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「すとれい・しーぷ010」(2011/10/12 (水) 17:45:03) の最新版変更点
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日も真上に射そうとする頃、ようやく上体を起こしたオーナーは、まだ眠たげな目をしばたたかせながら、自身の頭を軽く小突く。そして小さくため息をついた。
「あの、オーナー、どうかされました?」
げんなりと、ベッドから降りようとしないオーナーの元へ、デスクから飛び降りながら問うと、彼女は、わたしの身を気にしながらも窓の外を見るのだった。
「完全に二日酔いだね…頭痛い」
再度頭を刺激するオーナーの表情には、しかと反省の色が見える。
フツカヨイ、とはそんなに辛い物なのだろうか?
昨日唐突に開かれた、オーナーとわたしの祝勝会。
最初こそ、和やかなムードで始まったのだが、夜が深くなるにつれ、参加者のテンションが一変。
興奮してシャウトする碧、それを止めようと酒瓶を片手に装備したラン。
泣きながら意味不明な言語を発する紅。
オーナーに至っては、なぜか栓の開いていない大量のワイン瓶を器用に積み上げ悦に浸っている。
酒を飲まない神姫達は、半ば呆れ気味に己のオーナーを見守る中、それは起きた。
お祭り大好き神姫・ライアがハメを外し、専用のバトルフィールドでもないのにメルの旋牙振り回し始めたのだ。
超重量を誇るドリルを、特殊な武装もしていないライアに扱えるはずもなく、彼女は呆気なくテーブルから転落していった。
落ちるだけでは事足りず、地面に突き刺さったドリルの回転に散々遊ばれた挙句、アームパーツが引っこ抜けて飛ばされたのである。
ライアの飛んだ方向にあったのは、オーナーの積み上げたワインタワー。
最下部を破壊された塔は、無残にも悲鳴を上げ崩れ去ってしまった。
傍に居たオーナーは勿論、周りで思い思いはしゃいでいた神姫オーナー達は、頭からワインをひっかぶる事になった。
「昨日は確かにはしゃぎすぎました…ですね…」
たはは、と真っ赤に染まった床を思い出し笑うと妙な敬語になってしまい、さらにばつが悪い。そういえば、昨日の宴会代は誰が負担したのだろうか、わたしの頭に、ふとそんな疑問が過ぎる。
大量のワインをダメにしてしまったのだ、負担者は多大なダメージを負ったに違いない。
まさか、ランが負担したわけではないだろう。彼女は学生だ、と言っていた。
「オーナー、昨日のお酒の代金は一体誰が…?」
一瞬の間。もしや聞いてはまずかったのだろうか。俯いた顔を恐る恐る上げると、オーナーの丸い瞳が映った。
「あぁ、たぶん父さん?あの店の経営はうちだから」
窓からさわやかな風が一陣、オーナーの柔らかい髪をさらって吹き抜けた。
それはわたしの声にならない悲鳴だったのかもしれない。
まさか、お父様にまで迷惑をかけてしまうとは。
わたしの小さな胸は、罪を犯した友人(知人?)のためにジクリジクリと痛んでいた。
もう一週間になる。
オーナーは気にするな、と言ってくれるのだが、どうもそんな気にはなれない。
のか、と後悔ばかりがわたしを追い立てる。
そんな暗雲のような思考回路を裂くかの如く、それはやって来た。
「神姫の起動の仕方がわからない?もしかして、機械音痴?」
オーナーの呆れた眼の先に正座で俯いているのは見知った顔。紅だった。
最近になって気づいたのだが、オーナーがこのように毒づくのは紅に対してのみだ。
トクベツ、そんな言葉が浮かぶが、かぶりを振って振り払う。
オーナーのトクベツは、わたしだけで十分。
「ぐ…仕方ないだろう、俺は今まで神姫に興味がなかったんだから」
図星をつかれようやく出た言葉は搾り出したかのような羞恥にまみれた言葉だった…と思う。オーナーの家に来るくらいならばお店でサポートしてもらったらどうなのだろうか。
俯き続ける紅を冷ややかに見つめると、さらなる攻撃、否、口撃が飛んできた。
「ランに聞いたらよかったんじゃないの?」
にやにや顔でオーナーは続ける。完全に楽しんでいる。間違いない。
しかし、なぜランに?ランといえば、あのワイン事件の犯人ライアの主である。
「かっこ悪くて頼めるものか、妹だぞ…」
妹、と。紅の口からはとんでもない言葉が零れた。ランと紅が兄妹。
そろいもそろってこの一族は…。
ふつふつと理不尽な怒りが沸いてきた頃に、オーナーの小さく、可憐な笑い声が背後から聞こえてきた。
それは耐えいれずもれた笑い、とでも言おうか、抑えようにも止まらない、といった笑い。
よほど俯く紅がおかしかったのかオーナーはそのままベッドの倒れ込んでしまった。
「っくく、いいよ、教えてあげる」
いまだ笑いを堪えながら、宝石のような眼の溜まった涙を指で拭うと、オーナーはそっと手を伸ばした。その行為にドキリとしたのは、わたしだけではなかったはず。
白い紙袋に入れられたやや大きめの箱を取り出すと、オーナーはまじまじと箱の中身を窓から見つめた。慈しむようなそんな優しい眼差し。
わたしも起動前にあのように優しい瞳で見つめられたのだろうか、想像するだけで胸が熱くなった。
しかし、視線を上げたオーナーの目は悪戯っぽく紅を捕らえる。
「いい趣味ですネ」
意味ありげに口端を上げたオーナーの顔は小悪魔、いや悪魔……魔王にすら見えた。
紅は終始俯いている。
ゆっくりとデスクに降ろされた箱の中身。当然、同じ神姫として気になるもので…
本棚や引き出しを足がかりにデスクへと飛び乗ると、大きな箱の中に瞳を閉じた状態でピクリとも動かない神姫が鎮座していた。
淡い紫のストレートの髪に、整った顔立ち。小さく開いた唇はまるで花のようで。
スラリと長い手足は、Tall素体のものだろう。黒いペイントが白い肌に映えて美しい。
「ルキスもこれで先輩神姫だね」
先輩…なんだかくすぐったいような響きに顔が熱くなるのを感じた。
メルのような素敵な先輩になれるだろうか?
白い手が、わたしの頭上を滑り、箱へと伸ばされた。
封印シールを長い爪で切ると、段重ねになっているブリスターを引きずり出す。
その一つ一つの動作ですら待ち遠しい程わたしの胸をときめかせるのだ。
一番上のブリスターで眠る神姫をオーナーが抱き起こすと、起動のための講義が始まった。
『AVANT PHYSIQUE製 MMS-Automaton神姫 ヴァイオリン型紗羅檀 APV14』『セットアップ完了 起動します』
ここまで来るのにどれだけの時間が経っただろう。思わず何度か省電力モードに移項してしまった程だ。
現に窓の外は色を変え、赤く染まる空の境界が夜闇に侵食されつつあった。
こんな調子で本当に神姫と付き合っていけるのだろうか、一抹の不安の元、機械的な音声が疲弊した紅に突き刺さった。
『オーナーのことは何とお呼びすればいいでしょうか?』
いきなり話しかけられ挙動不審になる紅をなおもオーナーは笑い続けている。
確かにこの男、飽きない。催促するように二度目の呼びかけが発せられると、紅は咳払いをして声を潜めた。
「お、オーナー?」
どこか照れくさそうに頬を染めてそっぽを向く紅。それを見て腹を抱えるオーナー。
段々と紅が哀れにすら思えてくるが、オーナーが楽しければわたしはそれでよかった。
「では、私の名前は何になさるのかしら?」
機械的な音声ではなく、今度は涼やかな声が起動したての神姫から零れた。
腕を組み、タンタンと足でリズムを取る。早くしなさいよ、と言わんばかりの行動にわたしは目を丸くした。こんな神姫もいるのか。
どうもわたしは彼女とは仲良くなれなさそうだ。
「キミの名前、そうだな…ミューズ、とかはどうだい?」
きょどる紅に問うようにオーナーが至極優しく、黒い神姫の名前を告げた。
ミューズ9人いるとされる神々の娘。ヨーロッパの多くでは音楽を意味する言葉。
確かに、ヴァイオリン型の彼女にはぴったりといえるだろう。
「貴女が決めるのかしら?この木偶坊ではなく?」
紗羅檀はあくまで高圧的に顎で紅を示すと、腕を組みなおした。
ピリピリした空気の中、オーナーだけは柔らかい表情を崩さない。
「約束したんだ、キミのオーナーと。キミの名前を考えるって」
うっとりするような優しい声に観念したように紗羅檀は腕組を解いた。ふわりと笑みを零す。
「気に入りましたわ。貴女、なかなかのセンスですね」
紗羅檀、いや、ミューズの言葉に満足したのか、オーナーは極上の微笑を浮かべると、紅にバトンタッチするように手を引いて、彼女の前んい立たせた。
神姫オーナーになったことに実感が沸かないのか、惚けた顔で彼女の前に立った紅は絵に描いたようなダメ男だった。それがおかしくてオーナーは何度目かわからない笑いを零すのだった。
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***すとれい・しーぷ010
日も真上に射そうとする頃、ようやく上体を起こしたオーナーは、まだ眠たげな目をしばたたかせながら、自身の頭を軽く小突く。そして小さくため息をついた。
「あの、オーナー、どうかされました?」
げんなりと、ベッドから降りようとしないオーナーの元へ、デスクから飛び降りながら問うと、彼女は、わたしの身を気にしながらも窓の外を見るのだった。
「完全に二日酔いだね…頭痛い」
再度頭を刺激するオーナーの表情には、しかと反省の色が見える。
フツカヨイ、とはそんなに辛い物なのだろうか?
