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そして、待ちに待った瞬間がやってきた。
サンタ型MMSツガルタイプ
《レッド・ホット・クリスマス》
シルヴィア
#center(){V.S.}
#right(){天使型MMSアーンヴァルタイプ
《ミラー・オブ・オーデアル》
マスターミラー}
#center(){ルール:セカンドリーグ基準
バトルフィールド「市街地」
GET READY?
3...
2...
1...
GO!}
ツガル武装で出撃するミラー。彼女は、最初から本気だ。
だが、望むところ。
「今日と言う今日は痛い目に合わせてあげるわ」
ミラーが飛ぶ。
シルヴィアもいつも通りスラスターを開放。
そう。特別な戦法なんて用意してない。いつも通りだ。
雪が降り積もる夜の市街地。同じシルエットのサンタ型と天使型が機動戦を開始した。
----
*ツガル戦術論:鏡の試練 後半6
----
>スクリーンに突然、おれの目を釘付けにする神姫が映しだされた。
>「《公式武装主義者(ノーマリズナー)》!?」
>公式武装を駆使し、自身が取り得る戦略の限りを尽くして戦う天使型。彼女のマスターの観察力は非常に高く、また彼女自身の何事にも諦めない闘志が時に大胆な戦略を実行させる。武装の着実さと戦略の大胆さを持ち合わせたアーンヴァル。そして、おれの、憧れの神姫だ。
>「まさか彼女のホームがこんな近場だったとは思わなかった」
>「ふむ、《公式武装主義者》のファンか?」
>「ファンも何も、彼女のバトル中継を観てその帰りにシルヴィアを購入したんだ。シルヴィの基本戦略は《公式武装主義者》を仮想敵として組み上げた。彼女のバトルデータからは学ぶ部分が多い」
>ほおう、と言う表情のマスターミラー。
>
>
>「お前は何故神姫と共に戦う?」
>出し抜けにミラーが尋ねてきた。
>「それは、ツガル武装の高性能を証明するためだ」
>「では私と《公式武装主義者》にバトルを申し込まないか? 私はシルヴィの戦術の総てをコピーしているぞ」
>「いいや、遠慮しておく。どんなにアイツの戦略を真似たって、心までは真似出来ないだろ」
>「ふん、やはりな。ツガル武装の神姫なら何でも良いと言う訳でなく、シルヴィアでなくてはいけないのだろう」
>ミラーは我が意を得たり、という表情。
>
>「お前がシルヴィアに対してどんな感情を抱いていようと、私には関係無い。だがパートナーと自分自身に嘘をついた心ではファーストリーグ入りや大会優勝など、ましてやツガル武装の性能の高さを証明するなど、どだい無理な話だ。お前に足りないのは覚悟だ」
>「覚悟、だと?」
>「そうとも。ここ三日間塞ぎ込んでいたのも、私に成すがままにやられるシルヴィアに対して何もしてやれなかった事が原因といった所だろう。好きな女を守ってやれなかったのがそんなに悔しかったか? それなのに変なプライドで「好きな女」と認識出来てないお前は思考の堂々巡りをしていたんだ。シルヴィアをゲームのキャラとしてでも扱っていたか。んん?」
>「神姫はマスターに服従するように出来ている。そんな神姫に好意を持っていたって、それに対するリアクションはフローチャートで導き出された模範解答だろう! それを好きだの愛してるだの言わずにゲーム上のパートナーとして扱って何がいけない」
>「我々には意思がある。人工的に与えられたものだが意思を持っている。現にお前と会話している私だってその意思で動いているんだ。意思と意思をぶつけ合うのがコミュニケーションだろう。お前には、自分の意思をシルヴィにぶつける覚悟も無いんだ」
>
>マスターミラーの指摘は実のところ的を射ている。今までおれはシルヴィアと一線を引いて付き合ってきた。神姫は、あくまで機械だ。人為的に操作された意思を持って動作しているんだ。そんな人形は『個人』とは呼べないのではないか。そんな人形に好意を抱くのは独り善がりではないか。何より、もしも意思があったとしても、不器用な自分では彼女と付き合うに値しない。と、こうも考えていた。どちらに転んでもシルヴィアとは一線を引いて付き合わざるを得ないと思っていたのだ。
>「違う! 違うさ。ただおれは、おれの意思でシルヴィアを縛り付けるのが恐いだけだ……」
>
>
>「それは違うぞ青年!」
>
>おれを一喝する熱い怒号。誰だ!?
