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「第7話 『それは初めての・・・』」(2014/12/27 (土) 20:07:15) の最新版変更点
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「(……姦しいな)」
三者三様の感想を言いながら楽しそうに買い物をする女性陣を眺めながら、周防はふとそんな事を思う。
普段から女っ気の無い生活を送ってきた男としては、妥当な感想かもしれなかった。
尚、現在彼女達が眺めているのは神姫用アクセサリーのコーナー。
最初は周防も付き合いで入ったものの全く解らない世界なのに加えて、爪先程のサイズとは思えない値段に驚愕してしまい、現在は適当に理由をつけてその場から離脱し、コーナー前のベンチをどっかりと占拠。煙草を吹かしながら、時々笑顔を送ってくる彼女達に愛想笑いを返すのが主な仕事になっていた。
「兄さま~、こっちに来て下さいよー。一緒に選んでくださいってば」
「いやいいよ。今の俺は財布係だから、好きなのを選んでくれて構わないよ」
スミレが良く通る声で周防を呼ぶも、当の本人は素っ気無い。
「むー、それじゃあ飛びっきり高いやつを選んで兄さまをびっくりさせちゃうんですから。見ていてくださいね、兄さま♪」
表情は笑っていても、目は笑っていない。そんな笑顔かもしれなかった。
「やれやれ……わかったよ。一緒に選べばいいんだろ」
これも男の甲斐性だと思い直しつつ、重い腰を上げる。
アクセサリーの中には0が5桁あったのを思い出したからでは決して無い、と信じたい。
「はいっ、お願いしますね! それが終わったら今度はお洋服です。本当に楽しみがいっぱいですっ」
天使のような笑顔で応えるスミレ。それが見れただけでも、此処まで来た甲斐があったのだと周防は感じていた。
***第7話 『それは初めての……』
「兄さま、ありがとうございます。大切にしますねっ」
「嗚呼、そうしてくれ」
嬉しそうにクルクルと身を翻すスミレ。そんな彼女の胸元にはアクセサリ-が輝いている。
虹色の輝きを放つハート型のダイヤに天使の羽があしらわれたペンダントはとても可愛らしく、スミレの笑顔を引き立てていた。
「……それにしても、結構したなぁ」
彼女には聞こえないよう、ボソリと呟く。
何カラットかはよく解らないが本物のダイヤモンドだったらしく、それだけで財布の中身が半分に減っていた。
更に洋服等の買い物をたっぷりとした結果、今や財布のHPは限りなく0に近づいている。
「まぁ、これも男の甲斐性ってヤツかな」
そうカッコつけてみるものの、すぐに今月の生活費を心配してしまう辺り、結構未練がましいのかもしれない。
「大丈夫ですか、先生?」
その言葉に振り向くと、白瀬が缶コーヒーを周防に差し出している。周防は軽く会釈をしながらその心遣いを受け取る。
「ええ、大丈夫ですよ。こういうのに慣れてないだけですから」
「そうですね。よく男の方は女の買い物に付き合うのが苦手と仰いますし、少し私もはしゃいでしまったかもしれません。ごめんなさいね」
確かに今日の白瀬は、大学で顔を会わせている時よりもテンションが高かった。プライベートだとこうなのだろうと周防は気にしていなかったが。
「いやいや、付き合って頂いてるのは此方の方なので」
「つ、つきあ……っ」
「ええ。それと提案なんですが、外では先生という呼び方はお互い止めませんか? せっかくのオフなんですし」
「あ、そ、そうですね確かにっ。ええと、勇人さん……はいきなりすぎますし、まずは周防さん、で良いですか先生っ!」
「いやそれ言葉がおかしいですよ。まぁ俺は別に名前でも構いませんが」
更にテンションの上がる白瀬。
「あ、そうなんですかっ。いやでも此処は苗字でお願いしますっ。私の事はご自由に呼んでくださって構いませんのでっ」
周防はその提案に少し考え込むような素振りを見せて。
「了解しました。じゃあ白瀬さんで」
「あ、はいっ。……そうですよね、まぁ最初はそうですよねっ」
周防の言葉に一喜一憂するように、白瀬の表情がくるくる変化していく。
「それと、彼女の嬉しそうな顔が見られただけでも、俺は満足ですから。だから白瀬さんも気にしないで下さい」
「かっ、カノ!?」
「ええ、スミレの笑顔が今の俺の幸せなんですよ」
その一言で、上気していた白瀬の顔が更に真っ赤になり。
「……ぇ、ぁ、あははは。そ、そうですねっ。スミレちゃん可愛いですもんねっ」
一瞬の硬直。そしてはぁと一息。
そして次の呼吸で彼女は表情をまた変化させて。
「それじゃあ、このあとはどうしましょうか?」
「前も言いましたが、私は詳しくないので白瀬さんにお任せしますよ」
「了解です。そうですね……買い物は十分堪能したようですし、次は対戦コーナーの方へ行きましょうか」
「……そう、ですね」
「あら? 何か問題が」
少しの躊躇。顔に出てしまったのだろうか。
「いえ、ただ彼女がそういう事をするのだろうかと思いまして」
「うーん、多少の個人差はあれど神姫はみんなバトルを好むと思いますよ。なんと言っても、彼女たちは武装神姫なんですから」
「……そうですね」
鸚鵡返しのような反応。しかし周防はそれ以上言うべき言葉を持たない。
そもそもコレは周防自身の思い込み、或いは願望であり、彼女の意思を尊重しているとは言えないかもしれない。
「……じゃあ、こうしましょう。クロちゃんがやりたいみたいですし、今度は私に付き合ってくださいね、周防さん」
イタズラっ子のように、指を鼻先にちょんと当ててくる白瀬。
「わかりました。今度は俺が白瀬さんにお付き合いしますよ」
そう言われてしまうと、周防としても断る理由は無い。
「スミレ、行くぞ」
「はいっ。兄さまとでしたら何処へでも」
その言葉にスミレは待ってましたとばかりに周防の肩へと移動する。
そして4人は雑踏の中に足を踏み入れるのであった。
「ほぇー……壮観ですねぇ」
上京してきたお上りさんのように、周囲をキョロキョロと見渡しては感心するスミレ。
地域でもトップクラスの規模と言うだけあって、そこには十台を優に超えるシュミレータや観戦用モニタがずらりと並ぶ。
そして画面の中では、煌びやかなエフェクトに彩られ華麗に戦う、様々な姿の神姫たちが映し出されていた。
「私も始めて来た時は圧倒されましたね。
今は多少慣れたつもりですけど、それでも今日みたいな休日は凄いと思います」
「確かになぁ……」
右を見ても左を見ても、人、人、人、そして彼ら彼女らの小さなパートナーたち。
華やかで活気に溢れた空間がそこにあった。
「ちなみに此処の筐体は全部バーチャル形式なので、神姫が傷つく事はありませんよ。
だから女性のマスターも積極的に参加してるみたいです。私もその1人という事になりますね」
彼女は照れ隠しのように、てへへと笑う。
「初期の頃は実際に戦うリアル形式が中心だったそうなんですけど、それだと不慮の事故も多かったらしくて。
だから、今はバーチャル形式の方が中心になってきていて人気も高いみたいですね。
何より安全ですし、実際には無いシチュエーションや、派手な戦いが出来るみたいですから」
「なるほど。それなら確かに安心ですね」
そんな2人の会話を遮るように、クロが白瀬の襟元を遠慮がちにくいくいと引っ張る。
「ねーちゃ、登録……」
「あっと。そうね、早めに利用登録しなきゃ混んじゃうものね。
それじゃ私達は登録に行ってきます。少し待ってて下さいね」
そう言うと、彼女は慣れた足取りで受付カウンターへ歩いていく。
「凄い……」
そしてもう1人の彼女は、先ほどから憧憬の念を浮かべ、神姫たちの饗宴が繰り広げられている画面をじっと見つめている。
その姿は純心で、しかし硝子細工のように何処か儚げで。
「……やってみるか、スミレ?」
「え…… でも、いいんですか、兄さま。だって私……」
少女は透き通った瞳で見つめてくる。戸惑いと、期待が綯い交ぜになったその瞳で。
「アイツにも確認は取ってある。問題は無い」
