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「その名はシュートレイ 中編」(2007/03/07 (水) 21:48:39) の最新版変更点
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*その名はシュートレイ 中編
ついに格闘トーナメントの日がやってきた。会場に集った参加者はいかにもベテランそうな人から一目で素人と分かる人まで色とりどりだった。もちろんこの中に恒一とシュートレイはいるのだ。
「いよいよこの日が来ましたね、隊長」
「まさかこんなに集るとは思わなかったぜ。とはいっても本当に強そうなのはそんなにいないみたいだがな」
開催式が終わり、トーナメントが開始した。本気でこの大会に参加してきたチームは次々と素人を打ち破り、次第に精鋭グループ勢がトーナメントに勝ち登っていった。
恒一とシュートレイもほとんど無名ながら次々とライバルを倒していき、ついに準決勝まで勝ち進んだ。
「地方大会でも強敵はいましたね」
「ああ、結構強かった相手もいたからな。でも、ここまで勝ち上がってきたんだ、後へは引けないさ」
勝ち残ったのは4チーム。本田清張とハウリンタイプで紅緒の鎧を纏った神姫『ヤイバ』、井上沙耶とマオチャオタイプでカンフースタイルの神姫『メイリン』、森芳治とアーンヴァルタイプでサイフォスの鎧を纏っている神姫『ヨツンヘイム』、そして恒一とシュートレイである。
トーナメントの組み合わせが発表された。沙耶&メイリンvs芳治&ヨツンヘイム、恒一&シュートレイvs本田&ヤイバの組み合わせになった。
「対戦相手はヤイバという奴か。ベスト4まで勝ち残った相手だからな、油断は禁物だぞ」
「はい、隊長。私たちの鉄壁のコンビネーションがあれば、どんな強敵でも負けません」
まず第一試合、メイリンvsヨツンヘイムの試合が始まった。軽快な動きで相手を翻弄するメイリンに対して、ヨツンヘイムはまったく動こうとしなかった。
「一体何を考えているんでしょうね」
試合を見て不安になるシュートレイ。しかし恒一は微動だにしないヨツンヘイムをじっと見ていた。
「ここから流れが変わるな」
「え?」
恒一の言うとおり、試合の流れが変わった。ヨツンヘイムが剣を鞘ごと抜き、一歩も動かずにメイリンの動きを止めたのだ。そしてオーナーの芳治が彼女に初めて指示を出した。
「ヨツン、メイリンの動きは見切ったな?」
「はい、主君。相手の動き、見切りました」
倒れこんだメイリンは再び立ち上がり、ヨツンに攻撃を仕掛けようとするが、素早い動きでヨツンは彼女の攻撃を避けていった。
「にゃ?あちしの猫拳が当たらないにゃ」
自分の動きを上回るヨツンに、メイリンはたじろいでいた。
「メイリン、後ろ!」
「にゃ?」
次の瞬間、メイリンは吹き飛ばされ、リングの外へはじき出されてしまった。
「リングアウト!ウィナー、ヨツンヘイム!!」
観客の歓声がワッと湧いた。その試合時間は僅か1分23秒。芳治・ヨツン側の計算された動きと攻撃が勝因だった。
「そんな…、さっきまでこっちが有利だったのに…。どうして…」
呆然と立ち尽くす沙耶に、芳治は誇らしげに言い放った。
「君の神姫の動きは単純だったよ。悔しかったらまたチャレンジするんだね」
悔しがる沙耶を横目に芳治は会場を後にした。
「あのヨツンヘイムという神姫、手ごわいですね」
「神姫もすごいが、あの森芳治というオーナーもかなりバトルに手馴れているな。あれはいくつもの修羅場をくぐっている戦い方だぜ」
控え室に去っていく芳治の後姿に、恒一は戦慄を感じていた。
