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「クラウ・ソナス(プロローグ)」(2006/11/19 (日) 13:57:35) の最新版変更点
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……
……………
『TYPE ANGEL 起動』
目を開けて初めて見えたのは天井。そのまま視界を左右へと走らせると、白い壁紙と布製品の入ったクリアボックス、黒い箱のコンピュータが見えた。繋がっているディスプレイには『神姫.NET』のホームページ。
ゆっくりと上体を起こしていくと、より広い範囲が見渡せた。
白と黒の、チェス板のような座卓の上に置かれた自分のケース。床はフローリング。背中側には窓から青空が見える。そして正面には閉じられたドア。
自分以外の誰も居ない小さな部屋で、彼女は初めて『世界』を見た。
予めインプットされていたデータの知識が、彼女に世界を教えていく。何もかも初めて見るのに、その知識は全部自分の中にある。わからないことは何もない。
『登録者設定を行ってください』
頭の中にデータが流れる。神姫が最初に行うプロセス、マスターの登録を行わなくてはいけないようだ。しかし、肝心のマスター候補者が見当たらない。
彼女は困惑した。ただでさえ初めての世界、初めての登録。それなのに肝心なモノが足りない。何も知らない世界で、得体の知れない不安の波が押し寄せてくる。
それは時間と共に大きな波となって降りかかる。1秒を刻む毎に大きく、強く、暗く。
一刻も早く、この不安から逃れたい。マスターを登録すれば、この不安から解放される。
彼女の中に予め植え付けられたプログラムは、早く彼女にマスター登録を行わせるために感情回路を刺激する。登録が済まないうちは、時間とともに強い刺激を送り続ける。そして一定期間の登録が行われない場合、感情回路のオーバーフローにより、彼女は再び眠りに落ちるように設定されている。
そのタイムリミットまで、あと180.24sec。
初期起動から486.22sec経ったとき、それまでコンピュータの中の冷却ファンの音しかなかった部屋に、変化が現れた。
正面のドアが静かに開き、そして一人の人間が姿を現した。
すらりとした体躯、色素の薄い黒髪は、少し長めであちこちに撥ねている。視覚から得られる情報を次々と解析していく。
身長150.2cm 体重41kg 男性。推定年齢…14歳。眼鏡を着用。予備知識の言うところでは、青の薄手の長袖に灰色のTシャツ、デニム生地のパンツという組み合わせは『イケてない』らしい。
「あれ、もう起きてたんだ。じゃ、急がないとね」
声変わりの途中なのか、それともわざと、もっともらしくなのか。アルト長の声で少年は言った。
「ボクがキミのマスター、『暁 光矢』です。って、言うだけでいいんだっけ?」
『声紋採取完了。登録確認。マスターを『暁光矢』と設定』
「ぁ、は、ハイ!!了解しましたマスター!私、天使型MMSアーンヴァルです!! 以後よろしくお願いします」
眼前の少年を確認すると、先ほどまで走っていた不安感覚がすぅっと抜けていくのを感じた。
* * *
「隠れんぼしてもムダにゃ!ねここからは逃げられないよ!!」
草むらの中、元気な声をあげて駆け回るMMSが居た。巷で話題のマオチャオTYPE神姫、ねここだ。
1と0とを組み合わせて造られた、非常に精巧な世界。彼女が駆け回っているのは本物の草むらではなく、データ上での神姫同士の戦いの場『アリーナ』である。現在、エキシビジョン試合が行われており、挑戦者の通達を受けた風見氏&ねここがリング(センターモニターに映されるフィールド)にあがっていた。
開戦から6分、互いの攻撃を幾度かずつ交わした後に、挑戦者である天使型MMSは背の高い草むらに身を隠した。それを追いかけて勢いよく走りこんできたねここだったが、胸ほどまである草の中では、なかなか敵を見つけることができないでいた。一方、姿をくらました挑戦者は、音と草の動き、空気の流れなどを計測し、相手の姿を視覚にこそ捉えないものの、その位置を正確に割り出していた。
