「変わったり変わらなかったりするモノ」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「変わったり変わらなかったりするモノ」(2007/01/09 (火) 23:42:52) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
年なんて明けてみれば大して代わり映えのしないモンではある。
とりあえず年末年始は忙しかったが、連休も終わって冬休みも終わる時期ともなれば、
ほぼ日常通りの時間が帰ってくると思って間違いない。
うん、仕事はね?
「マスター、起きてください。マスター」
揺り動かす手の重みが心地よい。いや、冬は寒いしさぁ。後5分だけ…
「起きないなら、それ相応の手段を取りますよ?」
呆れ半分の声。
…起きよう、命は惜しい。
「はよ、ジェニーさん」「はい、おはよう御座います」
俺の目の前には二つの胸。じゃなかった、黒のセーターから立派なふくらみを誇張…
ええい、先に進まん。
ざっくり言えば人間サイズのジェニーさんがこちらを見下ろしていた。
あの事件から数日。
不眠不休で新型ボディはこさえたものの、家事に便利と言う庶民派な理由で例のボディ
は追加装備として再チューンされて絶賛活躍中だ。
しかし、ヴァッフェバニータイプってあのサイズだと気付かんがスタイル良い…
は、置いといて。
実際こう、妙に意識してしまって困ってるのだ。
サイズの違いって視覚的な理由は大きいが…やっぱり、告白されたってのが大きい。
あの後、デートはしてみた物のギクシャクしてお互い何してたのかゼンゼン覚えて
無いしな。
「また脱ぎ散らかして…」
乱雑に投げ出された俺の服をジェニーさんが纏めて抱える。
「ちゃんと洗濯カゴに入れて下さいよ」
…屈んで抱え上げるまでの動作すら艶かしい。
というか、ジェニーさんがこうなってから色々気まずくてロクに発散して無いからか
思考がスグそっちへ行く。
さすがに我ながらどうかと思うが…困った。
「あー、ジェニーさん。着替えるからとりあえず出てくれ」
「あっ、はい…じ、じゃあ着替えたら居間に来てくださいね。朝御飯出来てますから」
赤面しつつ慌てて出て行くジェニーさん。
…純情っつーか、なんつーか。
ん?進展?
ありませんよ?あの晩キスして以来、手も握ってねぇ。何も言うな。
…なんていうか、正直そんな急にどうしたらいいか解らんのですよ、距離感とか。
そんなわけで…色々持て余し気味に俺の新年はスタートしたのだった。
----
今日は商品の新入荷が無いから多少余裕がある。
メシを食い終わった頃、洗濯物を干すジェニーさんが目に入ったので手伝う事にした。
「ジェニーさん、干すの手伝うわ」
「え!?いや、いいですから開店準備でもしてて下さい!」
「?まぁ、遠慮すんなよ。二人でやった方が早いって」
そうして俺がカゴから拾い上げたのは…なんか透けてたり装飾が凝ってたりする下着
だったりしたワケで。
いやもうね、道端で洗濯物を拾いあげたらその家人に下着ドロ扱いされる心境って
いうか…そんな感じの気まずさ。
「あの…秋奈さんのお古をですね、使ってるんですよ。それでですね…」
しどろもどろで説明するジェニーさん。声も心なしか小さい。
…またしてもヤツの仕業か。
「…いや、悪かった。食器でも洗うわ」
「あ、はい…お願いします」
…表面上は騒ぐ事無く切り抜ける。大人だから。
…だから、気まずいっちゅうんじゃあ!!勘弁してくれ馬鹿姉貴ッ!?
まだ朝も早いというのに既に疲れを感じつつ、家事と開店準備に勤しむのだった。
「はい、皆さんお早う御座います」
『お早う御座いまーすっ!!うさ大明神様ー!!』
元旦から店は開けてたから新年の挨拶でも無いが、冬休み明けって事もありウチの学校
サービスも本日からが本格的な新学期である。
やっぱりこういう特別な雰囲気はワクワクする物なのか、生徒さん達も楽しげだ。
…こういう光景を見てるとやっぱジェニーボディの必要性を感じるわけで。
三日徹夜で再製作して良かったと思う。
改良とかしてたからマジきつかったが、ああいう事件をもう起こさない為にもそりゃ
必要な事ってコトで。
のんびりした授業風景を傍目に見つつ、俺も仕事に励むのであった。
「ん?んん?」
奇妙な声を上げつつ業者向けチラシを覗き込む俺。
神姫BMAからの公式店舗加入キャンペーンの案内だ。
オフィシャルリーグ内でも抜群の知名度を誇る神姫BMAリーグだが、完全リアルバトル
を謳うその設備は正直町の玩具屋には高い。
センターぐらいの資本規模と敷地があれば別だろうけど。
…申し訳程度に参加設備はあるが、正直正規の筐体でも無いし厳しいところだった。
チラシを見るに1on1の最小構成筐体なら設備込みで手が出なくも無い。
キャンペーン価格とデカデカと書かれた値段を見つつ、黙考する。
…お客さんも選択肢は多いに越した事ないよなぁ。
ここは思い切る事にした。
センターへ向けて案内希望のメールを送る。
気が付けば時刻は夕方に差し掛かっていた。
----
神姫学校が終わり、バトルブースの盛り上がりが最高潮に達する頃。
俺に客が訪れた…いや、来るとは思ってたが。むしろ遅かったね?
「夏彦、ちょっといいか?」
周囲を見つつ声を掛ける地走警部殿…たっちゃんに一つ頷き、ジェニーさんに声を
掛ける。
「ジェニーさん、店任せていいか?」
「あ、はい」
ボディに仕込んだ小型フライトユニットでふよふよレジまで飛行するジェニーさん。
よく考えたら「空飛ぶ胸像」ってまたぞろ渾名をつけられそうなビジュアルだなぁ。
ま、いいや。
俺はたっちゃんを伴って店の裏、搬入口の辺りへ向かった。
「クリスマス以来か。エライ時間掛かったな」
「あの一件の事後処理と捜査でな、なかなか時間が取れなかった」
周囲に人が居ないのを確認して話し始める。
「…特殊だとは思うけど、そんなに大事になってんの?」
「明確な敵意を持って人間に対する神姫など看過出来るか。表に出ればすぐに社会問題
だぞ。暴走事故とはワケが違う」
俺の質問に溜息しつつたっちゃんが答える。続けて
「この件は俺と上司だけの秘密になった。案件は全て偽装処理されたし、秘匿捜査事項
として俺が専任で当たる。それだけデリケートな問題なんだよ」
「…ロボットの反乱か。フィクションが現実が追い付いたってヤツかね」
「不謹慎だぞ。だが、だからこそ世間に知らせる事は出来ない。それが結論だ」
「しかし…ずいぶん話が解るね、日本の警察も」
「まさか。解らんからこそ秘匿したんだよ。今回の件は俺と直属の上司の頭の中以外に
何の記録も残っていない」
そこまで言われて流石にギョッとする。
「握り潰したってコトか!?」
「神姫を守る為にはそれしかない。それだけだ」
「そか…」
こういうやり口は本来大嫌いなハズだ。実直な警部さんだし。それをしてまで神姫の
事を考えて動いてくれるってのは、一神姫愛好者として頭が下がる物はある。
それにたっちゃんが庇ってくれなければ、俺自身事件の関係者として今の生活は
続けられなかっただろう。
「なぁ。俺たっちゃんが友達で良かったわ」
どう感謝していいか解らず妙な独白をする。
「今更水臭い事を。案ぜずともお前にも手伝って貰うから覚悟しておけ」
「…あいよ」