昨日唐突に開かれた、オーナーとわたしの祝勝会。
最初こそ、和やかなムードで始まったのだが、夜が深くなるにつれ、参加者のテンションが一変。
興奮してシャウトする碧、それを止めようと酒瓶を片手に装備したラン。
泣きながら意味不明な言語を発する紅。
オーナーに至っては、なぜか栓の開いていない大量のワイン瓶を器用に積み上げ悦に浸っている。
酒を飲まない神姫達は、半ば呆れ気味に己のオーナーを見守る中、それは起きた。
お祭り大好き神姫・ライアがハメを外し、専用のバトルフィールドでもないのにメルの旋牙振り回し始めたのだ。
超重量を誇るドリルを、特殊な武装もしていないライアに扱えるはずもなく、彼女は呆気なくテーブルから転落していった。
落ちるだけでは事足りず、地面に突き刺さったドリルの回転に散々遊ばれた挙句、アームパーツが引っこ抜けて飛ばされたのである。
ライアの飛んだ方向にあったのは、オーナーの積み上げたワインタワー。
最下部を破壊された塔は、無残にも悲鳴を上げ崩れ去ってしまった。
傍に居たオーナーは勿論、周りで思い思いはしゃいでいた神姫オーナー達は、頭からワインをひっかぶる事になった。
「昨日は確かにはしゃぎすぎました…ですね…」
たはは、と真っ赤に染まった床を思い出し笑うと妙な敬語になってしまい、さらにばつが悪い。そういえば、昨日の宴会代は誰が負担したのだろうか、わたしの頭に、ふとそんな疑問が過ぎる。
大量のワインをダメにしてしまったのだ、負担者は多大なダメージを負ったに違いない。
まさか、ランが負担したわけではないだろう。彼女は学生だ、と言っていた。
「オーナー、昨日のお酒の代金は一体誰が…?」
一瞬の間。もしや聞いてはまずかったのだろうか。俯いた顔を恐る恐る上げると、オーナーの丸い瞳が映った。
「あぁ、たぶん父さん?あの店の経営はうちだから」
窓からさわやかな風が一陣、オーナーの柔らかい髪をさらって吹き抜けた。
それはわたしの声にならない悲鳴だったのかもしれない。
まさか、お父様にまで迷惑をかけてしまうとは。
わたしの小さな胸は、罪を犯した友人(知人?)のためにジクリジクリと痛んでいた。
もう一週間になる。
オーナーは気にするな、と言ってくれるのだが、どうもそんな気にはなれない。
のか、と後悔ばかりがわたしを追い立てる。
そんな暗雲のような思考回路を裂くかの如く、それはやって来た。
「神姫の起動の仕方がわからない?もしかして、機械音痴?」
オーナーの呆れた眼の先に正座で俯いているのは見知った顔。紅だった。
最近になって気づいたのだが、オーナーがこのように毒づくのは紅に対してのみだ。
トクベツ、そんな言葉が浮かぶが、かぶりを振って振り払う。
オーナーのトクベツは、わたしだけで十分。
「ぐ…仕方ないだろう、俺は今まで神姫に興味がなかったんだから」
図星をつかれようやく出た言葉は搾り出したかのような羞恥にまみれた言葉だった…と思う。オーナーの家に来るくらいならばお店でサポートしてもらったらどうなのだろうか。
俯き続ける紅を冷ややかに見つめると、さらなる攻撃、否、口撃が飛んできた。
「ランに聞いたらよかったんじゃないの?」
にやにや顔でオーナーは続ける。完全に楽しんでいる。間違いない。
しかし、なぜランに?ランといえば、あのワイン事件の犯人ライアの主である。
「かっこ悪くて頼めるものか、妹だぞ…」
妹、と。紅の口からはとんでもない言葉が零れた。ランと紅が兄妹。
そろいもそろってこの一族は…。
ふつふつと理不尽な怒りが沸いてきた頃に、オーナーの小さく、可憐な笑い声が背後から聞こえてきた。
それは耐えいれずもれた笑い、とでも言おうか、抑えようにも止まらない、といった笑い。
よほど俯く紅がおかしかったのかオーナーはそのままベッドの倒れ込んでしまった。
「っくく、いいよ、教えてあげる」
いまだ笑いを堪えながら、宝石のような眼の溜まった涙を指で拭うと、オーナーはそっと手を伸ばした。その行為にドキリとしたのは、わたしだけではなかったはず。