第二試合前、シュートレイは恒一に試合の相手について話してみた。
「あのヤイバという神姫、ハウリンタイプなのに武者装備をしてるなんて、何かあるんでしょうか?」
「そうだな、あれは接近戦に特化してるタイプのようだな。遠距離に持ち込めば倒せない相手じゃない。それより問題なのはオーナーの本田だ。何せベスト4で唯一社会人のオーナーで、しかも神姫以外にも数々のロボットのオーナーを経験しているからな、かなりの試合経験がある。対するこっちは相手ほどの経験値はない。もしかしたらそこをついてくるかもしれないな」
「手慣れと言うわけですね。大丈夫でしょうか…」
心配しているシュートレイを恒一は彼女の頭を指で撫でてあげた。
「安心しろ、こっちにはそれをカバーする新装備があるんだ」
「え、新しい装備ですか?」
「ついさっき調整が終わったんだ。慣らし運転する暇がなかったからぶっつけ本番で導入しなくちゃいけないんだけどな」
恒一は調整が終わった装備をシュートレイに見せた。
「これは…」
「これがあれば鬼に金棒だろ?さ、がんばって優勝狙おうぜ」
再度シュートレイの頭を撫でる恒一。
「は、はい!」
「じゃ、もう時間だからリングに行くぞ」
恒一はシュートレイを肩に乗せ、装備を整備トランクに入れると、試合会場に向かった。
「第二試合、本田清治&ヤイバvs木野恒一&シュートレイ!各神姫、リングイン!」
いよいよ第二試合を始めるアナウンスが放送された。それに答えてそれぞれのオーナーが向かい合わせに席に座り、神姫をリングサイドに立たせる。そしてスタートの合図を緊張しながら待つのだ。
「シュートレイ、さっき言ったこと覚えてるな。あいつの間合いに近づくなよ」
「はい隊長。出来るだけ離れて攻撃します」
中距離用の装備をつけたシュートレイは静かに答えた。
「オーナーは神姫から離れて!それでは、バトル・スタート!!」
会場内に試合を告げるサウンドが響く。その瞬間、二人の神姫はバトルを開始した。
「ヤイバ、破邪顕正で相手を攻撃しろ」
「心得ました」
手に持った槍でシュートレイを攻撃しようとするヤイバ。しかし彼女は間合いを取りながらライフルを連射した。
「よし、この距離を保って攻撃を続けるんだ」
槍の射程距離外を保ちながらシュートレイの攻撃は続いた。だが相手は余裕を見せて槍をついてくるのだった。
『おかしい、どうしてあんな攻撃しかしないんだ?いくら槍を使ってもライフルの射程距離には届かないはずだ。なのに槍だけで攻撃を続けている。一体なにをたくらんでるんだ?…まさか!』
恒一が相手の動きの意味をしたそのとき、ヤイバの左手から何かがシュートレイに向かって投げられた。
「しまった、逃げろ、シュートレイ!」
しかしその瞬間、シュートレイは大きな輪に捕まってしまった。
「そうか、あの攻撃はけん制だったのか!裏を突かれた!!」
大きな輪=棘輪に捕まったシュートレイは、相手の射程距離まで引きずられてしまった。
「悪く思わないでくださいね。自分たちも優勝したいのですから」
棘輪につながった鎖で、何回もシュートレイを地面に叩きつけるヤイバ。捕まったシュートレイはこの攻撃に対してなす術がなかった。
攻撃に耐えるシュートレイは、恒一に指示を仰いだ。
「隊長、脱出の指示を…」
しかし、恒一はこんな指示を出してきた。
「待て、このままの状態でいるんだ」
「でも、こんな状態では!」
「脱出できる機会を持つんだ。相手の攻撃に必ず隙ができるはずだ」
恒一は考えていた。いかにしてあの棘輪から逃れる事が出来るか…。
「おや、もう観念しましたか。それでは早いうちに止めを刺しましょうか」
ヤイバが破邪顕正をシュートレイ目がけて振り下ろす構えを取った。だが…。