頬に浮かぶ水玉模様。それは悲しみにくれた雨粒ではなく、晴れを迎えるための朝露の輝き。
「……はいっ! 私、やりますっ」
「嗚呼、それじゃあ2人に追いついて参加方法を聞かないとな」
キミの笑顔。もう二度と曇らせたくは無いから。
そんな2人の会話を、白瀬は少しだけ離れた筐体の影で聞いていた。
「あの調子なら、すぐ追いかけて来ると思って待ってたら……あーぁ、ちょっと妬けちゃうかな」
「ねーちゃには……ボクが、いる……もん」
「ふふ、貴方に心配されるようじゃ私もまだまだね。でも……ありがとね、クロちゃん」
返事のように、クロはきゅっと裾を掴んだ手に力を込める。
「あ、此方にいましたか」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
いきなり背後から声をかけられ、素っ頓狂な声を上げてしまう。
「び、びっくりしたぁ……って周防さん、何時の間にっ」
白瀬が慌てて振り返ると、そこには向こうも驚いた様子の周防とスミレの姿があった。
「いえ、俺たちも受付カウンターに行こうとしたら、白瀬さん達の姿が目に入って声を掛けたんですけど、何か不味かったですか?」
「い、いえ別に何もありまひぇんよ!?」
まだドキドキと心臓が高鳴っている。彼の様子から察するに、先程の会話を聞かれた様子は無さそうだが。
「その、あの、ジェリカンを買うのを忘れてまして、そこの自販機で買おうかなと、そうなんですよっ」
こっそり会話を聞いていた後ろめたさから、つい言い訳がましい事(実際言い訳なのだが)を次から次へと捲くし立てる。
「そ、そうなんですか……。
あ、と。それでですね、俺たちもバトルをやってみようと思うんですが、やり方がよく解らないので教えてもらえますか?」
「あ、はい、喜んでっ。それじゃ一緒に行きましょうか、すぐ受付を終わらせてしまいましょう」
落ち着け落ち着けと心の中で叫びながら、周防を先導するように歩き始める白瀬。
だがそれは半ば周防に今の顔を見られたくない一心からでもあった。
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「(……姦しいな)」
三者三様の感想を言いながら楽しそうに買い物をする女性陣を眺めながら、周防はふとそんな事を思う。
普段から女っ気の無い生活を送ってきた男としては、妥当な感想かもしれなかった。
尚、現在彼女達が眺めているのは神姫用アクセサリーのコーナー。
最初は周防も付き合いで入ったものの全く解らない世界なのに加えて、爪先程のサイズとは思えない値段に驚愕してしまい、現在は適当に理由をつけてその場から離脱し、コーナー前のベンチをどっかりと占拠。煙草を吹かしながら、時々笑顔を送ってくる彼女達に愛想笑いを返すのが主な仕事になっていた。
「兄さま~、こっちに来て下さいよー。一緒に選んでくださいってば」
「いやいいよ。今の俺は財布係だから、好きなのを選んでくれて構わないよ」
スミレが良く通る声で周防を呼ぶも、当の本人は素っ気無い。
「むー、それじゃあ飛びっきり高いやつを選んで兄さまをびっくりさせちゃうんですから。見ていてくださいね、兄さま♪」
表情は笑っていても、目は笑っていない。そんな笑顔かもしれなかった。
「やれやれ……わかったよ。一緒に選べばいいんだろ」
これも男の甲斐性だと思い直しつつ、重い腰を上げる。
アクセサリーの中には0が5桁あったのを思い出したからでは決して無い、と信じたい。
「はいっ、お願いしますね! それが終わったら今度はお洋服です。本当に楽しみがいっぱいですっ」
天使のような笑顔で応えるスミレ。それが見れただけでも、此処まで来た甲斐があったのだと周防は感じていた。
***第7話 『それは初めての……』
「兄さま、ありがとうございます。大切にしますねっ」
「嗚呼、そうしてくれ」
嬉しそうにクルクルと身を翻すスミレ。そんな彼女の胸元にはアクセサリ-が輝いている。