距離2m143mm、胸部までの高さのずれ82mm。速度平均302,2mm/sec、方位280。
相手に気取られぬように、慎重に右手のライフルを体の前に出す。右膝を地面についた体勢で、左手をライフルに添える。ゆっくりと、しかし確実に。彼女は息を殺し狙いを1点、ねここの移動予測から割り出した3秒後の胸の位置へと向けた。そして、
「左手は添えるだ……ぇ!?」
「見つけた!そこぉ!!」
急激に向きを変え、ねここが迫ってきた。天使の予想は大きく外れ、慌てて照準を正そうとするが、体勢、目標の補足、武器の使用経験、そして場数。すべてに於いてねここが上回ったこのとき、勝敗は決した。
天使が銃を向けるより早く、懐に飛び込んだは、ねここはそのまま挑戦者の胸部アーマーを掴み草むらから引き上げた。早すぎるねここの動きに、一瞬世界がひっくり返ったような感覚を受けた天使は、次の瞬間、胸部から痛覚および熱を感知し、ねここの必殺の台詞とともに電圧値が上昇、機能を停止した。
「スパーク・エンドォォォ!!」
* * *
「すみません、マスター。また負けてしまいました……」
「いやいや、相手があの風見さんだったんだもん。仕方ないよ。武器もまだ不慣れなやつだし」
ホビーショップエルゴからの帰り道、光矢は胸ポケットに居る神姫に慰めの声をかけた。
「クラウはよくやってくれてるよ。あとは場数を踏めばきっと強くなれるよ」
クラウ・ソナスと名付けられた光矢の神姫は、バトルアリーナに挑戦を始めてから2週間。未だ勝ち星を得ていないのである。対戦毎に武装を変える光矢にも非があるが、それよりも神姫自体が戦いに慣れていないため、場数を踏んできた猛者を相手に手を崩されてばかりだった。先ほども、勝者ねここの話によると、草むらで声が聞こえたので場所が割れたということらしい。スナイパーの鉄則、音を立てない。を大きく自分から破ってしまったのが敗因だったらしい。
「また次、頑張ろう。一つずつ覚えていって、少しずつ強くなっていこう、ね?」
「……はい。次こそは必ず!」
プロローグEND
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『TYPE ANGEL 起動』
目を開けて初めて見えたのは天井。そのまま視界を左右へと走らせると、白い壁紙と布製品の入ったクリアボックス、黒い箱のコンピュータが見えた。繋がっているディスプレイには『神姫.NET』のホームページ。
ゆっくりと上体を起こしていくと、より広い範囲が見渡せた。
白と黒の、チェス板のような座卓の上に置かれた自分のケース。床はフローリング。背中側には窓から青空が見える。そして正面には閉じられたドア。
自分以外の誰も居ない小さな部屋で、彼女は初めて『世界』を見た。
予めインプットされていたデータの知識が、彼女に世界を教えていく。何もかも初めて見るのに、その知識は全部自分の中にある。わからないことは何もない。
『登録者設定を行ってください』
頭の中にデータが流れる。神姫が最初に行うプロセス、マスターの登録を行わなくてはいけないようだ。しかし、肝心のマスター候補者が見当たらない。
彼女は困惑した。ただでさえ初めての世界、初めての登録。それなのに肝心なモノが足りない。何も知らない世界で、得体の知れない不安の波が押し寄せてくる。
それは時間と共に大きな波となって降りかかる。1秒を刻む毎に大きく、強く、暗く。
一刻も早く、この不安から逃れたい。マスターを登録すれば、この不安から解放される。
彼女の中に予め植え付けられたプログラムは、早く彼女にマスター登録を行わせるために感情回路を刺激する。登録が済まないうちは、時間とともに強い刺激を送り続ける。そして一定期間の登録が行われない場合、感情回路のオーバーフローにより、彼女は再び眠りに落ちるように設定されている。
そのタイムリミットまで、あと180.24sec。
初期起動から486.22sec経ったとき、それまでコンピュータの中の冷却ファンの音しかなかった部屋に、変化が現れた。
正面のドアが静かに開き、そして一人の人間が姿を現した。