>「ホビーショップエルゴが店長、日暮夏彦だ!」
>底抜けに爽やかな笑顔。身体に芯が通るような熱い声。暑苦しいまでのハイテンション。狂気の店の経営者、オタクのサラブレッド、日暮夏彦ここにあり。
>「ミラーちゃんと一緒にいる、と言うことは。キミが《レッド・ホット・クリスマス》シルヴィアのマスターだね」
>店長の突然の出現に、おれは間抜けな肯定文を返す。
>「相手の意思を尊重するのは大切だ。だが、さらに一歩を踏み出す勇気も大切なんだよ。恋愛だってそうだ。相手の気持ちばかり考えてちゃ埒も無い。それは神姫に対する付き合い方でも同じさ。キミは「意思を縛り付けたくない」と言ったね。そうだ、彼女には意思があるんだ。少なくとも意思があるとキミは感じている。なら、結果を考えずに自分の意志をシルヴィアちゃんにぶつけてやればいいのさ! 大切なのは結果じゃない。その過程だ!」
>「でも、もしもおれの意思がシルヴィを傷つけたりしたら…」
>
>くわっ、と店長が叫ぶ。
>「若さってなんだ!?」
>「ふ、振り向かない事さ!」
>反射的に応えるおれ。
>
>
>そして、やわらかな表情で問う店長。
>「愛ってなんだ?」
>「躊躇わない事、さ」
>確信を持って応える、おれ。
>
>
>店長は無言で頷く。
>「彼女を信じてやり、そして彼女のありのままを受け止めてやるんだ。それだけで神姫は強くなる。それはマスターと神姫が最初に覚えるべき事であり、戦場では最強最後の戦力になり得る。彼女を、信じてやれ」
>
>そう言って一階へと姿を消す店長。伝えたい事は総て伝えた。これ以上の言葉は必要無い。と言う背中をしていた。
>御影キョウジとマスターミラーは、おれの抱えるこの問題点を指摘するためにエルゴまで案内してきたのか。それ以前に、あの日申し込んできた対戦も、こうなる事を予測しての事だったのだろうか。
>今の会話は、バトルフロアの喧騒で離れて位置するシルヴィア達には届いてない雰囲気だった。
>
>
>店長の活がおれの意識を奮わせるのを感じる。
>「ありがとうミラー。いい店を紹介してくれて。ここのサービスは最高だよ」
>
>
>特別な戦法なんて必要無い。シルヴィアを信じて戦う。
>これこそがおれの打ち立てた新戦術だった。
----
シルヴィアとミラーのバトルは完璧な持久戦へともつれ込んでいた。遠距離で同時に同一の攻撃をし、近距離に寄ればブレードで切り結ぶ。離脱すればまた遠距離射撃。中距離での射撃は致命的な隙に繋がる危険性があるのでお互い控えている。「負けない戦法」がぶつかり合っているのだ。両者のダメージは同じペースで蓄積されて行く。こちらの戦術は完璧にコピーされている。流石は鏡を二つ名に冠するだけはある。だが生憎、幸運の女神はミラーの味方をしていた。シルヴィアのダメージのほうが若干、深刻だ。しかしそれでも諦めないシルヴィア。そして冷静な自分自身。最後の最後にチャンスがあるはずだ。その反撃の糸口をひたすら、じっと待つ。
あまりの長時間に及ぶ拮抗したバトルは試合会場の大型スクリーンにて中継され、何時の間にか全観客の注目となっていた。
だが、ここで再び幸運の女神が敵対する。
遠距離から両者、マグネティックランチャーを発射。お互いに盾で弾くが、シルヴィアの背後に建築物が存在したのは不運だった。跳弾した弾が壁面に炸裂。飛び散る破片でダメージを負い、シルヴィアは崩壊する建物の瓦礫に飲み込まれた。
ミラーはこれを追撃せず、シルヴィアを確認するまで静観する構えであった。一瞬の隙も晒す気は無いらしい。
万事休す、か。
瓦礫に埋もれるシルヴィアの反応は、まだロストしていない。おれはシルヴィアの名を呼びつづける。まだ諦めてたまるか!
