「第五話:隠道姫」(2013/03/18 (月) 01:07:15) の最新版変更点
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砂嵐が吹き荒れる道を二人が突き進む。先頭を走っているのは人形二体を従えて疾走するコタマだ。トップスピードに関してはあちらの方が上であるようだ。対してこちらは空中での自由度が高い。それをどうアドバンテージとして活かせるか、それが鍵になりそうだ。
『まずは、だ。……もっと熱くなろうぜ』
俺はアイテムパレットを表示して、選択する。その瞬間、コースは灼熱のマグマがあたり一帯に広がる。ステージチェンジャーだ。
「あっつ!!? なんだこりゃ!!?」
『ステージチェンジャーや! なんとかする!』
その直後、返しのサーキットが発動する。マグマ地帯は一瞬でサーキットコースへと戻り、仕切り直しとなる。
『慎重に来たか。だが……』
確か、峰山の時はアイテムコストを2は残している。強気に出られるわけか。
『こっちは9残している』
次のアイテムを発動する。その瞬間、晴れ渡っていた砂漠が一気に、暗闇に包まれた。
「うおっ!? まっくらだ!?」
『ダークネス……。あかん。コタマは暗視が……』
その言葉の通り、コタマは暗さで道を見失っているような様子を見せる。どうやら暗視には適していない素体を使っているようだ。
一方、蒼貴は高い暗視能力を持っている。加えて、不死鳥の翼のおかげで自分の周りだけ、多少の明かりを得られた。これでかなり有利に持って行けるだろう。
「くっそ! 走行どころじゃねぇ!!」
『一旦引いて、蒼貴についていくんや。速度はこっちに理がある。いつでも逆転できるで』
「なるほどな。それで行くぜ」
竹櫛の意見を聞いたコタマは蒼貴の後ろをピタリと張り付くような走行を始める。これで二周目になったら攻める。そういう魂胆なのだろう。
『蒼貴。スタンバイしておけ』
「はい」
なら、それに乗り、蒼貴に備えとして武器のスタンバイをさせる。その後は併走となり、何もしないままの膠着状態となる。やはり攻撃を始めからする気でいるらしい。
コースの最後のストレートに差し掛かるとコタマは攻撃のスタンバイを始める。一体は巨大なガントレットを構え、もう一体が対物ライフルを取り出す。
どうやら、この人形達は独立行動できる自立型の代物であるようだ。マオチャオ型やハウリン型が用いるプチマスィーンズよりも圧倒的に高度な攻撃が可能であることを伺わせる。
そして二周目に突入する。その瞬間、視界が明るくなり、コースが変化する。何の障害も特徴もないコース サーキットに変わった。
「っしゃあ! 一気に攻めるぜ!」
暗闇から解放されたコタマは十字架を握ってそれを動かすと射撃型がコタマの命令に従い、対物ライフルを放つ。さらにそれに合わせるように格闘型が突進してきた。
「実質、三対一ですか……」
蒼貴は格闘型が目の前に到達する前に対物ライフルの射線から逸れる位置にサイドステップをして移動し、小判を射撃型に放った。
小判はライフルを放った射撃型の額にヒットする。そこに運よくスタン状態に追い込む直後に隙を突いて、格闘型が両腕のガントレットで殴り掛かってくる。蒼貴は上へ飛び上がる事でそれを回避した。
『黒板消しで反撃。格闘型には回避からの捻脚だ。射撃型には卵をくれてやれ』
「まだまだ続くぜ!」
三回目のコタマの攻撃が来た。持っているのは十字架に代わって飛鳥の剣「霊刀 千鳥雲切」だ。それで突きを仕掛ける。
蒼貴はそれを横にスライドする様に回避するとすれ違いざまに黒板消しを投げつける。黒板消しはコタマの顔面にヒットするとチョークの粉が煙のようにコタマの顔を覆い尽くす。
「ゲホゲホ! くそっ! セコい真似しやがって!!」
煙にむせながら蒼貴を近くから追い払おうと千鳥雲切を振り回す。
蒼貴は一旦距離をとると再び襲い掛かってくる格闘型のガントレットを受け流し、その勢いで体のバランスを崩して回転力を得るとそれを利用した後ろ回し蹴り……捻脚を放った。
「これもどうぞ」
蒼貴はスタンから復帰した射撃型にイースターエッグを投げる。放たれた卵は復帰はしていても無防備になっている射撃型にぶつかると炸裂し、卵の白身のようなものがまとわりついて機動力を奪う。
しかし、射撃型は思い出した様に蒼貴に大きな穴が穿つためにライフルを放とうとする。だが、その手は止まる。当然だった。蒼貴はすぐに格闘型が射線に割り込むように移動したのである。
「ならこれだ!」
コタマは飛鳥のガトリング「三七式一号二粍機関砲」で弾をばらまく。それに対して蒼貴は急降下して射
線から大きく離れると二体の人形を操っているであろうコタマに向かう。
「『44ファントム』!」
「ぐっ!?」
攻撃を中断してそう叫ぶと格闘型が高速で接近し、ガントレットで蒼貴を殴打してきた。その一撃は蒼貴の脇腹を殴打し、痛みで動けない彼女を吹き飛ばす。
「あばよ~!!」
そしてコタマは落ち行く蒼貴に目もくれずにその間に差をつけるべく、人形達を引き連れて、飛び去って行く。追撃よりも差を開いた後での迎撃を選んだようだ。
『蒼貴。大丈夫か?』
「ええ。衝撃を逃がさなかったら落ちていました」
俺の言葉に答えながら蒼貴は翼で体勢を立て直す。翼の自由度に助けられ、かなり早く、 飛行に戻ることができた。
『にしても厄介だ。三体で袋叩きをやれるようにしてくるとは』
「ええ。でも動いているのは二体までです」
「ああ。噂どおりではある。射撃型、格闘型を操るか、自分で行動するかだな」
あの人形について多少わかってきた。
あれは自立でもなんでもなく、コタマが操っているのだ。どういう理屈かは知らないが、指令を飛ばし、コタマの意のままに動いているのである。
噂はネットで事前に見たことがあるが、何とまあ無茶苦茶な能力である。だが、やはり欠点もあった。蒼貴の言う通り、操る、あるいは攻撃するための手は二本しかないため、実際に同時行動しているのは二体までだ。状況に応じて誰が動くかを決める必要がある。
また、格闘型はガントレット、射撃型はライフルのみで武装の使い分けはない。コタマが連射力のある武器を使ったのがいい証拠だ。
「まずは巻き返す、だ。翼の力を見せてやれ」
「ええ」
