「第十七話:鳥討姫」(2010/11/19 (金) 17:53:23) の最新版変更点
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第十七話:鳥討姫
戦闘が始まり、俺は早速周りを見る。荒野である他に周りを囲むように森林がある。荒野そのものは複数の山を持って構成されているため、立体的な動きを要求されるだろう。
スタート地点は密林の中。姿を隠すのは容易だ。
しかし、相手は早速、空を飛ぶ。石火は早夏にぶら下がりながらの移動だ。そういう事ができる事からアルトレーネのバックユニット『ニーベルング・フリューゲルモード』は相当な出力を持っている。その無茶を持って、上空から蒼貴と紫貴を探り、狙おうとしているらしい。
大した装備だが、そこまでするなら自らが無理をしていないわけが無い。何とか傷つけることができれば落とせるだろう。
『ひとまず、荒野を登って迎撃がいいな。二人とも離れずにかたまって動け。それと紫貴。アサルトカービンをエクステンドモードに切り替えておけ。後で使うからな』
指示を与えると蒼貴と紫貴は息を潜めながら荒野の方へと移動を始めた。
その間に紫貴はトライクに備え付けられているロングバレルをアサルトカービンに装着し、エクステンドモードに変更する。これでアサルトカービンは狙撃をすることが可能となる。スナイパーライフルよりは射程は無いが、現状はこれで十分だ。
「捉えたよ」
「はいさっ」
少々進んだ時に動きがあった。石火が蒼貴たちの位置を早夏に知らせ、こちらへ近づいてきたのだ。
そう。石火は盲導神姫として視覚能力が大幅に強化されているのだ。それはわかっていたつもりだったが、ここまで早く見つけられてしまうとは思っていなかった。まだ、甘く見ていたと反省する他なかった。
しかし、そんな事をしている暇など無い。俺は次の指示を飛ばす。
『蒼貴。お前がトライクを動かせ。紫貴、お前はトライクの上からあいつらの翼を狙撃しろ。鳥撃ちと洒落込むぞ』
「了解。足はよろしくね」
「はい」
答えた二人はそれぞれ行動を始める。蒼貴は紫貴からトライクを借りて、トライクモードに変形し、紫貴はそれに騎乗する。
これで車上射撃の構えとなる。予定よりも早いが、仕方が無い。ひとまず、上に辿り着くまでそれで迎え撃つしかない。
トライクで走り出すと、石火はBKピストルで早夏はヴァッフェドルフィンのサブマシンガン『カロッテMP6』を二丁持ってそれによる地上掃射をかける。
「ほらほら~。しっかり逃げてくださいね~」
「上から来るぞ! 気をつけろぉ~!」
ふざけた調子で放たれる弾幕は単に足を止めることを狙っているのか、その狙いは甘く、トライクの扱い慣れない蒼貴でも何とか直撃を避けることはできている。
紫貴は上から攻撃してくる事に嫌そうな顔をしながら、アサルトカービンによる迎撃を始める。
一発ずつ放たれる弾丸の狙いは確かだったが、早夏の技量は予想外に高く、少し角度を変えるだけで弾丸が彼女をすり抜けていってしまう。
狙いが甘いのは回避に専念することを念頭に置いているからなのかもしれない。攻撃は石火がハンドガンで狙い撃ち。そういうスタイルのようだ。
しかし、それは威嚇の域を出ない。ハンドガンは射程距離が短く、空中で距離が離れている状態で狙おうものなら、精度がガタガタになって当たるものも当たらない。拳銃で長距離を狙おうなどこの上なく、下策なのだ。
無論、輝もそれぐらいはわかっているはずだ。何かあるに違いない。
『……こいつは』
動きを調べると理由がわかった。山を登るルートから遠ざかっている。どうにも地上掃射で道を限定し、一つだけ逃げ道を作って追い込む。さながらイルカのやり口だ。
どうにも俺の作戦は読まれていたらしい。
「オーナー。すいません。道を外れました」
蒼貴も感づいた様で、謝ってきた。気づいてくれているなら話は早い。作戦変更だ。
『仕方がねぇ。作戦変更だ。スマートには行きそうに無い』
「どうするのよ!?」
『紫貴、蒼貴をあいつらに投げつけろ』
「は? 突っ込む間は無防備じゃない! わかってんの!?」
『十二分に。タイミングはリロード中。十分な備えを持たせてやれよ』
「……あ~。そういう事ね」
『そういう訳でもうトライクはいい。周りの盾になりそうなとこに隠れて立て直しだ』
軽い打ち合わせが終わった所で逃避行を止め、近くにあった木に隠れ、蒼貴はトライクをパージし、それを紫貴が再び装備する事で準備をする。その間も来る攻撃に対しては作戦を気取られないために蒼貴が苦無を投げて応戦する。
トライクを付け直した所でアサルトカービンのロングバレルを外しながらタイミングを待つ。相手は既に場所を把握している。遠くには行かないはずだ。
「ごめん。石火、攻撃任せた」
絶え間ない連射の直後、チャンスがやってきた。石火の方はまだ攻撃を続けているが、早夏の二丁のマシンガンの弾が尽きたのだ。早夏は石火に攻撃を任せるとリロードに入る。
『今だ!』
「蒼貴! 一発キメてきてよ!!」
「はい!」
紫貴はそれを見た瞬間、蒼貴をサブアームで掴み、彼女を早夏に向かって投げつける。自らの軽装と紫貴の出力によって飛んだ蒼貴は空から見下ろしている二人に向かっていく。
「くっ!」
石火は突っ込んでくる蒼貴に対してハンドガンを放ってくる。この距離ならハンドガンは外さないだろう。しかし、その事なら対策済みだ。
蒼貴は紫貴から借りたエアロヴァジュラを盾にして防いだ。一撃で空の敵を落とし、なおかつ防御を行うのならばこの武器が一番だ。
さらに紫貴はアサルトカービンで援護射撃を行い、敵の移動を防ぎ、蒼貴の突撃をより確実なものにしていく。
敵の懐に辿り着いた彼女は勢いが殺されない内にエアロヴァジュラで攻撃を仕掛ける。早夏は反射的にマシンガンを盾に防御を行おうとしたが、放たれた斬撃は明後日の方向……バックユニット『ニーベルング・フリューゲルモード』の片翼を奪う。
「うわっ!?」
してやった。これによって飛行能力を失い、俺の作戦に驚愕する早夏は地へと落ちる。自由落下の中、石火は蒼貴へ攻撃を続ける。今は至近距離で石火はBKピストルに固定されているナイフを蒼貴に突き刺しにかかった。
彼女はそれをエアロヴァジュラで受け止め、懐にしまってある苦無で反撃を仕掛けるが、その攻撃はもう一つのBKピストルによって受け止められてしまった。
そこで自由落下の時間切れとなり、石火は早夏を掴んで、ゆっくりと降りていく。
石火のバックユニット『ジャンプブースターAAS9』はあくまでジャンプするためのものだが、こういう使い方もあるようだ。
一方、蒼貴は助けてもらえるわけもないため、早夏に足の鉤爪で一度掴まって、足場を得るとそこから跳躍し、紫貴の下へ降り立つ。
蒼貴が彼女にエアロヴァジュラを返している短い時間に、相手の状態を見る。
問題の早夏はニーベルングを通常モードに変わって翼から鎧へと姿を買え、マシンガンを格納して、アルトアイネスタイプの剣『ロッターシュテルン』を構える。退却もできずに距離をとろうにも機動力を失ったバックユニットは防御に使えないのなら、同じ距離で戦おうといる魂胆であるようだ。
とはいえ、これで相手は飛べなくなった。まだジャンプが残っているが、これならばやりようがある。
これで第二ラウンドに移れたというわけだ。
『まずは早夏を攻める。石火への注意を怠るなよ』
「了解」
「ええ!」
俺の指示を聞いた二人は石火の援護に気を配りつつ、同時に早夏を攻める。現状の早夏は防御の形態にある。
動きの早い相手が攪乱に回り、その隙に火力である彼女を。それが彼らの地上戦になるのは武装群からみても明らかだ。それに気を取られて石火を無視するのは危険だが、ここで一人始末できれば、後が楽になる。