… … … 。
一瞬、意識が途切れたのを明確に感じていた。
各種センサー、駆動系が速やかに復旧してゆく。
ダメージ確認。瓦礫に飲まれたらしいがボディに損傷は無し。頭部を強く打って一時的な接触不良を起こしたようだ。
だが先ほどの壁面破片のダメージは深刻だった。微々たる数値でも今回の戦闘では絶望的なダメージ。レディアントアームユニット、即ち背面武装ユニットの稼働率が若干下がっていた。
今回も負けちゃうのかな、私。
いいや、まだ負けるわけにいかない。身体が動かなくなる瞬間まで、絶対に諦めない。
憧れの《公式武装主義者》のバトルを観て、そう決めたじゃないか!
ああ、でも、私の心は折れかけている。
立ち上がろうにも手が雪にぬれて、瓦礫の頂を掴もうにも滑ってしまう。
マスター、助けて。ただ一言、私の魂を震わせる言葉が欲しい。
あなたの言葉が。
… … … 。
シルヴィ
マスター?
「シルヴィ!」
マスター!?
「シルヴィア!!」
「そうだ、おれの意思を総てお前にぶつけてやる。シルヴィア! ずっとお前が好きだった!好きなんてもんじゃない! お前の事は全部抱き締めてやりたいんだ! 購入したときから、いや、購入する前から好きだったんだ! 店頭でお前を見たときから、おれの心はお前の虜になってしまったんだ。好きだって事を、愛してるって事を、今のお前に伝えたい! シルヴィア、お前を、愛しているんだよ! シルヴィアを付け狙う恋敵がいたらおれが相手になってやる! 御影、貴様がシルヴィをデートに誘ったときはよっぽど張り倒してやろうと思ったが、今、ここで、ミラーを張り倒してやる! シルヴィ! お前が望むのならおれの足を開いたり閉じたり、お前に対してパカパカしてやってもいい! だからシルヴィア、立ち上がれえぇぇぇぇ!」
「マスター!」
シルヴィア、起立。
マスターはさらに続ける。
「シルヴィア! 今までツガルのために戦ってきたなんて言ってたが、あれは全部大嘘だ。総ての戦術、総ての戦略はお前自身のために。おれはそんな事を言うのが恥ずかしかったダメなマスターさ。だが今はお前を尊重する。どうかおれの戦術を忘れて自由に戦ってくれ」
「それは出来ない。何故なら私は私の意思でマスターの戦術を選ぶから。マスターの作った戦術を、マスターが私のために編み出した戦略を、この身で駆使して勝ち抜きたいから!」
「シルヴィア!」
「マスター、一つだけお願いがあります。貴方を名前で呼ばせてください」
「…いい事を教えてやる。おれの名前は知ってるよな?」
「ええ、『たつひと』」
「漢字で書くと『達人』、つまり『マスター』になる。ガキの頃のあだ名だ」
…マスター。
「シルヴィア!」
「マスター!」
「シルヴィア!」
「マスター!」
&size(1.5em){「シルヴィア!」}
&size(1.5em){「マスター!」}
&size(1.5em){「シルヴィア!」}
&size(1.5em){「マスター!」}
&size(2em){「シルヴィア!」}
&size(2em){「マスター!」}
&size(2em){「シルヴィア!」}
&size(2em){「マスター!」}
&size(2.5em){「シルヴィア!」}
&size(2.5em){「マスター!」}
&size(4em){「シルヴィア!」}
&size(4em){「マスター!」}
おれはパネルの拡張ポートにモバイルを接続、即席の戦術をパッキング。シルヴィアに転送。
&size(3em){「シルヴィア、突き抜けてこいィ!」}
&size(3em){「おおう!」}
シルヴィア、完全復活!
迎撃体制のマスターミラー。
すぐさま即席戦術を実行に移すシルヴィ。マグネティックランチャー、低速連射モード。足元からミラーの距離まで地面に連射する。えぐり込まれた質量弾で積雪が舞い上がる。シルヴィアからミラーまで続く雪の煙幕。ここを最短距離で突っ切り攻撃する。もちろん相手はそれを見越して煙幕にマグネティックランチャーを打ち込んでくるだろう。その裏をかく。
すべての武装を切り離し、瞬時にソリ状のキャリアに再構築する。ツガルの変形モードは高い機動力と運動性を誇るが、反面、素体の装備をすべて切り離してしまう事から素体の攻撃力と防御力が激減する。一般のバトルで使う事は躊躇われる機構だ。だが今、ここで使わねば何時使うッ!
「レインディア・バスター!」
スロットル、フルマキシマム。限界出力。舞い上がる雪の煙幕の上を滑るように機動。
読みどおり煙幕の中を素通りする敵の高速質量弾。高速貫通弾の再発射まで時間がある。そこに、レインディアバスターを特攻させる!
直撃すれば必殺の質量。ライフルやフォービドブレイドでの迎撃は不可能。迂闊に回避すれば背後からレインディアバスターの装備するマグネティックランチャーで狙い撃ち。シルヴィアの決死の必殺技、回避は困難。
だが《ミラー・オブ・オーデアル》はどこまでも冷静だった。ミラーも武装を切り離しレインディアバスターに変形、特攻させ、こちらの特攻を相殺した。衝突の衝撃により弾け飛ぶ両者のレインディアバスター。二機のキャリアはそのまま上空へ飛翔。ドッグファイトを展開する。
レインディアバスターから飛び降りたシルヴィアはその慣性を殺さずミラーとの格闘の間合いに飛び込み、スピードを乗せたボディブローを敵の胸部に叩き込む。だがミラーも同時にボディブローを放ち、シルヴィアの運動エネルギーはお互いのダメージへと変換された。息が詰まる衝撃。だがシルヴィアは怯まず二手、三手とボディブローを連打。それに合わせてミラーも同様の反撃を繰り出し、両者のダメージは急激に跳ね上がる。シルヴィア、力を込めて敵顔面を一撃。ミラーも同じタイミングで、同じ部位に同じ反撃。よろめき、開く両者の間合い。すかさずハイキック。二人同時に身体をひねり繰り出されたハイキックは両者の頭部に吸い込まれ、二人同時にその場に崩れ落ちた。
ジャッジAIが作動しない。二人はまだロストしていないのだ。だがお互い意識を失っている。
神姫が意識を失えば、例えロストしなくてもその神姫の敗北となる。だがこの場合は、先に意識を取り戻し立ち上がったほうが勝利すると言う例外ルールが適用される。
おれに出来る事は、シルヴィアを信じてやる事だけだ。シルヴィアを、信じる。
果たして、先に立ち上がったのはミラーだった。続いて立ち上がるシルヴィア。
二人とも満身創痍で立つのがやっと、と言う有様だったが、互いにファイティングポーズを取る。
今の二人を支えているのは精神力とか根性とか、そんな物ではない。二人に宿る『意思』が、限界を迎えた身体を突き動かしていた。
ゆっくりと振りかぶるシルヴィア。全く同じ動きをするミラー。放たれた緩慢なパンチは、お互いの頬を撫でて、そして。
ミラーが崩れ落ちた。前のめり。
ダウンしたミラーのロストが始まる。最後に受けたダメージがゆっくりと身体を分解してゆくように。
シルヴィアは最後まで立っていた。ミラーの身体が完全にロストするまで。
だが、ジャッジAIは何時までたってもシルヴィアの勝利を宣言しない。
……まさか!?
