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「堂々としていればいいのです2」(2013/04/16 (火) 22:04:37) の最新版変更点
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SHINKI/NEAR TO YOU
Phase02-2
からっと澄んだ晴天となった連休最終日。
摩耶野市センター地区に位置する神姫センターは大勢の観客で賑わっている。
シュンは人波をかき分けるようにエントランスホールを進みながら、なかば辟易としていた。。
「……こんなに人が多いなんてな。普段の何倍いるんだよ?」
いつもは整然としているエントランスホールが、今は人垣で埋め尽くされている。
客層もゴールデンウィークらしく、親子連れから高校生くらいのカップル、はたはお年寄りまでと様々だ。無論、この群衆全てがトーナメント大会の参加者という訳ではない。ほとんどは観客としてやってきた人たちなのだろうが……。
「シュン、ひょっとして緊張しているのですか?」
「まさか。武者震いするぜ――って、思ってたところだよ!」
ゼリスの問いかけに憮然して返す。
その強気な態度に満足したのか、ゼリスも得意げに胸を反らす。
「ならば結構。私たちの目的は、あくまでも優勝ですからね」
さらりと言ってのける。彼女にとってこの溢れんばかりの人波も、どこ吹く風といった様子だ。
……けれどゼリスさん。今回の目的はあくまで武装パーツの実戦データだってことを忘れていませんか?
「データを集めるついでに、優勝してしまえばよいのでしょう? 簡単な話です」
……ああそうですか。
まあ、確かにシュンたちは公式大会に参加するのは初めてだ。今までに体験したフリー対戦とは違い、参加者も実力者揃いに違いない。
そうした実力者を相手にして、僕とゼリスは一体どこまで渡り合えるのか?
正直、シュンもさっきから緊張と期待がシェイクされたような不思議な気分を味わっていた。
今の自分たちの力を試す意味でも、この大会が絶好の機会なのは間違いない。
「シュッちゃーん、こっちこっち~!」
雑踏に混じって、彼を呼ぶ声が耳に届く。シュンが振り向くと、群衆の合間から手を振る伊吹とワカナの姿があった。
「思ったよりも早かったな」
「うん、ばっちりよ。ぜっちゃんとワカナでしっかりチーム登録してきたからね」
神姫センターに着いてから、伊吹はトーナメント参加手続きをするために別行動を取っていたのだ。
彼女を加えて、シュンたち4人は連れだって歩く。
「ワカナさん、よろしくお願いします」
「オッケ~、ボクと一緒にガンバろうなのだ~」
伊吹の肩から飛び出す猫型MMSマオチャオ――ワカナと、ゼリスは互いに挨拶を交わす。
その様子に微笑を浮かべつつ、伊吹はワカナの頭をひと撫でしたあと、右手に巻いた腕時計で時間を確認する。
「さてっ、と……そろそろトーナメントの組み合わせが発表される時間みたいね」
伊吹を先頭にしてホール内を移動する。
エントランスホールの正面には、天井から吊るされた大型スクリーンモニターが設置されている。これからこのモニターにトーナメントの組み合わせが映し出されるのだ。
ホールに流されていた音楽がフッと途切れ、合わせて照明も暗くなる。
4人(正確には2人と2体)がモニターに注目する。
するとそれまで表示されていた新商品のプロモーション映像が切り替わり、神姫BMAのロゴマークが表示された。黒字に鮮やかな赤で印されるお馴染みのマーク。
それが消えると、続いてモニターには神姫バトルのフィールドが映し出された。
荒野を思わせる、夕日に照らされた岩と砂に覆われたバトルフィールド。
その岩陰のひとつから、藤色の鎧に身を包んだ凛々しい神姫が姿を表す。リペントモデルの侍型MMS紅緒だ。
紅緒は黒髪をなびかせながら地を蹴り、そびえる岩山を一足飛びに駆け上がる。
――その姿を追いかけるように、岩肌に弾痕が刻まれる。
切り替わったカメラが、岩山の上を滑空する別の神姫を捉えていた。黒いメカニカルな翼をはためかせ空を舞う黒い神姫、リペントモデルのセイレーン型MMSエウクランテ。
藤色の紅緒が手にした薙刀を振りかぶり、跳躍。
対する黒いエウクランテは、両手に剣を構え迎え撃つ。
夕日をバックに二体の神姫が空中で激しく切り結ぶ――
そのシルエットを背景に、モニターに文字が浮かび上がった。
<武装神姫バトル MAYANO SPRING CUP>
シュンはそこで大きく息をつき――ようやく自分が、呼吸も忘れるほどモニターの中で繰り広げられるバトルに見入っていたことに気がつく。
「すげえ……公式大会って、こんなにレベルが高いのか」
「……ふむ、確かに熟練者が多く参加しているようですね」
感嘆するシュンにゼリスも同意する。
そんなふたりに伊吹が呆れた目を向けた。
「当たり前でしょ。今のは昨日開催された、マヤノスプリングカップ決勝戦の映像だもの」
「へっ……決勝?」
「そうよ、ただし一般部門のね」
一般部門って何だ?
