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「堂々としていればいいのです7」(2013/04/16 (火) 22:09:15) の最新版変更点
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大会が終わり、アミューズメントフロアでは後片付けにスタッフ神姫たちが飛び交う。
ゲーム筐体には<メンテナンス中。ご迷惑おかけします>の表示。すでに夕方、会場を訪れていた観客たちも次々に帰っていく。
シュンは一足先に会場を去り、一階の喫茶店で休んでいた。
本当は優勝者としてインタビューなんかもあったのだが、面倒なのでそういうのは全部伊吹たちに任せてきた。
あのコンビはマスター・神姫揃ってノリがいいから別に問題ないだろう。今度配信される神姫センターの公式ウェブマガジン「武装神姫ジャーナルMAYANO」では、きっと悪ノリした二人がデカデカと載ることになるに違いない。
ウェイトレス神姫が運んできた紅茶を飲みながら、シュンは向かいの席に目を向ける。
そちらではワンピースの上に白衣をまとった妹の由宇が、机に広げたタブレット端末を熱心に操作している。端末の先にはクレイドルが繋がれ、そこに腰掛けているのは当然ゼリスだ。
由宇は嬉々として操作を終えると、ツインテールを揺らしながら顔を上げる。
「うん、ゼリスも武装もどっちも問題なし! お疲れ様♪」
ゼリスは「ユウ、感謝するのは私の方です」と頭を下げる。ゼリスの言うように、オーラシオン武装と由宇の調整がなかったら、優勝するのは難しかっただろう。その意味で彼女は今日の最大の功労者と言ってよかった。
「ありがとな、ユウ。優勝できたのはお前のお陰だよ。奢ってやるから好きなもん頼んでいいぞ?」
「ホント!? じゃあ、ムルメルティアの無限軌道ロールケーキセットね! やったー、これ前から一度食べてみたかったんだぁ♪」
ころころ笑みながら、由宇は早速近くのウェイトレス神姫を呼び止めている。……全く、こういうところは年相応に可愛らしいんだけどなあ。
「……ふふん、そういうことなら私も何か奢ってもらおうかしら?」
「わわっ、伊吹!? いつの間にいたんだ?」
「やっとインタビューが終わってね、ついさっきよ。もう~夏大会に向けての抱負とか、シュッちゃんとの関係とかいろいろ聞かれてねー。長くなりそうだから途中で抜け出してきちゃった。ワカナも疲れて眠っちゃったしね」
上着のポケットでスヤスヤ寝息を立てるワカナを、伊吹は愛おしそうに撫でている。いや、途中で抜け出したって……それって終わったって言わないだろう。
呆れるシュンに対し、伊吹は「まあ、人気者の特権みたいなもんよ」と気にせずケラケラと笑っている。
「でも、今日はシュッちゃんに奢ってもらわなくてもいいわよ」
えっ、とシュンが顔を上げる。そこでは伊吹と由宇、ふたりがやさしく微笑んでいた。
「簡単な話です。今日一番の功労者はシュン、あなただからですよ」
ゼリスまで当然といった顔でシュンを見上げる。
いや、でもどちらかと言うと僕は足を引っ張ってばかりだったはず。そもそも試合で一番活躍していたのは伊吹とワカナだった訳で……
「な~に言ってるのよ。決勝戦を勝てたのは、シュっちゃんの作戦があったからでしょう?」
「……偶然だよ。たまたまうまくいっただけで、みんなのフォローがなかったら成功しなかったって」
伊吹にそう言われても、シュンとしては今回の大会は反省することばかりだったのだ。
作戦にしたってシュンはアルミフォイルを〝チャフ〟にするアイデアを思いついただけで、成功したのは伊吹とワカナによる陽動や、ゼリスの判断が的確だったからだ。シュン一人で成し遂げたものではない。
シュンがウジウジと悩んでいると、不意にゼリスが彼の頭に飛び乗る。かと思うと――
