「月は陰る」(2012/02/26 (日) 06:14:34) の最新版変更点
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-BA(バトルアルテマニア)インフォメーション-
柴田 勝様、初戦勝利おめでとうございます。2戦目は三十分後の午前10時からを予定しております。まだお時間がありますのでよろしければ他のレギュレーションのバトル観戦などはいかがでしょうか。現在本会場では柴田様が参加された1VS1ライドオンバトルの他に3VS3のチームバトル、神姫とそれ以外のライド機体チームによるサバイサルバトルが開催されております。フリーバトル用として「塔」「湖」「森」のフィールドを参加者補充型で開放していますのでバトル自体をお楽しみになりたい場合はご活用ください。なお、フィールドは広大ですので配布した神姫ビーコンは必ず装着してください。万が一島内で行動不能になることがあってもビーコンを頼りに回収マシンが神姫を救出に向かいます。
また、本日12時より今注目の女性神姫マスターと題して、あのF1チャンプ竹姫葉月さんと、強豪女性マスターの香坂晶さんをお招きしてのトークショーが予定されております。お時間の許す方はせひご覧ください。
…ピッ…柴田様、お友達の方がただいま試合を終えられたようです。エントランスでお待ちのようです。それでは、ハヴァナイスステイ、ナビゲーターのコウガがお送りいたしました。
----
連続神姫ラジオ
浸食機械
2:月は陰る
「やっほー、勝。あんたも勝ったみたいね」
僕の幼なじみ、狩原 楓(カバラ カエデ)が手を振りながら声をかけてきた。
「ぎりぎりだったけどね、楓の方はどうだった?」
「もちろん、大勝利よ。まああたしくらいになったら余裕よね、余裕」
歩くたびに彼女のポニーテールがピコピコ揺れている、うれしいときの癖だ。
「楓ちゃん嘘はいけないわよ」
ふと、プルミエと同じ声が聞こえた。彼女の肩に乗った金髪のアーンヴァル型が発した物だ。プルミエと同系統の機体、といっても彼女は2036年製、最初期の無印アーンヴァルだ。カエデは僕よりずっと背が高いから肩に乗った彼女と僕の目線は同じだ。じっと見ていると彼女が声をかけてきた。
「楓ちゃんったらあれだけセカンドラインに気をつけろって言ったのに深追いしすぎてしっかり囲まれちゃってるのよ。あーしとの打ち合わせとの打ち合わせ、忘れてたなんていわないわよにぇ」
「い、いいじゃない。囲んできた相手の半分はあたしがやっつけたんだし勝ったんだから結果オーライよ」
この砕けた口調の神姫の名前は清四郎(セイシロウ)。神姫以外のライド機体混成チームバトルに参加するために彼女のお兄さんから借りてきた神姫だ。楓は神姫ライドをしたがらない。それにしても、初めて会ったときはこんな口調じゃなかったのにな。
「それより次の試合まで少し時間あるんでしょ、よかったらお茶でも…」
楓の話を遮るようにエントランスのモニターすべてが点灯して一つの映像を映し出す。あれは、ナビゲーター神姫のコウガ?
