠莱壱式を、まるでトンファーの如く使ってミカエルを
殴り飛ばした――――――――!!ミカエル、たまらずダ――――――ウン!!」
な…何つー力業だ…。
呆気にとられるアタシとジャロ。
「あの頃の私は…何も知らなかった…いいえ、何も知らされてなかった…。」
うわわ!ノワルの独白がまた始まったぞ!
「数少ないハズのパーツに包まれ、恵まれた武装を与えられ、圧倒的な力で勝利し続けた。私は、常に『光』に照らされ
続けていた…いえ、そう思っていた。でも、それは私欲とお金にまみれた偽りの『光』だった。」
「く…なんて戦いをするんだ…この野蛮人め…って!?」
立ち上がろうとするミカエルに対して、間髪入れず再び壱式で殴りつけるヴェル。吹っ飛ぶミカエルを、サバーカの
機動力で追いかけ、また殴る!まるでボールの遊びの様に弾かれ続けるミカエル。
「そんな私の前に敵として現れたのが、士郎さんと…ヴェルだった。」
「み…ミカエル!何をしている!お前の羽とブースターは飾りじゃないだろう!相手は地上戦しか出来ない犬型だ!
空中からビームを撃ちまくって、奴をハチの巣にしてしまえ!」
「イ…イエス…マスター!」
ぎゃん!
「おおっとぉ!何とか空に逃げたミカエル!ここから得意の空中戦に持ち込むかぁ!?」
だが、ヴェルは全く動じない…そして、
「マスィーンズ…フォーメーション"S"…!」
「了解(ヤー)。」
ヴェルがそう言うと、マスィーンズは空中に散らばる。何をするつもりだ…!
と、
だだだだだだん!!
と…飛びやがった…!散らばったプチマスィーンズを足場にして蹴り、空中へ飛び上がるヴェル、そして、
ビームを発射せんと下に構えていたたミカエルの上を取った。そして、
ばぎぃん!!
振り下ろされた両手の吠莱は、ミカエルのブースターと羽を破壊した。翼ををもがれ、落下するミカエル。
ずぅん…!
地に落ちた天使。地に降り立ち、ゆっくりと近づいて来る猟犬。もはやこれまでだろう…大事を取ってギブアップだな。
アタシは思った。そして案の定、ミカエルは…
「ギ…ギブア…」
「ふざけるな!!!」
ミカエルの言葉を遮ったのは、彼女のマスターである大興だった。
「ギブアップなどさせるか!お前にいくらかかったと思ってるんだ!お前のそのアーマーや翼を作り上げるのに買った
限定版は合わせて100個を超えるんだぞ!それにここで負けたらお父様や兄様に合わせる顔がないだろう!さぁ戦え!
戦うんだ!」
「イ…イエス…マス…」
ガギィ!
再び殴り飛ばされるミカエル、ゆっくりとその後を追い、再び殴り飛ばす、追う、殴る、追う、殴る また追う…
もう既に試合…まともな戦いではない。ステージで行われているのは「私刑(リンチ)」だった。
「あの時も同じだった。本来なら武装で圧倒的に勝っていた私を、ヴェルは卓越した技術で圧倒した。
ボロボロにされた私は、ギブアップを叫ぼうとした。だが、あの男はそれを許さなかった。己と己の父の面子のために。
そして、身動きの取れない私を、ヴェルは殴り続けた、ある言葉を呟きながら…。」
ヴェル…やめろ…もういいじゃねぇか…!
『その美しい姿のために 何人の仲間が犠牲になったか しっているの?』
そいつはもう動けねぇ…お前の勝ちだよ…!
『あなたの勝利は 本物の勝利だと おもっているの?』
もう見たくねぇよ…もう…十分だろう!?
『あなたが今まで照らされてきた光は 本当の光だと おもってたの?』
こんな戦い方…お前らしくねぇよ…!
「そして…最後に耳元でこう言ったの。」
ごすっ!
吠莱壱式で、満身創痍のミカエルをステージの防御壁に押しつけながら、彼女の耳元でヴェルが何かを囁いた。
「『私たちは
マスターを選ぶことは出来ない
あなたの不幸は
偽りの光に選ばれてしまったこと
そして
私 た ち と 出 会 っ て し ま っ た こ と』」
やてくれ…ヴェル…ヴェル…っ!!
「やめろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ドゴォォォォォォン…!!
