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「すとれい・しーぷ006」(2011/08/17 (水) 05:44:12) の最新版変更点
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***すとれい・しーぷ006
幸せ、なんて簡単に壊れてしまう物。
私はあの日の呪縛から、まだ逃れられていない。
半誕生ライブの帰り、私は公園で蠢く影を見た。
ライブ成功の気の緩みか、はたまた後に控えるユノのパーティへの興奮か。
好奇心に負け、私はその場で足を止めてしまった。
「っ、オーナー、後ろだっ!!」
ユノの声が響いたと同時に私は後頭部への強い衝撃と共に気を失った。
「やめろ、やめ・・・!!やめてくれぇぇぇ!!」
ユノの叫び声が聞こえた。それも、怖いくらいに我を失った狂った叫び。
はは、そんなんじゃ、どっちが狂い羊か、わかんないよ、ユノ。
覚醒しない脳はぼんやりと現実を否定する。
「おい、愛しのオーナーが起きたぞ」
酷くしゃがれた声で、眼鏡の痩身の男が楽しそうにユノに言った。
ユノのすすりなく声。私の脳は一気に覚醒し状況をとらえる。
何時間気絶していたのだろう、あたりは暗闇が侵食してきて、周りが見えない。
しかも私は、数人の男に羽交い絞めにされ、身動きひとつ取れない。
最悪だ。
男達に聞こえるようわざと盛大な舌打ちをかますと、ユノを掴んでいた男が私の前に立った。
「お前の神姫が、言いたいコトあるってよ」
ずい、と目の前に差し出されたユノは粘着質の白濁にまみれ、すすり泣いていた。
さすがに私も、もう高校生だ。その独特のすえた臭いで、ユノが何をされたのか、すぐに理解した。
「下衆が・・・社会不適合者のうえ、ロリコンかよ、マジ最低だな!」
今出せる最大級に低い声で男をののしる。それでも男は楽しそうだった。
「お、オーナー・・・私は、汚されてしまった・・・もう、オーナーとはいられない・・・」
泣き止まないユノはいつものように強気な物言いでなく、今にも消えてしまいそうなくらいに小さな声を絞り出した。
「んだ、そうだ。このストラーフはありがたくオレ様がいただいて行くわ。勿論、愛玩用として、な」
くい、と眼鏡を持ち上げる姿が鼻につく。
「っざけんなよ!ユノを返せ!このロリコン野郎!!」
他の男に羽交い絞めにされたまま、私は男につばを飛ばす。
さすがに、その行動に腹を立てたのか、眼鏡の男は額に青筋を浮かべ、私の前に戻って来た。
すかさず男は私の頬を張る。
パァァンと乾いた音が公園にこだました。
「いいことを思いついた。お前もユノ・・・ったか?この神姫と同じように汚してやるよ」
それを合図にして、私を押さえていた男が、私を地面に叩き伏せた。
「っが・・・」
落下衝撃に加え、男の拳により、私の内臓は悲鳴を上げた。
だが、そんなの関係なかった。
束縛から逃れ、これを好機と見た私は眼鏡の男に殴りかかるため、拳を振り上げる。
しかし、私はすぐに動きを止めることになった。
口内に、冷たい金属が当たる。・・・カッターだった。
「これが何か、わかるだろ?抵抗してみろ、お前の自慢の喉はズタズタになるぜ。ア ベ ル ち ゃ ん 」
知っている、この男は私が歌謳いだと言う事を。
メジャーデビューして有名になったことが裏目に出た。
男は狂気の笑みを湛えカッターの刃をしまったままそれを私の喉の最奥に押し当てる。
このまま刃を出されれば、私は終わるだろう。
そう考えたら、自然と涙が溢れた。
服を裂く音が静かな闇に誇張され、辺りに響いた。
口にカッターを押し込んだまま、男達は視姦するように私の胸を眺める。
唐突に、眼鏡の男がその乳房を鷲掴みにして、揉みしだきはじめる。
最初はやわやわ感触を楽しむかのように。次第にその手つきは乱暴なものに変わっていく。
「・・・ったい・・・」
「ふん、さすがに現役女子高生、というだけはあるな。張りがある。そして何より柔らかい」
男は高級料理を吟味するかのように呟き、乳房の突起に手をかけた。
くりくりと先端を人差し指で撫でるように触れば、望んでもいない快楽に敏感に反応し、血液が集まる。
「っくくく、感じてるのか?こんなに乳首を充血させて・・・これじゃあ襲ってください、っつてるようなもんだな」
笑いをこらえきれなくなった男が、私を辱めようと、わざと淫らな言葉を煽る。
関係ない。私はできるだけ意識をカッターに集中させ、快楽をやり過ごす。
それが面白くなかったのか、男は舌打ちをし、私に乳房に顔を近づけ、先端をべろりと舐めた。
不快感から、声が出そうになるのを抑える。
それでも男の舌は止まらない。
吸い付くように口内で乳首わ嘗め回し、時に歯を立て、音を立てて唾液をすすった。
確実に私を堕としにかかる。
「そろそろ、下もいいか?」
するりとショーツに差し込まれた手が、蛇のように内部で蠢いた。
「ん〝ん〝ん〝ん〝っ・・・!」
初めてもたらされるその感覚に私は声を上げた。
楽しそうに男が笑う。
ショーツ内で蠢く蛇は、さも私の良いところを知っているかのように這い回る。
執拗な愛撫に私の陰部はしとどに濡れ、内股を伝い地面を汚していた。
「じゃあ、そろそろ挿れるか・・・」
男のベルトのバックルが鳴る。次いでジッパーを下げる音。
私の尻に当たるそれは、既に硬くそそり立っていた。
「・・・いぁぁ・・・!!」
恐怖のあまり歯がガチガチとカッターとぶつかりけたたましい音楽を奏でる。
男は笑いながら、私の身体を穿つ。そこに躊躇は感じられなかった。
肉を裂き体内に侵入するそれは酷く脈打ち、熱い。
まるであぶり鏝で身体をかき回されているような感覚に陥る。
「あ〝あ〝あ〝あ〝----!!!!」
はしたなく呻く私に興奮したのかは、わからない。
男の陰茎が激しく脈打ったと思ったら、そこから信じられない程の質量の熱が私の中に放たれた。
それからすぐに、私は解放された。
虚ろな瞳に映ったのは、私と同じように虚ろな瞳をしたユノを抱えた男だった。
もう座る力すら残っていない。
「ここまで耐えたご褒美に、これは返してやるよ」
地面に投げ出されたのはユノのレッグパーツ。
カン、と乾いた音とともに地に落ちたそれを目で追うと、男は私のすぐそばにしゃがんで、口に差してあったカッターに手をかける。
ようやくこの恐怖から開放される。
そう思ったのもつかの間、カチカチカチカチ、と小気味よい音と共に私の喉はいとも簡単に裂かれた。
「あ、間違えちゃった」
男はそう言うと、カッターを抜きとり、ユノを抱えて、何処かへ消えてしまった。
私は無残にも、地面に叩きつけられたユノの残骸を握りしめ、声にならない叫びで泣いた。
喉が裂けても、関係なかった。
私の意識は消えていく体温を追って、闇へと消えた。
ユノ、今日で2年目だよ。
これからも
よ ろ
し
く
。
***すとれい・しーぷ006
どこか異国のにおいさえ漂う街。
ルキスはきょろきょろと辺りを見回した。
「あまりょろきょろしていると、田舎物だと思われるぞ」
ルキスの様子を見た紅は苦笑して彼女のおでこを指でつついた。
私たちは、住み慣れた街を少し離れ、この地に来ていた。
オーナーの人嫌いを治すための、紅の提案はごくこく簡素なものだった。
『とにかく外出する』
