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「いつか光り輝く 2.0話 あかいそら 」(2006/11/06 (月) 01:03:18) の最新版変更点
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*2.0話 「あかいそら」
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私はMaxwell-X01。
人間には呼びにくいという理由で、モデルとなったマオチャオ型MMSを元にし
[マオ]と呼ばれている。
私は暗殺を主目的に開発された神姫偽装型ユニットの試作機だ。
世界的に普及しつつある体長15cm程の自立行動ロボット玩具になりすまし
ターゲットに接近、もしくは人間では入り込めない場所からの狙撃で
暗殺を遂行する。
埋め込み型の解毒剤生成機、ニュートライザーの実用により
要人の毒による暗殺はほぼ不可能だし、
このサイズの筐体に乗せられる火器では傷害を与える事は出来ても
殺害までは現実的ではない。
だが私に搭載された”加速時間ドライブ”を持ってすれば、
体積比率で1/1000しかない神姫用火器に
人間用の火器と遜色ない殺傷力を発揮させられる。
加速時間とは物理的な作用を通常空間と共有しつつ、
それでいて1秒の長さに差異を持った空間の事だ。
そこへ入り込む手段をを人為的に発生させる装置が加速時間ドライブである。
もっとも注目すべきは通常空間と加速時間の間で起こる運動エネルギーの差異で、
元の運動エネルギー量に関係なく『それぞれの立場から見た目どうりの』
運動エネルギー量に変換される。
加速時間に突入した私からは全ての存在が静止してるに等しく見え、
通常空間にいるターゲットは私の存在に気づく暇もなく、
音速を超える弾丸に頭を吹き飛ばされる。
偽装のためにボディ自体は市販品と同等な物をチューニングして使用。
コアである頭部に通常のバッテリーを遥かに凌駕する分子結合バッテリーを搭載するが
スペース面の問題で容量が限られ、外部電源無しに加速時間に突入できるのは
主観時間で2秒のみ。
他には小出力ながらほぼ永久に電力を供給する真空機関と、
記憶容量だけなら1世代前の連結型大規模電算機にも匹敵する珪素脳を搭載する。
なんでも私は大きな組織の1派閥が利権拡大のために我が創生主、
柏木一に作らせたらしいのだが…
「らしい」というのはここが外部とは隔離された施設だから。
建物の地下だけが私の知る世界の全てだ。
ん、我が創生主…いや、お父さんが呼んでいる。
2
「お呼びですか? お父さんっ」
父の前では擬似感情プログラムを立ち上げる事になっている。
神姫になりすます為の訓練なのだが、それ以上に父の個人的な要望でもあるようだ。
父は私に自然の事、人々の普通の暮らしの事、そして…御家族の事。
とても沢山の事をお話になられた。
特に御家族の話をされる父は…、時に微笑み、時に憂い。
聞けば既望半分、脅迫半分でここに監禁されて私を作り上げたという。
ヒトの感情というものは良く理解できないが…
会えぬ御家族への思いを私に重ねているのかもしれない。
あくまで表面的な感情でしかないのだが、
それでも私は父と過ごす時間を価値の高いものと判断している。
いずれ訪れる任務遂行のための性能向上の為。
…である筈なのだが、確定できない何か好ましい要因もあるようだ。
ノイズの様なもの、だがノイズなどとは呼びたくない、何かが。
嬉しい、とでも言えばいいのだろうか?
父も私と話す時間が嬉しいようだ。
だが今日は…何かが違った。
妙にそっけない。
「マオ、明日は火器を使った初の実働試験だ。 クライアントもお見えになるし、
念の為にデータの確認を行なうよ。 背中を向けなさい。」
「はぁい」
違和感。
たいした事ではない…が、今まで何度も加速時間に突入する試験は行なっている。
それが火器を使うか否かなど、動作になんの影響も無い。
クライアントの手前だというのが妥当な線ではあるのだが…
私の出来に、絶対の自信を持っている父が気にするだろうか?
だが父には父なりの考えがあるのだろうと、私は素直に従った。
カチリ
背中のコネクターにケーブルが接続され、通信が始まる。
……?
違う。
これは確認ではなく、書き込み。
父はなにを…?
膨大なデータが流れ込んでくる。
私の設計図を初め様々な技術の情報、言語、雑学、経済、サブカルチャーにいたるまで。
それこそ施設のメインコンピューター丸ごとかとも思える膨大なデータ。
そこに埋もれるように1つのテキストファイルがあった。
その内容は……
っ!