何にしても追いつかなければ始まらない。ここは一つ足止めできる手を打つ。蒼貴は俺の言葉を聞くと翼を広げ、自身を、翼をも輝かせた。
「……『焼滅の宴』」
「はぁぁっ!!」
神力解放をした蒼貴は両腕から細い熱線を大量に放つ。熱線は人形達をも巻き込んでコタマに降り注いでいく。
「な、なんじゃありゃ!? 盗賊姫にあんな隠し玉があるのか!?」
『それも焼滅の宴を拡散させとる。一本一本の威力は大したことあらへんけど……』
竹櫛は俺の意図に気付く。コタマはばらまかれる宴で足を止められ、ほとんど立ち往生に近い状態で回避を繰り返している。
そこに蒼貴が飛翔し、接近する。追いつくには遠いが、投擲をするには十分な距離は詰まった。
『塵の刃を投げまくれ。その中から卵と小判で先打』
蒼貴は塵の刃で苦無を大量に作り出すと、惜しみなく投げつける。さらに移動のルートの先にイースターエッグや小判を投げつける。
「ちぃっ! そう簡単に追いつかせるかよ!」
格闘型に自身の防御をさせるとコタマは射撃型と共に蒼貴に射撃を仕掛ける。
逃げながらの射撃はあまり正確ではなく、攻撃は蒼貴を通り過ぎていくか、投擲武器を打ち落とすかのどちらかにしかならなかった。
さらに接近する蒼貴にコタマは格闘型を操って応戦する。格闘型が突っ込み、蒼貴を吹き飛ばしにかかる。
蒼貴はそれをかわすと鎌を振るって反撃に出る。それに対しては格闘型は右手のガントレットで防御し、カウンターを放つ。
受ける蒼貴は外側へ移る事で避けると即座を苦無を投げつける。だが、それもまた、ガントレットで防がれてしまう。
『捻脚から霰舞』
俺は更なる指示を出す。
蒼貴はそれに反応し、ガントレットによる殴打でわざと姿勢を崩して勢いをつけるとそのまま踵落とし、さらに翼で上を舞う。
そこから攻撃……鋭い足の鉤爪によるムーンサルトを絡めたダンスを披露してみせた。
ガントレットで防御する格闘型だったが、蒼貴はガントレットに覆われている場所以外を執拗に狙うようにステップを踏んでいたため、さすがに防ぎきれずダンスの途中で左腕をボロボロにし、防御に使えない状態に追い込んだ。
さらに遠方からライフルを構える射撃型が見える。
蒼貴の頭を吹き飛ばそうという魂胆なのだろう。
『誘牙』
「お任せを」
それに対して蒼貴は苦無を三つ投げつける。
放たれる攻撃を射撃型は難なく回避し、容赦ない攻撃を仕掛けようとスコープを見る。
……だが、その攻撃は実行されなかった。
スコープ越しに見えた三つの手裏剣によって。
一回目、ライフルに突き刺さり、暴発によって手ごとライフルが吹き飛ばされる。
二回目、無防備になっている所を腹に手裏剣が沈んでいく。
三回目、胸に突き刺さり、大ダメージを負わせた。
射撃型は殺到する手裏剣のダメージで限界が来たのか、そのまま動かなくなり、地面に落下していく。
『まずは一体』
「くっそ! パクリ技の百科事典か何かかよ!?」
射撃型をやられたコタマは蒼貴の悪口を言いながら、空いた手で機関砲を連射する。
蒼貴はその言葉に乗る事もなく、捻脚の要領で身体を捻って、そのまま下に降りて避けてみせた。
そしてお礼の黒板消しを進呈する。それは格闘型が割り込んできて残された右腕のガントレットで防御する事で防がれた。
さらにカウンターで左のガントレットが迫る。蒼貴はそれを左に避けて、反撃を加えようとする。
だが、格闘型は一回転してもう一回裏拳で攻撃する。
蒼貴はとっさに塵の刃で盾を作り出して防御するが、その二段攻撃に耐え切れず、また吹き飛ばされてしまう。
「もらったぁ!!」
その隙を突いてコタマが剣に持ち替えて襲い掛かってくる。この刹那的な状況では蒼貴は回避できない。
蒼貴は鎌で防御するが、コタマの勢いが強すぎて取り落としてしまった。
「なっ!?」
「もういっちょ!」
コタマは格闘型を操って打撃を仕掛けさせる。背後からの攻撃で一気に決めるつもりだ。
『剣を奪え』
対策を打ち出す。蒼貴は操るので注意が逸れている剣を握るコタマの手に手刀を放って、手放させるとその剣を取って、格闘型の攻撃を受け流す。
そのまま剣で持ち主であるコタマに攻撃する。彼女が機関砲に持ち替えて迎撃する中、塵の刃で盾を作り出して防ぎつつ、接近する。
間合いにたどり着くと横一閃を放って機関砲の砲塔を切断する。その直後、背後から格闘型が殴りにかかる。振りかぶっての一撃、蒼貴の隙をついての決定打だ。
『下に移動だ』
それに対して、蒼貴は後ろへと素早く体を倒して、下へズレる様に移動する。
そうすると決定打を与えようとしたのが災いして、格闘型はそのまま主に向かって突っ込んでいった。
「くっそ!」
「お返しします」
さらにコタマの剣を格闘型に投げつける。コタマにぶつかって無防備になっていた格闘型の背中に深々と突き刺さった。
「ぬわ~!?」
『コタマ!?』
コタマの叫び声が響く。どうやら格闘型を貫通して、コタマにも突き刺さったらしい。蒼貴は油断しないように塵の刃で苦無を作り出して、身構える。これで倒れてくれれば万々歳だが……判定が出ない。
『蒼貴、奴はまだ……』
そう言おうとした瞬間だった。ワイヤーか何かが格闘型の後ろから伸びてきて、蒼貴の手足を縛った。
「これは!?」
「かかったな!」
動かなくなった格闘型が落ちてコタマの姿が露わになる。
なんと彼女はとっさによけようとしていたのか、無傷だった。どうやら小柄なスモールタイプの素体で助けられたようだ。
そんな事より蒼貴だ。手足をワイヤーで縛られて動けない。いったい何があったというのだろうか。
「『F.T.D.D.D.』。そう呼んでんだ」
「身体が……いう事を聞かない……!?」
「ああ。んでもってこういう事もできる!!」
コタマの言葉と同時に蒼貴は自分の意志とは関係なしに自らの胸に突き立てるために塵の刃でできた苦無を向ける。あのワイヤーは拘束した相手の手足を自分の制御下に置く……つまり相手を操り人形にできる機能だった。
「とっとと自決しやがれ! 半分娘!!」
死の宣告と共に蒼貴の胸に苦無が突き立てられる。
『蒼貴!!』
俺の叫びも空しく握られた苦無は主に突き刺さる。蒼貴はゆらりと揺れると地面へと倒れる様に落ちていく。
「そのまま落ちな!」
『コタマ! ワイヤーを離さんどいて!!』
既に勝敗が決したと思ったコタマは自分が引きずられて落ちないようにワイヤーを外そうとすると竹櫛に止められる。
