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BGM:リン・ジャクソン(戦闘妖精雪風・オリジナルサウンドトラック1より)
*開催前夜
事前予告より二ヵ月後、2036年某月某日 2221時 ホビーショップ・エルゴ
二十二時の閉店直後からエルゴはいっそう騒がしくなった。
照明の落とされた売り場の奥の階段を上がった二階、武装神姫バトルスペースはまだ煌々と明かりが灯っており、壁一面に張られた「武装神姫大規模バトルイベント『ソラノカケラ』 ※協賛 ニャムコ」のポスターや、脇にどけられたバーチャルバトル機器が目に付く。こうしてみると意外にこの空間は広いことが分かる。
そんな中をせわしなく行ったり来たりする人影が三つ。正確に言うとうち二人は人間ではない。エルゴの若店長、日暮夏彦と、違法の人間サイズボディに乗り換えているジェニー、そして同じく人間ボディのラストである。
彼らは登録された人数分の特設バトルスペースの設営に追われていた。何の特設かと言えばもちろん、壁のポスターで大々的に宣伝されている明日のバトルイベントのものである。
直接ネットワークに繋げるため、バーチャルバトルスペースのオーナーブースだけを独立させたような個室がいくつも並べられようとしていた。
「こんなに慌ててやらなくたってよかったのに」
キャスター付きとはいえ重たい特設スペースをえいこら押しながら、ジェニーはぼそりと嫌味を言った。
「今日は臨時休業にしてゆっくり設営すればよかったじゃないですか。どうあがいたって私たち三人しか人員がいないんですよ」
「そうしたら、今日普通のバトルをしに来たお客さんが残念な思いをするじゃねーか」
すでに設置されているブースの陰で、夏彦が言う。
「できる限りのことをしたいんだよ。俺は」
「そないなカッコエエこと今言いはったって、カッコ付いてへんで」
コンソールのセットアップをしながら、ラストがカラカラと笑った。
夏彦が出てくる。女性二人のささやかな顰蹙を買ったのでものすごく不機嫌そうな顔である。
「うるせえな。だいたい冗長性広げすぎなんだよこのコンソール。一台で普通のブースの三倍の配線量ってどういうこっちゃ」
両手に抱えた大小さまざま色とりどりのコードを床に投げつけた。
「会社側としても一大プロジェクトですからね」
そのコードを丁寧に拾いながらジェニーが言った。
「この規模のバーチャルリアリティ空間を立ち上げるのは前代未聞。万全を期したいのも分かる気がします」
「ジェニーさんらしいな」
ポリポリと頬を掻きつつ、コード拾いを手伝う夏彦。
「ま、失敗したら損害どころの話じゃないからな。俺達に依頼が来るのも無理ねぇか」
そう、明日行われるこのイベントは、裏方にしてみればただのイベントに止まらなかった。コンピュータネットワーク上におけるバーチャルリアリティ空間の構築実験は今に始まったことではない。そもそも武装神姫のバーチャルバトルこそその商業利用の先駆である。
今回の空間構築は通常のバーチャルバトルの比ではなかった。今までに無い大人数での乱戦をラグなく処理するという理由だけでなく、将来的に「人間」の利用を見越した大容量を動かす壮大な試験である。つまりそのいわゆる動物実験を神姫でやろう、という言い方はかなり邪見しているが、あながち間違いではなかった。もちろん動物実験ほどのリスクなど無い。そうでなければまがいなりにも一般参加者を募ることのできるイベントとして開催することなどできないからだ。
その上で準備は万全を期していた。全国のマッチングのために特設スペースの冗長性確保は異常とも思えるほどだったし――そのせいでコストも設営スタッフの負担も異常に倍増したのは言うまでも無い――、裏方の機能維持にも猫の手を借りるほど多くの人員を割いていた。実際には猫ではなく兎であったが。
このイベントはそういう実験的な意義も含まれているため、それを邪魔しようとする敵対企業の妨害工作があることは目に見えている。それはマッチングの不備やネットワークのラグといった、普通当たり前に起こるような現象として現れるだろうが、前述のようにそれらへの対策は異常レベルであるから、どんな些細な障害も絶対に起こらないし、起こってはならない。Gのところに依頼が来るのもやむなしなのである。
「あ、夏はん夏はん、実はな、ウチんとこにも依頼来とるんよ」
「マジで? こりゃ・・・・・・俺達の想像以上かもな」
そして、当日は実際に彼らが裏で活躍することになる。
まあ、その話は書かない。読者には純粋に本大会のギャラリーとして楽しんでもらいたい。
「よし、セットアップ完了」
「まだですよ。あと十九台あります。本当にこれ全部三人でやるんですか?」
「まあ、そう言うだろうと思ってさ。たぶんそろそろ・・・・・・、来た」
夏彦の視線を神姫二人が追う。
二人の男が階段を上ってきた。
フォーマルカジュアルなコートを着こなした男性と、耳と鼻と口にピアスを刺しニット帽を被ったどこかの社会不適合者のような風体の男である。初対面の人間は大抵、彼らが親友だとは考えない。マイティのマスターと、シエンのマスター、ケンである。
「兎羽子さんと澟奈さんも一緒か。まだ仕事は残っているかな」
「店長もすみに置けねェなあ。こんな美女二人と夜中にこそこそと」
挨拶の言葉もまったく違う。微笑みながらトーンの低い声で言うマスターと、下卑た笑いでからかうケン。だが不思議と二人の投げた感情のボールに差は無い。ケンが不快感を与えているということは決してなく、むしろ親しみの含まれたボールだった。
「やあ、ホント助かります。早速お願いできますか」
「ジェニーさんはどうしたんですか?」
マスターの胸ポケットからひょっこりと顔を出したのはアーンヴァル、マイティである。ジェニー、兎羽子は一瞬ビクッと体を強張らせたが、
「俺の部屋でスリープ中だよ。今日はさんざ働かせちゃったからね」
という夏彦の自然なフォローにほっと胸をなでおろした。人間ボディの二人が実は神姫であることは伏せられているのである。
「だめだよマイティ、店長に迷惑かけちゃ。無理言って連れてきてもらったんだから」
と言ってケンの帽子から顔を出したのはハウリンのシエン。もちろんこの場合の「迷惑」とは余計な手間をかけさせるなと言う意味である。彼女達も言うまでもなく、目の前の二人の女性がジェニーやラストであることは知らない。
マイティもシエンも、明日のイベントに参加する。この設営はいわばボランティアのようなもので、彼女らは尋常でない量の配線を手伝うことになった。裏方作業といえど、特に参加者に有利になることはないからこのような事前作業の参加は禁じられてはいない。イベントの細かなルールは、マスター達はおろか夏彦にさえ知らされていなかった。ブリーフィングタイムに入り、コンソール前を離れられなくなってから参加者にだけ教えられるという予定である。設営側すらもアドバイザーにはなれず、また参加者同士で事前の作戦が立てられないのである。ブリーフィングタイムは三十分、出撃準備時間を除いて実質二十五分あるが、それだけの時間でモバイルを駆使しても有益な情報交換はほぼ不可能であろう。そうする暇があるならブリーフィングタイムに参加者同士で綿密に話し合ったほうがよい。
夜遅くまで二階の明かりは消えなかった。正午前までゆっくり睡眠をとって、彼らはイベントにのぞむ。
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BGM:リン・ジャクソン(戦闘妖精雪風・オリジナルサウンドトラック1より)
*開催前夜
事前予告より二ヵ月後、2036年某月某日 2221時 ホビーショップ・エルゴ
二十二時の閉店直後からエルゴはいっそう騒がしくなった。
照明の落とされた売り場の奥の階段を上がった二階、武装神姫バトルスペースはまだ煌々と明かりが灯っており、壁一面に張られた「武装神姫大規模バトルイベント『ソラノカケラ』 ※協賛 ニャムコ」のポスターや、脇にどけられたバーチャルバトル機器が目に付く。こうしてみると意外にこの空間は広いことが分かる。
そんな中をせわしなく行ったり来たりする人影が三つ。正確に言うとうち二人は人間ではない。エルゴの若店長、日暮夏彦と、違法の人間サイズボディに乗り換えているジェニー、そして同じく人間ボディのラストである。
彼らは登録された人数分の特設バトルスペースの設営に追われていた。何の特設かと言えばもちろん、壁のポスターで大々的に宣伝されている明日のバトルイベントのものである。
直接ネットワークに繋げるため、バーチャルバトルスペースのオーナーブースだけを独立させたような個室がいくつも並べられようとしていた。
「こんなに慌ててやらなくたってよかったのに」
キャスター付きとはいえ重たい特設スペースをえいこら押しながら、ジェニーはぼそりと嫌味を言った。
「今日は臨時休業にしてゆっくり設営すればよかったじゃないですか。どうあがいたって私たち三人しか人員がいないんですよ」
「そうしたら、今日普通のバトルをしに来たお客さんが残念な思いをするじゃねーか」
すでに設置されているブースの陰で、夏彦が言う。
「できる限りのことをしたいんだよ。俺は」
「そないなカッコエエこと今言いはったって、カッコ付いてへんで」
コンソールのセットアップをしながら、ラストがカラカラと笑った。
夏彦が出てくる。女性二人のささやかな顰蹙を買ったのでものすごく不機嫌そうな顔である。
「うるせえな。だいたい冗長性広げすぎなんだよこのコンソール。一台で普通のブースの三倍の配線量ってどういうこっちゃ」
両手に抱えた大小さまざま色とりどりのコードを床に投げつけた。
「会社側としても一大プロジェクトですからね」
そのコードを丁寧に拾いながらジェニーが言った。
「この規模のバーチャルリアリティ空間を立ち上げるのは前代未聞。万全を期したいのも分かる気がします」
「ジェニーさんらしいな」
ポリポリと頬を掻きつつ、コード拾いを手伝う夏彦。
「ま、失敗したら損害どころの話じゃないからな。俺達に依頼が来るのも無理ねぇか」
そう、明日行われるこのイベントは、裏方にしてみればただのイベントに止まらなかった。コンピュータネットワーク上におけるバーチャルリアリティ空間の構築実験は今に始まったことではない。そもそも武装神姫のバーチャルバトルこそその商業利用の先駆である。
今回の空間構築は通常のバーチャルバトルの比ではなかった。今までに無い大人数での乱戦をラグなく処理するという理由だけでなく、将来的に「人間」の利用を見越した大容量を動かす壮大な試験である。つまりそのいわゆる動物実験を神姫でやろう、という言い方はかなり邪見しているが、あながち間違いではなかった。もちろん動物実験ほどのリスクなど無い。そうでなければまがいなりにも一般参加者を募ることのできるイベントとして開催することなどできないからだ。
その上で準備は万全を期していた。全国のマッチングのために特設スペースの冗長性確保は異常とも思えるほどだったし――そのせいでコストも設営スタッフの負担も異常に倍増したのは言うまでも無い――、裏方の機能維持にも猫の手を借りるほど多くの人員を割いていた。実際には猫ではなく兎であったが。
このイベントはそういう実験的な意義も含まれているため、それを邪魔しようとする敵対企業の妨害工作があることは目に見えている。それはマッチングの不備やネットワークのラグといった、普通当たり前に起こるような現象として現れるだろうが、前述のようにそれらへの対策は異常レベルであるから、どんな些細な障害も絶対に起こらないし、起こってはならない。Gのところに依頼が来るのもやむなしなのである。
「あ、夏はん夏はん、実はな、ウチんとこにも依頼来とるんよ」
「マジで? こりゃ・・・・・・俺達の想像以上かもな」
そして、当日は実際に彼らが裏で活躍することになる。
まあ、その話は書かない。読者には純粋に本大会のギャラリーとして楽しんでもらいたい。
「よし、セットアップ完了」
「まだですよ。あと十九台あります。本当にこれ全部三人でやるんですか?」
「まあ、そう言うだろうと思ってさ。たぶんそろそろ・・・・・・、来た」
夏彦の視線を神姫二人が追う。
二人の男が階段を上ってきた。
フォーマルカジュアルなコートを着こなした男性と、耳と鼻と口にピアスを刺しニット帽を被ったどこかの社会不適合者のような風体の男である。初対面の人間は大抵、彼らが親友だとは考えない。マイティのマスターと、シエンのマスター、ケンである。
「兎羽子さんと澟奈さんも一緒か。まだ仕事は残っているかな」
「店長もすみに置けねェなあ。こんな美女二人と夜中にこそこそと」
挨拶の言葉もまったく違う。微笑みながらトーンの低い声で言うマスターと、下卑た笑いでからかうケン。だが不思議と二人の投げた感情のボールに差は無い。ケンが不快感を与えているということは決してなく、むしろ親しみの含まれたボールだった。
「やあ、ホント助かります。早速お願いできますか」
「ジェニーさんはどうしたんですか?」
マスターの胸ポケットからひょっこりと顔を出したのはアーンヴァル、マイティである。ジェニー、兎羽子は一瞬ビクッと体を強張らせたが、
「俺の部屋でスリープ中だよ。今日はさんざ働かせちゃったからね」
という夏彦の自然なフォローにほっと胸をなでおろした。人間ボディの二人が実は神姫であることは伏せられているのである。
「だめだよマイティ、店長に迷惑かけちゃ。無理言って連れてきてもらったんだから」
と言ってケンの帽子から顔を出したのはハウリンのシエン。もちろんこの場合の「迷惑」とは余計な手間をかけさせるなと言う意味である。彼女達も言うまでもなく、目の前の二人の女性がジェニーやラストであることは知らない。
マイティもシエンも、明日のイベントに参加する。この設営はいわばボランティアのようなもので、彼女らは尋常でない量の配線を手伝うことになった。裏方作業といえど、特に参加者に有利になることはないからこのような事前作業の参加は禁じられてはいない。イベントの細かなルールは、マスター達はおろか夏彦にさえ知らされていなかった。ブリーフィングタイムに入り、コンソール前を離れられなくなってから参加者にだけ教えられるという予定である。設営側すらもアドバイザーにはなれず、また参加者同士で事前の作戦が立てられないのである。ブリーフィングタイムは三十分、出撃準備時間を除いて実質二十五分あるが、それだけの時間でモバイルを駆使しても有益な情報交換はほぼ不可能であろう。そうする暇があるならブリーフィングタイムに参加者同士で綿密に話し合ったほうがよい。
夜遅くまで二階の明かりは消えなかった。正午前までゆっくり睡眠をとって、彼らはイベントにのぞむ。
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