「ヤイバ、相手の様子がおかしい。普通なら何らかの行動を起こすのに、それどころかこいつは微動だにしない。もう少し様子を見るんだ」
しかしこのとき、止めを刺すためにヤイバは棘輪の鎖を緩めてしまっていた。恒一はこの隙を見逃さなかった。
「今だシュートレイ、振りほどけ!」
「はい、隊長!!」
シュートレイは緩んだ棘輪からヒートナイフを一本犠牲にして振り解いた。そしてヤイバに蹴りを入れて射程距離から脱出した。
「しまった、逃げられたか」
オーナーの本田はそれを見て少しあせりを感じていた。
「ヤイバ、巨大独楽を射出する。それで相手を攻撃しろ」
「しかし、この試合でアレを使うのは…」
「一気に決着をつけるためだ。隙を見て相手の懐へ入れ」
ヤイバは無言でそれに従った。そして射出口から巨大な独楽が射出され、ヤイバの手に渡った。彼女は脇にあるスターターで独楽を回転させ、シュートレイ目がけて放った。
「なるほど、そんな切り札があったとはな。シュートレイ、こちらもサポートウエポンを射出する。これであの独楽を破壊するんだ」
「はい隊長」
反対側の射出口から神姫サイズのバイクらしきものが射出された。そう、これがさっき言っていた新装備なのだ。
「はっ!」
シュートレイはジャンプしてそのマシンに飛び乗った。背中のハンガーを介して固定されてライディングが完了した。
「新装備ガンクルーザーだ!シュートレイ、レーザーキャノン一斉発射!!」
シュートレイはクルーザーの装備されている二門のキャノンを発射した。しかし回転している巨大独楽はそれをはじいてしまった。
「こりゃ回転を止めないと破壊できないな。よしシュートレイ、ゴムミサイルで軸を固めるんだ」
「はい」
ミサイルを発射しようとしたその瞬間、クルーザーは別の場所から攻撃を受けてしまった。
「…余所見をしていると、あなたがやられますよ…」
いつの間にかヤイバが別の場所で攻撃してきたのだ。
「そういうことか、あの独楽は囮で、本体を至近距離に近づけるための陽動というわけだな。一杯食わされたな」
なおも攻撃の手を緩めないヤイバに対して、恒一はシュートレイにクルーザーから降りるように命令した。
「サポートマシンにも自己判断コンピュータが搭載されている。ここはクルーザーに任せてお前はヤイバと闘うんだ」
「分かりました」
シュートレイはクルーザーに搭載されている白兵戦用ソードを持ってヤイバに立ち向かっていった。
「接近戦で勝とうなんてあなたも甘いですね」
ヤイバは腰に差している刀を抜き、シュートレイに襲い掛かった。
「負けたくないのは私だって同じです!」
二人の剣は重なり合い、鍔せり合いの状態になった。そして、リングサイド近くで間合いをおいたかと思うと、そのまま動かなくなった。
「どうやら次の一撃で勝負が決まるな」
恒一は冷静に二人の闘いを眺めていた。一方本田は独楽の操作に手こずっているのか、ヤイバの方には見向きもしなかった。
『あの本田というオーナーは神姫を道具としてしか見ていないんじゃないのか…?そうじゃないとあんな態度をとるなんて事はしないはずだ』
本田は神姫に限らず、数々のロボットをパートナーにした経験がある。そのためにロボットを単なる道具としか見なくなってしまったんじゃないか…?そう思った恒一はシュートレイにある言葉をかけた。
「がんばれシュートレイ、俺が応援してるぞ!」
その言葉を聞いたシュートレイは、嬉しさのあまり目から涙を流してしまった。
『隊長が応援している…。私のために応援している…!』
「戦の間に涙…。あなたはどこまで甘いんですか?」
シュートレイの涙を見て、ヤイバはクスリと笑みを浮かばせた。しかしシュートレイはそれを否定した。