「ごきげんよう皆さん。当イベントはお楽しみいただけておりますでしょうか。ここで皆さんにちょっとしたサプライズがあります。画面にご注目ください」
画面が切り替わり今行われているはずの3VS3の会場が映し出される。その途端会場内のあちこちから悲鳴があがった。ディスプレイの向こうでは神姫達が大量のロボット達と戦っていた。いや、むしろ狩られていた。ダメージを恐れず、ためらいなく自爆して道を造る彼らの攻撃に次々神姫が倒れていく。
「うわぁ!!あ、足下に!助けてくれ」
会場内でまた悲鳴が上がる。いつの間に僕たちは画面に映っているのと同じロボットに取り囲まれていた。
「さて、ご覧になった様にこの島は彼らに占拠されていまいました。絶体絶命というやつです。でも皆さんはまだあきらめてないかもしれません。これまでもそうだったように誰かヒーローが現れて、とか。でも残念ながらそれはありません」
再びコウガを映し出したディスプレイの画面がより広い範囲を映し出す。そこに映し出されたのは十字架に貼り付けられたチャンピオン竹姫葉月と彼女の神姫アルテミスだった
「我々の要求をのめば皆様には危害を加えないことを約束します。ああ、私を何とかしようとしても無駄ですよ。私が人の来られるところにいてあげる義理なんてありませんから」
笑みを浮かべながらコウガが何かの装置をいじるとチャンプの拘束が解かれ、彼女は床に崩れ落ちた。
「要求はただ一つ!皆様には一時間以内にこの島から退去していただきます。ただし神姫は持ち出し禁止です。もしも要求がのめないというのであれば」
コウガが葉月の頭に手を当てて引き金を引く様な仕草をすると再び画面が切り替わった。そこには先ほど抵抗していた神姫達が無残な姿となって山と積まれている映像が映し出されていた。
港は阿鼻叫喚に包まれていた。この事態にあって当事者である神姫は冷静であったといえる。神姫はマスターに様々な感情をぶつけて意見を変えさせることはできても、決定に逆らうことはできないからだ。彼女達はこんな極限の状況ではどんな決定を下されても仕方ないとあきらめにもにた心境を抱いていた。冷静でないのはマスターの方だ。弱さを隠すため神姫に責任転嫁する者、情けない姿をさらす者、無責任に神姫を捨てる者。そんな姿を見せられて神姫も冷静でいられなくなる。恐怖や恨みが広がりお互い憎しみあっている。
僕はその様子を外から眺めていた。楓と清四郎そしてプルミエの説得で港に向かっていた僕は桟橋手前で手を振るプルミエを見たときどうしても我慢ができなかった。楓の手を振り払いプルミエを抱きかかえると港から駆けだしていた。
「マスター、どうして、どうして逃げてくれなかったんですか」
プルミエは僕の胸に顔を埋めて泣いている
「私は神姫なのに、マスターのことは自分なんかよりずっと大事なのに、ここにいたらひょっとしてマスターが死んじゃうかもしれないのに」
プルミエが顔を上げる。その表情にうれしさがにじみ出いていた。
「ごめんなさい。マスターが私のために帰ってきてくれたって思ったら、私うれしくて、涙が止まりません」
彼女の頭をなでてやりながら僕は会場エントランスに向けて歩き出していた。
次章:[[巨獣不倒>巨獣不倒]]に続く
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柴田 勝様、初戦勝利おめでとうございます。2戦目は三十分後の午前10時からを予定しております。まだお時間がありますのでよろしければ他のレギュレーションのバトル観戦などはいかがでしょうか。現在本会場では柴田様が参加された1VS1ライドオンバトルの他に3VS3のチームバトル、神姫とそれ以外のライド機体チームによるサバイサルバトルが開催されております。フリーバトル用として「塔」「湖」「森」のフィールドを参加者補充型で開放していますのでバトル自体をお楽しみになりたい場合はご活用ください。なお、フィールドは広大ですので配布した神姫ビーコンは必ず装着してください。万が一島内で行動不能になることがあってもビーコンを頼りに回収マシンが神姫を救出に向かいます。
また、本日12時より今注目の女性神姫マスターと題して、あのF1チャンプ竹姫葉月さんと、強豪女性マスターの香坂晶さんをお招きしてのトークショーが予定されております。お時間の許す方はせひご覧ください。
…ピッ…柴田様、お友達の方がただいま試合を終えられたようです。エントランスでお待ちのようです。それでは、ハヴァナイスステイ、ナビゲーターのコウガがお送りいたしました。
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連続神姫ラジオ
浸食機械
2:月は陰る
「やっほー、勝。あんたも勝ったみたいね」
僕の幼なじみ、狩原 楓(カバラ カエデ)が手を振りながら声をかけてきた。
「ぎりぎりだったけどね、楓の方はどうだった?」
「もちろん、大勝利よ。まああたしくらいになったら余裕よね、余裕」
歩くたびに彼女のポニーテールがピコピコ揺れている、うれしいときの癖だ。
「楓ちゃん嘘はいけないわよ」
ふと、プルミエと同じ声が聞こえた。彼女の肩に乗った金髪のアーンヴァル型が発した物だ。プルミエと同系統の機体、といっても彼女は2036年製、最初期の無印アーンヴァルだ。カエデは僕よりずっと背が高いから肩に乗った彼女と僕の目線は同じだ。じっと見ていると彼女が声をかけてきた。
「楓ちゃんったらあれだけセカンドラインに気をつけろって言ったのに深追いしすぎてしっかり囲まれちゃってるのよ。あーしとの打ち合わせとの打ち合わせ、忘れてたなんていわないわよにぇ」
「い、いいじゃない。囲んできた相手の半分はあたしがやっつけたんだし勝ったんだから結果オーライよ」
この砕けた口調の神姫の名前は清四郎(セイシロウ)。神姫以外のライド機体混成チームバトルに参加するために彼女のお兄さんから借りてきた神姫だ。楓は神姫ライドをしたがらない。それにしても、初めて会ったときはこんな口調じゃなかったのにな。
「それより次の試合まで少し時間あるんでしょ、よかったらお茶でも…」
楓の話を遮るようにエントランスのモニターすべてが点灯して一つの映像を映し出す。あれは、ナビゲーター神姫のコウガ?