おれはパネルを操作しサブモニターにシルヴィアのバイタルデータを表示する。
どのデータも、完璧な水平線。
すぐさまシルヴィアを仮想空間から強制的に呼び戻す操作を繰り返す。同時にインカムをひったくりメンテナンススタッフを呼ぶよう要請。
馬鹿野郎。勝ち上がっても死んだら元も子も無いだろう。何度も強制呼び出しをかけるが一向に応答が無い。
やがて技術スタッフが到着し、シルヴィアのサルベージに成功。
そのまま神姫の緊急メンテナンスルームへ移送された。
----
メンテナンスルームの前には既に御影キョウジがたたずんでいた。マスターミラーのデータ損傷も激しく、二人揃ってメンテナンスルームに担ぎこまれたのだ。
「御影、おれたちは…… おれたちは」
「大丈夫、信じなよ。二人は強い子だからね」
「……ああ。ああ。」
おれたちはメンテナンスルームの前で、待ち続けた。
#center(){続く}
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そして、待ちに待った瞬間がやってきた。
サンタ型MMSツガルタイプ
《レッド・ホット・クリスマス》
シルヴィア
#center(){V.S.}
#right(){天使型MMSアーンヴァルタイプ
《ミラー・オブ・オーデアル》
マスターミラー}
#center(){ルール:セカンドリーグ基準
バトルフィールド「市街地」
GET READY?
3...
2...
1...
GO!}
ツガル武装で出撃するミラー。彼女は、最初から本気だ。
だが、望むところ。
「今日と言う今日は痛い目に合わせてあげるわ」
ミラーが飛ぶ。
シルヴィアもいつも通りスラスターを開放。
そう。特別な戦法なんて用意してない。いつも通りだ。
雪が降り積もる夜の市街地。同じシルエットのサンタ型と天使型が機動戦を開始した。
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*ツガル戦術論:鏡の試練 後半6
----
>スクリーンに突然、おれの目を釘付けにする神姫が映しだされた。
>「《公式武装主義者(ノーマリズナー)》!?」
>公式武装を駆使し、自身が取り得る戦略の限りを尽くして戦う天使型。彼女のマスターの観察力は非常に高く、また彼女自身の何事にも諦めない闘志が時に大胆な戦略を実行させる。武装の着実さと戦略の大胆さを持ち合わせたアーンヴァル。そして、おれの、憧れの神姫だ。
>「まさか彼女のホームがこんな近場だったとは思わなかった」
>「ふむ、《公式武装主義者》のファンか?」
>「ファンも何も、彼女のバトル中継を観てその帰りにシルヴィアを購入したんだ。シルヴィの基本戦略は《公式武装主義者》を仮想敵として組み上げた。彼女のバトルデータからは学ぶ部分が多い」
>ほおう、と言う表情のマスターミラー。
>
>
>「お前は何故神姫と共に戦う?」
>出し抜けにミラーが尋ねてきた。
>「それは、ツガル武装の高性能を証明するためだ」
>「では私と《公式武装主義者》にバトルを申し込まないか? 私はシルヴィの戦術の総てをコピーしているぞ」
>「いいや、遠慮しておく。どんなにアイツの戦略を真似たって、心までは真似出来ないだろ」
>「ふん、やはりな。ツガル武装の神姫なら何でも良いと言う訳でなく、シルヴィアでなくてはいけないのだろう」
>ミラーは我が意を得たり、という表情。
>
>「お前がシルヴィアに対してどんな感情を抱いていようと、私には関係無い。だがパートナーと自分自身に嘘をついた心ではファーストリーグ入りや大会優勝など、ましてやツガル武装の性能の高さを証明するなど、どだい無理な話だ。お前に足りないのは覚悟だ」
>「覚悟、だと?」
>「そうとも。ここ三日間塞ぎ込んでいたのも、私に成すがままにやられるシルヴィアに対して何もしてやれなかった事が原因といった所だろう。好きな女を守ってやれなかったのがそんなに悔しかったか? それなのに変なプライドで「好きな女」と認識出来てないお前は思考の堂々巡りをしていたんだ。シルヴィアをゲームのキャラとしてでも扱っていたか。んん?」
>「神姫はマスターに服従するように出来ている。そんな神姫に好意を持っていたって、それに対するリアクションはフローチャートで導き出された模範解答だろう! それを好きだの愛してるだの言わずにゲーム上のパートナーとして扱って何がいけない」
>「我々には意思がある。人工的に与えられたものだが意思を持っている。現にお前と会話している私だってその意思で動いているんだ。意思と意思をぶつけ合うのがコミュニケーションだろう。お前には、自分の意思をシルヴィにぶつける覚悟も無いんだ」
>
>マスターミラーの指摘は実のところ的を射ている。今までおれはシルヴィアと一線を引いて付き合ってきた。神姫は、あくまで機械だ。人為的に操作された意思を持って動作しているんだ。そんな人形は『個人』とは呼べないのではないか。そんな人形に好意を抱くのは独り善がりではないか。何より、もしも意思があったとしても、不器用な自分では彼女と付き合うに値しない。と、こうも考えていた。どちらに転んでもシルヴィアとは一線を引いて付き合わざるを得ないと思っていたのだ。
>「違う! 違うさ。ただおれは、おれの意思でシルヴィアを縛り付けるのが恐いだけだ……」
>
>
>「それは違うぞ青年!」
>
>おれを一喝する熱い怒号。誰だ!?