「これは悔しいから流したんじゃありません、私は、隊長に応援されて嬉しいんです!!」
「それが甘いって言ってるんですよ!」
先に動いたのはヤイバの方だった。彼女は二刀流でシュートレイに斬りかかった。
「今だシュートレイ、あれを使うんだ!」
恒一の指示に従い、シュートレイはグリップを握りしめた。するとソードの両サイドからビームの刃が出てヤイバの刀を一本折った。
「やりますね。しかし刀はもう一振りあるんですよ!」
体制を立ち直したヤイバは左側の脇差で再度シュートレイに斬りかかった。だがシュートレイはこれを紙一重で避け、ソードの先端のビームガンでヤイバの左肩を打ち抜いた。
「しまった!」
肩を打ちぬかれたヤイバは脇差を手放してしまい、衝撃でそのまま吹き飛ばされていった。
「すいません、主…」
リング外まで吹き飛ばされたヤイバは、場外の安全マットに沈んだ。
「リングアウト!ウィナー・シュートレイ!!」
その瞬間、歓声が湧きあがりシュートレイコールが響きあがった。シュートレイは勝ち進む事が出来たのだ。
「やったなシュートレイ、これで白銀の騎士と闘えるぞ!!」
シュートレイはマットに沈んだヤイバを見た。しかし彼女はピクリとも動かなかった。
そしてオーナーの本田がヤイバの側までやってきた。
「お前、どうして負けたんだ?この日のためにお前を育ててきたのに…。どういうことなんだ?」
本田はヤイバを拾い上げようともせずに彼女に問いただしていた。
「申し訳ありません、自分が油断したせいです。この次こそは…」
「この次だと?この試合の勝てなかったのなら、次などない」
本田はヤイバをその場に置いたまま立ち去ろうとした。それを見たシュートレイは本田の前に立ちはだかった。
「そんなのひどいじゃないですか!あの子だって一生懸命がんばったんですよ?あなたのためを思って闘ったんですよ?」
「それがどうした、私は優勝以外に興味はない」
後から駆けつけた恒一も、本田に対して反論した。
「あんたは今までパートナーに何をしてきたんだ?負けたり壊れたりしたら新しいパートナーに変えてあんたは満足かも知れない。だがな、パートナー自身の気持ちをこれっぽっちも分かろうとしないなんて、オーナー失格だ。あんたにパートナーを持つ資格なんてないよ」
本田を睨みつける恒一。しかしそこへ怪我をおしてヤイバが二人の間に割って入ってきた。
「主を馬鹿にするのは止めてください。主がどんなに辛いのかは自分はよく分かっています。同じサークルの仲間が色々な大会で優勝していたのに対して、主はずっと負け続けていましたから。だから主は自分に望みをかけていたんです。この大会に優勝すれば同僚に認めてもらえる、そう信じて闘い続けてきましたから…」
ヤイバの言葉に、本田は我に帰った。
「そうか、お前は知っていたんだな。私が何回もパートナーを変える訳も、なぜ勝利にこだわっていた訳も…」
そして彼は怪我をしているヤイバをそっと抱き上げた。
「すまなかった、今までお前を道具扱いしたのは、ただ優勝したかっただけなんだ。乱暴な事を言ってしまって本当にごめんな」
「いいんです、自分はあなたの主なんですから。これからもあなたの主でいさせてください」
二人はそのまま舞台を去っていった。
「本田さんは怖かったんでしょうね。優勝できなかったらずっと笑われるんですから」
「でもパートナーを道具にするのはやっちゃいけないことだ。でも、もう心配ないようだな。今度会うことがあったら強くなってるだろうな」
恒一とシュートレイも自分の控え室に帰ることにした。
「さて、次はあの白銀の騎士・ヨツンへイムが相手だ。気を引き締めていくぞ!」
「はい、隊長!」