ショック療法ともいうのだろうか、人慣れするには、人と触れ合うのが一番。
確かに利に適ってはいるが、本当に大丈夫なのだろうか・・・
そんな事が、ルキスにわかるはずもなく、しかし、他に提案があるわけでもないため、その案に乗ることにした。
目的地を決めたのは紅。何でもバンド時代の仲間、碧がこの地で漁師見習いをしているらしい。
話によると、オーナーと紅は大学進学、碧は漁師に、とそれぞれ別々の道を歩んだそうだ。
約2年ぶりの再会に、オーナーも僅かに期待を寄せていたのだろう。
二つ返事で外出を許可した。そして今に至る。
・・・今に至るのだが・・・
「・・・本物の迷い羊になちゃったな・・・」
真夏の蒸し暑いなか、オーナーは長い髪を風に舞わせ控えめに呟いた。
ふわふわのウェーブロングに清楚ながらもフリルをあしらった涼しげなノースリーブのワンピース。
日焼け対策に、と腕にはめたロング手袋は黒。その上からブレスレッドや時計を着け固定。
足元はヒールの低いサマーブーツで固めたその姿は、低い身長とあいまって、天使と形容するにふさわしかった。
ただし、視線を隠すのを目的として装着された、大きめのサングラス意外は。
日傘の影が僅かに揺れる。おそらくは、同伴した紅を探しているのだろう。
ルキスもまた辺りを見回した。
そこはなかなかに活気のある商店街。
住人の威勢のいい声が響く中、夏休みのせいもあって、ちらほら学生の姿も見える。
「紅が来るって言っておいて本人が迷子になるなんて、信じられないな・・・」
ルキスは耳を疑った。迷子になったのは自分たちの方だと思っていたからだ。
加えて、自分のオーナーが毒を吐く姿を初めて見たのだ。
それでも、部屋に閉じこもっていたときの瑠璃よりは幾分元気に見えるのは気のせいではないらしい。
そのことを少し嬉しく思いルキスはまた紅を探しはじめる。
結局紅は見つからないままだらだらと時間だけが過ぎていった。
日は真上に昇り、正午を示す。
「あ、あの、オーナー、少し休まれては・・・?」
紅のいない不安感からかオーナーはあれからずっと歩き詰めだった。
その表情には生気が感じられない。次第に脚もふらつき始める。
炎天下の中、当てもなく慣れない環境を歩きまわる。
オーナーの弱った精神的安定を喪失させるには十分すぎる状況。
ルキスの言葉には耳を貸さず、歩き続けるオーナーの脚にも、もう限界がきていた。
倒れる!衝撃に耐えようとルキスが目をつぶった。
しかしいつまで経ってもその瞬間は訪れなかった。
「おい、しっかりしろ!」
オーナーを助けてくれたのは、知らない男の人だった。
いつまで経っても目を開かないルキスを不思議に思った男の人は、自分の神姫に小さく合図を出す。
「メル、頼む」
「はいですみゅ!」
甘ったるい声でみゃ、みゃ、と仕切りに肩たたいてくる。
ルキスはおそるおそる目を開ける。
ルキスの肩を優しく叩くのは、マオチャオ型の神姫。
「見た事ない神姫だな・・・オーナーさんのオリジナル、か?」
男はオーナーを横抱きにしながら呟くと、マオチャオとともに手のひらに乗るよう促す。
どうやら悪い人ではないらしい。私はマオチャオと一緒に彼の手のひらに乗った。
と、直後声を上げたのは、マオチャオだった。
「セトくん、この子、アーちゃんリーダーですみゅ」
マオチャオ型にしては落ち着いた声色で、オーナーの顔を覗き込む。
彼女のことを知っているということは・・・
瀬戸 碧。それが彼の名だった。
“STRAY SHEEP”ドラム兼筋肉担当。否巨人、否お世話係り担当。
「・・・ごめん、ありがと」
気絶から覚醒したオーナーは、直ぐに碧に気づき礼を述べた。