「ごきげんよう皆さん。当イベントはお楽しみいただけておりますでしょうか。ここで皆さんにちょっとしたサプライズがあります。画面にご注目ください」
画面が切り替わり今行われているはずの3VS3の会場が映し出される。その途端会場内のあちこちから悲鳴があがった。ディスプレイの向こうでは神姫達が大量のロボット達と戦っていた。いや、むしろ狩られていた。ダメージを恐れず、ためらいなく自爆して道を造る彼らの攻撃に次々神姫が倒れていく。
「うわぁ!!あ、足下に!助けてくれ」
会場内でまた悲鳴が上がる。いつの間に僕たちは画面に映っているのと同じロボットに取り囲まれていた。
「さて、ご覧になった様にこの島は彼らに占拠されていまいました。絶体絶命というやつです。でも皆さんはまだあきらめてないかもしれません。これまでもそうだったように誰かヒーローが現れて、とか。でも残念ながらそれはありません」
再びコウガを映し出したディスプレイの画面がより広い範囲を映し出す。そこに映し出されたのは十字架に貼り付けられたチャンピオン竹姫葉月と彼女の神姫アルテミスだった
「我々の要求をのめば皆様には危害を加えないことを約束します。ああ、私を何とかしようとしても無駄ですよ。私が人の来られるところにいてあげる義理なんてありませんから」
笑みを浮かべながらコウガが何かの装置をいじるとチャンプの拘束が解かれ、彼女は床に崩れ落ちた。
「要求はただ一つ!皆様には一時間以内にこの島から退去していただきます。ただし神姫は持ち出し禁止です。もしも要求がのめないというのであれば」
コウガが葉月の頭に手を当てて引き金を引く様な仕草をすると再び画面が切り替わった。そこには先ほど抵抗していた神姫達が無残な姿となって山と積まれている映像が映し出されていた。
港は阿鼻叫喚に包まれていた。この事態にあって当事者である神姫は冷静であったといえる。神姫はマスターに様々な感情をぶつけて意見を変えさせることはできても、決定に逆らうことはできないからだ。彼女達はこんな極限の状況ではどんな決定を下されても仕方ないとあきらめにもにた心境を抱いていた。冷静でないのはマスターの方だ。弱さを隠すため神姫に責任転嫁する者、情けない姿をさらす者、無責任に神姫を捨てる者。そんな姿を見せられて神姫も冷静でいられなくなる。恐怖や恨みが広がりお互い憎しみあっている。
僕はその様子を外から眺めていた。楓と清四郎そしてプルミエの説得で港に向かっていた僕は桟橋手前で手を振るプルミエを見たときどうしても我慢ができなかった。楓の手を振り払いプルミエを抱きかかえると港から駆けだしていた。
「マスター、どうして、どうして逃げてくれなかったんですか」
プルミエは僕の胸に顔を埋めて泣いている
「私は神姫なのに、マスターのことは自分なんかよりずっと大事なのに、ここにいたらひょっとしてマスターが死んじゃうかもしれないのに」
プルミエが顔を上げる。その表情にうれしさがにじみ出いていた。
「ごめんなさい。マスターが私のために帰ってきてくれたって思ったら、私うれしくて、涙が止まりません」
彼女の頭をなでてやりながら僕は会場エントランスに向けて歩き出していた。
次章:[[巨獣不倒>巨獣不倒]]に続く:[[戻る>浸食機械]]
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