虹色の輝きを放つハート型のダイヤに天使の羽があしらわれたペンダントはとても可愛らしく、スミレの笑顔を引き立てていた。
「……それにしても、結構したなぁ」
彼女には聞こえないよう、ボソリと呟く。
何カラットかはよく解らないが本物のダイヤモンドだったらしく、それだけで財布の中身が半分に減っていた。
更に洋服等の買い物をたっぷりとした結果、今や財布のHPは限りなく0に近づいている。
「まぁ、これも男の甲斐性ってヤツかな」
そうカッコつけてみるものの、すぐに今月の生活費を心配してしまう辺り、結構未練がましいのかもしれない。
「大丈夫ですか、先生?」
その言葉に振り向くと、白瀬が缶コーヒーを周防に差し出している。周防は軽く会釈をしながらその心遣いを受け取る。
「ええ、大丈夫ですよ。こういうのに慣れてないだけですから」
「そうですね。よく男の方は女の買い物に付き合うのが苦手と仰いますし、少し私もはしゃいでしまったかもしれません。ごめんなさいね」
確かに今日の白瀬は、大学で顔を会わせている時よりもテンションが高かった。プライベートだとこうなのだろうと周防は気にしていなかったが。
「いやいや、付き合って頂いてるのは此方の方なので」
「つ、つきあ……っ」
「ええ。それと提案なんですが、外では先生という呼び方はお互い止めませんか? せっかくのオフなんですし」
「あ、そ、そうですね確かにっ。ええと、勇人さん……はいきなりすぎますし、まずは周防さん、で良いですか先生っ!」
「いやそれ言葉がおかしいですよ。まぁ俺は別に名前でも構いませんが」
更にテンションの上がる白瀬。
「あ、そうなんですかっ。いやでも此処は苗字でお願いしますっ。私の事はご自由に呼んでくださって構いませんのでっ」
周防はその提案に少し考え込むような素振りを見せて。
「了解しました。じゃあ白瀬さんで」
「あ、はいっ。……そうですよね、まぁ最初はそうですよねっ」
周防の言葉に一喜一憂するように、白瀬の表情がくるくる変化していく。
「それと、彼女の嬉しそうな顔が見られただけでも、俺は満足ですから。だから白瀬さんも気にしないで下さい」
「かっ、カノ!?」
「ええ、スミレの笑顔が今の俺の幸せなんですよ」
その一言で、上気していた白瀬の顔が更に真っ赤になり。
「……ぇ、ぁ、あははは。そ、そうですねっ。スミレちゃん可愛いですもんねっ」
一瞬の硬直。そしてはぁと一息。
そして次の呼吸で彼女は表情をまた変化させて。
「それじゃあ、このあとはどうしましょうか?」
「前も言いましたが、私は詳しくないので白瀬さんにお任せしますよ」
「了解です。そうですね……買い物は十分堪能したようですし、次は対戦コーナーの方へ行きましょうか」
「……そう、ですね」
「あら? 何か問題が」
少しの躊躇。顔に出てしまったのだろうか。
「いえ、ただ彼女がそういう事をするのだろうかと思いまして」
「うーん、多少の個人差はあれど神姫はみんなバトルを好むと思いますよ。なんと言っても、彼女たちは武装神姫なんですから」
「……そうですね」
鸚鵡返しのような反応。しかし周防はそれ以上言うべき言葉を持たない。
そもそもコレは周防自身の思い込み、或いは願望であり、彼女の意思を尊重しているとは言えないかもしれない。
「……じゃあ、こうしましょう。クロちゃんがやりたいみたいですし、今度は私に付き合ってくださいね、周防さん」
イタズラっ子のように、指を鼻先にちょんと当ててくる白瀬。
「わかりました。今度は俺が白瀬さんにお付き合いしますよ」
そう言われてしまうと、周防としても断る理由は無い。
「スミレ、行くぞ」
「はいっ。兄さまとでしたら何処へでも」
その言葉にスミレは待ってましたとばかりに周防の肩へと移動する。
そして4人は雑踏の中に足を踏み入れるのであった。
「ほぇー……壮観ですねぇ」
上京してきたお上りさんのように、周囲をキョロキョロと見渡しては感心するスミレ。
地域でもトップクラスの規模と言うだけあって、そこには十台を優に超えるシュミレータや観戦用モニタがずらりと並ぶ。
