「第十一話:追剥姫」(2010/02/17 (水) 05:33:32) の最新版変更点
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第十一話:追剥姫
「……紅緒タイプ、戦闘続行不可能の判定が出たわ」
マナがそう言った事で戦いが終わった事を俺はそれを認識し、蒼貴達を見る。そこにあるのは上半身と下半身を斬り分けられ地面に転がっているイリーガルマインド装備の紅緒タイプと隻腕、隻眼の蒼貴が立っているという構図があった。
ありえない。
最初に思ったのはそれだ。通常、神姫がスキルを行使するには使いたいスキルを発動するための武器が必要である。その武器を使っての技だという事と武器にはスキルを発動するためのプログラムが内包されてある事の二つの理由があるが故に自発的なスキルの発動は出来ないというのが今日の認識だ。特定の神姫が放つオリジナル技ですら媒介となるカスタム装備をしているぐらいなのだ。
ところが蒼貴の苦無『飛苦無“散華”』はあんな斬撃技は組み込まれておらず、あくまで苦無である通常武器でしかない。
にも関わらず彼女は不可思議なブレードを苦無で形成し、イリーガルマインドで強化されているはずの紅緒タイプのボディを一刀両断で切り捨ててみせた。あの斬撃はいったい何なのか、今の俺には……わかりそうにない。いや、専門的な知識でもない限りは理解する事は出来ないと思えた。
「オーナー。私が迎えに行くわ。もう蒼貴もルナも一人じゃ、立てないよ。こういう緊急ならいいとかないかな?」
「……あ、ああ。この状況なら、そうだな」
紫貴の言葉で現実に戻された俺は彼女の申し出に従い、神姫センターの係員に交渉して許可をもらい、サマーフェスタに紫貴を派遣する。説明の途中で係員はどうしてそこまでの事になったのか尋ねられたが、神姫センターの係員なら知っているであろうイリーガルマインドの件を話すとすんなりと話は通った。
サマーフェスタに降り立った紫貴は早速、蒼貴とルナの二人がいる場所へとトライクを飛ばしていく。ブレステイルとファストオーガによる高機動戦によって彼女達は遠くへと離れてしまい、自力では帰れそうにない距離ができてしまっている。これでは誰かの手を借りて回収しない事には蒼貴達は動けそうに無い。
「蒼貴! ルナ!!」
たどり着いた紫貴はトライクから降りるや否や、傷つき倒れているルナと紅緒タイプとの戦いでダメージの限界がきてそんな彼女のそばに座り込んでいる蒼貴の二人のそばに駆け寄った。
「ヒドい……」
「また直せば……動け……ますよ。ちょっと……時間がかかるかもしれませんが……」
「無理に話さないで。後でいっぱい聞いてあげるから」
「はい……」
紫貴は蒼貴に話すのをやめさせると、トライクから降りてダミートライクモードに変更し、すぐに蒼貴とルナをトライクに乗せていく。当然、トライクは二人までが限界であるため、紫貴はトライクを遠隔操作して走らせながら彼女達の護衛をする事になる。
そんな彼女は二人を乗せ終えて、背中のアタッチメントにエアロヴァジュラを背負い、手にはアサルトカービンを握りつつ、自分の足で走り出した。
「救護車としてこれを使うことになるなんてわからないものね……」
『そう言うな。人助けに使えるというのはいいことだと思うぞ。…つーか最高速度じゃないとは言え、トライクに併走できるお前もお前でわからないもんだがな』
「ふふっ。そうね。CSCのおかげってとこよ」
「大したもんだ」
そう。彼女の中に搭載されているCSCは恐るべき機動力を素体そのものに付与する事のできるキャッツアイと呼ばれる物を三つ積んだ代物だ。
しかも、そうなりえる可能性が低いにも関わらず、彼女は通常ではありえない数値の機動力を叩き出している。どういう手段を使ったのかはわからないが、杉原の技術の高さを体現しているかの様である。何にしてもこれなら足で走る分なら誰にも負けなさそうだし、トライクに後れを取ることもない。