そんな…
3
いつもの実験施設。
樹脂を封入した防弾ガラスの向こうに、父を含め二十六名の人間がいる。
白衣を着た研究員と、所長と、黒服のいかにも柄の悪そうな連中。
黒服の中でも特に強欲そうな中年男性がデータに適合…
あれがクライアントのようですね。
私の傍らには共に加速時間に突入する大型バッテリー。
そこから伸びたケーブルが私の背中へと繋がっている。
加速時間内には通常空間から電力を供給してもゆ…っくりとしか入って来ず、
まったくパワーソースとして役に立たない故の措置だ。
電源ケーブルの下、もうひとつのコネクタにはLANケーブルが繋がっている。
加速時間に突入している間の観測は時間軸に差がありすぎて不可能なため、
あくまでも突入前と離脱後の測定用だ。
回線の先には施設のメインコンピューター、連結型大規模電算機があり、
詳細な分析を瞬時に導き出す。
私にかかる期待の程が知れようと言うものだ。
…まぁ、あくまでも1派閥の利権において、なのだが。
ガラスのこちら側でのこれまでとの違いと言えば、並べられた火器の数々。
リボルバーとガスオートマチックの2種類の拳銃。
サブマシンガン、アサルトライフル、アンチマテリアルライフルに長砲身チェーンガンetc,etc
どれも人間用の1/10サイズ、体積比では1/1000。
そして大量の各種弾薬と、背負い型の携帯バッテリーパックが多数。
あと、なぜかワイヤーランチャー。
理由…わかってるけど。
充分な量だろう。
これらを用意された標的に向けて使用し、その効果を確認するのが今回の目的だ。
だけど…
実働試験が始まる。
オンライン確認、各部アクチュエーター正常、擬似神経系の全回路正常、
外部バッテリーとの回路接続、加速時間ドライブスタンバイ…
「加速時間に突入します」
一瞬だけ視界がモノクロになる。
流れと流れの間にある、色のない世界。
再び色彩が戻り、私は加速時間に突入した。
さて、と。
こうなってしまえばメインコンピューターに悟られない訳ですが…
チェーンガンと給弾ベルトを掴み、巨大な弾槽ごと加速時間に引っ張り込む。
本来の予定では標的を打ち抜き、加速時間から離脱。
データ収集の後、再び加速時間に突入し火器を変えて射撃…
がこん、きゅいーん…がしゃっ
ベルトをセットし、チェーンガンを起動させて初弾装填。
ちらりと防弾ガラス越しの父を見る。
お父さん、本当にこれでいいんですか…?
これまで予想していなかった事態に私の珪素脳が誤作動を起こしているようだ。
擬似感情プログラムを立ち上げていないのに、
立ち上げているのと酷似した思考が発生している。
迷うな。
メインコンピュータに対しハッキングを開始。
程なく気付かれるが、遅すぎる。
性能は比べるまでも無く私の方が低いが、今は基準になる時間の流れ方が違う。
警告を発令する暇も与えずにハッキングを完了。
全権を掌握した私は、施設の隔壁を全て閉鎖。
通信回線を全て切断し、さらに地下最深部の動力施設を暴走させた。
これから起こるのは、巨大な密室に充満する膨大な熱量。
どうなるかは言わずもなが。
でも、これだけでは解除されてしまう可能性もある。
まずは防弾ガラス越しの人々へ向けて発砲。
樹脂封入型の防弾ガラスは、粘り気のあるプラスチックが弾丸の運動エネルギーを
吸収して貫通を防ぐ物だ。
しかし全て同じ所に着弾させれば撃ち抜ける。
父以外の頭を端から一人づつ確実に破壊していく…
最後に通風孔の金網を撃って加速時間から抜け、電源とLANのケーブルをパージ。
同時にガラスの向こうでは、二十五個の頭がミンチになって吹き飛んだ。
父は…私をじっと見ている。
次は警備室だ。
携帯型バッテリーを背中に接続し、武器をリボルバーに変更して通風孔へ。
普段なら絶対に届かない高さだが、ワイヤーランチャーでなんなく突破。
10分ほどで警備室の上に到達し、ドアと格闘している警備員に向け
加速時間内からホローポイント弾を叩き込む。
来た道を取って返し、途中の金網を打ち抜いて父の前に降り立った。
床も壁も、赤一色。
動力炉…あと1時間といったところでしょうか…
「お父さん…」
「マオ…、この手紙を持って浩之の元へ行きなさい。」
小さなショルダーバックを手渡される。
「ねえ! 一緒に逃げようよ! お父さんがいなくちゃ、私…っ!」
「それはできないよ、マオ。
私が生きていたらまた悪い奴が利用しようとするかもしれないんだよ?
