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「引きこもりと神姫:1-3」(2012/06/10 (日) 14:01:40) の最新版変更点
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「ほら、ここだよ!」
そう華凛が指差す建物は、看板が綺麗なイルミネーションで彩られていて、いかにもな建物だった。
周りには、神姫を持った人がちらほら見える。
ある神姫は笑い、またある神姫は、マスターに対して怒っているように見えた。
(ホントに人間みたい……)
昔のアニメで、神姫のようなロボットが出ていたのを思い出す。あのアニメは相当昔の物だったが、当時の人からしたら、15cmのロボットが現実になるとは考えもしなかっただろう。
「樹羽~、行くよ~?」
と、気が付くと、華凛は建物の入り口付近まで行ってしまっていた。
「あ、うん」
私は多少急ぎ足で華凛の後を追った。
建物の中は、様々なゲーム機器の音が混じりあい、酷いタバコの臭いが立ち込めていた。華凛に導かれるままに、歩いて行くと、そこに辿り着いた。
数台のテーブル状の筐体を挟んで、神姫のマスター達が椅子に座って瞑想していた。
……少なくとも、無知な私の目には、変な機械を頭に着けてただ目を瞑っているだけにしか見えなかった。
「我慢大会?」
「違うわよ、筐体の中を良く見なさい」
言われるままに筐体の中を目を凝らして見てみた。
良くみたら、筐体の上にはうっすらとホログラムが展開されていた。その中で、赤と水色の点が動き回っているのが見える。
「あの点が神姫たちよ。これがヴァーチャルバトルね」
「リアルもあるの?」
いちいちヴァーチャルバトルと区別するのだから、リアルバトルもあるのでは?
「ああ、それはあることはあるんだけど、スペース的に難しいわね。本で読んだと思うけど、神姫は15cmあるの。その神姫が、ヴァーチャルバトルと同様に、縦横無人に動くには、だいたい10×10㍍もの大きさのバトルフィールドが必要になるわ」
確かに、このゲームセンターに10×10㍍ものフィールドをこの台数だけ置こうと思ったら、全てのゲームを取り出さなくてはならないだろう。
「あ、ほら、樹羽。あのスクリーンにバトルの状況が出てるよ!」
私は華凛が指差す観戦用の大型スクリーンを見た。
天井から吊されたそれは、現在行われているバトルの様子が、リアルタイムで表示されていた。左上と右上には、それぞれの神姫の種類と登録名、そして残存HPが記されていた。さらに左下と右下には、その神姫が使っている武装が記載されている。
左はマオチャオ型の「こなべ」。見た感じ、猫をイメージした神姫のようだ。
残存HPは1036/3096。使用武器は、ナックルが2つにドリルが1つ。全て近距離用の武器だ。ウェポンプール(多分、予備武装みたいなもの)にはビットと書かれている。
対する右はジルリバーズ型の「リエラ」。背中から飛び出ている2本のタイヤと大きなスカートパーツが印象的な神姫だ。
残存HPは3640/3640。つまり無傷。使用武器は、ライフルとショットガンが1丁ずつに小剣が1本。さらにウェポンプールには、サブマシンガンが一丁。
「うわ、あの神姫無傷だよ」
周りのギャラリーから、そんな呟きが聞こえる。確かに、戦い方を見ていれば、無傷な理由がよくわかった。
ステージは、建物などが立ち並ぶ廃墟ステージ。
その建物の陰から、ショットガンとサブマシンガンで弾幕をはり、ライフルで的確に狙撃する。近付かれたら後退しながら弾幕をはる。卑怯ともとれる戦法だが、相手が近接武器しか装備していないのが悪い。
いや、ビットを装備していたようだが、とっくに壊されていたらしい。ウェポンプールのビットの欄に破壊と赤い文字で書かれている。
「結構厳しいね」
「…………」
その時、マオチャオはショットガンのリロードの隙に、一気に距離を詰めた。ジルリバーズも後退しながらライフルで狙撃するが、元々そんなに誘導性能は高くないようだ。うまくかわしながら進むマオチャオ。ジルリバーズも下がるのをやめ、相手の出方を見る体制に入った。と同時に、ライフルの欄の赤いゲージが伸びる。
「ダメ、今じゃない」
「え?」
そのタイミングじゃない。今見たマオチャオの移動速度的に、ジルリバーズの元につく前にショットガンのリロードが完了するだろう。
待て、何故相手は打つのをやめた? 先程のようにサブマシンガンをばらまいて逃げることも可能だろう。
それをしないのは何故だ? 考えられるのは……
と、その時マオチャオの姿が消えた。正確には、消えたように見えるほど早く動いたのだ。観戦用のスクリーンには、青いラインと点が表示される。多分マオチャオの動きだろう。そうなると相手の左から襲撃するルートだ。
ジルリバーズの右には建物がある。逃げ道は、後ろか前のどちらか、しかし、前には瓦礫。
ということは、逃げ道は後ろ。それも予想しているのだろう。恐らく、相手の回避に合わせて別の一撃を加える気なのだ。
「それじゃダメだ、カウンターが来る」
「あの、樹羽?」
ジルリバーズが建物の方に向き直る。突っ込んでくる相手に背中を見せる形になった。ギャラリーから戸惑いの声。しかしその声は、次の瞬間驚嘆の声に変わった。
ジルリバーズのリアからブースターがふき、建物の壁を蹴りあげる様に上がる。
マオチャオの拳が空を切った。
「バカ」
見事に宙返りを決めたジルリバーズは、ライフルを敵に向け、引き金を引く。先程よりも大きい光弾はマオチャオを包みこむ。残りHP438。
さらにジルリバーズは、ライフルの上部につけられていた小剣を掴み、分解。落下と同時に一閃。マオチャオは悲鳴もなく、データの塵となった。
ブザーが鳴り、画面には『Winner ジルリバーズ型 リエラ』のテロップ。ゲーム終了。ジルリバーズも悠然とデータの塵になっていく。
「だからダメだって言ったのに。射撃武装での遠距離戦が主体の相手が突然撃つのをやめたら、不信に思わなきゃ。そこをチャンスと見るかトラップと見るかが、プレイヤースキルなのかな……」
「樹羽~、帰ってきて~」
「はっ……」
あれ? 私は何を?
「大丈夫? なんかブツブツ呟いてたけど」
「あ、いや、なんでもない……」
答えながら、私は考える。
何故、あんなに考えたんだろう。
昔から不意に考え込んでしまうのはよくあることだった。でも、口に出すことはなかったはずだ。
(それにすら気付かないほど、夢中になってたってこと?)
はっきりとしない感覚は、考えが伴って確信に変わる。
(私は……)
第2戦の開始を告げるブザーが響いた。
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「ほら、ここだよ!」
そう華凛が指差す建物は、看板が綺麗なイルミネーションで彩られていて、いかにもな建物だった。
周りには、神姫を持った人がちらほら見える。
ある神姫は笑い、またある神姫は、マスターに対して怒っているように見えた。
(ホントに人間みたい……)
昔のアニメで、神姫のようなロボットが出ていたのを思い出す。あのアニメは相当昔の物だったが、当時の人からしたら、15cmのロボットが現実になるとは考えもしなかっただろう。
「樹羽~、行くよ~?」
と、気が付くと、華凛は建物の入り口付近まで行ってしまっていた。
「あ、うん」
私は多少急ぎ足で華凛の後を追った。
建物の中は、様々なゲーム機器の音が混じりあい、酷いタバコの臭いが立ち込めていた。華凛に導かれるままに、歩いて行くと、そこに辿り着いた。
数台のテーブル状の筐体を挟んで、神姫のマスター達が椅子に座って瞑想していた。
……少なくとも、無知な私の目には、変な機械を頭に着けてただ目を瞑っているだけにしか見えなかった。
「我慢大会?」
「違うわよ、筐体の中を良く見なさい」
言われるままに筐体の中を目を凝らして見てみた。
良くみたら、筐体の上にはうっすらとホログラムが展開されていた。その中で、赤と水色の点が動き回っているのが見える。
「あの点が神姫たちよ。これがヴァーチャルバトルね」
「リアルもあるの?」
いちいちヴァーチャルバトルと区別するのだから、リアルバトルもあるのでは?