至近距離で放った吠莱の弾丸は、ミカエルの胸に風穴を開けた。
まるで涙のように目からオイルを流し、ミカエルは倒れた。
「………ヴェ…ヴェル…選手の…勝利です!!」
ワァァァァァァァァァ……。
歓声とも、悲鳴ともつかない声が、会場から上がった。
「…戻るぞ、ノワル、ジャロ、コニー」
マスターは、アタシ達にそれだけ言うと、ヴェルと一緒に先に控え室へ向かっていった。
ジャロは…大粒の涙を流しながら、何も喋ることも出来ずにガクガク震えていた。
----
控え室の前、アタシ達は中に入らずにいた。…いや、入れなかった。
中にいるヴェルが、外からも聞こえる位でっかい声で、マスターにすがり泣く声が聞こえていたからだ。
「多分…ボクの時もこんな風に泣いてくれたんだと思う。」
お♪ノワルの口調がボクに戻った。
「その後…あの男ってば『不良品などいらん!代わりなど幾らでも居る!そんな出来損ない、捨ててしまえ!』
…って言ったんだ。ボクも殆ど意識は無かったし、うろ覚えだけど。」
カツ…カツ…カツ…。
「それでね、爺やさんがボクを捨てに行こうとした時、たまたまマスターが控え室のドアを開けたんだ。」
ギィ…。
「それで…。」
「爺さん、又会ったな、そいつをどうするんだ?」
「はい、坊ちゃまの御命により、処分を…」
「そうか…だったら丁度良い。パーツ取りに使いたいんだ、譲っては貰えないか?」
「はい…どうせ処分される物ですので。どうか…その子を宜しく、その子の未来に幸多からん事を。」
「爺やさんは、そう言ってボクをマスターに託したんだ。そして…」
「あ~あ…まだコニーのボディ買った時の請求がカード会社から来てないってのに、また余計なもん引き取っちまったよ。
あ!いっけね!ここのロッカーも壊しちゃったんだ~…!!勢いでやったとは言え弁償モンだよ~。
あ~、どうすっか~…、将来設計の貯金削るか?いや待てよ!?妹が天使型欲しがってたからアイツに…」
おお!戻ってきた…!!いつものマスターだ!
「うわ~い!またかぞくがふえるのだ~?」
「ふふふ…やっと舎弟ができるぜ!思いっきりコキ使ってやる!」
「アンタねぇ…一応妹よ…妹;」
-ボクは、やっと本当の光(マスター)を見つけることができたんだ。-
あれから数日後。
あの敗北から奇跡的復活を果たし、再び連勝街道を進むクソ坊ちゃん2号と、致命的な怪我を克服したとされている、実際は
まっさらの新品の「ミカエル」ちゃんが、勝利者インタビューに答えていた。
「あの敗北は、僕にとっても非常に良い経験になりました!あの敗北があったからこそ、こうして今再び栄光の道を
歩むことが出来ているのです!そうだな!ミカエル!」
「イエス!マスター!」
へっ…あんだけ無様な負け方しといて何抜かしてやがる。どうせ今までと同じで、金に釣られる格下を八百長試合で
狩り続けているんだろうぜ…。あの爺さんも、また金配りさせられてるんだろうな。あ~あ、ご愁傷様なこって…。
今日は、こないだマスターが行きつけのセンターに、元「ミカエル」ちゃんを修理に出して、どうやら無事治ったらしいんで、
アタシを除く全員で迎えに行っている。アタシはテレビを独占し、大好きなニンニク煎餅をバリバリ喰いながらの優雅なお留守番だ。
話によると、どうやら今回はノワルの時と違って、ミカエルは今までの全ての記憶を「消させて」しまうらしい。無論、本人の了承はない。
ノワル曰く、図らずも自分が命を奪ってしまった、命を吹き込まれず捨てられた神姫達への贖罪のために、アイツは自ら望んで
記憶を残したそうなんだが、「ミカエル」には、そんな十字架は背負って欲しくない、新しい人生を歩んで欲しいんだと…さ。
全く…AIってのは便利なもんだ、嫌な記憶を簡単に消し去れるんだから。意外と楽しい記憶ってのは、簡単に忘れがちで、
嫌な記憶ってのは、何時まで経っても脳味噌の隅にへばりついて残るもんなんだよなぁ…。まぁそれが人の良い所だったりするんだが。
って…ありゃ?何人間様になったつもりで物考えてんだアタシゃ?第一、そんな哲学的な事考えるタマじゃねぇだろ!…ったく。
でも…もしアタシがノワルの立場だったらどうしてただろう。やはり記憶を残して貰ったんだろうか、それとも…。
ガチャ…
…おっと、帰ってきた帰ってきた。辛気くさい話はこれで終了っと!