「――っ!? いってー!」
額に強烈なデコピンが炸裂した。
「いつまで悩んでいるのですか? もっと堂々としていればいいのです」
痛みを堪えつつ目を開けると、エメラルドの瞳と目が合った。
「……何もかもひとりでやろうとする必要はないでしょう? 仲間同士で助け合い、長所を合わせ短所を補い合った方が効率的というものです」
ゼリスらしい単刀直入な理攻めだった。まあ、確かにその通り。
「それから――」とゼリスは続ける。
「それは神姫とマスターも同じです。足りない部分があったらお互いに補っていけばいいのですよ。少なくとも――」
ゼリスの小さなささやき――それが、突然の闖入者に遮られた。
「ちゃーっす。兄ちゃんたち、ここにおったんやな~!」
「姐御も一緒か。こりゃちょうどええな!」
「あなたたち、どーしたのよ?」
唐突に現れた金町兄弟は、口の端をニッとそっくり同じ角度で持ち上げる。
「帰る前にアイサツしとこう思うてたんや。……今日はありがとうな、負けたけど久しぶりに楽しい試合やったで」
晴れ晴れとした笑顔の兄、笑太。
「前の街は退屈やったけど、これからは姐御を目標に頑張ることにしたんや。よろしくな~」
同じく笑みを浮かべる弟、福太。ふたりとも負けた悔しさを感じさせない、さっぱりした態度だった。
そんな双子の屈託のない笑顔に、伊吹も自然と顔がほころぶ。
「ふふん、挑戦ならいつでも歓迎するわ。また楽しいバトルをしましょうね?」
もちろん、と双子は嬉しそうに返事をする。
「せやけど、お兄さんの作戦には負けたわ。あんな方法でオレらのコンビネーションを破られるとはなあ、仰天したで!」
「シュン兄ちゃんも、今度はシングルバトルで勝負しようや!」
ふたりのキラキラした眼差しに、なんだかシュンまで嬉しくなってきた。
「ああ! また一緒に試合しような」
シュンの返事に満足そうに頷くと「じゃあ、また会いまひょ~」と言いながら金町兄弟は帰って行った。
去り際に「次は負けへんからな」と啖呵をきるアテナとそれを抑えるリアナを見送りながら、ゼリスもどこか嬉しそうだ。
「さて……あたしたちもそろそろ帰りましょうか?」
「えぇ? このケーキ食べ終わるまで待ってよー」
見送りが終わって伊吹がそう切り出すと、一緒にニコニコしていた由宇がとたんに慌て出す。
「……ユウちゃん、半分手伝ってあげよっか?」とチェシャ猫のように笑う伊吹。
「だめー」と皿を持つユウの手を、いつの間にかテーブルに戻ったゼリスがつつく。「私が手伝ってもいいですよ?」
ギャーギャーと姦しく騒ぐ三人を眺めながら、シュンは思う。
さっきゼリスが呟いた言葉。シュンにはしっかりと届いていた。
(少なくとも――私はシュンのことを必要だと思っていますよ)
なんのことはない。シュンの悩みなど、ゼリスはとっくに気づいていた訳だ。
その上でスタンドプレーにも走らずに、彼女はバトル中ずっとシュンの指示に従って動いていた。
――シュンのことを信頼してくれていたから。必要だと思っていてくれるから。
ゼリスは、それをずっと行動で示していた。
ならばこれからは、シュンも行動で示していけばいい。
(自分に何ができるか――じゃない。ゼリスのためにできることをやるんだ!)
ゼリスがシュンのことを必要だと思ってくれるなら、シュンはゼリスのために今の自分ができることを見つけていこう。
神姫がマスターを信じて戦い、マスターは神姫のために最大限のバックアップを行う。
もとより神姫バトルとは、そういうものなのだから――。
かくして少年と彼の神姫は、新たな一歩を踏み出し始める。
今は小さな波紋に過ぎないそれが、この摩耶野市に集う神姫とマスターを巻き込んで、より大きな波紋となって疾走してことになることを、彼らはまだ知らない。
……To be continued Next Phase.
