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**戦うことを忘れた武装神姫 その21
-----------
珍しく悩んだ数日だった。
そして、あたし自身にとっても、大きな数日となった。
・・・事の起こりは、朝の来客だった。
「はぁ・・・時間はありますが・・・?」
久遠以外では、久しぶりのアポ無しの訪問客。 なにやら神姫絡みのハナシ
だという。 大方、修理依頼かデータ解析とか、そんなモノだろう・・・と
考えていたのだが。 応接室で待っていたのは・・・
「お忙しい中時間を割いていただき、誠にありがとうございます。」
明らかに日本人ではない、しかし顔を知っている人間・・・
「フェレンツェ・カークランド博士?!」
「おお、どうも。私の名前をご存じでしたか。 貴女がCTa博士ですね?」
と、差し出す名刺。紛れもなく、本物のフェレンツェ・カークランド。。。
「は、博士のような御方が、なぜここへ?」
「いえいえ、そうかしこまらなくても結構です。 礼を言うのはこちらの方
なんですから。。。」
と、彼は訪問の理由を話し始めた。
・・・知っての通り、博士は機械と人間、すなわち神姫と人間のコミュニケ
ーションに於ける研究の第一人者である。 そして、彼はあたしの研究成果、
すなわち食事機能・消化変換機能や、センサー類の研究成果を相当応用して
幾多の成果を上げることとなった、というのだ。 博士の持参した論文集に
は、しっかりと引用としてあたしの論文も。。。恥ずかしいやら嬉しいやら。
博士は、心ばかりではあるが、謝礼ということで、金額の記載のない小切手
を取りだした。
「お心遣いありがとうございます、博士。ですが、あたしはあくまで自分の
趣味範囲の研究として行っているだけですので。これを受け取ることは出来
ません。 どうかその旨、ご理解いただければ。」
「そうですか・・・。」
その時、あたしは少々寂しそうな目つきをしつつ小切手をしまう博士の眼の
奥に、別の光があるのを感じた。
「・・・ところで博士、あたしの所に来た目的は・・・それだけでは無い、
と思うのですか?」
あきらかに、博士は動揺した。
「いかがですか?」
たたみかけるように問いかけると、
「やはり同じ科学者、隠し事は出来ませんね。」
博士はやられたという顔をしながら静かに話し始めた。 そう、ここへ来た
本当の理由を-。
「すごいじゃないですか。 そんな大御所から直々に指名されるなんて。」
昼休み。 事の次第を、自販機前でたまたま出会ったMk-Zに話した。
博士の話したこと、それは・・・博士の研究 -すなわち、HVIFの開発- に、
あたしも参加しないか、という事だった。 所属は東杜田技研のまま、身分
の保障も含め、何一つ不満のない待遇。 施設も、資金も、桁違いの規模。
文字通り、やりたいことがやり放題。。。 Mk-Zはしきりにハナシに乗る
ようすすめるが、どうも今ひとつ気が乗らない。博士は良いお返事を待って
いると言い残して帰っていったが。。。
午後。仕事が始まっても、思うように作業がはかどらない。
今の自分の仕事に、不満はない。むしろ、感謝しているくらいの毎日。
だが、このまま踏みとどまって、前へ進めなくなってしまうのではないかと
いう漠然とした不満もつきまとう。殻を破り、より大きな可能性のある世界
へと踏み出すべきなのだろうか。 沙羅とヴェルナにも話したが、まだ成熟
がすすんでいない2人にはピンと来ないようで、当然っちゃ当然だが、答え
は・・・出なかった。
そうこうしているうちに、数日が経過。
毎日・・・というより、日に二回はフェレンツェ・カークランド博士側から
何らかの連絡があった。あたしの所で面倒を見たことがあるオーナーへも、
研究協力の依頼・・・つーかボディ供与をした、とかいう話も舞い込んだ。
ま、そいつらは顔をちらっと見ただけで、実質はMk-Zが面倒を見たんだけ