その意図に沿って蒼貴と紫貴は早夏を左右それぞれから同時攻撃を行う。石火はそれを迎撃しようとするが、紫貴のトライクが盾となって弾を逸らし、彼女たちを弾丸が避けていく。
石火の攻撃を避けつつ、接近に成功した二人は同時に近接武器で攻めにかかった。
しかし、その瞬間に鎧が展開し、スカートアーマーがサブアームとなって、もう片方で懐まで入り込んでいた蒼貴を掴んで投げ飛ばし、元々あるマニュピレータ付きのサブアームで紫貴の攻撃を受け止める
「なっ!?」
さらに早夏はカロッテMP6を取り出して、紫貴に連射する。
「蒼貴! ああ、もう邪魔!!」
「さぁ、二人でデートといこうか。早夏、そっちはよろしく」
石火は紫貴が早夏が釘付けになっている隙に蒼貴を追って大きく跳躍をして上空から追撃をかけ始める。
これは予想外だった。鎧が展開してサブアームになるなど考えてもなかった。少々、最新神姫の装備を甘くみていた。まさか四本のサブアームを製品として出してくるとは、企業も良い仕事をする様になったという事らしい。
それよりも問題は二人が分断されてしまった事だ。各個撃破を狙っていたのはそれを避けるためだったのだから。
俺はやむを得ず、両方の状況を見て、戦術を立て直す。現状は蒼貴と石火、紫貴と早夏という取り合わせだ。
両方とも似たようなタイプというミラーマッチの様相を呈している。相性は最悪であるよりはマシといったところだが、モタモタしていられない。
『仕方ない。蒼貴、紫貴、サシ勝負で行くぞ。指示はしっかりやるから聞いてくれよ』
「はい」
「指示をちょうだい!」
『蒼貴は森林、紫貴は岩場に相手を誘導しろ。それぞれのやり方がある』
その指示を受けた時点で応戦しながら蒼貴は森林へ、紫貴は岩場へと誘導するように応戦を始める。
恐らくは相手にとっては下策と映るに違いない。考える脳ミソが一つしかないのだからこれは自殺行為でしかないと。少なくとも結だけでもそうだと思わせられれば行幸である。
「いくら双姫主といっても、プロ二人の脳ミソに勝てます!?」
やはりノってきた。早夏は余裕の表情で紫貴をマシンガン二丁で攻め立てにかかる。今はトライクによる走行はできないが、引っかかってくれたならこの際はいい。
紫貴はマシンガンを周りの障害物を利用しつつ、回避と防御を繰り返し、マシンガンが止んだらアサルトカービンで攻撃を返す。
『上手くノってきやがった。紫貴、さっきの作戦は覚えているな。あれをやる』
「OK」
紫貴はアサルトカービンを再びエクステンドモードに変更し、意図を悟られないように今度はサブアームで近くにあった手頃な岩石を投げつける。
早夏はこちらの意図に気づいているわけではない様で、岩石をサブアームで払いのけつつ、前進していく。その足取りは全身を包むニーベルングの重さを感じさせない。何らかの重力装置でも発生しているのだろうか。最新装備というのはつくづく脅威である。
攻防による誘導が続く中、蒼貴の方でも戦いが始まっていた。石火はお得意の二丁拳銃に加えて、ウェルクストラの最大の特徴とも言えるAIミサイルを織り交ぜて執拗に蒼貴を攻めていた。
蒼貴は足元に転がっている枝を投げつける事でミサイルを爆発させたり、二丁拳銃を木で防いだりとしているが、その攻撃が途絶える事はない。
石火に装備されているミサイルの数は六発。さっき二発使ったため、まだ四発ある。
『蒼貴、何とかして石火をまくんだ。見失わせりゃこっちも奇襲を仕掛けられる』
「はい。でも……」
「千里眼の事か。あれは目がいいだけだ。それ以外はあくまで神姫だって事を忘れんな」
「了解です」
「裏をかけ。奴なら俺らをどうやって見ている?」
俺の投げかけた質問に蒼貴は反応し、動きを変える。いや、ミサイルの光と煙に紛れて隠れた物影で足を止め、足元の石ころを石火の視界に入らないように明後日の方向に投げ始めたのだ。
飛んでいく石ころが茂みの中に入っていくとそこに石火の二丁拳銃が打ち込まれる。蒼貴は不思議そうにさらに自分が移動しているかのような位置に石を投げていくと石火はそこへと追っていく。