「えっ!?」
しかし、外してしまった。その瞬間、蒼貴が再び飛び上がって翼を広げる。その胸に傷は……ない。
「どういうこった!? 確かに制御して刺したはずだぜ!」
「ええ。確かに操られていました。……しかし、CSCやコアの制御まではできなかった様ですね」
その瞬間、俺は把握した。蒼貴は刺される直前に唯一、制御の残っているCSC……つまりはスキルである
塵の刃を解除したのだ。だから自決するための武器はなく、胸を手が叩くだけの無意味な行動となった。
俺はすぐにアイテムを使う。使うのは……『神力解放』継続のためのコンバットハイ。
「粉塵爆発って知っていますか?」
時間切れになっている神力解放を発動し直す蒼貴はそう問いかけながら、七色に輝く塵の刃の塵を自分とコタマの周囲に高濃度でばら撒く。
「な、何をする気だ!?」
「こうします……!!」
不死鳥の翼から火花がばら撒かれる。そうすると爆発が一から十、十から百と連鎖的に数を増やし、辺り一帯に起こり、爆炎が蒼貴とコタマを包んだ。
「どわぁぁぁぁ!?」
爆発の規模は大きく、煙で蒼貴達が見えなくなる。だが、その結果は数秒で分かった。巻き込まれないように折りたたんでいた翼を広げ、飛翔し続ける蒼貴と落ちるコタマ、その姿が煙の中から出てきたからだ。
『Destroy!!』
撃破判定が出た。この戦闘不能は演技でも何でもないようだ。それを証明する様にコタマのグラフィックが散っていき、消えた。
『You Win!! Winner チーム尊』
勝利判定が出て、二勝一敗の俺達が勝利したことを告げ、アクセルロンドのシステムが終了した。
これで俺の秘密は守られる。やっと肩の荷が下りたというものだ。
「だ~! 何だありゃ!? お前は狩りゲーのライオンか何かかよ!!?」
「言っている事はわかりますが、私は忍者です。あれは火遁の術みたいなものです」
シミュレータから戻ってきて早々、納得のいかないといったコタマが叫び始めた。言っていることは蒼貴の言う通り、わかるのだが、こちらはそれなりの思い付きでやっている。ゲームのように都合のいい風にはいかない。
「んなもんで済むか! おい! 二股マスター! 説明しろ!!」
「すごく犯罪くさいからその呼び方は勘弁してくれ。説明はしてやるから」
コタマから心外な称号を与えられた俺は新技を説明を始めた。
『炎塵』
それが蒼貴の新スキル、それもオリジナルだ。高濃度の塵を周りにまき、不死鳥の翼を火種にして、粉塵爆発を巻き起こす塵の刃の応用技である。
不死鳥の翼と尾による「炎」と塵の刃の「塵」の組み合わせによって自在に爆発を引き起こせる。それ故に『炎塵』という名前で用いている。
塵の刃で用いる周囲の塵も、SPも消費しつくしてしまうため、使えば塵の刃をその場では生成できなくなるものの、その威力は絶大だ。近接を仕掛けてくる相手であれば余程後退されない限り、爆発に巻き込めるため、奥の手として今後は使えるだろう。
しかし、翼がない方が塵の刃を最大限に使えたり、紫貴と連携したりするため、これはタイマン勝負で使う手段という意味合いが強い。単に威力を補うなら紫貴に任せればいいだけの話なのだから。
「おもろい技やね。それも一発逆転の大技って訳ね」
「ああ。どちらかと言えば単機で攻める時用になるな。紫貴と連携しにくくなるから普通はやらん」
「双姫主ならではの欠点ね。尊にとっては手札の一枚ってとこ?」
峰山の言う通りという事になる。俺、蒼貴、紫貴、武装強奪、武装破壊、連携、模倣技、オリジナル技。これらの手札全てが俺達なのだ。
一枚にこだわるだけが戦い方というわけではない。
「ああ。蒼貴だけの時の切り札だ。さて……種明かししたが、勝負は俺の勝ちってことでいいな?」
「むむむ……。悔しいが、てめぇの勝ちって事にしてやる。秘密も守ってやるぜ」
「それでいい。後はどうする? 今度は賭け無しで普通に戦ってみるか?」
「は? 何言ってんだあんた?」
「おかしい事言ったか?」
「秘密をばらそうしたり、いろいろ文句言った奴にそれを言うのか?」
「それに関しては、賭けで勝ったからそれをお前が守ればいい。もう一つのルールも守れるだろ?」
「もう一つのルール?」
「そうやね。むしろそっちの方が大事やし」
「な、なんだよ? 鉄子ちゃんはわかったのかよ?」
「それはね……」
俺の言葉の意味に気付いた竹櫛は秘密を知らない貞方や峰山には聞こえない様にコタマに小声で説明した。そうすると彼女の顔はやかんの様に顔真っ赤になって怒り始めた。
「なぁあにぃぃっ!!!?」
コタマは素っ頓狂な声を上げる。それはそうだ。『これでばらせばコタマ、引いては竹櫛も不利益を被る』のだから。
話の全貌はこうだ。俺の正体を竹櫛が気付いた場所は遠野貴樹のイベントだ。写メを撮った場所もそこだ。そしてそこで提示した遠野のルールは……
『ここでの決まり事は必ず守ってもらう。
……なに、難しいことじゃない。
一つは、俺の指示は最優先にしてもらう。といっても、大方はミスティとの対戦順についてだから、気をつけてもらえれば問題ないはずだ。
次に、ここでのことは他言無用だ。ネットへの書き込みや、ゲームセンターで話題にすることも禁止。必ず守ってもらう。
それから、神姫に記録されたバトルログも持ち出し禁止だ。ここのVRマシンを使っても、バトルログは神姫側に記録されない。だが念のため、データのバックアップは、あくまで自宅のPCで行ってくれ。帰りがけにゲーセンや神姫センターに行くのは禁止だ。もし、バトルログが必要であれば、この特訓が終わった後に、メディアで提供する。それまで待ってほしい』
つまり、俺の正体をバラすという事はその情報ソースである遠野貴樹のイベントをバラすに等しい行為なのだ。バラせば『ドールマスター』の信用もまた落ちる。
バラした場合の竹櫛達の直接的なメリットはないに等しい。むしろデメリットの方が大きすぎる。
コタマは頭に血が上っていて気付いていなかったようだが、終始冷静で、対戦を楽しんでいただけの竹櫛は初めからわかっていたのだった。
「こんの、確信犯がぁっ!! いいぜ! 普通に戦ってやる! 普通に! 全力でな!! メル! あの二股マスターをぶっ飛ばすぞ!!」