なんとなく、お互い笑みがこぼれた。
そんな場合じゃないんだろうけど、こういうのを友情って言うんだろうか。
「さて、早速だが…エンプレスについてもう一度聞きたいんだが」
エンプレス…ジェネシスを攫った神姫。
異様な処理能力とビジュアル、案外スキのないシステム構成…
そして、何より人間に対する明確な敵意。
正直俺の知る限りで大した情報はない。独自に調べもしたが大した収穫は無かった。
それでも、知る限りの情報をたっちゃんに説明する。
メモを採りながら頷いていたたっちゃんが、一通り聞いた後に今度は俺に説明する。
「こちらとしても大した事は解っていない。お前から得た情報以外だと…」
「主な活動地域は欧米、分野はネットワーク犯罪。マークはされているが逮捕暦無し」
「正体、背後関係を含め多くは謎…それは海の向こうも同じらしい」
「もっとも、まだまだ向こうも見せてないカードを持っているだろうがな」
たっちゃんの説明を聞き終えて一つ頷く。
ただの愉快犯のクラッカーでもなかろうし、厄介な相手だ。
…それでも落とし前はつけてもらうが。
だが、正直…引っかかってる事はある。
「なぁ、たっちゃん。何でアイツ人間キライなんだろう」
無言。いや、考えてるのか。沈黙の後にたっちゃんが口を開く。
「違う存在が共存すれば歪が出る。俺達がさんざん見てきたように」
「心を持てば、其れを直視してどう思うかは…想像の外じゃない。極論であれ、な」
正論だし予想の範囲内だ。まぁ、そんなトコだろう。
「でもさぁ、嫌われっぱなしは寂しいよなぁ…」
…独善に過ぎるだろうか。でも、そう思う。
嫌われてても平気なんてヤツは居ないだろう。戦争とかだって、言ってみりゃそういう
のの延長じゃないだろか。
少なくとも俺は、平気なツラして肩で風切って歩けるほど達観してない。
「説得、か?…人間同士でもそうそう上手くは行かない」
「酷だが、現実的な話をするなら…絵空事だ其れは」
頷く。絵空事どころか妄想で片付けて言い戯言だろう。主観抜きなら。
「まぁでも、夢は見たいだろ。じゃなきゃ生きてけねぇよ、この世界」
「こう見えても俺さ、人間にゃ引かれるばっかだが神姫にゃ好かれるんだぜ?」
何となく、夕焼け空を見上げる。
台詞の臭さもそうだが、素面で良い大人がする会話じゃねぇ。
つられて空を見上げたたっちゃんの呟きが聞こえた。
「ま、やるだけやってみろ…上手くいくなら、それが一番上等な話だ」
「お前は…望むべく動ける足を持ってるんだからな」
そこまで言って、たっちゃんが歩き出す。
「ポカばっかだけどもね。まぁ…出来る事をやるさ。それしか無いもんなぁ」
店の方に歩き出しながら答えを返して。
「どこへ行こうがお前は俺の友達だ。もし間違えたと思えば、俺がお前を止める」
「ああ、いつもすまねぇ。頼りにしちまうよ」
視線を合わせる事も無く。俺とたっちゃんは自分達の居場所へ帰って行った。
----
その夜。ジェニーさんが出かけたいと言って外出した。
…夜に女の一人歩きはどうかとも思うんだが。
あんまり過保護でも怒られそうだしなぁ。
ま、せっかく久しぶりの一人だ…ジェネシス強化プランの草案でも纏め…
………ん?一人?
チャンスだ。
一瞬で俺の脳が答えを弾き出す。
ベタとかなんとか言わば言え。抑圧された衝動に逆らうほど生物辞めてない。
とっときのオカズを求めて隠し場所を開ける。
…片付けられてるーッ!?
思わず地に伏して絶望に暮れてみた。
くそう、ジェニーさん何でこんなサーチ能力高いんだ。
こうなったら引き出しに発火装置でも仕込むか!?
いや、デスノートじゃあるまいし燃えたら意味無ぇよ。却下。
中坊の如くエロ本の隠し場所に苦慮を巡らす俺。
が、そんな俺に発想の転換が訪れた。
…いや、それは色々マズいだろ?
