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「類は神姫を呼ぶ part16」(2012/03/01 (木) 08:30:56) の最新版変更点
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休日。
昼の中頃。ゲームセンター前。
「ついにこの時か」
「そうですね、ここまでの日がものすごく長く感じられたような気がします」
目の前には入口、僕たちはいつものゲームセンターの扉前に立つ。
今日は宮本さんイスカたちとの戦いの日だ。
家出していたシオンを拾ってから今日まで色々なことがあったが、今日でどのような結果であろうとも決着がつく。
もちろん勝つつもりでいくつもりだ。
だが、イスカは淳平の神姫ミスズを簡単にあしらった神姫だ。
実力差が当然ある。
負ける可能性のほうが多い。
(あー! 駄目だ駄目だ! こんなネガティブになってちゃダメだ)
パンッ!
「よっし、行くぞ!」
「きゃ、螢斗さん? どうしたんですか」
「な、なんでもない。行くよ」
両頬を思いっきり痛いほど叩いて気合いを入れた。
暗い思考を追いだすように。
頬を叩いた音にシオンがビックリしてしまったが、今は……存外自分でやった頬が痛かったので説明はなし。
見渡せばいつもの通り、学生ぐらいの人たちがちらほらといる店内。
今日は誰も仲間を呼んではいない。僕らは自分たちでケリをつけなくてはいけないからだ。
僕たちはただ単に今日バトルをするだけの客。それだけだ。
そして、奥を見れば、異彩な雰囲気を放っているオーナーと悪魔型神姫がいる。
凛とした態度の宮本さんと、赤い大剣を持ったバイザー姿のイスカだ。
「こんばんわ、長倉君とシオン」
「こんばんわ」
僕と宮本さんはいつもの挨拶を済まし、視線を合わせる。
あちらはどう思っているのだろうか。
元々持っていた自分の神姫と戦う事。様々な思惑が渦巻くこの戦い。
本当に僕はあの日から奇妙なことに首を突っ込んでしまったなと思った。
でも後悔はしてない。
「ステージは廃墟街でもいいかしら?」
「はい、大丈夫です」
好都合だ。この前にアリエと戦った場所なら有利に働くかもしれない。
でも、指定してくるという事はあちらとしてもメリットがあるのかもな。
「…………」
そう思ってからイスカの方を見ると、イスカはもう宮本さんの元を離れ筐体のオーナーブース前に一人で行ってしまった。
本当に何も言わないんだな。
前口上とかシオンに対しての挨拶とかはないのか。
宮本さんはイスカを横目で見るとシオンに話しかける。
「ごめんね、シオン。イスカは認めたくないのよ。あなたが私たちから離れてバトルできるようになった事実がね」
宮本さんは悲しそうな顔でそう言う。
「でも……」
シオンは言葉に詰まりながらも、なにかを言おうとするが。
宮本さんはそれを制して首を横に振る。
「私ももう少し真剣にあなたを大事にしていれば、長倉君みたいにバトル恐怖症を治せたのかもしれなかったわ」
「もう取り返しがつかないのにね」と最後にフフっと自傷的につぶやく。
それは悲しすぎます、宮本さん。
あなたは存分に大事にしていた。ただ、みんなの中で行き違いがあっただけでイスカだってシオンの事をわかってくれれば……。
僕はありのまま考えたことを言おうとした。
でも、先にシオンが宮本さんを見上げて話していた。