「え? あ、うん。ショウ君はいい? 双姫主とだけど」
「ああ。こういう機会だ。一回ぐらいはやっとかないとな」
コタマはメルを巻き込んでのバトルロンドに決めたらしい。戦いの後だというのに大したものである。ああいう気持ちもまた、武装神姫では必要な要素だと思った。
力にも、弱さにも流されずにひたむきに前を向こうとする姿勢。それが『ドールマスター』という形となって今あるのだろう。
「メンバーは決まった様だな。バトルロンドで対戦するか」
コタマのあり方を考えながら、彼女の戦いに応じる。バトルロンドでの戦いはどうなるのか、楽しみな限りだ。
「だが、その前に一休みとさせてくれ。何、時間はかからん。飲み物を買って飲むぐらいだ」
「何ぃ? 逃げんのか?」
「ええよ。私も飲み物を飲みたかったし」
「って……鉄子ちゃんもかよ。仕方ねぇ。待っといてやるよ」
が、その前の小休止を要求する。緊張が続いたので精神的にどっと疲れた気分にあるからだ。その要望はマスターの竹櫛があっさりOKを出してくれたおかげであっさり通る事となった。
「そうか。じゃあ、そうさせてもらおう。すまん。真那、蒼貴と紫貴を見といてくれ。すぐに戻る」
「わかったわ」
「……心配すんな。竹櫛には気にしている奴がいるし」
「な、何言ってんのよ! さっさと買ってきなさい!」
「はいよ」
少々、真那をからかうと蒼貴と紫貴を彼女に預け、俺は竹櫛と共に自動販売機に向かうことにした。
「そういえば、どうしてコタマの挑戦を引き受けたん? さっきの話なら勝負を受けなくとも私がコタマを止めておったよ?」
多少距離のある場所にある自動販売機まで歩いている間、竹櫛は俺に話しかけてきた。どうやら、話は最初から分かっていても理由まではわからなかったらしい。
「二つ理由がある。一つは『ドールマスター』に戦ってみたかったからさ。強いというのはネットでもよく耳するからな。手合せしてみたかったわけだ」
「もう一つは……?」
「賭けをした方が燃えるタイプだと考えた。あいつ、あの時に本気を出さなかっただろ?」
「あ……」
理由と本気を引き出す手段を答えると竹櫛は心当たりがあったのか、ハッとした表情になる。そう。遠野のイベントでの対戦を観戦していた時l、ネットで噂されていた手札の中で切り札である「F.T.D.D.D」……つまりは相手を操り人形にする技を使っていなかった。引いては全力を出さなかった事になる。
だから、本気を引き出すために燃えるシチュエーションを用意した。負けてもデメリットに気付いている竹櫛が阻止してくれるだろうから保険を掛けるまでもない。そのまま、コタマの言う事に流されるだけで本気のコタマと戦える展開になる。結果はさっきの対戦通りだったというわけだ。
しかし、バトルロンドではなく、アクセルロンドを仕掛けてくるという所までは予想していなかった。そのため、戦術を変更する事を余儀なくされ、チケットを使って不死鳥の尾を手に入れたり、アクセルロンド用の戦術を真那と一緒に用意することとなったのである。
「なるほどねぇ。もし負けて、私たちが言うと思わかったん?」
自動販売機に辿り着くまでに一通りの説明をすると竹櫛は納得した様子で頷いて、問いを投げかける。
「これっぽっちも思っていないな。コタマは何とも言えんが、竹櫛がそういう事をするのはまず無いと考えた。コタマが勝って天狗になって言いふらそうとしてもお前が止めてくれる。そう、確信してた」
「ありがと。……それにしてもすっごい自信ねぇ。だからそんなに強いん?」
「それは違うな。さっき言った通り、俺達全てで強さなんだ。自信も手札の一つでしかない」
竹櫛の問いに信用と自信をもって迷いなく答える。周りの要因も、自分も、味方も、全ての事象をひっくるめてカードゲームそのものだ。手札から何ができるか、山札から状況を変えるカードを引くことができるか、捨て札からどんな情報が得られるか。言い換えられる事は非常に多い。
「持ち札で何ができるか。それを考えているだけさ」
「確かにトランプのゲームで言い換えればそうなるね」
「そういう事だ。……っと、ドリンクは奢るぜ。選んでくれ」
「ええの? 真那さんおるやん」
「対戦してくれた感謝の印みたいなものだ。受け取ってくれ。あいつには別で何か買ってやるさ」
「なら、お願いしよかな。ミルクティーで」
「OK」
竹櫛の注文を受けた俺は自動販売機にお金を入れて、ミルクティーと、俺の分であるスポーツドリンクを勝って、ミルクティーを彼女に手渡した。
「ありがとね。……前にも聞いたけど、正体はいつまで隠し続けるん? 私達が言わなくても多分、いつかバレるんやない?」
「そうだろうな。ちょっとした拍子にこういう事は起きる。いつか友達にも話すかもしれん」
「その時は?」
「その時だ。縁が切れるも、切れないも、俺次第さ」
これまでの俺を武装神姫という色を入れたら、武装神姫をする前の友人からはどう見えるか、不安ではあるが、どうあがいてもそれら全てが自分になる。ちょっと小細工するだけで何かが変わるというわけではないだろう。
「……私は切れない事を信じてる。尾上君が積み上げてきているものは、すごいから」
「すごいってもんじゃないさ。友達の約束を果たしたいだけだ」
「それがすごいんよ。誰かのためにできる事があるって」
「そうか。……ありがとう」
「礼はええよ。……せやね、背比の事で応援してくれた事のお礼と思っといて」
「OK。そういう事にしておくぜ」
「さ。そろそろ戻ろ。コタマは待たせすぎると何をするかわからんで?」
「そうしよう。何をするか想像もつかん」
短いやり取りが終わると待たせている皆、特にコタマの事を考えて、俺と竹櫛はシミュレータの場所へと戻るために歩き始める。
誰かのためにできる事がある、か。竹櫛からは大事なことを学んだ事を気がする。遠野の体現してくれた絆は俺がもたらすものを、竹櫛の言葉は俺の行動の意味を教えてくれた。
いつか、守のような神姫を嫌う友達にこの事がバレたとしても、自分の成した事、その友達と積み重ねた物があれば、縁は切れないと思い始めているのを感じる。
可能性がゼロじゃないと思えるのなら、それを信じていれば、何かが変わる。隠れるだけの道から変われるだろう。
変わりたいと。まずはそう思おう。全ては、そこからだ。
第二部:15周程度の疾走 -終-