だが、意識から外そうとすればするほど浮かぶジェニーさんのチチ、シリ、フトモモ。
…考えなおせ俺!同居人をネタにするなんて色々マズいだろうがっ!?
しかし人間ってのは弱いモノで。
いけないと思う物ほど興奮するんですよ。実際。
今朝見た下着を着たジェニーさんとか脳内再生されてもう…なんていうか…
察してくれ。
一つだけ事実を述べるなら、強化プランの検討に実際入る頃にはジェニーさんが帰って
くるまで30分切っていた。
----
「ちゅうわけで、ちっとメンドい事になってなぁ。しばらく泊めてくれへん?」
ジェニーさんが何故かラストを連れて帰って来た。いや、マジに何故。
「昼間は店手伝うし?悪い条件や無いと思うねんけど?な、な?」
上目遣いで頼み込むラスト。コイツ慣れてやがる。
「ジェニーさん?」
「…私は別に。人手が欲しいのは事実ですし」
うーむ…ここで断るのも気が引けるな。コイツが頼ってくるなんてよっぽどだろうし。
「しょうがねぇ。ま、部屋は空いてるから構わねぇよ」
「おー。さすが夏はん!恩に着るで」
上機嫌に肩をバシバシ叩くラスト。いや、痛いっス。
明日からまたさらに肩身が狭くなりそうだなぁ、などと背筋を駆ける悪寒に慄いて
いると、電話が鳴った。
「はい、日暮ですが」
すかさず電話を取るジェニーさん。
「え?ああ、冬司さん。いえ、ジェニーです。」
「ええ…流石にマスターに彼女は。いえ、居ます。はい、代わりますね」
なんだその失礼な遣り取りは。
「マスター、冬司さんからです」
「親父からかよ…」
げんなりしつつ電話に出る。
それがこれからの俺の生活を決定付ける電話とは、普通思わないよな?
でも、実際そうだったんだよ。残念ながら。
てなワケでその件についてはまたにさせてくれ。頼む。
[[NEXT>姫様大襲来]] [[メニューへ>HOBBY LIFE,HOBBY SHOP]]
年なんて明けてみれば大して代わり映えのしないモンではある。
とりあえず年末年始は忙しかったが、連休も終わって冬休みも終わる時期ともなれば、
ほぼ日常通りの時間が帰ってくると思って間違いない。
うん、仕事はね?
「マスター、起きてください。マスター」
揺り動かす手の重みが心地よい。いや、冬は寒いしさぁ。後5分だけ…
「起きないなら、それ相応の手段を取りますよ?」
呆れ半分の声。
…起きよう、命は惜しい。
「はよ、ジェニーさん」「はい、おはよう御座います」
俺の目の前には二つの胸。じゃなかった、黒のセーターから立派なふくらみを誇張…
ええい、先に進まん。
ざっくり言えば人間サイズのジェニーさんがこちらを見下ろしていた。
あの事件から数日。
不眠不休で新型ボディはこさえたものの、家事に便利と言う庶民派な理由で例のボディ
は追加装備として再チューンされて絶賛活躍中だ。
しかし、ヴァッフェバニータイプってあのサイズだと気付かんがスタイル良い…
は、置いといて。
実際こう、妙に意識してしまって困ってるのだ。
サイズの違いって視覚的な理由は大きいが…やっぱり、告白されたってのが大きい。
あの後、デートはしてみた物のギクシャクしてお互い何してたのかゼンゼン覚えて
無いしな。
「また脱ぎ散らかして…」
乱雑に投げ出された俺の服をジェニーさんが纏めて抱える。
「ちゃんと洗濯カゴに入れて下さいよ」
…屈んで抱え上げるまでの動作すら艶かしい。
というか、ジェニーさんがこうなってから色々気まずくてロクに発散して無いからか
思考がスグそっちへ行く。
さすがに我ながらどうかと思うが…困った。
「あー、ジェニーさん。着替えるからとりあえず出てくれ」
「あっ、はい…じ、じゃあ着替えたら居間に来てくださいね。朝御飯出来てますから」
赤面しつつ慌てて出て行くジェニーさん。
…純情っつーか、なんつーか。
ん?進展?