「瑠璃、お前、喋れるように・・・!」
「セトくん、それは後でにするのですみゅ!リーダー、脱水症状が出掛かってますみゅ!」
マオチャオは冷静に判断すると、その場の全員に移動を促した。
移動した先はレトロな老舗、といった感じの食堂。見ようによっては古びても見える。
『明石食堂』という名称であることが、入り口の暖簾からわかった。
店内に入るなり、15センチの店員が挨拶をする。
「いらっしゃいませ!何名様で・・・あら、瀬戸さん・・・!?」
メリエンダ型の神姫が常連らしい碧の名を呼んだが、彼の抱えている者を見て、直ぐに異様だと気づいたのだろう。目を丸くして、開いた口元を手で覆った。
「彼女脱水症状が出掛かってて、よかったら水をもらえないか?」
碧の言葉に、メリーと呼ばれた神姫は、文字通り飛ぶように厨房へと入って行った。
「体内の水分も正常に戻りましたし、奥で休んでいただいてます。もう大丈夫ですよ」
メリーはにこやかに店の奥から出てくると、ルキス達のテーブルまでやって来た。
心の底から安堵のため息をもらすとルキスは恩人のメリーに向き直る。
「あ、あの・・・ありがとうございます・・・!」
そして、碧とマオチャオにも。
「お二人も、その、ありがとうございました!」
深々と、それもヘッドが地面に着く勢いで頭を下げるルキスにマオチャオは笑顔を向ける。
同機と同じ屈託のない笑顔。それでいて口調は冷静だ。
「あたしはメルクリウスといいますみゅ。みんなメルって呼ぶから、貴女もそう呼んで欲しいですみゅ」
そこまで言われて、ルキスは自分が名乗っていないことに気づいた。
「わ、わたしはルキスと申します!」
慌てたふためくルキスを見て、メリーはくす、と可憐な花びらの如く笑うと、スカートの端を指でつまんで恭しくお辞儀をした。
「メリーと申します。ここ、明石食堂でウエイトレスをしております」
可憐な花は顔を上げると、なぜだかその両眼を大きく見開いた。
その視線はルキスの胸を捉えていた。怖い。そうルキスが身震いした直後、奥からメリーのオーナーと思しき男性の声が聞こえた。
「さっきの子起きたぞー」
メリーのオーナーは優しい人のようで、その事は彼女を呼ぶ声色で何となくわかった。
メリーと、そのオーナーが食堂の仕事に戻って行く。その姿にオーナーは一礼してから席に着いた。
「紅から連絡があった。はぐれたって。んで探してたら案の定ピンチ」
碧は茶化すように笑うと、ルキスに向き直る。
「神姫、起動できるようになったんだな・・・って事は、この子のCSCは?」
「・・・うん、ユノのCSCだ」
強い衝撃。ルキスのCSCは、ルキスの物であって、ルキスの物ではなかったのだ。
胸にあるCSCにカバーの上から触れると、オーナーの声が降ってきた。
「・・・でも、CSCがユノでも、この子はルキス。ユノと重ねようとも、そうなって欲しいとも、望まない。ルキスは、ルキスのままで、私のそばにいて欲しい」
今はその言葉が一番嬉しかった。自分に自信がなかったから。
か細いながらも、きっぱりと言い放ったオーナーに、碧はにぃと口を吊り上げる。
「やっぱ、病んでも、アベルはアベルだな。」
「アーちゃんリーダーは健在ですみゃ」
メルも合わせて笑った。どうやらメルも昔のオーナーを知っているようだった。
「紅とはこの先のゲーセンで待ち合わせしてるからさ、行こうか」
碧の言葉に一行はそれぞれ席を立つ。勿論、明石食堂のみんなへの挨拶も忘れずに。
最後まで、メリーの視線はルキスの胸パーツを射抜いていたが、ルキスは知らん振りを決め込んだ。
一行は待ち合わせのゲーセンにたどり着いた。オーナーにとっては2年ぶりのゲーセン。