「たっだいま~なのだ~!」
「お留守番ご苦労様~!おみやげ買ってきたよ~!」
「こら!上がる前に足はちゃんと拭きなさいって言ってるでしょ!」
「さぁ、今日からここが君の家だぞ。お姉さんに挨拶して!」
「は…初めまして!私の名前は…」
「知らなかった闇・本当の光」~fin~
【材料】鬱、ダーク、バトル、バイオレンス、最後にほのぼのを少々
※暴力・破壊描写が通常より多めに入っているので、嫌悪感を抱かれる方は、読むことを避けて下さい。
まずは自己紹介。アタシの名前はコニー、兎型MMSだ。
今日はファーストリーグの第4戦、ローテーションではリーダー格であるヴェルの出番となる。
そもそも、ファーストリーグの大会規約上、神姫の複数参加登録者について、リーグ中、同一神姫を
連続して試合に出場させる事は禁止されてて、必ずローテーションを組まなきゃならないんだとさ。
うちのマスターの所有している神姫はアタシを含めて4人。そのうちファーストリーグの
参加登録をしているのは、犬型のヴェル、悪魔型のノワル、そして馬鹿ネコのジャロだ。
アタシ?…アタシはまだまだ駆け出しのペーペーで、現在格下のセカンドリーグに登録中。
戦績はと言うと…3勝2敗で辛うじて勝ち越しているってな状態だ…ハハハ…情けねぇ…;
つーか!あのコスプレ魔法少女の『ココ』に不覚を取ってなければ~~~!!
…まぁ、ココのオーナーの静香の姐さんには、コスチュームとかで色々お世話になってるから、
あまり悪い事は言えなかったりするんだけど。
とまぁ…簡単な説明はこれぐらいにしておいて、今アタシ達が居るのは闘技場の控え室。
いつもだったら、「がんばろ~!お~!」ってな感じの試合前のノー天気なブリーフィングがある
ハズなんだけど…今日は何か変だ。
マスターもヴェルも、そしていつもテンションの高いノワルまでも、何時になく神妙な面持ちで
全くしゃべらない。
一方馬鹿ネコは相変わらずグースカ寝ている。全くコイツは…。
と、
コンコン…
ドアのノック音と共に、タキシードを纏った白髪頭の、いかにも執事でございな爺さんが入ってきた。
「お久しぶりでございます、3年ぶりでございますかな。ご機嫌麗しゅうございます。」
「ご機嫌…?アンタのおかげで最悪だよ。何しに来た…!!」
「本日の対戦相手は、ご存じでございますな。」
「ああ…あのクソ坊ちゃんの弟だろ。」
「左様で、ご存じならば話が早い。我が主の次男 鶴畑大紀(つるはた ひろのり)様は、
デビューから現在において全戦無敗、僅か3ヶ月でリーグの中位まで上り詰めましてございます。
そして、今日の御相手が岡島様とヴェル様…でございます。」
鶴畑…って、あの鶴畑コンツェルンの事か!?確か1stの上の中辺りに同じ名字で興紀ってのが…。
そういや、こないだマスターが仕事に行ってる最中にテレビの中継で見たけど…どうやって集めたか知らねぇが、
限定パーツゴテゴテ付けて悦に浸ってた、いけ好かねぇ白豚野郎だったなぁ…。
そうそう、その直後にいきなりヴェルが怒ってテレビを消しやがって、大ゲンカになったっけ。
「…何が言いたい。3年前と同じく『負けてくれ』とでも言いに来たか?」
な…!?負けてくれ…だと!?
「どういう事だジジィ!事と次第じゃタダじゃ…」
「コニー! …黙ってろ。」
「…………っ!!」
「お察しの通りでございます。但し、棄権ではポイントもランキング変動も起こりませぬ故、適当に戦って頂き
負けていただければ結構でございます。…無論、ただでとは申しません、こちらをお納め下さい。」
そう言うと爺さんは、懐に入れていた紫の布の分厚い包みを出した。そこには…札束が。
「現金(キャッシュ)で500万。岡島様が5年間、それぞれ年2回の計10回のリーグ参加でランキング100位以内に
在籍された場合、手にいれられる通算賞金でございます。岡島様は現在152位。十分な金額と思われますが…。」
こいつ…!!マスターを買収しに来たってのか!しかも八百長をしろだと!?