そんな話題で話をして駆けている中、誰かが突然、森の中から行く手を塞き、紫貴達はその足を止めざるを得なかった。
厄介な事をしてくれたのは五体の神姫だった。どれも森林で素早く動ける様に設計されたカスタム仕様のヴァッフェバニー装備を身にまとっており、今のトライクの速度では逃げるという選択肢は使えそうにない。
「紅麗はやられたようだな……まぁ、いい」
「誰よ? 貴方」
「有名人狩りさ。そこの双姫主の盗賊姫を潰すためにちょっとした計画をな」
紅麗というらしい紅緒タイプの行方を悟って笑う有名人狩りであるらしいハウリンタイプが紫貴の問いに答える。有名人狩りというのには心当たりがあった。ネット界隈でそれはバーグラーと呼ばれている存在だ。
言ってしまえば有名人をターゲットにして汚い事をしまくるタチの悪い集団である。ある時は自分の名を上げるためにまたある時には他人からの依頼でそれをし、一対多数で問答無用に叩き潰すのである。それでCSCを破壊され、死んだ神姫も多いと聞く。
「計画ってのは何? 私達が邪魔になってきた?」
「察しがいいな。依頼主は紅麗の首輪について知りすぎちまったお前等は邪魔だって言うんで俺らに仕事が回ってきたのよ。5万円のヤマなんだ。悪く思うなよ?」
その言葉を合図に五体は一斉に共通装備であるらしいアルファピストルを傷ついた蒼貴に対して発砲してきた。しかし、それは紫貴がブレードを使って素早くそれを弾いて防ぐ。超高速動作を可能とするキャッツアイならではの離れ業だ。
そのまま、アサルトカービンで牽制しつつ、回収してあったルナのエウロスをバーグラーの一人に投げつけた。突然の武器の投擲に驚いて動けなっている彼女はその攻撃をまともに受けた。素早さを旨としたその装備は装甲が薄く、易々と腹を貫き通す。
「ぐあぁぁっ!!?」
「クソ! 接近しろ!!」
本来投げるものではないはずのエウロスが飛んでくるという事態にまともな攻撃では紫貴を止められないと判断したハウリンタイプは残った三人に命令し、森林の中に紛れ込みながらの奇襲に切り替えた。それを聞いたバーグラー達は森林の中に姿を消していく。
『一体は倒したが、ゲリラ戦と来たか。紫貴、トライクから離れるな。全方向に気を配れ。俺もナビゲートする』
「わかってるわ」
紫貴は俺の指示に従い、トライクに背を預けて周囲をアサルトカービンの銃口を向けつつ、警戒する。
俺は紫貴の聴覚データを聞き取るためにイヤホンを接続して紫貴の耳から聞こえてくる音とリンクする。
周囲の森林からはバーグラー達が移動しているであろう身体と植物が擦れ合う音が聞こえてくる。……その中で拳銃のカチッというリロードの音が……俺の耳を捉えた。
『三時の方向、上段。木の上だ!』
「はい!」
俺のナビを信じてくれる紫貴は言葉通り、木の上にアサルトカービンを放つ。ばらまかれる弾丸はバーグラーの一人を捉え、木から落とす。
『次、十一時、中段! 狙いは蒼貴だ!』
次に蒼貴を狙う飛鳥タイプがハグダンド・アーミーブレードで彼女を襲う。俺の言葉を聞いていた紫貴はアサルトカービンで足を止めさせ、硬直したところをブレードで一閃する。さらにその隙を突いたジルダリアタイプがアレルギーペダルを突き出してきた。
それに対して紫貴はブレードで受け止め、そのまま押し返し、アサルトカービンを近距離で連射して沈黙させる。その直後、サイフォスタイプがベックと呼ばれるボウガンで式を狙い撃ちにしようと構え、矢を飛ばす。
『五時の方向から矢が来るぞ』
一直線で迫ってくる矢に俺は遅いナビを送る。紫貴は避けるのは無理と判断し、倒れたジルダリアタイプを地面から立たせて彼女を盾にして防ぎ、さらに手放してその代わりにアレルギーペダルを奪い、それを背後から討とうとするサイフォスタイプに投げつける。襲い掛かるツタの槍は彼女を貫いてショックを引き起こし、スタンを誘発させた。硬直という攻撃のチャンスを逃さない紫貴は接近してブレードで彼女を一撃で斬り倒してみせた。
「残りは貴方だけね」
「ハッ……そうかな?」
不敵に笑うハウリンタイプに紫貴が不審を抱いていると周囲から何かが姿を現し、紫貴に集中砲火を浴びせた。トライクを外していてろくな防御ができない彼女はその攻撃をまともに受けてしまい、倒れる。
『紫貴!!』
「何……で……」
何とかブレードを杖にして立つ紫貴は周囲を見回した。なんと密林の中にもう五体の神姫達が銃をそれぞれ構えている姿があった。そう。バーグラーの戦力はあの五体だけではなかったのである。俺と紫貴は相手の術中にまんまと引っかかってしまっていたという訳だ。
「誰がこちらの戦力は五体って言ったんだよ。バカな奴だ。まずお前から死ねぇ!!」
決定打を与えることに成功したハウリンは背中からアーミーブレードを取り出し、それを逆手に持って紫貴の胸部めがけ、突き刺しにかかった。
『立て! 紫貴! 立ってくれ!!』
瀕死の彼女を奮い立たせようと声をかけ続けるが紫貴は立つことができない。
アーミーブレードも近くまで迫ってきており、もう避けられそうになかった。
もはやCSCを貫かれるのを見ているしかなく、俺は無力だった。
が、そのブレードは大きな物音と共に紫貴の前から消え失せた。
「ぐえっ!!?」
「悪いな。私は重い。レディとしてはあるまじき事だが我慢してくれ」
潰れるハウリンの上に見覚えのある真っ黒な悪魔の鎧姿の神姫が降ってきた。
それは以前、紫貴を賭けて戦った……
「ヒルダ!? 何であいつがっ!!?」
「私が呼んだのよ。偶然、縁を見かけたから、お願いしたの」
先ほどから発言していなかった真那が答える。俺が何とかバーグラーを突破しようとしている間に彼女が援軍を呼んでくれていたらしい。
今回は真那の機転に感謝するしかなかった。あのザマだったのだから仕方がない。
「リーダー、本当に重いですよ。重装装備なんですから」
「すまないな。二人共。後はそこの三人を運んでいけ。ここは私が引き受ける」
「本体だけでいいですか? さすがにトライクとか運ぶのは勘弁してくださいよ」
「ああ。それで構わん」
ヒルダをここまで運んできたらしい孤児院のエウクランテ二体が舞い降りてきて、彼女の指示に従い、傷ついた俺達の神姫を空へと連れ出した。
「逃すか!!」
潜んでいたバーグラーの一人であるツガルタイプがアークに付属している小銃 アサルトライフルを連射しようと構える。
その瞬間、ヒルダは自分に下敷きにされ、気絶しているハウリンタイプをサブアームで掴んで、彼女を撃ち落とそうとしているツガルタイプに投げつけた。仲間の下へ突撃させられたハウリンタイプは彼女につっこみ、攻撃を阻止してしまった。
「弱っている相手を潰すというその腐った根性は関心できんな。……いいだろう。ガキのお前等に少し大人を教えてやる」
「ふざけるなーー!!」
ヒルダのちょっとアレな挑発を真に受けたバーグラー達は自分の持てる火器とスキル全てを一斉に放った。弾丸の嵐がヒルダを襲い、粉塵をも巻き起こす火力がその場を制圧していく。バーグラー達が火器を打ち尽くした頃には周辺は煙に包まれ、何も見えなくなっていた。
その様子にヒルダをやったと思ったバーグラー達は笑おうとしたが、その前に何かが聞こえてきた。ガチャンガチャンと鎧が擦れる音が一つ、また一つ聞こえてくる。
煙がだんだんと晴れてくるとそこには四本のストラーフタイプの黒いサブアームで防御し、バーグラーの火器の嵐を全て受けきったヒルダの姿があった。しかも致命的なダメージを負っている様子はなく、ヒルダは何食わぬ顔で前進していた。
「効いていない!?」
弾を撃ち尽くしても止まらないヒルダにバーグラー達は動揺し始めた。
そんな中、堂々と歩みを進めるヒルダはショットガンを二丁取りだし、それを同時連射し始めた。