上手く行った。やはり石火は見えすぎている、敵の動きどころか、茂みの動きの一切を見切っている彼女はその変化に敏感だ。それに反応するようにして攻撃をしていると見て間違い無いだろう。この小手先戦術も長くは持たないが、それでも短時間でも石火の注意を引けるのなら十分だ。
明らかな隙を作り出した蒼貴は投石をやめて、物音を立てずに移動を始める。石火は投石の位置を中心に警戒をしている。現状は蒼貴の姿を捉えていない。良い傾向だ。
蒼貴は持っている石に加えて苦無を取り出して、様子を伺う。
石火は警戒を続けているが、一向に蒼貴の本当の位置には気づいていない。
『石でフェイントして一気に間合いを詰めろ。これでイーブンだ』
間合いを詰める最後の一言を放つ。蒼貴はそれを反応すると石を石火の視界外の木に投げつけて跳ね返した上で彼女に飛ばす。
石火はその音に気づいて、そこにいるであろう蒼貴に拳銃をそちらに向けるが、当然いない。狙った彼女は……背後から鎌を持って襲い掛かってきていた。
間一髪で石火は蒼貴の奇襲をBKピストルのナイフで受け止め、拮抗状態に持ち込む。しかし、これで間合いは詰まった。懐に入り込めばこっちのものだ。
石火はもう一つの拳銃を放とうとすると蒼貴はナイフを受け流して拮抗を解いて足の鉤爪で蹴りを入れて弾道を狂わせて何もない方向に撃たせてやり過ごし、さらに苦無を投げつける。
が、石火の千里眼はそれを見逃すわけもなく、ナイフで弾いて、あたるそれを逸らして、二丁拳銃で牽制しつつ、大きく跳躍をする。
上へと逃げる彼女に蒼貴は周りの木に掴まり、枝から枝へと軽業士のごとく登り、木の上を見る。
しかし、そこには石火はいなかった。下の方へ戻るが、彼女の姿が見あたらない。
『見失ったか……』
「足跡はありますが、途中で途切れています。完全に逃げたようです」
『となると紫貴が狙いか。蒼貴、あいつと合流しろ。嫌な予感がする』
「はい」
-[[戻る>第十六話:偽眼姫]]
第十七話:鳥討姫
戦闘が始まり、俺は早速周りを見る。荒野である他に周りを囲むように森林がある。荒野そのものは複数の山を持って構成されているため、立体的な動きを要求されるだろう。
スタート地点は密林の中。姿を隠すのは容易だ。
しかし、相手は早速、空を飛ぶ。石火は早夏にぶら下がりながらの移動だ。そういう事ができる事からアルトレーネのバックユニット『ニーベルング・フリューゲルモード』は相当な出力を持っている。その無茶を持って、上空から蒼貴と紫貴を探り、狙おうとしているらしい。
大した装備だが、そこまでするなら自らが無理をしていないわけが無い。何とか傷つけることができれば落とせるだろう。
『ひとまず、荒野を登って迎撃がいいな。二人とも離れずにかたまって動け。それと紫貴。アサルトカービンをエクステンドモードに切り替えておけ。後で使うからな』
指示を与えると蒼貴と紫貴は息を潜めながら荒野の方へと移動を始めた。
その間に紫貴はトライクに備え付けられているロングバレルをアサルトカービンに装着し、エクステンドモードに変更する。これでアサルトカービンは狙撃をすることが可能となる。スナイパーライフルよりは射程は無いが、現状はこれで十分だ。
「捉えたよ」
「はいさっ」
少々進んだ時に動きがあった。石火が蒼貴たちの位置を早夏に知らせ、こちらへ近づいてきたのだ。
そう。石火は盲導神姫として視覚能力が大幅に強化されているのだ。それはわかっていたつもりだったが、ここまで早く見つけられてしまうとは思っていなかった。まだ、甘く見ていたと反省する他なかった。
しかし、そんな事をしている暇など無い。俺は次の指示を飛ばす。
『蒼貴。お前がトライクを動かせ。紫貴、お前はトライクの上からあいつらの翼を狙撃しろ。鳥撃ちと洒落込むぞ』
「了解。足はよろしくね」
「はい」
