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スポットライトに照らされた眩い舞台。
その縦横に光のラインが走る電脳空間を模したバトルフィールドに、エントリースポットから彼女が舞い降りたとたん、周囲から歓声が上がった。
「見てください。皆さん私の華麗なる姿を待ち望んでいたようですね」
「あのな、お前もう少しは緊張感持てよ」
沸き起こる歓声とは対照的なその少年の声に、彼女は蒼いポニーテールを振りながら答える。
「問題ありません、緊張する必要など皆無です。安心して私の戦いを見ているだけで結構、いわゆる〝大船に乗った気分〟ってヤツですね」
そう言って彼女は得意げに胸を張る。
その拍子に、身に着けている天使型武装のヘッドギアがずり落ちた。
「ドロ船の間違いじゃないだろうな……」
彼は軽く目頭を押さえると、成り行きとはいえこんな形で神姫バトルを行うハメになったことを、ひそかに後悔した。
*
先週まで咲き誇っていた桜も散り、街角ではそこかしこで新緑が芽生え始めている。
そんな暖かな陽気、まさに快楽日和……にもかかわらず駅前の広場に人がまばらなのは今日が平日ということからすれば仕方がない。
広場の時計台が刻む時間も当に十時を回っている。駅をゆく学生服や背広姿の群れも一段落し、桂樹駅は静かだった。
その駅のロータリーにある騎馬像(どこぞの芸術家が寄贈したとかいう話だ)の前に、ひとりの少年があくびを堪えながら突っ立っていた。
「全く、自分から呼んどいて遅刻かよ……伊吹のヤツめ」
独りでブツブツ言いながら、少年は所在無げにつま先で地面を蹴る。
そんな彼の仕草にベンチから声が掛けられる。
「しかしこの誘いを承諾したのはシュン自身です。ここで帰宅を選ぶということは、その約束を一方的に反故するも同然です」
その自身の内心を見透かした声に、シュンと呼ばれた少年は面倒そうに答える。
「こっちはもう三十分も待ってんだよ。……ったく、せっかくの休みなのに」
「待ち合わせの十時からは、まだ五分も経過していません。三十分近くも待つことになっているのは、わくわくして約束より大幅に早く到着したシュンの責任でしょう」
「誰がわくわくしてたよ? こんなに早く着いちゃったのは、お前が朝早くから急かすからだろうが」
苦い表情を浮かべながらシュンは傍らのベンチを見下ろす。そこでは先ほどからシュンに辛らつな意見を述べる声の主がチョコンと腰掛けている。
その〝彼女〟はジッと睨むシュンの視線に、抱えていたものを脇に置いて振り向いた。
「失敬な。それではまるで私が『遠足が楽しみでたまらないお子様』のようではないですか。言い掛かりです、激しく名誉毀損です。弁護士を呼んでください」
「あのなぁ、ゼリス。どこの世界に神姫専門の弁護士がいるんだよ」
キッと意味もなく凛々しい顔で彼のことを睨みつける少女――の姿をした彼のオートマトン(自動人形)――の姿に、シュンはいろいろな意味で間違っていると思った。
何がどう間違っているのかは、それはもう世界に聞いてくれ。
そんなくだらない訴えを脳の片隅に転がしつつ、シュンは隣に座る彼女を見やる。
蒼い豊かな髪をリボンで結ったポニーテール。
褐色の肌、理知的な翡翠の瞳。
神姫の中でも一際小柄で華奢そうだが、それを補ってあまりある存在感をまとった小さなフロイライン(お嬢さん)。
――ゼリス。
彼女は彼、有馬駿(アリマ シュン)の武装神姫だ。
なぜ平凡な中学生だったシュンがこのいろいろな意味で普通じゃない神姫であるゼリスのオーナーになったのか? ふたりに尋ねればきっとこんな返事が戻ってくることだろう
「いろいろあって……(byシュン)」
「いろいろな事がありました……(byゼリス)」
どうやら彼らの関係には一般的な神姫とそのオーナーとは違った複雑な経緯があるらしい。
が、一週間も立てばそうした状況にも次第に慣れてくるもの。初めはゼリスに戸惑ってばかりだったシュンも、ようやく今後のことを考えるゆとりも出来てきた。
そんな訳でまずは神姫関連の様々なパーツを揃えようと、ふたりは最寄の神姫センターを案内してもらうため友人と待ち合わせの最中だった。
そもそも今日シュンたちを誘ったのはその友人、彼の幼馴染でもある伊吹からだった。
生粋の武装神姫バトルマニアである伊吹の誘いを、シュンは今日が創立記念日で中学校が休みであることと、先週の事件の反省から快く受けることにした。
しかし、ゼリスに尻を蹴られつつ(こんな言い方をしたらまた怒られるからシュンは口にしないが)待ち合わせに来てみれば、当の伊吹本人がまだ来ない。