そうなれば浩之も、マオも危険な目にあってしまう。 それじゃあだめなんだよ。」
イヤダ イヤダ イヤダ イヤダ イヤダ イヤダ イヤダ イヤダ イヤダ イヤダ イヤダ イヤダ
イヤダ イヤダ イヤダ イヤダ イヤダ イヤダ イヤダ イヤダ イヤダ イヤダ イヤダ イヤダ
「さあマオ、お父さんの最後のお願いだ。」
解ッテル 他ニ、道ナンテ無イ ダケド…
両手でリボルバーを構える。
「そうだ、それでいい…」
オトウサン…
そして私は…
加速時間の向こうで微動だにしない、愛しい父にトリガーを引いた。
4
初めて空を見た。
暗闇と、赤い、あかいそら。
私が居た場所は国立の研究施設だったらしい。
本当に国立なのか、表向きだけなのかは解らないが。
消防車が駆けつけてはいるが、精々周辺家屋への延焼を防ぐだけで精一杯だろう。
生存者は絶望的。
元々が後ろめたい研究をしていた施設なのだから、手動の避難扉などあろう筈も無い。
家族をタテに脅迫されていた。
逃げても殺す、完成させなくても殺す。
せめてもの救いは1派閥の利権拡大が目的故、
過剰なまでに機密が保たれていた事だろうか。
これも推測でしかないが…施設の人間と資料を消せば浩之様に危険が及ぶ事は無く、
暫くは私と同等な存在を作る事も出来ないだろう。
「逃げず、完成させて、そして消す、か。 逃げたら殺す、完成させなくても殺す。
シンプルな脅しですが、有効な手ではありますね…」
家族を守り、野望も潰すには私の完成を待たねばならなかった、と。
あの施設には260人程いたんですよね…
「は…あはは……こんなちっぽけな人形が… 危険、過ぎますね…」
自分のした事だけど…こんなのを存在させておいたら大変な事になるよね。
潰すのは…妥当。
妥当、なのに。
「じゃあさぁ…じゃあ何で私に生き延びろなんて言うのよ……っ!」
貴方が死ぬのであれば、私も共にありたかった。
擬似感情プログラムを立ち上げてもいないのに。
私は生まれて初めて、泣いた。
*2.0話 「あかいそら」
----
私はMaxwell-X01。
人間には呼びにくいという理由で、モデルとなったマオチャオ型MMSを元にし
[マオ]と呼ばれている。
私は暗殺を主目的に開発された神姫偽装型ユニットの試作機だ。
世界的に普及しつつある体長15cm程の自立行動ロボット玩具になりすまし
ターゲットに接近、もしくは人間では入り込めない場所からの狙撃で
暗殺を遂行する。
埋め込み型の解毒剤生成機、ニュートライザーの実用により
要人の毒による暗殺はほぼ不可能だし、
このサイズの筐体に乗せられる火器では傷害を与える事は出来ても
殺害までは現実的ではない。
だが私に搭載された”加速時間ドライブ”を持ってすれば、
体積比率で1/1000しかない神姫用火器に
人間用の火器と遜色ない殺傷力を発揮させられる。
加速時間とは物理的な作用を通常空間と共有しつつ、
それでいて1秒の長さに差異を持った空間の事だ。
そこへ入り込む手段をを人為的に発生させる装置が加速時間ドライブである。
もっとも注目すべきは通常空間と加速時間の間で起こる運動エネルギーの差異で、
元の運動エネルギー量に関係なく『それぞれの立場から見た目どうりの』
運動エネルギー量に変換される。
加速時間に突入した私からは全ての存在が静止してるに等しく見え、
通常空間にいるターゲットは私の存在に気づく暇もなく、
音速を超える弾丸に頭を吹き飛ばされる。
偽装のためにボディ自体は市販品と同等な物をチューニングして使用。
コアである頭部に通常のバッテリーを遥かに凌駕する分子結合バッテリーを搭載するが
スペース面の問題で容量が限られ、外部電源無しに加速時間に突入できるのは
主観時間で2秒のみ。
他には小出力ながらほぼ永久に電力を供給する真空機関と、
記憶容量だけなら1世代前の連結型大規模電算機にも匹敵する珪素脳を搭載する。
なんでも私は大きな組織の1派閥が利権拡大のために我が創生主、
柏木一に作らせたらしいのだが…
「らしい」というのはここが外部とは隔離された施設だから。
建物の地下だけが私の知る世界の全てだ。
ん、我が創生主…いや、お父さんが呼んでいる。
2
「お呼びですか? お父さんっ」
父の前では擬似感情プログラムを立ち上げる事になっている。
神姫になりすます為の訓練なのだが、それ以上に父の個人的な要望でもあるようだ。
父は私に自然の事、人々の普通の暮らしの事、そして…御家族の事。
とても沢山の事をお話になられた。
特に御家族の話をされる父は…、時に微笑み、時に憂い。
聞けば既望半分、脅迫半分でここに監禁されて私を作り上げたという。
ヒトの感情というものは良く理解できないが…
会えぬ御家族への思いを私に重ねているのかもしれない。
あくまで表面的な感情でしかないのだが、
それでも私は父と過ごす時間を価値の高いものと判断している。
いずれ訪れる任務遂行のための性能向上の為。
…である筈なのだが、確定できない何か好ましい要因もあるようだ。
ノイズの様なもの、だがノイズなどとは呼びたくない、何かが。
嬉しい、とでも言えばいいのだろうか?