分煙が甘いのか、入り口をくぐるとタバコのにおいが微かに鼻腔を突いた。
ふと、夏休みの学生で盛り上がる一角が目にはいる。
そこには一際目立つ筐体と、神姫オーナー達の姿。
「バトルロンドですみゅ」
不思議そうな顔をしたルキスに、メルは小声で言った。
「あの筐の中で、相手の神姫とバトルしるのですみゅ。勝てば官軍、負ければ修行、ですみゅ」
よく意味はわからないものの、とにかくあの中で痛い事をする、というのは理解で
きた。
「わわわ、わたし、痛いのは嫌です・・・」
今にも泣きそうな声で放ったルキスに碧は少しだけ笑った。
「バーチャルの世界だから、本当に怪我はしないよ。それに・・・」
ここからは小声。まるでオーナーに聞かれまいとしているかのような。
「瑠璃がユノのCSCをキミに入れた、って事は、いずれ戦うつもりだからだと思うよ。ま、最初は勝たなくても大丈夫」
まるで無邪気な子供のいように笑った碧は手近なベンチにオーナーを座るよう促せば、直ぐに踵を返した。
「ジュースでも買って来るよ。瑠璃は炭酸以外、だろ?メル、瑠璃を頼むな」
そういい残すと、オーナーの手にメルを託し、人混みの中に消えていった。
「っ、待って・・・!」
また取り残された不安から、オーナーは手を伸ばす。が既に碧の姿はなかった。
「アーちゃんリーダー、あたしとルキスが着いてるから、大丈夫ですみゅ」
メルは本当にマオチャオ型なのか、と疑うくらいに落ち着いていて。
そっと不安がるオーナーの指先を優しく撫でた。きっと彼女のオーナーの碧に似たのだろう。ぼんやりとそんな事を思った。
碧の帰りを待つ間、オーナーはおとなしくベンチに座っていた。
何をするわけでなく、ただぼんやりと。
「ルキルキ、もし戦う事になった時のため、アーちゃんリーダーの戦いのメモリーログを見ておきますかみゅ?」
ルキルキ、とはどうやらルキスのことらしい。メルは性格こそしっかりしているものの、喋り方はマオチャオ型そのものだった。
ルキスはバトルそのものには興味こそなかったが、昔のオーナー、それ以上にユノの存在が気になったため、こうこく、と頷くと、メモリー共有用のケーブルをおとなしく自分に繋いだ。
自分の意識が、メルの中に溶け込む。外の世界と遮断され、乾いた荒野の記憶が身体を満たした。
外の世界では、オーナーとメルが見つめ合っていた。沈黙を破るのは、メル。
「アーちゃんリーダー、あたし、またリーダーと戦いたいのですみゅ。だから、ルキルキと一緒に・・・」
そこまで言いかけて、メルの身体が宙に浮く。きゃぁ、と小さな悲鳴を上げたメルを掴んだのは、ゲーセンにたむろする不良高校生グループの頭だった。
「バトロンしないなら、神姫2体も連れてんじゃねぇよ、ガキ」
ぐりぐりとメルの頭を無骨な親指で遊びながら不良はベンチから見上げるオーナーを睨む。
彼の肩に乗ったアーンヴァルも冷たい視線でルキスを見下した。
ガキ、という言葉は、オーナーの身長の低さが原因の判断だろう。おそらく、中学生と思われてのこの仕打ち。
オーナーは震えていた。恐怖ではなく、怒りに。
きっと恐怖の殻を破り、本来のすぐ熱くなる、という性格が頭を擡げたのだろう。
・・・子供扱いが沸点とは、それはそれで低すぎる気もすりが・・・
「こいつ返して欲しかったら、賭けバトルしようぜ。もち、俺のBETはこのマオチャオで。お前はそのちんちくりんでも賭けるんだな」
不良の申し出にオーナーは躊躇する。相手には何のリスクもない卑怯な賭け。
しかし今の言葉で沸点を爆発させたのは他でもないルキスだった。
ちんちくりん?オーナーに頂いたこの体が、ちんちくりん?