シュンが尋ねると、伊吹はトーナメント大会についていろいろ説明してくれた。
それによるとゴールデンウィーク中に開催される公式トーナメント大会――通称マヤノスプリングカップは、高校生以上の〝一般部門〟と中学生以下の〝ジュニア部門〟に参加者を分けいるらしい。 ジュニア部門は5月5日の子どもの日。一般部門はその前日の5月4日と、開催日も分かれているそうだ。
「今日のトーナメントは子どもの日にちなんでの、言わばジュニアユーザーへのファンサービスみたいなものなのよ」
なるほど。確かに武装神姫バトルには年齢や性別によるハンデはないとされるが、実際はジュニア層には不利なことも多い。
まず神姫一体の価格が高性能PC並みなのだ。
まして本格的にバトルで上位を目指すなら、装備や周辺機器を揃えるのにますますお金がかかることになる。
そのバトルを行うための筐体だって有料だ。子どものお小遣いではなかなか厳しい。
だから武装神姫ユーザーは、全体の傾向として若年層の方がどうしてもプレイ人口も数が少なくなる。加えて年齢が低いほど経験も浅い場合がほとんどなので、当然ランキングにも差がついてしまう。
そうした対策のひとつが、このトーナメントのようなに小中学生ユーザーを対象にした公式大会なのだろう。
実力が近い者同士でバトルできるようする為の、運営からの配慮といったところか。
「だから今日のトーナメントは、今見た一般トーナメントほどハイレベルにはならないわ。どう? データ取りを兼ねた腕試しには、まさにもってこいでしょう?」
「確かにそういうことなら、こいつの実戦テストにも丁度いいな」
シュンは肩から下げたバックを叩く。そのなかには、先日テストしていたハンドメイド武装一式が入っている。
このところ調整が行き詰っていたのは、自宅でのテストでは必要なデータが不足していたからだ。
ならばこうして大会に出ることで、実戦データを集めて残りの調整を一気に終わらせてしまおう――というのがあの時伊吹からされた提案だった。
またこのトーナメントには実戦的なデータを収集できる他に、タッグバトル形式というメリットもある。
「安心して、シュっちゃん。もしもの時は、私とワカナがついてるからね!」
「ワカナたちはつよいんだよ~!」
伊吹とワカナは「ふふんっ」と息ぴったりに胸を張る。
「ああ、ふたりとも期待してるよ」
もし試作武装に不具合が起こり、ゼリスが戦闘に支障をきたしたとしても、タッグバトルなら仲間にフォローしてもらえるのだ。
その意味では、上位ランカーである伊吹とワカナはこれ以上ないほど頼もしいパートナーだろう。
「ワカナさんと私が組めば、恐れることなどありません。いわゆる"鬼に金棒"ってヤツですね」
自信ありげなゼリスに、ワカナもうんうん頷く。
目指すは優勝!――二人の神姫がハイタッチを交わす背後では、モニター画面にトーナメントの組み合わせが大きく映し出されていた。シュンたちの最初のバトルは、Aブロック第一回戦の第一試合。
シュンはあらためて、バックの中にある武装パーツについて考える。
ユウ特製のゼリス専用武装――天馬型オーラシオン。
肝心の製作者本人は、現地で調整を行うための準備もあり遅れて会場入りする予定だ。
まずは武装の調子を確かめながらトーナメントを勝ち進み、問題点が見つかった場合は合流した由宇が、その場で再調整を行なう手はずになっている。
(由宇が来る前に負けちゃいました……なんて、無様なオチを見せるわけにはいかないからな)
そう考えながら、シュンは気を引き締める。
――まずは一回戦突破だ。
[[▲BACK>堂々としていればいいのです1]]///[[NEXT▼>堂々としていればいいのです3]]
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[[戻る>二アー・トゥ・ユー]]
SHINKI/NEAR TO YOU
Phase02-2
からっと澄んだ晴天となった連休最終日。
摩耶野市センター地区に位置する神姫センターは大勢の観客で賑わっている。
シュンは人波をかき分けるようにエントランスホールを進みながら、なかば辟易としていた。。
「……こんなに人が多いなんてな。普段の何倍いるんだよ?」
いつもは整然としているエントランスホールが、今は人垣で埋め尽くされている。