「ンの野郎!さっきから聞いてりゃふざけた事抜かしやがって!手前ェのドタマ…」
「コニー!!黙っていろと言ったはずだ!!」
ぞくっ!!
アタシの背中に、今まで感じた事のない悪寒が走る。この時ばかりは、マスターに噛み殺されるかと思ったよ。
マスターは爺さんの襟首を掴むと、こう言い放った。
「執事、答えは3年前と同じ、ノーだ。その歳で即席の顔面整形手術をしたくなかったら、20秒以内に
この部屋から出ていけ…!!」
「やれやれ…交渉決裂ですか。では、失礼いたします、御武運を…。」
バタン
マスターの手を軽く振り払い、そう言い残すと、執事の爺さんは部屋を後にした。
その直後、
「クソっ…たれがぁ!!!!!」
ガゴンッ!!
マスターは吠えるようにそう言い放つと、ロッカーに拳を打ち付けた。
無惨にへこむロッカーの扉。
「うにゃっ!?な、なんなのだ!?なんなのだ!?」
その音に驚き飛び起き、辺りを見回す馬鹿ネコ。…全く、暢気な野郎だぜ…。
そんな中、ヴェルとノワルは押し黙ったままだ。
アタシは、居ても立っても居られず、マスターに問いかけた。
「…なぁマスター、一体何がどうなってんだ!?3年前って何だよ!?」
「…すまん。今は話したくない。」
そう言うと、マスターは近くのパイプ椅子に力無く座ったまま、一言もしゃべらなくなってしまった。
打ち付けた右の拳からは…赤い血が流れたまま。
いくら馬鹿でも、アタシにだって分かる、間違いない。3年前、この3人に何かがあった。
その「何かは」あの爺さんの主人、鶴畑のボンボン、興紀と関わりがあること。
なぁ…一体…何があったんだよ…マスター…!!
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ワァァァァァァァァァァァ…
「さぁ!今日もやってまいりました、武装神姫ファーストリーグ第4回戦!本日のファイナルバウトはァ、
デビューから僅か3ヶ月、全戦無敗で駆け上がってきた期待の新星、現在ランキング167位、鶴畑大紀選手と!
デビュー5年、ベテランの実力は伊達じゃない!ランキング152位、岡島士郎選手の対戦だァ!!
なお、鶴畑選手のお兄さまである興紀(おきのり)選手は、パートナーのMMS、ルシフェルと共に現在54位という
高位ランクに位置しております!大紀選手はそれに追いつくことが出来るのか、はたまた岡島選手が
全戦無敗の記録に待ったをかけることが出来るのか!注目であぁぁぁります!」
実況アナのムダに軽快なアナウンスが流れる。いつもだったら右から左に聞き流せるんだが、今日に限っては
変に耳に残って仕方がない。
しかも、いつもだったら会場の6ステージで同時に行われる試合が、今回だけはマスターとクソ坊ちゃん2号の
対戦だけ、しかも会場のど真ん中の特設円形ステージで行われると来たもんだ。これも鶴畑コンツェルンの
財力のなせる技なんだろうかね。
「まずは…白虎の方角!美しき武装を身に纏う、白亜の天使!ミカエルの登場だァ!!」
アナウンスと共に、上空から舞い降りる白いMMS。天使型のミカエル様のご登場…ときたもんだ。
兄貴と同様、レア物の装備をこれぞとばかりに体中に付けてやがる…いけ好かねぇ…全くもっていけ好かねぇ…!
「続きまして…玄武の方角!5年のキャリアを見せつけることが出来るか!?深緑の猟犬、ヴェルの登場ぉう!」
…こっちは普通にスポットライトかよ…って!?何だあの装備は!?
通常の犬型アーマーと、両腕に吠莱壱式、ヴェルの得意とするアウトレンジでの戦闘の為の装備だ。
そこまでは良しとして…なんで両足に近接戦闘用のサバーカなんて装備してんだよ!?しかもそれ以外何も
装備してねぇじゃねぇか!!