>「ホビーショップエルゴが店長、日暮夏彦だ!」
>底抜けに爽やかな笑顔。身体に芯が通るような熱い声。暑苦しいまでのハイテンション。狂気の店の経営者、オタクのサラブレッド、日暮夏彦ここにあり。
>「ミラーちゃんと一緒にいる、と言うことは。キミが《レッド・ホット・クリスマス》シルヴィアのマスターだね」
>店長の突然の出現に、おれは間抜けな肯定文を返す。
>「相手の意思を尊重するのは大切だ。だが、さらに一歩を踏み出す勇気も大切なんだよ。恋愛だってそうだ。相手の気持ちばかり考えてちゃ埒も無い。それは神姫に対する付き合い方でも同じさ。キミは「意思を縛り付けたくない」と言ったね。そうだ、彼女には意思があるんだ。少なくとも意思があるとキミは感じている。なら、結果を考えずに自分の意志をシルヴィアちゃんにぶつけてやればいいのさ! 大切なのは結果じゃない。その過程だ!」
>「でも、もしもおれの意思がシルヴィを傷つけたりしたら…」
>
>くわっ、と店長が叫ぶ。
>「若さってなんだ!?」
>「ふ、振り向かない事さ!」
>反射的に応えるおれ。
>
>
>そして、やわらかな表情で問う店長。
>「愛ってなんだ?」
>「躊躇わない事、さ」
>確信を持って応える、おれ。
>
>
>店長は無言で頷く。
>「彼女を信じてやり、そして彼女のありのままを受け止めてやるんだ。それだけで神姫は強くなる。それはマスターと神姫が最初に覚えるべき事であり、戦場では最強最後の戦力になり得る。彼女を、信じてやれ」
>
>そう言って一階へと姿を消す店長。伝えたい事は総て伝えた。これ以上の言葉は必要無い。と言う背中をしていた。
>御影キョウジとマスターミラーは、おれの抱えるこの問題点を指摘するためにエルゴまで案内してきたのか。それ以前に、あの日申し込んできた対戦も、こうなる事を予測しての事だったのだろうか。
>今の会話は、バトルフロアの喧騒で離れて位置するシルヴィア達には届いてない雰囲気だった。
>
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>店長の活がおれの意識を奮わせるのを感じる。
>「ありがとうミラー。いい店を紹介してくれて。ここのサービスは最高だよ」
>
>
>特別な戦法なんて必要無い。シルヴィアを信じて戦う。
>これこそがおれの打ち立てた新戦術だった。
----
シルヴィアとミラーのバトルは完璧な持久戦へともつれ込んでいた。遠距離で同時に同一の攻撃をし、近距離に寄ればブレードで切り結ぶ。離脱すればまた遠距離射撃。中距離での射撃は致命的な隙に繋がる危険性があるのでお互い控えている。「負けない戦法」がぶつかり合っているのだ。両者のダメージは同じペースで蓄積されて行く。こちらの戦術は完璧にコピーされている。流石は鏡を二つ名に冠するだけはある。だが生憎、幸運の女神はミラーの味方をしていた。シルヴィアのダメージのほうが若干、深刻だ。しかしそれでも諦めないシルヴィア。そして冷静な自分自身。最後の最後にチャンスがあるはずだ。その反撃の糸口をひたすら、じっと待つ。
あまりの長時間に及ぶ拮抗したバトルは試合会場の大型スクリーンにて中継され、何時の間にか全観客の注目となっていた。
だが、ここで再び幸運の女神が敵対する。
遠距離から両者、マグネティックランチャーを発射。お互いに盾で弾くが、シルヴィアの背後に建築物が存在したのは不運だった。跳弾した弾が壁面に炸裂。飛び散る破片でダメージを負い、シルヴィアは崩壊する建物の瓦礫に飲み込まれた。
ミラーはこれを追撃せず、シルヴィアを確認するまで静観する構えであった。一瞬の隙も晒す気は無いらしい。
万事休す、か。
瓦礫に埋もれるシルヴィアの反応は、まだロストしていない。おれはシルヴィアの名を呼びつづける。まだ諦めてたまるか!