[[トップへ>深み填りと這上姫]] [[戻る>第四話:宙走姫]]
第五話:隠道姫
砂嵐が吹き荒れる道を二人が突き進む。先頭を走っているのは人形二体を従えて疾走するコタマだ。トップスピードに関してはあちらの方が上であるようだ。対してこちらは空中での自由度が高い。それをどうアドバンテージとして活かせるか、それが鍵になりそうだ。
『まずは、だ。……もっと熱くなろうぜ』
俺はアイテムパレットを表示して、選択する。その瞬間、コースは灼熱のマグマがあたり一帯に広がる。ステージチェンジャーだ。
「あっつ!!? なんだこりゃ!!?」
『ステージチェンジャーや! なんとかする!』
その直後、返しのサーキットが発動する。マグマ地帯は一瞬でサーキットコースへと戻り、仕切り直しとなる。
『慎重に来たか。だが……』
確か、峰山の時はアイテムコストを2は残している。強気に出られるわけか。
『こっちは9残している』
次のアイテムを発動する。その瞬間、晴れ渡っていた砂漠が一気に、暗闇に包まれた。
「うおっ!? まっくらだ!?」
『ダークネス……。あかん。コタマは暗視が……』
その言葉の通り、コタマは暗さで道を見失っているような様子を見せる。どうやら暗視には適していない素体を使っているようだ。
一方、蒼貴は高い暗視能力を持っている。加えて、不死鳥の翼のおかげで自分の周りだけ、多少の明かりを得られた。これでかなり有利に持って行けるだろう。
「くっそ! 走行どころじゃねぇ!!」
『一旦引いて、蒼貴についていくんや。速度はこっちに理がある。いつでも逆転できるで』
「なるほどな。それで行くぜ」
竹櫛の意見を聞いたコタマは蒼貴の後ろをピタリと張り付くような走行を始める。これで二周目になったら攻める。そういう魂胆なのだろう。
『蒼貴。スタンバイしておけ』
「はい」
なら、それに乗り、蒼貴に備えとして武器のスタンバイをさせる。その後は併走となり、何もしないままの膠着状態となる。やはり攻撃を始めからする気でいるらしい。
コースの最後のストレートに差し掛かるとコタマは攻撃のスタンバイを始める。一体は巨大なガントレットを構え、もう一体が対物ライフルを取り出す。
どうやら、この人形達は独立行動できる自立型の代物であるようだ。マオチャオ型やハウリン型が用いるプチマスィーンズよりも圧倒的に高度な攻撃が可能であることを伺わせる。
そして二周目に突入する。その瞬間、視界が明るくなり、コースが変化する。何の障害も特徴もないコース サーキットに変わった。
「っしゃあ! 一気に攻めるぜ!」
暗闇から解放されたコタマは十字架を握ってそれを動かすと射撃型がコタマの命令に従い、対物ライフルを放つ。さらにそれに合わせるように格闘型が突進してきた。
「実質、三対一ですか……」
蒼貴は格闘型が目の前に到達する前に対物ライフルの射線から逸れる位置にサイドステップをして移動し、小判を射撃型に放った。
小判はライフルを放った射撃型の額にヒットする。そこに運よくスタン状態に追い込む直後に隙を突いて、格闘型が両腕のガントレットで殴り掛かってくる。蒼貴は上へ飛び上がる事でそれを回避した。
『黒板消しで反撃。格闘型には回避からの捻脚だ。射撃型には卵をくれてやれ』
「まだまだ続くぜ!」
三回目のコタマの攻撃が来た。持っているのは十字架に代わって飛鳥の剣「霊刀 千鳥雲切」だ。それで突きを仕掛ける。
蒼貴はそれを横にスライドする様に回避するとすれ違いざまに黒板消しを投げつける。黒板消しはコタマの顔面にヒットするとチョークの粉が煙のようにコタマの顔を覆い尽くす。
「ゲホゲホ! くそっ! セコい真似しやがって!!」
煙にむせながら蒼貴を近くから追い払おうと千鳥雲切を振り回す。
蒼貴は一旦距離をとると再び襲い掛かってくる格闘型のガントレットを受け流し、その勢いで体のバランスを崩して回転力を得るとそれを利用した後ろ回し蹴り……捻脚を放った。
「これもどうぞ」
蒼貴はスタンから復帰した射撃型にイースターエッグを投げる。放たれた卵は復帰はしていても無防備になっている射撃型にぶつかると炸裂し、卵の白身のようなものがまとわりついて機動力を奪う。
しかし、射撃型は思い出した様に蒼貴に大きな穴が穿つためにライフルを放とうとする。だが、その手は止まる。当然だった。蒼貴はすぐに格闘型が射線に割り込むように移動したのである。
「ならこれだ!」
コタマは飛鳥のガトリング「三七式一号二粍機関砲」で弾をばらまく。それに対して蒼貴は急降下して射
線から大きく離れると二体の人形を操っているであろうコタマに向かう。
「『44ファントム』!」
「ぐっ!?」
攻撃を中断してそう叫ぶと格闘型が高速で接近し、ガントレットで蒼貴を殴打してきた。その一撃は蒼貴の脇腹を殴打し、痛みで動けない彼女を吹き飛ばす。
「あばよ~!!」
そしてコタマは落ち行く蒼貴に目もくれずにその間に差をつけるべく、人形達を引き連れて、飛び去って行く。追撃よりも差を開いた後での迎撃を選んだようだ。
『蒼貴。大丈夫か?』
「ええ。衝撃を逃がさなかったら落ちていました」
俺の言葉に答えながら蒼貴は翼で体勢を立て直す。翼の自由度に助けられ、かなり早く、 飛行に戻ることができた。
『にしても厄介だ。三体で袋叩きをやれるようにしてくるとは』
「ええ。でも動いているのは二体までです」
「ああ。噂どおりではある。射撃型、格闘型を操るか、自分で行動するかだな」
あの人形について多少わかってきた。
あれは自立でもなんでもなく、コタマが操っているのだ。どういう理屈かは知らないが、指令を飛ばし、コタマの意のままに動いているのである。
噂はネットで事前に見たことがあるが、何とまあ無茶苦茶な能力である。だが、やはり欠点もあった。蒼貴の言う通り、操る、あるいは攻撃するための手は二本しかないため、実際に同時行動しているのは二体までだ。状況に応じて誰が動くかを決める必要がある。
また、格闘型はガントレット、射撃型はライフルのみで武装の使い分けはない。コタマが連射力のある武器を使ったのがいい証拠だ。
「まずは巻き返す、だ。翼の力を見せてやれ」
「ええ」
何にしても追いつかなければ始まらない。ここは一つ足止めできる手を打つ。蒼貴は俺の言葉を聞くと翼を広げ、自身を、翼をも輝かせた。