ありませんよ?あの晩キスして以来、手も握ってねぇ。何も言うな。
…なんていうか、正直そんな急にどうしたらいいか解らんのですよ、距離感とか。
そんなわけで…色々持て余し気味に俺の新年はスタートしたのだった。
----
今日は商品の新入荷が無いから多少余裕がある。
メシを食い終わった頃、洗濯物を干すジェニーさんが目に入ったので手伝う事にした。
「ジェニーさん、干すの手伝うわ」
「え!?いや、いいですから開店準備でもしてて下さい!」
「?まぁ、遠慮すんなよ。二人でやった方が早いって」
そうして俺がカゴから拾い上げたのは…なんか透けてたり装飾が凝ってたりする下着
だったりしたワケで。
いやもうね、道端で洗濯物を拾いあげたらその家人に下着ドロ扱いされる心境って
いうか…そんな感じの気まずさ。
「あの…秋奈さんのお古をですね、使ってるんですよ。それでですね…」
しどろもどろで説明するジェニーさん。声も心なしか小さい。
…またしてもヤツの仕業か。
「…いや、悪かった。食器でも洗うわ」
「あ、はい…お願いします」
…表面上は騒ぐ事無く切り抜ける。大人だから。
…だから、気まずいっちゅうんじゃあ!!勘弁してくれ馬鹿姉貴ッ!?
まだ朝も早いというのに既に疲れを感じつつ、家事と開店準備に勤しむのだった。
「はい、皆さんお早う御座います」
『お早う御座いまーすっ!!うさ大明神様ー!!』
元旦から店は開けてたから新年の挨拶でも無いが、冬休み明けって事もありウチの学校
サービスも本日からが本格的な新学期である。
やっぱりこういう特別な雰囲気はワクワクする物なのか、生徒さん達も楽しげだ。
…こういう光景を見てるとやっぱジェニーボディの必要性を感じるわけで。
三日徹夜で再製作して良かったと思う。
改良とかしてたからマジきつかったが、ああいう事件をもう起こさない為にもそりゃ
必要な事ってコトで。
のんびりした授業風景を傍目に見つつ、俺も仕事に励むのであった。
「ん?んん?」
奇妙な声を上げつつ業者向けチラシを覗き込む俺。
神姫BMAからの公式店舗加入キャンペーンの案内だ。
オフィシャルリーグ内でも抜群の知名度を誇る神姫BMAリーグだが、完全リアルバトル
を謳うその設備は正直町の玩具屋には高い。
センターぐらいの資本規模と敷地があれば別だろうけど。
…申し訳程度に参加設備はあるが、正直正規の筐体でも無いし厳しいところだった。
チラシを見るに1on1の最小構成筐体なら設備込みで手が出なくも無い。
キャンペーン価格とデカデカと書かれた値段を見つつ、黙考する。
…お客さんも選択肢は多いに越した事ないよなぁ。
ここは思い切る事にした。
センターへ向けて案内希望のメールを送る。
気が付けば時刻は夕方に差し掛かっていた。
----
神姫学校が終わり、バトルブースの盛り上がりが最高潮に達する頃。
俺に客が訪れた…いや、来るとは思ってたが。むしろ遅かったね?