「おいおい…あのMMS、遠距離と近距離って…何がしたいんだよ…(pgr」
「相手の破竹の勢いに負けて、ネタに走ってんじゃねーよ!!バロスwwwwwwww」
あっちゃ~…思いっきり笑われてら…しょうがねぇなぁ…。
「マスター!装備が変だぜ!一旦変更した方が…」
「いいえ…あれで良いのよ。」
おいおい…「あれで良いのよ」…って、ノワル!?お前、いつもの「ボク~」はどうしたんだよ!!??
「そう…あの時と…3年前と同じだわ。」
「ノ…ノワルちゃん…どうしたのだ?お腹でも痛いの?…なのだ?」
「そ…そうだぜ?お前らしくもない…。」
「そうだったわね、マスターからは何も聞けなかったんだっけ。いいわ、私から話しましょう。3年前の出来事を…。」
「では…バトル…スタ――――――――――トゥ!」
カァン!
おいおい!そんなこと言ってる間にバトル始まっちまったよ!
そんなことはお構いなしに、ノワルは淡々と言葉を紡ぎ出した。
「3年前のあの日、私は…ヴェルに殺されたの。」
おいお~い…全然動かねぇぞヴェルの野郎…って、
殺された―――――――――――――だと!!??
「あの時、私はまだマスター、士郎さんの元には居なかった。私が居たのは、鶴畑興紀の所だった。
その時の私の名は…ルシフェル。」
何だと…!?ノワルの元のマスターがあのクソ坊ちゃん1号で、昔の名前が、今そいつの元にいるMMSの名前だって!?
「さぁどうしたことか、両者全く動かない!何を待っているのか!一体何を狙っているのか!?」
うあぁぁぁ…まだ動かねぇよ~…!!ノワルの話も聞かなきゃいけないし、試合の動きも気になるし…
あああ~~~~~~~~~!!どうしたらいいんだよ~~~~~~~!!!
(くくく…ボクのミカエルに恐れを成したか、このロートルめ!確か予定では勝つことになってるんだから、
動かないのか…?まぁいい…)
「ミカエル!GFモデルLX-9ビームキャノン、フルパワーで発射!あの木偶の棒を消し炭にしてやれ!」
「イエス・マスター!」
コォォォォォォ…
ガォン!!
マズい!レーザーライフルの比じゃねぇ!あんなもん喰らったら消し炭どころか消えて無くなっちまうぞ!
その時だ、まるで狼が獲物を狙うように、ヴェルが前屈みになった瞬間…。
消えた…ヴェルが消えた。
ビームは空しく空を切り、円形ステージの防御壁に当たり、散った。
そして、隙だらけのミカエルの前に突如として現れた6機の犬猫プチマスィーンズ!
後ろには、2機の防御タイプ。光学迷彩(ステルス)とジャマーをMMS本体じゃなく、プチどもに使うだと!?
今まで動かなかったのは、アイツ等を気づかれぬように近づけさせるためだったってのか?
そんな戦法今まで見たことも聞いたことねぇぞ!
ズガガガガガガガガガガ!!
6機のマスィーンズによる一斉射撃。1体の攻撃力は低いアイツ等も、6機まとめて喰らい続ければひとたまりもねぇ!
すげぇぜヴェル!
と、
いきなり射撃が止んだ。その刹那、ミカエルの前に現れるヴェル。
まさか!吠莱壱式を至近距離でぶっ放す気か!ぃ良し!勝った!
だが、アタシの予想は大きく外れた。
ごがっ!!
ヴェルは、吠莱壱式本体で、ミカエルの横っ面をぶっ飛ばした!
「何て事だ――――――――――!長距離砲の吠莱壱式を、まるでトンファーの如く使ってミカエルを
殴り飛ばした――――――――!!ミカエル、たまらずダ――――――ウン!!」
な…何つー力業だ…。
呆気にとられるアタシとジャロ。
「あの頃の私は…何も知らなかった…いいえ、何も知らされてなかった…。」
うわわ!ノワルの独白がまた始まったぞ!
