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「引きこもりと神姫:6-1」(2012/08/22 (水) 16:00:14) の最新版変更点
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***何かを得るためにはそれ相応の代価を支払はなければならない
7月26日(月)
そして次の日、私はまたあの騒音の中にいた。耳が痛くなってきそうなほどの音量で、様々な音が混ざり合っている。やっぱりこの空間には慣れそうにない。
「そう? あたしは慣れてるけど」
「私は二回目」
「私に関しては初めてですよ……」
肩に乗ったシリアが、私の顔を支えに座っている。冷たい指の感触が頬に伝わる。
「大丈夫?」
「うん、なんとか……」
シリアもこの空間には馴染めそうにないな、と思いながら私は神姫バトルのコーナーを見た。
今日もいい賑わいを見せている。中学校や高校が夏休みに入ったためか、若いマスターが多く見受けられた。中には親子連れの姿まである。
ちなみにお金に関してだが、ちゃんとリアルマネーだ。さすがにゲームセンター側としても運営が成り立たなくなってしまっては困るだろう。
だが神姫センターでの買い物にはspt(神姫ポイント)を使うらしい。これはバトルに勝てば手に入り、また運営にお金を払えばもらえるそうだ(倍率は0.2倍だとか)。
ただまあ、神姫バトルでリアルマネーを賭けた勝負は禁止らしい。3年前にはちらほらやっていたらしいが、今は警察の目が鋭くなっていてここ最近では数は少なくなったとか。全部華凛から聞いた。
「これって交代制だよね?」
「そうよ、沢山いても回転率次第で早く回ってくるから、今のうちに用意して起きなさいよ?」
相変わらず天井に吊られているモニターを見る。なるほど、確かに画面右上には時間制限のような数字が見える。300秒らしい。つまりいくら長引いても5分で片がつく作りになっているようだ。
つまり私の番が回ってくるまで軽く時間がある。それまでに私は華凛に聞きたいことがあるのを思い出した。
「華凛、神姫持ってないんだよね?」
「んー? ないわねー」
華凛はあくまでモニターから目を離さずに生返事した。
「じゃあ、なんでこんなに神姫に詳しいの?」
「…………」
華凛はモニターを見たまま黙っている。だがその横顔には戸惑いの色がハッキリ見て取れた。
「……知りたい?」
その時、華凛の声が幾重にも重なったゲームの音に遮られずにやけに鮮明に聞こえた。何か、変な気分だ。まるで、知ってはならないことを知ろうとしているような――
まるで、華凛の嫌な過去を知ろうとしているような、そんな感覚。
私は、華凛のことはだいたい知っている。私のことは話したし、華凛のことも話してもらった。
だが、まだ私の知らない華凛がどこかにいるようだと薄々思っていた。まだ私は、親友のことを全部知っていない。
「……知りたい」
私はそう答えた。華凛が進んで話してくれるなら、私も黙って耳を傾けた。だが、今はそうではない。私から求めている。今までにない緊張感が、私の体の中に走る。
「…………」
華凛は目を閉じた。逡巡しているようにも見える。やがて、ゆっくりと目を開いた華凛は、
「えいっ」
私の頬を両手で引っ張っていた。
「そっかー、知りたいかーっていうか柔らかっ、あ、なんかクセになりそう……」
「か、かふぃん?」
しばらく私の頬をむぎゅむぎゅと引っ張った後、ようなく華凛は離してくれた。
「あー、柔らかいわね、いやホント。マシュマロみたいってこういうこと言うのね」
「……痛い」
「ごめんごめん。で、なんであたしが神姫に詳しいかだったわよね?」
「うん、そう」
「それはね……」
「……それは?」
華凛は十分に間を取ってから話しだした。
「実は、あたしも神姫が欲しいのよ」
「……?」
それがどう神姫に詳しいことに繋がるのだろうか?