すらりとした体躯、色素の薄い黒髪は、少し長めであちこちに撥ねている。視覚から得られる情報を次々と解析していく。
身長150.2cm 体重41kg 男性。推定年齢…14歳。眼鏡を着用。予備知識の言うところでは、青の薄手の長袖に灰色のTシャツ、デニム生地のパンツという組み合わせは『イケてない』らしい。
「あれ、もう起きてたんだ。じゃ、急がないとね」
声変わりの途中なのか、それともわざと、もっともらしくなのか。アルト長の声で少年は言った。
「ボクがキミのマスター、『暁 光矢』です。って、言うだけでいいんだっけ?」
『声紋採取完了。登録確認。マスターを『暁光矢』と設定』
「ぁ、は、ハイ!!了解しましたマスター!私、天使型MMSアーンヴァルです!! 以後よろしくお願いします」
眼前の少年を確認すると、先ほどまで走っていた不安感覚がすぅっと抜けていくのを感じた。
* * *
「隠れんぼしてもムダにゃ!ねここからは逃げられないよ!!」
草むらの中、元気な声をあげて駆け回るMMSが居た。巷で話題のマオチャオTYPE神姫、ねここだ。
1と0とを組み合わせて造られた、非常に精巧な世界。彼女が駆け回っているのは本物の草むらではなく、データ上での神姫同士の戦いの場『アリーナ』である。現在、エキシビジョン試合が行われており、挑戦者の通達を受けた風見氏&ねここがリング(センターモニターに映されるフィールド)にあがっていた。
開戦から6分、互いの攻撃を幾度かずつ交わした後に、挑戦者である天使型MMSは背の高い草むらに身を隠した。それを追いかけて勢いよく走りこんできたねここだったが、胸ほどまである草の中では、なかなか敵を見つけることができないでいた。一方、姿をくらました挑戦者は、音と草の動き、空気の流れなどを計測し、相手の姿を視覚にこそ捉えないものの、その位置を正確に割り出していた。
距離2m143mm、胸部までの高さのずれ82mm。速度平均302,2mm/sec、方位280。
相手に気取られぬように、慎重に右手のライフルを体の前に出す。右膝を地面についた体勢で、左手をライフルに添える。ゆっくりと、しかし確実に。彼女は息を殺し狙いを1点、ねここの移動予測から割り出した3秒後の胸の位置へと向けた。そして、
「左手は添えるだ……ぇ!?」
「見つけた!そこぉ!!」
急激に向きを変え、ねここが迫ってきた。天使の予想は大きく外れ、慌てて照準を正そうとするが、体勢、目標の補足、武器の使用経験、そして場数。すべてに於いてねここが上回ったこのとき、勝敗は決した。
天使が銃を向けるより早く、懐に飛び込んだねここは、そのまま挑戦者の胸部アーマーを掴み草むらから引き上げた。早すぎるねここの動きに、一瞬世界がひっくり返ったような感覚を受けた天使は、次の瞬間、胸部から痛覚および熱を感知し、ねここの必殺の台詞とともに電圧値が上昇、機能を停止した。
「スパーク・エンドォォォ!!」
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「すみません、マスター。また負けてしまいました……」
「いやいや、相手があの風見さんだったんだもん。仕方ないよ。武器もまだ不慣れなやつだし」
ホビーショップエルゴからの帰り道、光矢は胸ポケットに居る神姫に慰めの声をかけた。
「クラウはよくやってくれてるよ。あとは場数を踏めばきっと強くなれるよ」
クラウ・ソナスと名付けられた光矢の神姫は、バトルアリーナに挑戦を始めてから2週間。未だ勝ち星を得ていないのである。対戦毎に武装を変える光矢にも非があるが、それよりも神姫自体が戦いに慣れていないため、場数を踏んできた猛者を相手に手を崩されてばかりだった。先ほども、勝者ねここの話によると、草むらで声が聞こえたので場所が割れたということらしい。スナイパーの鉄則、音を立てない。を大きく自分から破ってしまったのが敗因だったらしい。
「また次、頑張ろう。一つずつ覚えていって、少しずつ強くなっていこう、ね?」
「……はい。次こそは必ず!」
プロローグEND
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