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神姫狩りシリーズ 04
ORIGIN
篠房財閥。
古くは華族の旧家であり、貿易で財を築いた一大グループである。最近は電子産業にも力を入れており、篠房技
研が武装神姫市場への参入も表明している。
その参入第一弾として、騎士型MMS「サイフォス」と武士型MMS「紅緒」のロールアウトも決定している。
今までの神姫とはまた違うコンセプトの元に作られた神姫である。
「で。その篠房財閥のお嬢様が、何の用なんだ?」
マンガかなにかのよーなバカげた大きさの篠房邸に三人はそのまま招待された。ちなみに鶴畑の使いはそのまま
トンズラしたことも追記しておく。
これまたバカみたいな応接間に通された静真たち。その正面に、篠房留美那は腰掛けて優雅に紅茶を飲んでいる
。
「何の用、と申されましても……」
「用件が無ければ、俺たちみたいな庶民もド庶民をあんたみたいな金持ちのお嬢さんが招待する理由が無いだろ」
警戒していう静真に、ベルは静かに言う。
「そういう風に身構えていると、底の浅さが露呈するわよ。コンプレックス丸出しだし」
「やかましい。お前はちっとは黙ってろ」
ベルを一喝して静真は向き直る。
「何が目的だ。あんたも香織さんの店を狙ってんのか?」
「まさか」
留美那はその問いに笑顔で否定する。
「神姫をレンタルする事業、というのは私たちも面白いと思っています。応援こそすれ、あの人たちのように邪魔
に思って排除する、なんてことはいたしません」
「……本当か?」
「はい」
「ならいいが……だったら何のつもりかますますわからん。鶴畑へのあてつけか?」
「そんな意味の無い幼稚なことをするように見えますか?」
「人間は外見じゃ判断できないだろ」
「偏見やねぇ」
香織が茶請けのクッキーをかじりながら口を挟む。
「人間不信……?」
恋も口を挟む。
「だから黙ってろお前ら。」
「……お話どおり、面白い方たちですね」
「……俺たちを知ってるのか」
「はい。失礼かとは思いましたが、貴方のことは調べさせていただきました、桐沢静真さん」
「何?」
「上媛学園高等部、16歳。ロボット研究部所属。成績は中の下、運動神経はいい。過去に補導暦あり。両親は海外
出張で現在、島田重工勤務の兄と二人暮し」
「……天下の篠房財閥ってのは、他人をこそこそと嗅ぎ回るのが趣味なのか?」
さらに警戒心を強め、椅子から腰を浮かせる静真。留美那はそれを気にせずに言葉を続ける。
「所持神姫は……タイプストラーフ、ベル・ゼ・ヴァイス、いえ……」
一呼吸置き、静香に、はっきりと言った。
「ロストナンバーズ。00d――――悪魔型『タイプベルゼブブ』ジ・オリジン」
その言葉に、静真とベルの表情が変わる。「警戒」から「敵意」のそれへと。だが、留美那がやんわりとそれを
手で遮る。
「どうこうするつもりがあるのなら、とっくにしてます。信じてください。私には貴方たちに害意はありませんか
ら」
「どうだかな。余裕の裏返し、ってこともある」
「……じ・おりじん……?」
恋のつぶやきに、香織が答える。
「ジ・オリジン。簡単に言えば、神姫のオリジナルと呼ばれるMMSよ。開発過程で生まれたプロトタイプやテス
トタイプ。市場には流通するはずのない、開発元に保管・管理されるか、あるいは廃棄されるはずの……伝説のM
MSや」
「ええ。もっとも、「オリジナル」というのも多少は語弊がありますが……ともあれ、そのベルさんは、ストラー
フの原型として生み出された幾つものMMSのひとつ、で――間違いはありませんね?」
しばし、場を沈黙が包む。その静寂を破ったのはベルのため息だった。
「そうね。そこまでどうやって調べたのか知らないけれど。貴女の言葉は正しいわ」
「おい、ベル」
「ここでの圧倒的弱者は私たちよ、静真。なら弱者らしく開き直りましょう?」
余裕の表情すら浮かべ、ベルは言う。
「弱者って台詞かよ、そのツラ。まあ確かにな、ここまできたらジタバタしたって仕方ねぇ。
だけどなお嬢様。たぶんあんたはひとつ、大きな勘違いしてるぜ」
「勘違い……ですか?」
「ああ。「ジ・オリジン」って奴は、別に「超強力な神姫のプロトタイプ」なんかじゃねぇ。そもそも要するに、
だ。「商品にならない」って理由で却下されたモデルにすぎないんだよ」
静真は肩をすくめていい放つ。
確かに、「試作品」というものはまず作られて試用され、規定に合うかどうか、要求されるスペックを満たして
いるかどうか、バグはないかどうか――などを文字通りに「試す」ためのものだ。
どこぞの前世紀の国民的アニメに出てくる白いモビルスーツのように、「持てる技術の粋をこめて試作しました
、でも量産型はそれに遥かに劣ります」などというものはまず存在しないと思っていいだろう。
「コイツだって基本スペックは十分に正規流通品の、武装神姫バトル管理協会のレギュレーションの範囲内だよ。
あんたらが何を聞きつけて何を調べたのかは知らないが、利用しようとしたって価値なんかないぜ」
どうにでもなれ、という表情で椅子に深くこしかけて静真は言う。
「価値なら、ありますわ」
留美那は笑う。
その笑顔に、静真は身構える。
「サインください☆」
そして全員がこけた。
「…………………………………………………………は?」
「だってだって、普段では絶対に見れないレア中のレアですよ!? 数千数万と存在する神姫の中でも超レア!