*後編へつづく
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*その名はシュートレイ 中編
ついに格闘トーナメントの日がやってきた。会場に集った参加者はいかにもベテランそうな人から一目で素人と分かる人まで色とりどりだった。もちろんこの中に恒一とシュートレイはいるのだ。
「いよいよこの日が来ましたね、隊長」
「まさかこんなに集るとは思わなかったぜ。とはいっても本当に強そうなのはそんなにいないみたいだがな」
開催式が終わり、トーナメントが開始した。本気でこの大会に参加してきたチームは次々と素人を打ち破り、次第に精鋭グループ勢がトーナメントに勝ち登っていった。
恒一とシュートレイもほとんど無名ながら次々とライバルを倒していき、ついに準決勝まで勝ち進んだ。
「地方大会でも強敵はいましたね」
「ああ、結構強かった相手もいたからな。でも、ここまで勝ち上がってきたんだ、後へは引けないさ」
勝ち残ったのは4チーム。本田清張とハウリンタイプで紅緒の鎧を纏った神姫『ヤイバ』、井上沙耶とマオチャオタイプでカンフースタイルの神姫『メイリン』、森芳治とアーンヴァルタイプでサイフォスの鎧を纏っている神姫『ヨツンヘイム』、そして恒一とシュートレイである。
トーナメントの組み合わせが発表された。沙耶&メイリンvs芳治&ヨツンヘイム、恒一&シュートレイvs本田&ヤイバの組み合わせになった。
「対戦相手はヤイバという奴か。ベスト4まで勝ち残った相手だからな、油断は禁物だぞ」
「はい、隊長。私たちの鉄壁のコンビネーションがあれば、どんな強敵でも負けません」
まず第一試合、メイリンvsヨツンヘイムの試合が始まった。軽快な動きで相手を翻弄するメイリンに対して、ヨツンヘイムはまったく動こうとしなかった。
「一体何を考えているんでしょうね」
試合を見て不安になるシュートレイ。しかし恒一は微動だにしないヨツンヘイムをじっと見ていた。
「ここから流れが変わるな」
「え?」
恒一の言うとおり、試合の流れが変わった。ヨツンヘイムが剣を鞘ごと抜き、一歩も動かずにメイリンの動きを止めたのだ。そしてオーナーの芳治が彼女に初めて指示を出した。
「ヨツン、メイリンの動きは見切ったな?」
「はい、主君。相手の動き、見切りました」
倒れこんだメイリンは再び立ち上がり、ヨツンに攻撃を仕掛けようとするが、素早い動きでヨツンは彼女の攻撃を避けていった。
「にゃ?あちしの猫拳が当たらないにゃ」
自分の動きを上回るヨツンに、メイリンはたじろいでいた。
「メイリン、後ろ!」
「にゃ?」
次の瞬間、メイリンは吹き飛ばされ、リングの外へはじき出されてしまった。
「リングアウト!ウィナー、ヨツンヘイム!!」
観客の歓声がワッと湧いた。その試合時間は僅か1分23秒。芳治・ヨツン側の計算された動きと攻撃が勝因だった。
「そんな…、さっきまでこっちが有利だったのに…。どうして…」
呆然と立ち尽くす沙耶に、芳治は誇らしげに言い放った。
「君の神姫の動きは単純だったよ。悔しかったらまたチャレンジするんだね」
悔しがる沙耶を横目に芳治は会場を後にした。
「あのヨツンヘイムという神姫、手ごわいですね」
「神姫もすごいが、あの森芳治というオーナーもかなりバトルに手馴れているな。あれはいくつもの修羅場をくぐっている戦い方だぜ」
控え室に去っていく芳治の後姿に、恒一は戦慄を感じていた。
第二試合前、シュートレイは恒一に試合の相手について話してみた。
「あのヤイバという神姫、ハウリンタイプなのに武者装備をしてるなんて、何かあるんでしょうか?」