「あたしって下調べとかは結構するからね、神姫が欲しいから、色々調べたのよ」
仁さんも色々教えてくれたし、と華凛は語った。確かにあの人の神姫の話は面白い。調べているうちに詳しくなったと華凛は語った。
だが、なんだかんだ言って今の理由は嘘だろう。華凛が私の考えてもいることが分かるように、私だって華凛が嘘をついているかどうかぐらいすぐに分かる。
華凛は嘘をついている。でも、その意味まではわからない。
(話したくなったら、話してくれるよね……)
私は華凛がいつか話してくれると思いながら、自分の番を待った。
----
(何で……話せなかったんだろう……)
あたしの隣にいる小柄な少女は、緊張した面持ちで自分の神姫と話している。
それにしても、なぜあたしは樹羽に話せなかったのだろう。
(神姫……か)
神姫を見ていると、不安になってくる。その小さな体は簡単に壊れてしまいそうで――
(違う……そうじゃない……そんなの言い訳だ)
あたしはもう一度樹羽を見た。さっきよりは緊張はほぐれ、真っ直ぐ前を見ている。
あの真っ暗な部屋で塞ぎ込んでいた子が、2週間も経たないうちにここまで成長するとは、あたしも驚いた。
違うな、多分これが本当の樹羽の姿なのだろう。自分の殻を少しずつ割って、ゆっくりと本来の樹羽が出てきているのだ。
(この調子で行けば、夏が終わる前に樹羽の引きこもりは治るわね……。そしたら、あたしは……)
そこまで考えて、あたしは頭を振った。今からそんなことを考えても仕方がない。
だが静かに迫るその時を、あたしはただ待つしかなかった。
----
直前の人がバトルを終え、私の番が回ってくる。
相手は青年だった。椅子に座り、対戦相手を待っている。ポケットからイヤホンを出そうとしたが、こちらの姿を確認すると黙ってまたポケットにしまった。
少し背が高い。それにしっかりとした目、キレのある顔立ち。なんだかんだ言って、つまりかっこいい人だった。
だが、なんとなく近寄りがたいオーラが出ている。私が声を掛けようか悩んだが、
「よろしく……お願いします……」
とだけ言った。だが、声が小さかったせいか、相手には聞こえていなかったらしい。
私の中で気まずさが残った。どうしようか悩んでいると、後ろから声がした。
「あれ? 東雲じゃん。何やってんの?」
華凛だった。後ろから対戦相手をに話し掛けている。話し掛けられた方は、華凛を見るや、目を見開いた。
「あ、秋已? お前こそ、神姫も持ってねぇのに何やってんだよ?」
「あたしは付き添い。本命はこの子」
東雲と呼ばれた人は、こちらを改めてみた。
「てことは、やっぱり対戦相手ってことか。俺は東雲榊(しののめさかき)。よろしくな」
「奏萩樹羽……よろしく……」
適当な言葉が見当たらず、私はそう答えた。東雲くんは肩をすくませると、
「シンリー、対戦相手だ」
と台に向かって言った。
台には一人の神姫の姿があった。普通の神姫より少し小さい。黒いポディに金髪。生では初めて見るが、アルトアイネス型の筈だ。
シンリーというらしい彼女は台の上で何やら書いていた。神姫サイズの小さなノートに、何やら走り書きのような文字がちらほら書いてある。
「ちがう……こうじゃない……もっとこう、テーマを絞って……」
ああでもないこうでもないと何やらぶつぶつ呟いている。
「な、なにがあったんだろう……」
「さあ」
シリアも対戦相手に挨拶しようと出てきたが、肝心の対戦相手が取り込み中だ。
「ちょっと東雲、どうしたのアレ」
「ああ、あいつ作曲出来てな、最近スランプらしいから気分転換に来たんだが……」
気付けばネタ帳を持ち出し、気分転換にならないらしい。
「曲作れるんですか? すごいですね」
シリアは初対面の相手に普通にしゃべっている。社交性はシリアの方が上だな、やっぱり。
「ああ、ネットで『Day Black』って偽名であげてるよ」
『Day Black』、直訳すると、『東雲』になった筈だ。
「そう、なんですか……」
シンリーはまだぶつぶつ言っている。あれでバトル出来るのだろうか?
「バトルは、出来るの?」
疑問をそのまま口にしてみる。すると、東雲くんはちゃんと答えてくれた。
「出来るっちゃ出来るな」
「何よそれ、つまり100%じゃないってこと?」
「ま、そうなるな。だけどナメんなよ。強いぞ、俺たちは」
にやりと笑う東雲くん。
「いいじゃない、その勝負、乗ったわ!」
「華凛、戦うの私とシリア」
だが華凛はそんなことお構い無しでことを進めた。気付けば椅子に座って、ヘッドギアを着けている自分がいる。
「シリア、行ける?」
ポッドに収納されたシリアに尋ねる。
『私は問題ないよ。でも、シンリーさん大丈夫かなぁ?』
耳元のスピーカーからは、シリアの心配そうな声が聞こえてくる。
「相手のことを考えるのはいいけど、バトルには集中しよう」
『うん、そうだね。集中集中……』
私もあの状態のシンリーは気になる。だが、対戦相手なのだ。やるなら、全力でやらないと失礼だろう。
私はボタンを押した。既に聞きなれたアナウンスが流れ始める。
『…3、2、1、0、RideOn―――』
そしてカウントがゼロになり、私の意識は神姫にライドした――。
----
東雲と樹羽の勝負が始まった。あたしはモニターで二人の勝負を観戦している。
(また、やってしまった……)
昔から挑発には弱く、すぐに受けてしまう。これは樹羽の勝負なのに、何やってるんだろうねあたし。
(でもまだあたしが引っ張らなきゃいけない時期か、さすがに一人でゲーセン行けって言うのは時期尚早よね……)
モニターの中の樹羽は、武装を展開している。まもなく戦いが始まるだろう。
(それにしても、樹羽のあの能力だけは予想外だったわね……)
通常、人の脳では指示することの出来ないブースター部分に指示を送ることが出来る。これは普通に身に付くものではない。この能力を使いたいからといくら努力しようとも無いものはどうしようもない。
(樹羽は……普通じゃない……)
だからどうと言うわけではないが、やはり気にはなる。
(でも、本人も知らない能力だし。樹羽のお母さんに聞く? いやいや、そんなこと聞けないでしょ)
結局あたしは、樹羽の能力については何もわからないままなのであった。
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***何かを得るためにはそれ相応の代価を支払はなければならない
7月26日(火)
そして次の日、私はまたあの騒音の中にいた。耳が痛くなってきそうなほどの音量で、様々な音が混ざり合っている。やっぱりこの空間には慣れそうにない。
「そう? あたしは慣れてるけど」
「私は二回目」
「私に関しては初めてですよ……」
肩に乗ったシリアが、私の顔を支えに座っている。冷たい指の感触が頬に伝わる。
「大丈夫?」
「うん、なんとか……」
シリアもこの空間には馴染めそうにないな、と思いながら私は神姫バトルのコーナーを見た。
今日もいい賑わいを見せている。中学校や高校が夏休みに入ったためか、若いマスターが多く見受けられた。中には親子連れの姿まである。
ちなみにお金に関してだが、ちゃんとリアルマネーだ。さすがにゲームセンター側としても運営が成り立たなくなってしまっては困るだろう。
だが神姫センターでの買い物にはspt(神姫ポイント)を使うらしい。これはバトルに勝てば手に入り、また運営にお金を払えばもらえるそうだ(倍率は0.2倍だとか)。
ただまあ、神姫バトルでリアルマネーを賭けた勝負は禁止らしい。3年前にはちらほらやっていたらしいが、今は警察の目が鋭くなっていてここ最近では数は少なくなったとか。全部華凛から聞いた。
「これって交代制だよね?」
「そうよ、沢山いても回転率次第で早く回ってくるから、今のうちに用意して起きなさいよ?」
相変わらず天井に吊られているモニターを見る。なるほど、確かに画面右上には時間制限のような数字が見える。300秒らしい。つまりいくら長引いても5分で片がつく作りになっているようだ。
つまり私の番が回ってくるまで軽く時間がある。それまでに私は華凛に聞きたいことがあるのを思い出した。
「華凛、神姫持ってないんだよね?」