逆に放たれる事となった弾丸の嵐は前方にいたバーグラー二体を蜂の巣にしつつ近づいていき、
「私の歩みはそんなヤワな攻撃では止められんよ」
サブアームで平手打ちをする。そうされた方は平手打ちどころか殴打と言うべき攻撃にたまらず、吹き飛ばされて周りの木に叩きつけられた。
それを見て舌打ちするツガルは素早い動きでヒルダの懐に潜り込み、トンファーを突きだす。
それを見た彼女は対処を遅らせるほど愚かではなかった。持っていたショットガンをツガルタイプに突き出す事で彼女の侵攻をせき止め、そのままトリガーを引く。至近距離から放たれたショットガンはツガルタイプを容赦なく襲い、ボロボロの無惨な姿に変える。
「好き勝手しやがって!!」
「これでくたばれ!!」
バーグラー二人がそれぞれどこから取り出してきたのかクライモアを持って、背後から激しく降りおろしてきた。重装型には大型武器。そこまでは合っている。しかし、その公式は……
「こんな馬鹿なマネをやっていてバトルロンドに立つ勇気はあるのか? お前達には……ないか」
ヒルダには通用しなかった。四本のサブアームを操作してクライモア相手に両方とも真剣白羽取りをしてみせたのだ。
「何っ!?」
「これが! 神姫魂というものだ!!」
そしてそのままクライモアをへし折る。圧倒的なパワーに気圧されている二人のバーグラーは頼みの綱であったクライモアが破壊された恐怖に支配されて逃げようとした。
「忘れ物だ」
逃げようとする彼女らにヒルダは四つのクライモアのかけらを投げつける。かけら達はご丁寧にもそれぞれに対して柄の方が先にぶつかって体勢を崩させ、遅れて刃の方が転びかかっている哀れな逃走者に突き刺さって、とどめを刺した。
「これが大人というものだ。さて……」
戦いを終えて敵が全滅した事を確認したヒルダは気絶しているハウリンタイプを見下ろし、サブアームで彼女を掴み上げる。
「こいつに色々と吐いてもらうか」
-[[戻る>第十話:血戦姫]]
第十一話:追剥姫
「……紅緒タイプ、戦闘続行不可能の判定が出たわ」
マナがそう言った事で戦いが終わった事を俺はそれを認識し、蒼貴達を見る。そこにあるのは上半身と下半身を斬り分けられ地面に転がっているイリーガルマインド装備の紅緒タイプと隻腕、隻眼の蒼貴が立っているという構図があった。
ありえない。
最初に思ったのはそれだ。通常、神姫がスキルを行使するには使いたいスキルを発動するための武器が必要である。その武器を使っての技だという事と武器にはスキルを発動するためのプログラムが内包されてある事の二つの理由があるが故に自発的なスキルの発動は出来ないというのが今日の認識だ。特定の神姫が放つオリジナル技ですら媒介となるカスタム装備をしているぐらいなのだ。
ところが蒼貴の苦無『飛苦無“散華”』はあんな斬撃技は組み込まれておらず、あくまで苦無である通常武器でしかない。
にも関わらず彼女は不可思議なブレードを苦無で形成し、イリーガルマインドで強化されているはずの紅緒タイプのボディを一刀両断で切り捨ててみせた。あの斬撃はいったい何なのか、今の俺には……わかりそうにない。いや、専門的な知識でもない限りは理解する事は出来ないと思えた。
「オーナー。私が迎えに行くわ。もう蒼貴もルナも一人じゃ、立てないよ。こういう緊急ならいいとかないかな?」
「……あ、ああ。この状況なら、そうだな」
紫貴の言葉で現実に戻された俺は彼女の申し出に従い、神姫センターの係員に交渉して許可をもらい、サマーフェスタに紫貴を派遣する。説明の途中で係員はどうしてそこまでの事になったのか尋ねられたが、神姫センターの係員なら知っているであろうイリーガルマインドの件を話すとすんなりと話は通った。