「数少ないハズのパーツに包まれ、恵まれた武装を与えられ、圧倒的な力で勝利し続けた。私は、常に『光』に照らされ
続けていた…いえ、そう思っていた。でも、それは私欲とお金にまみれた偽りの『光』だった。」
「く…なんて戦いをするんだ…この野蛮人め…って!?」
立ち上がろうとするミカエルに対して、間髪入れず再び壱式で殴りつけるヴェル。吹っ飛ぶミカエルを、サバーカの
機動力で追いかけ、また殴る!まるでボールの遊びの様に弾かれ続けるミカエル。
「そんな私の前に敵として現れたのが、士郎さんと…ヴェルだった。」
「み…ミカエル!何をしている!お前の羽とブースターは飾りじゃないだろう!相手は地上戦しか出来ない犬型だ!
空中からビームを撃ちまくって、奴をハチの巣にしてしまえ!」
「イ…イエス…マスター!」
ぎゃん!
「おおっとぉ!何とか空に逃げたミカエル!ここから得意の空中戦に持ち込むかぁ!?」
だが、ヴェルは全く動じない…そして、
「マスィーンズ…フォーメーション"S"…!」
「了解(ヤー)。」
ヴェルがそう言うと、マスィーンズは空中に散らばる。何をするつもりだ…!
と、
だだだだだだん!!
と…飛びやがった…!散らばったプチマスィーンズを足場にして蹴り、空中へ飛び上がるヴェル、そして、
ビームを発射せんと下に構えていたたミカエルの上を取った。そして、
ばぎぃん!!
振り下ろされた両手の吠莱は、ミカエルのブースターと羽を破壊した。翼ををもがれ、落下するミカエル。
ずぅん…!
地に落ちた天使。地に降り立ち、ゆっくりと近づいて来る猟犬。もはやこれまでだろう…大事を取ってギブアップだな。
アタシは思った。そして案の定、ミカエルは…
「ギ…ギブア…」
「ふざけるな!!!」
ミカエルの言葉を遮ったのは、彼女のマスターである大興だった。
「ギブアップなどさせるか!お前にいくらかかったと思ってるんだ!お前のそのアーマーや翼を作り上げるのに買った
限定版は合わせて100個を超えるんだぞ!それにここで負けたらお父様や兄様に合わせる顔がないだろう!さぁ戦え!
戦うんだ!」
「イ…イエス…マス…」
ガギィ!
再び殴り飛ばされるミカエル、ゆっくりとその後を追い、再び殴り飛ばす、追う、殴る、追う、殴る また追う…
もう既に試合…まともな戦いではない。ステージで行われているのは「私刑(リンチ)」だった。
「あの時も同じだった。本来なら武装で圧倒的に勝っていた私を、ヴェルは卓越した技術で圧倒した。
ボロボロにされた私は、ギブアップを叫ぼうとした。だが、あの男はそれを許さなかった。己と己の父の面子のために。
そして、身動きの取れない私を、ヴェルは殴り続けた、ある言葉を呟きながら…。」
ヴェル…やめろ…もういいじゃねぇか…!
『その美しい姿のために 何人の仲間が犠牲になったか しっているの?』
そいつはもう動けねぇ…お前の勝ちだよ…!
『あなたの勝利は 本物の勝利だと おもっているの?』
もう見たくねぇよ…もう…十分だろう!?
『あなたが今まで照らされてきた光は 本当の光だと おもってたの?』
こんな戦い方…お前らしくねぇよ…!
「そして…最後に耳元でこう言ったの。」
ごすっ!
吠莱壱式で、満身創痍のミカエルをステージの防御壁に押しつけながら、彼女の耳元でヴェルが何かを囁いた。
「『私たちは
マスターを選ぶことは出来ない
あなたの不幸は
偽りの光に選ばれてしまったこと
そして
私 た ち と 出 会 っ て し ま っ た こ と』」
やてくれ…ヴェル…ヴェル…っ!!
「やめろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ドゴォォォォォォン…!!