白い紙袋に入れられたやや大きめの箱を取り出すと、オーナーはまじまじと箱の中身を窓から見つめた。慈しむようなそんな優しい眼差し。
わたしも起動前にあのように優しい瞳で見つめられたのだろうか、想像するだけで胸が熱くなった。
しかし、視線を上げたオーナーの目は悪戯っぽく紅を捕らえる。
「いい趣味ですネ」
意味ありげに口端を上げたオーナーの顔は小悪魔、いや悪魔……魔王にすら見えた。
紅は終始俯いている。
ゆっくりとデスクに降ろされた箱の中身。当然、同じ神姫として気になるもので…
本棚や引き出しを足がかりにデスクへと飛び乗ると、大きな箱の中に瞳を閉じた状態でピクリとも動かない神姫が鎮座していた。
淡い紫のストレートの髪に、整った顔立ち。小さく開いた唇はまるで花のようで。
スラリと長い手足は、Tall素体のものだろう。黒いペイントが白い肌に映えて美しい。
「ルキスもこれで先輩神姫だね」
先輩…なんだかくすぐったいような響きに顔が熱くなるのを感じた。
メルのような素敵な先輩になれるだろうか?
白い手が、わたしの頭上を滑り、箱へと伸ばされた。
封印シールを長い爪で切ると、段重ねになっているブリスターを引きずり出す。
その一つ一つの動作ですら待ち遠しい程わたしの胸をときめかせるのだ。
一番上のブリスターで眠る神姫をオーナーが抱き起こすと、起動のための講義が始まった。
『AVANT PHYSIQUE製 MMS-Automaton神姫 ヴァイオリン型紗羅檀 APV14』『セットアップ完了 起動します』
ここまで来るのにどれだけの時間が経っただろう。思わず何度か省電力モードに移項してしまった程だ。
現に窓の外は色を変え、赤く染まる空の境界が夜闇に侵食されつつあった。
こんな調子で本当に神姫と付き合っていけるのだろうか、一抹の不安の元、機械的な音声が疲弊した紅に突き刺さった。
『オーナーのことは何とお呼びすればいいでしょうか?』
いきなり話しかけられ挙動不審になる紅をなおもオーナーは笑い続けている。
確かにこの男、飽きない。催促するように二度目の呼びかけが発せられると、紅は咳払いをして声を潜めた。
「お、オーナー?」
どこか照れくさそうに頬を染めてそっぽを向く紅。それを見て腹を抱えるオーナー。
段々と紅が哀れにすら思えてくるが、オーナーが楽しければわたしはそれでよかった。
「では、私の名前は何になさるのかしら?」
機械的な音声ではなく、今度は涼やかな声が起動したての神姫から零れた。
腕を組み、タンタンと足でリズムを取る。早くしなさいよ、と言わんばかりの行動にわたしは目を丸くした。こんな神姫もいるのか。
どうもわたしは彼女とは仲良くなれなさそうだ。
「キミの名前、そうだな…ミューズ、とかはどうだい?」
きょどる紅に問うようにオーナーが至極優しく、黒い神姫の名前を告げた。
ミューズ9人いるとされる神々の娘。ヨーロッパの多くでは音楽を意味する言葉。
確かに、ヴァイオリン型の彼女にはぴったりといえるだろう。
「貴女が決めるのかしら?この木偶坊ではなく?」
紗羅檀はあくまで高圧的に顎で紅を示すと、腕を組みなおした。
ピリピリした空気の中、オーナーだけは柔らかい表情を崩さない。
「約束したんだ、キミのオーナーと。キミの名前を考えるって」
うっとりするような優しい声に観念したように紗羅檀は腕組を解いた。ふわりと笑みを零す。
「気に入りましたわ。貴女、なかなかのセンスですね」
紗羅檀、いや、ミューズの言葉に満足したのか、オーナーは極上の微笑を浮かべると、紅にバトンタッチするように手を引いて、彼女の前んい立たせた。
神姫オーナーになったことに実感が沸かないのか、惚けた顔で彼女の前に立った紅は絵に描いたようなダメ男だった。それがおかしくてオーナーは何度目かわからない笑いを零すのだった。
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