客層もゴールデンウィークらしく、親子連れから高校生くらいのカップル、はたはお年寄りまでと様々だ。無論、この群衆全てがトーナメント大会の参加者という訳ではない。ほとんどは観客としてやってきた人たちなのだろうが……。
「シュン、ひょっとして緊張しているのですか?」
「まさか。武者震いするぜ――って、思ってたところだよ!」
ゼリスの問いかけに憮然して返す。
その強気な態度に満足したのか、ゼリスも得意げに胸を反らす。
「ならば結構。私たちの目的は、あくまでも優勝ですからね」
さらりと言ってのける。彼女にとってこの溢れんばかりの人波も、どこ吹く風といった様子だ。
……けれどゼリスさん。今回の目的はあくまで武装パーツの実戦データだってことを忘れていませんか?
「データを集めるついでに、優勝してしまえばよいのでしょう? 簡単な話です」
……ああそうですか。
まあ、確かにシュンたちは公式大会に参加するのは初めてだ。今までに体験したフリー対戦とは違い、参加者も実力者揃いに違いない。
そうした実力者を相手にして、僕とゼリスは一体どこまで渡り合えるのか?
正直、シュンもさっきから緊張と期待がシェイクされたような不思議な気分を味わっていた。
今の自分たちの力を試す意味でも、この大会が絶好の機会なのは間違いない。
「シュッちゃーん、こっちこっち~!」
雑踏に混じって、彼を呼ぶ声が耳に届く。シュンが振り向くと、群衆の合間から手を振る伊吹とワカナの姿があった。
「思ったよりも早かったな」
「うん、ばっちりよ。ぜっちゃんとワカナでしっかりチーム登録してきたからね」
神姫センターに着いてから、伊吹はトーナメント参加手続きをするために別行動を取っていたのだ。
彼女を加えて、シュンたち4人は連れだって歩く。
「ワカナさん、よろしくお願いします」
「オッケ~、ボクと一緒にガンバろうなのだ~」
伊吹の肩から飛び出す猫型MMSマオチャオ――ワカナと、ゼリスは互いに挨拶を交わす。
その様子に微笑を浮かべつつ、伊吹はワカナの頭をひと撫でしたあと、右手に巻いた腕時計で時間を確認する。
「さてっ、と……そろそろトーナメントの組み合わせが発表される時間みたいね」
伊吹を先頭にしてホール内を移動する。
エントランスホールの正面には、天井から吊るされた大型スクリーンモニターが設置されている。これからこのモニターにトーナメントの組み合わせが映し出されるのだ。
ホールに流されていた音楽がフッと途切れ、合わせて照明も暗くなる。
4人(正確には2人と2体)がモニターに注目する。
するとそれまで表示されていた新商品のプロモーション映像が切り替わり、神姫BMAのロゴマークが表示された。黒字に鮮やかな赤で印されるお馴染みのマーク。
それが消えると、続いてモニターには神姫バトルのフィールドが映し出された。
荒野を思わせる、夕日に照らされた岩と砂に覆われたバトルフィールド。
その岩陰のひとつから、藤色の鎧に身を包んだ凛々しい神姫が姿を表す。リペントモデルの侍型MMS紅緒だ。
紅緒は黒髪をなびかせながら地を蹴り、そびえる岩山を一足飛びに駆け上がる。
――その姿を追いかけるように、岩肌に弾痕が刻まれる。
切り替わったカメラが、岩山の上を滑空する別の神姫を捉えていた。黒いメカニカルな翼をはためかせ空を舞う黒い神姫、リペントモデルのセイレーン型MMSエウクランテ。
藤色の紅緒が手にした薙刀を振りかぶり、跳躍。
対する黒いエウクランテは、両手に剣を構え迎え撃つ。
夕日をバックに二体の神姫が空中で激しく切り結ぶ――
そのシルエットを背景に、モニターに文字が浮かび上がった。
<武装神姫バトル MAYANO SPRING CUP>
シュンはそこで大きく息をつき――ようやく自分が、呼吸も忘れるほどモニターの中で繰り広げられるバトルに見入っていたことに気がつく。
「すげえ……公式大会って、こんなにレベルが高いのか」
「……ふむ、確かに熟練者が多く参加しているようですね」
感嘆するシュンにゼリスも同意する。
そんなふたりに伊吹が呆れた目を向けた。
「当たり前でしょ。今のは昨日開催された、マヤノスプリングカップ決勝戦の映像だもの」
「へっ……決勝?」
「そうよ、ただし一般部門のね」
一般部門って何だ?