絶 対 潰 す 。
「そ、その勝負、受けます!絶対、その、負けませんからっ!」
思いとは裏腹に出た言葉は締まりのない弱気なもので、ルキスは後悔を滲ませ、俯いた。
「あの、すみません、オーナー・・・わたし、許せなかったんです、その・・・オーナーにもらった身体、馬鹿にされた・・・から」
オーナーは優しく頭を撫でてくれると、ベンチから立ち上がった。
「・・・そういう事だ。後悔するなよ」
控えめに怒りを滲ませるオーナーの声は、既に不良たちを身震いさせていた。
そんな様子を見てほくそ笑んだのは、マオチャオ型のメルだった。
筐体の前に立つと、オーナーは少しの間動きを止めた。
バトルロンドをプレイするために必要なものがない事に気づく。
「ICカード・・・ない」
その言葉に不良は嘲笑を、ギャラリーにはどよめきが起こる。
ギャラリーの誰かが囁いた。至極嫌悪感を滲ませた声だ。
「あいつ、また初心者狩してるよ・・・あの子も可哀想に・・・あの褐色の神姫も取られちゃうぞ」
オーナーはそれを無視してインフォメーションブースの前に立った。
その指は迷うことなく新規登録の文字をタップする。
と、情報入力画面。そこでもオーナーの細い指は迷わない。
ルキスの名前を登録し、彼女の素体を光の網の中へかざすと、すぐに引っ込める。
と、ここでオーナーの指が止まる。
“オーナー名を入力してください”
この文字に僅かに表情を曇らせると、指を引っ込めた。
何度か名前を入力するも、少し考えては、消してしまう。
何度も、何度も。
「オーナー・・・?」
不安がるルキスの声は背後からかけられた男の声にかき消される。
「瑠璃、お前、何して・・・!」
碧だ。ジュースの缶を両手に持ち唖然とオーナーを見ている。
意外だったのだろう。こんなに早い段階からバトルに復帰しようとするなんて。
オーナーは振り返る。至極ゆっくり。そして声を発する。控えめな、芯の強い声。
「オンの時に、その名前を呼ぶな。ゲーセンに入ったら、オンだって、昔言っただろう」
迷いを振り切ったようなその表情に思わずギャラリーの面々はドキリとする。
そしてオーナーはまたインフォメーションブースへと向き直り、名前の入力わ始める。
その指にもう迷いはなかった。
オーナーブースに戻ったオーナーをにやにやと見つめる不良。
肩のアーンヴァルも心なしか唇をいやらしく持ち上げ挑発しているように見えた。
「逃げたと思ったぜ、早くセットしろよ」
不良の言葉に従うようにオーナーはICカードリーダーに発行されたばかりのカードを通す。
大型のディスプレイに表示された情報に、観衆はまたざわめいた。
「うそだろ・・・死んだって噂じゃ・・・」
「そうよ、だってあの人はストラーフを使ってたわ!」
「語りかよ」
オーナー名:アベル
その名を知らない神姫オーナーは、ここ2年の間に新しくオーナーになった者だけ。
「狂い羊・・・アベル・・・」
そう、震える声で発したのは、碧だった。
さすがの不良も動揺している。
追い討ちをかけるかのように、捕縛されたメルは笑った。
「ふみゃぁ、お兄さん達、終わりですみゅ。彼女は本物の狂い羊ですみゅ」
「るせぇ!どうせ語りだろ!そんな有名プレイヤーが今、この場でライセンス登録するわけねぇ!」
取り乱す不良をよそに、オーナーはルキスをアクセスポッドに優しく寝かせた。
メインボードに入れられた装備は未知のデスクにあった白い武装だった。
オーナーは少なからず、復帰する気はあったようだ。そうでなければ武装を持ち歩くはずがない。ただ、踏ん切りがつかなっただけなのだ。
その点に関しては、きっかけを与えてくれた不良に感謝している。
脳のアドレナリンが溢れ、むず痒さに口元が緩む。
「っくくくくく、ぁはははは・・・!」
狂い羊の復活祭が始まった。
生贄の天使は己の末路も知らずほくそ笑む。
羊はそれを見逃さなかった。
[[next>すとれい・しーぷ007]]
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***【御礼&お詫び】
今話は、ばるかん様の作品武装食堂とコラボレーションさせて頂きました。
日常中心神姫SSを書かれる方としてとてもリスペクトしております。
同じ日常系を書いて(いるつもり)のですが、ひつじには出せないほのぼの感を、少しでも分けて頂ければ、と思いまして・・・
当初は歌を謳う決心がつかないオーナーと、寺田さんを思い出して寂しくなっちゃったガブちゃん(ひつじはガブちゃん推しです)が出会って・・・っていうネタを妄想していたのですが、ラストのレクイエムの詩が思いつかず断念してしまい・・・orz
ならば散々ネタになっている、メリーちゃんのおっぱいについてを!と今の形に落ち着きました。
ばるかん様、無断でコラボレーションしてしまったことをこの場を借りてお詫びさせて頂きます。
本当にありがとうございました。
武装食堂の連載の方、応援しておりますので、無理をなさらず頑張ってください!
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