「私は逃げてしまいした。それは確かに変わらない事実です。……でも、私はマスター宮本 凛奈さんの武装神姫であったことを後悔していません。もちろん拾ってくれた螢斗さんのことを誇りに思っていますが、私は今も凛奈さんを大事に思っています。お姉ちゃんにも私から全部話します……だから、そんな悲しそうな声を出さないでください」
穏やかに優しく、恨みなどまったくないことを示すシオン。
「……ありがとう、シオン。いいバトルをしましょう」
清らかなシオンの瞳から底が見えたのか、顔をそむけてから礼を言う宮本さん。そして宮本さんも台について行った。
僕が言う前にシオンが全てを言った。
シオンの方がよっぽど宮本さんがわかっている。
いや、それは当り前なんだよな。元々あちらの神姫なんだ。
僕が説教臭いことを言っても、シオンの言葉の方が何倍も説得力があることだろう。 と、僕が深く考え込んでしまったのをシオンは見ると、何を勘違いしたのか慌てて言い訳をしだした。
「いや、大事に思っていただけですよ! けど、今の私には螢斗さんが一番というか、私自身にも言い聞かせる為にあんなこと言っただけでして、他意はないんですよ!?凛奈さんにも悲しい顔をしてほしくなかっただけでして……あうー、なんて説明すれば良いんでしょうか……」
「ふふふ」
そんな必死に言い繕うシオンを見てたら、なんだかおかしくなり笑ってしまった。
「あ、なんで笑うんですかー。私は本気で螢斗さんのことを――」
「わかったって、ありがとうな。シオン」
「もう、……うふふ」
シオンを可愛く思い頭を撫でる。
シオンのこんな姿を見てたら嫉妬とか馬鹿らしくなった。
今は思いっきりイスカとバトルすることを考えよう。
“壁”を乗り越えるための戦いをするために。
「じゃあ、いくよ。シオンの為の最後の戦いに」
「あ、はい。螢斗さん、頑張ります」
――――
廃墟街のビルの上。
シオンは廃ビルの間を飛び飛びでブースターを使い疾走していく。
索敵中だ。センサーで大まかな場所すらわからない。イスカはジャマーの装置でも積まれているのか、いまいち居所がつかめないらしい。
だからこちらは高い場所から探しているのだけど、なかなか見つからない。
あの大剣を持っているか、持っていないか、で速度が違うのだろうか。
「イスカはこういう時どんな行動するかわかるか?」
「お姉ちゃんのバトルでは……こういう時奇襲をして一発で決めていることが多かった気が……」
「うそ!? それを先に言ってよ。止まって、シオン!」
「は、はい。すいません」
ビルからビルへ移動していたシオンは身体を急停止させる。
現実であれば、地上10階ぐらいのビルの屋上。縦幅横幅共に人間サイズでいう30メートルぐらいのそこにシオンは立ち止まった。
奇襲なら、広いこの場所だったら、どこから来ても大丈夫だ。
「使い物にならないけどセンサー、共に感覚を研ぎ澄ませて探ってみて」
「はい……………」
どちらから来るだろうか。横からか上からか。
はたまたそのまま、登ってくるのか。
階段使って登ってくるなんてシュールな。普通神姫は飛べるパーツを付けてるんだからそんなことをする必要はない。
前に見たバトルでイスカはすごい跳躍力を見せていたけど、あれで高速で跳んで来たって視界は開けているんだから油断することはないと思うけど。
登ってくるか……。
登る――。
『シオン、そこから右に跳び退け!』
「え」
『いいから』
そこから、シオンは瞬時に判断、リアも気にせずぐるんと勢いよく横に転がった。
ドォンッ!