シュンとしても今日の神姫センター行きはそれなりに乗り気だった分、何だか肩透かしを受けた気分だった。
「ところで……お前はさっきから何してるんだよ」
「シュン、見て分かりませんか? しばしの小閑に読書です」
そう答えゼリスは再び本を両手に持ち直し、ひとり読書のポーズ。電子書籍が一般化している中、彼女は昔ながらの紙の本を好んでいる。自分が電子化社会の代表選手のクセに。
身長14センチくらいの神姫が身の丈ほどもある文庫本を読んでいる光景は、見ようによってはなかなかシュールだった。
「それは見りゃ分かる。そうじゃなくて、お前はマスターである僕が待ちぼうけてるのに、それを無視してひとりで本読んでるんですか?」
「別に私が余暇を利用して何をしようと、シュンには関係ないでしょう? 過度のプライベートへの干渉は好ましく思えませんね」
「お前なぁ……。少しは自分のマスターの相手をしようとかは思わないわけ?」
シュンの言葉にゼリスは「ふむ」とその細い顎に手を当てながら逆に聞き返す。
「シュンは、私に相手をして欲しいのですか?」
不思議そうな様子で彼を上目使いに覗き込む、そのエメラルドの瞳に一瞬吸い込まれそうになり……はしたものの、すぐにシュンはシラケたようにかぶりを返した。
「いんや、そんなことはねーっすよ」
「ならば何の問題もありませんね。私は読書に没頭しますので、シュンも待ち人が来るまで現状維持に努めてください」
彼の投げ遣りな返事も意に関さず、ゼリスはそう述べると現状確認を済ませことに満足したのか、また読書の体勢に戻った。
そんな黙々と本読みにふけるゼリスを横目で見ながら、シュンは人知れず小さなため息をつくのだった。
神姫。それは自らの心を持ち、自らの意思で行動する全高15センチ程度のフィギュアロボの総称である。
様々な分野で活躍するロボットが存在する西暦2036年において、多様な機能、機構、機器を持ちオーナーである人間をサポートする、最も我々に身近な存在。
神姫とはオーナーとなる人間にとって、親友であり、家族であり、また愛しき娘でも恋人でもあった。いつしか人々はそんな彼女たち神姫の中で誰が最も美しく、優れ、そして強いかを競い合うようになった。
武装神姫。
様々な武器を駆り、装甲に身を包み戦う彼女らを人々はそう呼んだ。
SHINKI/NEAR TO YOU
Phase01-1
スポットライトに照らされた眩い舞台。
その縦横に光のラインが走る電脳空間を模したバトルフィールドに、エントリースポットから彼女が舞い降りたとたん、周囲から歓声が上がった。
「見てください。皆さん私の華麗なる姿を待ち望んでいたようですね」
「あのな、お前もう少しは緊張感持てよ」
沸き起こる歓声とは対照的なその少年の声に、彼女は蒼いポニーテールを振りながら答える。
「問題ありません、緊張する必要など皆無です。安心して私の戦いを見ているだけで結構、いわゆる〝大船に乗った気分〟ってヤツですね」
そう言って彼女は得意げに胸を張る。
その拍子に、身に着けている天使型武装のヘッドギアがずり落ちた。
「ドロ船の間違いじゃないだろうな……」
彼は軽く目頭を押さえると、成り行きとはいえこんな形で神姫バトルを行うハメになったことを、ひそかに後悔した。
*
先週まで咲き誇っていた桜も散り、街角ではそこかしこで新緑が芽生え始めている。
そんな暖かな陽気、まさに快楽日和……にもかかわらず駅前の広場に人がまばらなのは今日が平日ということからすれば仕方がない。
広場の時計台が刻む時間も当に十時を回っている。駅をゆく学生服や背広姿の群れも一段落し、桂樹駅は静かだった。
その駅のロータリーにある騎馬像(どこぞの芸術家が寄贈したとかいう話だ)の前に、ひとりの少年があくびを堪えながら突っ立っていた。
「全く、自分から呼んどいて遅刻かよ……伊吹のヤツめ」
独りでブツブツ言いながら、少年は所在無げにつま先で地面を蹴る。
そんな彼の仕草にベンチから声が掛けられる。
「しかしこの誘いを承諾したのはシュン自身です。ここで帰宅を選ぶということは、その約束を一方的に反故するも同然です」
その自身の内心を見透かした声に、シュンと呼ばれた少年は面倒そうに答える。
「こっちはもう三十分も待ってんだよ。……ったく、せっかくの休みなのに」
「待ち合わせの十時からは、まだ五分も経過していません。三十分近くも待つことになっているのは、わくわくして約束より大幅に早く到着したシュンの責任でしょう」
「誰がわくわくしてたよ? こんなに早く着いちゃったのは、お前が朝早くから急かすからだろうが」
苦い表情を浮かべながらシュンは傍らのベンチを見下ろす。そこでは先ほどからシュンに辛らつな意見を述べる声の主がチョコンと腰掛けている。
その〝彼女〟はジッと睨むシュンの視線に、抱えていたものを脇に置いて振り向いた。
「失敬な。それではまるで私が『遠足が楽しみでたまらないお子様』のようではないですか。言い掛かりです、激しく名誉毀損です。弁護士を呼んでください」
「あのなぁ、ゼリス。どこの世界に神姫専門の弁護士がいるんだよ」
キッと意味もなく凛々しい顔で彼のことを睨みつける少女――の姿をした彼のオートマトン(自動人形)――の姿に、シュンはいろいろな意味で間違っていると思った。
何がどう間違っているのかは、それはもう世界に聞いてくれ。
そんなくだらない訴えを脳の片隅に転がしつつ、シュンは隣に座る彼女を見やる。
蒼い豊かな髪をリボンで結ったポニーテール。
褐色の肌、理知的な翡翠の瞳。
神姫の中でも一際小柄で華奢そうだが、それを補ってあまりある存在感をまとった小さなフロイライン(お嬢さん)。
――ゼリス。
彼女は彼、有馬駿(アリマ シュン)の武装神姫だ。
なぜ平凡な中学生だったシュンがこのいろいろな意味で普通じゃない神姫であるゼリスのオーナーになったのか? ふたりに尋ねればきっとこんな返事が戻ってくることだろう
「いろいろあって……(byシュン)」
「いろいろな事がありました……(byゼリス)」
どうやら彼らの関係には一般的な神姫とそのオーナーとは違った複雑な経緯があるらしい。
が、一週間も立てばそうした状況にも次第に慣れてくるもの。初めはゼリスに戸惑ってばかりだったシュンも、ようやく今後のことを考えるゆとりも出来てきた。
そんな訳でまずは神姫関連の様々なパーツを揃えようと、ふたりは最寄の神姫センターを案内してもらうため友人と待ち合わせの最中だった。
そもそも今日シュンたちを誘ったのはその友人、彼の幼馴染でもある伊吹からだった。
生粋の武装神姫バトルマニアである伊吹の誘いを、シュンは今日が創立記念日で中学校が休みであることと、先週の事件の反省から快く受けることにした。
しかし、ゼリスに尻を蹴られつつ(こんな言い方をしたらまた怒られるからシュンは口にしないが)待ち合わせに来てみれば、当の伊吹本人がまだ来ない。
シュンとしても今日の神姫センター行きはそれなりに乗り気だった分、何だか肩透かしを受けた気分だった。
「ところで……お前はさっきから何してるんだよ」
「シュン、見て分かりませんか? しばしの小閑に読書です」
そう答えゼリスは再び本を両手に持ち直し、ひとり読書のポーズ。電子書籍が一般化している中、彼女は昔ながらの紙の本を好んでいる。自分が電子化社会の代表選手のクセに。
身長14センチくらいの神姫が身の丈ほどもある文庫本を読んでいる光景は、見ようによってはなかなかシュールだった。
「それは見りゃ分かる。そうじゃなくて、お前はマスターである僕が待ちぼうけてるのに、それを無視してひとりで本読んでるんですか?」
「別に私が余暇を利用して何をしようと、シュンには関係ないでしょう? 過度のプライベートへの干渉は好ましく思えませんね」
「お前なぁ……。少しは自分のマスターの相手をしようとかは思わないわけ?」
シュンの言葉にゼリスは「ふむ」とその細い顎に手を当てながら逆に聞き返す。
「シュンは、私に相手をして欲しいのですか?」
不思議そうな様子で彼を上目使いに覗き込む、そのエメラルドの瞳に一瞬吸い込まれそうになり……はしたものの、すぐにシュンはシラケたようにかぶりを返した。
「いんや、そんなことはねーっすよ」
「ならば何の問題もありませんね。私は読書に没頭しますので、シュンも待ち人が来るまで現状維持に努めてください」
彼の投げ遣りな返事も意に関さず、ゼリスはそう述べると現状確認を済ませことに満足したのか、また読書の体勢に戻った。
そんな黙々と本読みにふけるゼリスを横目で見ながら、シュンは人知れず小さなため息をつくのだった。
神姫。それは自らの心を持ち、自らの意思で行動する全高15センチ程度のフィギュアロボの総称である。
様々な分野で活躍するロボットが存在する西暦2036年において、多様な機能、機構、機器を持ちオーナーである人間をサポートする、最も我々に身近な存在。
神姫とはオーナーとなる人間にとって、親友であり、家族であり、また愛しき娘でも恋人でもあった。いつしか人々はそんな彼女たち神姫の中で誰が最も美しく、優れ、そして強いかを競い合うようになった。
武装神姫。
様々な武器を駆り、装甲に身を包み戦う彼女らを人々はそう呼んだ。
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