… … … 。
一瞬、意識が途切れたのを明確に感じていた。
各種センサー、駆動系が速やかに復旧してゆく。
ダメージ確認。瓦礫に飲まれたらしいがボディに損傷は無し。頭部を強く打って一時的な接触不良を起こしたようだ。
だが先ほどの壁面破片のダメージは深刻だった。微々たる数値でも今回の戦闘では絶望的なダメージ。レディアントアームユニット、即ち背面武装ユニットの稼働率が若干下がっていた。
今回も負けちゃうのかな、私。
いいや、まだ負けるわけにいかない。身体が動かなくなる瞬間まで、絶対に諦めない。
憧れの《公式武装主義者》のバトルを観て、そう決めたじゃないか!
ああ、でも、私の心は折れかけている。
立ち上がろうにも手が雪にぬれて、瓦礫の頂を掴もうにも滑ってしまう。
マスター、助けて。ただ一言、私の魂を震わせる言葉が欲しい。
あなたの言葉が。
… … … 。
シルヴィ
マスター?
「シルヴィ!」
マスター!?
「シルヴィア!!」
「そうだ、おれの意思を総てお前にぶつけてやる。シルヴィア! ずっとお前が好きだった!好きなんてもんじゃない! お前の事は全部抱き締めてやりたいんだ! 購入したときから、いや、購入する前から好きだったんだ! 店頭でお前を見たときから、おれの心はお前の虜になってしまったんだ。好きだって事を、愛してるって事を、今のお前に伝えたい! シルヴィア、お前を、愛しているんだよ! シルヴィアを付け狙う恋敵がいたらおれが相手になってやる! 御影、貴様がシルヴィをデートに誘ったときはよっぽど張り倒してやろうと思ったが、今、ここで、ミラーを張り倒してやる! シルヴィ! お前が望むのならおれの足を開いたり閉じたり、お前に対してパカパカしてやってもいい! だからシルヴィア、立ち上がれえぇぇぇぇ!」
「マスター!」
シルヴィア、起立。
マスターはさらに続ける。
「シルヴィア! 今までツガルのために戦ってきたなんて言ってたが、あれは全部大嘘だ。総ての戦術、総ての戦略はお前自身のために。おれはそんな事を言うのが恥ずかしかったダメなマスターさ。だが今はお前を尊重する。どうかおれの戦術を忘れて自由に戦ってくれ」
「それは出来ない。何故なら私は私の意思でマスターの戦術を選ぶから。マスターの作った戦術を、マスターが私のために編み出した戦略を、この身で駆使して勝ち抜きたいから!」
「シルヴィア!」
「マスター、一つだけお願いがあります。貴方を名前で呼ばせてください」
「…いい事を教えてやる。おれの名前は知ってるよな?」
「ええ、『たつひと』」
「漢字で書くと『達人』、つまり『マスター』になる。ガキの頃のあだ名だ」
…マスター。
「シルヴィア!」
「マスター!」
「シルヴィア!」
「マスター!」
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シルヴィア、完全復活!
迎撃体制のマスターミラー。
すぐさま即席戦術を実行に移すシルヴィ。マグネティックランチャー、低速連射モード。足元からミラーの距離まで地面に連射する。えぐり込まれた質量弾で積雪が舞い上がる。シルヴィアからミラーまで続く雪の煙幕。ここを最短距離で突っ切り攻撃する。もちろん相手はそれを見越して煙幕にマグネティックランチャーを打ち込んでくるだろう。その裏をかく。
すべての武装を切り離し、瞬時にソリ状のキャリアに再構築する。ツガルの変形モードは高い機動力と運動性を誇るが、反面、素体の装備をすべて切り離してしまう事から素体の攻撃力と防御力が激減する。一般のバトルで使う事は躊躇われる機構だ。だが今、ここで使わねば何時使うッ!