「そうだな、あれは接近戦に特化してるタイプのようだな。遠距離に持ち込めば倒せない相手じゃない。それより問題なのはオーナーの本田だ。何せベスト4で唯一社会人のオーナーで、しかも神姫以外にも数々のロボットのオーナーを経験しているからな、かなりの試合経験がある。対するこっちは相手ほどの経験値はない。もしかしたらそこをついてくるかもしれないな」
「手慣れと言うわけですね。大丈夫でしょうか…」
心配しているシュートレイを恒一は彼女の頭を指で撫でてあげた。
「安心しろ、こっちにはそれをカバーする新装備があるんだ」
「え、新しい装備ですか?」
「ついさっき調整が終わったんだ。慣らし運転する暇がなかったからぶっつけ本番で導入しなくちゃいけないんだけどな」
恒一は調整が終わった装備をシュートレイに見せた。
「これは…」
「これがあれば鬼に金棒だろ?さ、がんばって優勝狙おうぜ」
再度シュートレイの頭を撫でる恒一。
「は、はい!」
「じゃ、もう時間だからリングに行くぞ」
恒一はシュートレイを肩に乗せ、装備を整備トランクに入れると、試合会場に向かった。
「第二試合、本田清治&ヤイバvs木野恒一&シュートレイ!各神姫、リングイン!」
いよいよ第二試合を始めるアナウンスが放送された。それに答えてそれぞれのオーナーが向かい合わせに席に座り、神姫をリングサイドに立たせる。そしてスタートの合図を緊張しながら待つのだ。
「シュートレイ、さっき言ったこと覚えてるな。あいつの間合いに近づくなよ」
「はい隊長。出来るだけ離れて攻撃します」
中距離用の装備をつけたシュートレイは静かに答えた。
「オーナーは神姫から離れて!それでは、バトル・スタート!!」
会場内に試合を告げるサウンドが響く。その瞬間、二人の神姫はバトルを開始した。
「ヤイバ、破邪顕正で相手を攻撃しろ」
「心得ました」
手に持った槍でシュートレイを攻撃しようとするヤイバ。しかし彼女は間合いを取りながらライフルを連射した。
「よし、この距離を保って攻撃を続けるんだ」
槍の射程距離外を保ちながらシュートレイの攻撃は続いた。だが相手は余裕を見せて槍をついてくるのだった。
『おかしい、どうしてあんな攻撃しかしないんだ?いくら槍を使ってもライフルの射程距離には届かないはずだ。なのに槍だけで攻撃を続けている。一体なにをたくらんでるんだ?…まさか!』
恒一が相手の動きの意味をしたそのとき、ヤイバの左手から何かがシュートレイに向かって投げられた。
「しまった、逃げろ、シュートレイ!」
しかしその瞬間、シュートレイは大きな輪に捕まってしまった。
「そうか、あの攻撃はけん制だったのか!裏を突かれた!!」
大きな輪=棘輪に捕まったシュートレイは、相手の射程距離まで引きずられてしまった。
「悪く思わないでくださいね。自分たちも優勝したいのですから」
棘輪につながった鎖で、何回もシュートレイを地面に叩きつけるヤイバ。捕まったシュートレイはこの攻撃に対してなす術がなかった。
攻撃に耐えるシュートレイは、恒一に指示を仰いだ。
「隊長、脱出の指示を…」
しかし、恒一はこんな指示を出してきた。
「待て、このままの状態でいるんだ」
「でも、こんな状態では!」
「脱出できる機会を持つんだ。相手の攻撃に必ず隙ができるはずだ」
恒一は考えていた。いかにしてあの棘輪から逃れる事が出来るか…。
「おや、もう観念しましたか。それでは早いうちに止めを刺しましょうか」
ヤイバが破邪顕正をシュートレイ目がけて振り下ろす構えを取った。だが…。
「ヤイバ、相手の様子がおかしい。普通なら何らかの行動を起こすのに、それどころかこいつは微動だにしない。もう少し様子を見るんだ」