答えた二人はそれぞれ行動を始める。蒼貴は紫貴からトライクを借りて、トライクモードに変形し、紫貴はそれに騎乗する。
これで車上射撃の構えとなる。予定よりも早いが、仕方が無い。ひとまず、上に辿り着くまでそれで迎え撃つしかない。
トライクで走り出すと、石火はBKピストルで早夏はヴァッフェドルフィンのサブマシンガン『カロッテMP6』を二丁持ってそれによる地上掃射をかける。
「ほらほら~。しっかり逃げてくださいね~」
「上から来るぞ! 気をつけろぉ~!」
ふざけた調子で放たれる弾幕は単に足を止めることを狙っているのか、その狙いは甘く、トライクの扱い慣れない蒼貴でも何とか直撃を避けることはできている。
紫貴は上から攻撃してくる事に嫌そうな顔をしながら、アサルトカービンによる迎撃を始める。
一発ずつ放たれる弾丸の狙いは確かだったが、早夏の技量は予想外に高く、少し角度を変えるだけで弾丸が彼女をすり抜けていってしまう。
狙いが甘いのは回避に専念することを念頭に置いているからなのかもしれない。攻撃は石火がハンドガンで狙い撃ち。そういうスタイルのようだ。
しかし、それは威嚇の域を出ない。ハンドガンは射程距離が短く、空中で距離が離れている状態で狙おうものなら、精度がガタガタになって当たるものも当たらない。拳銃で長距離を狙おうなどこの上なく、下策なのだ。
無論、輝もそれぐらいはわかっているはずだ。何かあるに違いない。
『……こいつは』
動きを調べると理由がわかった。山を登るルートから遠ざかっている。どうにも地上掃射で道を限定し、一つだけ逃げ道を作って追い込む。さながらイルカのやり口だ。
どうにも俺の作戦は読まれていたらしい。
「オーナー。すいません。道を外れました」
蒼貴も感づいた様で、謝ってきた。気づいてくれているなら話は早い。作戦変更だ。
『仕方がねぇ。作戦変更だ。スマートには行きそうに無い』
「どうするのよ!?」
『紫貴、蒼貴をあいつらに投げつけろ』
「は? 突っ込む間は無防備じゃない! わかってんの!?」
『十二分に。タイミングはリロード中。十分な備えを持たせてやれよ』
「……あ~。そういう事ね」
『そういう訳でもうトライクはいい。周りの盾になりそうなとこに隠れて立て直しだ』
軽い打ち合わせが終わった所で逃避行を止め、近くにあった木に隠れ、蒼貴はトライクをパージし、それを紫貴が再び装備する事で準備をする。その間も来る攻撃に対しては作戦を気取られないために蒼貴が苦無を投げて応戦する。
トライクを付け直した所でアサルトカービンのロングバレルを外しながらタイミングを待つ。相手は既に場所を把握している。遠くには行かないはずだ。
「ごめん。石火、攻撃任せた」
絶え間ない連射の直後、チャンスがやってきた。石火の方はまだ攻撃を続けているが、早夏の二丁のマシンガンの弾が尽きたのだ。早夏は石火に攻撃を任せるとリロードに入る。
『今だ!』
「蒼貴! 一発キメてきてよ!!」
「はい!」
紫貴はそれを見た瞬間、蒼貴をサブアームで掴み、彼女を早夏に向かって投げつける。自らの軽装と紫貴の出力によって飛んだ蒼貴は空から見下ろしている二人に向かっていく。
「くっ!」
石火は突っ込んでくる蒼貴に対してハンドガンを放ってくる。この距離ならハンドガンは外さないだろう。しかし、その事なら対策済みだ。
蒼貴は紫貴から借りたエアロヴァジュラを盾にして防いだ。一撃で空の敵を落とし、なおかつ防御を行うのならばこの武器が一番だ。
さらに紫貴はアサルトカービンで援護射撃を行い、敵の移動を防ぎ、蒼貴の突撃をより確実なものにしていく。
敵の懐に辿り着いた彼女は勢いが殺されない内にエアロヴァジュラで攻撃を仕掛ける。早夏は反射的にマシンガンを盾に防御を行おうとしたが、放たれた斬撃は明後日の方向……バックユニット『ニーベルング・フリューゲルモード』の片翼を奪う。
「うわっ!?」