「夏彦、ちょっといいか?」
周囲を見つつ声を掛ける地走警部殿…たっちゃんに一つ頷き、ジェニーさんに声を
掛ける。
「ジェニーさん、店任せていいか?」
「あ、はい」
ボディに仕込んだ小型フライトユニットでふよふよレジまで飛行するジェニーさん。
よく考えたら「空飛ぶ胸像」ってまたぞろ渾名をつけられそうなビジュアルだなぁ。
ま、いいや。
俺はたっちゃんを伴って店の裏、搬入口の辺りへ向かった。
「クリスマス以来か。エライ時間掛かったな」
「あの一件の事後処理と捜査でな、なかなか時間が取れなかった」
周囲に人が居ないのを確認して話し始める。
「…特殊だとは思うけど、そんなに大事になってんの?」
「明確な敵意を持って人間に対する神姫など看過出来るか。表に出ればすぐに社会問題
だぞ。暴走事故とはワケが違う」
俺の質問に溜息しつつたっちゃんが答える。続けて
「この件は俺と上司だけの秘密になった。案件は全て偽装処理されたし、秘匿捜査事項
として俺が専任で当たる。それだけデリケートな問題なんだよ」
「…ロボットの反乱か。フィクションが現実に追い付いたってヤツかね」
「不謹慎だぞ。だが、だからこそ世間に知らせる事は出来ない。それが結論だ」
「しかし…ずいぶん話が解るね、日本の警察も」
「まさか。解らんからこそ秘匿したんだよ。今回の件は俺と直属の上司の頭の中以外に
何の記録も残っていない」
そこまで言われて流石にギョッとする。
「握り潰したってコトか!?」
「神姫を守る為にはそれしかない。それだけだ」
「そか…」
こういうやり口は本来大嫌いなハズだ。実直な警部さんだし。それをしてまで神姫の
事を考えて動いてくれるってのは、一神姫愛好者として頭が下がる物はある。
それにたっちゃんが庇ってくれなければ、俺自身事件の関係者として今の生活は
続けられなかっただろう。
「なぁ。俺たっちゃんが友達で良かったわ」
どう感謝していいか解らず妙な独白をする。
「今更水臭い事を。案ぜずともお前にも手伝って貰うから覚悟しておけ」
「…あいよ」
なんとなく、お互い笑みがこぼれた。
そんな場合じゃないんだろうけど、こういうのを友情って言うんだろうか。
「さて、早速だが…エンプレスについてもう一度聞きたいんだが」
エンプレス…ジェネシスを攫った神姫。
異様な処理能力とビジュアル、案外スキのないシステム構成…
そして、何より人間に対する明確な敵意。
正直俺の知る限りで大した情報はない。独自に調べもしたが大した収穫は無かった。
それでも、知る限りの情報をたっちゃんに説明する。
メモを採りながら頷いていたたっちゃんが、一通り聞いた後に今度は俺に説明する。
「こちらとしても大した事は解っていない。お前から得た情報以外だと…」
「主な活動地域は欧米、分野はネットワーク犯罪。マークはされているが逮捕暦無し」
「正体、背後関係を含め多くは謎…それは海の向こうも同じらしい」
「もっとも、まだまだ向こうも見せてないカードを持っているだろうがな」
たっちゃんの説明を聞き終えて一つ頷く。
ただの愉快犯のクラッカーでもなかろうし、厄介な相手だ。
…それでも落とし前はつけてもらうが。
だが、正直…引っかかってる事はある。
「なぁ、たっちゃん。何でアイツ人間キライなんだろう」
無言。いや、考えてるのか。沈黙の後にたっちゃんが口を開く。
「違う存在が共存すれば歪が出る。俺達がさんざん見てきたように」
「心を持てば、其れを直視してどう思うかは…想像の外じゃない。極論であれ、な」
正論だし予想の範囲内だ。まぁ、そんなトコだろう。
「でもさぁ、嫌われっぱなしは寂しいよなぁ…」
…独善に過ぎるだろうか。でも、そう思う。
嫌われてても平気なんてヤツは居ないだろう。戦争とかだって、言ってみりゃそういう
のの延長じゃないだろか。
少なくとも俺は、平気なツラして肩で風切って歩けるほど達観してない。
「説得、か?…人間同士でもそうそう上手くは行かない」
「酷だが、現実的な話をするなら…絵空事だ其れは」
頷く。絵空事どころか妄想で片付けて言い戯言だろう。主観抜きなら。
「まぁでも、夢は見たいだろ。じゃなきゃ生きてけねぇよ、この世界」
「こう見えても俺さ、人間にゃ引かれるばっかだが神姫にゃ好かれるんだぜ?」
何となく、夕焼け空を見上げる。
台詞の臭さもそうだが、素面で良い大人がする会話じゃねぇ。
つられて空を見上げたたっちゃんの呟きが聞こえた。
「ま、やるだけやってみろ…上手くいくなら、それが一番上等な話だ」
「お前は…望むべく動ける足を持ってるんだからな」
そこまで言って、たっちゃんが歩き出す。
「ポカばっかだけどもね。まぁ…出来る事をやるさ。それしか無いもんなぁ」
店の方に歩き出しながら答えを返して。
「どこへ行こうがお前は俺の友達だ。もし間違えたと思えば、俺がお前を止める」
「ああ、いつもすまねぇ。頼りにしちまうよ」
視線を合わせる事も無く。俺とたっちゃんは自分達の居場所へ帰って行った。
----
その夜。ジェニーさんが出かけたいと言って外出した。
…夜に女の一人歩きはどうかとも思うんだが。
あんまり過保護でも怒られそうだしなぁ。
ま、せっかく久しぶりの一人だ…ジェネシス強化プランの草案でも纏め…
………ん?一人?