しかしこのとき、止めを刺すためにヤイバは棘輪の鎖を緩めてしまっていた。恒一はこの隙を見逃さなかった。
「今だシュートレイ、振りほどけ!」
「はい、隊長!!」
シュートレイは緩んだ棘輪からヒートナイフを一本犠牲にして振り解いた。そしてヤイバに蹴りを入れて射程距離から脱出した。
「しまった、逃げられたか」
オーナーの本田はそれを見て少しあせりを感じていた。
「ヤイバ、巨大独楽を射出する。それで相手を攻撃しろ」
「しかし、この試合でアレを使うのは…」
「一気に決着をつけるためだ。隙を見て相手の懐へ入れ」
ヤイバは無言でそれに従った。そして射出口から巨大な独楽が射出され、ヤイバの手に渡った。彼女は脇にあるスターターで独楽を回転させ、シュートレイ目がけて放った。
「なるほど、そんな切り札があったとはな。シュートレイ、こちらもサポートウエポンを射出する。これであの独楽を破壊するんだ」
「はい隊長」
反対側の射出口から神姫サイズのバイクらしきものが射出された。そう、これがさっき言っていた新装備なのだ。
「はっ!」
シュートレイはジャンプしてそのマシンに飛び乗った。背中のハンガーを介して固定されてライディングが完了した。
「新装備ガンクルーザーだ!シュートレイ、レーザーキャノン一斉発射!!」
シュートレイはクルーザーの装備されている二門のキャノンを発射した。しかし回転している巨大独楽はそれをはじいてしまった。
「こりゃ回転を止めないと破壊できないな。よしシュートレイ、ゴムミサイルで軸を固めるんだ」
「はい」
ミサイルを発射しようとしたその瞬間、クルーザーは別の場所から攻撃を受けてしまった。
「…余所見をしていると、あなたがやられますよ…」
いつの間にかヤイバが別の場所で攻撃してきたのだ。
「そういうことか、あの独楽は囮で、本体を至近距離に近づけるための陽動というわけだな。一杯食わされたな」
なおも攻撃の手を緩めないヤイバに対して、恒一はシュートレイにクルーザーから降りるように命令した。
「サポートマシンには自己判断コンピュータが搭載されている。ここはクルーザーに任せてお前はヤイバと闘うんだ」
「分かりました」
シュートレイはクルーザーに搭載されている白兵戦用ソード『ムラサメディバイダー』を持ってヤイバに立ち向かっていった。
「接近戦で勝とうなんてあなたも甘いですね」
ヤイバは腰に差している刀を抜き、シュートレイに襲い掛かった。
「負けたくないのは私だって同じです!」
二人の剣は重なり合い、鍔せり合いの状態になった。そして、リングサイド近くで間合いをおいたかと思うと、そのまま動かなくなった。
「どうやら次の一撃で勝負が決まるな」
恒一は冷静に二人の闘いを眺めていた。一方本田は独楽の操作に手こずっているのか、ヤイバの方には見向きもしなかった。
『あの本田というオーナーは神姫を道具としてしか見ていないんじゃないのか…?そうじゃないとあんな態度をとるなんて事はしないはずだ』
本田は神姫に限らず、数々のロボットをパートナーにした経験がある。そのためにロボットを単なる道具としか見なくなってしまったんじゃないか…?そう思った恒一はシュートレイにある言葉をかけた。
「がんばれシュートレイ、俺が応援してるぞ!」
その言葉を聞いたシュートレイは、嬉しさのあまり目から涙を流してしまった。
『隊長が応援している…。私のために応援している…!』
「戦の間に涙…。あなたはどこまで甘いんですか?」
シュートレイの涙を見て、ヤイバはクスリと笑みを浮かばせた。しかしシュートレイはそれを否定した。
「これは悲しいから流したんじゃありません。私は隊長に応援されて嬉しいから流したんです!!」
「それが甘いって言ってるんですよ!」