これでサインを貰おうとしないなんて神姫オーナーの沽券にかかわる問題です!!」
力説であった。
「ああ、そうですか……」
気圧されながら静真は敬語で答える。
「で、どこにサインすればいいのかしら」
まんざらでもないという感じでサインしてあげる気満々のベルであった。
「それではエクエスの鎧に……いやまってください、鎧だと戦ってキズモノになる可能性が……うん、それは駄目
ですわ。仕方ないですわね、オーソドックスに色紙にお願いするしか……」
ぶつぶつと自分の世界で悩む留美那を前に、
「……俺、なんでここにいるんだろ……」
「お金持ちって変な子多いんやなあ」
「……帰ったら駄目なのかな……」
静真たちは呆れるしかなかった。
「また来てくださいね」
「ええ、気が向いたらお邪魔させてもらうわ」
笑顔で送り出す留美那に、笑顔で答えるベル。
その後ろで静真は「二度とこねー」とか言っているがその意見はおそらくは確実に黙殺されるだろう。
「桐沢静真さん」
「あ?」
留美那が真っ直ぐに静真を見据える。
「……私が彼女を見つけたと言うことは、いずれは他の誰かも彼女に辿り着くことでしょう。あなたの言うとおり
に、彼女に特別な力がないとしても……それでも、マニアはその希少性に目をつけ、彼女を求めるはずです。
今のまま、ランク外の無名のままでは……」
「裏バトルで手を出しやすい、ってか? だから公式リーグで力をつけて名を上げろ、か。あんたもうちのクソ兄
貴と同じ事言うんだな」
「ええ。ベルちゃんの華麗な戦いをもっと見たいと言う個人的欲望が大半ですが」
「……大半つーか全部だろ。ま、考えとくよ。だけどな、俺はあんたらの都合よく動いてやる気はねぇからな」
「都合よく動けるだけの能がない、のまちがいでしょう」
「黙れ」
「仲がよろしいんですね」
「「何処が!」」
見事なパーフェクトハーモニーであった。
「ふふ。それではまたいずれ。今度は公式の場で」
「気が向けばな」
言い捨てて静真は香織たちの所へと歩く。その姿が消えるまで、留美那は笑顔で見送った。
「――よかったのですか、姫」
静真たちの姿が見えなくなった後、肩に乗っていた黒い騎士型MMS、「エクエス」が問う。
「何がですか?」
「戦えば、勝てました」
「でしょうね。ですが、貴女が戦いを挑んだ場合、あの女の子の神姫も戦いに入ったでしょう。二対一では……」
「勝てぬ、とおっしゃりますか」
「いえ、美しくありません」
エクエスの言葉に、留美那は笑顔で返す。
「狩りはエレガントに行うものでしょう? 表舞台であれ裏舞台であれ、相応に華やかに」
「御意にございます」
エクエスは頭をたれる。
「表舞台に立たぬなら、立たせるまでです。その経過で倒れるなら、それもまたよし。いずれにせよ、最高の舞台
を用意しましょう、彼女と、貴女のために」
「は。お心遣い感謝いたします。このエクエス、一命をとして姫の願いを叶えてご覧にいれましょう」
「期待しています、エクエス」
留美那は踵を返し、屋敷へと戻る。エクエスもまたそれに続く。
「――ジ・オリジン。いずれ必ず私のものにしてみせます。
この私、篠房留美那――――いえ」
振り返る。
その彼女の頭には、猫耳が装着されていた。
「世界征服を企む悪の秘密結社、ねこねこ団が」
続く
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