[[▲BACK>堂々としていればいいのです6]]///NEXT▼
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[[戻る>二アー・トゥ・ユー]]
SHINKI/NEAR TO YOU
Phase02-7
大会が終わり、アミューズメントフロアでは後片付けにスタッフ神姫たちが飛び交う。
ゲーム筐体には<メンテナンス中。ご迷惑おかけします>の表示。すでに夕方、会場を訪れていた観客たちも次々に帰っていく。
シュンは一足先に会場を去り、一階の喫茶店で休んでいた。
本当は優勝者としてインタビューなんかもあったのだが、面倒なのでそういうのは全部伊吹たちに任せてきた。
あのコンビはマスター・神姫揃ってノリがいいから別に問題ないだろう。今度配信される神姫センターの公式ウェブマガジン「武装神姫ジャーナルMAYANO」では、きっと悪ノリした二人がデカデカと載ることになるに違いない。
ウェイトレス神姫が運んできた紅茶を飲みながら、シュンは向かいの席に目を向ける。
そちらではワンピースの上に白衣をまとった妹の由宇が、机に広げたタブレット端末を熱心に操作している。端末の先にはクレイドルが繋がれ、そこに腰掛けているのは当然ゼリスだ。
由宇は嬉々として操作を終えると、ツインテールを揺らしながら顔を上げる。
「うん、ゼリスも武装もどっちも問題なし! お疲れ様♪」
ゼリスは「ユウ、感謝するのは私の方です」と頭を下げる。ゼリスの言うように、オーラシオン武装と由宇の調整がなかったら、優勝するのは難しかっただろう。その意味で彼女は今日の最大の功労者と言ってよかった。
「ありがとな、ユウ。優勝できたのはお前のお陰だよ。奢ってやるから好きなもん頼んでいいぞ?」
「ホント!? じゃあ、ムルメルティアの無限軌道ロールケーキセットね! やったー、これ前から一度食べてみたかったんだぁ♪」
ころころ笑みながら、由宇は早速近くのウェイトレス神姫を呼び止めている。……全く、こういうところは年相応に可愛らしいんだけどなあ。
「……ふふん、そういうことなら私も何か奢ってもらおうかしら?」
「わわっ、伊吹!? いつの間にいたんだ?」
「やっとインタビューが終わってね、ついさっきよ。もう~夏大会に向けての抱負とか、シュッちゃんとの関係とかいろいろ聞かれてねー。長くなりそうだから途中で抜け出してきちゃった。ワカナも疲れて眠っちゃったしね」
上着のポケットでスヤスヤ寝息を立てるワカナを、伊吹は愛おしそうに撫でている。いや、途中で抜け出したって……それって終わったって言わないだろう。
呆れるシュンに対し、伊吹は「まあ、人気者の特権みたいなもんよ」と気にせずケラケラと笑っている。
「でも、今日はシュッちゃんに奢ってもらわなくてもいいわよ」
えっ、とシュンが顔を上げる。そこでは伊吹と由宇、ふたりがやさしく微笑んでいた。
「簡単な話です。今日一番の功労者はシュン、あなただからですよ」
ゼリスまで当然といった顔でシュンを見上げる。
いや、でもどちらかと言うと僕は足を引っ張ってばかりだったはず。そもそも試合で一番活躍していたのは伊吹とワカナだった訳で……
「な~に言ってるのよ。決勝戦を勝てたのは、シュっちゃんの作戦があったからでしょう?」
「……偶然だよ。たまたまうまくいっただけで、みんなのフォローがなかったら成功しなかったって」
伊吹にそう言われても、シュンとしては今回の大会は反省することばかりだったのだ。
作戦にしたってシュンはアルミフォイルを〝チャフ〟にするアイデアを思いついただけで、成功したのは伊吹とワカナによる陽動や、ゼリスの判断が的確だったからだ。シュン一人で成し遂げたものではない。
シュンがウジウジと悩んでいると、不意にゼリスが彼の頭に飛び乗る。かと思うと――
「――っ!? いってー!」
額に強烈なデコピンが炸裂した。