してやった。これによって飛行能力を失い、俺の作戦に驚愕する早夏は地へと落ちる。自由落下の中、石火は蒼貴へ攻撃を続ける。今は至近距離で石火はBKピストルに固定されているナイフを蒼貴に突き刺しにかかった。
彼女はそれをエアロヴァジュラで受け止め、懐にしまってある苦無で反撃を仕掛けるが、その攻撃はもう一つのBKピストルによって受け止められてしまった。
そこで自由落下の時間切れとなり、石火は早夏を掴んで、ゆっくりと降りていく。
石火のバックユニット『ジャンプブースターAAS9』はあくまでジャンプするためのものだが、こういう使い方もあるようだ。
一方、蒼貴は助けてもらえるわけもないため、早夏に足の鉤爪で一度掴まって、足場を得るとそこから跳躍し、紫貴の下へ降り立つ。
蒼貴が彼女にエアロヴァジュラを返している短い時間に、相手の状態を見る。
問題の早夏はニーベルングを通常モードに変わって翼から鎧へと姿を買え、マシンガンを格納して、アルトアイネスタイプの剣『ロッターシュテルン』を構える。退却もできずに距離をとろうにも機動力を失ったバックユニットは防御に使えないのなら、同じ距離で戦おうといる魂胆であるようだ。
とはいえ、これで相手は飛べなくなった。まだジャンプが残っているが、これならばやりようがある。
これで第二ラウンドに移れたというわけだ。
『まずは早夏を攻める。石火への注意を怠るなよ』
「了解」
「ええ!」
俺の指示を聞いた二人は石火の援護に気を配りつつ、同時に早夏を攻める。現状の早夏は防御の形態にある。
動きの早い相手が攪乱に回り、その隙に火力である彼女を。それが彼らの地上戦になるのは武装群からみても明らかだ。それに気を取られて石火を無視するのは危険だが、ここで一人始末できれば、後が楽になる。
その意図に沿って蒼貴と紫貴は早夏を左右それぞれから同時攻撃を行う。石火はそれを迎撃しようとするが、紫貴のトライクが盾となって弾を逸らし、彼女たちを弾丸が避けていく。
石火の攻撃を避けつつ、接近に成功した二人は同時に近接武器で攻めにかかった。
しかし、その瞬間に鎧が展開し、スカートアーマーがサブアームとなって、もう片方で懐まで入り込んでいた蒼貴を掴んで投げ飛ばし、元々あるマニュピレータ付きのサブアームで紫貴の攻撃を受け止める
「なっ!?」
さらに早夏はカロッテMP6を取り出して、紫貴に連射する。
「蒼貴! ああ、もう邪魔!!」
「さぁ、二人でデートといこうか。早夏、そっちはよろしく」
石火は紫貴が早夏が釘付けになっている隙に蒼貴を追って大きく跳躍をして上空から追撃をかけ始める。
これは予想外だった。鎧が展開してサブアームになるなど考えてもなかった。少々、最新神姫の装備を甘くみていた。まさか四本のサブアームを製品として出してくるとは、企業も良い仕事をする様になったという事らしい。
それよりも問題は二人が分断されてしまった事だ。各個撃破を狙っていたのはそれを避けるためだったのだから。
俺はやむを得ず、両方の状況を見て、戦術を立て直す。現状は蒼貴と石火、紫貴と早夏という取り合わせだ。
両方とも似たようなタイプというミラーマッチの様相を呈している。相性は最悪であるよりはマシといったところだが、モタモタしていられない。
『仕方ない。蒼貴、紫貴、サシ勝負で行くぞ。指示はしっかりやるから聞いてくれよ』
「はい」
「指示をちょうだい!」
『蒼貴は森林、紫貴は岩場に相手を誘導しろ。それぞれのやり方がある』
その指示を受けた時点で応戦しながら蒼貴は森林へ、紫貴は岩場へと誘導するように応戦を始める。
恐らくは相手にとっては下策と映るに違いない。考える脳ミソが一つしかないのだからこれは自殺行為でしかないと。少なくとも結だけでもそうだと思わせられれば行幸である。
「いくら双姫主といっても、プロ二人の脳ミソに勝てます!?」
やはりノってきた。早夏は余裕の表情で紫貴をマシンガン二丁で攻め立てにかかる。今はトライクによる走行はできないが、引っかかってくれたならこの際はいい。