と先ほどまでいた地面の床、コンクリートが盛り上がり中からイスカの姿が出てくる。腕にはミスズを仕留めたあのパイルバンカーだ。あれを使って下から仕留めるつもりだったらしい。
いきなりあんなもの持ち出してきて、本気で一発で仕決める気だったのか。
間一髪だ。
「……く、気付かれていた上にまさか避けられるとは。確かにここまで戦えるようになっているということか」
このステージを指定したのは一撃必殺のこの為だったのか。
姿を現したイスカは憎々しげに言いながらパイルバンカーをパージした。
もう使う気はないみたいだ。最大威力の一撃をもう確実に当てられないと思ったからだろう。第一あれは重そうだしな。
「螢斗さんの指揮がなかったら危なかったですけどね……」
「……キサマと違って、できた良いオーナーみたいだな」
「ふふ、確かにですね。私には勿体ないマスターです……ですけど、私はそのマスターの為に」
スッとフェリスガンを構え相手に向ける。
「お姉ちゃん、あなたを倒します」
「……面白い、行くぞ」
今のところ、あの大剣は持っていない。
転送され代わりに出してきたのは二丁の黒いサブマシンガン。それをシオンに構え返すイスカ。
痛いほどの静寂が場を包む。
先に動いたのは――シオンだ。
シオンは真横にブースターをかけながら、ビルの外に身体を投げ出す。
それを追いかけ、イスカもサブマシンガンを連射させ弾線を作りながら同時に屋上のエリア外に駆ける。
空中に投げ出されてシオンはその場に足場があるがごとく、空をうまく駆けていく。 イスカは速度を付けてビルを駆け下り、重力がないかのように衝撃を殺した後、先に下から地面についてもなおシオンに銃弾の嵐を浴びせてくる。
対するシオンは弾を空中で加速をつけながら避けつつ、フェリスファングをプレシジョンライフルに変換させ、量より質でいく気だ。
もちろんイスカも黙って見ているわけではないので、常に動き続けながら下から休みなく弾を撃ってくる。
それによってシオンも避けながらでは狙いが付けられない。
どちらも動いているからだ。
だが、その内シオンのブースターはオーバーヒートによって動けなくなる。ずっと空中を飛んではいられないから地面に降り立つ必要がある。
『シオン、そこから移動して、ビルの間へ!』
答えを返すほどの余力がないのか、僕の声を聞いて瞬間横の路地に飛ぼうとする。
だが、
路地に飛ぶ前に――目に捉えない程の速さでイスカの姿がシオンの真上に。
視界に捉えた瞬間。
「……遅い!」
「つうぅっ!」
イスカはサブマシンガンを空中で捨ててからビルの壁を三角蹴りの要領で蹴り、シオンの頭上から前転宙返りの回転かかと落とし。
シオンはそれに気付き、両手でプレシジョンバレル越しに重ね合わせ、それを受け止めた。
「……それでいて、甘い!!」
イスカは腰につけた補助ブースターを起動させ、かかと落としを放った状態から空中で器用に身体を返してから足刀の横蹴りを行った。
「ぐぁっっ!!」
その力が加わったことにより、シオンは新幹線ぐらいまで加速してメインストリートのビル壁にまで吹っ飛ばされ叩きつけられた。
ヒュンッと風を切る音だけを残して、ビル壁の中心を崩して中に突っ込まれるシオン。
ビルからはもうもうと煙を上げていて、イスカは地面に降り立ってシオンの突っ込まれたビルの前に行く。
転送されてきたのはあの緋色の大剣。
それを両手で持ち、叫ぶ
「……まだ終わりじゃないだろ!」
そう。まだ終わりじゃない。
――まだシオンは生きている。
「……!?」
穿たれた壁、灰色の煙を上げてある場所の煙の風向きが突然丸まった。
そして、そこから飛び出てくるのは傷だらけのシオン。
両手で真下にいるイスカに構えたる武装は今のシオン最強武装「プレシジョンエクストリーマ・シューター」
「くらえぇーーーー!!」
下にいるイスカに向けて、全力で声を上げエネルギー砲を放つシオン。
「……あぁーーーー!!」
イスカは雄たけびを上げ、大剣の柄を左手で掴み、その刃を右手で自分が傷を負うのも関わらず握り、横にしてそれを真っ向から受け止める。
刃の先から真っ二つに裂かれる橙色の光砲線。
その威力からかイスカの立つ地面は次第にひび割れ、沈み込んでゆく。
それでも、受け止めているイスカが歯を食い縛りながらも動きを見せる。
「……ぐぅ!……ッ消し飛べぇ!!」
右手を柄に戻し、勢いよく縦半円にフルスイング。
光砲線はイスカから反射したように直角に曲がり右方向に真っ直ぐ飛んでいき、通りにあった欠けた電柱が折ってから後に奥のビルに爆発が生まれた。
「はぁはぁ……そんな」
シオンは必殺の武装が効かなかったことで微かに狼狽してしまっている。
ダメだ、まだイスカは――。
「……どうし……った!!」
イスカは膝を沈み込ませてから、力を上に向け、ジャンプ。
浮かんでいるシオンの下まで来ると、身体ごとさせて回転力を大剣に乗せた縦回転斬りをシオンに仕掛けた。
「……つ……は」
シオンは大剣の衝撃をもろに受けた。
それにより頼みだった『プレシジョンエクストリーマ・シューター』はフェリスガンごとバラバラに砕かれてから、光砲線と同じ方向にシオンも声にならない声を出し吹っ飛ばされていった。
数メートル先、メインストリートの端まで、飛ばされて地面に数回転がってから
横向きに倒れてやっと止まった。
『シオン!! 大丈夫か!!』
僕は声を張り裂けて叫ぶ。周りの観客も僕の悲鳴に近い声にどうしたかと筐体に集まってきた。
だが、ぼくはそんなの気にしてられない。
シオンはバトルで、これほどのダメージを負ったことはまだ一度だってない。
それゆえにシオンが死んでしまうのではないかと、不安でたまらない。
バーチャルでもダメージの酷さは変わらないんだ。
CSCの精神的に死ぬなんてことも……それは嫌だ!