「レインディア・バスター!」
スロットル、フルマキシマム。限界出力。舞い上がる雪の煙幕の上を滑るように機動。
読みどおり煙幕の中を素通りする敵の高速質量弾。高速貫通弾の再発射まで時間がある。そこに、レインディアバスターを特攻させる!
直撃すれば必殺の質量。ライフルやフォービドブレイドでの迎撃は不可能。迂闊に回避すれば背後からレインディアバスターの装備するマグネティックランチャーで狙い撃ち。シルヴィアの決死の必殺技、回避は困難。
だが《ミラー・オブ・オーデアル》はどこまでも冷静だった。ミラーも武装を切り離しレインディアバスターに変形、特攻させ、こちらの特攻を相殺した。衝突の衝撃により弾け飛ぶ両者のレインディアバスター。二機のキャリアはそのまま上空へ飛翔。ドッグファイトを展開する。
レインディアバスターから飛び降りたシルヴィアはその慣性を殺さずミラーとの格闘の間合いに飛び込み、スピードを乗せたボディブローを敵の胸部に叩き込む。だがミラーも同時にボディブローを放ち、シルヴィアの運動エネルギーはお互いのダメージへと変換された。息が詰まる衝撃。だがシルヴィアは怯まず二手、三手とボディブローを連打。それに合わせてミラーも同様の反撃を繰り出し、両者のダメージは急激に跳ね上がる。シルヴィア、力を込めて敵顔面を一撃。ミラーも同じタイミングで、同じ部位に同じ反撃。よろめき、開く両者の間合い。すかさずハイキック。二人同時に身体をひねり繰り出されたハイキックは両者の頭部に吸い込まれ、二人同時にその場に崩れ落ちた。
ジャッジAIが作動しない。二人はまだロストしていないのだ。だがお互い意識を失っている。
神姫が意識を失えば、例えロストしなくてもその神姫の敗北となる。だがこの場合は、先に意識を取り戻し立ち上がったほうが勝利すると言う例外ルールが適用される。
おれに出来る事は、シルヴィアを信じてやる事だけだ。シルヴィアを、信じる。
果たして、先に立ち上がったのはミラーだった。続いて立ち上がるシルヴィア。
二人とも満身創痍で立つのがやっと、と言う有様だったが、互いにファイティングポーズを取る。
今の二人を支えているのは精神力とか根性とか、そんな物ではない。二人に宿る『意思』が、限界を迎えた身体を突き動かしていた。
ゆっくりと振りかぶるシルヴィア。全く同じ動きをするミラー。放たれた緩慢なパンチは、お互いの頬を撫でて、そして。
ミラーが崩れ落ちた。前のめり。
ダウンしたミラーのロストが始まる。最後に受けたダメージがゆっくりと身体を分解してゆくように。
シルヴィアは最後まで立っていた。ミラーの身体が完全にロストするまで。
だが、ジャッジAIは何時までたってもシルヴィアの勝利を宣言しない。
……まさか!?
おれはパネルを操作しサブモニターにシルヴィアのバイタルデータを表示する。
どのデータも、完璧な水平線。
アイツ、立ち往生を果たしやがった!
すぐさまシルヴィアを仮想空間から強制的に呼び戻す操作を繰り返す。同時にインカムをひったくりメンテナンススタッフを呼ぶよう要請。
馬鹿野郎。勝ち上がっても死んだら元も子も無いだろう。何度も強制呼び出しをかけるが一向に応答が無い。
やがて技術スタッフが到着し、シルヴィアのサルベージに成功。
そのまま神姫の緊急メンテナンスルームへ移送された。
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メンテナンスルームの前には既に御影キョウジがたたずんでいた。マスターミラーのデータ損傷も激しく、二人揃ってメンテナンスルームに担ぎこまれたのだ。
「御影、おれたちは…… おれたちは」
「大丈夫、信じなよ。二人は強い子だからね」
「……ああ。ああ。」
おれたちはメンテナンスルームの前で、待ち続けた。
#center(){続く}
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