ど・・・。 なんとも身近なところにも来ているんだねぇ。。。
そんなこんなで、気が迷い、仕事は進まず停滞に次ぐ停滞。・・・気づけば、
デスクの両サイドには、書類だの資料だのが、今にも崩れそうなほどに積み
上がっていた。
「マスター、いい加減して下さい! これ以上のスケジュールの遅れは技研
の他の部署へも影響が出てしまいます!!」
あたしがぼーっとしている間、ヴェルナは懸命に仕事のスケジュール管理、
調整をこなしてくれていたようだ。片や沙羅は、散らかる一方のデスクの上
を、ちっちゃい身体を目一杯使って整頓してくれて・・・いたのだが。
「も、もうダメっす、マスター! う、うわあぁあぁぁぁあっ!!!」
ついにデスク上の積載物大崩壊。沙羅、ヴェルナともに埋没してしまった。
「あっ!! ご、ごめん!!!」
慌てて2人を掘り出す。と、ヴェルナがびっとあたしを指さして言った。
「・・・こういうときこそ・・・あの方に相談すべきではないですか?」
「そうっすよ! でないと、マスターが死んじゃいますよぉ!」
確かにろくすっぽ寝ていないし、飯もまともに食っていない気がする。。。
「うむ・・・ そうするか・・・。」
あたしからハナシを切り出すのは性格上ちょっと癪だったが、仕方がない。
デスクの上で埋まった携帯電話を引っ張り出し、ダイヤルを廻す。
こんな時に一番頼りになる・・・あいつ・・・。
「・・・あぁ、久遠か? 悪い、今夜・・・いつもの所へ来てくれないか?
あと・・・エルガとシンメイもいっしょに連れてきてくれ。」
その夜、T市のいつもの居酒屋。 あたしの声が相当深刻そうだった- との
ことで、わざわざ仕事を途中で切り上げ、久遠は時間を作ってくれた。早速
久遠に先日のフェレンツェ・カークランド博士とのやりとりを、詳細に説明
した。同席するエルガ、シンメイも、静かに聞いている。あたしが知る限り
では、こいつらほど精神面で成熟した神姫はそうそういないと思う。まぁ、
2人とも行動に関しては、久遠同様、幼いところがあるけどね。。。
一通り話し終えたところで、久遠が口を開いた。それは、あたしではなく、
エルガとシンメイに対してだった。
「・・・だってさ。 お前らならどうする? 俺たちと同じ、大きな身体が
欲しいか?」
「にゃーは欲しい! そしたらマスターと、もっとラヴーになれる?」
エルガの発言に、流石の久遠も苦笑いしている。
「なるほどね。 確かに、エルガがおっきくなったら、ラヴーになっちゃう
なぁ。 お前可愛いし。」
「うにゃはぁ。。。」
顔を赤くして崩れるエルガ。その会話に嫉妬してしまうあたし。。。
「んで、シンメイはどう思う?」
久遠が尋ねると、シンメイはしばし考え・・・
「ラヴ・・・というより、越えちゃいけない一線を越えませんか?」
相変わらずの冷静な判断。
「なるほどね・・・。 確かに、そう言う問題も出てくるねぇ。 難しい話
だなぁ。。。 奥も深いし。。。」
久遠の答えに、あたしも、エルガとシンメイも黙ってしまった。
・・・そこなんだよね、あたしが引っかかっているのは。今はまだアングラ
的な研究だけど、それが表に出て商業化された時、果たして「今の人間」の
理性・・・いや、生き物としての倫理がどう問われるか、HVIFを与えられた
神姫がどういう立場になるか・・・と。
もっとも、フェレンツェ・カークランド博士は、そこの所をどうすべきかを
現在いっちゃん重点的にしているというので、あたしは安心しているのだが。
ビールをきゅっと飲んだ久遠が、沈黙をやぶり改めて問いかけた。
「なぁ・・・お前らは、本当におっきくなっちゃっていいのか?」
・・・>[[その22>戦うことを忘れた武装神姫-22]]へ続くっ!!>・・・
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[[>その22へ進む>>戦うことを忘れた武装神姫-22]]
