「PRINCESS BRAVE 第一話」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「PRINCESS BRAVE 第一話」(2009/12/09 (水) 20:39:24) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
闇の中。
静寂に包まれた心地好い暗闇の中。
深く深く、意識がその闇の中へと溶けてゆく。
何物にも代えがたい至福の時。
そんなささやかな幸せを、突然鳴り響いた甲高いメロディーが容赦なく奪い去った。
「うあー……」
再び闇の中に戻ろうとする抵抗も虚しく、俺の意識は一気に呼び起こされる。誰だ、俺の安眠を妨げる奴は。
やかましく鳴り響く携帯を手探りでたぐり寄せ、この諸悪の根源との通話を繋げる。
「もしも……」
『はーやーとー! いつまで寝てんのー!?』
寝惚けた頭に飛び込んでくる怒鳴り声に、思わず俺は電話を遠ざける。こちらの返事も待たずに、あいつはあからさまな不機嫌さをぶつけてきた。
「なんだよ、朝っぱらからうるっせえな」
横目に時計を見るとまだ午前10時。とてもじゃないが健全な高校生が休日に起きる時間ではない。
『なっ、あんたが神姫見たいから付き合えって言ったんでしょー!? それなのにうるさい? そーゆーこと言うの?』
まだ頭がハッキリしないと言うのに、一息にまくしたてられる。えーと、神姫……?
あ、そうか。
西暦2036年。
第三次世界大戦も、宇宙人の侵略もなかったこの平和な時代において開発された、全長15センチの自律型AI搭載ロボット、MMS(Multi Movable System)。
その中でも、最も一般的なのが『彼女』達。
オーナーに従い、様々な装備に身を包み戦場へと赴く彼女達。
そんな彼女達を、人はこう呼んでいる。
『武装神姫』と。
*『武装神姫ーPRINCESS BRAVEー』
「うわぁー……」
想像以上の光景に、俺は思わず声をあげた。
都内某所にそびえるこの巨大なビル、通称神姫センター。このビルは部品や関連書籍の販売、更にはサポートセンターにバトルスペースまで、全てが武装神姫を取り扱う施設となっている。
そして俺はその中の販売コーナー、神姫本体の売り場に来ているのだが。
「これ全部そうなの?」
フロア全体に渡って所せましと陳列された神姫。カブトムシ型やコウモリ型、騎士型にセイレーン型、更には戦車型にシスター型とかなりの種類が並んでいて、あまり知識のない俺にはなにがなにやらまったくわからなかった。
「うん、すごいでしょー? もう随分シリーズも続いてるし、タイプ別に色々出てるからね」
舞はどこか嬉しそうに――おっと、そういえば自己紹介がまだだったな。
俺は新藤隼人。健全な男子高校生だ。以前からバトルに興味があり、ちょうど身近に神姫オーナーがいた為、俺も同じ武装神姫のオーナーになる事にした。
そして、その身近なオーナーというのが彼女、比々野舞(ヒビノ マイ)。家が近所だった事もあり、小さい頃からの腐れ縁を現在進行形で続けている。
後ろに結い上げたセミロングの黒髪と、丸い大きな瞳。
起伏の乏しい体を黒いボーダーラインのロングTシャツと袖のないパステルブルーのパーカーで覆い、青いキュロットから伸びる細身の足元には水色のスニーカー。
好きな青い色を基調としたその服装は若干の幼さを感じるが、露出した肢体は健康的に締まっていて、活発そうな印象を受けるだろう。
悪くない。うん、決して悪くない。
「……イヤラシイ目で見ないでよ、えっち」
「イヤラシクないですー。ちょっと客観的に観察してやっただけだよー」
舞はわざとらしく体を隠すと、冷ややかな目で俺を睨む。長い付き合いだが、そんな恥じらいがあったとは知らなかった。
「ふーん、変なの。ま、別にいいけどさ。隼人なんかに見られたって」
その発言は誤解を招くぞ。見てもいいのか?いいんですか?それとも異性としての意識が無いという事だろうか。うん、まったく興味が沸かない。
とにかく、舞はずいぶん前から神姫を所有しているので、初心者の俺としては色々意見を聞けるのは助かる。
ついでにこいつの神姫、天使型アーンヴァルのヒカリも紹介しておこう。片側だけ編みこんだ髪を耳の後ろに垂らしているのがトレードマーク。生真面目で大人びたアーンヴァルタイプには珍しくちょっと子供っぽいが、元気で可愛らしい娘だ。
このヒカリが俺も神姫を買おうってきっかけを作ったんだが、その辺りはいずれまた。二人は姉妹のように仲がよく、今日もヒカリは舞の肩に座って足をブラブラさせている。
「んで、どれ買ったらいいんだ?」
「自分で選ばなきゃしょーがないでしょー?どんな性格がいいかーとか、どんな戦い方したいーとかないの?」
舞は立てた指を左右に振りながらいくつかの選択肢を示していく。しかし、その動きに釣られてふらふらと頭を揺らすヒカリが気になって、話の内容はほとんど聞こえてこなかった。
「だいたいこんな感じかな?どう?」
「え?ああ、格闘戦がいい」
話は聞いていなかったが、戦い方ならそれしかないだろう。男だったら拳で語ってこそ。戦うの俺じゃないし、神姫は女の子だけど。
「アーンヴァル!天使型アーンヴァルがいいと思うの!」
舞の肩で話を聞いていたヒカリが、未だにふらふらしながら棚の白い箱を指差した。酔うぞ、お前。
さて、アーンヴァルか……
確か高機動射撃タイプ、だったハズだ。初心者でも安定した勝率を狙えるとネットでの評判もなかなかだが、どうも俺の性には合わない。
「あすみん先生自重。そもそもアーンヴァルは格闘向きじゃないだろ?舞ともかぶるし、ややこしくなるって」
「むー、妹が欲しかったのに……」
「なんだ、そーゆー事か。ま、そうガッカリすんなって。後輩には違いないし、それなら妹みたいなもんだよ」
「んー、そっか。ならいいや!へへー、楽しみだなー♪」
頬をふくらませてすねていたかと思えば、もう屈託のない笑顔を見せている。幼さすら感じさせる彼女だが、俺も舞もそんなヒカリの笑顔が大好きだ。俺の神姫になる娘も、こんな笑顔を見せてくれるだろうか。
「あっ、ねぇこの子なんかどうかな?あんたにぴったりだと思うんだけど」
辺りを物色していた舞は一体の神姫を手に取ると、俺に差し出した。パッケージには獣の耳を模したヘッドギアと大きな手甲、そして焼ける様な橙色の瞳が印象的な少女が描かれている。
「犬型、ハウリン?」
「そ。いわゆる万能型なんだけどメインは近接格闘戦だし、防御力も高めだからあんたの要望にもぴったりでしょ?そーれーに……」
舞はぴっと指を立て俺に向き直ると、からかうように微笑みながら言葉を続けた。
「この子の性格。誰かさんみたいな、熱っ苦しい熱血感」
「誰が熱苦しいんだよ?失礼なヤツだな。でもまあ、たしかに悪くはないかもな」
僅かに胸が高鳴る。舞の手からハウリンの箱を受取ると、自然と俺も微笑んでいた。
「決まりだな。俺の相棒」
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: