「妄想神姫:第六章」(2007/01/22 (月) 22:56:51) の最新版変更点
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**世に一人しかいない、あなただから
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エルゴから帰ってきた私達は、シャッターの前で待っていた常連客の
応対を終えて、預かった“ツガルタイプオプション付きハウリン”の
チェックをしている。研鑽中の情報処理技術も総動員しての作業だ。
その傍らでは私服のロッテが心配そうに、眠る神姫を見つめている。
ちなみにこの神姫、昨日買われていったばかりなのだが、有無……。
「ふむ。むぐ……むむ、これはどうにも深刻かもしれんな」
「マイスター。この娘は治せませんの?火器管制システム」
「うむ。論文で読んだ事も、日暮に聞いた事もあるのだが」
「だが~……?だがってどの事なんですの、マイスター?」
「所謂あれだ、“ワン・オブ・サウザンド”という奴だよ」
銃器職人の伝説であるそれは、千挺に1つの偶然の産物を意味する。
微細な部品加工時のミスや、手作業による部品同士の相性。これらの
様々な偶然により、量産品にも拘わらず通常を凌駕する性能を持った
“神様の贈り物”の一挺を“ワン・オブ・サウザンド”と呼ぶのだ。
マイスター(職人)と名乗るなら、他業種の職人に関する伝説も必須!
「論文は、神姫版“ワン・オブ・サウザンド”の存在を示唆し」
「で、日暮さんはその証言をしてくれた、という事ですの~?」
「うむ、なかなか理解が早いなロッテ。流石私の“妹”だッ!」
「えへへ~……で、えと。そうなると、この娘がソレですの?」
私は肯くしかなかった。神姫版のそれは“オーバーロード”と言われ、
CSCとコアの相性による後天性と、部品加工の段階で起こる先天性の
二種類を持つという。だが、どうもこの娘は……両方に該当する様だ。
しかも“オーバーロード”は、良い事ばかりの当たりクジ等ではない。
“ワン・オブ・サウザンド”は持ち主に不幸をもたらしたと言うが……
“オーバーロード”は知性を持つ神姫自身に、多大な不幸をもたらす。
「この娘の場合は、火器管制システムが別系統に宛われている様だ」
「別系統……それってなんですの?ひょっとして白兵機能ですの?」
「わからんが、それはないな。駆動系の出力効率もどうも鈍い……」
私もロッテも、言葉がない。何せ現状では、バトルに出られないのだ。
ツガルタイプオプションの長所である射撃装備は現状では煙も出ぬし、
かといって白兵装備を握っても、このままでは押し切られて敗北……。
初めからバトルを無視するユーザーには何でもない話なのだが、今回は
バトルを好む常連だけに、この“初期不良”は参っている様子だった。
一応はこの“ALChemist”も販売店である故、既に交換に応じている。
「マイスター……このままじゃこの娘は、どうなっちゃいますの?」
「返品してしまえば、パーツレベルで解体されてリサイクル……か」
「そんなの、そんなの可哀想ですの!産まれてきただけなのにっ!」
「無論!“HOS”系のソフトを使えば問題は防げるが、それもな」
「ああいうのを使うのも、なんだか可哀想ですの……人形みたいで」
ロッテの言葉を滑稽と思うか?だが彼女らは、既に人間と変わらぬ。
無機物の15cmにも満たない躯とは言え、人と同じ思考ができるのだ。
そして“プロテクト”を外された彼女らは、自由な心さえ確立する!
そんな彼女らを“人形”と嘲笑できる奴こそ、既に人ではないッ!!
……少し熱くなったがともかく、私達に返品する気はなかった訳だ。
動きを画一化する市販の戦闘制御プログラムも、無論考慮にはない。
「うむ……“HOS”自身は、事件とその後の風評被害もあるし」
「マイスターなら、きっとその辺もなんとか自作しちゃいますの」
「……そこまで読んでいたかロッテよ、この娘は本当に良い娘だ」
「だって、どうなってもわたしはマイスターの“妹”ですの~♪」
正規品をそのまま使うのは、余程の事がなければ私はしない性格だ。
だが、彼女に出来る事は何か?それを掴まなければ、何も始まらぬ。
だからこそ私は荷札を書き始める。宛先は……株式会社東杜田技研。
もう片手では“Dr.CTa”宛てのメールを入力する。とどのつまりは、
彼女らに解析を依頼するのだ──この“オーバーロード”の正体を。
「そう言えば、この娘はマスター登録されちゃいましたの?」
「一度な。だが交換の段階で停止し、正規手順で解除したよ」
「それならこの娘は、私の妹かお姉ちゃんになりますの~♪」
まあ自然とそうなるだろう。返品もせず元のオーナーの所にも帰れぬ。
となれば居場所は、他に引き取り手がなければここ以外にはないのだ。
しかも“オーバーロード”……未来を考えれば、ずっと面倒を見たい。
傲慢かもしれぬが、神姫に関わる私だからこそ出来る……最善の手だ。
「ではロッテと同じ様に、この娘にも名前を与えねばならぬな」
「はいですのっ!お店から一文字もらって“クララ”とか……」
「クララか。有無、良い名前だ。戻ってきたら、呼んでやろう」
「了解ですの♪クララ、もう暫く我慢してくださいですの……」
……“ロッテ”も店名から拝借したのだが、彼女には後で説明するか。
ともあれ、私は眠っている“クララ”をそっと緩衝剤の上に横たえた。
傷が付かぬ様、布でくるんでやるのも忘れない。明日にでも発送だな。
結果として大損となったが、この際は儲けよりも私達の魂を尊重する!
「さてと……今度はロッテの番。エルゴで調整した“アレ”だ」
「はい♪早速プログラムを入れて、自己調整してみますのっ!」
「手塩に掛けて、お前を大事に育ててやるからな……ロッテよ」
「はいっ。今度からクララも一緒ですの、マイスター……ん♪」
「う゛……面と向かって言うな、不意打ちすりすりも禁止ッ!」
──────大事な大事な、私の“妹達”。願わくばずっと側に。
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