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**戦うことを忘れた武装神姫 その21
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珍しく悩んだ数日だった。
そして、あたし自身にとっても、大きな数日となった。
・・・事の起こりは、朝の来客だった。
「はぁ・・・時間はありますが・・・?」
久遠以外では、久しぶりのアポ無しの訪問客。 なにやら神姫絡みのハナシ
だという。 大方、修理依頼かデータ解析とか、そんなモノだろう・・・と
考えていたのだが。 応接室で待っていたのは・・・
「お忙しい中時間を割いていただき、誠にありがとうございます。」
明らかに日本人ではない、しかし顔を知っている人間・・・
「フェレンツェ・カークランド博士?!」
「おお、どうも。私の名前をご存じでしたか。 貴女がCTa博士ですね?」
と、差し出す名刺。紛れもなく、本物のフェレンツェ・カークランド。。。
「は、博士のような御方が、なぜここへ?」
「いえいえ、そうかしこまらなくても結構です。 礼を言うのはこちらの方
なんですから。。。」
と、彼は訪問の理由を話し始めた。
・・・知っての通り、博士は機械と人間、すなわち神姫と人間のコミュニケ
ーションに於ける研究の第一人者である。 そして、彼はあたしの研究成果、
すなわち食事機能・消化変換機能や、センサー類の研究成果を相当応用して
幾多の成果を上げることとなった、というのだ。 博士の持参した論文集に
は、しっかりと引用としてあたしの論文も。。。恥ずかしいやら嬉しいやら。
博士は、心ばかりではあるが、謝礼ということで、金額の記載のない小切手
を取りだした。
「お心遣いありがとうございます、博士。ですが、あたしはあくまで自分の
趣味範囲の研究として行っているだけですので。これを受け取ることは出来
ません。 どうかその旨、ご理解いただければ。」
「そうですか・・・。」
その時、あたしは少々寂しそうな目つきをしつつ小切手をしまう博士の眼の
奥に、別の光があるのを感じた。
「・・・ところで博士、あたしの所に来た目的は・・・それだけでは無い、
と思うのですか?」
あきらかに、博士は動揺した。
「いかがですか?」
たたみかけるように問いかけると、
「やはり同じ科学者、隠し事は出来ませんね。」
博士はやられたという顔をしながら静かに話し始めた。 そう、ここへ来た
本当の理由を-。
「すごいじゃないですか。 そんな大御所から直々に指名されるなんて。」
昼休み。 事の次第を、自販機前でたまたま出会ったMk-Zに話した。
博士の話したこと、それは・・・博士の研究 -すなわち、HVIFの開発- に、
あたしも参加しないか、という事だった。 所属は東杜田技研のまま、身分
の保障も含め、何一つ不満のない待遇。 施設も、資金も、桁違いの規模。
文字通り、やりたいことがやり放題。。。 Mk-Zはしきりにハナシに乗る
ようすすめるが、どうも今ひとつ気が乗らない。博士は良いお返事を待って
いると言い残して帰っていったが。。。
午後。仕事が始まっても、思うように作業がはかどらない。
今の自分の仕事に、不満はない。むしろ、感謝しているくらいの毎日。
だが、このまま踏みとどまって、前へ進めなくなってしまうのではないかと
いう漠然とした不満もつきまとう。殻を破り、より大きな可能性のある世界
へと踏み出すべきなのだろうか。 沙羅とヴェルナにも話したが、まだ成熟
がすすんでいない2人にはピンと来ないようで、当然っちゃ当然だが、答え
は・・・出なかった。
そうこうしているうちに、数日が経過。
毎日・・・というより、日に二回はフェレンツェ・カークランド博士側から
何らかの連絡があった。あたしの所で面倒を見たことがあるオーナーへも、
研究協力の依頼・・・つーかボディ供与をした、とかいう話も舞い込んだ。