シュンが尋ねると、伊吹はトーナメント大会についていろいろ説明してくれた。
それによるとゴールデンウィーク中に開催される公式トーナメント大会――通称マヤノスプリングカップは、高校生以上の〝一般部門〟と中学生以下の〝ジュニア部門〟に参加者を分けいるらしい。 ジュニア部門は5月5日の子どもの日。一般部門はその前日の5月4日と、開催日も分かれているそうだ。
「今日のトーナメントは子どもの日にちなんでの、言わばジュニアユーザーへのファンサービスみたいなものなのよ」
なるほど。確かに武装神姫バトルには年齢や性別によるハンデはないとされるが、実際はジュニア層には不利なことも多い。
まず神姫一体の価格が高性能PC並みなのだ。
まして本格的にバトルで上位を目指すなら、装備や周辺機器を揃えるのにますますお金がかかることになる。
そのバトルを行うための筐体だって有料だ。子どものお小遣いではなかなか厳しい。
だから武装神姫ユーザーは、全体の傾向として若年層の方がどうしてもプレイ人口も数が少なくなる。加えて年齢が低いほど経験も浅い場合がほとんどなので、当然ランキングにも差がついてしまう。
そうした対策のひとつが、このトーナメントのようなに小中学生ユーザーを対象にした公式大会なのだろう。
実力が近い者同士でバトルできるようする為の、運営からの配慮といったところか。
「だから今日のトーナメントは、今見た一般トーナメントほどハイレベルにはならないわ。どう? データ取りを兼ねた腕試しには、まさにもってこいでしょう?」
「確かにそういうことなら、こいつの実戦テストにも丁度いいな」
シュンは肩から下げたバックを叩く。そのなかには、先日テストしていたハンドメイド武装一式が入っている。
このところ調整が行き詰っていたのは、自宅でのテストでは必要なデータが不足していたからだ。
ならばこうして大会に出ることで、実戦データを集めて残りの調整を一気に終わらせてしまおう――というのがあの時伊吹からされた提案だった。
またこのトーナメントには実戦的なデータを収集できる他に、タッグバトル形式というメリットもある。
「安心して、シュっちゃん。もしもの時は、私とワカナがついてるからね!」
「ワカナたちはつよいんだよ~!」
伊吹とワカナは「ふふんっ」と息ぴったりに胸を張る。
「ああ、ふたりとも期待してるよ」
もし試作武装に不具合が起こり、ゼリスが戦闘に支障をきたしたとしても、タッグバトルなら仲間にフォローしてもらえるのだ。
その意味では、上位ランカーである伊吹とワカナはこれ以上ないほど頼もしいパートナーだろう。
「ワカナさんと私が組めば、恐れることなどありません。いわゆる"鬼に金棒"ってヤツですね」
自信ありげなゼリスに、ワカナもうんうん頷く。
目指すは優勝!――二人の神姫がハイタッチを交わす背後では、モニター画面にトーナメントの組み合わせが大きく映し出されていた。シュンたちの最初のバトルは、Aブロック第一回戦の第一試合。
シュンはあらためて、バックの中にある武装パーツについて考える。
ユウ特製のゼリス専用武装――天馬型オーラシオン。
肝心の製作者本人は、現地で調整を行うための準備もあり遅れて会場入りする予定だ。
まずは武装の調子を確かめながらトーナメントを勝ち進み、問題点が見つかった場合は合流した由宇が、その場で再調整を行なう手はずになっている。
(由宇が来る前に負けちゃいました……なんて、無様なオチを見せるわけにはいかないからな)
そう考えながら、シュンは気を引き締める。
――まずは一回戦突破だ。
[[▲BACK>堂々としていればいいのです1]]///[[NEXT▼>堂々としていればいいのです3]]
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