チャンスだ。
一瞬で俺の脳が答えを弾き出す。
ベタとかなんとか言わば言え。抑圧された衝動に逆らうほど生物辞めてない。
とっときのオカズを求めて隠し場所を開ける。
…片付けられてるーッ!?
思わず地に伏して絶望に暮れてみた。
くそう、ジェニーさん何でこんなサーチ能力高いんだ。
こうなったら引き出しに発火装置でも仕込むか!?
いや、デスノートじゃあるまいし燃えたら意味無ぇよ。却下。
中坊の如くエロ本の隠し場所に苦慮を巡らす俺。
が、そんな俺に発想の転換が訪れた。
…いや、それは色々マズいだろ?
だが、意識から外そうとすればするほど浮かぶジェニーさんのチチ、シリ、フトモモ。
…考えなおせ俺!同居人をネタにするなんて色々マズいだろうがっ!?
しかし人間ってのは弱いモノで。
いけないと思う物ほど興奮するんですよ。実際。
今朝見た下着を着たジェニーさんとか脳内再生されてもう…なんていうか…
察してくれ。
一つだけ事実を述べるなら、強化プランの検討に実際入る頃にはジェニーさんが帰って
くるまで30分切っていた。
----
「ちゅうわけで、ちっとメンドい事になってなぁ。しばらく泊めてくれへん?」
ジェニーさんが何故かラストを連れて帰って来た。いや、マジに何故。
「昼間は店手伝うし?悪い条件や無いと思うねんけど?な、な?」
上目遣いで頼み込むラスト。コイツ慣れてやがる。
「ジェニーさん?」
「…私は別に。人手が欲しいのは事実ですし」
うーむ…ここで断るのも気が引けるな。コイツが頼ってくるなんてよっぽどだろうし。
「しょうがねぇ。ま、部屋は空いてるから構わねぇよ」
「おー。さすが夏はん!恩に着るで」
上機嫌に肩をバシバシ叩くラスト。いや、痛いっス。
明日からまたさらに肩身が狭くなりそうだなぁ、などと背筋を駆ける悪寒に慄いて
いると、電話が鳴った。
「はい、日暮ですが」
すかさず電話を取るジェニーさん。
「え?ああ、冬司さん。いえ、ジェニーです。」
「ええ…流石にマスターに彼女は。いえ、居ます。はい、代わりますね」
なんだその失礼な遣り取りは。
「マスター、冬司さんからです」
「親父からかよ…」
げんなりしつつ電話に出る。
それがこれからの俺の生活を決定付ける電話とは、普通思わないよな?
でも、実際そうだったんだよ。残念ながら。
てなワケでその件についてはまたにさせてくれ。頼む。
[[NEXT>姫様大襲来]] [[メニューへ>HOBBY LIFE,HOBBY SHOP]]
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: