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「妄想神姫:第十五章(前編)」(2007/02/16 (金) 18:25:49) の最新版変更点
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**暗き過去に、深き眠りを(前編)
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爽やかに晴れた日曜日。今日は一月に一度の“週末の定休日”である。
普段は毎週水曜日に休みをもらうMMSショップ“ALChemist”なのだが、
私・槇野晶は勿論、“妹達”にも週末をいっぱい満喫してもらいたい。
というわけで、今日は久しぶりに秋葉原神姫センターへ行こうと思う。
その為にはまず、身だしなみからちゃんと整えねばならんな……って。
「ほら、初舞台に出るのだ。今日は入念に躯を磨かねばならんぞ」
「きゃうっ……ま、マイスター!シャンプーが目に沁みますっ!」
「すぐ流してやるから、少しだけ耐えてくれんかアルマや?ほら」
「ロッテお姉ちゃん……そこ、少しかゆいかもしれないんだよ?」
「こうですの?ん、クララの緑色の髪ってやっぱり綺麗ですの♪」
今すぐ後ろを向け。3秒で応じたなら赦してやる……そう、それでいい。
普段から神姫専用の洗浄剤で清潔にしている“妹達”だが、他人様の前に
出るだけでなく、アルマとクララは今日が初陣なのだ。身だしなみには、
尚一層気を遣わねばならん。そうだろう?風呂の後は勿論、衣装選びだ。
「今日はこの青いスーツを着ていきたいですの、マイスター♪」
「有無。派手過ぎず、丁度良いな。観戦もそれなら楽だろうて」
「……ボクは、緑色のコートかな?帽子に似合う気がするもん」
「あたしは紅いこれで、いいですか?ちょっとスリットが……」
「どうせアレだし、自信がなければ大人締めでもいいのだぞ?」
「う、ううん……いえ、これでいきます!今日は冒険ですから」
ロッテはブラウスとロングスカートを用いた、青色のシックなスーツ。
クララは前閉じ式のロングコート。私が誂えたお揃いの帽子も装備だ。
アルマはこれまた私が作った、チャイナドレス風の紅いジャケットを。
ショートヘアのクララ以外は、髪をそれぞれポニーテールとお団子に。
武装も大事だが、戦闘時以外は“神の姫”に相応しい姿も必要だしな?
例えHVIFを使っていようとも、彼女らには優雅さを保ってほしい。
「さ、準備は出来たな。まずはアルマとクララのリーグ登録に往くぞ!」
「はいですの~♪わたしの時みたいに色々言われないといいんですけど」
「……溜息なんか付いてる。何かあったのかな、ロッテお姉ちゃんに?」
「ああ。物分かりの悪い担当者に当たって、登録に少々手間取ったのだ」
「うんと、そういえばマイスター。何かトランクに積んでましたよね?」
目敏いアルマには“アレ”を見られていた様だ。重量級ランクに出す
装備の先行試作品なのだが、その存在故に最初は一悶着あった物だ。
今回も恐らくそうなるだろうが、レギュレーションは何ら問題ない。
案の定見知った八階の担当者は渋い顔で私を出迎え、愚痴ってきた。
「……槇野晶さん、また貴方ですか?しかも二体とも同じ様に」
「勿論だ。今回も重量級・軽量級、どちら共規約範囲内だぞ?」
「相変わらずギリギリですねぇ……いいんですか、って愚問か」
「構わない、と言っただろうが!他に問題があるのか、ん?!」
「……こっちのハウリンタイプ、規約変更に凄く弱いですよ?」
「ならば規約内に収まる様、都度調整すればいいだけだろう!」
という一喝で以前よりもずっと早く参加審査は完了し、晴れて彼女らにも
重量級ランク用と軽量級ランク用、双方のIDが無事に交付された訳だ。
その脚で、私達は三階のサードリーグ用バトルフィールドに向かい……。
「あ、あっ……マイスター……あ、あの人!」
「……猪刈め、よくも図々しくここに居るわ」
「全然反省してなかった、って事なんだよ?」
「みたいですね……あ、神姫を抱えてますの」
一番この界隈で見たくない最悪な卑劣漢、猪刈久夫と再びまみえた。
あの外道めは、新しい神姫……どう見ても改造済みだ……を撫でて、
己の対戦予約を始めようとしていた。私は皆の意思を確認し、接近。
程なく此方に気付いたのか、奴は卑賤な笑いをこちらへ向けてきた。
「ぶ、ぶひゃ!?……あ、あの時のロリッ娘と“あくまたん”?」
「その様な穢らわしい名は棄てた。今、この娘はアルマという!」
「……もう、あたしは貴方の物じゃないんです。見ないで下さい」
「ぶひゃひゃ、すっかりツンツンしちゃって……可愛くなった~」
……この胆力だけは褒めるべきかもしれんが、自分のやった事すらも
数週間で省みなくなるというのは、頭痛がする程に不愉快な物だな。
しかも彼奴めはすっかり有頂天らしく、馬鹿な事を突然言いだした。
「ぷひひぃ、ボク良い事考えたんだよねぇ~。絶対泣かせるッ」
「……ロクでもない思考に時を費やす位なら、自己改造をしろ」
「あるまたんだっけ、あくまたんだっけ。そいつと試合する!」
「なんだと?……そのフォートブラッグ改造品で来るか、猪刈」
「そうそう、でボクが勝ったらお前を一晩言う事聞かせるの~」
何処から突っ込んでいいのかわからんが、少なくとも“一晩”等と
区切る辺り、猪刈の底の浅さが見て取れるな。乗る気はなかった。
その様な賭けで、“妹達”を無闇に不安にさせるのは愚かしい事。
……だからこそ彼女が切り出した時、驚きつつも心が躍ったのだ。
「……じゃああたしが勝ったら、二度と神姫に酷い事しないで下さい」
「アルマ!?……お前、本当によいのだな。無理はせずともいいぞ?」
「勝つのは、マイスターの“妹”であるあたしですから……それに!」
その言葉で、私はアルマが己の闇に刃向かう訳を知る──猪刈の神姫。
武装自体はかつての“あくまたん”程でない彼女だが、目に光がない。
カメラ機能は生きているが、確固たる意思という物が失せているのだ。
それは、猪刈めが何も懲りずに非道を繰り返したという……証だった。
「この娘を、どうしても解き放ってあげたいんです……マイスター!」
「ふむ、よかろう。猪刈、貴様が負けたらその神姫を即刻他人に渡せ」
「ぶふふ、どーせ勝つのはボクだもんね。泣かせてやるんだ、ぶふ!」
アルマの志を信じ、私は指名戦を予約。程なく呼び出しが掛かった。
両肩のロッテとクララが案じる中、私は新型の装備をアルマに装着。
それは、メイド服の様であり司祭の様でもある“聖なるドレス”だ。
実戦ではこれが初めて。だが、私には不思議と絶対的な自信がある。
「よし、全ての準備は整った……蹴散らしてこい!」
「は、はい!……決着、つけてきます。マイスター」
「ぶふぅっ、さあボクの“かまきりん”、壊せッ!」
「────────────イエス、マスター……」
そして、戦いを告げる荘厳なサウンドが鳴り響く!
『ロッテvsかまきりん、本日のサードリーグ第24戦闘、開始します!』
──────忌まわしき過去の為に、素晴らしき明日の為に。
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