父も私と話す時間が嬉しいようだ。
だが今日は…何かが違った。
妙にそっけない。
「マオ、明日は火器を使った初の実働試験だ。 クライアントもお見えになるし、
念の為にデータの確認を行なうよ。 背中を向けなさい。」
「はぁい」
違和感。
たいした事ではない…が、今まで何度も加速時間に突入する試験は行なっている。
それが火器を使うか否かなど、動作になんの影響も無い。
クライアントの手前だというのが妥当な線ではあるのだが…
私の出来に、絶対の自信を持っている父が気にするだろうか?
だが父には父なりの考えがあるのだろうと、私は素直に従った。
カチリ
背中のコネクターにケーブルが接続され、通信が始まる。
……?
違う。
これは確認ではなく、書き込み。
父はなにを…?
膨大なデータが流れ込んでくる。
私の設計図を初め様々な技術の情報、言語、雑学、経済、サブカルチャーにいたるまで。
それこそ施設のメインコンピューター丸ごとかとも思える膨大なデータ。
そこに埋もれるように1つのテキストファイルがあった。
その内容は……
っ!
そんな…
3
いつもの実験施設。
樹脂を封入した防弾ガラスの向こうに、父を含め二十六名の人間がいる。
白衣を着た研究員と、所長と、黒服のいかにも柄の悪そうな連中。
黒服の中でも特に強欲そうな中年男性がデータに適合…
あれがクライアントのようですね。
私の傍らには共に加速時間に突入する大型バッテリー。
そこから伸びたケーブルが私の背中へと繋がっている。
加速時間内には通常空間から電力を供給してもゆ…っくりとしか入って来ず、
まったくパワーソースとして役に立たない故の措置だ。
電源ケーブルの下、もうひとつのコネクタにはLANケーブルが繋がっている。
加速時間に突入している間の観測は時間軸に差がありすぎて不可能なため、
あくまでも突入前と離脱後の測定用だ。
回線の先には施設のメインコンピューター、連結型大規模電算機があり、
詳細な分析を瞬時に導き出す。
私にかかる期待の程が知れようと言うものだ。
…まぁ、あくまでも1派閥の利権において、なのだが。
ガラスのこちら側でのこれまでとの違いと言えば、並べられた火器の数々。
リボルバーとガスオートマチックの2種類の拳銃。
サブマシンガン、アサルトライフル、アンチマテリアルライフルに長砲身チェーンガンetc,etc
どれも人間用の1/10サイズ、体積比では1/1000。
そして大量の各種弾薬と、背負い型の携帯バッテリーパックが多数。
あと、なぜかワイヤーランチャー。
理由…わかってるけど。
充分な量だろう。
これらを用意された標的に向けて使用し、その効果を確認するのが今回の目的だ。
だけど…
実働試験が始まる。
オンライン確認、各部アクチュエーター正常、擬似神経系の全回路正常、
外部バッテリーとの回路接続、加速時間ドライブスタンバイ…
「加速時間に突入します」
一瞬だけ視界がモノクロになる。
流れと流れの間にある、色のない世界。
再び色彩が戻り、私は加速時間に突入した。
さて、と。
こうなってしまえばメインコンピューターに悟られない訳ですが…
チェーンガンと給弾ベルトを掴み、巨大な弾槽ごと加速時間に引っ張り込む。
本来の予定では標的を打ち抜き、加速時間から離脱。
データ収集の後、再び加速時間に突入し火器を変えて射撃…
がこん、きゅいーん…がしゃっ
ベルトをセットし、チェーンガンを起動させて初弾装填。
ちらりと防弾ガラス越しの父を見る。
お父さん、本当にこれでいいんですか…?