「んー? ないわねー」
華凛はあくまでモニターから目を離さずに生返事した。
「じゃあ、なんでこんなに神姫に詳しいの?」
「…………」
華凛はモニターを見たまま黙っている。だがその横顔には戸惑いの色がハッキリ見て取れた。
「……知りたい?」
その時、華凛の声が幾重にも重なったゲームの音に遮られずにやけに鮮明に聞こえた。何か、変な気分だ。まるで、知ってはならないことを知ろうとしているような――
まるで、華凛の嫌な過去を知ろうとしているような、そんな感覚。
私は、華凛のことはだいたい知っている。私のことは話したし、華凛のことも話してもらった。
だが、まだ私の知らない華凛がどこかにいるようだと薄々思っていた。まだ私は、親友のことを全部知っていない。
「……知りたい」
私はそう答えた。華凛が進んで話してくれるなら、私も黙って耳を傾けた。だが、今はそうではない。私から求めている。今までにない緊張感が、私の体の中に走る。
「…………」
華凛は目を閉じた。逡巡しているようにも見える。やがて、ゆっくりと目を開いた華凛は、
「えいっ」
私の頬を両手で引っ張っていた。
「そっかー、知りたいかーっていうか柔らかっ、あ、なんかクセになりそう……」
「か、かふぃん?」
しばらく私の頬をむぎゅむぎゅと引っ張った後、ようなく華凛は離してくれた。
「あー、柔らかいわね、いやホント。マシュマロみたいってこういうこと言うのね」
「……痛い」
「ごめんごめん。で、なんであたしが神姫に詳しいかだったわよね?」
「うん、そう」
「それはね……」
「……それは?」
華凛は十分に間を取ってから話しだした。
「実は、あたしも神姫が欲しいのよ」
「……?」
それがどう神姫に詳しいことに繋がるのだろうか?
「あたしって下調べとかは結構するからね、神姫が欲しいから、色々調べたのよ」
仁さんも色々教えてくれたし、と華凛は語った。確かにあの人の神姫の話は面白い。調べているうちに詳しくなったと華凛は語った。
だが、なんだかんだ言って今の理由は嘘だろう。華凛が私の考えてもいることが分かるように、私だって華凛が嘘をついているかどうかぐらいすぐに分かる。
華凛は嘘をついている。でも、その意味まではわからない。
(話したくなったら、話してくれるよね……)
私は華凛がいつか話してくれると思いながら、自分の番を待った。
----
(何で……話せなかったんだろう……)
あたしの隣にいる小柄な少女は、緊張した面持ちで自分の神姫と話している。
それにしても、なぜあたしは樹羽に話せなかったのだろう。
(神姫……か)
神姫を見ていると、不安になってくる。その小さな体は簡単に壊れてしまいそうで――
(違う……そうじゃない……そんなの言い訳だ)
あたしはもう一度樹羽を見た。さっきよりは緊張はほぐれ、真っ直ぐ前を見ている。
あの真っ暗な部屋で塞ぎ込んでいた子が、2週間も経たないうちにここまで成長するとは、あたしも驚いた。
違うな、多分これが本当の樹羽の姿なのだろう。自分の殻を少しずつ割って、ゆっくりと本来の樹羽が出てきているのだ。
(この調子で行けば、夏が終わる前に樹羽の引きこもりは治るわね……。そしたら、あたしは……)
そこまで考えて、あたしは頭を振った。今からそんなことを考えても仕方がない。
だが静かに迫るその時を、あたしはただ待つしかなかった。
----
直前の人がバトルを終え、私の番が回ってくる。
相手は青年だった。椅子に座り、対戦相手を待っている。ポケットからイヤホンを出そうとしたが、こちらの姿を確認すると黙ってまたポケットにしまった。
少し背が高い。それにしっかりとした目、キレのある顔立ち。なんだかんだ言って、つまりかっこいい人だった。
だが、なんとなく近寄りがたいオーラが出ている。私が声を掛けようか悩んだが、
「よろしく……お願いします……」
とだけ言った。だが、声が小さかったせいか、相手には聞こえていなかったらしい。
私の中で気まずさが残った。どうしようか悩んでいると、後ろから声がした。
「あれ? 東雲じゃん。何やってんの?」
華凛だった。後ろから対戦相手をに話し掛けている。話し掛けられた方は、華凛を見るや、目を見開いた。
「あ、秋已? お前こそ、神姫も持ってねぇのに何やってんだよ?」
「あたしは付き添い。本命はこの子」
東雲と呼ばれた人は、こちらを改めてみた。
「てことは、やっぱり対戦相手ってことか。俺は東雲榊(しののめさかき)。よろしくな」
「奏萩樹羽……よろしく……」
適当な言葉が見当たらず、私はそう答えた。東雲くんは肩をすくませると、
「シンリー、対戦相手だ」
と台に向かって言った。
台には一人の神姫の姿があった。普通の神姫より少し小さい。黒いポディに金髪。生では初めて見るが、アルトアイネス型の筈だ。
シンリーというらしい彼女は台の上で何やら書いていた。神姫サイズの小さなノートに、何やら走り書きのような文字がちらほら書いてある。
「ちがう……こうじゃない……もっとこう、テーマを絞って……」
ああでもないこうでもないと何やらぶつぶつ呟いている。
「な、なにがあったんだろう……」
「さあ」
シリアも対戦相手に挨拶しようと出てきたが、肝心の対戦相手が取り込み中だ。
「ちょっと東雲、どうしたのアレ」
「ああ、あいつ作曲出来てな、最近スランプらしいから気分転換に来たんだが……」
気付けばネタ帳を持ち出し、気分転換にならないらしい。
「曲作れるんですか? すごいですね」
シリアは初対面の相手に普通にしゃべっている。社交性はシリアの方が上だな、やっぱり。
「ああ、ネットで『Day Black』って偽名であげてるよ」
『Day Black』、直訳すると、『東雲』になった筈だ。
「そう、なんですか……」
シンリーはまだぶつぶつ言っている。あれでバトル出来るのだろうか?
「バトルは、出来るの?」
疑問をそのまま口にしてみる。すると、東雲くんはちゃんと答えてくれた。
「出来るっちゃ出来るな」
「何よそれ、つまり100%じゃないってこと?」
「ま、そうなるな。だけどナメんなよ。強いぞ、俺たちは」
にやりと笑う東雲くん。
「いいじゃない、その勝負、乗ったわ!」
「華凛、戦うの私とシリア」
だが華凛はそんなことお構い無しでことを進めた。気付けば椅子に座って、ヘッドギアを着けている自分がいる。
「シリア、行ける?」
ポッドに収納されたシリアに尋ねる。
『私は問題ないよ。でも、シンリーさん大丈夫かなぁ?』
耳元のスピーカーからは、シリアの心配そうな声が聞こえてくる。
「相手のことを考えるのはいいけど、バトルには集中しよう」
『うん、そうだね。集中集中……』
私もあの状態のシンリーは気になる。だが、対戦相手なのだ。やるなら、全力でやらないと失礼だろう。
私はボタンを押した。既に聞きなれたアナウンスが流れ始める。
『…3、2、1、0、RideOn―――』
そしてカウントがゼロになり、私の意識は神姫にライドした――。
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東雲と樹羽の勝負が始まった。あたしはモニターで二人の勝負を観戦している。
(また、やってしまった……)
昔から挑発には弱く、すぐに受けてしまう。これは樹羽の勝負なのに、何やってるんだろうねあたし。
(でもまだあたしが引っ張らなきゃいけない時期か、さすがに一人でゲーセン行けって言うのは時期尚早よね……)
モニターの中の樹羽は、武装を展開している。まもなく戦いが始まるだろう。
(それにしても、樹羽のあの能力だけは予想外だったわね……)
通常、人の脳では指示することの出来ないブースター部分に指示を送ることが出来る。これは普通に身に付くものではない。この能力を使いたいからといくら努力しようとも無いものはどうしようもない。
(樹羽は……普通じゃない……)
だからどうと言うわけではないが、やはり気にはなる。
(でも、本人も知らない能力だし。樹羽のお母さんに聞く? いやいや、そんなこと聞けないでしょ)
結局あたしは、樹羽の能力については何もわからないままなのであった。
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