先に動いたのはヤイバの方だった。彼女は二刀流でシュートレイに斬りかかった。
「今だシュートレイ、あれを使うんだ!」
恒一の指示に従い、シュートレイはグリップを握りしめた。するとソードの両サイドからビームの刃が出てヤイバの刀を一本折った。
「やりますね。しかし刀はもう一振りあるんですよ!」
体制を立ち直したヤイバは左側の脇差で再度シュートレイに斬りかかった。だがシュートレイはこれを紙一重で避け、ソードの先端のビームガンでヤイバの左肩を打ち抜いた。
「しまった!」
肩を打ちぬかれたヤイバは脇差を手放してしまい、衝撃でそのまま吹き飛ばされていった。
「すいません、主…」
リング外まで吹き飛ばされたヤイバは、場外の安全マットに沈んだ。
「リングアウト!ウィナー・シュートレイ!!」
その瞬間、歓声が湧きあがりシュートレイコールが響きあがった。シュートレイは勝ち進む事が出来たのだ。
「やったなシュートレイ、これで白銀の騎士と闘えるぞ!!」
シュートレイはマットに沈んだヤイバを見た。しかし彼女はピクリとも動かなかった。
そしてオーナーの本田がヤイバの側までやってきた。
「お前、どうして負けたんだ?この日のためにお前を育ててきたのに…。どういうことなんだ?」
本田はヤイバを拾い上げようともせずに彼女に問いただしていた。
「申し訳ありません、自分が油断したせいです。この次こそは…」
「この次だと?この試合に勝てなかったのなら、次などない」
本田はヤイバをその場に置いたまま立ち去ろうとした。それを見たシュートレイは本田の前に立ちはだかった。
「そんなのひどいじゃないですか!あの子だって一生懸命がんばったんですよ?あなたのためを思って闘ったんですよ?」
「それがどうした、私は優勝以外に興味はない」
後から駆けつけた恒一も、本田に対して反論した。
「あんたは今までパートナーに何をしてきたんだ?負けたり壊れたりしたら新しいパートナーに変えてあんたは満足かも知れない。だがな、パートナー自身の気持ちをこれっぽっちも分かろうとしないなんて、オーナー失格だ。あんたにパートナーを持つ資格なんてないよ」
本田を睨みつける恒一。しかしそこへ怪我をおしてヤイバが二人の間に割って入ってきた。
「主を馬鹿にするのは止めてください。主がどんなに辛いのかは自分はよく分かっています。同じサークルの仲間が色々な大会で優勝していたのに対して、主はずっと負け続けていましたから。だから主は自分に望みをかけていたんです。この大会に優勝すれば同僚に認めてもらえる、そう信じて闘い続けてきましたから…」
ヤイバの言葉に、本田は自分の本心に気付いた。
「そうか、お前は知っていたんだな。私が何回もパートナーを変える訳も、勝利にこだわっていた訳も…」
そして彼は怪我をしているヤイバをそっと抱き上げた。
「すまなかった、今までお前を道具扱いしたのは、ただ優勝したかっただけなんだ。乱暴な事を言ってしまって本当にごめんな」
「いいんです、自分はあなたの主なんですから。これからもあなたの主でいさせてください」
二人はそのまま舞台を去っていった。
「本田さんは怖かったんでしょうね。優勝できなかったらずっと笑われるんですから」
「でもパートナーを道具にするのはやっちゃいけないことだ。でも、もう心配ないようだな。今度会うことがあったらきっと本物のコンビになってるだろうな」
恒一とシュートレイも自分の控え室に帰ることにした。
「さて、次はあの白銀の騎士・ヨツンへイムが相手だ。気を引き締めていくぞ!」
「はい、隊長!」
*後編へつづく
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