「……『焼滅の宴』」
「はぁぁっ!!」
神力解放をした蒼貴は両腕から細い熱線を大量に放つ。熱線は人形達をも巻き込んでコタマに降り注いでいく。
「な、なんじゃありゃ!? 盗賊姫にあんな隠し玉があるのか!?」
『それも焼滅の宴を拡散させとる。一本一本の威力は大したことあらへんけど……』
竹櫛は俺の意図に気付く。コタマはばらまかれる宴で足を止められ、ほとんど立ち往生に近い状態で回避を繰り返している。
そこに蒼貴が飛翔し、接近する。追いつくには遠いが、投擲をするには十分な距離は詰まった。
『塵の刃を投げまくれ。その中から卵と小判で先打』
蒼貴は塵の刃で苦無を大量に作り出すと、惜しみなく投げつける。さらに移動のルートの先にイースターエッグや小判を投げつける。
「ちぃっ! そう簡単に追いつかせるかよ!」
格闘型に自身の防御をさせるとコタマは射撃型と共に蒼貴に射撃を仕掛ける。
逃げながらの射撃はあまり正確ではなく、攻撃は蒼貴を通り過ぎていくか、投擲武器を打ち落とすかのどちらかにしかならなかった。
さらに接近する蒼貴にコタマは格闘型を操って応戦する。格闘型が突っ込み、蒼貴を吹き飛ばしにかかる。
蒼貴はそれをかわすと鎌を振るって反撃に出る。それに対しては格闘型は右手のガントレットで防御し、カウンターを放つ。
受ける蒼貴は外側へ移る事で避けると即座を苦無を投げつける。だが、それもまた、ガントレットで防がれてしまう。
『捻脚から霰舞』
俺は更なる指示を出す。
蒼貴はそれに反応し、ガントレットによる殴打でわざと姿勢を崩して勢いをつけるとそのまま踵落とし、さらに翼で上を舞う。
そこから攻撃……鋭い足の鉤爪によるムーンサルトを絡めたダンスを披露してみせた。
ガントレットで防御する格闘型だったが、蒼貴はガントレットに覆われている場所以外を執拗に狙うようにステップを踏んでいたため、さすがに防ぎきれずダンスの途中で左腕をボロボロにし、防御に使えない状態に追い込んだ。
さらに遠方からライフルを構える射撃型が見える。
蒼貴の頭を吹き飛ばそうという魂胆なのだろう。
『誘牙』
「お任せを」
それに対して蒼貴は苦無を三つ投げつける。
放たれる攻撃を射撃型は難なく回避し、容赦ない攻撃を仕掛けようとスコープを見る。
……だが、その攻撃は実行されなかった。
スコープ越しに見えた三つの手裏剣によって。
一回目、ライフルに突き刺さり、暴発によって手ごとライフルが吹き飛ばされる。
二回目、無防備になっている所を腹に手裏剣が沈んでいく。
三回目、胸に突き刺さり、大ダメージを負わせた。
射撃型は殺到する手裏剣のダメージで限界が来たのか、そのまま動かなくなり、地面に落下していく。
『まずは一体』
「くっそ! パクリ技の百科事典か何かかよ!?」
射撃型をやられたコタマは蒼貴の悪口を言いながら、空いた手で機関砲を連射する。
蒼貴はその言葉に乗る事もなく、捻脚の要領で身体を捻って、そのまま下に降りて避けてみせた。
そしてお礼の黒板消しを進呈する。それは格闘型が割り込んできて残された右腕のガントレットで防御する事で防がれた。
さらにカウンターで左のガントレットが迫る。蒼貴はそれを左に避けて、反撃を加えようとする。
だが、格闘型は一回転してもう一回裏拳で攻撃する。
蒼貴はとっさに塵の刃で盾を作り出して防御するが、その二段攻撃に耐え切れず、また吹き飛ばされてしまう。
「もらったぁ!!」
その隙を突いてコタマが剣に持ち替えて襲い掛かってくる。この刹那的な状況では蒼貴は回避できない。
蒼貴は鎌で防御するが、コタマの勢いが強すぎて取り落としてしまった。
「なっ!?」
「もういっちょ!」
コタマは格闘型を操って打撃を仕掛けさせる。背後からの攻撃で一気に決めるつもりだ。
『剣を奪え』
対策を打ち出す。蒼貴は操るので注意が逸れている剣を握るコタマの手に手刀を放って、手放させるとその剣を取って、格闘型の攻撃を受け流す。
そのまま剣で持ち主であるコタマに攻撃する。彼女が機関砲に持ち替えて迎撃する中、塵の刃で盾を作り出して防ぎつつ、接近する。
間合いにたどり着くと横一閃を放って機関砲の砲塔を切断する。その直後、背後から格闘型が殴りにかかる。振りかぶっての一撃、蒼貴の隙をついての決定打だ。
『下に移動だ』
それに対して、蒼貴は後ろへと素早く体を倒して、下へズレる様に移動する。
そうすると決定打を与えようとしたのが災いして、格闘型はそのまま主に向かって突っ込んでいった。
「くっそ!」
「お返しします」
さらにコタマの剣を格闘型に投げつける。コタマにぶつかって無防備になっていた格闘型の背中に深々と突き刺さった。
「ぬわ~!?」
『コタマ!?』
コタマの叫び声が響く。どうやら格闘型を貫通して、コタマにも突き刺さったらしい。蒼貴は油断しないように塵の刃で苦無を作り出して、身構える。これで倒れてくれれば万々歳だが……判定が出ない。
『蒼貴、奴はまだ……』
そう言おうとした瞬間だった。ワイヤーか何かが格闘型の後ろから伸びてきて、蒼貴の手足を縛った。
「これは!?」
「かかったな!」
動かなくなった格闘型が落ちてコタマの姿が露わになる。
なんと彼女はとっさによけようとしていたのか、無傷だった。どうやら小柄なスモールタイプの素体で助けられたようだ。
そんな事より蒼貴だ。手足をワイヤーで縛られて動けない。いったい何があったというのだろうか。
「『F.T.D.D.D.』。そう呼んでんだ」
「身体が……いう事を聞かない……!?」
「ああ。んでもってこういう事もできる!!」
コタマの言葉と同時に蒼貴は自分の意志とは関係なしに自らの胸に突き立てるために塵の刃でできた苦無を向ける。あのワイヤーは拘束した相手の手足を自分の制御下に置く……つまり相手を操り人形にできる機能だった。
「とっとと自決しやがれ! 半分娘!!」
死の宣告と共に蒼貴の胸に苦無が突き立てられる。
『蒼貴!!』
俺の叫びも空しく握られた苦無は主に突き刺さる。蒼貴はゆらりと揺れると地面へと倒れる様に落ちていく。
「そのまま落ちな!」
『コタマ! ワイヤーを離さんどいて!!』
既に勝敗が決したと思ったコタマは自分が引きずられて落ちないようにワイヤーを外そうとすると竹櫛に止められる。
「えっ!?」