「かはっ! ……うぅ、ふぅ、まだいけます。フェリスガンを盾にして、なんとかこれで済みました」
シオンは口から血のような、オイルのような黒い液体を吐きだした後、腕を支えにして、四つん這い状態から腹を押さえてなんとか立ちあがった。
これで済んだ、ってすでに満身創痍じゃないか。立ってられるのも不思議なくらいのダメージを負っているのが目に見えてわかる。
これ以上は見ていられない。
もう降参して終わらせないと。
「……螢斗さん、はぁ……サレンダーしようとしてますね?……ダメですよ……はぁ」
『なんで!? もうこれ以上やったって勝ち目がない。フェリスガンも壊れて、もうぺネトレート・烈とかの近接武装しかないじゃないか!』
「ふふ……そうですね」
「笑っている場合じゃないよ! イスカは大剣使いのストラーフ。アリエみたいに小細工が通用する神姫じゃない」
話のイスカはもう勝ったと見ているのか、シオンのいる方に歩いてくるだけだ。
「確かに……ですけど……このぺネトレートクローに“力”があったらどうします?」
「え、」
一瞬シオンの言った意味が分からなかった。
でも、それはまだ分からないままだったんじゃないか。
「ようやく、わかったんです。これの正しい使い方を……」
シオンは横腹を押さえていた手を両手が空いた状態に戻し、ぺネトレートクロー・烈を腰から取り出した。
思えばよく無事だったよな。飛ばされまくって傷がないなんてどんだけ頑丈に作られているんだ。
シオンはそれを両手ずつに持ち、自然体でリラックスさせている。
いまだにイスカはそれをただの悪足掻きだと見ているのか歩みはゆっくりだ。
「はは、……私って馬鹿ですよね? 今までなんでこんな事に気付かなかったんだろう。私はアーティル型なんだから、きっかけはいくらでもあったのに。……でも、ようやく分かったんです。もう、私は逃げないから。私は山猫型MMS神姫アーティルのシオン。マスター長倉 螢斗の武装神姫です…………すぅ、はぁ……」
自分の事を再確認するかの如く呪文のように自分の名を言う。
目を瞑り、深呼吸。精神集中をしたのち、ぺネトレートクロー・烈を構え。
そして、次の瞬間、高らかに叫んだ――。
「 テラ根性!!! 」
――声を上げた時、ぺネトレートクロー・烈の先から眩いほどの光刃が出現し出した。
交差させた二つともから、神姫サイズの片手剣程の刃が。
西洋の剣『ジャマダハル』の形状に似た剣が生まれ出た。
あれの出現条件はあの発声なのかどうかはシオンにしか分からないけれど、これで勝負がまだ終わってないことを僕は知った。
まだシオンは戦える。
戦えるんだ。
「まだ終わりませんよ。姉さん!」
シオンはニッと不敵に笑い、前にいるイスカを見据えてそう宣言をした。
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