至近距離で放った吠莱の弾丸は、ミカエルの胸に風穴を開けた。
まるで涙のように目からオイルを流し、ミカエルは倒れた。
「………ヴェ…ヴェル…選手の…勝利です!!」
ワァァァァァァァァァ……。
歓声とも、悲鳴ともつかない声が、会場から上がった。
「…戻るぞ、ノワル、ジャロ、コニー」
マスターは、アタシ達にそれだけ言うと、ヴェルと一緒に先に控え室へ向かっていった。
ジャロは…大粒の涙を流しながら、何も喋ることも出来ずにガクガク震えていた。
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控え室の前、アタシ達は中に入らずにいた。…いや、入れなかった。
中にいるヴェルが、外からも聞こえる位でっかい声で、マスターにすがり泣く声が聞こえていたからだ。
「多分…ボクの時もこんな風に泣いてくれたんだと思う。」
お♪ノワルの口調がボクに戻った。
「その後…あの男ってば『不良品などいらん!代わりなど幾らでも居る!そんな出来損ない、捨ててしまえ!』
…って言ったんだ。ボクも殆ど意識は無かったし、うろ覚えだけど。」
カツ…カツ…カツ…。
「それでね、爺やさんがボクを捨てに行こうとした時、たまたまマスターが控え室のドアを開けたんだ。」
ギィ…。
「それで…。」
「爺さん、又会ったな、そいつをどうするんだ?」
「はい、坊ちゃまの御命により、処分を…」
「そうか…だったら丁度良い。パーツ取りに使いたいんだ、譲っては貰えないか?」
「はい…どうせ処分される物ですので。どうか…その子を宜しく、その子の未来に幸多からん事を。」
「爺やさんは、そう言ってボクをマスターに託したんだ。そして…」
「あ~あ…まだコニーのボディ買った時の請求がカード会社から来てないってのに、また余計なもん引き取っちまったよ。
あ!いっけね!ここのロッカーも壊しちゃったんだ~…!!勢いでやったとは言え弁償モンだよ~。
あ~、どうすっか~…、将来設計の貯金削るか?いや待てよ!?妹が天使型欲しがってたからアイツに…」
おお!戻ってきた…!!いつものマスターだ!
「うわ~い!またかぞくがふえるのだ~?」
「ふふふ…やっと舎弟ができるぜ!思いっきりコキ使ってやる!」
「アンタねぇ…一応妹よ…妹;」
-ボクは、やっと本当の光(マスター)を見つけることができたんだ。-
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あれから数日後。
あの敗北から奇跡的復活を果たし、再び連勝街道を進むクソ坊ちゃん2号と、致命的な怪我を克服したとされている、実際は
まっさらの新品の「ミカエル」ちゃんが、勝利者インタビューに答えていた。
「あの敗北は、僕にとっても非常に良い経験になりました!あの敗北があったからこそ、こうして今再び栄光の道を
歩むことが出来ているのです!そうだな!ミカエル!」
「イエス!マスター!」
へっ…あんだけ無様な負け方しといて何抜かしてやがる。どうせ今までと同じで、金に釣られる格下を八百長試合で
狩り続けているんだろうぜ…。あの爺さんも、また金配りさせられてるんだろうな。あ~あ、ご愁傷様なこって…。
今日は、こないだマスターが行きつけのセンターに、元「ミカエル」ちゃんを修理に出して、どうやら無事治ったらしいんで、
アタシを除く全員で迎えに行っている。アタシはテレビを独占し、大好きなニンニク煎餅をバリバリ喰いながらの優雅なお留守番だ。
話によると、どうやら今回はノワルの時と違って、ミカエルは今までの全ての記憶を「消させて」しまうらしい。無論、本人の了承はない。
ノワル曰く、図らずも自分が命を奪ってしまった、命を吹き込まれず捨てられた神姫達への贖罪のために、アイツは自ら望んで
記憶を残したそうなんだが、「ミカエル」には、そんな十字架は背負って欲しくない、新しい人生を歩んで欲しいんだと…さ。
全く…AIってのは便利なもんだ、嫌な記憶を簡単に消し去れるんだから。意外と楽しい記憶ってのは、簡単に忘れがちで、
嫌な記憶ってのは、何時まで経っても脳味噌の隅にへばりついて残るもんなんだよなぁ…。まぁそれが人の良い所だったりするんだが。
って…ありゃ?何人間様になったつもりで物考えてんだアタシゃ?第一、そんな哲学的な事考えるタマじゃねぇだろ!…ったく。
でも…もしアタシがノワルの立場だったらどうしてただろう。やはり記憶を残して貰ったんだろうか、それとも…。
ガチャ…
…おっと、帰ってきた帰ってきた。辛気くさい話はこれで終了っと!
「たっだいま~なのだ~!」
「お留守番ご苦労様~!おみやげ買ってきたよ~!」
「こら!上がる前に足はちゃんと拭きなさいって言ってるでしょ!」
「さぁ、今日からここが君の家だぞ。お姉さんに挨拶して!」
「は…初めまして!私の名前は…」
「知らなかった闇・本当の光」~fin~
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