そして画面の中では、煌びやかなエフェクトに彩られ華麗に戦う、様々な姿の神姫たちが映し出されていた。
「私も始めて来た時は圧倒されましたね。
今は多少慣れたつもりですけど、それでも今日みたいな休日は凄いと思います」
「確かになぁ……」
右を見ても左を見ても、人、人、人、そして彼ら彼女らの小さなパートナーたち。
華やかで活気に溢れた空間がそこにあった。
「ちなみに此処の筐体は全部バーチャル形式なので、神姫が傷つく事はありませんよ。
だから女性のマスターも積極的に参加してるみたいです。私もその1人という事になりますね」
彼女は照れ隠しのように、てへへと笑う。
「初期の頃は実際に戦うリアル形式が中心だったそうなんですけど、それだと不慮の事故も多かったらしくて。
だから、今はバーチャル形式の方が中心になってきていて人気も高いみたいですね。
何より安全ですし、実際には無いシチュエーションや、派手な戦いが出来るみたいですから」
「なるほど。それなら確かに安心ですね」
そんな2人の会話を遮るように、クロが白瀬の襟元を遠慮がちにくいくいと引っ張る。
「ねーちゃ、登録……」
「あっと。そうね、早めに利用登録しなきゃ混んじゃうものね。
それじゃ私達は登録に行ってきます。少し待ってて下さいね」
そう言うと、彼女は慣れた足取りで受付カウンターへ歩いていく。
「凄い……」
そしてもう1人の彼女は、先ほどから憧憬の念を浮かべ、神姫たちの饗宴が繰り広げられている画面をじっと見つめている。
その姿は純心で、しかし硝子細工のように何処か儚げで。
「……やってみるか、スミレ?」
「え…… でも、いいんですか、兄さま。だって私……」
少女は透き通った瞳で見つめてくる。戸惑いと、期待が綯い交ぜになったその瞳で。
「アイツにも確認は取ってある。問題は無い」
頬に浮かぶ水玉模様。それは悲しみにくれた雨粒ではなく、晴れを迎えるための朝露の輝き。
「……はいっ! 私、やりますっ」
「嗚呼、それじゃあ2人に追いついて参加方法を聞かないとな」
キミの笑顔。もう二度と曇らせたくは無いから。
そんな2人の会話を、白瀬は少しだけ離れた筐体の影で聞いていた。
「あの調子なら、すぐ追いかけて来ると思って待ってたら……あーぁ、ちょっと妬けちゃうかな」
「ねーちゃには……ボクが、いる……もん」
「ふふ、貴方に心配されるようじゃ私もまだまだね。でも……ありがとね、クロちゃん」
返事のように、クロはきゅっと裾を掴んだ手に力を込める。
「あ、此方にいましたか」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
いきなり背後から声をかけられ、素っ頓狂な声を上げてしまう。
「び、びっくりしたぁ……って周防さん、何時の間にっ」
白瀬が慌てて振り返ると、そこには向こうも驚いた様子の周防とスミレの姿があった。
「いえ、俺たちも受付カウンターに行こうとしたら、白瀬さん達の姿が目に入って声を掛けたんですけど、何か不味かったですか?」
「い、いえ別に何もありまひぇんよ!?」
まだドキドキと心臓が高鳴っている。彼の様子から察するに、先程の会話を聞かれた様子は無さそうだが。
「その、あの、ジェリカンを買うのを忘れてまして、そこの自販機で買おうかなと、そうなんですよっ」
こっそり会話を聞いていた後ろめたさから、つい言い訳がましい事(実際言い訳なのだが)を次から次へと捲くし立てる。
「そ、そうなんですか……。
あ、と。それでですね、俺たちもバトルをやってみようと思うんですが、やり方がよく解らないので教えてもらえますか?」
「あ、はい、喜んでっ。それじゃ一緒に行きましょうか、すぐ受付を終わらせてしまいましょう」
落ち着け落ち着けと心の中で叫びながら、周防を先導するように歩き始める白瀬。
だがそれは半ば周防に今の顔を見られたくない一心からでもあった。
[[続く>第8話 『初陣』]]
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