しかし、外してしまった。その瞬間、蒼貴が再び飛び上がって翼を広げる。その胸に傷は……ない。
「どういうこった!? 確かに制御して刺したはずだぜ!」
「ええ。確かに操られていました。……しかし、CSCやコアの制御まではできなかった様ですね」
その瞬間、俺は把握した。蒼貴は刺される直前に唯一、制御の残っているCSC……つまりはスキルである
塵の刃を解除したのだ。だから自決するための武器はなく、胸を手が叩くだけの無意味な行動となった。
俺はすぐにアイテムを使う。使うのは……『神力解放』継続のためのコンバットハイ。
「粉塵爆発って知っていますか?」
時間切れになっている神力解放を発動し直す蒼貴はそう問いかけながら、七色に輝く塵の刃の塵を自分とコタマの周囲に高濃度でばら撒く。
「な、何をする気だ!?」
「こうします……!!」
不死鳥の翼から火花がばら撒かれる。そうすると爆発が一から十、十から百と連鎖的に数を増やし、辺り一帯に起こり、爆炎が蒼貴とコタマを包んだ。
「どわぁぁぁぁ!?」
爆発の規模は大きく、煙で蒼貴達が見えなくなる。だが、その結果は数秒で分かった。巻き込まれないように折りたたんでいた翼を広げ、飛翔し続ける蒼貴と落ちるコタマ、その姿が煙の中から出てきたからだ。
『Destroy!!』
撃破判定が出た。この戦闘不能は演技でも何でもないようだ。それを証明する様にコタマのグラフィックが散っていき、消えた。
『You Win!! Winner チーム尊』
勝利判定が出て、二勝一敗の俺達が勝利したことを告げ、アクセルロンドのシステムが終了した。
これで俺の秘密は守られる。やっと肩の荷が下りたというものだ。
「だ~! 何だありゃ!? お前は狩りゲーのライオンか何かかよ!!?」
「言っている事はわかりますが、私は忍者です。あれは火遁の術みたいなものです」
シミュレータから戻ってきて早々、納得のいかないといったコタマが叫び始めた。言っていることは蒼貴の言う通り、わかるのだが、こちらはそれなりの思い付きでやっている。ゲームのように都合のいい風にはいかない。
「んなもんで済むか! おい! 二股マスター! 説明しろ!!」
「すごく犯罪くさいからその呼び方は勘弁してくれ。説明はしてやるから」
コタマから心外な称号を与えられた俺は新技を説明を始めた。
『炎塵』
それが蒼貴の新スキル、それもオリジナルだ。高濃度の塵を周りにまき、不死鳥の翼を火種にして、粉塵爆発を巻き起こす塵の刃の応用技である。
不死鳥の翼と尾による「炎」と塵の刃の「塵」の組み合わせによって自在に爆発を引き起こせる。それ故に『炎塵』という名前で用いている。
塵の刃で用いる周囲の塵も、SPも消費しつくしてしまうため、使えば塵の刃をその場では生成できなくなるものの、その威力は絶大だ。近接を仕掛けてくる相手であれば余程後退されない限り、爆発に巻き込めるため、奥の手として今後は使えるだろう。
しかし、翼がない方が塵の刃を最大限に使えたり、紫貴と連携したりするため、これはタイマン勝負で使う手段という意味合いが強い。単に威力を補うなら紫貴に任せればいいだけの話なのだから。
「おもろい技やね。それも一発逆転の大技って訳ね」
「ああ。どちらかと言えば単機で攻める時用になるな。紫貴と連携しにくくなるから普通はやらん」
「双姫主ならではの欠点ね。尊にとっては手札の一枚ってとこ?」
峰山の言う通りという事になる。俺、蒼貴、紫貴、武装強奪、武装破壊、連携、模倣技、オリジナル技。これらの手札全てが俺達なのだ。
一枚にこだわるだけが戦い方というわけではない。
「ああ。蒼貴だけの時の切り札だ。さて……種明かししたが、勝負は俺の勝ちってことでいいな?」
「むむむ……。悔しいが、てめぇの勝ちって事にしてやる。秘密も守ってやるぜ」
「それでいい。後はどうする? 今度は賭け無しで普通に戦ってみるか?」
「は? 何言ってんだあんた?」
「おかしい事言ったか?」
「秘密をばらそうしたり、いろいろ文句言った奴にそれを言うのか?」
「それに関しては、賭けで勝ったからそれをお前が守ればいい。もう一つのルールも守れるだろ?」
「もう一つのルール?」
「そうやね。むしろそっちの方が大事やし」
「な、なんだよ? 鉄子ちゃんはわかったのかよ?」
「それはね……」
俺の言葉の意味に気付いた竹櫛は秘密を知らない貞方や峰山には聞こえない様にコタマに小声で説明した。そうすると彼女の顔はやかんの様に顔真っ赤になって怒り始めた。
「なぁあにぃぃっ!!!?」
コタマは素っ頓狂な声を上げる。それはそうだ。『これでばらせばコタマ、引いては竹櫛も不利益を被る』のだから。
話の全貌はこうだ。俺の正体を竹櫛が気付いた場所は遠野貴樹のイベントだ。写メを撮った場所もそこだ。そしてそこで提示した遠野のルールは……
『ここでの決まり事は必ず守ってもらう。
……なに、難しいことじゃない。
一つは、俺の指示は最優先にしてもらう。といっても、大方はミスティとの対戦順についてだから、気をつけてもらえれば問題ないはずだ。
次に、ここでのことは他言無用だ。ネットへの書き込みや、ゲームセンターで話題にすることも禁止。必ず守ってもらう。
それから、神姫に記録されたバトルログも持ち出し禁止だ。ここのVRマシンを使っても、バトルログは神姫側に記録されない。だが念のため、データのバックアップは、あくまで自宅のPCで行ってくれ。帰りがけにゲーセンや神姫センターに行くのは禁止だ。もし、バトルログが必要であれば、この特訓が終わった後に、メディアで提供する。それまで待ってほしい』
つまり、俺の正体をバラすという事はその情報ソースである遠野貴樹のイベントをバラすに等しい行為なのだ。バラせば『ドールマスター』の信用もまた落ちる。
バラした場合の竹櫛達の直接的なメリットはないに等しい。むしろデメリットの方が大きすぎる。
コタマは頭に血が上っていて気付いていなかったようだが、終始冷静で、対戦を楽しんでいただけの竹櫛は初めからわかっていたのだった。
「こんの、確信犯がぁっ!! いいぜ! 普通に戦ってやる! 普通に! 全力でな!! メル! あの二股マスターをぶっ飛ばすぞ!!」
「え? あ、うん。ショウ君はいい? 双姫主とだけど」
「ああ。こういう機会だ。一回ぐらいはやっとかないとな」