紫貴はマシンガンを周りの障害物を利用しつつ、回避と防御を繰り返し、マシンガンが止んだらアサルトカービンで攻撃を返す。
『上手くノってきやがった。紫貴、さっきの作戦は覚えているな。あれをやる』
「OK」
紫貴はアサルトカービンを再びエクステンドモードに変更し、意図を悟られないように今度はサブアームで近くにあった手頃な岩石を投げつける。
早夏はこちらの意図に気づいているわけではない様で、岩石をサブアームで払いのけつつ、前進していく。その足取りは全身を包むニーベルングの重さを感じさせない。何らかの重力装置でも発生しているのだろうか。最新装備というのはつくづく脅威である。
攻防による誘導が続く中、蒼貴の方でも戦いが始まっていた。石火はお得意の二丁拳銃に加えて、ウェルクストラの最大の特徴とも言えるAIミサイルを織り交ぜて執拗に蒼貴を攻めていた。
蒼貴は足元に転がっている枝を投げつける事でミサイルを爆発させたり、二丁拳銃を木で防いだりとしているが、その攻撃が途絶える事はない。
石火に装備されているミサイルの数は六発。さっき二発使ったため、まだ四発ある。
『蒼貴、何とかして石火をまくんだ。見失わせりゃこっちも奇襲を仕掛けられる』
「はい。でも……」
「千里眼の事か。あれは目がいいだけだ。それ以外はあくまで神姫だって事を忘れんな」
「了解です」
「裏をかけ。奴なら俺らをどうやって見ている?」
俺の投げかけた質問に蒼貴は反応し、動きを変える。いや、ミサイルの光と煙に紛れて隠れた物影で足を止め、足元の石ころを石火の視界に入らないように明後日の方向に投げ始めたのだ。
飛んでいく石ころが茂みの中に入っていくとそこに石火の二丁拳銃が打ち込まれる。蒼貴は不思議そうにさらに自分が移動しているかのような位置に石を投げていくと石火はそこへと追っていく。
上手く行った。やはり石火は見えすぎている、敵の動きどころか、茂みの動きの一切を見切っている彼女はその変化に敏感だ。それに反応するようにして攻撃をしていると見て間違い無いだろう。この小手先戦術も長くは持たないが、それでも短時間でも石火の注意を引けるのなら十分だ。
明らかな隙を作り出した蒼貴は投石をやめて、物音を立てずに移動を始める。石火は投石の位置を中心に警戒をしている。現状は蒼貴の姿を捉えていない。良い傾向だ。
蒼貴は持っている石に加えて苦無を取り出して、様子を伺う。
石火は警戒を続けているが、一向に蒼貴の本当の位置には気づいていない。
『石でフェイントして一気に間合いを詰めろ。これでイーブンだ』
間合いを詰める最後の一言を放つ。蒼貴はそれを反応すると石を石火の視界外の木に投げつけて跳ね返した上で彼女に飛ばす。
石火はその音に気づいて、そこにいるであろう蒼貴に拳銃をそちらに向けるが、当然いない。狙った彼女は……背後から鎌を持って襲い掛かってきていた。
間一髪で石火は蒼貴の奇襲をBKピストルのナイフで受け止め、拮抗状態に持ち込む。しかし、これで間合いは詰まった。懐に入り込めばこっちのものだ。
石火はもう一つの拳銃を放とうとすると蒼貴はナイフを受け流して拮抗を解いて足の鉤爪で蹴りを入れて弾道を狂わせて何もない方向に撃たせてやり過ごし、さらに苦無を投げつける。
が、石火の千里眼はそれを見逃すわけもなく、ナイフで弾いて、あたるそれを逸らす。さらに二丁拳銃で牽制しつつ、大きく跳躍をする。
上へと逃げる彼女に蒼貴は周りの木に掴まり、枝から枝へと軽業士のごとく登り、木の上を見る。
しかし、そこには石火はいなかった。下の方へ戻るが、彼女の姿が見あたらない。
『見失ったか……』
「足跡はありますが、途中で途切れています。完全に逃げたようです」
『となると紫貴が狙いか。蒼貴、あいつと合流しろ。嫌な予感がする』
「はい」
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