「いつまで悩んでいるのですか? もっと堂々としていればいいのです」
痛みを堪えつつ目を開けると、エメラルドの瞳と目が合った。
「……何もかもひとりでやろうとする必要はないでしょう? 仲間同士で助け合い、長所を合わせ短所を補い合った方が効率的というものです」
ゼリスらしい単刀直入な理攻めだった。まあ、確かにその通り。
「それから――」とゼリスは続ける。
「それは神姫とマスターも同じです。足りない部分があったらお互いに補っていけばいいのですよ。少なくとも――」
ゼリスの小さなささやき――それが、突然の闖入者に遮られた。
「ちゃーっす。兄ちゃんたち、ここにおったんやな~!」
「姐御も一緒か。こりゃちょうどええな!」
「あなたたち、どーしたのよ?」
唐突に現れた金町兄弟は、口の端をニッとそっくり同じ角度で持ち上げる。
「帰る前にアイサツしとこう思うてたんや。……今日はありがとうな、負けたけど久しぶりに楽しい試合やったで」
晴れ晴れとした笑顔の兄、笑太。
「前の街は退屈やったけど、これからは姐御を目標に頑張ることにしたんや。よろしくな~」
同じく笑みを浮かべる弟、福太。ふたりとも負けた悔しさを感じさせない、さっぱりした態度だった。
そんな双子の屈託のない笑顔に、伊吹も自然と顔がほころぶ。
「ふふん、挑戦ならいつでも歓迎するわ。また楽しいバトルをしましょうね?」
もちろん、と双子は嬉しそうに返事をする。
「せやけど、お兄さんの作戦には負けたわ。あんな方法でオレらのコンビネーションを破られるとはなあ、仰天したで!」
「シュン兄ちゃんも、今度はシングルバトルで勝負しようや!」
ふたりのキラキラした眼差しに、なんだかシュンまで嬉しくなってきた。
「ああ! また一緒に試合しような」
シュンの返事に満足そうに頷くと「じゃあ、また会いまひょ~」と言いながら金町兄弟は帰って行った。
去り際に「次は負けへんからな」と啖呵をきるアテナとそれを抑えるリアナを見送りながら、ゼリスもどこか嬉しそうだ。
「さて……あたしたちもそろそろ帰りましょうか?」
「えぇ? このケーキ食べ終わるまで待ってよー」
見送りが終わって伊吹がそう切り出すと、一緒にニコニコしていた由宇がとたんに慌て出す。
「……ユウちゃん、半分手伝ってあげよっか?」とチェシャ猫のように笑う伊吹。
「だめー」と皿を持つユウの手を、いつの間にかテーブルに戻ったゼリスがつつく。「私が手伝ってもいいですよ?」
ギャーギャーと姦しく騒ぐ三人を眺めながら、シュンは思う。
さっきゼリスが呟いた言葉。シュンにはしっかりと届いていた。
(少なくとも――私はシュンのことを必要だと思っていますよ)
なんのことはない。シュンの悩みなど、ゼリスはとっくに気づいていた訳だ。
その上でスタンドプレーにも走らずに、彼女はバトル中ずっとシュンの指示に従って動いていた。
――シュンのことを信頼してくれていたから。必要だと思っていてくれるから。
ゼリスは、それをずっと行動で示していた。
ならばこれからは、シュンも行動で示していけばいい。
(自分に何ができるか――じゃない。ゼリスのためにできることをやるんだ!)
ゼリスがシュンのことを必要だと思ってくれるなら、シュンはゼリスのために今の自分ができることを見つけていこう。
神姫がマスターを信じて戦い、マスターは神姫のために最大限のバックアップを行う。
もとより神姫バトルとは、そういうものなのだから――。
かくして少年と彼の神姫は、新たな一歩を踏み出し始める。
今は小さな波紋に過ぎないそれが、この摩耶野市に集う神姫とマスターを巻き込んで、より大きな波紋となって疾走してことになることを、彼らはまだ知らない。
……To be continued Next Phase.
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