コタマはメルを巻き込んでのバトルロンドに決めたらしい。戦いの後だというのに大したものである。ああいう気持ちもまた、武装神姫では必要な要素だと思った。
力にも、弱さにも流されずにひたむきに前を向こうとする姿勢。それが『ドールマスター』という形となって今あるのだろう。
「メンバーは決まった様だな。バトルロンドで対戦するか」
コタマのあり方を考えながら、彼女の戦いに応じる。バトルロンドでの戦いはどうなるのか、楽しみな限りだ。
「だが、その前に一休みとさせてくれ。何、時間はかからん。飲み物を買って飲むぐらいだ」
「何ぃ? 逃げんのか?」
「ええよ。私も飲み物を飲みたかったし」
「って……鉄子ちゃんもかよ。仕方ねぇ。待っといてやるよ」
が、その前の小休止を要求する。緊張が続いたので精神的にどっと疲れた気分にあるからだ。その要望はマスターの竹櫛があっさりOKを出してくれたおかげであっさり通る事となった。
「そうか。じゃあ、そうさせてもらおう。すまん。真那、蒼貴と紫貴を見といてくれ。すぐに戻る」
「わかったわ」
「……心配すんな。竹櫛には気にしている奴がいるし」
「な、何言ってんのよ! さっさと買ってきなさい!」
「はいよ」
少々、真那をからかうと蒼貴と紫貴を彼女に預け、俺は竹櫛と共に自動販売機に向かうことにした。
「そういえば、どうしてコタマの挑戦を引き受けたん? さっきの話なら勝負を受けなくとも私がコタマを止めておったよ?」
多少距離のある場所にある自動販売機まで歩いている間、竹櫛は俺に話しかけてきた。どうやら、話は最初から分かっていても理由まではわからなかったらしい。
「二つ理由がある。一つは『ドールマスター』に戦ってみたかったからさ。強いというのはネットでもよく耳するからな。手合せしてみたかったわけだ」
「もう一つは……?」
「賭けをした方が燃えるタイプだと考えた。あいつ、あの時に本気を出さなかっただろ?」
「あ……」
理由と本気を引き出す手段を答えると竹櫛は心当たりがあったのか、ハッとした表情になる。そう。遠野のイベントでの対戦を観戦していた時l、ネットで噂されていた手札の中で切り札である「F.T.D.D.D」……つまりは相手を操り人形にする技を使っていなかった。引いては全力を出さなかった事になる。
だから、本気を引き出すために燃えるシチュエーションを用意した。負けてもデメリットに気付いている竹櫛が阻止してくれるだろうから保険を掛けるまでもない。そのまま、コタマの言う事に流されるだけで本気のコタマと戦える展開になる。結果はさっきの対戦通りだったというわけだ。
しかし、バトルロンドではなく、アクセルロンドを仕掛けてくるという所までは予想していなかった。そのため、戦術を変更する事を余儀なくされ、チケットを使って不死鳥の尾を手に入れたり、アクセルロンド用の戦術を真那と一緒に用意することとなったのである。
「なるほどねぇ。もし負けて、私たちが言うと思わかったん?」
自動販売機に辿り着くまでに一通りの説明をすると竹櫛は納得した様子で頷いて、問いを投げかける。
「これっぽっちも思っていないな。コタマは何とも言えんが、竹櫛がそういう事をするのはまず無いと考えた。コタマが勝って天狗になって言いふらそうとしてもお前が止めてくれる。そう、確信してた」
「ありがと。……それにしてもすっごい自信ねぇ。だからそんなに強いん?」
「それは違うな。さっき言った通り、俺達全てで強さなんだ。自信も手札の一つでしかない」
竹櫛の問いに信用と自信をもって迷いなく答える。周りの要因も、自分も、味方も、全ての事象をひっくるめてカードゲームそのものだ。手札から何ができるか、山札から状況を変えるカードを引くことができるか、捨て札からどんな情報が得られるか。言い換えられる事は非常に多い。
「持ち札で何ができるか。それを考えているだけさ」
「確かにトランプのゲームで言い換えればそうなるね」
「そういう事だ。……っと、ドリンクは奢るぜ。選んでくれ」
「ええの? 真那さんおるやん」
「対戦してくれた感謝の印みたいなものだ。受け取ってくれ。あいつには別で何か買ってやるさ」
「なら、お願いしよかな。ミルクティーで」
「OK」
竹櫛の注文を受けた俺は自動販売機にお金を入れて、ミルクティーと、俺の分であるスポーツドリンクを勝って、ミルクティーを彼女に手渡した。
「ありがとね。……前にも聞いたけど、正体はいつまで隠し続けるん? 私達が言わなくても多分、いつかバレるんやない?」
「そうだろうな。ちょっとした拍子にこういう事は起きる。いつか友達にも話すかもしれん」
「その時は?」
「その時だ。縁が切れるも、切れないも、俺次第さ」
これまでの俺を武装神姫という色を入れたら、武装神姫をする前の友人からはどう見えるか、不安ではあるが、どうあがいてもそれら全てが自分になる。ちょっと小細工するだけで何かが変わるというわけではないだろう。
「……私は切れない事を信じてる。尾上君が積み上げてきているものは、すごいから」
「すごいってもんじゃないさ。友達の約束を果たしたいだけだ」
「それがすごいんよ。誰かのためにできる事があるって」
「そうか。……ありがとう」
「礼はええよ。……せやね、背比の事で応援してくれた事のお礼と思っといて」
「OK。そういう事にしておくぜ」
「さ。そろそろ戻ろ。コタマは待たせすぎると何をするかわからんで?」
「そうしよう。何をするか想像もつかん」
短いやり取りが終わると待たせている皆、特にコタマの事を考えて、俺と竹櫛はシミュレータの場所へと戻るために歩き始める。
誰かのためにできる事がある、か。竹櫛からは大事なことを学んだ事を気がする。遠野の体現してくれた絆は俺がもたらすものを、竹櫛の言葉は俺の行動の意味を教えてくれた。
いつか、守のような神姫を嫌う友達にこの事がバレたとしても、自分の成した事、その友達と積み重ねた物があれば、縁は切れないと思い始めているのを感じる。
可能性がゼロじゃないと思えるのなら、それを信じていれば、何かが変わる。隠れるだけの道から変われるだろう。
変わりたいと。まずはそう思おう。全ては、そこからだ。
第二部:15周程度の疾走 -終-
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