「ああ、それはあることはあるんだけど、スペース的に難しいわね。本で読んだと思うけど、神姫は15cmあるの。その神姫が、ヴァーチャルバトルと同様に、縦横無人に動くには、だいたい10×10㍍もの大きさのバトルフィールドが必要になるわ」
確かに、このゲームセンターに10×10㍍ものフィールドをこの台数だけ置こうと思ったら、全てのゲームを取り出さなくてはならないだろう。
「あ、ほら、樹羽。あのスクリーンにバトルの状況が出てるよ!」
私は華凛が指差す観戦用の大型スクリーンを見た。
天井から吊されたそれは、現在行われているバトルの様子が、リアルタイムで表示されていた。左上と右上には、それぞれの神姫の種類と登録名、そして残存HPが記されていた。さらに左下と右下には、その神姫が使っている武装が記載されている。
左はマオチャオ型の「こなべ」。見た感じ、猫をイメージした神姫のようだ。
残存HPは1036/3096。使用武器は、ナックルが2つにドリルが1つ。全て近距離用の武器だ。ウェポンプール(多分、予備武装みたいなもの)にはビットと書かれている。
対する右はジルリバーズ型の「リエラ」。背中から飛び出ている2本のタイヤと大きなスカートパーツが印象的な神姫だ。
残存HPは3640/3640。つまり無傷。使用武器は、ライフルとショットガンが1丁ずつに小剣が1本。さらにウェポンプールには、サブマシンガンが一丁。
「うわ、あの神姫無傷だよ」
周りのギャラリーから、そんな呟きが聞こえる。確かに、戦い方を見ていれば、無傷な理由がよくわかった。
ステージは、建物などが立ち並ぶ廃墟ステージ。
その建物の陰から、ショットガンとサブマシンガンで弾幕をはり、ライフルで的確に狙撃する。近付かれたら後退しながら弾幕をはる。卑怯ともとれる戦法だが、相手が近接武器しか装備していないのが悪い。
いや、ビットを装備していたようだが、とっくに壊されていたらしい。ウェポンプールのビットの欄に破壊と赤い文字で書かれている。
「結構厳しいね」
「…………」
その時、マオチャオはショットガンのリロードの隙に、一気に距離を詰めた。ジルリバーズも後退しながらライフルで狙撃するが、元々そんなに誘導性能は高くないようだ。うまくかわしながら進むマオチャオ。ジルリバーズも下がるのをやめ、相手の出方を見る体制に入った。と同時に、ライフルの欄の赤いゲージが伸びる。
「ダメ、今じゃない」
「え?」
そのタイミングじゃない。今見たマオチャオの移動速度的に、ジルリバーズの元につく前にショットガンのリロードが完了するだろう。
待て、何故相手は打つのをやめた? 先程のようにサブマシンガンをばらまいて逃げることも可能だろう。
それをしないのは何故だ? 考えられるのは……
と、その時マオチャオの姿が消えた。正確には、消えたように見えるほど早く動いたのだ。観戦用のスクリーンには、青いラインと点が表示される。多分マオチャオの動きだろう。そうなると相手の左から襲撃するルートだ。
ジルリバーズの右には建物がある。逃げ道は、後ろか前のどちらか、しかし、前には瓦礫。
ということは、逃げ道は後ろ。それも予想しているのだろう。恐らく、相手の回避に合わせて別の一撃を加える気なのだ。
「それじゃダメだ、カウンターが来る」
「あの、樹羽?」
ジルリバーズが建物の方に向き直る。突っ込んでくる相手に背中を見せる形になった。ギャラリーから戸惑いの声。しかしその声は、次の瞬間驚嘆の声に変わった。
ジルリバーズのリアからブースターがふき、建物の壁を蹴りあげる様に上がる。
マオチャオの拳が空を切った。
「バカ」
見事に宙返りを決めたジルリバーズは、ライフルを敵に向け、引き金を引く。先程よりも大きい光弾はマオチャオを包みこむ。残りHP438。
さらにジルリバーズは、ライフルの上部につけられていた小剣を掴み、分解。落下と同時に一閃。マオチャオは悲鳴もなく、データの塵となった。
ブザーが鳴り、画面には『Winner ジルリバーズ型 リエラ』のテロップ。ゲーム終了。ジルリバーズも悠然とデータの塵になっていく。
「だからダメだって言ったのに。射撃武装での遠距離戦が主体の相手が突然撃つのをやめたら、不信に思わなきゃ。そこをチャンスと見るかトラップと見るかが、プレイヤースキルなのかな……」
「樹羽~、帰ってきて~」
「はっ……」
あれ? 私は何を?
「大丈夫? なんかブツブツ呟いてたけど」
「あ、いや、なんでもない……」
答えながら、私は考える。
何故、あんなに考えたんだろう。
昔から不意に考え込んでしまうのはよくあることだった。でも、口に出すことはなかったはずだ。
(それにすら気付かないほど、夢中になってたってこと?)
はっきりとしない感覚は、考えが伴って確信に変わる。
(私は……)
第2戦の開始を告げるブザーが響いた。
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