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「ロストデイズゲーム」(2011/12/18 (日) 20:27:48) の最新版変更点
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注1)ライトノベル『武装神姫 LOST DAYS』のネタバレがあるかもしれません。
注2)一ノ傘射美:第三章登場キャラ。見た目は姫乃のロリバージョン。
「マスター。正直なところ、ダメだと思うんです」
エル操るマルスにネスが吹っ飛ばされたところで、エルは唐突にぽつりと呟いた。机の上にペタンと座り込み、ゲームのコントローラを構えて必死になって画面を目で追うアルトレーネ。その姿に、バトルで見せてくれる凛々しさは皆無だった。
残機も残り僅かとなったこの『スマブラ99機耐久戦』は今のところ、エルが大差をつけてリードしている。COMは早い段階で姿を消した。俺の隣で必死にコントローラをガチャガチャやっている一ノ傘ロリ姫、もとい射美は残機が一桁になった段階で逃げに徹し、今は遠くからファイヤーボールをばら撒いてばかりいる。
俺はといえば、今日は調子が乗らないらしく自滅が多いのだが……まさかスマブラでエルにダメ出しをされるとは思わなかった。
「弱っちくてすみません……精進しますんで、はい……」
「パパをいじめちゃメーよエル! ママに言いつけるからね!」
「あ、いえ違うんです。スマブラのことじゃなくて、武装神姫のことでちょっと、よくないなぁ、と思いまして」
声はどこか上の空でぼんやりとしたエルだったが、画面上のマルスはステージ上を颯爽と駆けてマリオに接近し、慌てて放たれたマリオのスマッシュに上手くカウンターを合わせた。また残機を一つ減らした射美は俺の膝の上で暴れた。小学校高学年程度の体格とはいえ、耐久戦の間ずっと居座られているもんだから、もう脚の感覚なんてとっくに無くなっている。さらに射美が暴れる度に俺の腕を揺さぶって邪魔をされる。
姫乃、早く帰ってこないかなぁ……。
「一昨日マスターが買ってきた神姫のラノベ、ちょっと読んでみたんです。表紙のとおり、といいますか案の定アーンヴァル型がメインで、ライバルにストラーフがいて、アルトレーネの『ア』の字すらなくて……ここまではいいんです。ええ、いいですとも。アニメ化も含めて、どーせ主役を張れるのはあの二人だけですから」
「パパ、こういうのを『卑屈』って言うんでしょ?」
「そういうことを本人の前で言うな」
「私が物申したいのは、ストーリーのほうなんです。せっかく本になったのに、中身は刑事さんが神姫がらみの事件を追う無難な話ですよね。もうちょっと捻って欲しかったです」
「無難って……」
「ぶっちゃけSSWikiの中にありますよね、似たようなお話」
「パパ、こういうのを『メタフィクション』って言うんでしょ?」
「難しい言葉を知ってるなぁ射美は。良い子だ、偉いぞ、だから少し静かにしてような」
話しながらも、スマブラの試合は淡々と進んでいく。
射美の最後の一機が落とされ、ネスとマルスの一騎討ちになった。エルが三六機、俺はあと十三機残っているが、いい加減面倒になってきたので、コントローラを射美に渡してやった。嬉々として受け取る射美だが、マリオと違って扱いづらいネスでは数分と持たないだろう。
「研究所から脱走したり、小学生とかに拾われたり、悪い人に悪用されたりするのは、もうお腹いっぱいです。つまり何が言いたいかというとですね、いくら万人向けのメディアを作ろうとしても、武装神姫で今以上のものを作るのは難しいのではないかと思うわけですよ私は」
「パパ、『めでぃあ』って何?」
「メディアより先に卑屈とかメタを覚える女の子って、将来大丈夫なのか……」
「MMSの軍事利用が最たる例だと思うんです。確かに私達神姫自身ですら簡単に想像できますよ。小さくて、心を持つけど忠実で、おまけに大量生産できる神姫が戦争に向いてることくらい。でも、だからこそ、簡単にそんなお話を作ってほしくないんです。もっと私達の可能性を探ってほしいんです。といいますか――」
長時間小さなコントローラを握っているにもかかわらず、エルは疲れるどころか、むしろ熱弁するほどマルスの技はキレを増していった。射美操るネスのパーセントは3ケタに到達することもなく、次々と残機を減らされていく。
「神姫って基本、ロクなことに使われてませんよね。ロボット三原則とかガン無視じゃないですか」
「エルだって、俺の眉間に爪楊枝刺したじゃん」
「うわっ、エルひどーい」
「そ、それは手が滑ったといいますか、ノリといいますか……と、とにかく! ゲームのプチストーリーみたくイチャイチャしようにも、身長差のせいで見ていて虚しくなりますし、それなら、小さな神姫が世界を破滅から救ったりするほうが壮大で良い感じだと思うんです。プレデターとかやっつけたいです」
「世界を救う、ねぇ」
「ちなみに、勿論私はイチャイチャは大歓迎ですよ」
「射美の前で変なこと言うな!」
「大丈夫だよパパ、あたしは何も分かってないから。ママにもちゃんと内緒にするね」
「子供が変な気を回すな!」
マルスがネスの最後の一機を撃墜して、長かった対戦がエルの圧勝でようやくの決着を迎えた。膝の上の射美が次をやろうと言い出す前に、ゲーム機本体の電源を切った。なぜ99機耐久戦なんて始めたのかは忘れたが、もうスマブラは暫くやらなくていい。
「世界を守るのが無理でも、マスターを守るために戦いたいです。『マスターには指一本振れさせません!』とか、どんな神姫だって憧れる台詞なんです。でも身長が違いすぎますから、マスターを後ろに庇ったりできなくて、想像の中でしか実現できないんです。この全神姫の葛藤から解放してくれるような小説やアニメがあると、私は嬉しいなーと思うわけですよ」
「ははあ。その神姫愛好家以外に受けなさそうなストーリーは世に出ないから、神姫はダメだなんて言ったのか」
「です」
「パパとエルが一緒の大きさになればいいの? あたし知ってるよ。あれ、ほら、ライオン? だっけ。ゲームのやつ」
「ライドオンのことですか? あれは言葉の響きがエロいからダメです」
「だから射美の前で変なこと言うなや!」
「大丈夫だよパパ。パパだってママによくライドオンしてるじゃない」
「誰だ射美をこんな子に育てた奴は! ぶっ飛ばしてやるから出てこい!」
「もういっそのこと、アダルトなシナリオを作ったほうが知名度の向上に繋がるんじゃないでしょうか」
「18禁から離れろぉっ!」
世界とマスターを守ってみたい、というのならば、そうさせてみることにした。
「結局ゲームですか。コンティニューできる世界じゃあんまり緊迫感がないです」
「コンティニュー禁止の一発勝負だ。1回500円もするんだからな。いいか、これ1プレイしたら帰るぞ」
筐体でのバトルをするばかりが神姫センターではない。別フロアには、神姫達が遊ぶための設備がある。今俺とエルが使っているのもその中の一つだ。
普通のゲームセンターによくあるガンシューティングの神姫バージョン、といったところか。仮想空間上に神姫と、ライドシステムにより仮の素体を操るマスターが乗り込み、ステージを攻略していくのがこのゲームだ。二人のどちらかのLPが尽きたらゲームオーバー。ただしマスターが使う素体に攻撃能力はなく、神姫はマスターを守りながら先へと進まなければならない。まさに、エルが望んだ通りのシチュエーションだ。
二組でのプレイも可能だが、姫乃は残念ながら射美のおもりをしている。
「大丈夫ですよマスター、私一人で十分です。マスターは私の背中だけを見て進んでくれればいいです」
「でもなあ、この手のゲームって大体コンティニュー前提で作られてるはずだぜ。何ステージあるか知らないけど、最初のステージで即ゲームオーバーとかもあり得るからな」
「マスターは私の剣が信じられませんか?」
エルは剣を軽く横に振った。小さな腕で振るわれた一閃は、エルの成長が一目で見て取れるくらい、ブレがない。
ニヤリと笑みをこぼしたエルは俺の手から500円玉を奪い取って、投入口に入れた。
「あなたの戦乙女は、あなたが思っているよりちょっぴり強いですよ?」
意識が仮想空間に飛ばされ、仮の体を与えられた。
降り立った場所は、木造の建物が規則正しく立ち並ぶ街だった。ただし、どこもかしこも、火の手が上がっている。人の姿が見当たらない代わりに、いかにも「凶暴だぞー!」と言わんばかりのモンスターがうろついている。
一直線に伸びる道の遥か先に、大きな教会らしきものが見える。このステージでのやるべき事は非常にシンプルだ。
モンスターを倒しながら、教会を目指せ。
前に立つエルは背を向けて、教会を見据えている。身長が同じくらいになったからだろうか。ロングコートをはためかせ、ゆったりと二本の剣を構える後ろ姿は、そこにいるだけで俺に安心感を与えてくれる。
「フフッ、マスターが後ろにいてくれるだけで、なんだか力がみなぎってくるみたいです。じゃあ行きますよ、しっかり付いてきてください!」
順調だったのは、最初のオオカミ数匹を切り崩したまでだった。
あれよあれよという間に多数のモンスターに囲まれ、パニックに陥った俺達はがむしゃらに走り、気がつけば中ボスらしき巨人の前まで来ていた。既に精根尽き果てていた俺達は、二人仲良く巨人の棍棒に薙ぎ払われ、倒れるのだった。
仮想空間から戻ると、目の前のスクリーンにコンティニューのカウントダウンが表示されていた。カウントダウン解除には、500円玉が必要になる。
「ふう……じゃ、帰ろうか」
「もう一回! もう一回だけお願いします!」
「ダメだ。一回きりって約束したろ」
「さっきは惜しかったんです! 次は必ずや! 必ずやマスターをお守りしてみせます!」
「どこに惜しい要素があったんだよ……あの調子じゃ全クリまでに諭吉が飛ぶぜ」
「マスターの鬼ー! けちんぼー!」
「フハハハハハハ! なんとでも言うがいい、俺は500円のためならプライドをも捨てられる男!」
「器が小さ過ぎますっ!?」
懇願するエルを無視して帰ろうとした、その時だった。
「あれ? 背比やん。へぇ、背比もこんなゲームで遊ぶんやね」
ばったり竹さんと出くわした。肩から下げるトートバッグからはいつも通り、
「鉄子ちゃん、まさか弧域が来てることを知ってて……」
「下種の勘繰りはよしなさい、コタマ。久しぶりですね、エル殿。あなたもあのゲームを?」
コタマとマシロが顔をのぞかせている。
エルはゲームをやっていたかと問われても、「ええ、まぁ……」と歯切れの悪い返事をすることしかできなかった。ステージを1つもクリアできなかった、とは口が裂けても言えないんだろう。
「アタシも今からやるところなんだけどさ。で、エルは何分だった?」
「は? 何分?」
「クリアした後にクリアタイムが出るじゃん。覚えてない?」
「そ、そうですね、そういうのは、ちょっと……」
「コタマったら、マシロの記録を今日こそ抜くんやって息巻いとるんよ。ほら、あれ」
竹さんが指差した先、さっきまでコンティニューのカウントダウンが表示されていたスクリーンに、今度は歴代ランキングが表示されていた。
1.MASHIRO 00:09:44:20 Continue,00
2.KOTAMA 00:13:36:49 Continue,00
5位までコタマの名前が並んでいて、それ以降から他の名前が登場するが、どの記録も数十分、コンティニュー数回が記録されている。最下位のコンティニュー回数など、見るだけでゾッとしてしまった。
このゲームの本質はえげつないものだった。コタマやマシロは別として、これは、攻略専用に対策した装備を用意できて、好きなだけコンティニューできるだけの財力を持ったブルジョワマスターだけが楽しめるゲームだ。
「お遊びにそこまで熱くなることはないでしょう。妹君に付き合っていただくのもこれで最後にしなさい」
「お遊びで10分切っといて勝ち逃げ!? あームカつく! 今日こそギャフンと言わせてやる! ほら始めるよ鉄子ちゃん、アタシが言った通りに動いてよね!」
「へいへい」
「あ、そうだ。せっかく二人プレイできるんだし、エルと弧域もやらない? 足速いエルが先行して面倒くさい奴倒していけば、かなり時間短縮できるよね。弧域のことは心配しなくても、アタシが【指一本振れさせないからさ】」
「…………こ」
「こ?」
「コタマ姉さんなんて大っキライですうううううううううっ!」
フロアにいる人達の足の合間を縫って、エルはフロアから出ていってしまった。竹さん、コタマ、マシロは呆気にとられて固まっている。
「ねぇ弧域。アタシ、何か悪いことした?」
「察してくれ、色々と」
「なんか、ごめんね背比。私もエルのこと探しに行こうか?」
「いや、大丈夫。こっちこそ突然すまん。じゃ、俺達は帰るわ」
この後、エルはすぐに見つかった。
一階で店員として働く神姫達がエルを慰めてくれていて、俺の顔を見るなり「お客様といえど許さん! そこになおれ!」と説教モードに入った。
店内のど真ん中、普通にお客さんがいる中で理不尽な罵詈雑言を浴びせ続けられること十数分、俺は帰りの電車賃として取っておいた500円玉を出すことで、ようやく解放されるのだった。
じゃあ貴様、にゃーは面白いストーリーを作れるのか、と指摘されると、ゴメンナサイと言う他ありません。
LOST DAYS をディスりたいわけではなく、もうちょっとコアな神姫ファン向けのストーリーを作ってもいいと思うんです(ただし携帯以外の媒体で。Forget-me-notのコミック早う)。
また、帯の【メカ×少女×ハードボイルド】、可愛らしいあんばる、そしてボリューム増し増しのおっぱい、と明らかに新規さんウェルカムな感じを醸しだしていますが、それなら中身も、もうちょっとあざとくしたほうが良かったのでは? と思わなくもありません。
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