サマーフェスタに降り立った紫貴は早速、蒼貴とルナの二人がいる場所へとトライクを飛ばしていく。ブレステイルとファストオーガによる高機動戦によって彼女達は遠くへと離れてしまい、自力では帰れそうにない距離ができてしまっている。これでは誰かの手を借りて回収しない事には蒼貴達は動けそうに無い。
「蒼貴! ルナ!!」
たどり着いた紫貴はトライクから降りるや否や、傷つき倒れているルナと紅緒タイプとの戦いでダメージの限界がきてそんな彼女のそばに座り込んでいる蒼貴の二人のそばに駆け寄った。
「ヒドい……」
「また直せば……動け……ますよ。ちょっと……時間がかかるかもしれませんが……」
「無理に話さないで。後でいっぱい聞いてあげるから」
「はい……」
紫貴は蒼貴に話すのをやめさせると、トライクから降りてダミートライクモードに変更し、すぐに蒼貴とルナをトライクに乗せていく。当然、トライクは二人までが限界であるため、紫貴はトライクを遠隔操作して走らせながら彼女達の護衛をする事になる。
そんな彼女は二人を乗せ終えて、背中のアタッチメントにエアロヴァジュラを背負い、手にはアサルトカービンを握りつつ、自分の足で走り出した。
「救護車としてこれを使うことになるなんてわからないものね……」
『そう言うな。人助けに使えるというのはいいことだと思うぞ。…つーか最高速度じゃないとは言え、トライクに併走できるお前もお前でわからないもんだがな』
「ふふっ。そうね。CSCのおかげってとこよ」
「大したもんだ」
そう。彼女の中に搭載されているCSCは恐るべき機動力を素体そのものに付与する事のできるキャッツアイと呼ばれる物を三つ積んだ代物だ。
しかも、そうなりえる可能性が低いにも関わらず、彼女は通常ではありえない数値の機動力を叩き出している。どういう手段を使ったのかはわからないが、杉原の技術の高さを体現しているかの様である。何にしてもこれなら足で走る分なら誰にも負けなさそうだし、トライクに後れを取ることもない。
そんな話題で話をして駆けている中、誰かが突然、森の中から行く手を塞き、紫貴達はその足を止めざるを得なかった。
厄介な事をしてくれたのは五体の神姫だった。どれも森林で素早く動ける様に設計されたカスタム仕様のヴァッフェバニー装備を身にまとっており、今のトライクの速度では逃げるという選択肢は使えそうにない。
「紅麗はやられたようだな……まぁ、いい」
「誰よ? 貴方」
「有名人狩りさ。そこの双姫主の盗賊姫を潰すためにちょっとした計画をな」
紅麗というらしい紅緒タイプの行方を悟って笑う有名人狩りであるらしいハウリンタイプが紫貴の問いに答える。有名人狩りというのには心当たりがあった。ネット界隈でそれはバーグラーと呼ばれている存在だ。
言ってしまえば有名人をターゲットにして汚い事をしまくるタチの悪い集団である。ある時は自分の名を上げるためにまたある時には他人からの依頼でそれをし、一対多数で問答無用に叩き潰すのである。それでCSCを破壊され、死んだ神姫も多いと聞く。
「計画ってのは何? 私達が邪魔になってきた?」
「察しがいいな。依頼主は紅麗の首輪について知りすぎちまったお前等は邪魔だって言うんで俺らに仕事が回ってきたのよ。5万円のヤマなんだ。悪く思うなよ?」
その言葉を合図に五体は一斉に共通装備であるらしいアルファピストルを傷ついた蒼貴に対して発砲してきた。しかし、それは紫貴がブレードを使って素早くそれを弾いて防ぐ。超高速動作を可能とするキャッツアイならではの離れ業だ。
そのまま、アサルトカービンで牽制しつつ、回収してあったルナのエウロスをバーグラーの一人に投げつけた。突然の武器の投擲に驚いて動けなっている彼女はその攻撃をまともに受けた。素早さを旨としたその装備は装甲が薄く、易々と腹を貫き通す。
「ぐあぁぁっ!!?」
「クソ! 接近しろ!!」
本来投げるものではないはずのエウロスが飛んでくるという事態にまともな攻撃では紫貴を止められないと判断したハウリンタイプは残った三人に命令し、森林の中に紛れ込みながらの奇襲に切り替えた。それを聞いたバーグラー達は森林の中に姿を消していく。
『一体は倒したが、ゲリラ戦と来たか。紫貴、トライクから離れるな。全方向に気を配れ。俺もナビゲートする』
「わかってるわ」
紫貴は俺の指示に従い、トライクに背を預けて周囲をアサルトカービンの銃口を向けつつ、警戒する。
俺は紫貴の聴覚データを聞き取るためにイヤホンを接続して紫貴の耳から聞こえてくる音とリンクする。
周囲の森林からはバーグラー達が移動しているであろう身体と植物が擦れ合う音が聞こえてくる。……その中で拳銃のカチッというリロードの音が……俺の耳を捉えた。
『三時の方向、上段。木の上だ!』
「はい!」
俺のナビを信じてくれる紫貴は言葉通り、木の上にアサルトカービンを放つ。ばらまかれる弾丸はバーグラーの一人を捉え、木から落とす。
『次、十一時、中段! 狙いは蒼貴だ!』
次に蒼貴を狙う飛鳥タイプがハグダンド・アーミーブレードで彼女を襲う。俺の言葉を聞いていた紫貴はアサルトカービンで足を止めさせ、硬直したところをブレードで一閃する。さらにその隙を突いたジルダリアタイプがアレルギーペダルを突き出してきた。
それに対して紫貴はブレードで受け止め、そのまま押し返し、アサルトカービンを近距離で連射して沈黙させる。その直後、サイフォスタイプがベックと呼ばれるボウガンで式を狙い撃ちにしようと構え、矢を飛ばす。
『五時の方向から矢が来るぞ』
一直線で迫ってくる矢に俺は遅いナビを送る。紫貴は避けるのは無理と判断し、倒れたジルダリアタイプを地面から立たせて彼女を盾にして防ぎ、さらに手放してその代わりにアレルギーペダルを奪い、それを背後から討とうとするサイフォスタイプに投げつける。襲い掛かるツタの槍は彼女を貫いてショックを引き起こし、スタンを誘発させた。硬直という攻撃のチャンスを逃さない紫貴は接近してブレードで彼女を一撃で斬り倒してみせた。
「残りは貴方だけね」
「ハッ……そうかな?」
不敵に笑うハウリンタイプに紫貴が不審を抱いていると周囲から何かが姿を現し、紫貴に集中砲火を浴びせた。トライクを外していてろくな防御ができない彼女はその攻撃をまともに受けてしまい、倒れる。
『紫貴!!』
「何……で……」
何とかブレードを杖にして立つ紫貴は周囲を見回した。なんと密林の中にもう五体の神姫達が銃をそれぞれ構えている姿があった。そう。バーグラーの戦力はあの五体だけではなかったのである。俺と紫貴は相手の術中にまんまと引っかかってしまっていたという訳だ。
「誰がこちらの戦力は五体って言ったんだよ。バカな奴だ。まずお前から死ねぇ!!」
決定打を与えることに成功したハウリンは背中からアーミーブレードを取り出し、それを逆手に持って紫貴の胸部めがけ、突き刺しにかかった。
『立て! 紫貴! 立ってくれ!!』
瀕死の彼女を奮い立たせようと声をかけ続けるが紫貴は立つことができない。
アーミーブレードも近くまで迫ってきており、もう避けられそうになかった。
もはやCSCを貫かれるのを見ているしかなく、俺は無力だった。
が、そのブレードは大きな物音と共に紫貴の前から消え失せた。
「ぐえっ!!?」
「悪いな。私は重い。レディとしてはあるまじき事だが我慢してくれ」
潰れるハウリンの上に見覚えのある真っ黒な悪魔の鎧姿の神姫が降ってきた。
それは以前、紫貴を賭けて戦った……
「ヒルダ!? 何であいつがっ!!?」
「私が呼んだのよ。偶然、縁を見かけたから、お願いしたの」
先ほどから発言していなかった真那が答える。俺が何とかバーグラーを突破しようとしている間に彼女が援軍を呼んでくれていたらしい。
今回は真那の機転に感謝するしかなかった。あのザマだったのだから仕方がない。
「リーダー、本当に重いですよ。重装装備なんですから」
「すまないな。二人共。後はそこの三人を運んでいけ。ここは私が引き受ける」