これまで予想していなかった事態に私の珪素脳が誤作動を起こしているようだ。
擬似感情プログラムを立ち上げていないのに、
立ち上げているのと酷似した思考が発生している。
迷うな。
メインコンピュータに対しハッキングを開始。
程なく気付かれるが、遅すぎる。
性能は比べるまでも無く私の方が低いが、今は基準になる時間の流れ方が違う。
警告を発令する暇も与えずにハッキングを完了。
全権を掌握した私は、施設の隔壁を全て閉鎖。
通信回線を全て切断し、さらに地下最深部の動力施設を暴走させた。
これから起こるのは、巨大な密室に充満する膨大な熱量。
どうなるかは言わずもなが。
でも、これだけでは解除されてしまう可能性もある。
まずは防弾ガラス越しの人々へ向けて発砲。
樹脂封入型の防弾ガラスは、粘り気のあるプラスチックが弾丸の運動エネルギーを
吸収して貫通を防ぐ物だ。
しかし全て同じ所に着弾させれば撃ち抜ける。
父以外の頭を端から一人づつ確実に破壊していく…
最後に通風孔の金網を撃って加速時間から抜け、電源とLANのケーブルをパージ。
同時にガラスの向こうでは、二十五個の頭がミンチになって吹き飛んだ。
父は…私をじっと見ている。
次は警備室だ。
携帯型バッテリーを背中に接続し、武器をリボルバーに変更して通風孔へ。
普段なら絶対に届かない高さだが、ワイヤーランチャーでなんなく突破。
10分ほどで警備室の上に到達し、ドアと格闘している警備員に向け
加速時間内からホローポイント弾を叩き込む。
来た道を取って返し、途中の金網を打ち抜いて父の前に降り立った。
床も壁も、赤一色。
動力炉…あと1時間といったところでしょうか…
「お父さん…」
「マオ…、この手紙を持って浩之の元へ行きなさい。」
小さなショルダーバックを手渡される。
「ねえ! 一緒に逃げようよ! お父さんがいなくちゃ、私…っ!」
「それはできないよ、マオ。
私が生きていたらまた悪い奴が利用しようとするかもしれないんだよ?
そうなれば浩之も、マオも危険な目にあってしまう。 それじゃあだめなんだよ。」
イヤダ イヤダ イヤダ イヤダ イヤダ イヤダ イヤダ イヤダ イヤダ イヤダ イヤダ
イヤダ イヤダ イヤダ イヤダ イヤダ イヤダ イヤダ イヤダ イヤダ イヤダ イヤダ
「さあマオ、お父さんの最後のお願いだ。」
解ッテル 他ニ、道ナンテ無イ ダケド…
両手でリボルバーを構える。
「そうだ、それでいい…」
オトウサン…
そして私は…
加速時間の向こうで微動だにしない、愛しい父にトリガーを引いた。
4
初めて空を見た。
暗闇と、赤い、あかいそら。
私が居た場所は国立の研究施設だったらしい。
本当に国立なのか、表向きだけなのかは解らないが。
消防車が駆けつけてはいるが、精々周辺家屋への延焼を防ぐだけで精一杯だろう。
生存者は絶望的。
元々が後ろめたい研究をしていた施設なのだから、手動の避難扉などあろう筈も無い。
家族をタテに脅迫されていた。
逃げても殺す、完成させなくても殺す。
せめてもの救いは1派閥の利権拡大が目的故、
過剰なまでに機密が保たれていた事だろうか。
これも推測でしかないが…施設の人間と資料を消せば浩之様に危険が及ぶ事は無く、
暫くは私と同等な存在を作る事も出来ないだろう。
「逃げず、完成させて、そして消す、か。 逃げたら殺す、完成させなくても殺す。
シンプルな脅しですが、有効な手ではありますね…」
家族を守り、野望も潰すには私の完成を待たねばならなかった、と。
あの施設には260人程いたんですよね…
「は…あはは……こんなちっぽけな人形が… 危険、過ぎますね…」
自分のした事だけど…こんなのを存在させておいたら大変な事になるよね。
潰すのは…妥当。
妥当、なのに。
「じゃあさぁ…じゃあ何で私に生き延びろなんて言うのよ……っ!」
貴方が死ぬのであれば、私も共にありたかった。
擬似感情プログラムを立ち上げてもいないのに。
私は生まれて初めて、泣いた。
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