ま、そいつらは顔をちらっと見ただけで、実質はMk-Zが面倒を見たんだけ
ど・・・。 なんとも身近なところにも来ているんだねぇ。。。
そんなこんなで、気が迷い、仕事は進まず停滞に次ぐ停滞。・・・気づけば、
デスクの両サイドには、書類だの資料だのが、今にも崩れそうなほどに積み
上がっていた。
「マスター、いい加減して下さい! これ以上のスケジュールの遅れは技研
の他の部署へも影響が出てしまいます!!」
あたしがぼーっとしている間、ヴェルナは懸命に仕事のスケジュール管理、
調整をこなしてくれていたようだ。片や沙羅は、散らかる一方のデスクの上
を、ちっちゃい身体を目一杯使って整頓してくれて・・・いたのだが。
「も、もうダメっす、マスター! う、うわあぁあぁぁぁあっ!!!」
ついにデスク上の積載物大崩壊。沙羅、ヴェルナともに埋没してしまった。
「あっ!! ご、ごめん!!!」
慌てて2人を掘り出す。と、ヴェルナがびっとあたしを指さして言った。
「・・・こういうときこそ・・・あの方に相談すべきではないですか?」
「そうっすよ! でないと、マスターが死んじゃいますよぉ!」
確かにろくすっぽ寝ていないし、飯もまともに食っていない気がする。。。
「うむ・・・ そうするか・・・。」
あたしからハナシを切り出すのは性格上ちょっと癪だったが、仕方がない。
デスクの上で埋まった携帯電話を引っ張り出し、ダイヤルを廻す。
こんな時に一番頼りになる・・・あいつ・・・。
「・・・あぁ、久遠か? 悪い、今夜・・・いつもの所へ来てくれないか?
あと・・・エルガとシンメイもいっしょに連れてきてくれ。」
その夜、T市のいつもの居酒屋。 あたしの声が相当深刻そうだった- との
ことで、わざわざ仕事を途中で切り上げ、久遠は時間を作ってくれた。早速
久遠に先日のフェレンツェ・カークランド博士とのやりとりを、詳細に説明
した。同席するエルガ、シンメイも、静かに聞いている。あたしが知る限り
では、こいつらほど精神面で成熟した神姫はそうそういないと思う。まぁ、
2人とも行動に関しては、久遠同様、幼いところがあるけどね。。。
一通り話し終えたところで、久遠が口を開いた。それは、あたしではなく、
エルガとシンメイに対してだった。
「・・・だってさ。 お前らならどうする? 俺たちと同じ、大きな身体が
欲しいか?」
「にゃーは欲しい! そしたらマスターと、もっとラヴーになれる?」
エルガの発言に、流石の久遠も苦笑いしている。
「なるほどね。 確かに、エルガがおっきくなったら、ラヴーになっちゃう
なぁ。 お前可愛いし。」
「うにゃはぁ。。。」
顔を赤くして崩れるエルガ。その会話に嫉妬してしまうあたし。。。
「んで、シンメイはどう思う?」
久遠が尋ねると、シンメイはしばし考え・・・
「ラヴ・・・というより、越えちゃいけない一線を越えませんか?」
相変わらずの冷静な判断。
「なるほどね・・・。 確かに、そう言う問題も出てくるねぇ。 難しい話
だなぁ。。。 奥も深いし。。。」
久遠の答えに、あたしも、エルガとシンメイも黙ってしまった。
・・・そこなんだよね、あたしが引っかかっているのは。今はまだアングラ
的な研究だけど、それが表に出て商業化された時、果たして「今の人間」の
理性・・・いや、生き物としての倫理がどう問われるか、HVIFを与えられた
神姫がどういう立場になるか・・・と。
もっとも、フェレンツェ・カークランド博士は、そこの所をどうすべきかを
現在いっちゃん重点的にしているというので、あたしは安心しているのだが。
ビールをきゅっと飲んだ久遠が、沈黙をやぶり改めて問いかけた。
「なぁ・・・お前らは、本当におっきくなっちゃっていいのか?」
・・・>[[その22>戦うことを忘れた武装神姫-22]]へ続くっ!!>・・・
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