「本体だけでいいですか? さすがにトライクとか運ぶのは勘弁してくださいよ」
「ああ。それで構わん」
ヒルダをここまで運んできたらしい孤児院のエウクランテ二体が舞い降りてきて、彼女の指示に従い、傷ついた俺達の神姫を空へと連れ出した。
「逃すか!!」
潜んでいたバーグラーの一人であるツガルタイプがアークに付属している小銃 アサルトライフルを連射しようと構える。
その瞬間、ヒルダは自分に下敷きにされ、気絶しているハウリンタイプをサブアームで掴んで、彼女を撃ち落とそうとしているツガルタイプに投げつけた。仲間の下へ突撃させられたハウリンタイプは彼女につっこみ、攻撃を阻止してしまった。
「弱っている相手を潰すというその腐った根性は関心できんな。……いいだろう。ガキのお前等に少し大人を教えてやる」
「ふざけるなーー!!」
ヒルダのちょっとアレな挑発を真に受けたバーグラー達は自分の持てる火器とスキル全てを一斉に放った。弾丸の嵐がヒルダを襲い、粉塵をも巻き起こす火力がその場を制圧していく。バーグラー達が火器を打ち尽くした頃には周辺は煙に包まれ、何も見えなくなっていた。
その様子にヒルダをやったと思ったバーグラー達は笑おうとしたが、その前に何かが聞こえてきた。ガチャンガチャンと鎧が擦れる音が一つ、また一つ聞こえてくる。
煙がだんだんと晴れてくるとそこには四本のストラーフタイプの黒いサブアームで防御し、バーグラーの火器の嵐を全て受けきったヒルダの姿があった。しかも致命的なダメージを負っている様子はなく、ヒルダは何食わぬ顔で前進していた。
「効いていない!?」
弾を撃ち尽くしても止まらないヒルダにバーグラー達は動揺し始めた。
そんな中、堂々と歩みを進めるヒルダはショットガンを二丁取りだし、それを同時連射し始めた。
逆に放たれる事となった弾丸の嵐は前方にいたバーグラー二体を蜂の巣にしつつ近づいていき、
「私の歩みはそんなヤワな攻撃では止められんよ」
サブアームで平手打ちをする。そうされた方は平手打ちどころか殴打と言うべき攻撃にたまらず、吹き飛ばされて周りの木に叩きつけられた。
それを見て舌打ちするツガルは素早い動きでヒルダの懐に潜り込み、トンファーを突きだす。
それを見た彼女は対処を遅らせるほど愚かではなかった。持っていたショットガンをツガルタイプに突き出す事で彼女の侵攻をせき止め、そのままトリガーを引く。至近距離から放たれたショットガンはツガルタイプを容赦なく襲い、ボロボロの無惨な姿に変える。
「好き勝手しやがって!!」
「これでくたばれ!!」
バーグラー二人がそれぞれどこから取り出してきたのかクライモアを持って、背後から激しく降りおろしてきた。重装型には大型武器。そこまでは合っている。しかし、その公式は……
「こんな馬鹿なマネをやっていてバトルロンドに立つ勇気はあるのか? お前達には……ないか」
ヒルダには通用しなかった。四本のサブアームを操作してクライモア相手に両方とも真剣白羽取りをしてみせたのだ。
「何っ!?」
「これが! 神姫魂というものだ!!」
そしてそのままクライモアをへし折る。圧倒的なパワーに気圧されている二人のバーグラーは頼みの綱であったクライモアが破壊された恐怖に支配されて逃げようとした。
「忘れ物だ」
逃げようとする彼女らにヒルダは四つのクライモアのかけらを投げつける。かけら達はご丁寧にもそれぞれに対して柄の方が先にぶつかって体勢を崩させ、遅れて刃の方が転びかかっている哀れな逃走者に突き刺さって、とどめを刺した。
「これが大人というものだ。さて……」
戦いを終えて敵が全滅した事を確認したヒルダは気絶しているハウリンタイプを見下ろし、サブアームで彼女を掴み上げる。
「こいつに色々と吐いてもらうか」
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